ーー1204・5・04・日本人移民街・鉄道憲兵隊詰所の地下。
ここは、以前日本人移民街の自警団があった建物の地下だ。
元々は自警団が牢屋として使っていた。今はゴールド・マウンテン帝国支部の幹部達が牢屋に収監されている。
帝国軍情報局の取り調べもここで行われた。あくまでも帝国政府と日本政府の共同の捜査をしているためである。
帝国支部の人間達の帝国での取り調べは今日で終わり、今日中に日本へ護送することになっていると、ミサキからすみれ達に説明があった。
ミサキがすみれ達のために少しだけ時間をくれたのだ。地下の牢屋は、古代帝国の牢屋その物の重苦しい雰囲気がある。そんな牢屋に入れられた帝国支部の幹部の3人が不貞腐れている。
そんな3人と、すみれ、アリス、理は対面することになる。
ミサキ「あんた達に彼女達が何か聞きたいそうよ」
多村「彼女達…?なんだお前ら?まだガキじゃねーか、ガキが何を俺達から聞くんだ?」
すみれが、格子越しに多村達を睨み付ける。背後には、うっすらとサンドリオンが出現している。
すみれ「貴方達には、聞きたいことが山ほどあるわ。時間が限られてるから単刀直入に言います。山田真奈美さんを知ってるわよね?」
山中「山田真奈美!?何故お前達が、彼女の名前を?って…お前…あの方と同じ能力を持ってるのか?」
アリス「あの方と同じ能力…あの方って誰?答えなさい!」
多村「山中さん、何をしゃべろうとしてるんですか。あの方はあの方さ。お前らには手も届かない方なのさ!」
今度は、理が会話の間に入る。ただ表情は怒ってるようだ。
理「あの方とは誰だ!答えろ!」
多村「はい、そうですかって答える気はねーんだよ!」
すみれ「言いなさい!言わないと…」
多村「言わないと、どうなるんだ?お嬢さん?」
すみれは、サンドリオンを呼び出し、多村を押さえ付ける。
多村「な、なんのつもりだ?お前!」
すみれ「しゃべらない貴方が問題だからよ…」
多村「……くっ、テメエ…捕虜虐待じゃねーか!」
アリス「捕虜虐待?わたし達は軍人じゃないから」
多村「くぅ……」
すると今まで黙っていた理が喋り出す。
理「あれだけの事をしておいて、自分達の仕打ちが捕虜虐待?彼女達が起こるのも無理ないよね。君達は、命ごいをしてきた人達もいたんじゃないのか?でも君達はそれを無視して、生体実験を繰り返した?違わないだろ?」
山中「…あれは…あの方から命じられてやっただけだ!私や回りは反対したんだよ!」
多村「何を言ってやがる?山中、お前も喜んで協力していたじゃないか!」
山中「…逆らえれば、命がいくらあっても足りない!多村、お前もわかるだろ!」
多村「ふっ、確かにな……。今さら何をしたところで、何になるかか……」
山中「お前達が知りたい情報とは、何だ?山田真奈美の事か?」
すみれ「そうね、山田真奈美さんのことを洗いざらい話してもらいます」
山中「わかった、その変わり…」
アリス「……取り引きね…わたし達は貴方達から聞いたことにはしない」
理「情状酌量の余地は無いとは思うけどね」
深夏「…まあ、良いでしょう。貴方達が十師族や獅童一派に風穴を開けれれば、良いのだから」
山中「わかった」
山中は、そう言うとペラペラと話し始めた。
山田真奈美を消せと命じたのは、獅童正義とゴールド・マウンテン社の社長である四道政孝。
ゴールド・マウンテン社は、社ぐるみで高校生達や一般人を拉致、帝国支部へ運び生体実験を繰り返していた。
その事に気がついた山田真奈美は、帝国支部を退職している。だが彼女は、帝国支部を告発しようと、本社に問い合わせてきたと。
しかし本社もグルだとわかり、どこかの新聞に告発しようと、自宅から成田に向かう途中のジャスティス通りで山田真奈美を自殺に見せかけて殺した。
山中と多村は、獅童正義の部下に命じられたままに命じられたままにやった。
