ギーツ成分薄めになっていくと思いますのでご容赦ください。
それとサブタイをつけるようにしてみました。オサレ……でしょうか? どうやら私の中二病は完治してしまったようで、この程度が限界でした……
10 異変Ⅰ/ 入学と疑惑
――――
――
――目の前に立ちふさがる人間とは言い難い、人型の異形。
和服を身にまとい刀を持った異形と、爆豪 勝己は戦っていた。
(クソッ! キリがねぇ……っ!)
個の強さは全く脅威ではない。彼の個性で爆破すればいとも簡単に撃破できた。
だが――真の脅威はその数。斃せども斃せども尽きることのない異形たちの軍勢は、次第に爆豪の心を蝕み始める。
『ピアーブ』
『チッ……クソがッ!』
爆豪の個性は手のひらの汗腺からニトログリセリンのような物質を生成する。つまり手汗をかけばかくほど強く、戦い続けるごとに火力を増していくスロースターター。
そして彼自身の戦闘センスと持久力。これらが組み合わさることで彼は無類の戦闘能力を発揮していた。
『はぁっ……! はぁ……っ!』
持久力は申し分ない。だが、永遠ともいえる長さの戦いは、次第に爆豪の注意力を蝕んでいき――
『っ!』
異形の刀が爆豪の右手首を切断する。
血しぶきをまき散らしながら飛んでいく右手は、汗腺に残っていたニトロが原因で爆発する。
続けて左手首も切断され、爆豪の
『ピアーブ!』
異形達の刀が四方八方から突き刺さる。
もはやどこが痛いのか、どこを刺されているのかすら曖昧な感覚の中、爆豪はそれでも闘志を失くさず切断された腕を振るう。
その様子を異形達は愉快そうに笑い、いたぶる様に刀を左右にねじっている。
『がはっ……!』
爆豪の口からおびただしい量の血反吐が迸る。
刀が抜き取られると、その体は力なく崩れ落ち――
――――
「――っはぁっ!?」
爆豪は飛び起き、自分が生きていることを確かめる。
心臓は痛いほどに拍動し、全身汗だくで寝間着はぐっしょり濡れていた。
「クソッ……! なん、なんだ……この夢は……!」
自分が謎の生命体に殺されてしまう夢。ここ数日同じ夢ばかり見ていた。
「クソッ……! クソッ……」
念願の雄英高校合格。入試は実技1位であり正に彼の人生設計と違わぬ結果だった――
中学で唯一の雄英高校合格、高校生活を優秀な成績で終えプロデビュー、そしてビルボードチャート1位となり高額納税者ランキングに名を刻む。その計画の第一歩を出鼻からくじかれてしまったのだ。
しかもそれを阻んだのが“無個性の出来損ない”と思っていた幼馴染――緑谷。
その上、緑谷が陰ながら清掃を続けていた海浜公園がマスコミの目に留まり、“無個性の少年がよみがえらせた海岸線”と言うことで有名になっていたのだ。
「クソッ」
爆豪はベッドに拳を叩きつける。
気にも留めていなかった路傍の石は、気が付けば目の上のたん瘤となっていたのだ。
「ふざけんな……っ! 俺は、絶対に……!」
人生で初めて味わう挫折。
次こそは負けない。己を顧みて次への糧とする。
だが――
「……っ!」
しかし、どれだけ強く忘れようとしても、己を貫いた刀の感触は消えないのだった。
――――
――
時は流れ、4月。
多くの若者が新たな生活へと胸を弾ませる時期である。
(……結局、すぐには始まらないのか)
緑谷は雄英高校への道すがら、リュックの中に入れてあるデザイアドライバーへと思いをはせる。
――――
――ENTRY
デザイアドライバーを受け取った緑谷は早速ベルトにIDコアを装填する。
懐かしいデザイア神殿。
「……あれ?」
そこは記憶にある姿と比べてやや薄暗く、そして人っ子一人いなかったのだ。
「――何やってんの?」
戸惑う緑谷に声をかけたのは、嫌味ったらしい表情が特徴的な金髪の少年。彼は緑谷が現れたことに驚いているようで、その目を丸くしている。
「え……っと、その。まだゲームって」
「やる気があるのは結構だけど、まだ参加者にドライバーを配っている段階さ」
少年は呆れたように鼻で笑っていた。
「いずれ呼び出しがかかる。その時まで我慢だ――同じ
――――
(もうあれから1か月は経つけど……一向に呼び出しが来ないし)
同梱されていたスパイダーフォンは一向に鳴る気配がない。
まだドライバーの配布は済んでいないのだろう。
(本当に審査してたんだな……)
そうこうしているうちに雄英高校に到着。
巨大な校舎へ足を踏み入れる。
(っ今はデザグラじゃなくて学校生活に集中しよう! 僕は結構出遅れてるんだし、遅れを取らないようにがんばらなきゃ!)
