推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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バックアッパー、戦闘開始

 群れとの戦闘における作戦は各個撃破を基本として動く。

 天城総司を始めとしたメインの主戦力は前衛で敵を分断し独立した敵を射手が遠隔攻撃で確実に仕留めると言った戦法を使うらしい。

 そしてバックアップを行う私たちは、各個撃破を援護するために後方に回り込む敵とメイングループが倒し損ねた敵を倒す役目、そして万が一の退路を確保をする役割がある。

 もちろんメイングループの使用するという作戦をパク……参考にさせてもらう手筈になっている。

 

 

「抜けてきたぞ! 数は七体だ!」

 

 

 海馬先輩の声が響く。私は杖を強く握りしめると、前を見据えた。そこには、狼のような姿のモンスターがこちらに向かって疾走してくる姿が見えた。

 私はその光景に息を飲む。

 

 

「来るよ、香苗ちゃん」

「う、うん」

「大丈夫ですよ、香苗さん。露払いは私がします」

「紀々ちゃん……」

 

 

 私は二人の言葉を受けて、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、前方のカラドウルフたちを見つめた。カラドウルフたちは私たちの姿を捉えると、立ち止まって警戒するように姿勢を低く構える。

 

 

「……よしっ」

 

 

 希海が呟くと、疾駆する。その速さは希海と同じく護衛役の紀々よりも早く、一瞬にしてカラドウルフたちの目前まで接近した。カラドウルフは突然現れた少女に対して驚き、目を大きく見開く。

 しかし、次の瞬間には希海によって喉元を切り裂かれていた。

 

 希海は得意気に笑みを浮かべると、魔具についた血を振り払う。それを見た紀々は小さくため息を漏らした。

しかし、カラドウルフたちも黙ってはいない。希海に対して、一斉に飛びかかった。

 しかし、希海は慌てることなく魔具の剣を振るい、また一匹とカラドウルフを斬り伏せてみせる。さらに三匹目を斬り裂いたところで、残っていた四匹のカラドウルフが希海の作り出した乱戦を飛び抜け、後方に位置していた私と紀々のところへ迫った。

 

 

「させない……っ!」

飛べよ、風の刃(ボラル、ヴェンテスフェラン)!」

 

 

 そこからさらに後方に控えていた海馬先輩が、杖型を構えて風の刃を放つ。それに合わせるようにして紀々は落ち着いた様子で弓を構え、弦を弾く。風の刃と放たれた矢はそれぞれ二匹のカラドウルフを貫いて動きを止める。残る二匹は私と紀々の目の前にまで迫っていた。

 

 

「お、網よ、防止せよ(オブスタリ、リテルス)っ」

 

 

 私は彼らを罠にかけるために杖をかまえ、魔力で編み上げられた網を前方に展開する。

 練習はしていたものの、実際に上手くいくかどうかについては心配だったのだが……。

 

 

「ギィッ!?」

「ギャウゥン!!」

 

 

 二匹のカラドウルフはその網に捕らわれて身動きが取れなくなる。

 魔法の詠唱が簡潔な世界で助かったと心の底から思っている。

 

 

「今! お願いしますっ」

「はい!」

 

 

 私は紀々ちゃんに声を掛けると同時に駆け出す。私は近接された場合に備えていた小型のメイスをカラドウルフの頭部目掛けて振り下ろし、同時に紀々の放った矢がもう一匹を貫く。

 

 

「メイングループから、追加で5匹だ。想定より量が多いが行けるな?」

「はい、了解です」

 

 

 海馬先輩の言葉に紀々は短く返事をする。やや距離が離れている希海もその通達を耳にしたのか、すぐに表情を引き締め改めて敵が迫ってくる可能性のある方向へと向き直る。

 私はその様子を見ながら、先ほどの戦闘を振り返る。

 希海が先行して敵の数を減らし、抜けてきた魔物を私が足止めし、海馬先輩と紀々が確実に仕留める。今のところ、特に問題もなく順調に進んでいる。

 この調子なら予定通りに目的の素材を手に入れ、帰還することも出来そうだ。

 そう思った矢先のことだった。

 私たちは突如、横合いからの奇襲を受けることになる。

 

 いち早く気がついたのは中衛として遊撃を務めている紀々だった。彼女は側面より私たちに向かって猛進してくる影に気づくと、素早く反応して弓を構える。

 紀々の視線の先には巨大な角を持つ猪のような姿をしたモンスターがこちらに迫ってきていた。それはプライドホーンボアと呼ばれる強力な突進攻撃を得意とする大型の魔物であり、私たちのような聖装を持たない後衛が直接相手にするには危険な相手であった。

 

 

「三時方向の側面斜面下より大型の魔物が接近しています!!」

「なっ……!? これはまずいっ、下がれぇええ!! 来るぞっ!!!」

 

 

 海馬先輩の声に反応して、私と紀々ちゃんはその場から離れる。

 直後、私達の背後にあった岩壁が粉砕される。

 

 

「ぐっ……」

「ウソ、まだ追ってくる……」

 

 

