東方 過去と未来のシンフォニア   作:ももんがぴょん

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14話 「流石の私でも苦笑いをしちゃうよ」

「今までありがとうございました」

 

「ここに来たのが十年くらい前なんて信じられないわねー」

 

 八意邸の玄関でリュックサックを背負った依姫は僕と永琳に頭を下げている。豊姫は一足先に玄関から出て八意邸を眺める。

 

「姉さん!自分の荷物くらい持ってくださいよ!」

 

 依姫は豊姫の荷物が入ったスポーツバッグを手に持ちながら外に出る。豊姫はごめんごめん、と笑いながら言うのを見て僕の横にいる永琳はため息を吐く。

 

「豊姫が二十歳なんて信じられないわね」

 

「脳筋だった二十歳の僕よりはマシだと思うよ?」

 

「あなたは男前になって私のところへ帰ってきてくれたのだから良いのよ」

 

 冗談で言ったつもりであったが、永琳の意外な発言に目を大きくしてしまう。永琳は僕のこんな反応を期待していたのかクスクス笑っている。

 

「姉さんはあれですがお父さん達もあれですね」

 

 やれやれと言いながら依姫は豊姫の横に立つ。

 

「そうだ。お金だけど結構前に作った銀行のカードに振り込んでおいたからね」

 

「ありがとねー」

 

 豊姫はニコニコしながら僕に手を振る。

 僕と永琳は最後の教育として豊姫と依姫を独立させようと考えたのだ。僕達の教えだけでは変な偏見が生まれてしまうかもしれないと言うのもあるが、何よりそろそろ自分達の子供が欲しいと言う自分勝手な理由もある。

 

「いろいろ言いたいことはあるけど……見送る側の私達はこれだけ言わせてもらうわね」

 

 永琳は僕の目を見る。僕が頷くと永琳は口を開けるので僕はタイミングを合わせて言う。昨晩寝ずに考えた二人への激励を。

 

「「行ってらっしゃい。夕飯までには帰ってきなさい」」

 

 いろいろな想いを込めたこのセリフ。どうやら二人に届いてくれたようで二人とも涙目になっている。

 

「行ってくるわね。お父さん!お母さん!」

 

 豊姫はそう言って歩き始める。依姫は慌てて頭を下げてから豊姫を追いかける。二人分の荷物を持ちながら。

 

「……行っちゃったわね」

 

「大丈夫。すぐに騒がしくなるよ」

 

 寂しそうに二人の背中を見送った後に八意邸を見る永琳の腰に手を回すとと永琳は顔を赤くしながら馬鹿、と呟く。

 

「そういえば……もう行くの?」

 

 まだほんのり顔が赤い永琳は思い出したように質問する。僕は首を横に振って家の中に入る。

 

「こんなにも気分が良い日に気分が悪くなるかもしれない事をするのはごめんだよ」

 

「それもそうね」

 

 僕はまず依姫と豊姫が使ってた部屋へ向かう。また彼女達がこの家に遊びに来た時に泊まる部屋が無いのも何か悲しいので0に戻すのではなく軽く掃除を始める。そもそも空き部屋は結構あるので、たった二部屋くらい使用者がいない女の子部屋があっても何も問題は無いのだ。

 

 

 

 

「もう行くの?」

 

「うん。早めに終わらせたいしね」

 

 翌朝、僕は玄関で永琳が持ってきてくれた黒のジャケットを羽織り靴を履く。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 

「何時ものあれは持たないの?」

 

 玄関から出ようとすると永琳は僕の肩を掴んでそれを止める。振り返ってみると永琳は首を傾げていた。僕は腰に手を当てて説明する。

 

「あれ持ってると誰でも僕が仕事モードって分かっちゃうでしょ?」

 

「確かに……それもそうね」

 

 永琳は腕をポンと叩いて納得する。永琳はなら……と呟くと、突然僕の頬にキスをする。

 

「あの剣を持っていかない代わりよ?」

 

「ありがとね。じゃあいってきます」

 

「気をつけて行ってらっしゃい」

 

 少し気分が浮かれながら僕は手を振った後に目的の場所へ向かう。僕はある程度歩くと電子端末を操作して一通のメールを送る。本当はこの段階で既にチェックメイトなのだが、僕はしなくても良い余計な事をしに行く。

