東方 過去と未来のシンフォニア   作:ももんがぴょん

17 / 23
16話 「愛していたよ」

「甘い!」

 

 薄暗く少し広い部屋の中、僕は右手に持つライフルを連射して短剣を片手に飛びかかってきた兵士を狙撃する。その後、背後から迫り来る兵士を左手に持つライフルの銃身で殴る。

 

「数が多い!」

 

 気が付けば数十人の兵士に囲まれている。僕は少し高くジャンプして両手に持つライフルを乱れ撃つ。弾が急所に当たった兵士は次々と倒れて行く。これで終わりかと思い一息つくと、鎧を身に纏う巨漢の兵士が目の前に突然出現する。それは右手に持つ大きな斧を振り下ろす。僕は後ろに飛び引いてそれを避け、ライフルを連射する。しかし、弾は鎧によって弾かれてしまう。

これでは埒が明かないと考えた僕はとある案を思いついた僕は兵士に向かって走りだす。兵士は斧を横に薙ぎ払うが、スライディングをしてそれを避ける。僕はそのまま兵士の懐にライフルを押し当て、鎧が貫通するまで連射する。兵士が倒れたのを確認すると、僕は立ち上がって白衣についた鉾を手で払う。

 

「お疲れ様文夜君」

 

 何処からか父さんの声が聞こえると薄暗い部屋は明るくなる。そして勢い良く扉が開き、何かが走って僕に近づいてくる音が聞こえる。その方向を見ると、短い銀髪を三つ編みにしている少女が僕の胸を目掛けて飛び込んでくる。僕はそれを優しく受け止めて頭を撫でる。

 

「お父さんすっごくかっこよかったよ!」

 

「そう?えーりんの方がかっこいいわよ」

 

 銀髪の少女の後を追うように黒髪ロングでピンクのシャツを着た少女が現れる。それを聞いた銀髪の少女は僕から離れて黒髪の少女に近づく。

 

「絶対にお父さん!」

 

「お姉ちゃんは本当に分かってない!えーりんの方がいいのよ!」

 

 二人はムキになってああだこうだ言い始める。このままでは喧嘩になってしまうのでは無いかと考えて二人の間に入る。

 

「咲夜も輝夜もやめなって」

 

「でも輝夜が……」

 

 銀髪の少女……咲夜は目をうるうるさせながら僕の顔を見る。僕は左手で咲夜を、右手で黒髪の少女……輝夜を抱っこする。

 

「どっちも格好良いで良いと思わない?」

 

「……うん!」

 

 咲夜は少し考えた後ににっこり笑う。しかし輝夜は少し納得できなさそうな顔をしている。

この二人は僕と永琳の愛娘だ。しかし、何故か咲夜は極端なお父さん子で輝夜は極端なお母さん子なのだ。そのせいか二人は何かある度に衝突して喧嘩になりそうになる。

 

「手伝ってくれてありがとね。良いデータが集まったよ」

 

 白衣を着た父さんはニコニコしながら僕の側まで来て咲夜と輝夜の頭を撫でる。

 

「今永琳は忙しいみたいだからこうして二人を連れて何処かに行けるのは結構ありがたいですよ。それに娘達に格好良い姿は見せたいですし」

 

 父さんは今日は帰って大丈夫、と言うので僕は二人を抱っこしたまま八意邸へと向かった。

八意邸に着いた途端に咲夜と輝夜は庭に走って行って何かの技名を叫びながらじゃれあいを始める。どうやら二人は仮想の敵を作り、それと戦う遊びにハマっているようだ。僕は微笑ましいその光景を数分眺めた後に永琳の部屋に行く。部屋に入ると永琳は何か不思議な機械を作っていた。

 

「ただいま永琳」

 

「ふぅ……おかえりなさいあなた」

 

 ひと段落がついたのか永琳は疲れ気味な顔を僕に見せる。

 

「一体何を作っているの?」

 

「すっごく簡単に言ってしまえばタイムマシンよ」

 

