長い長い夢を見ていた。その夢は僕が産まれた時から起こった全ての事象であった。楽しかった、辛かった、幸せだった、悔しかった、その時感じた感情も明確に再現されていた。
徐々に僕の意識は覚醒していく。身体の感覚も全て戻ると僕はゆっくりと目を開ける。僕の目には眠りについた時と同じように、電灯で明るくなっているシェルターが映る。身体を起こし立ち上がって周りをキョロキョロ見回していると突然、目の前に白衣姿の父さんが現れる。
「やあ文夜君。これを見ているって事は生きているのかな?」
もう会えないと思っていた人との再会。しかし、彼の言葉を聞く限り彼はこの場には存在せずただの録画された物だと気がつく。
「多分後数秒くらいすると矢印が出るからその方向を見てね」
それだけを言い残すと父さんの姿は少しずつ薄くなっていき、気がつけば消えていた。矢印とはなんだろうか?と数秒待っていると、突然宙に浮かぶ緑色の矢印が見えた。それは僕が何処を見ても同じ場所に浮いており、矢印の指す方向だけが変わる。それが指す方向を見ると、そこには冷蔵庫が一つあるだけであった。それを凝視していると再び父さんが現れる。
「これが見えているって事は全て上手くいったみたいだね。流石私!」
一体この録画された物は一体何なのだろうか?何故父さんはこんな物を残したのだろうか?あれこれ考えていると、父さんは僕に向かって歩き始めて目の前で止まる。
「色々と疑問があると思うけど今は私の言う通りにしてね。じゃあ両腕を前に突き出してこう言って。シャイン、ブルームって」
僕は言われた通りに腕を突き出してシャインとブルームと呟く。すると僕の両手の前に小さな魔法陣のような物が2つでき、そこから銃のグリップのような物が出ている。僕はそれをしっかり持って引っ張るとライフルのような物を魔法陣から取り出せた。それらの銃身は40cmくらいあり、銃口の下の辺りに斧のような刃が付いていた。二つとも同じフォルムだが、唯一の違いは右手に持つ物が黒色で左手に持つ物が銀色だと言うことだ。
「これが私の文夜君への最後の贈り物……名付けてナイツシステムかな?」
両手に持つ銃を見ていると父さんはカプセルの上に座ってトントンとそれを叩いている。
「まずこのカプセルはコールドスリープだけじゃ無くて君の身体を改造する物でもあるんだ。まあ改造と言っても目だけなんだけどね。今文夜君が見ている私の姿もその目にしか映っていないんだ」
突然の暴露に僕は目を丸くする。しかし、先ほどの不自然な矢印を見た後では妙に納得してしまう。僕もカプセルの上に座って話の続きを聞く。
「何で改造したかと言うと、今君が持つ白銀の銃、シャインと漆黒の銃、ブルームを扱う為なんだ。文夜君の剣であるアヴァランチは文夜君の能力を最大限発揮するのがコンセプトなのに対してブルームとシャインは文夜君の戦闘スタイルにあった武器と言うのがコンセプトなんだ。あっ因みにそれもアダマンタイトで出来ているから腰につけてるベルトにでも納めといて」
言われた通り腰に巻いてあるベルトに、銃をくっつける。何だかんだこのベルトにアヴァランチをつける機会は少なかったのでやっと存在意義を見出せたなどと心の中で馬鹿にする。
「で、なんでその銃と改造が関係があるかと言うと、文夜君ってアヴァランチを使わないで銃撃戦をする時に狙って撃っていないでしょ?全部乱れ撃つことで無理やり急所に当てて倒す。それだと妖力で弾丸を作る文夜君じゃ効率が悪いって私は考えたわけ」
以前、娘達を連れて行った時にやったシミュレーションはまさかこの武器を作る為だったのか?僕が何時も気にしていた部分を全て言い当てられているので、心の中を見透かされているようでドキドキしている。
「ここからはやってもらった方が早いかな。どっちでも良いから私に銃口を向けてみて」
僕はブルームを父さんに向ける。すると父さんの胸辺りにカーソルが現れる。
「カーソルが出たでしょ?それは文夜君が私のどの部分を撃とうと思ったかで出現するんだ。そしてどんな弾を撃ちたいかイメージして。連射したいのか圧倒的な火力を叩き出すか大雑把で良いから」
僕は貫くと言うイメージして引き金を引く。すると僕の腕は一人でに父さんの胸に銃口を合わせて、ブルームから細いレーザーを放つ。
