推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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注意、グロ多めで痛いです。
あと曇りそう。


死中に活を見い出せば

「どうすんだ?」

 

 

 カラドウルフに対して睨みを効かせる海馬先輩の発した問い掛けに対し、私はゆっくりと自分の胸に着けたメダリオンを指差す。

 これは紀々から借り受けた魔具だ。まさか、このような形で役に立つとは思ってもいなかったが。

 

 

「これを使って、ごく短時間ですが奴らの攻撃を引き受けます。その間に先輩の治癒を」

「……それ攻撃を1回防ぐ効果なんだろ? 出来るのか?」

「はい。でもその代わり、海馬先輩にお願いしたいことがありまして」

「……。出来ることなら何でもやるが、俺の盾になって死ぬつもりならしたがえねえぞ?」

 

 

 海馬先輩の瞳がギロリと私の目を捉える。それは、これまでの道中に見せてきた海馬先輩の態度からは想像もつかないような強い視線だった。

 しかし、ここで怯んではいられない。私だって死ぬつもりは無い。だから、絶対に譲れないところだ。

 

 

「大丈夫です」

 

 

 そう答えて、私は海馬先輩の目を見つめ返す。海馬先輩は小さく溜息をつくと、諦めたように呟いた。

 

 

「分かったよ。それで?」

「治癒後、海馬先輩は私が放つ攻撃魔法の衝撃に乗って紀々ちゃんの所へ行ってください」

「衝撃に乗って……? かなり無茶だな」

「そうですね。けど、やってください」

「取り巻きはどうするんだ?」

 

 

 海馬先輩が当然の疑問を口にする。

 先輩の言う通りこの場には私と海馬先輩の2人しか居らず、海馬先輩を衝撃で撃ち出すとなると必然的に私だけがここに残ることになる。

 しかし、そんな事は分かりきった上で提案しているのだ。

 

 

「周囲のカラドウルフは私が対処します。少なくとも足でまといの居ない二人がかりなら聖装持ちでなくとも負けないはず。最後は結局、希海頼りになっちゃいますけど」

「でも、お前一人じゃあ……」

 

 

 海馬先輩が何か言いかけるのを遮って、私は言葉を続けた。

 

 

「大丈夫です。こう見えても結構物知りなんですよ、私」

「理由になってないが」

「理由なんて後からでも作れます。それに、もし駄目だったら、その時は二人で仲良く死にましょう」

「アホぬかせ。大してお互いを知りもしない後輩と一緒に死ねるかよ」

 

 

 海馬先輩が呆れた様子で頭を振る。

そして、大きく深呼吸すると、意を決したかのように真剣な面持ちになった。

 

 

「だがまあ……、もう船には乗っちまったからな。仕方ねぇ、頼んだぞ」

「はい」

 

 

 海馬先輩の言葉に、私は力強く返事をする。そして、私は海馬先輩の負傷箇所に杖の先を当てて魔法の詠唱を紡ぎ始める。

 

 

魔力よ(エツエテラ)。守る障壁となりて《プロテクトル》、彼の者の心身を根源より癒したまえ(デセパチェン)

「……来たぞ!」

 

 

 海馬先輩の身体が淡く光り輝き、魔力が形になろうとしている。最早警告などは聞いていられない。私はそれを確認してから、第二節を詠唱し始めた。

 

 

生命力と治癒の力を今此処に(リデク ヒタルムヴィタム)!」

 

 

 ―――下級の治癒魔法。対象の状態異常や軽い負傷を回復する効果がある。長い割には消費魔力が多く、制約の多い回復手段の一つ。

 セイクレッドヘイブンにおいて、支援や回復の魔法というものは基本的にプレイヤーからは敬遠される代物であった。その理由は、長々しい魔法の詠唱中に動けば即座に効果を受けられなくなるからだ。

 

 

「行ってください! 先輩!」

 

 

 続けざまに私は杖を構える。

 拙い魔力、拙い制御。そんな無い無い尽くしの私が行うのは魔具へと魔力を限界まで無意味に送り込むこと。私が魔法の補助として使用している魔具は初心者用のものと言える魔力を受け取れる限界の低いものだ。それも、私の魔力の総量でオーバーフローを起こすくらいには。

