まだ、科学が急激に発展し始めた時代。私は洗面所の鏡の前に立っている。鏡の中には黒いワンピースを着た水色の髪で顔が整った綺麗な女性がいた。もちろんそれは私。私は自分の美しさには絶対の自信がある。
……と言うのは流石に冗談。しかし、唯一の親友と久しぶりに会う約束をしているので私は気合を入れてお化粧をしているのだ。最後に黄色い花の柄のヘアピンをつけてから、足元に置いていた手提げのバッグを持ち、洗面所から出て長い廊下を歩く。
私の住んでいる家は庭を囲む様に和風の建物が建っていると言う変わった構造になっている。私は廊下を歩いている時に庭を見ていて飽きないように、とたくさんの花を育てた。
ぼーっと花を見ながら廊下を歩いていると、玄関に到着した。私は靴べらを使って黒いハイヒールを履き、そして立ち上がってとても大きな声で言う。
「行ってきます!」
少しくらい大きすぎると思う程の声で言わないと玄関から離れた部屋で研究をしている私の夫に声が届かないのだ。私は返事が返って来るかと期待してその場で待つ。しかし、なかなか夫の声が聞こえてこないと言うことは恐らく私の声は届かなかったのだろう。私はちょっと寂しさを感じながら玄関から飛び出した。
家を出て十分程歩き住宅街を抜けると商店街に着いた。今日は休日なのせいか目に付くケーキ屋は若そうな女性で満員になる程商店街は賑わっていた。私はそんな光景を横目に目的地へ向かう。
しかし私はとある店の前で足を止めてしまった。それはブランド品を数多く扱う店だ。ガラス窓から高級なバッグなどが見れるのでつい立ち止まってしまったのだ。けれども腕時計で時間を確認してもう少しで約束の時間になってしまうと気がついた私は再び歩き始める。私にとってブランド品なんかを買うよりも親友と会う事の方が優先度は高い。私はさらに数分歩くと目的地であるファミレスの前に到着した。少し緊張しながらも自動ドアをくぐり抜け、ファミレスの中へと入ると、予想通り店内はとても人が多かった。客層は若い男女が大半を占めており子連れの家族は一組もいない。なぜならそういう時代なのだから仕方が無いとしか私は言えない。
その様な事を考えながら店内を見渡していると、カウンター席で飲み物を飲んでいるポニーテールの女性が目に入った。その女性の着ている服は私のワンピースと同じデザインであるが色は黒色と対をなす白色だ。それで彼女が私の探している人だと確信を得た私は、彼女の横に空いている席に座り声をかけた。
「久しぶりねこうして会うのも。元気にしていたかしら美音菊花さん?」
私はニヤニヤしながら言うと振り向いた彼女……私の親友の菊花は目を丸くして私を見る。学生時代の頃に同じことをした時と同じ反応をするものだからとても懐かしく感じる。
「そう言う貴女も元気にしていたの?八意柚希さん?」
「……ふふっ」
「あははは!久しぶりに会って最初の会話がこれって何よ!」
彼女は負けじと笑顔を私に向けるので私達は表情を変えずにしばらく見つめあっていた。私は睨めっこをしているようでおかしいと思い吹き出してしまった。そんな私を見た菊花も吹き出し、お腹を抱えて苦しそうにしている。ひとまず先に落ち着いた私は菊花を強く抱きしめる。
「こうやって話すのも大学時代以来ね菊花!」
私と菊花の出会いは高校時代であった。仲良くなったきっかけは漫画でよくありそうな席が隣であった菊花と何と無く話しているととても楽しかった、と言うとてもベタな物であった。他にも幾つか理由はあるのだが今語る事ではない。
「お互い結婚しちゃったしね!かれこれ8年振りかしら……」
菊花はカウンターの上にある飲み物を一口飲みながら学生時代を思い出している様子であった。
「積もる話もたくさんあるけど……実は報告したいことがあるの」
菊花は先ほど打って変わり真剣な顔をする。一体どんな深刻な話をその綺麗な口から発するのだろうかと私は期待する。
「実は私……妊娠しているの」
「そう。実は私もよ」
「なんですって!?」
私が動揺せずにすぐに言い返すと、私がそれを聞いて驚くと予想していたのに予想外な事を言われてしまい驚いてしまったのか菊花は席を立ち上がっていた。
「素数を数えるんだ……素数は孤独な数だから私を落ち着かせて……」
すると突然、菊花は頭を抱えてブツブツと素数を数え始めるが、とても落ち着いている風には見えない。何より周りの客からの目線が痛いのでやめてほしい。
「菊花は何訳がわからないことを言ってるのよ」
「いてっ!」
視線に耐えきれなくなった私は菊花の頭にチョップをした。菊花は唸りながら席につき、コップに入っている飲み物を一気に飲み干す。
「落ち着いた?」
「取り乱しちゃってごめんなさい」
あははと苦笑いをしながら菊花頭をかいていた。それに呆れた私はため息をつく。
「そういえばなんで私に報告してくれたの?」
「なんでって……親友の柚希に伝えたいって思う事は変かしら?」
この子は真顔でなんて事を言ってくれるのだろうか。私は恥ずかしさで顔が赤くなっていくのを感じた。
「貴女はさらっと嬉しい事を言ってくれるのね。まあ私も唯一の親友の菊花に伝えても良いかなって思ったから言ったんだけどね!」