 さらに数分歩くと、僕は目的地に着く。目的地である八意邸の数倍大きい豪邸の呼び鈴を鳴らすと女性の使用人が出迎えてくれた。自分の要件を話すと彼女に客室に通される。飲み物は何が良いかと聞かれたのでてきとうにホットミルクと答えて僕は豪華なソファに座る。使用人が部屋から出ると僕は部屋を見渡す。様々な本が敷き詰められた本棚を見ていると幾つか写真立てがある事に気がついた。立ち上がってそれを見ると、幼い依姫の姿が写っていた。他の写真を見ると、どの写真にも豊姫は写っていなく依姫も笑っていない。

 

「おお文夜さんではないですか!」

 

 部屋の扉が開くと今の世の中では珍しい中年太りした金髪の男性が現れる。僕はソファに座ると彼は僕の向かいにあるソファに座る。

 

「先日、貴方の娘の依姫と豊姫が僕達の教育方針で自立したのでその報告をしに来たのです」

 

 僕は目の前にあるテーブルに手を乗せて言うと彼は愉快そうに笑う。

 

「はっはっは!貴方方のおかげで娘達は立派になられたようで!」

 

 それを聞いて僕の中堪忍袋が切れたのを感じた。僕は立ち上がり目を細めて質問する。

 

「さぞかしお喜びのようですね。あんな危険な物を説明無しでプレゼントする人と同一人物だとは思えないですよ」

 

「い、いきなりなんだね。そんなに殺気だって」

 

 彼は少し怯えているのが分かる。いや、内心では焦っていると言う方が正しいだろう。

 

「なぜ貴方は五年前、豊姫ちゃんに送るプレゼントの説明を一切しなかったのですか?あっ良いですよ喋らなくて。これから僕の勝手な妄想を言いますから」

 

 僕は彼が言い訳を始める前に僕は早口でまくし立てる。

 

「貴方は豊姫ちゃんの存在が気に入らなかったのでは無いですか?ぶっちゃけてしまえば僕にだって分かりましたよ。依姫ちゃんと比べて豊姫ちゃんには分かりやすい才能が無いって。だから事故に見せかけて豊姫ちゃんをあの扇子で殺してあわよくば半妖である僕に全ての罪をなすりつけて僕を社会的に殺そうとした。違う?」

 

 ただ相手に反論の隙を与えない程僕の考えを放つ。彼は何を悟ったのか目を閉じて上を向きため息を吐く。そしてまた僕に目線を合わせる時には先ほどまでの温和かな感じでは無く、鋭い目で獲物を捉えるかのような視線を僕に向ける。

 

「……だからなんだ?」

 

「は?」

 

 予想の斜め上を行く回答に思わずそんな声を出してしまう。

 

「こちらの不手際で説明を書いた紙を同梱されていなかっただけだよ」

 

「貴方は今更そんな事を言うの……?お願いですから正直に言ってくださいよ……」

 

 僕は哀れみを込めた目で見ると彼は怒りの表情に変えてポケットから拳銃を出し、僕に向ける。

 

「貴様みたいな不完全な存在が私をそのような目で見るな!」

 

 そう叫んで彼は僕の眉間に弾を撃つと僕は後ろに倒れる。それを見て彼は部屋を後にしようとする。

 

「ちっ……つい感情的になってしまったか」

 

「そうやって何人もの人を殺めてきたのですね貴方は……」

 

 彼は僕の声に驚いて振り返ると一瞬悲鳴を上げる。それもその筈だ。殺したと思った男が額から血を流しながらフラフラと立ち上がっているのだから。

 

「な、なぜ死んで無い!なぜ死なない!」

 

 彼は僕の身体に弾丸を撃ち込んで行く。しかし僕は摩擦を操って当たる寸前で弾丸を停止させているので僕の身体まで届かない。

 

「ふふふ……そうかそう言うことか」

 

 彼はいきなり不敵に笑い始める。僕は彼が次に何をするのかを予想して腰を低くする。

 

「これは夢だ!死人が動き始めるなどありえん!完璧な私が失敗するはずが無い!」

 

 彼は自分の頭に手に持つ拳銃を突き付ける。僕は急いで彼の足元の摩擦を奪い、妖力で彼の手首に巻きつくように縄を作りそれを引っ張る。彼は引き金を引く前にバランスを崩し転び、頭をテーブルにぶつける。

 

「……死んでないよね?」

 

 ピクリとも動かなくなった彼に近づいて首元を触る。脈はあるようなのでどうやら死んではいないようだ。

 

「……貴方が出来損ないだと思っている豊姫ちゃんは依姫ちゃんより空気を読むのがうまくて観察力がとても高いんだ。まさにムードメーカーみたいな女の子だよ」

 

