「気分はどう?」
「ん。今日は特に調子が良いわね」
僕は即席で作ったグラタンとスプーンが乗ったトレーを持って永琳の部屋に入る。永琳はベッドの上で身体だけを起こして笑顔を僕に向ける。
「いただきます」
永琳は太ももの上にトレーを置いてスプーンでグラタンを食べ始める。
「んー美味しい!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
美味しそうに頬張る永琳の姿を見ながら僕は妖力でパイプ椅子を作って、それに座る。
「あなたってここ数ヶ月で一気に料理が上手くなったわよね」
「妊婦さんに家事をやらせるとかしたくないしね。それにどうせ作ってあげるなら美味しい物を、ってね」
永琳が妊娠してから家事は全て僕がやっている。そこで最大の壁となったのが料理であった。どうすればいいのか考えた結果、母さんに教わる事にした。母さんから厳しい指導を受け、仕事中にサボって部下達に料理を振る舞うなどしたおかげで、今こうして愛しの人に美味しいと言ってもらえているのだ。
指導を受け始めてからすぐに作った料理を部下達に食べさせた時にされた微妙な顔を思い出していると、永琳はご馳走様、と言ってスプーンをお皿の上に置く。
「今日も研究とかする感じ?」
「いえ、しばらく仕事はお休みさせてもらっているのよ」
流石に妊娠を働かせる程、鬼畜ではないかと思っていると、永琳は思い出したかの様に手をポンと叩く。
「そろそろ予定日だから久しぶりに一緒にお出掛けしてみない?」
「そろそろ予定日なのに?」
「良いじゃない。しばらく外を歩いていないからデートをしたいのよ」
何かあったらすぐに教えてね、と言って僕は右手でトレーを持ち左手で永琳がベッドから降りるのを助ける。
「お腹大きくなったねー」
「あら?あまり見てなかったの?」
永琳のお腹を摩りながら言うと永琳は不思議そうに首を傾げている。
「家事に一生懸命になり過ぎちゃって……ごめんね」
「別に謝らなくてもいいわよ。私の為にやってくれているって分かってるし」
永琳は優しく微笑むと、着替える為に着ている白衣を脱ぐ。
「そうだ!ちょっとまだ何も着ないでね!」
僕はベッドの側に置いてある椅子に掛けてあるワイシャツを取ろうとする永琳を止めて急いでトレーを持ったまま自分の部屋に向かう。自分の部屋に着いた僕は一つの紙袋を取り、台所に寄ってトレーを置いてから永琳の部屋へ向かう。
「これは何かしら?」
「まあ出してみてよ」
永琳に紙袋を手渡しすると、永琳は中にある物を取り出す。中にある物……それは一着の服だ。
「このデザイン……小さい頃に私が着てたやつと全く同じね」
永琳はじっくりと青と赤のツートンカラーの服を懐かしそうに見つめる。
「知ってた?永琳が小さい頃に着ていたやつって僕の母さんが作ったやつだったんだよ」
「だから他に着ている人がいなかったのね」
「で、それを思い出したから今の永琳の体型に合うように作ってみたんだ」
胸を張って得意げな顔で答えると永琳はとても驚いた顔をする。
「あなたってどんな事でもできるって印象があるわね」
「たまたま色々な事ができるだけだよ。なんて言うんだろ……器用貧乏?」
永琳の言った事に返した自分のセリフで頭を悩ます。永琳は僕より弓道と刀の扱いに長けているのに対して僕には尖った強みが無いのだ。
「……イメージする事に特化していると考えたらいいかな」
「ねえねえどうかしら?」
左手を顎に当ててブツブツ言いながら考えていると、着替え終わった永琳が僕の肩を叩く。
「何か不思議な気分なのよね。まるで昔の自分を見ているような感じがして」
「永琳は昔と違って綺麗になったよね」