 砕かれた岩石が周囲に飛び散り、砂煙が立ち込める。その中から姿を現したのは、一匹のプライドホーンボアだった。

 彼は怒り狂ったように鼻息を荒げ、鋭い眼光を私達にぶつけてくる。

 

 

「……柴宮は!?」

「……わかりませんっ、私達は退避しましたが」

「ちぃ……、仕方がない。藤咲、 俺の後ろに付け。風森、フォロー頼めるか?」

「は、はい!」

「任せてください」

 

 

 海馬先輩の指示を受けて、私は彼の背後へ回る。それを確認した海馬先輩は腰元に携えた鞘に手を伸ばして剣型の魔具を引き抜き構えた。

 紀々は弓を構えると、海馬先輩の横に並ぶようにして立つ。

 

 

「藤咲。変則的だが、可能ならサポート頼むぞ」

 

 

 私が肯定の返答をする前に状況は動く。プライドホーンボアが海馬先輩に向けて突撃してきたのだ。

 

 

「チッ、飛べよ、風の刃(ボラル、ヴェンテスフェラン)!」

 

 

 海馬先輩はそれに対して臆することなく、冷静に対処する。彼が持つ剣型の魔具が輝きを放ち、同時に剣身から風が吹き荒れる。そして、海馬先輩は剣を振り抜いた。

 瞬間、風の刃が発生し、はプライドホーンボアの身体を切り裂くと、その巨体からは少なくない量の血飛沫が舞い上がる。

 それでもなお、プライドホーンボアは止まることはなく、その闘争心を失わずに海馬先輩目掛けて突っ込んでくる。

 私はそれを視認しながら、慌てて魔法の詠唱を開始する。

 

 

奮いて聳えよ、氷の城壁よ(サージサージト、グラキスプロプニークヤム)

 

 

 私の魔法により、海馬先輩の目の前に高さ3メートル程の氷の壁が出現し、それを避けることも無く正面からプライドホーンボアはその勢いのまま壁に激突した。衝突によって生じた轟音と振動が洞窟内に響き渡る。

 プライドホーンボアは一瞬怯んだものの、すぐさま氷壁を破壊しようと全身を使って激しくもがき始める。

 

 

「藤咲、魔力の残りは?」

「……は、半分です」

「上等だ。風森、畳み掛けるぞ! 風刃付与(ヴェンテスフェラムフィ)!」

「はいっ!」

 

 

 海馬先輩は手に持った剣を輝かせると、そのまま横に薙ぎ払う。

 風を纏った斬撃がプライドホーンボアを襲い、先ほどよりも大きな傷を与える。プライドホーンボアは苦しそうな鳴き声を上げながら後退し、氷の壁による拘束から抜け出す。

 そこへ紀々の放った矢が飛来するも、狙いはプライドホーンボアの頭部から外れて胴体へと命中してしまう。

 

 

「……外れました、次が来ます!」「風森、隙を作る! もう一度だ!」

「はい、わかりました!」

 

 

 二人の指示を受けた紀々は再び弓を構え、海馬先輩は剣を構える。

 次の瞬間、プライドホーンボアは再度突進を仕掛けてきた。海馬先輩がホーンボアの側面へと回り込み、すれ違いざまに後ろ足を斬りつける。ホーンボアはバランスを崩しかけたものの、すぐに体勢を立て直すと、今度は紀々の方向へと走り出した。

 

 

「藤咲、網を張れ!」

「はい!」

 

 

 紀々に向けてプライドホーンボアの突進が迫る中、海馬先輩の声が響く。

私はそれに即座に反応して、手に持つ杖を構え魔法を詠唱する。

 

 

「お、網よ、防止せ(オブスタリ、リテ)ッ……!?」

 

 

 しかし、詠唱の途中、突然横合いから何かが私目掛けて飛びかかってきた。カラドウルフだ。

 

 

「藤咲!」

「ひっ、やぁっ!!」

 

 

 咄嵯に振り払った杖の先端が、飛びかかろうとしていたカラドウルフの顔面に直撃するが、飛びかかってきた魔物の身体の勢いは止まらず、私はそのまま押し倒されてしまう。

 

 

「撃つな、風森! 退避しろ!」

「……!!」

 

 

 海馬先輩の指示を受けて、紀々はホーンボアに向けて弓を放つ直前だったのを寸前のところで止め、素早くその場から離れる。

 

 

「……香苗さん!」

 

 

 私の上で息をしていたカラドウルフに、紀々は矢を射って絶命させる。

 

 

「大丈夫ですか?!」

 

 

 紀々が駆け寄ってきて、私の顔を覗き込むようにして心配そうに声をかけてくる。

 希海はまだカラドウルフとの戦闘中なのか、その姿は見えない。

 

 

「う、うん。なんとか……」

「すみません、私が敵の存在に気がつけなかったばかりに……」

 

 

 舞い上がっていた砂埃も落ち着き始めると、視界が開けプライドホーンボアのその巨体が目に入る。興奮冷めやらぬといった様子で彼は私たちの姿を睨みつけている。

 

 

「藤咲、立てるか?」

 

 

 海馬先輩が声をかけてくれる。私は慌てて立ち上がると、服についた土汚れを払う。

 

 

