とあるオタク女の受難(終末のワルキューレ編)。   作:SUN'S

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第2話(ブリュンヒルデ)

《北欧神話最強の雷神ッ!!その冷たき瞳が映すのは人類の滅亡か、あるいは敵の凄惨な末路か!!》

 

《対するは人類史上最も不老不死に近付き、ありとあらゆる災厄災害を打ち砕く女傑ッッ!!誰が呼んだか無敵のヒィィロォォッ!!!》

 

私の知り得た人類史上最強の女性達の先鋒として治崎日暈を選んだ。彼女は正しく全人類の中で最も生命力の高い人物だ。

 

彼女の神器錬成は「ブーツ」。本来ならば武器や防具を望んでいたが、彼女の経歴や人生において本格的な武器の使用は一度もない。

 

たとえ有ったとしてもだ。

 

それは彼女の即席や即興のよるもので本来の使い方ではないものばかり。正直に言ってしまえば冗談半分おふざけで使ったら武器でしたと言われているようなものだ。

 

「まさかのトールかぁ……」

 

そう困ったように呟く彼女はカーディガンを脱ぎ捨て、ノースリーブのシャツを露にする。純粋な筋肉の鎧で覆われた美しい肢体に人類も神々も挙って息を飲んだ。

 

それは当然と言えば当然だ。

 

彼女の固有能力「活性」は肉体の急激な成長を補助し、更なる強さを与える。彼女の生涯は鍛練の結晶であり、最強を目指す者の頂点に限り無く近い人物なのだ。

 

「中々に練り上がっている」

 

「ふふっ、神様に褒められるなんて人生なにがあるか意外と分からないね。まあ、私は勝つつもりで来てるので、よろしく神様っ!」

 

《それでは試合開始ィッ!!!》

 

レフェリーの掛け声とほぼ同時に彼女は飛び出し、ニョルニルを構えていない雷神トールの右頬に切り傷を残す。あまりにも速い蹴り、辛うじて着地の瞬間は見えたけど。

 

「ね、姉さま今のってなんスか!?」

 

「おそらく飛び蹴り…かしら?」

 

私は説明を求めてくるゲルに推測もしくは憶測の答えを話す。しかし、これならば雷神トールを倒せるかもしれない。

 

「人間にしては速いな……だが、遅い」

 

雷神トールの呟きと共に振り回されるニョルニルを紙一重で避ける治崎日暈を見る。たった一発でも当たれば即死モノの攻撃を受け流し、そのまま体勢を崩すのに利用している。

 

トトッとわき腹に軽くタッチしたかと思えば胸元に強烈な掌底を叩きつける。まさか外した?そう思った次の瞬間、雷神トールが血を吹いた。

 

「神様にも兇叉は効くのね」

 

確か三方向から打撃を打ち込み、その中心点に絶大なダメージを与える必殺技のはずだ。それを暴風の如く振るわれる絶死の乱撃の中で放ったというの?

 

いったい、どんな精神をしてるのよ。

 

「……名を…聞いておこう…」

 

「えと治崎日暈ですけど、なぜ今?」

 

「死ぬなよ?」

 

「ああ、それは心配しなくて大丈夫です。私はヒーローなので死ぬつもりも負けるつもりもないので…それじゃあ、此方も行きますよ」

 

そう言い残して治崎日暈は消えた。

 

いや、正確に言えば雷神トールを中心として上下左右前後ありとあらゆる場所から攻撃を放っている。北欧神話最強の雷神トールが、一介の人間に手も足も出ず、一方的に叩きのめされている。

 

あまりにも異質な光景に唖然としていたが、雷神トールがニョルニルを振るった瞬間、闘技場の壁に何かが叩き付けられた。いや、何かではない。さっきまで善戦していた治崎日暈だ。

 

「…ッ…」

 

「そんな、ひどいっすよ」

 

衝撃波でズタズタに引き裂かれたシャツに夥しい血を滲ませ、ゆっくりと壁から崩れ落ちる姿に目を反らし掛け、直ぐに視線を戻す。

 

「これが神様の一撃、すっごい痛いね」

 

何事も無かったかのようにトタッと着地して、雷神トールへと歩み寄る治崎日暈、それを攻撃することなく迎え入れる雷神トールを交互に見比べる。

 

「やはり、これも耐えるか。だが、永劫にも感じていた退屈が嘘のようだ」

 

退屈、窮屈、虚無、絶望、治崎日暈と対峙する直前まで雷神トールが抱えていた圧倒的孤独感を彼女は攻撃を受けきることで打ち消した。

 

「治崎日暈、今はただ…」

 

「いいよ、今だけは…」

 

雷神トールが脈動するニョルニルを担ぎ上げ、治崎日暈がランドグリーズとの神器錬成によって生まれた片足(ブーツ)を持ち上げる。

 

「「心行くまで戦いを」」

 

治崎日暈の前蹴りと雷神トールの振り落としがぶつかり、凄まじい衝撃波と空間の軋む音が聞こえる。強い、強い強い強い強い強い強い強い治崎日暈チョー強いッッッ!!

 

これなら雷神トールにも勝てる!!

 

「ライダーきりもみシュートッ!!」

 

「ぐっ、おおぉぉぉ!!?」

 

雷神トールの豪腕に振り回されるニョルニルを無理やり掴み、治崎日暈は竜巻の如く雷神トールをその体ごと空中へ投げ飛ばす。

 

「ライダージャンプ」

 

ブーツの側面に現れたジャッキが動き、その反動で雷神トールよりも上空へと治崎日暈は舞い上がる。くるりと反転して雷神トールを見下ろし、いっきに急降下する。

 

「俺は敗けんッ!!!」

 

「これが虹色の脚だアァァァッ!!!」

 

ニョルニルの猛追を蹴り潰し、雷神トールの顔面に治崎日暈の蹴りが突き刺さる。いや、完全に蹴り砕いた音が聞こえた。

 

《まさ、か、まさか、まさかっ!!あの雷神トールが人間に敗れたぁ!?大判狂わせ、ジャイアントキリング!第一試合勝者は治崎日暈ァ!!》

 

「勝ったぜ、ブリュンヒルデさん!」

 

そう左腕を突き上げるようにガッツポーズを決める治崎日暈にサムズアップを返す。幸先順調、このまま勝ち進んでみせる!!

 

 

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