自分の身体を見下ろしていた永琳は、顔を赤くしながら僕の脇腹を右手で突つく。
「さ、着替えも済んだし出掛けよっか」
実はちょうど良い角度から永琳の突きが脇腹に入ったので今にも地面の上に転がって悶えたいが、それを必死に我慢して妖力で作った白いコートを羽織る。
「早く行きましょう!」
はしゃいでいる永琳は僕の手を引っ張りながら商店街へ向かった。
◇
「あれは……お父さんとお母さん?」
妹である依姫に仕事を全て押し付けてきた私は気分転換で商店街へ来ていた。何かペットでも飼うことにしようかな、と考えながら歩いていると見知った顔の仲の良い二人組みが目に入ったのだ。
私は歩くスピードを早めて銀色の尻尾に抱きつく。
「うわっ!」
相当驚いたのかお父さんは背筋をピンと伸ばした。それを見ていたお母さんはクスクスと笑っている。
「久しぶりお父さん!」
「豊姫ちゃんか……驚かさないでよ」
私は振り向いて私の方を向くお父さんに笑顔を見せる。お父さんは苦笑いをしながら私の帽子をとって頭を撫でてくれる。
「お父さん達は何しているの?」
「んー久しぶりに二人でデートって感じかな。豊姫ちゃんは?」
「私は気分転換にペットでも……」
私はお父さんと腕を組んでいるお母さんの姿を見て言葉が詰まる。途轍もなくダサいツートンカラーの服のせいでは無い。
「妊娠しているの?」
「再来週あたりには産まれると思うわよ」
質問するとお母さんは幸せそうに答えてくれる。私はそろそろ産まれるという事から大体何時、二人が頑張ったのか計算してみる。
「な、何でそんなに汚い物を見るような目をしているの?」
「最低……」
ざっと計算してみると私と依姫が自立した辺りの時期なのだ。しかし、私は知ってしまった以上お祝いをしてあげるつもりだ。
「まあいいわ。それで名前はどんな感じにするつもりなの?」
「そう言えば私もまだ聞いて無かったわね。もう決めてあるんでしょ?」
お父さんは不敵に笑うと、懐からペンとメモ帳を取り出し二文字の漢字を書く。
「こうやって書いてさくやだよ」
「素敵な名前ね!」
メモ帳に書かれた咲夜という字を見たお母さんはパチパチと手を叩く。その後お父さんは残念そうに輝夜と書く。
「かぐやかさくや。この二つで本当に悩んだんだよ……双子だったら良かった……」
相当二つの名前を気に入ってたのかお父さんはため息を吐く。確かに二つとも魅力的な名前の為、選ばなければいけないのは苦である。
「じゃあ再来週あたりに私が作る御守りを家に贈るわね」
「豊姫はしっかりとそんな事ができるのかしら?」
「私だってやればできるのよ!」
少しからかってきたお母さんに頬を膨らませる。お母さんは謝りながら私の頬を撫でてくれたので私は許してあげた。
「あっと言うような物を贈ってあげるから覚悟しなさい!」
私は捨て台詞を残して綿月家へ戻る。本当はもっとゆっくりと私が頭首になった事や依姫がお父さんに憧れて軍人を目指しているといった話をしたかった。だけど、今の私にはあの二人の間に入ることはできない。私達と居る時には見せなかった幸せそうな二人の顔を見てしまったから尚更。
◇
「豊姫ちゃんは相変わらず豊姫ちゃんだったね」
「本当に豊姫だったわね」
走って行く豊姫の後ろ姿を見送ると僕達は歩き始める。しばらく歩くと見慣れない怪しい看板が目に入る。
「こんなお店あったかしら?」
永琳はルーサーと書かれた看板をジロジロ見る。僕は新たなお店を開拓するのも悪くないよねと提案したので、二人でそのお店に入る。
「開店初日からお客様二名ご案内!」
店に入ると執事服のような物を着た僕の元隊長、静琉が出迎える。
「……何やっているのですか」
