ーー1204・5・04・昼過ぎ・日本人移民街
日本人移民街
ここは、日本から帝国に移民してきた人間達がこの辺りを開拓して、街を作ったのだ。最初の移民団の日本人達が、帝国で生きていくために、帝国という国を学び日本系帝国人としての基礎を作っていったのだ。
今では移民3世~5世の世代になっており昔の苦労を知っている者も少なくなっている。
移民団が街を作ってた頃は、日本家屋が多かったが、今では帝国の建物も混じった街になっている。
リベールとの戦争の時も、帝国に忠誠心を示すために激戦地に自ら志願した日本系帝国人もいた。
今ではそれも話しを聞いたぐらいしかいない人間ばかりになってきている。
それから平和に暮らしていたのに、本土から来たゴールド・マウンテン社の帝国支部が、人身売買や武器の不正輸出をやっていたのだ。
日本移民街の人間は、驚きの連続だった。まさかそんなことをしている会社が日本人移民街に進出しているなんて思ってもいなかった。
西トウキョウ駅の西側にも日本人移民街はある。向こうはすぐにサザーラント州の影響下に入ったが、東の日本移民街は、サザーラント州から自治を認められて自治区となった。
しかしそれが、日本からの悪党を呼び寄せることになったと、パルム騒乱で自治区長が辞任した。後に就任した自治区長が、自治権をサザーラント州に返上したのだ。
自治区長は辞任し日本移民街の自治は終わりを迎えた。
今は、日本移民自治区からサザーラント州の中の東日本移民街としての手続きの最中のようであり、ただ日本人移民街の人々は普通通りに暮らしているようだ。
そんな中、すみれとアリスと理は歩いている。
アリス「ここって何だか懐かしい気持ちになりますわ」
理「そうだね、帝国の中にあっても日本に戻ってきた感じになるね」
すみれ「確かに」
理「うっとりするのは、後でするとして今は、ギルドから聞いた人に会わないと」
すみれ「そのギルドから教えてもらった人物って誰なんですか?」
理「帝国軍情報局特務中尉、ミサキ・カミジョウさ」
すみれ、アリス「帝国軍情報局特務中尉、ミサキ・カミジョウ!」
理「なんだ、知ってるんだね」
すみれ「まあ…名前だけですけど。以前クロスベルの騒乱を収めた1人だと」
アリス「そうね。帝国軍情報局の人間でありながら、クロスベルのために戦った女性って言われてるわ」
すみれ「理さんは、ミサキさんに会ったことはあるんですか?」
理「直接は会ったことはないよ。ただ僕の知り合いが、会ったことがあるね。一言で言えば、志は君達と一緒だね」
すみれ「私達と一緒…ですか?」
理「そう、か弱き人達のために頑張っているところとか…」
すみれ「…導力ネット内で、そんなことを言われてるのを見たことあります」
ミサキは、特にヨアヒム・ギュンターによるクロスベル騒乱の活躍で、特務支援課同様に一躍有名になっている。
帝国やもちろん、リベール、カルバード、他の地域、東ゼムリアにも名前は広まった。
理「まあ、議論するより、直接会った方が早いかもね」
すみれ「そうですね」
アリス「でも、そのミサキさんは、日本人移民街のどこにいらっしゃるのか、わかりませんわ」
理「そこまでは聞いてないけど、おそらくは、日本人移民街の…町長屋敷にいるかも…」
すると何だか回りがざわめき始める。すみれ達もそちらを見る。するとミサキが歩いてやって来ている。そしてすみれ達の前で止まる。
ミサキ「貴女達が日本から来た人達かしら?」
すみれ「あ、はい、私達が日本から来ました者達です」
ミサキ「なるほど…ここではなんだし、話せる場所まで…鉄道憲兵隊の詰所まで行きましょうか」
ミサキは、そう言うとARCUSを取り出し、どこかに連絡をした。
ミサキ「導力車を手配したわ。歩いて行けなくはないけど、貴女達を注目の的にはさせたくないからね」
すみれ「確かに…注目の的になりかねませんね」
しばらくすると導力車がやって来て、すみれ、アリス、理と乗り込み、助手席にミサキが乗った。運転手はミサキの部下である。
そして導力車は、鉄道憲兵隊の詰所に向かっている。
ミサキ「まだ自己紹介がまだだったね。私の名前は、ミサキ・カミジョウよ。よろしくね」
すみれ「私の名前は、芳澤すみれです」
アリス「私は十文字アリスですわ」
