東方 過去と未来のシンフォニア   作:ももんがぴょん

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11話 それ以上でもそれ以下でもない

 僕と永琳は小さい頃よく遊んだ公園に来ている。白衣姿の男女が公園のベンチに座っている光景はなかなかシュールだ。

 

「ねえ永琳。僕と結婚してくれないかい?」

 

 沈黙が続く中、僕は話を切り出す。妖怪が街に入ってきて暴れた事件。あの事件以来、何故か人々は街の守護神と僕を呼ぶようになった。いや、十中八九僕と共にいた文の所為だろう。彼女が新聞であの事件の時に僕がしていた事などを書いたのだろう。兎に角、どんな形であれ僕はこの街の人々に受け入れてもらえたと考えた。そして叔父さんを殺める時に僕は無意識のうちに永琳の事を妻と呼んでしまった。だからこうして永琳にプロポーズをする事にしたのだった。

 

「そうねぇ……」

 

 永琳はニヤニヤしながら僕を見る。その顔は子供がイタズラを思いついた時のそれに近かった。

 

「まずは私のお父さんとお母さんに報告してちょうだい。そして、私は夜中の0時にある場所にいるから白衣なんかじゃ無くてちゃんとした格好でその場所に来てちょうだい」

 

 そう言い残して永琳はベンチから立ち上がり、歩いて公園から出ていってしまう。一体永琳は何が目的でこんな事を言ったのかは分からない。けれど今の僕がしなければいけない事は決まっていた。

 

 

 

 

「永琳と結婚したい?全然良いわよ」

 

 一度家に帰り、リビングでコーヒーを飲んでいた柚希さんに結婚の話をしたらあっさりと了解をもらえた。

 

「せっかくだから菊花……ふーやのお母さんの話をちょっとしてあげる」

 

「母さんの?」

 

 僕は椅子に座ってテーブルに手を乗せて話を聞く。

 

「菊花はふーやの目の前では何時も明るく振舞っていたけど、一人の時とか私といる時は結構弱音を吐いていたのよ」

 

「僕の記憶にある母さんからは全く想像できないや」

 

 僕は頭をかきながら笑っているが、母さんが死ぬまで周りの目線など全く気にしないで生きてきた為、母さんの辛さを理解できなかった事を今後悔している。

 

「ふーやには周りからの目線なんか気にしないで強く育って欲しい。その為に菊花はふーやの前では絶対に挫けなかったのよ」

 

「……そうですか。僕は母さんの事を何も分かってあげられなかったのですね」

 

 机の上に置いている手に自然と力が入る。とても自分が許せなくて仕方が無いのだ。

 

「菊花はふーやに理解してもらう前に死んじゃったから仕方が無いと言ってしまえば仕方が無いのよ。あまり自分を攻めないで」

 

 柚希さんは僕の手の上に優しく自分の手を添える。それだけで力は抜けていって僕は落ち着くことができた。

 

「菊花が最後に言った言葉を今教えてあげる」

 

 僕の手に添えてある柚希さんの手に少し力が入るのを僕は感じた。

 

「貴方のそばにいる人はとっても寂しがり屋さん。だから絶対に離さないであげて……って言ったのよ」

 

 母さんは自分の身よりも僕の事を優先して考えてくれていた。それが分かっただけで涙が出そうになる。

 

「私は菊花が最後に言った言葉をふーやは実行してくれるのなら結婚を認めます」

 

 最初に結婚の了解は得ているが、もしかしたらただの念押しかもしれない。結婚するのなら自分の娘を守って欲しいと言うことの。

 

「もちろん僕は永琳を離すつもりはありません。例えこの身が滅びようとも守ります」

 

「死んじゃったら永琳が悲しむからほどほどにね」

 

 苦笑いをする柚希さん……いや、僕のもう一人の母さんに最高の笑顔を見せる。

 

「じゃあ×××さんにも報告してくるね母さん」

 

 僕は椅子から立ち上がってリビングから出る。背中から母さんの嗚咽が聞こえるが、そっとしておこう。

 

 

 

 

「結婚を認める代わりにたった一つだけ飲んで欲しい条件があるんだ」

 

 白衣姿でパソコンとお話していた×××さんに結婚の事を報告すると、人差し指を立てた右手を僕の顔に突きつけてそう言った。

 

「……永琳と結婚する為ならどんな条件だって飲みますよ」

 

 僕は唾を飲み込み意を決して口を開く。僕は永琳の作る新薬の実験台になっているので、人体改造じゃ無ければいいやとすら思っていた。

 