実行班は、狂犬の旅団という新規の猟兵部隊。
山田真奈美の事故を見た目撃者は、記憶を消されて、カルバードの移民推進派に売り飛ばした。
目撃者はカルバード共和国のどこかの施設にいるだろう。
獅童正義と繋がりがある連中は、秀尽学園の校長、斑目一流斎、金城潤矢、その他、雪ノ下隆信、貴族派、帝国解放戦線、カルバード、反移民連合、赤い正座、西風の旅団、狂犬の旅団、その他……
クロスベルのハルトマンと帝国派議員や鴨志田は、塗り潰されている。
すみれは秀尽学園の校長がいた事にただ驚くことしかできなかった。アリスは、雪ノ下隆信の名前に反応しミサキは帝国の貴族派が関わっていることに確信を持ったのだった。
ーー1204・5・04・夕方・日本人移民街・鉄道憲兵隊詰所地下。
山中、多村達との会話が終わったすみれ達は、1階の会議室へ戻って来ていた。
すみれ達は、山中達からかなり重要な情報を得た。獅童正義、この人物がおそらくの黒幕。
すみれは、秀尽学園の校長が繋がっている。これが一番インパクトがあった。それと山田真奈美は、ゴールド・マウンテン帝国支部に勤務する前は、斑目一流斎の弟子だったと聞いている。だからすみれは、斑目とゴールド・マウンテン社は獅童正義と繋がりがあり、全てが手の平で踊らされていたってことになる。
アリスは、日本美術界の斑目一流斎や七草家を支えている雪ノ下の家の分家の雪ノ下隆信が繋がっていることに驚きがあった。
理は、獅童正義が世界中にパイプを持ち始めたことに危機感を抱いた。
ミサキは、貴族派が獅童正義一派と繋がりがあることに確信をした。
深夏は、もはや四葉家だけではどうにもならなくなることも考え、一条や十文字家との同盟も選択肢にいれるようになった。帝国の革新派との協力体制の強化も図るようにする。
すみれ「山田さんの依頼は、達成できたって考えた方が良いのかな?」
アリス「山田さんのお姉さん、真奈美さんがどうやって亡くなったのかは、わかったわね」
理「別に、依頼者から仇を取ってくれとか言われていないんだから、それで終わりだろうね」
すみれ「ええ、真奈美さんがゴールド・マウンテン社に入社してから、退職して亡くなるまではわかったわ。でも彼女は元々斑目の弟子だった。いわれのない盗作の罪を着せられて、破門になってるわ」
理「斑目一流斎、日本の美術界では知らない人間がいないとされる巨匠の1人。かのさゆりが一番の有名だね」
すみれ「山田真奈美さん弟さんの話では、弟子の創作アイデアを自分のモノにしてるって言っていた…」
アリス「それが本当なら、秀尽学園の鴨志田教諭なんか比べ物にならないほどの衝撃が世界中に響くことになるわね」
理「確かに」
ミサキ「でも獅童正義に繋がりを持ってる人物の1人でしょ、可能性は全く無いはずはないわ」
すみれ「ええ、そうですね」
ミサキ「引き続き、調査はしないと。ところですみれさん達は、これからどうするのかしらぁ?」
すみれ「今日はですか…もう夕方みたいだし、日本人移民街からパルムに戻って宿を取ります」
アリス「依頼の仕事で来てなかったら、帝国の旅行でもやってたかもね」
すみれ「まあ、私もしてたと思うかな」
ミサキ「日本から遥々帝国まで来て、お疲れ様、すみれさん、アリスさん、理さん」
すみれ達は、再び鉄道憲兵隊の車にて、パルムまで送ってもらうことになった。
ーー1204・5・04・ ・紡績町パルム・宿酒場(白い小道亭)にて。
すみれとアリスと理は、パルムの宿酒場(白い小道亭)に泊まることにした。
別に日本に急いで帰る必要もないし、ゴールデンウィーク最終日くらい楽しんでもいいよね的に決めたことだが。
宿酒場(白い小道亭)も先月のパルム騒乱にて少々破壊されたが、今では元通りになっている。
ただ所々に銃撃の痕が残っているが、それはいずれは名物になるかもしれない。