「あら?知り合いなの?」
僕は静琉の事を簡単に説明していると静琉は僕達の腕を引っ張ってカウンター席に座らせる。
「軍の方でお金を貯めてついに今日!自分のバーを開くことができたんだよ!」
嬉しそうに語る静琉に僕達は拍手を贈る。気分が良いのか彼は奢りと言いながら二本の瓶を僕に渡す。
「これは?」
「これはアルコホールが入った飲み物、お酒ってやつ。それの赤ワインってやつだよ」
静琉は瓶の蓋を開け、僕達の目の前にあるグラスに注ぐ。
「アルコホールって飲めたのね……初めて知ったわ」
「君たちが産まれる数世紀前には普通に普及していたんだけど、何故か表世界では姿を消した代物さ」
永琳は一口ワインを飲む。僕も少しビクビクしながら一口飲む。
「なんか苦いと言うか酸っぱいと言うか……不思議な味だね」
もう一口飲んで感想を言う。何時もミルクや甘いものばかり飲んでいるので新鮮な感覚だ。
「何か身体が暑いわね……」
顔がほんのり赤い永琳は胸元のボタンを数個開ける。確かに暑くなってきたので僕はコートを脱ぐ。
「あっちょっと俺は仕入れなきゃいけない物の注文するから席を外すね。あとお酒はがぶ飲みしたら死ぬから気を付けてね」
店長の貴方が席を外してどうする、と思いながら静琉を見送る。
「ねえあなた……私とっても幸せよ?」
先程よりもさらに赤みが増した顔でポーっとしながら永琳は呟く。よく見ると永琳の肩は小刻みに震えている。
「でもね。たまに怖いの」
「怖い?」
「そう……こんな私が幸せになっても良いの?もしかしたらこの幸せもすぐに消えて無くなっちゃうんじゃないか。そんな事を考えちゃうの……」
しばらく見せなかった弱い彼女。やはり今でも昔の事を引きずっているのだろうか。
「大丈夫だよ永琳。僕が必ず……永遠に守るから」
僕は震える妻を優しく、そして力強く抱きしめた。今にも折れそうで細い身体を。
「あなた……ううん。文夜。ありがとうね」
震えが止まってにっこり笑っているのを確認して僕と永琳はお店を出る。
「はー終わった……ってあれ?文夜くーん?」
静琉しかいないルーサーには持って帰り忘れたワインの瓶と虚しさしか残っていなかった。
◇
「えー本当にやるの?」
ホルダーの訓練所で僕の目の前には僕の部下が全員剣を構えている。
「お子さんが産まれたらまたしばらく模擬戦してくれないじゃないですか!」
「なら今ここで隊長の首を取ってやりますよ!」
次々と部下達が騒ぎ始める。まさかこんなくだらない事で呼び出されるとは思いもしなかった。
「寄りにも寄って産まれるかもしれない時期に……まあ良いよ掛かってきな」
そう言うとすぐに僕の電子端末に着信音が鳴る。何かと思えば母さんからメールがきていた。
「……え?」
そこには産まれたから早く来い、と言った文章が書かれていた。
「ふざけるな……ふざけるなよ貴様ら!」
僕は怒りのあまり怒鳴ってから妖力で長いロープを作り上げて左手に持つ。
「自分の子供が産まれた瞬間に立ち会えなかったじゃないか!」
左手に持つロープを全力で振り回して部下達を薙ぎ払う。誰も立っていない事を確認して僕は全力で走る。病院に着いた僕は永琳のいる病室まで走る。
「病院内では走らないの!」
病室に入った瞬間、母さんに頭を叩かれたのでいてっと口に出してしまう。
「軍の方で何かあったんでしょ?そっちは大丈夫なの?」
「直ぐに終わらせてこっちに急いで来たよ」
肩で息をしながらベッドで横になってる永琳に近づく。永琳はあっちと言いながら横にある小さなカゴのような物を指差す。カゴの中には一人の赤ちゃんが寝ている。
「ほら抱いてあげて」
「寝ちゃってるけどいいの?」
「良いから良いから」