「私が出す条件。それは×××さんじゃ無くてお父さんと呼ぶことだよ」

 

「……これで良いかな父さん」

 

 僕は心の中でずっこけていたが始めて父さんと呼ぶ。父さん。その一言を聞いた父さんは何度も頷いている。

 

「永琳との結婚を認めるよ文夜」

 

 そう言って父さんは僕の髪をわしゃわしゃとかき乱す。産まれた時から一度もされた事が無く、何と無く憧れていた夢。それを結婚の報告をしに来た時に夢が叶うとは夢にも思ってもいなかった。

 

「ありがとう父さん……!!」

 

 涙を必死に堪えて逃げるように父さんの部屋から出る。僕は15歳の頃から永琳の事を愛してきたつもりだった。けれど僕は愛を知らないのに愛を知ったつもりであった。初めて自分は愛されていると理解して怖くなった。自分に注がれた愛情以上のものを永琳に注ぐことができるのか?と。

 僕は気がつくと庭にある大きな木の下にいた。僕は木に寄りかかってそのまま座る。小さい頃から大きかったこの木。今でも昔と変わらずに暖かい。僕はその気持ち良さを思い出し、そして感じながら眠りについてしまっていた。

 

 

 

 

 何故私は文夜にあんな事を言ったのかわからない。自分の部屋の窓から月を見上げて思い返す。もしかしたらちっともロマンチックでは無いシチュエーションが嫌だったのかもしれない。私は白衣を脱ぎ、お母さんにもらった黒いワンピースを着る。その後、何時も愛用している帽子を頭に乗せて鏡の前に立つ。普段白衣しか着ていない私がおしゃれをしているのは何か違和感を覚える。そう思いながら腰まである長い後ろ髪を三つ編みに結んでいく。結び終わると、桃色のリップを唇に塗る。しかし慣れていないせいか綺麗に塗ることができない。これ以上やったところで余計に汚くなると思ったので塗るのをやめてリップをしまう。必死におめかしをした私を見て文夜は褒めてくれるだろうか?可愛いと言ってくれるだろうか?文夜がどんな反応をしてくれるのかを想像しながら部屋を出て、私が文夜を待つ予定の場所へ向かう。そこは八意邸の庭にある大きな木の下。幼い頃に良く遊んだ公園に居たせいか、文夜に来て欲しい場所を考えた時に二人でよく昼寝をした木の下が頭の中を横切ったのだ。

 私は左手首に巻く電子端末に表示されている現在の時刻を確認しながら歩く。少し約束の時間よりも早いかな、と思いながら庭に出ると私は不意に足を止める。私の目の前には白衣姿で3本の尻尾を揺らしながら気持ちよさそうに約束の木の下で眠っている文夜の姿があった。私はその姿を見ていると自然に身体が動く。私は文夜の側まで寄り、その場に腰を下ろすと文夜の尻尾に抱き着く。

 

「……くすぐったいからいきなりはやめてよ永琳」

 

「ちょっとくらい良いじゃない」

 

 眠そうにゆっくりと目を開けている文夜の尻尾に私は顔を埋める。昔と違い白銀となった尻尾に。

 

「もうやめてって」

 

 苦笑いをしながら文夜は私の帽子を取って頭を撫でる。

 

「じゃあやめるわよ?」

 

 私はゆっくり尻尾から顔を離して微笑みながら言う。昔にもこんな事をしたな、と思うと自然と微笑んでしまうのだ。

 

「やめても良いよ?けど……僕は君を絶対に離さない。僕は僕なりに君に愛情を注ぐよ」

 

「つまり……文夜は何て言いたいのよ」

 

 突然文夜は私に抱き付いて耳元で囁く。私は今にも泣き出しそうな顔を隠すように俯く。すると文夜はより一層きつく抱きしめる。

 

「雪崩のように……永遠に君に愛情を注ごう。僕と結婚してくれないかな?」

 

「答えはイエスよ。あなたは何年私を待たせるのよ……」

 

「いやービッグニュースですよー!」

 

 私も文夜のように強く抱きしめ、静かに涙を流した。すると二人しかいない筈の庭に第三者の声が響く。声がする方を見るとそこにはカメラを片手にニコニコしている新聞記者がいた。

 

「文は何をやっているの……」

 

 文夜は私を離して呆れた顔をしながら新聞記者に話しかける。私はムードをぶち壊された事に対してイライラしている。

 

「美味しいネタの匂いがしたので写真を撮っていました!」

 

 新聞記者はピースをしながら言うので私は我慢をするのを止めることにした。

 