宿酒場(白い小道亭)にて、夜ご飯を食べてから、お風呂に入り、自室の部屋に戻っている。部屋は2部屋借りている。最初、3部屋借りようとしたが、アリスは2部屋で良いと断った。
パルムの街も夜の静寂に包まれていた。すみれもアリスも日本では経験できない夜の姿に驚きつつ、これからの事を考えていた。すみれもアリスもラフなスタイルで部屋にいた。
アリス「明日の夜までには、日本の成田まで着いてないといけないわね」
すみれ「そうね。6日から学校だしね。あの帝国支部の人達、今頃日本に向かってる途中よね」
アリス「そうね、明日の朝くらいには着くでしょう。日本のFLT社が作った高速護送挺だから」
すみれ「それにしても、山田真奈美の話から、こんなに話が広がるなんて思いもしなかった。獅童正義…とんでもない相手が相手か…」
アリス「怖くなったの、すみれ?」
すみれ「まさか、断然やる気が出てきたから」
アリス「……そう。わたしもすみれを手伝う事を決めてるから。1人で勝手な事はしないでよ」
すみれ「ふふっ、ありがとう、アリス」
アリス「相棒なんだから、当たり前でしょう」
すみれ「私こそ、よろしくね」
すみれとアリスは、パルムでゆっくりと夜を過ごすことになった。
一方、理はARCUSと誰かと話していた。話し相手は、アルフィン皇女殿下である。理のARCUSの向こうに映るアルフィンは、ラフな格好をしていて、胸元の谷間がよく見える姿をしている。
理「アルフィン、さっき話した通りだよ。君が思ってたとおりの2人だった」
アルフィン「理さんもそう思われたのですね。わたくしも精神世界で話せましたが、志はわたくしと同じようですわ」
理「アルフィンとすみれとは、魂の波長が同じように感じたけど、やはりそうなのかい?」
アルフィン「ええ、そうですわね。わたくしと違う世界から転生した“光井和也”ってことでしょうね」
理「なるほど。そういうことか」
アルフィン「そういうことですわ」
理「で、僕はこのまま、すみれ達と同行するけど、良いのかい?」
アルフィン「構いませんわ。そのために桐条美鶴さんに頼んで、貴方を呼んだのですから」
理「やはり美鶴先輩に頼んだのは、アルフィンだったんだね」
アルフィン「ふふっ、そうですわね。兄は兄で、姉は姉で独自の人脈のパイプを持ってらっしゃいます。わたくしもわたくしの人脈パイプを生かして、この激動の時代を乗り越えなければならないと思っていますわ」
理「ふっ、大した皇女殿下だよ、アルフィンは…いや君達兄妹は凄いよ」
アルフィン「お褒め頂いて光栄ですわ。ですが、理さんも世界のために戦われたのでしょう?」
理「まあ、そんなこともありましたね」
アルフィン「理さんも誇ってもよろしいかとわたくしは思いますよ」
理「誇るか…そんなことは考えたことなかったな…」
アルフィン「ふふっ、そうやって謙遜されるところが、今まで世界を救ってこられた方々はそんな感じですから」
何故、アルフィンと理がこんなに親しげに話してるのかと言うと、一度彼女が日本をお忍びで訪れている。その時に理達、特別課外活動部と知り合っている。もちろん桐条美鶴経由で知り合っているが。その後も美鶴や理、明彦とは、付き合いが続いている。
アルフィン「それでは、通信を切りますわね。わたくしのお付きの方がお見えになられましたし」
理「うん、わかった。ではまた」
アルフィン「ええ、いずれまた」
理は、ARCUSの通信を切った。そして部屋の窓を開けてから、パルムの星空を眺めながら
理「アルフィンには、報告は済ませたし…後は…寝るだけなんだけど…このまま果たして無事に日本に帰れるかな…」
理は一筋の不安を感じ取っていた。日本人移民街の騒動ではない。セントアークの方から感じ取ったのだ。
理「白亜の旧都セントアークか…。一応行って見るかな」
理は、セントアークの方を見ながら窓を締める。そしてベッドに入り、眠りに付いたのだった。