理「僕は結城理、よろしく、ミサキさん」
すみれ達は、導力車に乗せられて、鉄道憲兵隊の詰所までやって来た。鉄道憲兵隊が詰所として使っているこの建物は、かつてはこの日本人移民街を守ってきた自警団が入っていたものである。自警団が解散し領邦軍に組み込まれたため、鉄道憲兵隊が摂取したのだ。!なぜ摂取したのかと言えば、パルムから日本人移民街にも鉄道がひかれる予定があるためとしている。
ミサキ「ここが日本人移民街の鉄道憲兵隊の詰所よ。まあ元々は日本人移民街を守るための組織、自警団が入ってた建物だけどね」
すみれ「そうだったのですか」
ミサキ「とにかく会議室まで来てもらうわ。話しはそれからね」
すみれ達は、ミサキの後を追う。鉄道憲兵隊の建物の中だと言うのに、部外者が歩いているというのに気にしてる感じはない。それどころかすみれ達に挨拶をかわしてくるのだ。帝国軍情報局というところだから、もっと堅苦しい場所だと思っていたすみれ達だったが、見当違いだった。
そして会議室と書かれた一室に案内される。
会議室の一室には、ミサキ以外にももう1人いたのだった。
ーー1204・5・04・昼過ぎ・日本人移民街・鉄道憲兵隊詰所。
深夏「ミサキさん、お客さんかしら?」
すみれ達の前に現れた人物は、ジェニス王立学院の制服を着た司波深夏であった。彼女もハードスケジュールである。パルムの騒乱の後、一時は日本に帰って日本政府、十師族会議にも出席し帝国で起きた事を説明している。その後、リベールに行き、リベール王国政府、リベール王家にも事情を説明している。そして再び帝国へ戻り、日本人移民街にて事後処理をしているという。
すみれ「す、凄い…」
アリス「さすがというしかありませんね、四葉家のエージェントの司波深夏さん」
すみれ「え…?四葉家!?」
深夏「まさか、十文字分家のアリスさんがいらっしゃるとは思いませんでしたが、何用で、帝国の日本人移民街へ入らしたのですか?えーと、自己紹介がまだでしたわ。私は司波深夏です。ワケあって、リベールに留学中ですが」
すみれ「私は芳澤すみれです、よろしくお願いします」
理「僕は結城理だよ、よろしく」
ミサキ「で、すみれさん達が知りたいことってゴールド・マウンテン社の事?」
すみれ「はい」
すみれは、日本での事を話し出した。話すかは迷ったが、お助けチャンネルの事も話した。ミサキと深夏なら話しても良いかなと判断したからだ。
ミサキも深夏もお助けチャンネルの事は知ってたらしく、かの遊撃士協会も褒めていたようだ。
ミサキ「まさか、あのヴァイオレッドが、日本の女子高生だったとは驚いたわ」
深夏「私もね」
すみれ「私なんかまだまだですよ、私よりも世界で活躍されてる、ミサキさんや司波さんが凄いですよ!」
アリス「すみれの言う通りですよ。ミサキさんや深夏さんは、自分達女子の憧れなんですから」
ミサキ「憧れか…ふふっ、ありがとう」
深夏「私はまあ…自分の思ったままにやってるだけだしね。そこは、すみれさんもわかるのではなくて?」
すみれ「ええ、わかります」
深夏も四葉のエージェントを引き受けたのは、妹の深雪を守るため。その事から全てが始まっている。すみれも困った人達を救いたいという気持ちから始まっている。理はすみれ達に苦笑しながら
理「女の子同士の話も良いけど、本題に入っても良いかな?」
ミサキ「あ、そうね。女の子の話を聞きに来たわけじゃないものねぇ。すみれさん達の聞きたい事は、ゴールド・マウンテン帝国支部が起こした問題よね」
すみれ「はい、日本ではゴールド・マウンテン社の報道すら無いので」
深夏が不服そうな表情で喋り始める。
深夏「すみれさんの言うとおりに日本においては、ゴールド・マウンテン社の報道は、十師族の間でやらないことが決まってるのよ!四葉家としたら、ゴールド・マウンテン社の悪性を知らせる必要があるって言ったんだけど、一条やアリスさんの本家である十文字家は四葉家に賛同してくれたけどね」
アリス「一条、十文字家以外の十師族が反対したと言うことですね?」
深夏「ええ。七草家は、賛成でも反対でもない、中立ね…。反対から中立に変わってくれたのも、静江さんのおかげでしょうけど…金城の件では、五輪、九島も賛同してくれたけどね。ゴールド・マウンテン社と金城とは別ってことかしら…」