 タイムマシンと言う単語に心が揺れる。もしかしたら過去に戻って母さんと父さんを救えるかもしれないと考える。

 いや、これを考えるのはやめにしよう。二人を助ければ今の僕は満足かもしれない。けれどもそれは未来が変わってしまうと言う事だ。つまり今の僕が消えてしまうかもしれない。幼馴染を愛し、娘に恵まれた幸せな生活が一緒に消えてしまうかもしれないのが怖いのだ。

 

「なんとか物資を何処かにテレポーテーションする事は可能なんだけど、それが何処に行ったのか?どの時代に飛んだのかもわからない。だから困っているの。それにしてもなんで寄りにも寄って私に頼むのよ……機械系はお父さんが専門だからそっちに頼みなさいよ。不死の薬と言い、本当に上の連中って何を考えているのかしら」

 

 永琳はおでこに右手を添えながらブツブツと呟く。確かにおかしな話である。何故父さんでは無く永琳なのだろうか?タイムマシンなんて魅力的な装置の開発を父さんが黙っている筈は無い。しかし今はそんな事はどうでも良い。これがあるから永琳は苦労していると言うなら……

 

「やめちゃったら?」

 

 そう言うと永琳はポカーンとした後にお腹を抱えて笑い始めた。僕は訳が分からず永琳に何故笑っているのか尋ねた。

 

「だってそんな単純な事に気がつけなかった自分がおかしいのよ。色々でっち上げたところで分からないもの!」

 

 永琳は机の上にあるレポート用紙を丸めてゴミ箱に向けて投げて新しい用紙を出してペンを走らせる。

 

「あー今晩も僕が料理をしようか?」

 

「徹夜になりそうだから美味しい物を頼むわね」

 

 了解と答えて僕は永琳の部屋を出て二人が遊んでいる庭に向かう。庭に着くと気持ち良さそうに寝ている二人を見つけた。二人の姿を昔の自分と永琳の姿に重ねながら起きないように一人ずつ抱っこしてベッドに運んで毛布を掛ける。二人を運び終わった僕は夕飯の支度をするために買い物バッグを片手にスーパーへ向かった。

 

 

 

 

「輝夜……目を覚ましなさい」

 

 咲夜と輝夜は姉妹共同の部屋で寝ている。その部屋に女性の声が響くと、その声で輝夜は目を覚ます。

 

「お姉ちゃん……?まだ眠い……」

 

 輝夜は咲夜が起こしたのか思い、隣のベッドを見るが咲夜は眠っている。輝夜は不思議に思いながらもまた眠りに着こうとしたが、何か気配を感じたので部屋の扉の方を見る。そこにはベレー帽を被り白いワイシャツを身纏う茶髪の女性がいた。

 

「だーれ?」

 

 輝夜はベッドから降りてその女性の側に寄る。その女性はにっこり微笑みながら輝夜の頬を撫でると輝夜は気持ち良さそうに目を細める。

 

「……ごめんなさい」

 

「え?」

 

 彼女はそう小さく呟くと輝夜の小さい頭を左手で鷲掴みする。痛いと叫ぶ前に輝夜の瞳から光が失うと彼女はその場からスッと姿を消した。その後、輝夜はフラフラと咲夜の側に寄り、肩を揺らすと咲夜は不機嫌そうに目を覚ます。

 

「どうしたの……まだ寝てられるよ……?」

 

 咲夜は枕元に置いてある家族写真が入った懐中時計で時間を確認して輝夜に言う。

 

「ちょっとお母さんにイタズラしてみない?」

 

 輝夜の突然の提案に咲夜は目を輝かせる。咲夜に取って普段は仕事で忙しいお母さんにイタズラするのはとても魅力的だったのだ。

 

「どんなイタズラするの!?」

 

「ふふっとりあえずついてきて」

 