僕は赤ちゃんの首を支える様にしながら持ち上げる。僕が持ったせいか目を覚ます。その小さな瞳は永琳と似て綺麗な青色が入っている。
「全然僕に似てないね……」
「そう?目元とかあなたにそっくりよ」
そうは言われてもなかなか分からないものだ。僕は産まれた時に言おうと思っていた事を言う。
「産まれてきてくれてありがとう咲夜」
そう言うと僕の娘……咲夜はにっこりと笑った。
僕は今だに信じることができない。僕が一人の娘の父親になったという事が。子供を産む痛さと辛さも体験していないから実感が湧かないのだ。
「大丈夫だよ文夜君。咲夜が大きくなれば少しずつ実感が湧いてくるから。今はあやふやでも良いんだよ」
父さんは僕の心中を察してくれたのかアドバイスをくれる。なかなかピンとこないが、やはりこの人も父親なんだなと実感した瞬間であった。
◇
「久しぶり。父さん母さん」
咲夜が産まれ、永琳が退院してから一週間が経った。暑いから咲夜が泣いたり、豊姫からとんでもない御守りが贈られてくるなどたくさんの事があった。しかし、生活は一応安定してきたので僕は形だけの本当の両親の墓に来ている。
「とうとう僕がお父さんになっちゃったよ。信じられる?」
石碑の前で僕は自分を笑う。こうしているだけでも父さん達と話しているみたいだ。
「今日は咲夜は連れて来なかったから次きた時に連れてくるよ」
僕は次に何を報告するか考えていると、雨が降ってきた事に気がついた。
「雨が降ってきたから帰るよ。じゃあね」
僕は土砂降りになる前に急いで家に向かう。墓場の出口付近まで来ると何かが聞こえる。
「なんだろ?」
その何かが気になってそれを探していると、僕は信じられない物を見つけてしまった。
◇
「雨が降ってきたわね」
咲夜に母乳を与えながら雨が降る庭を見つめながら白銀の髪の毛を撫でる。これは文夜に傘を持っていってあげた方が良いかと考えていると、玄関が開く音が聞こえた。
「おかえりなさい。雨で濡れちゃったでしょ?」
私はタオルを持って玄関に向かうと息を切らせて白い布に包まれた何かを持っている文夜がいた。
「ねえ永琳……とりあえずこの子の名前は輝夜でいいかな?」
文夜は苦笑いをしながら私に持っている物を見せる。それは物では無く、一人の赤ん坊であった。
〜メリーの部屋〜
蓮「皆さんに悲しいお知らせがあります。私の親友メリーベリーハーンが殺人容疑で逮捕されました……」
メ「ただ車を事故らせて警察とお父さんにめちゃくちゃ怒られただけよ。それに私はマエリベリーよ」
蓮「け、蹴らないでけれー!」
メ「全く……人のベッドの中で一体何馬鹿な事をやっているのよ」
蓮「ちょっと悪ふざけしてただけよ……」
メ「まあいいわ」
蓮「そう言えば免許没収されちゃったんだっけ?」
メ「そうなのよ。だからサークル活動も一時休止よ」
蓮「ぶーぶー!でもメリーともあろう者が事故なんて珍しいわね」
メ「結界が見えたのよ」
蓮「は?」
メ「いきなり目の前の光景が変わって……あれはまさに別の世界ね」
蓮「大丈夫?頭ぶつけた?山の中の良いお医者さん紹介するよ?」
メ「私は正常よ。失礼ね」
蓮「メリーに電波属性が追加されてしまいました……」
メ「誰が電波よ邪気眼さん」
蓮「私はメリー程現実と幻想の区別がついていないわけじゃありませーん」
メ「……やめましょう」
蓮「そうね……なんか虚しいわ」
こんばんは!
今回から「。」を文末にもちゃんと入れてみたりおまけみたいな部分を台本形式(?)にしてみるなどいろいろやってみました
何かアドバイスなどいただけると嬉しいです!
そして次回で古代編は最終回にしたいと思います!
では、次回も見てください!