教室の扉は、巨大な体格の生徒に合わせてか大きな作りとなっていた。
緑谷は新たな出会いに胸をときめかせ、まだ見ぬクラスメイトを前に緊張しきっていた。
「――――! ――」
「! ――」
教室では早くから登校していた者たちがワイワイと語らっていた。緑谷は少し出遅れたように感じながら教室の扉を引く。
「――や、久しぶりだね♪」
扉を開けると見慣れた顔があった。
狐の耳に狐の尻尾、中性的な顔立ちは男と言われれば男に見えるし女と言われれば女に見える。小麦色の髪はアップでまとめられている。
「え、エースさん!」
ずっと年上だと思っていた緑谷は、エースが同じ教室にいることが信じられなかった。
「え、もしかして知り合い?」
一緒に話していた、稲妻のようなメッシュの入った金髪の男子が緑谷の方を向く。
緑谷はコクリと頷いて近づいていく。
「ああ、
エースは楽しそうに微笑んでいる。
デザイアグランプリの事をどう説明しようか思案していた緑谷だったが、彼(?)のフォローもあって口を滑らせずに済みそうだった。
「う、うん! ずっと年上の人か、と……」
緑谷はその瞬間、エースが
「え、あっえっ……嘘ッ? 君、もしかして……女の子なのッ!?」
「ふふ……」
驚いて腰を抜かしている緑谷を、エースは楽しそうに微笑みながら見ている。
「あーわかる。俺も最初男かと思って驚いたわ」
腰を抜かして立てなくなった緑谷に金髪男子が手を差し伸べてくれる。
「俺、上鳴 電気。よろしくな!」
「あ、緑谷 出久です……」
二人のやり取りをエースはにこやかに見つめている。
緑谷は女子であるとわかった途端、顔を合わせるのが気恥ずかしくなってしまった。
「ふふ。どうしたんだい? 目を逸らして」
「い、いや……ずっと男だと思ってて……その、なんというか」
おどおどしている緑谷をからかうようにエースは顔を近づけていく。
意識すればするほど直視できなくなり、緑谷は顔を真っ赤にしながら後ずさる。
「はは~ん……」
上鳴はその様子を見て全てを察し、同時に新たな出会いが潰えたことを知る。
恋とはかくも儚い物である。
「悲しいな。この前までずっと私を見てくれていたのに♪」
「ほ、ほんとごめ――」
緑谷は後ずさりすぎて誰かにぶつかってしまう。
「ってぇなクソナードッ!」
それは幸か不幸か、幼馴染の爆豪だった。
「わっごめんかっちゃん!」
「よりによっててめえと同じクラスかよ……ッ! ふざけたクラス分けしやがってッ!」
虫の居所が悪かったようで、爆豪は三白眼を思い切り釣り上げて怒り狂っている。
「クソッ! んでのこのこ進学してんだ? 無個性の雑魚は即落第が目に見えて――」
爆豪が緑谷の胸倉をつかもうとするのを、エースが割って入って止める。
彼女(?)の表情はとても険しく、その狐耳は大きく後ろに倒されている。
「酷い言い草だね? 彼はとても勇敢な男だ。君なんかよりよっぽど
「あ? てめえどこ中だ?」
爆豪はそんな彼女(?)に対して思い切りメンチを切る。
二人の視線がぶつかり合って火花を発生させているかのように感じた。
(え、えらいこっちゃ……!)