「文夜?アヴァランチを貸してちょうだい」

 

「え?いいけど何に使うの?」

 

 文夜が左手を突き出すと文夜の前に何処からかアヴァランチが飛来してくる。文夜はそれを手に取ると私に差し出す。これも妖力の使い方なのかなどと思いながら私は両手でそれを持ち、構える。

 

「あややや!格好良いですよー!」

 

 カメラで私の写真を撮る新聞記者に向かって走る。ある程度まで近づくと私は剣を振り下ろす。新聞記者は後ろにジャンプして避ける。

 

「おおー怖い怖い……殺人は犯罪ですよー?」

 

「お金で幾らでももみ消せるわよ。とりあえず死んでちょうだい」

 

 私は空を飛びながら逃げる新聞記者を追いかける。定期的に振り向いては写真を撮るので余計に腹が立つ。私達の鬼ごっこは朝になるまで続いていた。

 

 

 

 

「隊長隊長!すっごい数の人が来てますよ!」

 

 今日は僕と永琳の結婚式だ。僕は新郎待機室で軍の正装を着て待っていると咲奈が部屋に入ってきた。

 

「多分射命丸文さんのせいですね」

 

「あれ?咲奈って文の事を知っているの?」

 

「い、いやあれですよ!私、文々。新聞を読んでますから!」

 

 咲奈はギクリとした顔を一瞬する。しかし文々。新聞はこの街でも人気がある。だから文の名前くらい知ってても普通だなと思ったが、なぜ一瞬ギクリとしたのかが分からない。

 

「そうだ!隊長はなんでタキシードじゃなくてその服を着ているのですか?」

 

「ああそれね。これのせいだよ」

 

 僕は咲奈に背を向けて、3本の尻尾を動かす。

 

「これがどうしたの?」

 

 咲奈は勝手に尻尾に抱き着く。しかも敬語っぽいものからタメ口になっている。

 

「これが邪魔でタキシード着れないんだ……絶望的に似合わないし」

 

「尻尾が邪魔になる服装なんかいりません!」

 

 しょんぼりしながら言う僕に対して咲奈は鼻息を荒くして言う。僕はここで彼女が僕のファンクラブの創立者である事を思い出した。彼女に尻尾を見せなければ良かったなどと思いながら左手を額に添えていると、一人の係員が部屋に入ってきた

 

「準備OKですか?」

 

「僕はOKだよ」

 

 左手の人差し指と親指で輪っかを作り、他の指を立たせたものを見せて、係員と共に部屋を出る。尻尾に抱きついている咲奈に腕で払う動作をすると満足そうな笑顔を見せて何処かへ行ってしまった。式場の扉を目の前に立ち、初めて緊張する。大勢の人の前で何かをする、と言う事が初めてのような気がする。緊張のあまり転んでしまったりしないだろうか?など不安な事がたくさんだ。

 

『それでは新郎の入場です』

 

 中からアナウンスが聞こえると扉が開く。僕は盛大な拍手で迎えられる。周りを見渡すと皆笑顔である事に気がついた。軽蔑の眼差しなど一切無い。その事に感動してしまっている。見渡していると正装の静琉と目が合った。思わず手を振ろうとしてしまったが早く行けとジェスチャーで言われたので、神父の元へ歩いていく。神父の前に立ち永琳が来るのを待つ。

 

『次に新婦の入場です』

 

 僕は一瞬チラッと後ろを見ると白いウエディングドレスに身を包む永琳が見えた。永琳は拍手で迎えられながらゆっくりと僕の横へ歩いて向かう。永琳は僕の横に立つと、ウインクをした。これから始まるのだ。僕の……いや、僕達の結婚式が。

 

 

 

 

「この感じ……またか……」

 

 私はベレー帽を片手に街を歩く。私の身体の欠点。それは生理がある事だ。子を残すつもりも人間であるつもりも無いのにどうしても消すことができない現象。この期間は本当にちょっとした事でもイライラしてしまう。私は捨ててある新聞を拾って読む。そして空を見上げて現在の時刻を確認する。

 

「今日って月夜見と八意の結婚式なんだ」

 

 私は興味が湧いたので式場へ向かう。私が式場に着いた頃に丁度始まったようだ。閉まっている扉から静かに入る。適当に席に着いて2人を見る。

 

「……なぜこんなにも不愉快なのかしら」

 

 幸せそうな2人の顔を見ているととても不愉快なのだ。身体の奥底から黒い物が湧き上がるのを感じる。

 