「さっき私は改造したのは目だけと言ったけど実は少し違う。君の身体と銃を融合させたんだ。私の持ってる知識を全部使ってね。これによって文夜君はこれまで考えていた銃弾を作るラグ、乱れ撃つことによって無駄にしていた妖力が無くなる。でもこのシステムは完成していない」
自分の身体が変わってしまったと言う事に僕は怒りを覚えるかと思ったがそんな事はなかった。それよりもブツブツと説明している中で興味深い単語が耳につく。
「このシステムはゲームで言うところの経験値が無い状態だ。だから文夜君と共に成長する。私の計算によれば最終的にイメージしなくても欲しい弾を作り、今までの様に乱れ撃ったとしてもその全ての弾の軌道を操作する事もできると思うよ」
後は少しずつ試行錯誤を重ねてと言うと父さんはそのまま項垂れる。彼の横顔には涙が零れている様に見える。
「私の人生は何だったのだろうか?たまに分からないんだ。結局人を裕福にする物と一緒に人を傷つける物も沢山発明してきた。挙句の果てには自分の息子にまで手を出した。私はただのマッドサイエンティストじゃないか!」
僕はここまで感情的になる父さんの姿を見るのは初めてだった。これが録画した物だと知っていても僕は父さんの肩を揺する。
「ごめんね文夜君……でも安心して。こんなマッドサイエンティストは生まれ育った街と共に消えるから。もしも文夜君も死んじゃったら遠慮無く地獄まで私を殴りにおいで。それじゃあ」
目を赤くした父さんは僕を見て手を振ると、少しずつ薄くなり、その場から消えた。父さんの姿が消えた途端に、辺りは静まりかえる。
「そんな事言ったら僕だって守るべき人を……」
僕は無性に何かを抱きしめたくなったので自分の尻尾を抱きしめようと手を腰に当てると何か違和感がある。そっと自分の尻尾を見るとそこには9本の尻尾があった。どれを抱きしめてみても感覚があるので全て本物らしい。これは何を意味するのか?僕の尻尾は100年周期で一本増える。そして最終的には9本となる。一体何百年……いや、何千年僕は寝ていたのだろうか?
「……とりあえず外に出てみよう。ここにいても何も情報は入ってこないし」
僕は立ち上がり、地面に脱ぎ捨ててあるジャケットを手に取ったが、それは眠る前に浴びた返り血のせいで硬くなっていた。気に入ってた物だったが着れなくなってしまっては仕方が無いので僕はそれを地面に置き、妖力で黒いコートと袴を作ってそれを着る。そして壁に立てかけてある埃を被ったアヴァランチを背負い、扉のロックを解除する。しかし、ロックを解除したにもかかわらず扉は引いたり押したり横に引いたりしてもピクリとも動かない。少しイラついたのでアヴァランチを左手に持ち、扉に亀裂を入れる。しかし亀裂からは外の景色は見れず、代わりに土の壁が見える。
どうやらこのシェルターは土の中に埋れているようだ。アヴァランチに妖力の刃を発生させて斬ると言う妙案が浮かぶが、一体どれだけの深さの地点にいるのか分からないので却下する。
「なら……」
2、3歩後ろに下がってベルトに付けてあるブルームとシャインを手に取る。それらの銃口を扉に向けるとカーソルが現れる。引き金を引くとシャインからは青紫色の、ブルームからは白色の太いレーザーが放たれる。10秒ほど照射して、レーザーによってできた穴を見ると遠くに明かりがついていた。それが外の光だと予想した僕はその穴に入って歩き始める。それにしても先程の白色の力は何だったのだろうか?あれは妖力では無くてなんと言うか優しい温もりが感じられた。
十数分程度のんびりと歩くと、とうとう外に出ることに成功した。太陽の光はとても眩しく目を閉じてしまう。少しずつ目を開けて周りを見渡してみると、そこは街などではなかった。例えるならば僕が若い頃に生活していた外の世界。山があり木があり動物がいる。しかし、人が通る為の道があるので人間は近くにいるみたいだ。
「何これ?」
僕は近くにある何かを育てているような区画に入る。そこには植物が生えており、ガサガサと掻き分けているとその植物にはトウモロコシが実っていた。それを見ているとお腹が空いてきたので、僕はそれの芯の部分をへし折って実を露出させる。しかし、それは僕が知っている黄色の物では無く緑っぽい色であった。それでもむしゃむしゃと食べてみたがあまり美味しくない。けれどもお腹は膨れるのでもう3本へし折り、脇に抱えながらその区画から離れる。恐らくあの区画は人間が作った物だ。けれども何故ここまで人間が見当たらないのだろうか?