 

 問い、限界を超えたら何が起きるか。

 それも、耐性を持たなければ生物に害を与えるような恐ろしいエネルギーの、だ。

 

 

「お前、それ、攻撃魔法なんかじゃ―――!!!」

「良いんですッ!!」

「この、バカヤロウがァーーーッッ!!」

 

 

 海馬先輩が駆け出した瞬間、私達の背後から凄まじい速度で影が飛んでくる。それはまるで黒い砲弾のように隙を見せてしまった私たちの至近に迫る。しかし、その攻撃を予測していたのか、海馬先輩が振り向きざまに剣を振り抜き、私から溢れる光を足場に駆けた。

 黒い影達の包囲を抜け、そのまま紀々の方へ突っ込んでいく海馬先輩の姿が視界の端に映る。眩い光が辺りを包み込み、その光の奔流は油断しきっていた捕食者達を呑み込み、その全てを灼いた。

 

 もしこの世界に語り部(ストーリーテラー)が存在しているのであれば、名前もなかったようなモブ二人組だけに魔物をけしかけて消そうなんて意図があったに違いない。そうじゃないとしても、クソ喰らえって話だ。

 抗う理由としてはこの上なく上等なものだ。私は目の前に現れた化け物を睨みつけながら、そう思った。

 

 

「くたばれ! こんっの……! クソオオカミ共ぉ゛ッ゛、が゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?」

 

 

 これの名前はなんと言ったか。

 そう、魔力(エーテリアル)暴発(イグニッション)

 詠唱不要のセレヘブに登場する中でも最強のダメージを叩き出すことが出来る攻撃魔法。

 

 俗に言う、自爆だ。

 

 

「ぃ゛ぁ゛ッ゛……!」

 

 

 私は身を焦がすような痛みに思わず悲鳴を上げる。全身の骨がきしみ、肉が裂けるような感覚がする。まるで巨大な鉄球が私の全身に叩きつけられたかのような衝撃が走り、息が詰まる。

 強力な衝撃によって肺の中の空気が押し出され、呼吸が出来なくなり、意識が飛びそうになる。内側からの力を受けて全身が張り裂けるような痛みが襲うが、紀々から受けとった即死防止の魔具がそれを許さない。

 行き場を失った一部のエネルギーは私を内側からぐちゃぐちゃに掻き回してしまう。放出されたエネルギーで周囲の魔物を消し飛ばしている。

 その威力は推して測るべし。

 

 

 眩しい。

 熱い。

 痛い。

 苦しい。

 

 光が。

 熱が。

 音が。

 

 私が知覚できる全ての情報が遠のいて、ただひたすらに苦悶の濁流だけが私の身も心もズタズタに壊していく。

 私はその激痛に耐えるように歯を食い縛り、自分の身体を抱き締める。少しでも気を抜けば眩い光の中へと意識を滑り落としてしまいそうだ。

 

 何も見えない。何も聞こえない。

 真っ白な光の中。自分がどこにいるかも分からなくなって、自分が生きているかどうかも曖昧になってしまいそうだ。

 

 まさか死ぬほどの痛みがこんなにも苦しいものだとは思っていなかった。それも一度死んだというのに、だ。

 正直なところ、舐めていた。こんな苦しさなんて覚えていない。

 

 でも、それでも。

 ――まだ、私は生きている。

 

 私には助けたい人がいる。そう簡単には死ねない。

 

 

 「……かはっ、げほっ、ごほぉっ、がはっ!」

 

 

 光が収まると同時に、わたしは思い切り咳き込んだ。口の中に嫌な味が広がり、それが血だと気付くまでに少し時間が掛かった。全身が軋むように痛い。

 腕も足も、頭も、背中も、お腹も、何処も彼処も全てが私に苦痛を訴えかけている。今すぐに横になって眠ってしまえば楽になれるんじゃないかと思える程、私の体はボロボロになっていた。

 

 私は色を失ったメダリオンを外し、その場に投げ捨てようとしてやめた。

 もう二度と使いたくない手段だが、この魔具は紀々からの借り物であり、もしかするとこれから希海を助けることになるかもしれない私に必要な道具だ。だからと言ってこれを使う度に毎回こうなっていれば身が持たない。