私は恥ずかしさのあまり早口で喋る。しかし私は早口で喋りながらも菊花の表情があまり良くない事に気がついた。
「どうしたの菊花?」
「実はね。私の話はこれだけじゃないのよ」
菊花は俯きながら呟いていた。やはりか、と私は心の中で呟く。どう考えても妊娠しただけで8年も会っていなかった友人と会いたいと思うだろうか?私なら手紙だけで済ませる。
「菊花が暗くなる何て珍しいわね。どうしたの?」
「実は……お腹の中にいる私の子供は半妖なのよ」
半妖。つまり人間と妖怪の間の子供と言うわけか。私達が住むこの世界には「人間」と「家畜」と「妖怪」が存在する。人間は……まあ私達の様な生き物である。家畜は人間が利用する為の生き物だ。そして妖怪。それは人間の恐怖から生まれると言われている生き物である。妖怪は今の時代、「穢れ」と言われ人々に嫌われている。
「……それで、菊花はどうしたいの?」
「え?」
私は優しく微笑みながら質問すると菊花は私の反応が予想外だったのかきょとんとしていた。
妖怪との間にできた子供がお腹の中にいる?だから何?私はそんな事で菊花を嫌いになったりなんかしない。それに何故、穢れと称して妖怪を妬み嫌うのかが私には理解できていないのだ。
「私に相談してきたって事は何とかしてほしいのでしょ?学生の時みたいにね」
菊花は何時も私に頼っていた。学生時代、テスト前日に勉強教えてって毎度私に泣きついてきた光景を何故か鮮明に思い出していた。
「柚希ぃぃぃ!」
「もう泣き始めちゃって……よしよし」
「親にも縁を切られて……相談する相手もいなくて!」
菊花は私に抱き付いて子供の様に泣き始める。きっと誰にも相談する事もできなくてずっと一人で抱え込んでいたのだろう。私は優しく彼女の頭を撫でてあげる。数分後、泣いた事でスッキリしたのか菊花は手で涙を拭いていた。
「泣いたらスッキリしたわ……ありがとね」
「良いのよ親友でしょ?それで、結局、菊花はどうしたいの?」
「半妖だとしても、私の子供。だから産みたい」
私はまだ菊花の意思を聞いていない。本人の意思を尊重しない答えを私は出したくないと考えていたが、菊花の何か強い意思を感じる瞳で自分のお腹を摩っている姿を見て、私は彼女にちょっと意地悪をしてあげようと思った。
「でも周りはそれを許さない。さらに子供は迫害を受けるかもしれない。だから豪族の八意家に嫁いだ私に権力で子供を守ってほしいって訳ね」
「……うん。ごめんなさい」
私はわざとキツイ言い回しで言う。飴だけを与えていると完璧に甘えてしまうのでは?と考えて昔からこうして意地悪をしているのだ。けれども申し訳なさそうに頷く菊花を見てもう意地悪する気は無くなっていた。
「不三屋の超大盛りデラックスパフェver4」
「え?」
「それで手を打ってあげるわよ。頼み事なんて昔から多かったでしょ菊花は。これくらい何とも……」
突然私が放った事を理解できなかったのか彼女は顔を上げる。そして何の事か理解すると、彼女はまた涙を流し始めていた。もう精神的に菊花の体力は限界みたいだ。
「ほら泣かないの!菊花は笑っている方が可愛いんだから!」
私は涙を流している菊花の頬を引っ張って無理やり笑顔を作ってみせた。やはり親友の笑顔は無理矢理作ったものだとしても最高だ。
「ひ、ひはいはらやめへよ!」
菊花は別の意味で涙を流し始めそうだったので私は手を離す。周りの人達は重い空気を感じ取っていたのか私達の奇行をジロジロ見るなどはしなかった。
「それじゃ……早速私の家にこない?」
「うん!」
私は席を立ち上がりバッグを肩にかけると女性の店員さんがやってきた。いろいろとこの店と客に迷惑をかけてしまったので謝らなければいけないと思う。
「お客様。ご注文を……」
「……ランチセットAで」
私が謝罪を述べる前に店員さんは非常に言いにくそうな顔で私に言った。私はすぐさま思いついたメニューを伝えてまた席につく。その光景を菊花と他に見ていた人はクスクスと笑っていた。
「ああ恥ずかしい……」
私はカウンター席に突っ伏して真っ赤になった顔を誰にも見られない様に隠したのであった。
〜蓮子の部屋〜
蓮「なんでメリーの部屋はいつも綺麗なのかしら……」
メ「逆に聞くけどなんで蓮子の部屋って汚いの?」
蓮「勝手に汚くなるの!」
メ「じゃあ私も勝手に綺麗になるのよ」
蓮「じゃあって何よじゃあって!」
メ「そんな事より」
蓮「そんな事って何よ!」
メ「台風すごいわね……」
蓮「あーあれねー」
メ「ニュースで雨によって床下が浸水とか見て怖かったわよ」
蓮「でも私達が住んでいるところはそんな大きな被害は受けないでしょ」
メ「わからないわよ?もしかしたら電気が使えなくなったり……」
蓮「……ちょっと非常食買ってくる」
メ「一人じゃ寂しいと思うから私もついて行くわよ」
蓮「そう言うメリーの方が寂しかったりしてー」
メ「……」
蓮「え?本当にそうなの?」
メ「そうよ!一人じゃ寂しいのよ!」
蓮「そ、そんなに怒らないでよ」
メ「ほらぱっぱと行くわよ!」
蓮「ひ、引っ張らないで!服が伸びちゃう!」