脇に抱えるトウモロコシが無くなる頃、道に沿って歩いていると集落の様な物を見つけた。少し歩く速度を上げてそこに辿りつくがやはり誰もいない。いや、居ることには居るが息を潜めていると言う形であった。辺りを見渡していると、背後から何かが飛んでくるのを感じたので足の先に妖力を纏わせて、振り向いてサマーソルトをする。何かを蹴飛ばし着地すると、僕はアヴァランチを左手に持って構える。しかし、僕は構えを解いた。何故なら何かが飛んで来た方向にはキョロキョロと動く目玉がついた帽子をかぶった金髪の少女が何か物を投げた後の様な体勢でいたからだ。
◇
肩にかかる長さの金髪を持つ少女は畳の上でゴロゴロとしている。側に置いてあるお皿に盛りつけられた煎餅を一枚とっては口に運ぶ。その一枚を食べ終わると畳の上に座り温かいお茶を啜る。ある程度飲んでから息を零すその姿はまさにおばあちゃんの様であった。しかし、彼女の静かな平穏は突然壊される。
「諏訪子様!外!外を見てください!」
巫女服を身に纏い、腰まで緑色の髪の毛を伸ばす14歳くらいの少女が襖を大きな音を立てて開ける。諏訪子と呼ばれた少女は面倒臭そうに目を細めて立ち上がり廊下に出る。廊下に出た途端、諏訪子のその目は変わる。なんと空に青紫色と白色の柱のような物が村から少し離れたところで発生していた。
「妖力?でもあの白色のは……」
柱の様な物が消えてから諏訪子はまた部屋に戻り畳の上に置いてある目玉の様な物が付いた麦わら帽子を頭に被った。
「沙奈枝。ちょっと行ってくるね」
「留守はお任せください!」
沙奈枝は諏訪子に手を振ると、諏訪子は手を振り返した後に神社から出る。神社から村に通じる一本道を歩きながら諏訪子は考える。もしかしたら私はやられるかも知れないと。先ほどの青紫色の柱から彼女が今までに感じた事も無い量の妖力を感じていた。もしもあれを持つ妖怪が攻めてきたら、と考えると彼女は身体が震え、涙しそうになる。
しかし、彼女には自信もあった。自分が生まれてからも何度も妖怪は攻めてきたがその度に勝利を収めてきている。何時も通りにやれば全てが上手くいく。それに彼女は負ける事などあってはならない。それはここ一帯を収める者として、守る者として、そして神として。
諏訪子が村に到着すると既に人の姿は無かった。しかし、見慣れない人物がキョロキョロと辺りを見渡しているのが目に入る。その人物は銀色の髪の毛が膝位にまで伸びており見たことが無い黒い服に身を包む。そして一番の特徴は9本の狐の尻尾が生えており、大きな剣を背負っていると言うことだ。その人物が妖怪であると確信し、自分の存在にまだ気がついていないので諏訪子は懐にあるここ一帯で取れる特別な金属からできたチャクラムを取り出して投げつける。諏訪子はそれで勝利を得たと思ったが、彼はチャクラムを蹴り上げて剣を構える。
「コラ!人にいきなり物を投げたら危ないでしょ!」
剣を構えるのをやめた彼は剣をまた背負い、諏訪子の目の前に移動すると諏訪子と目の高さを合わせるためにしゃがんで説教を始める。諏訪子はそれによって自分は舐められているのか?と思い目を細める。
「いきなり神である私が収める地に踏み込むお主が悪いのだぞ妖怪。私がいる限りこの村に手出しはさせない」
「ほーらお兄さんが遊んであげるよー」
彼の全く諏訪子を神だとは信じていない態度は逆に諏訪子を怖がらせる。もしや神など取るに足らない存在であると言う余裕から来ているのではないかと。
「お前絶対信じてないだろ……?」
「僕は昔から神様なんて信じてないから。本当に神様なら証拠とか見せて欲しいな」
「そこまで言うなら見せてやろう。我が神力を……!!」
諏訪子は恐怖を押し殺し、目を閉じてから神力を身体から放った。すると彼の身体は一瞬ビクッとしていた。
「この力……結婚式の時に感じたのと似ている……でもあの時程強くない……これが神力?」
彼が何かを呟いているのが耳に入り、もしや神力を目の当たりにして驚いていると考えた諏訪子は気分が少し楽になり高笑いをする。
「ふはははは!どうだ!驚いただろう!さあ武器を構えろ!このチャクラムの餌食にしてやろう!」
「なら遠慮無く行かせてもらうよ!」
諏訪子がチャクラムを構えると彼は左手で大剣を持ち、凄まじい速さで諏訪子に向かって走り出した。
「な、なにこのスピード?!えいっ!」
あまりの速さに驚いた諏訪子は先ほどまでの高圧的な感じでは無く少女のような口調になる。そして慌ててチャクラムを投げるが彼は軽々と大剣で弾いた。
「え、えーと……わ、私は祟り神だ!ミシャグジの呪いを受けてみろ!」