 輝夜はゆっくりと扉に向かって歩いて行く。咲夜は白色のパジャマ姿のまま、懐中時計と机の上に置いてある刃に咲夜と書いてあるケースが覆われているナイフを肩下げのバッグに入れてそれを肩に下げてから輝夜の後を追った。永琳の部屋の前に着いた輝夜はゆっくりと扉を開ける。永琳が机に突っ伏してぐっすり寝ているのを確認すると、扉から覗いている咲夜に手招きをしてこっちに来てと合図する。咲夜は足音を立てないように輝夜の元へ行こうとするととても奇妙な装置に興味を持った。

 

「何かしらこれ?」

 

「……動かしてみる?」

 

「うん!」

 

「何よ騒がしい……」

 

 咲夜はワクワクしながら装置をペタペタ触っているとニヤニヤしている輝夜は装置の電源を入れる。永琳は装置の電源が入った音で目を覚ました。輝夜は舌打ちをして急いで装置のスイッチを入れる。

 

「咲夜!離れて!」

 

「お母さん?」

 

 装置が起動している事に気がついた永琳は咲夜に向かって叫ぶ。咲夜は永琳の声に驚いて振り向いた瞬間に装置から放たれる光に包まれた。あまりの眩しさに永琳は目を閉じており、次に目を開けた時には咲夜の姿は無かった。

 

「咲夜……?ねえ何処に隠れているの……?」

 

 震えた声で永琳は問いかけるが返事は返って来ない。永琳は装置の前でぼーっと立っている輝夜の胸ぐらを掴む。

 

「返して……咲夜を返して!」

 

「……えーりん?どうしたの?」

 

 先ほどとは違い、瞳に光が戻った輝夜は状況を把握できていなかった。何故母が泣きながら自分の胸ぐらを掴んでいるのか、何故母の部屋にいるのかを。

 

「どうしたの永琳!」

 

 永琳の叫び声が聞こえたのか文夜は大慌てで部屋にやってきた。文夜は永琳がしている行動に驚いて永琳の腕を掴む。

 

「ふみやぁ……」

 

 文夜の姿を見た永琳はより一層涙を瞳に溜めて輝夜を離してて文夜に抱きつく。

 

「咲夜が……!咲夜が!」

 

 輝夜は永琳の言っている事から自分が何かとてつも無くやってはいけない事をしてしまったのでは無いかと感じ始めていた。対する文夜は全てを察したのか右腕に剣を作りあげ、叫びながら装置に向かってそれを投げつけた。その後、永琳を強く抱きしめて泣き叫んだ。輝夜は自分の所為で姉を失ったと気がつき、一人で泣く事しかできなかった。

 

 

 

 

 お姉ちゃんが消えてから何十年が経ったのだろうか?私はピンク色の和服を身に纏い長い髪の毛を手で梳かしながらリビングから雲一つ無い空を見る。お父さんとえーりんは本当に変わってしまった。えーりんは仕事をやめてぼーっとする時間が増えた。お父さんは髪の毛をとても長く伸ばすようになった。他人から見ればその変化は何とも無いように見えるかもしれないが、私には二人とも過去に囚われて前に進めなくなってしまっている様に見える。私は自分を正当化するつもりはサラサラ無い。二人をこの様にしてしまったのも全て私の所為なのだから。

 

「輝夜。お昼ご飯よ」

 

「はーい!」

 

 背中からえーりんの声が聞こえる。私はにっこり笑いながら振り返って答えると、走ってテーブルに座って元気良くいただきますと言う。私は二人の寂しさを少しでも和らげるために元気でワガママな少女を演じている。手のかかる子供を育てる事で寂しさを誤魔化そうと小さい頃に考えた浅はかな知恵を未だに使っているのだ。まさに私は道化である。

 

「あなたの分は今作っているから待って頂戴」

 

「ん、じゃあ待って……」

 

 私の向かい側に座ったお父さんはえーりんに答える前に着信音が鳴る右手首についた電子機器に目を向けるとまた立ち上がった。

 