 

 

「…………かふっ、ひゅ」

 

 

 声が出ない。

 喋ることはおろか、口を開けて酸素を取り込むことさえ難しい。杖を支えにして辛うじて膝で立てている状態で、一歩も動くことが出来ない。

 

 そんな状態の私は格好の獲物だ。

 新たにやって来た狼達が獲物を追い詰めた狩人のように、ゆっくりと近づいてくる。

 

 

「ぁ……」

 

 

 喉の奥が焼けているせいなのか、それとも疲労の蓄積で掠れた声しか出せないのか。

 私は何ひとつとして言葉を発することが出来ず、ただ迫り来る獣達を見つめていた。逃げたい。だけど体が動かない。

 魔巣窟の魔素に当てられたのか、体の調子すら悪い。それに魔力暴発の影響で魔力も殆ど残っていない。今の私は戦うどころか逃げることさえも難しいだろう。

 

 もちろん立案時に増援のことを考えていなかった訳では無い。

 しかし、あの場は海馬先輩を送り出すのが最も賢い選択だったのだ。全員死ぬよりはマシな運命のはずだ。

 

 少なくとも、紀々にはあの時の恩を返すことが出来ていれば良いのだが。

 

 

「ぁぅ、うぐっ」

 

 

 私を取り囲むようにして迫ってきた三匹の狼達が、鋭い爪を突き立てるようにして私に飛び掛かってくる。

 死中に活という言葉があるが、余裕があるときにはまだしも、そう何度も使えるような言葉だとは思えない。似たような言葉に窮鼠猫を噛むと言う言葉がある。今の状況に当てはめるなら、逃げられなかった鼠は二度も逆らう前に狩られるのがオチだ。

 

 

「…………ぁ」

 

 

 唸り声とともに飛びかかってきた狼達に、為す術もなく押し倒される。なんたって、生き残るためだとはいえ仲間を焼いたのだ。それはもう憎いはずだ。

 全身を覆い尽くすような灰色の毛並み。私の視界を埋め尽くしてしまうほどの大きさ。私の視界いっぱいに広がる狼の顔は、まるで怪物のようだ。

 恐怖を感じている暇は無い。悲鳴すらあげられぬ私の体には鋭い牙が深く突き刺さる。肉を裂くような音と共に私の身体に痛みが走る。

 

 

「……ぉ゛ッ゛、ぐ……、ぃ゛ッ!」

 

 

 魔力暴発の時とはまた違った痛みに一瞬意識が飛びかけるが、直ぐに同じ痛みによって現実に引き戻された。痛みから逃れようと必死に体をよじるが、その程度でどうにかなるはずもない。むしろ暴れれば暴れるほどに苦痛は増していくばかりだ。

 

 

「あ゛っ!?」

 

 

 私の上に乗っている狼が、私に噛みついたまま頭を振った。

 思わぬ衝撃に私は焼けた喉から悲鳴を上げる。

 

 魔具による身体の保護は時に残酷なものだ。丈夫になれども、痛覚が鈍くなる訳ではない。痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。カラドウルフによって突き立てられた牙は私の体へと深く突き刺さり

 

 群れからはぐれた弱いものを狙い、なぶり殺しにする。実に理にかなったやり方である。

 私は狂気と理性の狭間で弱々しく手を伸ばし、何とか魔具に触れようとするが、指先が魔具に触れた瞬間にオオカミは私を咥え、その場から飛び退こうとした。

 

 

「香苗ちゃんを触るなッ! その汚い涎を、……付けるなァッ!!」

 

 

 希海の声が聞こえてきた。

 それと同時に、私の上に乗っていたオオカミが吹き飛ばされ、切り離された頭部ごと私は宙へと放り出された。

 

 

「―――」

 

 

 空中に浮いた状態で、私は呆然としていた。

 

 

「―――と……ど、……けぇっ!」

 

 

 希海は地面を蹴り上げ、空高く舞っていた私を目掛けて跳躍した。そしてそのまま私をキャッチすると、地面に着地すると同時に勢いよく跳ねた。

 

 

「のん、ちゃ……?」

「ごめんね、遅くなって。助けに来たよ、香苗ちゃん」

「……」

 