「はい!」

「カラドウルフがメインの方に集中してやがる。一応連絡はしたが……」

「あの、今の状況を教えてもらえますか?」

「あー、まぁ、簡単に言えば俺たちが足を引っ張っちまってる。だいたい目の前の猪野郎が悪いが」

 

 

 海馬先輩の言葉を聞きながら、私はプライドホーンボアの方に視線を向ける。今にもこちらへ襲いかからんとする彼の眼光は鋭く、まるで私のことを射殺そうとでも思っているかのような気迫を放っている。

 すぐに突進してこないのはこちら側の出方を伺っているからなのだろうか。それともただ単に、先ほどの攻撃によって受けたダメージの回復に努めているだけなのか。

 

 ふと、単身で先陣切った希海のことが頭に浮かぶ。

 彼女は今頃どうなっているのだろう。怪我などしていないといいけれど。そんなことを考えていると、海馬先輩が口を開く。

 

 

「柴宮が居ればどうにかなるんだろうが……、分断されたのは俺の判断ミスだ。すまない」

「いえ、謝らないでください。先輩は何も悪くありません」

「だが、目の前には奴がいて、カラドウルフが周囲で漁夫の利を狙ってる」

「……」

「正直、勝てる見込みが薄い」

 

 

 そう言いながらも、海馬先輩の顔つきからは諦めの色は見えず、むしろ闘志に満ち溢れていた。確かに、この場での戦闘は非常に厳しい状況だ。

 魔力も少なく、周囲の狼すらも満足に倒せない足でまといだ。

 

 

メイングループ(あいつら)の到着を願って、この猪で時間を稼ぐ。その間にコバンザメの餌になるんじゃねぇぞ?」

 

 

 海馬先輩は不敵に笑いながら剣を構えると、プライドホーンボアに向かって走り出す。プライドホーンボアはその動きに反応し、突進を仕掛けようとする。

 しかし、それを遮るように、海馬先輩は横に飛ぶが、そこへタイミングを見計らったかのように、背後にいたカラドウルフが飛びかかる。

 

 

「畜生が! 大人しくしてろッ!」

「私が狙撃します!」

 

 

 海馬先輩はそれをギリギリまで引きつけると、横に飛び退いて回避に専念する。隙を見せたカラドウルフは直後に紀々の放った矢により、頭部を貫かれて絶命する。しかし、プライドホーンボアの突進は止まらず、大きく旋回すると、そのまま海馬先輩に狙いを定めて突っ込んでくる。海馬先輩はその突撃を掠るようにして避けることに成功するのだが、バランスを崩して転倒してしまう。

 

 

「先輩!」

 

 

 紀々の声が響く。そこにプライドホーンボアの追撃が入り、彼は地面を転がると岩にぶつかり止まる。

 

 

「くっそ、が……!」

 

 

 地面に倒れ伏す海馬先輩の周囲にはカラドウルフが群がるのだが、紀々が一、二匹を射抜くことで牽制する。

 

 

「香苗さん、あの猪は私が対処する。海馬先輩の治療を」

「り、了解!」

 

 

 私は海馬先輩の元に急いで駆け寄り、状態を確認する。

 

 

「大丈夫ですか?! 今治癒します」

「あぁ、助かる。……強がりたいが、かなりキツい。身体中が痛ぇ。んで、囲まれてるのは気のせいか?」

「はい、カラドウルフが周囲に集まっています」

「チッ、クソッタレが……。猪は風森が?」

「……はい」

 

 

 私の返事を聞くと、海馬先輩は大きく息を吐き捨てる。そして、彼は立ち上がろうとするものの、うまく力が入らないのか膝をつく。

 

 

「無理しないでください。今治療します」

「ダメだ。周りのヤツらが黙ってねえ。」

 

 

 そんなことは分かっている。今にも私達を取り囲み、襲いかかろうとしていることくらい。

 

 

「睨みつけてねえと、直ぐに殺られるぞ……!」

 

 

 海馬先輩の言葉通り、周囲の狼たちはいつでもこちらに襲い掛かれるようにジリジリと距離を詰めてくる。その数は既に十を超えており、とてもじゃないけど捌き切れない。それに、今の私は戦力にならない。

 

 

(せめて、主人公のように聖装さえ使えれば)

 

 

 悔しさのあまり、思わず歯噛みしてしまう。聖装とは、持っているだけでも魔具をより効率的に扱うことが出来るようになり、聖装自体が魔具とは比にならないくらいに強力な装備として扱える代物だ。

 そんなものを手にできない私は、このセイクレッドヘイブンという枠組みの中でもただの端役に過ぎない。それが酷く情けない。

 

 

「先輩。一つだけ、……賭けませんか? このままだと全滅です」

「何を言い出すんだお前……」

「生き残るための策があるんです」

 

 

 そう言って、私は懐の魔具を握り締める。―――これが本当に最後の手段だ。これでしくじれば全滅する。

 

 

「へっ、いいぜ乗った。どうすりゃ良い?」

 

 

 海馬先輩はニヤリと笑うと、地面に座り込んだままの姿勢で話を続ける。その表情には少しばかり余裕が感じられた。

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