推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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私、要る?

 

 ここ、私立聖稜学園は中高一貫の冒険家育成学校としても有名だ。

 

 冒険家についてを一概に説明することは難しいのだが、この世界で冒険家と言えば魔巣窟と呼ばれる空間に潜り、価値ある魔具を持ち帰る仕事だという認識が一般的だ。そのため、冒険家にはある程度の戦闘技能と知識が求められる。

 そして、この聖稜学園では高等学部に冒険家を育成する学科を設けており、このような学校はこの国でも聖稜学園しか名前が上がらないほどに希少である。故に冒険家の専門学校と言えば聖稜学園のことを指していたりもする。

 

 また、優秀な冒険家は国から直接依頼されて動くこともある。

 例えば、魔巣窟からはい出てきたはぐれ魔物の討伐。他にも市街やその近くに出現した危険な魔巣窟の調査及びに無力化と言ったものが挙げられる。

 これらは全て国が決めたことであり義務としてのしかかる。冒険家のライセンスを持ったものに拒否権は存在していない。

 

 しかしこれらの依頼を受けることで国からの多額の報酬の他に、税金免除といった特典がある故にこの国と冒険家の関係は揺るぐことは全くないと言っていいほどだと聞く。

 冒険家とは命懸けの仕事であり、常に危険と隣り合わせだ。だからこそ、国からの支援金を受け取れると同時に花形の職業のように見られることもしばしばあり、ともなれば子供たちが憧れる事も少なくない。

 そして、そんな聖稜学園の冒険学科に私は通っている。

 

 

 理由は単純明快。希海(ノゾミ)の死亡フラグを回避するためだ。

 死亡フラグを回避などという理由はあとから湧いたものであるため本来の理由を話そう。

 

 前世の記憶が戻る前の私はあまり乗り気ではなかったのだが、希海が楽しそうに冒険家についての話を聞かせてくれるうちに興味が湧いてきた。まぁ、結局は希海が通うなら一緒に通おうかな?

 といった感じで受験し、辛うじて合格した。聖稜学園に希海が居なければ恐らく入学すら出来ていなかっただろう。それほどまでに希海の存在は大きかった。

 

 

「か、香苗ちゃん。熱い視線をこっちに……、ど、どうしたの?」

「あ、なんでもないよ〜……? それより、今日も頑張ろう?」

「うん! そうだね」

 

 

 ぎこちなく笑う私に希海は満面の笑みを浮かべて答えた。

 記憶が戻ってから希海との距離感が月とすっぽんで比べるくらいに全く掴めないのだ。普通、月とすっぽんを比較することが間違っている。*1

 

 

 それからはあっという間であり、気がつけば本日分全ての授業が終わり、放課後となっていた。

 私は一緒に下校したがる希海を撒いて、単身で冒険科二年生の教室近辺に向かう。

 主人公達の様子を伺うためだ。

 

 決して推しの隣にいると変なこと口走りそうとか危惧した訳では無い。推しの姿に息が詰まって気軽に窒息(とうと)死してしまいそうで心配なのだ。

 そう、仕方がない。シカタガナイ。

 

 

 話を戻そう。

 セイクレッドヘイブンの主人公、天城(アマシロ)総司(ソウジ)は二年E1組*2に在籍している。彼は主人公であるが故、当然のようにヒロインを攻略することになる。

 

 攻略対象は全部で三人おり、その全員がこの聖稜学園の生徒であり、主人公の同級生だ。

 そして、それぞれのルートでは主人公は様々な困難を乗り越える事となり、様々なエンディングを通過し、最終的にプレイヤーは全員と結ばれるトゥルーエンドを目指す。

 まぁ、簡単に言えばいくつもの周回を重ねてハーレムENDを目指して頑張っていくゲームなのである。

 

 さて、なぜそのようなことを気にしているのかと言うと、それは主人公の選択したルート次第で柴宮希海が生存するか否か変わってくるからだ。

 各メインヒロインの個別ルートの場合、希海はグッドエンドとハッピーエンドの両方で死亡が確定する。

 バッドエンドなら希海が死亡することはないのだが、代わりに世界の方が滅亡することになる。

 

 ちなみに、このセレヘブにおいて希海はラスボスとなる素質が非常に高いキャラクターであり、死亡するルートでは大概ラスボスとして主人公の前にたちはだかるのだ。*3

 

 故に各メインヒロインの個別ルートは間違いなく避けなければならず、それ以外のルートでも希海に纏わり付いている死亡フラグを回避またはへし折って行かなければならない。

 

