とあるオタク女の受難(終末のワルキューレ編)。   作:SUN'S

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第8話(ヘラクレス)

治崎日暈、拝郷月乃、ナハティガル・クラウザー・フォン・シュトロハイム、三連敗という形で神々は人間の強さを知った。俺の対戦する相手もまた強き者と期待し、闘技場へ来てみれば唖然とした。

 

これまでの三試合すべて見下ろすように観戦していたブリュンヒルデが車椅子に乗った女性を連れてきた。この今にも消えてしまいそうな人間が俺の戦う相手だというのか。

 

《その出会いは数奇な運命、彼女は語られぬ歴史の立役者アレクシア・エインズ!》

 

《不屈の闘神、正道こそ我が道なり、ヘラクレス!!》

 

「よろしくお願いします、ヘラクレス」

 

にこりと微笑むアレクシア・エインズから視線を外してブリュンヒルデを睨み付ける。どういうつもりだ。このような病に蝕まれた女性を出場させ、まともに戦えると思っているのか!?

 

「降参しろ、お前では俺に勝てん」

 

「多分、そうなのでしょうね。ですが、私はヘラクレスに勝たなくてはいけません。私の命を賭けて、貴方を倒します」

 

そう静かに宣言するアレクシア・エインズへと棍棒を振り下ろす。せめて痛みを感じる間もなく葬ろう。しかし、俺の一撃は彼女が持っていた日傘によって弾かれ、彼女も後ろに吹き飛んだ。

 

あの日傘が神器錬成されたものだったのか。いや、それならば簡単に折れる訳がない。ゆっくりとアレクシア・エインズに歩み寄る。

 

「ああ、その場所は『泥濘』気をつけて下さい」

 

「案ずるな」

 

おそらく湿っている地面を言っているのだろうが、これぐらいで転けたりしない。ゴロゴロと不安定な道を車椅子で動くアレクシア・エインズを追いかけようとした瞬間、俺の足が地面に飲み込まれた。

 

「さっきの言葉は、これのことか。いったい、どういう能力なんだ?」

 

「それは私には言えません」

 

俺の言葉に困ったように微笑むだけで答えてくれないアレクシア・エインズへ棍棒を投げる。当たりはしないが、これで身軽になった。ゆっくり沈んでいく足を持ち上げ、いっきに駆け抜ける。

 

「フレック、行きますよ」

 

そう言って本と万年筆を構えたアレクシア・エインズから『文字』が飛んでくる。『殴られる』『蹴られる』『激しい痛み』『骨が折れる』など無数の走り書きが俺の身体に当たり、その言葉通りに傷が現れる。

 

だが、一歩さらに進む度に「負けるな、ヘラクレス!」「やっつけろ!」「がんばれ、ヘラクレス様!」「そうだ、行け!」と声援が聞こえる。

 

それと同時にアレクシア・エインズの攻撃を受ける度に「やめろ、女ァ!」「さっさと引っ込め!」「ヘラクレス様になにするんだ!」という罵詈雑言が聞こえる最中、俺は棍棒を振るった。

 

しかし、俺は見てしまった。

 

皆の罵声に涙しながら此方を見上げるアレクシア・エインズを、人類のために戦っている彼女へ人類も神々でさえ罵倒を浴びせ、判断を鈍らせた。

 

「ちがっ、そんなつもりは……」

 

俺は正しい者の味方だ。ラグナロク終幕後は人類の救済を望むつもりだ。だが、その人類が病に蝕まれながら戦う女性を蔑み、本来は憎むべき俺を応援している。

 

なんだこれは、なんなのだ。

 

「落ち着いて、ヘラクレス。まだ私は生きているし、まだ私は貴方と戦っている」

 

ひしゃげた車椅子の手すりを杖代わりに這いずるように近づいてきたアレクシア・エインズを見る。血だらけで片腕は折れ曲がり、今にも死にそうな女性がペンを構える。

 

「俺のま───っ」

 

「その言葉だけはダメよ。貴方は不屈なのでしょう?だったら怯まず脅えず私を倒しなさい」

 

「……ああ、そうだ。俺はヘラクレス!お前を倒すため全身全霊で挑もう!」

 

「それでこそヘラクレス…」

 

彼女は苦痛に耐えながら無理やり立ち上がり、俺にペンを突きつけ、優しく微笑んだ次の瞬間、全方位から放たれる俺の棍棒と同じもの。

 

「これが奥の手か」

 

「えぇ、私の子供から返してもらったものに宿った力、それが最後の切り札、これで終わり」

 

「すまない。だが、必ず人類を救う」

 

「それを聞けただけでまんぞ…」

 

彼女の首を斬る。そのつもりで振り上げた右腕が、深々と彼女の胸元に突き刺さっていた。なにが起きた。これは、いったい、なんだ!?

 

「〈レヴィー・ブレイク〉。私の傷をヘラクレスに叩きつけ、彼の意識を消して」

 

その言葉と共に身体中にダメージが現れ、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

ここは医務室なのか。

 

ちらりと横を向けばアレクシア・エインズも同様に眠っていた。いや、彼女のほうが俺よりも重傷で、今にも消滅してしまいそうだ。

 

「ヘラクレス兄様、お加減はどうっすか?」

 

「ゲル、来てくれたのか」

 

「はいっす!でも、姉様は来て直ぐ帰って」

 

「いや、それは問題ない。むしろ今回の結果はブリュンヒルデのシナリオ通りなのだろう。俺の意識を奪い取る手札、俺の意思を揺るがす相手、そのどちらも使えるのは彼女だけだ」

 

未だ目覚めないアレクシア・エインズへと近づき、今回は妹の作戦で引き分けだったが、いずれ生まれ変わった時は再び戦おう。

 

 

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