深夏は、中学生にしては発育の良い胸の下で、腕を組んでいる。
理「国会が独自に発表なんかはできないし日本政府からも発表は無理ですよね?」
深夏「無理でしょうね。桐条内閣の支持率は30%以下、ましては獅童一派がそんなことをさせるわけないわ」
ミサキ「日本の獅童一派、帝国の貴族派、共和国の反移民派…この辺りが横で繋りがあるのは確かね」
すみれ「そこまで……」
アリス「私も薄々は気がついたけど、帝国軍情報局のミサキさんがそこまでおっしゃれると説得がありますわ」
深夏「私も感じるわね。リベールにいてもわかるくらい、帝国内部、日本内部が割れ始めてる…四葉家が押さえている国防軍の中にも獅童一派が増えはじめているって報告が上がってるし」
アリス「国民の中でも獅童一派を支持をする方々も徐々に増えて来ているわ」
すみれ「今の世界状況がそうさせてしまうのかな」
理「そうかもね…。あの時、僕達は何のために戦ったのだろう…みんなは力を失ってまで世界を守ろうとしたに…」
理は小さな声でそう言ったのだ。それも周りには聞こえないように言った。すみれと深夏は、理の唇の動きでその言葉を読み取った。
ミサキ「そうね、今の世界状況だとどこかで火が付けば一気に燃え広がる可能性はあるわね」
すみれ「それって…過去の世界大戦みたいになるってことですか?」
ミサキ「……絶対になるとは言ってないわ。可能性の1つってことかしらねぇ」
すみれ、アリス「……」
理「……」
ミサキ「世界大戦なんて、私が起こさせない!起こさせてなるものですか!」
すみれ「ミサキさん?」
深夏「私もよ。これ以上の戦争は起こさせないように頑張ってるのよ。悲劇は繰り返させては駄目だから」
ミサキと深夏が、真面目にそう話をする。すみれ達は、2人が真剣に世界の事を考えているのだなと思うばかりであった。
ーー1204・5・04・日本人移民街・鉄道憲兵隊詰所。
ミサキと深夏の話を聞いた後、ミサキから色んな情報が載ったレプリカ資料を見せてもらった。本来ならマル秘情報だが、特別にすみれ、アリス、理に見せることにした。
レプリカ資料の中身は、ゴールド・マウンテン帝国支社が密かに行っている事がかかれていた。
日本国から帝国への武器の密輸。運んできた武器を、帝国の貴族派、クロスベルのルヴァーチェ商会、カルバード共和国の移民反対派、猟兵団などに売りさばく。
ルバーチェ商会やD∴G教団から密かに得ていたグノーシスを日本国内に回すことや教団が行ってきた実験を引き継ぎ、日本の高校生や一般人達で実験していたと書かれている。
◯年◯月◯日、536回実験をし、生存者は0
帝国支社の支社長の佐藤が、金城にもっと実験体を増やすように通達している。
◯年◯月◯日、新たに金城より、125名の実験体を手に入れ、実験を始めた。
◯年◯月◯日、何度も実験をするが、一回とも成功はしなかった。
1204・3・30、125体の実験体を実験失敗し、再び金城に依頼を出す。
1204・4・20、新たに25名の新しい実験体を得た。金城には感謝しなければならない。だが妙な連中がかぎ回り始めている。気をつけて続けなければならない。
レプリカ資料は、ここまでしか書かれていない。すみれ、アリス、理は、プルプルと震えている。おそらく資料の内容を見てのことだろう。ミサキも深夏も最初に見た時、同じような感じになったのだから。
すみれ「つい最近まで、そんなことをやっていたんですね…」
アリス「ゴールド・マウンテン社、黒どころか、真っ黒じゃないのよ」
深夏「ええ、真っ黒ね。でも今の日本では、それがまかり通るのよ…」
理「十師族の権限と獅童の権力が政府の力をも凌駕してしまっているって事か…」
ミサキ「そうね。ちょっと前のクロスベルがそんな状態だった…。クロスベル自治政府は機能不全まで追い込まれていた…」
深夏「帝国派議員と共和国派議員が議会で対立、議長と市長とも対立してたわけだしね」
ミサキ「それもクロスベル騒乱で、帝国派議員、共和国派議員の大半が逮捕された。次期の市長選選挙と議会議員選挙も同時に行われるわ」
深夏「それで、クロスベルが少しずつ変わっていければ良いね」
ミサキ「ええ、そうなることを願うばかりね」