諏訪子が両手を前に突き出すと周りに黒色の蛇の様な物体……ミシャグジと言う物が出現し、それは彼を目掛けて飛んでいった。彼女の自信の源。それがミシャグジによる呪いであった。神力はただでさえ妖怪にとっては毒なのにそこに呪いの力が加わる。それを受けた人間は数ヶ月寝込み、妖怪などが当たれば一瞬で息の根が止まると言う最強の技でもあった。
彼女は勝ちを確信して得意げな顔をする。しかし、ミシャグジが彼に触れた瞬間にそれは粉々にくだけて消えてしまった。
「……え?今のって神力?なんで?妖怪が神力を持つなんて……」
ミシャグジが触れる瞬間に彼の身体に白色のオーラが見えた諏訪子は予想外の出来事のせいで隙を見せ続けている事を忘れてポカーンとしてしまう。彼は諏訪子の目の前に迫り、顎のあたりを叩くと諏訪子の意識は失った。
◇
「すごく弱い……まだ咲奈の方が強いよ」
気絶して倒れている少女の前で考える。このまま放置しておくのは何か嫌だ。それにできるのならばいろいろと聞いておきたい事もある。僕は少女を肩で担いで辺りを見渡すと、少し離れたところに神社のような物がある事に気がついた。自分の事を神と言っていたので神社に住んでいるのでは?と考えたのでそこへ向かって歩き始める。実は神社と言う物がよくわからないのだ。僕たちの唯一神であった月夜見の神社があると言われていたが何処にあるか本当に存在したのかよくわからないのであった。
あれこれ考えていると神社の敷地に着いた。さて、どうするかと見回すと白色の服としか言えない不思議な物を着ているだいたい14歳くらいの女の子が箒を片手に僕の元にやってきた。
「参拝のお方ですか?すいませんが諏訪子様は現在凶暴な妖怪退治に……って諏訪子様!?」
女の子は僕が担いでいる少女に気がつくと箒を逆さに持ち、それを振りかぶろうとする。
「あ、あなたがやったのですか!?見たところ妖怪のようですし…ならば巫女である私がこの手で……!」
巫女と言う物はなんだろうか?良くは分からないが妖怪を退治するような物と言うのは分かった。しかし、見たところ普通の人間なのでできるのであれば揉めるのは避けたいと思う。
「落ち着いて。僕は倒れているのを見つけたから運んできただけなんだよ」
「あ、あなた様が諏訪子様を助けて下さったのですか?」
「うん。それでここまで連れてきたんだ」
すぐに思いついた事をてきとうに言っていたが、なんと彼女は僕の事を信用している様であった。なぜ神様である事を知っているのかを言い忘れたが、彼女は気にしてはいないようだ。
「あ、ありがとうございます!なんとお礼をすれば良いのでしょうか!」
女の子は綺麗に90度頭を下げてお礼をした。素直な子に嘘をつく事に罪悪感を覚えるが、ここで揉めることの方が僕にとっては辛かった。
「とりあえず名前を教えてくれないかな?僕は……美音文夜」
「えーっと……何ふみやさんですか?」
僕は八意と名乗るか悩んだが、旧姓で自己紹介をすると彼女は不思議そうな顔をしていた。どうやら美音と言うのが彼女には発音できないようだ。
「まあ文夜でいいよ。君は?」
「はい!私の名前は沙奈枝です!よろしくお願いします!」
これがしばらく生活を共にする二人との始まりの出来事であった。
〜蓮子の部屋〜
蓮「第二部始まったねー」
メ「私達の役割は何も変わらないけどね。蓮子がアホな事をして私がツッコミを入れる」
蓮「メリーがアホな事をしてくれても良いのよ?」
メ「私はパス。そんな事をするくらいなら結界でも見てるわよ」
蓮「まだ結界とか言ってるの?そろそろ痛いわよ」
メ「本当に別の世界が見えるのだから仕方がないでしょ?」
蓮「はぁ……まあいいわ。それにしても文夜が目を覚ました時代と元々住んでいた時代って結構違うの?」
メ「もしも私達がいきなり平安時代に行っちゃったら多分分からない事だらけよ?」
蓮「それと大体同じ感じなのね。でも田んぼを知らないって結構すごいわよね」
メ「東京とか都会のど真ん中に田んぼとか畑って無いでしょ?文夜は所謂完璧な都会っ子だから仕方が無いわよ」
蓮「私も全く知らない物に触れてみたいわね……」
メ「なら貴女も私と一緒に結界を見ましょう?」
蓮「それは無い」
こんばんは!
第17話から第二部の開始です!
古代編は平成の様でもう少し進歩した世界をイメージしていましたが、ここからはなぜか田舎のような世界をイメージして行きたいと思います!
所謂実際の歴史と比べて現代っぽい感じと言いますか……まあ頑張ります
では……次回も見てください!!