推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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1つ前の話の終盤を大幅に修正しております。
よろしければそちらの方もご一読して頂けると幸いです。


第一章 エピローグ
混ざり物


 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。

 私は希海に背負われていた。

 私は体力も魔力を使い果たし、歩くことはおろか、立ち上がることすらままならない状態だった。そのため、私は希海によっておんぶされている状態になっている。

 

 

「……おもく、ない?」

 

 

 私は希海の首筋に顔を埋めながら尋ねる。

 希海は即答した。

 

 

「全然。むしろ軽いよ。もっと食べた方がいいんじゃ無いかな」

「……そっか」

 

 

 私は呟きながら、彼女の背中に身体を預けた。希海の言葉通り、私は軽々と希海に持ち上げられてしまっている。

 私は自分の身体を見下ろす。

 そこには同年代の少女達と比べても小柄な身体があった。重くないわけがないだろうが聖装や魔具で身体能力が跳ね上がる世界では大した重さではないのだろう。

 何となくだが、私は彼女の首に回した腕に力を入れてみる。すると、希海が少しだけ驚いたような声を出した。

 

 

「わっ、びっくりした。どうしたの?急に甘えてきたりして……」

「……甘えて、ない」

 

 

 私は顔を赤らめながら、首を横に振る。

 少し前までなら推しだ女の子だなどと変に慌てふためいていたことだろうが、今の私はそんな気分にはなれなかった。それはただ単純に慣れなのか、それとも前世と今世の記憶が統合されてきた影響なのかは分からない。だが、今はただ純粋に彼女のことだけを考えている自分がいる。

 

 

「……香苗ちゃん。今頃、天城先輩達が紀々ちゃん達を助けてくれてるはずだから」

「そうなの?」

「うん」

 

 

 希海はそう言って微笑んでみせた。

 

 

「だから、安心して」

「……うん」

 

 

 私はそう言って、再び腕に力を込めると、その背に頭を擦り付けるようにして寄り添う。すると、希海はくすりと笑った。

 

 

「ふふっ、やっぱり今日は一段とおかしいね。香苗ちゃん」

「……そう?」

 

 

 私は恥ずかしさを感じながらも、小さく答えた。

 

 

「つい先々週くらいからね? なんだかよそよそしいって言うか、距離を感じるようになったっていうかさ」

「……」

 

 

 私は押し黙る。それは、確かにそうだ。私は記憶が戻ってきて以来、必要以上に接触することを避けていた。それは勿論、彼女が嫌いになったとかそういうわけではない。

 私は、希海のことを意識し過ぎていた。推しは愛でるものであって、決して恋焦がれるものであってはいけない。それは前世の頃からの信念であり、それはこの世界でも変わらない。

私は彼女に必要以上の恋愛感情を抱かない為、彼女と接することを意図的に避けていたのだ。

 

 しかし、それは逆効果だったのかもしれない。私が意識すればするほど、彼女は私に対して積極的に接して来てしまう。その結果が、これである。

 私は無性に気恥しくなって、思わず俯いてしまった。

 

 

「……香苗ちゃん、に何があったのか分からないけど、挙動不審なところを除けば変わった様子はあんまりなかったし安心したかな」

 

 

 希海が私の心を覗き込むように話しかけてくる。私は咄嵯に彼女の視線から逃れるように目を逸らすと、小さな声で言った。

 

 

「ごめん」

「別に謝ることじゃないよ。嫌われた訳じゃなくて安心した」

 

 

 希海はそう言うと、私の頭に手を乗せる。そして、そのまま優しく撫で始めた。

 

 

「……希海ちゃん」

 

 

 私が名前を呼ぶと希海は一瞬だけ身体を震わせた。

 

 

「……香苗ちゃん?」

「―――なんでもない」

 

 

 私は首を横に振って答える。先程、希海に抱き抱えられた時から私の心は落ち着きを取り戻しつつあった。だが、それと同時に私の心は激しく動揺していた。

 

 きっと私は希海の事が好きなんだろう。

 それが、どういう意味で好きであるのかは正直な所よく分かっていない。いや、分かっているつもりではあるが、それを素直に認めるにはあまりにも恥ずかしいという気持ちが強い。

 そして何よりも、私が香苗を器にして転生してきた存在であるという事実が邪魔をしている。私は前世の記憶を取り戻した言うよりも、藤咲香苗という人物に混ざってしまった異物に過ぎない。

 本来ならば、私はここに居るべきではない。彼女に好意を抱く資格など無いのだ。私は彼女の首筋に顔を埋める。

 

 

「どうしたの?急に甘えてきたりして……」

 

 

 希海はそう言いながら、くすりと笑う。その言葉に私は何も答えられなかった。ただただ、私は彼女の首筋に顔を埋めて身体を預ける。

 彼女の体温を肌越しに感じて、心臓が痛むように高鳴った。




やや無理くりですが「推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法」は一区切りとさせていただきます。
また気力が湧いたら書き直すか続きを書くかもしれませんが、その機会があればまたよろしくお願いします。

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