 

 私を助けてくれた希海は、申し訳なさそうに眉を下げながら私に謝った。私はと言うと、希海に抱きかかえられている現状に対して何も反応を示すことが出来なかった。何故なら私の体は限界を迎えていたからだ。

 

 

「残りは私がやるから、香苗ちゃんは休んでいて」

 

 

 希海は私をその場に下ろすと、残りのカラドウルフ達を睨みつけた。

 私達を囲むようにして佇む狼達は低く、威嚇するような声を出しながらも一定の距離を保ち続けていた。希海が一歩でも前に踏み出せば、即座に襲い掛かるつもりなのだろう。

 声を出すことも出来ない程に疲弊しきっている私は、ただ黙って彼女の背中を見つめることしか出来ない

 

 

「大丈夫、すぐに終わらせるから」

「……」

 

 

 

 私はそんな彼女を見て、ただ黙って見つめることしか出来なかった。 今の私は半身を起こすことすら困難な状態だ。正直に言ってしまえば、こうして会話をするだけでも辛い。

 しかし、私は彼女に心配をかけないように無理矢理に口角を上げ、笑みを浮かべた。

 

 

「のん、ちゃん……」

「……」

 

 

 私は声を振り絞るようにして、幼馴染の名前を呼んだ。彼女はそんな私の姿を見て何か言いたげにしていたが、すぐに表情を引き締めると、魔具である剣を構え直し、言った。

 

 

「……すぐ終わるから、待っていて」

「……」

「安心して、絶対に守るから」

「……」

「だから、少しだけ我慢していて」

 

 

 私は小さく首を縦に振ることしかできなかった。

 今にも意識を失ってしまいそうなほどに衰弱しているが、ここで気を失ってしまえば二度と目を覚ますことが出来ないかもしれない。そんな恐怖が、私をなんとかこの場に留めてくれている。

 

 

「……いつでも来い」

 

 

 希海は短く呟くと、私を守るように前に出てカラドウルフと対峙する。先ほどまであれほどまでに敵意を剥き出しにしていた狼達は、まるで希海を警戒しているかのようにその場から動かずにいた。それは私を守るようにして立ち塞がる希海もまた同様で、その場から動くことなくジッと狼達の様子を見据えている。

 狼は弱い獲物と強い獲物を分断し、弱い方に襲いかかる習性がある。希海がそのような彼らの習性を知っているのかは分からないが、恐らくは本能的に理解をしているのだろう。

 しかし、狼達は確実に私達との距離を詰めている。

 

 希海は狼達を睨んだまま、手に持った魔具を構えた。

 

 

「――ッ!」

 

 

 刹那、狼達が一斉に動き出す。

 狼達は低い姿勢のまま地面を蹴ると同時に、希海に向かって飛び掛かった。

 希海は飛び掛かってきた狼達に臆することなく、冷静に魔具を構える。そして、飛びかかってきた狼を斬りつけると同時に、その勢いを利用して他の狼を牽制する。

 狼は斬られた痛みによって悲鳴を上げるが、その程度で怯むような相手ではない。仲間が傷つけられたことで怒りを覚えた狼達は、更に勢いを増して希海に襲い掛かる。

 

 

「……っ!?」

 

 

 希海は魔具を振るいながら、次々と襲い来る狼達を捌いていく。しかし、流石に多勢に無勢だ。一匹や二匹程度ならばまだしも、一度に十匹以上の狼を相手にすればどうしても隙が生じてくる。狼の爪が希海の体を掠め、鋭い刃のような牙が希海の腕を切り裂く。

 聖装を所有している希海にとって、その程度の怪我は大した問題にはならないが、それでも無傷という訳にはいかない。

 

 

「――ッ」

 

 

 希海は顔を歪める。

 そして、その一瞬の隙を見逃すほどに狼達は甘くなかった。

 

 

「きゃっ……!?」

 

 

 希海は突然背後から襲われ、地面に倒れ込む。襲いかかった狼は希海を組み伏せ、首筋に牙を突き立てようとするが、その一秒後には魔具によって首を貫かれていた。

 しかし、獲物を得られるタイミングを得た狩人はその一瞬の隙をさない。いつの間にか近くまで接近していたカラドウルフは、私の身体を咥えあげると、そのまま何処かへ走り出した。