「ちょっと電話してくるね」

 

 そう言ってお父さんはリビングから出て電話を始めた。私はチラッとえーりんの顔を見ると、その瞳には殺意が含まれており、血が出てしまうのでは?と思うほど唇を噛み締めている。その姿はまさに漫画でよくある様な病んでいる女性であった。私はその顔を忘れる為にテレビをつける。丁度ニュースが始まったのでそれを見ていると、月面移住の話ばかりであった。

 月面移住。それは数年前に出された寿命に関するレポートがきっかけであった。地上には穢れが少なからず存在する。今までは穢れが少なかった為に私達人間は長寿を得ていた。しかし、最近穢れの量が増えてきているようだ。最終的には寿命は百年近くにまで減ってしまうと言われている。なので私達の神である月夜見が作り上げたと言われる穢れ無き場所、月に移住しましょうと言う話だ。ニュースを見るかぎりその事に反対する者はいないようだ。誰もが死を恐ていると言う証明なのだろうと思いながらテレビの電源を切ると、ちょうどお父さんが戻ってきた。

 

「誰と電話していたのかしら?」

 

「んー秘密かな」

 

「……他に女でもできたのかしら?」

 

 お父さんが冗談半分で笑いながら言うと、えーりんは手に持っている包丁を投げつける。そしてえーりんは包丁をもう一本取り出してお父さんにフラフラと近づく。

 

「ねぇ……誰と電話していたの?」

 

「父さんだよ。仕事の事でちょっと話があってね」

 

「……嘘はついていないみたいね」

 

 えーりんは包丁の刃をお父さんの首に突きつける。しかしお父さんは普段と変わらない笑顔を続けている。えーりんはお父さんの瞳をじっと見ると、包丁を首から離した。

 

「女ができたなんて分かったらその首を切り落とすから」

 

「僕は家族以外を愛した事なんてないよ?」

 

「そう……私もよ」

 

 やはり歪んでいる。なぜ二人とも笑っているのだろうか?私は二人の事を愛している。けれどもたまに理解できない行動をするのがとても怖い。

 

「オヤツ食べたい!」

 

 私は空気を読まずに大きな声でワガママを言う。二人はやれやれと言いたげな顔をしながらクッキーを作り始める。微笑ましい光景ではあるが、本当にこれで良いのかは私には分からない。

 

 

 

 

「久しぶりだね文夜君。いきなり話がしたいって何があったんだい?」

 

 永琳とクッキーを作り三人で食べた後、僕は父さんの研究室へきていた。相変わらず足場が書類で埋まっているので歩きにくい。

 

「月面移住の話についてなんだけど」

 

「月面移住……あれは不可解な点が多いよ」

 

 書類を幾つか手で拾ってスペースを作った後、妖力で椅子を作ってそれに座ると父さんはコーヒーを一口飲むと目を細めて語り始める。

 

「まず何故、箱舟と称してロケットを使うのか。もっと良い方法があっても良いと思うんだよね。次に、何故その後この街が存在したと言う証拠を消そうとするのか」

 

「……ちょっと僕の自意識過剰な妄想を言っても良いかな?」

 

 父さんの話を聞いて一つ妙な事を思いつく。僕は父さんの側に寄り耳元で自分の考えを伝えると、父さんは目を丸くする。

 

「よく文夜君はそんな事を思いつくね」

 

「結構妄想が多いと思うんだけど……」

 

「いや、その仮説と不可解な点は見事にマッチングしているよ。なら私はこの街の上層部の意思に反逆してやるだけさ」

 

 父さんはスイッチが入ったのか次々とレポート用紙にペンを走らせる。こうなってしまったらもう話を聞いてくれないだろうと思い部屋から出ようとすると、父さんは僕を呼び止める。

 

「私は科学者として、父親として、一人の男として文夜。君を死なせはしないよ」

 

「……ありがとうお父さん」

 

 初めて名前だけで呼んでくれた事を誇りに思いながら僕は自分の家へ帰った。

 