 柴宮希海に纏わりついている大まかな死亡フラグは大きくわけて三つとなる。

 一つ目が、先程も挙げた各メインヒロインの個別ルートやそれに準ずるサブヒロインのルート。

 これについてはもはや説明するまでもないだろう。

 

 二つ目に、柴宮希海の聖装そのもの。

 希海の発現させている聖装は『グラトニアル』であり、その能力は端的に表現するならば自己進化だ。要するに経験に応じて成長し続ける聖装であり、これの厄介なところは使用する度にその性能がどんどん上昇していく点にある。

 故に、聖装自体の性能が上昇していけばいくほど、彼女の戦闘能力も上がっていき、最終的には聖装そのものが彼女自身と一体化して肉体を乗っ取ってしまい、それがセレヘブのラスボスとなる。

 

 三つ目は、主人公の保有する聖装『マルグラース』の力を使用してグラトニアルの進化を抑制しなければならないということ。それはどういうことかと説明するならば、主人公の聖装はこのゲームにおけるワイルドカード的な存在であり、よく知っている聖装を劣化模倣したり、仲間の聖装を同調させて強力な大技を放てたりゲームシステムの根幹すら担っている。

 つまり何が言いたいのかというと、主人公の『マルグラース』を使用しなければ、希海(推し)が聖装に喰われてしまいラスボス化する未来(死亡フラグ)はほぼ確定的になってしまうということだ。

 

 

 

 よって、希海が死なないようにするためにはセレヘブの主人公、天城総司との繋がりを得る必要が出てくる。

 しかし、このマルグラースによる成長抑制を使用するということは主人公と希海が親密になる必要があり……、

 

 

「……これって、NTR(ネトラレ)か?」

 

 

 ……は?

 

 あっ、内なる殺意が目覚めそうになってしまった(手遅れ)。

 

 私は突如でてきた問題に頭を抱えてしまう。

 これは私の精神衛生的に無理ゲーだ。そもそもの話、主人公と希海が仲良くなる切っ掛けとなる床ドン(じけん)がまだ先に控えているわけである。

 

 つまり、その時に私の精神がバキバキに尊厳破壊されなければならないという話なのか!?

 

 

「……落ち着け、よく考えろ? 私と希海は親友。それ未満という訳でもなく、それより余程高い関係という訳では無い。そうだ、前提を勘違いするな」

 

 

 口に出してみると少しだけ落ち着いてきた。そうだよ。希海は大事な親友であり、それ以上でも以下でもない。

 前世の俺との関わりだってそう言わばアイドルとそのファンみたいなものだ*4

 

  とにかく、マルグラースを使用した成長抑制を始めるにしても早ければ早い方がいい。今から偶然を装い天城総司と接触を図り、彼と希海の仲を取り持つのが最善手と言えるだろう。

 

 

 そんなことを考えている内に誰もいない教室にて座っている天城総司その人を見つけることに成功した。

 ダメ元で2年の教室に寄ったのだが、まさか見つけられるとは考えていなかった。もしかして誰かと一緒にいるのだろうか……?

 

 教室の入口にそっと近づけば、天城総司の他に一人の女子生徒の姿を見つけることになる。ロングウェーブに切りそろえた、白金のように美しい銀の紡糸を揺らし、青い瞳をした美少女は天城総司に何かを語りかけている。

 

 彼女の名前は來素(クルモト)水波(ミナハ)。聖稜学園二年生にして聖稜学園冒険科冒険家専攻学科に所属する冒険家であり、冒険家志望である私にとって先輩でもある。

 彼女は聖稜学園冒険家専攻科の中でもトップクラスの成績を誇り、その実力から『冷血剣姫』の二つ名を持っている。そして、聖稜学園冒険科冒険家専攻科に彼女を知らない者はいない。

 そして來素水波は天城総司(主人公)にとっての幼馴染(メインヒロイン)でもある。ちなみに、セレヘブのメインヒロインはあと二人いるのだが、その二人は現在不在の様子だ。

 來素水波は聖稜学園冒険家専攻科の中でトップクラスの成績を誇る容姿端麗成績優秀で冒険家としての能力も高水準な完璧美少女だ。キレ目のクールさに隠れるデレによって男女問わず数多くのプレイヤーがクラっと来たのだという。

 その強さとは彼女の発現させたとされる聖装(セイクレッド)にある。來素水波の持つ聖装は水氷の力を宿す『ラグニルツワイシア』と呼ばれるいわゆる細剣(レイピア)だ。剣技に織り込まれるように生み出される氷晶が幻想的であり聖陵学園の生徒にもセレヘブのユーザーにも共に人気が高い。

