ジョン・ドゥとメアリー・スーの伝説   作:井手龍之介

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普段は読み専だけど、自分が作った世界の人物録を作りたかった。(だから、題名は「アンダガルズ英雄録」に変えるかも)

設定矛盾もあるし、文章作法もまちまちだし、更新も気が向いたら。

それでもよければ、彼らの足取りを見ていってください。


「宿なし」のジョン 1

 ジョンという名前はこのアンダガルズ大陸においてありふれたものである。人名はさりとて、貿易港や戦場跡、冒険者ギルドにもその名前は登場する、語源は大陸一の宗教国家・クリエの経典に登場する英雄の名前とされるが……これ以上は宗教学や言語学からの分野であるため記載は控えよう。この書物は歴史、更に言えば過去の偉人が為しえたことを記すものである。

 今回記すのはジョンという、ありふれた名前の英雄である。

 

 [アンダガルズ英雄録 『宿なし、あるいは渡り船のジョン』より抜粋]

 


 

 昔、何週間かに一度来る吟遊詩人の謳う話が好きだった。

 特に好きだったのは、まだ見ぬ宝を求めて海を駆ける海賊の話。

 海なんて、一週間も馬車に揺らされないと見ることさえ叶わないこのドゥール村では、吟遊詩人の語るそれこそが“海”であった。

 小さい頃に聞いたのは、伸縮自在に自身の体を伸ばせる魔術を取得した海賊が、仲間を集めて秘宝を探す船旅に出る話。その時は自分もそんな能力を得たり、愉快な仲間を連れて大海原に駆り出したいと思ったものだ。そして自分に特異な力はないものかと色々試したものだ。

 少し成長し鍬を振るうようになったら、自分にそんな力はないと思い知った。薄々それを感じ取っていたのだろうか、次に吟遊詩人は別の海賊の話を謳い出した。それは、攫われた女を救いに、海賊と協力する少年の話。

 最高だった。特になんといっても、出てくる海賊が最高だった。船への愛着、悪知恵が働いて、名前もどことなく自分に似ている。またしても年不相応に、どうしようもなく惹かれてしまった。

 そして思った。いつか海をこの目で見てみたい、と。

 だからこそ、これは好機。それこそ、神の思し召しなのだろう。生憎その神様の名前さえ覚えてはいないが。

 そう思って、彼——ジョン・ドゥールは火の手の上がる己が故郷を背に、山賊から盗んだ馬を走らせた。

 しかし、海賊と名前は似ているのに、山賊というものはどうしてこう……野蛮なのだろうか。

 そんなことを思いながら目指すは北西。吟遊詩人が語った、この大陸で最も大きな海洋。

 ——憧れのユレシア海を一目見に! 

 

 

「——起きろ、宿なし野郎が。酒場は雑魚寝宿じゃないぞ」

 

 そんな声で目が覚める。ぬるいエールでふやかされた思考力が窓から差す朝日を浴びて乾いていく。

 ナイトキャップを外して、あくびを一つ。そして、声をかけてきた男へとジョンは目を向けた。

 

「……いい夢みてたのに、台無しだ。この宿持ち様が」

「うちは宿屋じゃないから、どちらかというと、家持ちだな。さらに言えば庭持ちでもあるな」

 

 なるほど、合わせて「家庭」持ち……上手いことを言う。

 寝床がわりに並べていた椅子から身を起こし、軽く背伸びをする。パキパキと音を鳴らす背骨が心地よい。

 

「……飯くれないか、酒場のおっちゃん」

「金もない奴に出す飯はない。とっとと出てけ」

 

 首根っこを掴まれ、窓から放り出される。一回、二回、三回と跳ねて、賑やかになりつつある道に大の字に寝転がる。

 まだ乾いていないのだろう、揺れた石畳を背中に感じながら彼は息を吐き出す。

 

「流石にタダ飯まではありつけない、か」

 

 雨宿りも許してくれるような善性の人間なら可能性はあるか、と思ったが……いや、こんな厚かましい態度の男を放り出すだけでとどめるならば、それは本当に善性の高い、よくできた人間だ。

 立ち上がって、一張羅についた土埃を叩く。そして、ポケットにしまっていたバンダナを取り出して、頭に取り付ける。

 代わりにナイトキャップをポケットに押し込んでいる中、酒場の扉が開いたことに気づいて振り返る。

 

「宿なし野郎、名前は?」

 

 ……これは、正直に答えていいものなのだろうか。

 明日には「宿なし野郎、ジョン・ドゥールにお気をつけて」という人相書きが張り出されるのかもしれない。

 それはいけない、酒場の店主という基本おおらかな人間の善意に潜り込むことが難しくなってしまう。

 そう考えてしまった彼は、歯を見せつけんばかりの笑顔を返す。

 

「ジョン・ドゥだ」

「ジョン・ドゥね……覚えとくぜ」

 

 やはりそうだ、人相書きが出回ってしまう。顔を覚えられる前に立ち去ろう。

「いい宿でした!」と言葉を残し、酒場の軒下にとめていた(山賊の)愛馬に跨る。

 

「ジョン・ドゥ!」

「……なんでしょうか」

 

 もしかして偽名だとバレただろうか。

 冷や汗をかきながらチラッと目を見やると、顔目がけて何かが投げつけられる。

 

「持ってけ!」

 

 咄嗟に掴んだそれは小袋。封を解いて中を覗けば、彼の視界には塩味の効いてそうな肉片らしきものが見える。

 思わず彼は、眉を顰めて酒場の店主をじっと見てしまう。

 

「お前が出した金じゃ、飯までは出せないが、干し肉くらいなら出せる」

「……あれは宿泊代だぞ」

「うちは宿屋じゃないといっているだろう」

「あんた、いい人すぎるぞ」

 

 ジョンの言葉を聞いて、酒場の店主はニッと笑顔を見せる。

 歯を見せつけるような、それはジョンが先ほど浮かべた笑顔のようで、しかしどこか違う。

 心奥から何かが湧いてきて、彼はバンダナを口元まで下げて、愛馬を軽く小突く。

 独特の揺れと共に、酒場が遠ざかっていく。

 

「いい旅を、宿無しのジョン・ドゥ!」

 

 店主の名前くらいは聞いていてもよかったかもしれない。

 真っ赤に火照った顔を隠しながら、ジョンはユレシア海へとまた一歩その身を進めるのだった。

 

 


 

 このアンダガルズで最もよく知られた偽名である。海で見つかった、身元不明の水死体などによく用いられている。

 その由来は、『宿なしのジョン』が一エピソードが由来である。

 彼は己が故郷——ドゥール村が山賊に蹂躙される中見捨てたことを悔いて、ドゥールと名乗ることを躊躇し、ジョン・ドゥと名乗った。

 彼がこの偽名を最初に用いられたのは記録上、当時のドゥール村から北西に馬で4日。ヘンビン王国がオッキーノ湖付近の酒場であるとされている。

 彼の人相書きと共に、

「ユレシア海を目指す、夢見る男。ジョン・ドゥの旅路にご支援を」

 という言葉が、当時最速の情報共有手段であった『酒場の掲示板』に残されている。

 

 [教えて、セイコー先生 『ジョン・ドゥって何?』より抜粋]

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