 

 

 

「あっ!豊ちゃんと依ちゃんだ!」

 

 私は月へ向かう箱舟の中にいる。街に住む人全員が乗っているのではないか?と錯覚してしまうような人混みの中、見知った顔を見つけたので私は走って豊姫に抱きつく。

 

「輝夜じゃない!久しぶりねー」

 

「えへへー」

 

 私は豊姫に頭を撫でられて微笑むと、依姫は羨ましそうに見ていたので私は次に依姫に抱きつく。すると満足したのか依姫はほわわんとしている。

 

「ねえ輝夜ちゃん。お母さんは何処にいるのかしら?」

 

「えーりん?えーりんならあっち」

 

 私は少し離れた所でキョロキョロと誰かを探しているえーりんを指差すと依姫はえーりんの元へ向かう。

 

「ねえ輝夜」

 

「なーに?」

 

 豊姫に呼ばれたので私はまた豊姫に抱きつく。笑顔で豊姫の顔を見るとそこには憐れみのような物が浮かんでいた。

 

「貴女は何時までそのキャラで通すつもりなの?」

 

 そう言われて胸の鼓動が早くなる。全てを演じていると誰にも暴露ていない自信はあったと言うのに彼女には見破られていた事に私はショックを受けていた。

 

「……永遠とも言えるし須臾とも言えるわね」

 

「どう言う意味よ?」

 

 それでも動揺を隠して私は話す。豊姫は少し警戒しているようで眉を寄せていた。

 

「お父さんとえーりんを見てみなさいよ。あの二人は永遠に一緒かもしれないけど今にも崩れそうでしょ?私はそれに付き合う。だから永遠とも須臾とも言えるのよ」

 

「難しい言葉を使おうとしているのは分かるんだけど……全く意味が分からないわよ?」

 

 苦笑いをしている豊姫にそう言われて私は顔が熱くなるのを感じる。私は馬鹿と大きな声で言い、豊姫のお腹を叩いてえーりんの元へ走る。

 

「なかなか可愛いじゃないあの子」

 

 後ろから豊姫の呟きが聞こえたので余計恥ずかしくなって私は走るスピードが早くなる。

 

「あら?輝夜はなんでそんなに顔が赤いのかしら?」

 

「何でもないの!」

 

 えーりんに心配されたが、私は腕を振って何もないと強くアピールをする。私は話題を逸らす為に質問をする。

 

「そう言えばなんでえーりんはさっきからキョロキョロしているの?」

 

「もうそろそろ箱舟の出発時刻なのに文夜がいないのよ……」

 

 えーりんはさらに不安になったのか表情を曇らせる。すると外から何かが壊れる大きな音がした。その大きな音で乗客は慌てふためく。しばらくすると箱舟に内蔵されていたのかスクリーンに映像が出る。それは外の光景を移し出しているので、誰かが箱舟の外が見える窓からカメラで撮影しているのであろう。その映像を見ていると、高層ビルよりも大きい黒色の巨人が街と外の世界を隔てる壁を壊していた。人々はそれを見て絶望している。私の側にいる依姫もその一人であった。

 

「あれは……妖怪?」

 

「私がなんとかする」

 

 私は妖怪であると想像したが、あの禍々しいオーラはどうしても妖怪の様に思えないのだ。あれこれ考えていると豊姫は箱舟の外に出ようとしていたが、こちらに向かって来ていた巨人は突然現れた巨大な青紫色の刃に胸を縦に斬られて怯むとその場から姿を消したので、彼女はその場にとどまる。

 

『早く箱舟を!』

 

 箱舟の中に男の声が響き渡る。そう、お父さんの声が。私はあの刃はお父さんの剣であると気がつくのに遅れた。その声がすると同時に箱舟のエンジンがかかる音がした。

 

「なんであなたが……あなたが!」

 

 えーりんは涙を流しながら映像に向かって叫ぶが、お父さんにはその声が届かない。

 