 見た目のみならず、氷雪を使用した中距離攻撃、自身の周囲への範囲攻撃、防御バフ、限定的ながらも使用可能な回復などが揃っており、使い勝手の良さからセレヘブ初心者にもオススメしたい性能をしている。弱いわけが無い。

 

 

「――――幼馴染としてあまり心配させないで欲しい」

 

 

 ふと、そんな台詞が聞こえてくる。その声色は震えているような、懇願するような、そんな感じの声色だった。どうやら、天城総司は來素水波に怒られているのかもしれない。

 もう少し様子を伺ってみよう。

 

 

「うん……ごめん。でも、本当に何ともないんだよ?」

「嘘。君は昔からそうやって、すぐに誤魔化そうとする。昨日の動きは間違いなく例の事件が尾を引いてる」「い、いや、あれは別に……」

「それに君にはその聖装『マルグラース』がある。君の力は確かに凄まじい。けれど、その聖装は万能じゃない。頼りすぎればいずれ限界が来る。その時になって後悔しても遅いから」

「……わかってるさ」

 

 

 天城総司と來素水波の会話を聞いて、私は思わず息を飲む。これは、水波の好感度70%時に発生するイベントではないか。このイベントでは、天城総司が聖装を使い過ぎて身体に負担をかけてしまい、それを來素水波が咎めるというもの。このシーンにはかつて生き別れのようにして離れ離れになった來素水波の悲哀とも感じ取れる感情が読み取れるものであり、長らくツンのスタンスをとっていた水波が初めてデレの部分を直接的にさらけ出すシーン。セレヘブ界隈では賛否両論の声が上がっているが――――(オタク特有の早口言葉)。

 

 

 ……感極まって、つい取り乱してしまった。

 

 まさか天城総司がたった一年の間にここまでメインヒロインとの距離を縮めているとは思わなかった。現在は二年生の序盤も序盤。物語の折り返しにも辿り着いていない。

 このままだと、下手したら來素水波ルートに突入しかねない。それはまずい。なんとしてでもそれだけは避けなくてはならない。

 私が慌てて二人の元へと駆け寄ろうと意を決したときだった。

 

 

「あら、そこにいるのは一年生の方ではありませんの?」

 

 

 不意に声をかけられた。振り向くと、そこには一人の少女がいた。金色の髪に赤眼。まるで西洋人形のような出で立ちをしているが、しかし彼女の持つ雰囲気は明らかに日本人離れしている。

 聖稜学園冒険家専攻学科二年、東條タリア。桜華王国の冒険家達を表立って支援する東條財閥の令嬢にして、聖稜学園冒険家専攻科の中でもトップクラスの実力者。

 そして、彼女はセレヘブにおいて、メインヒロインの一人でもある。

 

 

「えっと……おはようございます。と、東條さん」

「ふむ、私のことはご存知のようですね。ところで、あなたはどうしてここに? ここは一年生が入っていい場所ではないはずですが」

「あー、いえ、ちょっと知り合いに用事があって来たんですけど……今取り込み中みたいだったのでまた後で来ますね。それじゃ!」

 

 

 私は踵を返してその場から去ろうとする。しかし、そんな私を逃さないように、東條さんの手が肩に置かれた。

 

 

「まぁ、お待ちなさいな。ちょうど良い機会です。あなたも、彼に言いたいことがあるのでしょう?」

「は、はい!? 私、別に天城先輩に何も言うことなんてないですし!」

「……? ではなぜ、こちらでソージのことを伺っていたのですか?」

「そ、それは……」

 

 

 希海のラスボス化を防いで世界滅亡を防ぐためです! などとは口が裂けても言えない。仮に言ったとして、信じて貰えないばかりか、この奇異なものを見つめる目が可哀想なものを見る目に早変わりだ。

 当然ながら天城総司に対して恋心を抱いているとかそういうわけではない。ただ、天城総司が主人公である以上、私は彼の動向を知っておかなければならない。

 

 なら、この状況を脱するために必要な台詞は……!!

 

 

「私は天城先輩のストーカーなんかじゃないですから!!」

「……はい?」

「だから、天城先輩のストーカーなんかじゃ……、あ」

 

 

 言ってから気づいた。藤咲香苗(わたし)よ、お前は何を言ってるんだ……?