「汝、美音文夜は、この女、八意永琳を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

 神父は誓いの言葉を綴る。私はこれが神……つまり僕に対して誓いを立てるものだと思い出す。僕は神力を文夜に向かって放つ。すると彼は顔を顰めて頭を抑える。それも当然だ。妖怪にとって神力は毒だから。

 

「……はい誓います」

 

 彼は必死に笑顔を作って誓いを立てる。永琳は心配そうにしてはいるが、口には出さない。この式を台無しにしたくないのだろう。

 

「汝、八意永琳は、この男、美音文夜を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「はい誓います」

 

 次に永琳が誓いを立てる。永琳は彼だけを見ている。そう思うだけでもイライラする。僕は先ほどよりも濃い神力を放つ。彼は周りが見ても具合が悪そうにふらつく。それでも彼は立ち続ける。僕は彼が口を小さく動かしている事に気がついた。どうやら今起こっている事態は誰かによる攻撃とでも考えているのだろう。神父は誓いの言葉を続ける。

 

「………恵みによって成長し、実り豊かな生活を送ることができますように。わたしたちの主、月夜見によって」

 

「ふふ!これで私達は正式に夫婦になれたのね!」

 

 永琳は嬉しそうに彼に声をかけるが、彼はまだブツブツ言っている。そんな彼に対して永琳は怒った表情をして怒鳴る。

 

「さっきからどうしたのよ!いきなり顔を顰めたりブツブツ言ったりして!」

 

 会場の中にいる人々は騒めく。結婚式で喧嘩か?と。

 

「……もしかして私と結婚したことを後悔しているの?お願いだから私の前からいなくならないで!何でも……何でもするからいなくならないで!」

 

 ヒートアップしてしまった永琳はパニック状態になってしまった。今にも泣きそうな目で彼女は彼に訴える。

 

「大丈夫。言ったでしょ?僕は絶対に永琳を離さない。神にだって……」

 

 彼がそれ以上言葉を続ける前に僕は神力を放つ。永琳を抱き締めようとした彼はそのまま倒れる。僕はそれを見て会場から立ち去る為に立ち上がる。

 

「永琳は僕の物だ……穢れた文夜の物じゃない」

 

 そう言い残して扉を開けて静かに外に出る。式場からある程度はなれると私はうずくまる。

 

「……嫉妬?私は月夜見に対して嫉妬をしていたの?」

 

 少しずつ冷静になっていくと頭痛が走る。先ほどまでの私は何だ?なぜ自分の事を僕と呼んだ?自分の存在が何なのか分からなくなる。

 

「私は月夜見……違う蓮子よ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 自分に言い聞かせるように言って私は立ち上がって歩き始める。不可解な事も多かったが私は今回大きな収穫を得ていた。それは八意が思ってた以上に月夜見に依存していた事だ。これを利用すれば彼女を……

ある程度の方針が決まった私は空に浮かぶ月を見る

 

 

 

 

 僕は結婚式で倒れてから夢を見た。その夢は少し不思議なものだった。金髪で尻尾の無い僕と永琳の結婚式と言う内容だったのだ。とても夢だとは思えない程に鮮明な夢。けれどこれが何を意味をしていたのかは分からない。何時ものベッドの上で夢の内容を考えていると部屋に永琳が入ってきた。何時も通りの白衣姿なので少し残念であった。

 

「具合はどう……?」

 

 永琳は少しビクビクしている感じがする。取り乱した姿を見られたことを気にしているのだろうか?

 

「結婚式の日に実は熱があったんだよね」

 

「それなら言ってくれたって良かったじゃない」

 

 僕はすぐに分かるような嘘を吐く。しかし永琳は胸を撫で下ろして僕に抱き付いていた。

 

「菊花さんの時みたいにまた私は何もできないで泣いている事しかできないって思ったんだから」

 

 永琳の身体は震えていることに僕は気がついた。立派な大人になったと思っていた部分もあったが、まだ僕の目の前にいる妻は昔と変わらず弱いままなのだ。

 

「何度でも言うよ。僕は永琳を離さない。絶対にいなくならないから」

 

 僕は結婚式の時にできなかったキスをした。折角の結婚式が台無しになってしまったが、僕はこの出来事に感謝をしている。良い意味でも悪い意味でも記憶に残る結婚式であった。

 




こんばんは!

親に注がれた愛を理解すると少し不安になったりしませんか?そんなことを考えながらプロポーズのところを書いていました!
人を愛すのも愛されるのも難しいなって書いていると思いますね

では……次回も見てください!
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