『この計画はそもそも無謀だったんだよ。全人類が詰まった箱舟は妖怪達にとっては夢の食料庫。全人類と言う事は守る人もいない』

 

 響き渡るお父さんのセリフに人々は息を飲む。

 

『なら僕が守る。半妖である僕を受け入れてくれた人達への恩返しも兼ねて』

 

「やめてよ文夜……!永遠に離さないって言ってくれたじゃない!私を一人にしないで……!!」

 

 えーりんはその場に座り込んで涙を流す。私はそれを見てどうすることもできない。

 

『壊れた壁から沢山の妖怪達が箱舟を狙ってやってくる。実質次の言葉が僕の最後の言葉になるかな』

 

 映像には黒いジャケットを着て長い髪の毛をポニーテールにしているお父さんが地面に刺している大剣に寄りかかっている姿が映っている。

 

『ばいばい永琳。愛していたよ』

 

 カメラに向かって手を振るとお父さんは剣を左手に持って走り始める。静かな箱舟の中にはえーりんの嗚咽しか聞こえなかった。

 

「嫌よ……嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ!!」

 

「落ち着いてお母さん!」

 

 取り乱したえーりんは頭をかきむしり始めた。依姫と豊姫はそれを止めようとするが、突然現れた白衣を着た茶髪の女性がえーりんの腕に注射器を刺し何か薬を注射すると、えーりんはその場で眠り始めた。

 

「私は医者よ。それに打ったのは鎮静剤だから安心して」

 

 右手を突き出す豊姫に女性は自分の身分を説明する。私はこの女性を見て何処かで会った事があると思えて仕方が無かった。

 

「八意さんは病室で寝させておきますから安心してください」

 

 そう言ってその女性はえーりんを担いで何処かへ行ってしまう。女性なのに大人一人を軽々と持ち上げてすごいなどと呑気な事を考えていると箱舟は遂に出発した。

 

 

 

 

 僕はポケットの中から一枚の紙を取り出し、それに書いてある物を読みながら走る。どうやら核と言う爆弾のような物を使って街が存在した証拠を抹消するようだ。そしてそれから身を守る為にシェルターに行かなければならない。何処にシェルターがあるか、など書いてあるので僕がどのような行動を取ればいいのかを把握する。

 

「……一時間かな」

 

 僕は紙を丸めて捨てて空いた右手に狐のお面を作る。

 

「大きく出たんだから……妖怪達には死んでもらうよ」

 

 おやすみ文夜、と呟いてお面を被る。だんだんと意識が遠退いていく。これは半妖の人間部分を一時的に封印して僕を殺戮マシーンに変える物だ。僕は妖怪の様におぞましい咆哮を上げ、街に入ってくる妖怪に飛びかかる。

 

 

 

 

「地上に残ったのは私と文夜君だけかな」

 

 私は八意邸のリビングでコーヒーを飲む。この都市を全て破壊する事ができる兵器など二つもいらない。設計図と私が無くなってしまえばもう二度と大量殺戮兵器を作ることもできない。

 

「私の人生は誰かを幸せにする事ができたのだろうか?」

 

「少なくとも私は幸せでしたよ?」

 

 私は誰もいない空間に問いかける。これは誰かに問いかけた物では無く、ただの自問自答だ。だからこそ突然背後から声がした事に驚く。私はゆっくりと振り向くと黒いワンピースに身を包んだ柚希がいた。

 

「なんでここに……」

 

「死ぬときぐらいは一緒にいましょうよ。あなたは研究ばっかりだったんだから」

 

 柚希は涙目で私に抱きつく。私を一番最初に愛してくれた女性を私は強く抱きしめる。

 

「永琳だけじゃ無くて君にも寂しい思いをさせていたんだね……私は駄目な夫だ」

 

「こうして最後の時を一緒にいられるだけでも私は十分満足よ」

 