 

 言い訳をするなら、コミュ力……ですかねえ……。

 人との会話中に、スっと、失言できる陰キャでして*5

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 訪れた沈黙は痛かった。

 私の咄嗟の弁明は教室にも聞こえていたようで、天城総司並びに來素水波は目を丸くしたまま固まっていた。

 

 当然だ。

 突然現れた後輩の少女が想いを寄せている男子のことをストーキングしていたなどと暴露していたのだから。

 言われた天城総司本人も驚きだろう。

 

 私は自分の発言を頭の中で反芻し、そのあまりの恥ずかしさに不本意ながらも顔を赤く染める。本当のことでは無いのに脳みそも沸騰してしまいそうでヤバい(語彙消失)。

 けれど、そんな私の気持ちなど露知らずといった様子で目の前にいる少女は呆れたような表情を浮かべる。

 

 やっべ……、溶けてなくなりてぇ。

 

 

「はぁ……。何を言っているのかよくわかりませんが、そういうことでは無いことは何となく分かりましたわ。それにしても、そんなに照れなくてもよろしいではありませんか」

 

 

 ……行間から人の思考を読み取っているとでも言うのか!?

 だが、冷静に会話が続けられるのは渡りに船だ。

 

 

「……は、はい。ちょっと、学園の有名人に会ってですね、その、テンパっちゃって」

「ふふ、褒められると少しこそばゆいものがありますね」

 

 

 東條タリアが有名人であることは間違ってはいない。とはいえ、どちらかと言うと天城総司や來素水波に向けて言ったつもりだったのだが……。まあいいか。

 

 

「ソージ、ミナハ。こちらのことは気にしなくて宜しくてよ」

「お、おう」

「そう……」

 

 

 來素水波と天城総司は東條タリアの言葉にそれぞれ首肯すると、帰り支度を整えてそのままどこかへ行ってしまった。

 ああ……、またとない主人公との接触チャンスが……。

 

 

「それにしてもフジサキカナエさん、……でしたっけ? 覗き見とは感心いたしませんわね」

 

 

 あれ、名乗ったっけ……?

 

 

「……名前呼びが気になります? 少しでも関わる可能性のある人物は全て把握する質でしてね。それで、弁明はありまして?」

 

 

 この女は読心術が使えるとでも言うのか……!?

 いや、戦々恐々とするのは後でも良い。

 

 

「……その、本当に申し訳ありませんでした……」

「別に責めているわけではありません。確かに新入生は情報的なアドバンテージが多くないことから、ソージを始めとした活躍している在学生のゴシップを掴みたいと思うのも当然でしょう。

 ですけれど、今後は気をつけてくださいまし」

「は、はい……」

 

 

 私は小さく項垂れる。まさかメインヒロインにお説教を頂くなんて思ってもいなかった。天城総司に挨拶がてらメインヒロインとの関係性を偵察に来ただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。

 

 ……ん? いや待て、おかしいぞ。

 何故、東條タリアは天城総司を下の名前で呼び捨てにしている? セレヘブではゲームシステムの関係上、各ヒロインへの好感度は一年で合計で100%上げることができるが、それでも東條タリアが主人公を名前呼びに変化するのは好感度を70より上にした上で三年目以降だ。

 東條タリアが二年生の時点で天城総司を既に名前呼びしているということは、少なくとも天城総司は東條タリアとの好感度もそれなりに上げているということだ。

 

 この二年回収のタイミングでのメインヒロインの妹との関係改善イベントの前倒し、來素水波の70%好感度イベントの発生、東條タリアからの呼び方の変化。

 

 

「ハ……ハ……」

 

 

 主人公、天城総司の用意周到さに思わずかわいた笑いがこぼれ落ちる。

 

 

「……カナエさん? どうか、致しましたの?」

「え、いえ、なんでもないですよ! あはは……はは!」

 

 

 こんなの、笑って誤魔化すしかないじゃないか。

 この世界の天城総司は原作無視のトゥルーエンドに(プレイ)走り抜ける男(ボーイ)だったのだから……!!

 

 ()、要る?

*1
※個人的な感想です。

*2
冒険家のクラスはE“数字”のようなクラス分けがされているが、このEは冒険家ではなく探検家の英語、EXPLORERの頭文字が由来となっているらしい。何故アドベンチャーのAを使用しなかったのかは謎に包まれている。(参考文献:セイクレッドヘイブン公式設定資料集第一巻)

*3
シナリオライターはどうしても希海を殺したいのか関わりもないシナリオで脈絡もなく登場する謎展開もしばしばあったりする。希海を推す俺にとっては理不尽であり、作品の評価を下げている所以のひとつだ。

*4
それが二次元であるというツッコミは聞かないものとする。

*5
無理にテンションぶち上げて置けばノリと勢いで会話ならできるタイプの陰キャ。

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