 気絶している彼に向かって苦笑いをしながら語るが返事は何も返ってはこない。しかし父親であるこの人物に伝える事はできた。僕の自己満足はこれで終わりだ。数分後、何故か咲奈を先頭に警察がこの家に突入してきた。僕がいるとは思ってはいなかったのか彼女は僕を見た瞬間に甲高い声で悲鳴を上げる。僕は騒ぎ始めた彼女を放っておいて別の男性に後の処理を任せて八意邸へと向かう。

 僕は五年前から綿月家の頭首の悪事を調べていた。普通の人間ならば娘を殺すなどとは考えないだろうと思い調べてみたら真っ黒であったと言うわけだ。その証拠をひたすら集め、先程その証拠を軍の上層部に提出したのだ。どうせすぐに金の力で釈放されるとは思うが今はこれで良い。

 

 

 

 

「そういえば久しぶりに家に帰りますね姉さん」

 

 私と依姫は綿月邸へ向かっている。お父さんが一応お父様に私達が自立すると伝えておいてくれるようだが、自分の口からも伝えたいと依姫が言うので一緒に来ているのだ。

 

「ほーら久しぶりのマイホーム……え?」

 

 私は目を見開く。何故なら自分の家の前に沢山のパトカーがあったからである。

 

「……お父さん?」

 

 ふとお父さんの姿が頭を横切る。私は昨日のお父さんを思い出す。笑顔ではあったが少し怒気を含んでいたような……

 

「ちょっと何があったか聞いてきますね」

 

私は考え事をしていると、依姫は一人の警察に話を聞きに行った。しばらくすると依姫は暗い顔で豊姫の元へと戻ってきた。

 

「一体何があったの依姫?」

 

「私達の父が……捕まったそうです……」

 

 依姫は言葉を詰まらせて言いにくそうに言った。私はこの時にお父さんがやったのだと確信した。あの時に話していた内容を聞いているのなら自然と導き出せる答えだ。さてどうするか、と考えていると二人の男の警察官が私達の元にやってきた。

 

「……なんでしょうか?」

 

「もしかして綿月依姫さんですか?」

 

 依姫は不安な表情を浮かべて尋ねると、男性は警戒心を解くためかにっこり笑い話しかける。

 

「はい。そうですけど何用でしょうか?」

 

「ちょっと話を聞きたいのでご同行をお願いしたいのですが……」

 

 それを聞いて依姫は困ったと言いたげな顔を私に向ける。姉として人肌脱ぐかと思い、私は一歩踏み出す。

 

「私の名前は綿月豊姫。綿月家の長女です。この子の代わりに私が同行致します」

 

 そう言うと二人は困り出す。恐らく私のデータが余り無かったのだろう。例えば写真が。

 

「ちょっと確認してきますね」

 

 一人の男性はポニーテールの女性に話を聞きに行く。私は依姫を見ると、依姫は私に頭を下げる。

 

「ごめんなさい……私が不甲斐ないばかりに……」

 

「大丈夫よ。これでも私はお姉さんなんだから!」

 

 それを聞いた依姫はキョトンとする。数秒もすると依姫は笑顔になって嬉しそうに頷く。私はそんな可愛い妹の頭を優しく撫でる。しばらくすると確認が取れたのか男性は戻ってきた。私は依姫に手を振ってから二人について行く。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 八意邸に着くとリビングから永琳が走ってくる音が聞こえる。

 

「おかえりなさい……ってどうしたのよそれ!」

 

 永琳は僕の顔を指差す。何の事なのか分からずに額を触るとぬるりとした感触がする。指を見ると真っ赤に染まっていた。

 

「あーこれ撃たれたんだよさっき」

 

 余り痛みが無い為に血が出ていることを忘れていたのだ。まさかこれを見て咲奈は騒ぎ始めたのだろうか?

 

「はぁ……妖怪の身体って銃弾をまともに食らっても大丈夫な程頑丈なんて呆れるわね」

 

「いや、僕の身体自体は人間と変わらないよ?」

 

 永琳は僕が何を言っているのか分かっていないのか首を傾げている。

 

「もしかして永琳って額で銃弾を受け止めたと思っていたりする?」

 

 永琳は首を縦に振る。認識に誤解があった為に話が噛み合っていなかった訳だ。

 

「いきなり撃たれたから避けた時に銃弾がギリギリ皮を掠っちゃっただけだよこれは」

 

「それでも避けるなんて普通の人間じゃできないわよ」

 

「僕は半妖だよ?所々常識が通用しないのは仕方ないと思うよ」

 