 私は自分の感情を抑えきれなくなり、五百年振りに妻とキスをした。数十分後、巨大な破裂音と共に私達は光に包まれた。私が最後に考えた事。それは愛する不幸な息子と娘に幸運が訪れる様に、と言うおまじないであった。

 

 

 

 

「そう言うことだったのね……」

 

 私は白衣を着たままベレー帽を被り、ベッドで静かに眠る八意の前でポンと手を叩く。

 

「まず月夜見は死ぬんだ。そしてそれを見た人達が神として崇めた事で魂に信仰が集まった結果、神となった。そしてその神は月夜見と呼ばれた……でも私と言う月夜見は既に存在している。ならさっき死んだ月夜見の魂はどうなるのかしら?」

 

 突然、胸に痛みが生じるので白衣ワイシャツを脱いでみると私の胸には何か縦に斬られたような跡ができていた。

 

「そう言えば私の憎しみから作ったタケミカヅチが斬られたんだっけ。まだまだあれも改良の余地があるわね」

 

 神力を灯した人差し指で傷跡をなぞると傷は癒えていく。跡が無くなったのを確認して再度ワイシャツを着る。街の壁を破壊したのは私が作り出した物だ。何故神力から作らなかったかと言うと、どうやら神力は普通の人間でも何か神々しいと言う形で分かってしまうからだ。だから自演をする上で私は自分の憎しみからあれを作り出したのだ。

 

「でもまあ、やっと八意の頭脳も手に入った……私の計画も順調ね」

 

 私は八意の頬を優しく撫でると、左手を彼女の額に添える。

 

「貴女の記憶を封印してあげる。貴女も疲れちゃったでしょ?だから次に目を覚ました時から貴女は八意××。永琳はもういない」

 

 そう呟いて私は左手から神力を放つ。すると、彼女の寝顔はとても安らかな物に変わる。

 

「これで駒は揃った。私の目指す理想郷を作るための……ね」

 

 もう後戻りはできない。ならば私は振り切るだけだ。狂った二人の女性の未来を変える為に。

 

 

 

 

 箱舟は月に到着した。私は箱舟から降りて思った事は、ただ整備がされていない雑木林のようなものを目の辺りにして元々住んでいた場所と対して変わらないなと言うものであった。

 

「ねえ豊ちゃん依ちゃん。私に良い考えがあるの。お父さんの存在を未来永劫、私達月の民の記憶から抹消させない為に神様として崇めてみない?」

 

「神様……月夜見様みたいに?」

 

「でも月夜見様がいるなら難しくないかしら?」

 

 お父さんを失った所為かぼーっとしつつある二人に提案すると、まず初めに依姫が話に食い付いたが、豊姫は不安な表情のままかぶっていた帽子を手に持つ。

 

「なら私達を護ってくれる守護神として崇めましょう。月夜見様とは別に」

 

「なら綿月家の頭首としてこの私、豊姫が布教活動を引き受けるわ!」

 

 そう言って豊姫は走って何処かに行ってしまう。彼女の影響力があればすぐに守護神文夜と言う物ができあがるだろう。

 

「私は……お父さんと会いたい……」

 

 少しフラフラしながら依姫は私の目の前から姿を消す。きっと彼女なりの目標ができたのかもしれない。では恐らく私だけであろう。次にやる目標が存在しないのも。

 

「そうね……私が月の民のトップになるのも面白そう。蓬莱山って名乗ってみようかしら」

 

 お父さんが死んだ事を悲しまない時点で私も人のことを言えないぐらい歪んでいるであろう。なにせ……

 

「お姉ちゃんが消えてしまった日から私はもう死んでしまったも同然なのよ……」




こんにちは!

第16話を持ちまして第一部、古代編は終了です!
少し詰め込みすぎた感が強いですよね……すいません
でも総合文字数は11万文字程度なのでラノベ一冊分くらいはありますかね…?
ここの描写おかしくない?などありましたら是非、感想で御指摘頂けると嬉しいです!

では、第二部も見てください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。