緑谷は一触即発状態の二人からそろりそろりと距離を空ける。
「答えたくないね。君とは初対面だが、私は既に君のことが嫌いだよ」
「はっ! てめえなんかに好かれたかねぇわクソ狐!」
緑谷はにらみ合っている二人の間で右往左往する。
まさに“私のために争わないで!”の状況だが、何も入学初日にやることではないだろう。
「――入学早々元気があってよろしい」
殺気を感じ、三人は振り返る。
教室の入り口では無精ひげに長い髪の浮浪者じみた男が立っていた。ほんの少し前まで寝袋に入っていたようで、足元には寝袋が落ちている。
「暴力沙汰は理由の如何に問わず謹慎処分だ。くれぐれも気を付けるように」
浮浪者のような男はゼリー飲料をくわえると一息で中身を吸い込む。
得体の知れない男を前にクラスは騒然とする。
「……担任の相澤 消太だ。よろしく」
浮浪者のような男――相澤はぼさぼさの髪の毛をかきむしりながらエースを指差す。
「一つ、確認だ。狐火、お前――名簿上は男となってるはずだが」
教室が凍り付く。
「ふふ。もうネタばらしですか?」
当の本人は可笑しそうに笑っていた。
「「「えええええええええええっ!?」」」
教室がパニックになりかけるも、相澤が目で制する。
「狐は人をだます動物。すっかり、化かされちゃったみたいだね♪」
エースは楽しそうに微笑みながら自分の席に着く。
情報が二転三転し、気が付けば緑谷は考えるのをやめた。
「じゃ、じゃあ――俺をからかってたのか?」
上鳴は愕然と固まっている。女――しかも好みのタイプだったため積極的にアプローチしていた上鳴、その相手が本当は男だったと知り絶望していた。
「私は女だって、一言も言ってないけど?」
「ウェイ……」
エースは舌を出して微笑む。まるでいたずらに成功した子供のような表情だった。
「でも、私が男であるということも
と、エースは相澤へ視線を送る。
「……手短にな」
「私は個性の都合上、
超常社会。人間の
どんな見た目をしていても人間は人間、どのような姿でもそれは
しかし、そんな彼らでも“性別がない”という事態は初めてのシチュエーションだっただろう。
「ま、男で通した方が何かと都合がいいから書類では男とした。が、正解」
「確かにどっちも穴はあるしな」
ブドウ頭のような男子のつぶやきに、男子は畏怖のまなざしを、女子は軽蔑のまなざしを向けた。
出会って早々下ネタをブッ込める度胸は尊敬に値した。
「……成程。それは確かに合理的な判断だが――そういうセンシティブなことはあらかじめ学校に話通しとけ。後で揉めるのは合理的じゃない」
「ふふ。それはごめんなさい、先生♪」
相澤はため息をつくと、寝袋の中から体操服を取り出す。
「……ま、いろいろとあったが――お前ら
それは試練の始まりを告げる合図だった。
――――
――
個性を用いた身体測定。
入学初日、いきなり課された課題だった。
ヒーロー科にとって入学式やガイダンスは時間の無駄。悠長なことをしている間があったら少しでも有意義に過ごす、それが相澤の判断だった。
なお、これはA組だけの特例であり、B組は普通に入学式とガイダンスに参加していた。
(どうする……っ! 最下位は除籍なんて)
そしてこの身体測定はテスト形式、各々の測定結果をスコア化し、ランキング形式で集計。最下位は除籍処分となる過酷な身体測定だった。
(個性を受け継いだけど……まだコントロールなんてできないのに)