すみれとアリスと理は、ゴールド・マウンテン社が、D∴G教団やルバーチェ商会と繋りがあったことに怒りを覚えていた。
すみれ「十師族の方々は、こんなに犠牲が出てるのに平気でいるんですか…」
アリス「ごめんね…」
深夏「ごめんなさい、私達にもっと力があれば、ゴールド・マウンテン社や十師族や獅童一派に問い詰める事ができるのに……」
ミサキ「帝国政府としても、強硬には出れないのよ。強硬に出れば、共和国派に一気に流れが出来てしまうと、桐条首相や四葉深夜様から言われてるしね」
理「理不尽だと思うだろうけど、一個人ではどうにもならない。それは君達もわかるよね?」
すみれ「はい、わかります」
アリス「そうね…」
すみれは、秀尽学園でイヤと言うほどそれを見てきた。在籍した時間は、僅かな時間だったはずだが、何年もいたような錯覚に陥っていた。
鴨志田卓の事件は、ゴールド・マウンテン社のやってきたことの縮図でしかない。だからあの時、彼らは立ち上がったのだろう。
心の怪盗団【ウロボロス】が鴨志田の悪事を世間に公表したこと。
なあなあだった日本社会に風穴を開けてくれたようなものだ。
すみれはそんな彼らの正体を知っている。
自身の学園、秀尽学園の先輩達である、雨宮蓮、緋里雪奈、坂本竜司、高巻杏の4人である事を知っている。
彼らの正体を誰かに話そうとは思わない。怪盗の正体をばらすような行為は、したくはない。彼らは彼らなりの正義を執行したのだから。
すみれ「それと、ゴールド・マウンテン帝国支部の社員名簿はありますか?」
ミサキ「社員名簿?社員名簿は確か…これのはずね」
すみれは、ミサキから社員名簿を受け取った。名前はあ行から並んでいるから、依頼主の山田さんのお姉さんは、や行なので、最後の辺りである。や行はそんなにいないなので、すぐに見つかる。
【山田 真奈美ー帝国支部No.452】
【研究開発部所属ー所属No.231】
【七耀暦1203・2・15 入社日】
【七耀暦1204・3・03 退社日】
諸事情により退職する。
日本で亡くなった日が、七耀暦1204・4・05日である。日本の警察発表は、自殺と断定して調べてはいない。
目撃者もいたのだが、全員意見を変えたり、居なくなったりしたのだ。警察もマスコミも動かない。
山田さんのお姉さんの死を自殺と片付けられるようなヤツは、限られてくる。
十師族か獅童正義一派…と限られてくる。
だが、誰がどうのと証拠があるわけではない。
自殺を他殺に持っていけるだけの証拠が無いのだから。
アリス「研究開発部って何を研究していたのかしら?」
ミサキ「研究開発部は、日本から拉致した高校生達を生体実験するところね」
すみれ「生体実験!」
理「諸事情で辞めたってことになってるけど、何かしようしてたんじゃないかな?」
アリス「何かを?」
ミサキ「帝国支部の連中を取り調べた時、帝国支部を告発しようとした女がいたと言ってたね」
すみれ「それが山田真奈美さん?」
ミサキ「その可能性は高いわね。連中もそれらしいことを言っていたわ」
アリス「ゴールド・マウンテン社は、告発されることを恐れて殺したってことかしら?」
すみれ「帝国支部の人間に聞くことが出来れば、何かわかるかも知れない」
アリス「でもどうやって、聞き出すの?帝国軍情報局に身柄は拘束されてるのよ?」
ミサキ「本来なら部外者である貴女達を入れるわけにはいかないけど、私や深夏さんの知り合いってことで、特別に許すわねぇ」
深夏「本当に特別よ」
すみれ「ありがとうございます、ミサキさん、深夏さん」
アリス「ありがとうございますわ」
理「ご配慮、ありがとうございます」
ミサキ「拘束してる場所は、帝国軍情報局の本部じゃないわ。ここの地下に拘束してるのよぉ。それじゃあついてきて」
ミサキは、地下に行く通路の扉を開ける。どうやら地下に行く扉はパスワードになっていて、スラスラと番号を入れていく。番号が入力されると、扉は開く。
ミサキ「ここからは、階段で地下に降りるわ、気をつけてね」
そう言うと、ミサキは階段を降りて行った。その次に深夏が降りて行った。
理「じゃあ先に降りるね」
理はそう言うと階段を降りていく。すみれとアリスは
すみれ「行きましょうか」
アリス「そうね、行きましょう」
すみれとアリスもそう言うと地下に続く階段を降りて行った。