 少し意地悪をしたくなったのでニヤニヤしながら言うと永琳は少し悔しかったのか僕の脛を蹴る。

 

「まあ何はともあれ……お疲れ様あなた」

 

「今回の件はただの自己満足だよ。ただいま永琳」

 

 永琳は少し痛そうにしていたが、すぐににっこりと笑うので僕達は玄関でキスをする。

 その後、早めの夕飯を取り久しぶりに二人だけでゆっくり過ごした一日になる筈であったが……

 

「ねえあなた。意識がぶっ飛んじゃう薬ができたのだけど、使ってみない?」

 

 夕飯を食べていると永琳は白衣のポケットから二つの小瓶をテーブルの上に出す。

 

「またすごいのを作ったね……どんな用途があるの?」

 

 僕は瓶を一つ手に取って質問する。永琳はとりあえず飲んでみてと言うが、食事中と言う訳で今は断った。食事が終わった後、お風呂に入る準備をする為に自室へ戻る時も永琳はアヒルの子のように僕についてくる。

 

「分かったよ……今飲むよ」

 

 自室のベッドに座ってそう言うと永琳は嬉しそうに笑う。しかし意識がぶっ飛ぶとは気絶するという事なのだろうか?僕は瓶の蓋を開けて一気に飲む。

 

「……あれ?何とも無いよ?」

 

 薬を飲んで一分程待ったが特に身体に変化は無い。しかしそう思った瞬間、身体の異変に気が付く。

 

「どうやら効果が出てきたようね」

 

 永琳は僕の身体の異変に気が付くと、永琳も瓶に入った薬を飲み白衣を脱ぎ捨てる。

 

「どう?身体が熱いでしょ?」

 

 朦朧として行く意識の中で永琳の声が聞こえる。永琳はフラフラしている僕の白衣を脱がして抱きつく。

 

「そろそろ理性がぶっ飛ぶ頃合いね。子供の名前……考えておいてちょうだい」

 

 

 

 

「貴女ってこんな経緯でできちゃったんだ……流石の私でも苦笑いをしちゃうよ」

 

 左手でベレー帽が風で飛ばされないように押さえながら右手に持つ懐中時計を見る。

 

「持ち主が産まれてくる事が嬉しいの?」

 

 時計にそう問い掛けると返事をするかのように力が強くなるのを感じる。

 

「でもごめんなさい。またすぐにいなくなっちゃうのよ」

 

 私は懐中時計をポケットにしまう。壁から街を見渡して私は考える。

 

「なぜ姫はまだ産まれていないのかしら?あの二人と同時期に月夜見の弟子になっている筈なのに……」

 

 左手を顎に添えながら考えるが全く思いつかない。これ以上考えても仕方がないので私は思考を一旦停止させる。

 

「それにしても後百年でこの街からおさらばなのね……歴史に残っていない平成の東京のような世界と」

 

 私は名残惜しい気持ちがあるが、自分の成さねばならない事の為にやらねばならない。それに私がやらなくても結局月夜見が何らかの方法でやってみせてしまう。

 

「私が歪ませた世界……一体何色になるのかしら?」

 

 押さえているものが無くなったベレー帽は風に乗って飛んでいく。私は左手をまっすぐ帽子が飛んでいく方向へ伸ばして何かを掴む動作をすると、帽子は何かに掴まれるように動きを止める。

 

「……やっと神力の形をイメージできた」

 

 私は何も持っていない左手で帽子を被る動作をすると宙に浮く帽子が私の頭に乗っかる。

 

「月夜見……どうやら私と貴方は同じタイプのようだよ?」

 

 ベルトで止めてある鞘から劔を抜き何も無い空間を横一閃する。私は月を見上げてニヤリと頬を歪ませる。

 

「同じ月の神として一戦交えたいよ……どっちが永琳のパートナーとして相応しいのかも決めたいしね」

 

 私は激しい頭痛に襲われて膝をついて頭を押さえる。もう私には蓮子としての自分が無くなってきている。いや、蓮子としての私を月夜見としての私が侵食しているのかもしれない。

 

「……私は月夜見。いや……月夜見蓮子。それが私の新しい名前よ」

 

 新しい自分の名前をつける事で私の名前を忘れないようにする。一度でも私を見失ってしまえばもうそれは私では無いような気がするから。

 




こんばんは!
少しずつ話のペースを早めて行っています!
そして以前は全く触れなかった月夜見……一体宇佐見蓮子とどんな関係があるのか想像してもらえると嬉しいです!

では、次回も見てください!
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