――――
入試を終え、3月。緑谷はオールマイトから個性を受け継いでいた。
『――よし、そろそろ体に馴染んだハズだ! いっちょ試し打ちと行こうか!』
継承と称して飲まされたのはオールマイトの髪の毛。
緑谷は吐き気を押さえつつ体の変化を意識してみる。
『本当に、個性が……?』
実感はまるで湧かなかった。
もし相手がオールマイトでなかったら、詐欺か何かではないかと判断してしまうところだ。
『まあ最初はそんなもんさ。さ、拳を構えて!』
『は、はいっ!』
きれいになった海岸線へ向き直る。
約1年、努力した証。不思議と胸に自信が湧き上がる。
『……あの、使い方って』
『hum……具体的に何があるってワケじゃないが、私はケツの穴を引き締める感覚で、こう――SMASH!と』
緑谷はオールマイトの言葉を反芻し、ゆっくりと深呼吸。
『――ッスマァァァッシュ!』
渾身の力を込めて右腕を振り抜く。
拳は空を割き、遥か彼方の水平線まで海を真っ二つにした。
『お、おおおおっ!』
まるで自分の力とは思えない結果に、緑谷の心はわずかに上ずる。
『す、すごい……これが僕の、力』
変身した時の感動とは違う、己の肉体が凄まじい力を発揮したことへの充実感。
『――っ?』
大喜びオールマイトの方へ振り返ろうとして、緑谷は右腕が動かなくなっている事に気づく。
そこは痛々しく変形した己の右腕が垂れ下がっていた。個性の初使用に伴う高揚感で痛みが鈍っていたが、確実に彼の腕は大破していた。
『っまだ
『――ったたたた!』
緑谷ははしゃいでいた自分を呪った。
(そりゃそうだ! オールマイトの力だぞ!? こうなるに決まっているじゃないかッ!)
その後、万が一のために付き添いで来ていたリカバリーガールの個性のおかげで事なきを得るのだった。
――――
(まだ個性の調整なんてできないのに……!)
オールマイトから出力を押さえる方法を聞こうとしたが、感覚派だった彼は抽象的な話しかしてくれず、結局コントロールの方法を学ぶことはできなかった。
最初の種目は50m走。
両足を潰す覚悟で行けば確実にクラストップは狙えるだろう。
(でもそんなことしたら他の競技で何もできなくなる……っ!)
が、一度でも個性を使ってしまえば確実に身動きが取れなくなってしまう。
かといって個性を使わずに挑めばクラス最下位は確実――
「となるといつ個性を使うかがキモだ。他の競技に支障が出ない範囲で」ブツブツブツ
「……まずは深呼吸」
彼女(?)は緑谷をちらり、と流し見すると大きく息を吸っている。
「そして、全身に少しずつ力を漲らせる。そう、ゆっくりと缶を握りつぶしていくイメージで」
「っ!」
緑谷に電流走る。
エースの独り言(?)は個性をどう扱おうか思案していた緑谷に意識変革をもたらした。
(そうか……! 個性だって身体機能の一部なんだ。使うんじゃなくてもっとフラットに……!)
「次。狐火と切島」
緑谷は深呼吸し、全身に力を入れる。
少しずつ、ゆっくりと。ゆっくりと缶を握りつぶしていくイメージで力を入れていく。
「っ!」
「次――」
気が付けば番が回ってくる。
隣では爆豪が手のひらを構えてスタートを待っている。恐らく両手を爆発させた推進力で加速しようと考えているのだろう。
そしてそれは緑谷の妨害となってしまうだろうが、承知の上でやるつもりなのだろう。
――START!