 

 

「――ッ」

 

 

 私は必死に抵抗を試みるが、既に体力の限界を迎えていた私の力では、カラドウルフに抵抗することは不可能だった。

 

 

「か、香苗ちゃん……! くそ、離せ……!」

 

 

 希海は慌てて立ち上がり、私を助けようと駆け寄ってくる。だが、私が捕まっている場所までは距離がありすぎる。

 

 

「……あ」

 

 

 私は小さく声を漏らした。

 視界の端に映ったのは、カラドウルフの群れに追い詰められた希海の姿だ。彼女は剣を手に持ち、何とかして戦おうとしているが、数の差を前にして防戦に徹することしか出来ないようだ。

 

 

「……」

 

 

 私はただ黙って、その様子を眺めていることしか出来なかった。

 何故なら、私の体は限界を迎えていて、指一本すら動かすことが出来ない状態だったからだ。

 私は視線を動かし、辺りを見回す。そこには無数のカラドウルフがいた。私を捕まえた個体を含めて、合計で八匹程のカラドウルフがいる。彼らは私を取り囲むようにして佇んでいた。

 私はただ黙って、彼らの様子を窺うことしか出来なかった。

 

 

「グルルルル……」

「グゥウ……」

「ガァア……」

「……」

 

 

 私は小さく息を吐いた。

 正直に言ってしまえば、もうダメかもしれない。そう思った。私は今にも意識を失いそうな状態で、目の前にいるカラドウルフを睨みつけている。正直に言ってしまえば、こうして意識を保っていること自体が奇跡に近い。

 

 大口を開けた狼が私に迫る。

 

 

「……ぁ」

 

 

 私は思わず目を瞑る。

 

 

「……?」

 

 

 しかし、いくら待っても私に衝撃が訪れることは無かった。私は恐る恐ると目を開く。すると、私に襲い掛かろうとしていたカラドウルフは何故か私から少し離れた場所で横になっていた。

 そして、その周囲には他のカラドウルフの死体が転がっている。

 

 

「……」

 

 

 私は呆然としながら、周囲を確認する。

 そこには一人で狼を()()()()()で薙ぎ払う少女の姿が目に映る。

 

 己の身長よりも一回りも大きな大剣を振るうたびに、彼女の周囲に存在する狼達が真っ二つに切断されていく。まるでバターを切るかのように容易く、狼達は両断されていった。

 聖装グラトニアル。

 それが彼女が持つ大剣の名前であり、希海の持つ聖装の名称でもある。

大剣を振るう度に、大剣の刀身から放たれた光波(エフェクト)が周囲の空間を切り裂いていく。それはまさに幻想的で、美しく、それでいて力強い光景だった。

 希海は次々とカラドウルフを斬り捨てていき、周囲の狼を私に近づけることなく、瞬く間に全ての狼を掃討していく。

 

 ……凄い。

 もし声が出せていたのであれば、そんな言葉が漏れていた事だろう。それほどまでに、目の前で起こっている光景が信じられなかったのだ。

 全てを燃やし尽くした灰の様な髪をその手に握る武器の発する光に煌めかせるその姿は、まるで神話に出てくる戦女神のようだと私は思った。

 

 

「ごめんね、香苗ちゃん」

 

 

 彼女は申し訳なさそうに言うと、こちらに振り返る。そして、ゆっくりと私の方に向かって歩いてくると、私のことを優しく抱きかかえた。

 

 

「……約束、守れなかったや」

 

 

 希海は私の耳元で言う。

 

 

「でも、安心して。すぐに終わらせるから」

「……のん、ちゃん?」

 

 

 私は彼女の名を呼ぶ。

 

 

「大丈夫だよ、香苗ちゃん。怖かったよね。もう、何も心配はいらない」

 

 

 希海は優しい声で言った。

 

 

「……だい、じょうぶ」

 

 

 私は希海に抱かれながら、弱々しく答える。

 先程までの恐怖心は既に消え去っていた。いや、正確には希海に抱きしめられているという事実によって、不思議とその感情は消し飛ばされていた。

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