スターターが鳴った瞬間、隣から爆風が吹き荒れる。
緑谷は思わず顔を覆いつつも、個性を発動し駆けていく。
体の一部ではなく全身にワン・フォー・オールの力を漲らせる。発動しているのは許容上限の5%程度、オールマイトの力からすれば微々たるものだった。
(っでも――体が壊れてないッ!)
『3秒89』
「やった……!」
爆豪よりもコンマ数秒早いタイム。
今まで一度も勝てていなかった幼馴染に、この瞬間だけは勝利することが出来た。そのことに少しだけ優越感を覚える。
「~~~~ッ!」
当の爆豪は、負けたという事実が気に入らないのか思い切り歯ぎしりをしていた。
――――
全種目が終了し、緑谷の結果は17位だった。
どの種目でも突出した記録を出せなかったが、すべての種目を
最下位となったのはブドウ頭の男子――峰田 実だった。
彼は除籍になってしまうかもしれないという事実に顔を青くしていたが、相澤が除籍が嘘だと告げると涙を流して喜んでいた。
「ふふふ。化かし上手だね、先生は」
エースは相澤の真意に気づき微笑んでいる。同時に2位の順位に不満を抱いていた。
「結構本気だったけど――流石に持久走でスクーターは反則じゃない……?」
彼女(?)の表情はどこか不満げで、拗ねているようにも見えた。
――――
――
放課後、相澤は個性把握テストの結果とにらめっこしていた。
(狐火、葉隠、緑谷……特に違和感はなかったか)
彼は自分の直感を非合理的と思いつつも、この三人のことが引っかかっていた。
(葉隠に緑谷……まあ、緑谷は
入試の実技試験。受験生には一切告知していなかった審査制の“救助pt”の存在。
葉隠も緑谷は両者ともにまるで
――『さすがに考えすぎじゃねぇの?』
同僚からは疑い過ぎな相澤の姿勢を笑われた。
二人の経歴におかしなところは見受けられなかった。彼以上の経歴を持った教師たちが問題ないとお墨付きを与えたのだから大丈夫だと。杞憂なのではないか、と。
(特に狐火――
もし葉隠と緑谷の二人だけだったら相澤は疑念を杞憂だと切って捨てていただろう。
だが問題はもう一人――狐火 エースの存在だった。
教師は入試の採点のためすべての受験生の実技試験の映像を確認していた。全てを確認したうえで合否を下し、通知を送っているのである。
合格者の36名全員を把握したうえでクラス編成会議に臨んでいたが、そこで予期せぬ事態が発生した。
その中に
だが思い返してみると確かに
言い知れぬ不気味な感覚。
まるで何かに
(もしこいつらが
考えたくはない。
この疑念は
(もし生徒の中にそういうやつがいれば、
信頼する生徒が敵だったら、その人物によって
共に切磋琢磨する級友が敵だったら、手も足も出ず命を奪われてしまうだろう。
(間違ってれば後でいくらでも謝ればいい。もし万が一、生徒の命が奪われるような事態があっちゃいけない……!)
相澤は雄英高校での教師生活で何人もの生徒を除籍し“失うこと”の恐怖を教えた。
社会的に殺すことで命の大切さ、簡単に投げ出すことの愚かさをその身に叩き込み、そして復籍させる。かつての級友のように、若くして命を落としてしまわぬよう、教え導く。
(だからお前ら3人は徹底的に見張らせてもらう。もし欠片でもヴィランの気配を出せば、速攻でお前らは除籍にする……!)
彼はテスト結果をしまうと、明日の授業準備へと取り掛かる。
「……催眠か、それとも認識の改変か」
「? どうしたの急に」
「……いえ、演習のシナリオの事です」
相澤の不安の種が消えることは無かった。
――――
――
ごくごく普通の日本家屋。表札には“狐火”の文字。
「不思議だねえ……」
エースは縁側で静かにまどろんでいる。
「――おめでとうございます!」
そんな彼(?)の下へツムリが現れる。その手にはドライバーの収められたボックス。
「……遅かったね」
「そうですか?」
エースはツムリの方を見ようともしなかった。すっと脇から差し出されたボックスの蓋を開くとデザイアドライバーを手に取る。
「ふふ。不思議だね……私は前の世界でスターだったはずなのに、この世界では誰もそのことを知らないみたいだ」
世界的なスターから日本最高峰の高校のヒーロー科の生徒。それは一見すると大ニュース、マスコミの大好物ともいえるスクープだろう。
しかしエースが雄英高校に通っていることを誰も騒ぎ立てず、級友たちは彼(?)がごく普通の同級生であるかのように接してくる。
「……何が言いたいの?」
探りを入れるかのようなエースの問いかけに、ツムリの表情は険しくなる。
「デザ神であり続ける限り叶えた願いは上乗せされていく。でも――現実と相反する願いの場合はその限りではない」
エースは過去のデザイアグランプリで何度も優勝し、その度に理想の世界を叶え続けてきた。
それらの世界は全て積み重なっており、そのおかげで彼(?)は働かずとも生活することができ何度でもデザイアグランプリに再参加することができるようになっている。
「……
「ふふ。それは知ってる」
飄々とした態度のエースに、ツムリは深くため息をつく。
「ま、そろそろ叶えたい世界のネタが尽きてきたから聞いてみただけ。お仕事頑張って♪」
「だったら――『これ以上デザイアグランプリに参加しなくてもいい世界』とか叶えてみたら?」
ツムリは笑顔でエースに問いかける。だがその目は全く笑っていなかった。
「残念。それは私の“目的”に反するよ」
「……貴方の目的?」
ツムリは足音を殺してエースへ忍び寄る。
返答次第では容赦しない――彼女の体からは静かに殺気が漏れ出ていた。
「――世界平和♪」
「……そうですか」
気の抜けたエースの返答にツムリは肩の力を抜いた。
次の参加者へドライバーを配布しに行ったツムリを見送るとエースは懐からオールマイトカードを取り出す。
「ふふ。
エースの周りでは狐火が妖しく揺らめいているのだった。
――――
――
本部の地下では若頭のオーバーホール――治崎 廻は頭を抱えていた。
「なぜだ……なぜ壊理の個性が抽出できない?」
彼は組長の孫娘、壊理の個性を用いた支配計画を立てていた。
かつて裏社会を牛耳っていた“オール・フォー・ワン”の手法をオマージュし個性を奪い、そして元に戻す。再びヤクザ者へ日の目を浴びさせるための壮大な計画。
だがその計画は出鼻を思い切りくじかれていた。
個性を消すことはおろか、そもそも個性の効果を抽出できていないのである。
これでは薬を作る以前の問題だ。
「――おめでとうございます!」
「っ誰だ!」
治崎は突如として現れた女性――ツムリを前に手袋を取る。本拠地の奥地も奥地、幹部しか知らないはずの自室へ潜り込んできた不審者に対し最大限の警戒を払っていた。
「
ツムリは警戒する治崎の意識をかいくぐり、彼にドライバーの収められたボックスを手渡す。
「今日から貴方は“仮面ライダー”です!」
「仮面……?」
ドライバーと共に収められているのはカラスを思わせる動物のアイコンが描かれたIDコア。
治崎がそれに触れると、彼の脳裏に“前の世界の記憶”があふれ出す。
「っ……! これは」
それは謎の生命体、ジャマトとの戦いの記憶。
彼は迫りくるジャマト達を淡々と処理し続け、組を守り切ったのである。
「お前は一体……」
「それでは、ゲーム開始まで今しばらくお待ちくださいませ」
ツムリは現れた時同様に気が付けば姿を消していた。
一人残された治崎は手を消毒しつつ、ボックスに同梱されていた説明書を読み込む。
「……勝てば理想の世界が叶う、か」
つまり、彼が『ヤクザの復権した世界』を願えばそれが叶うということである。
「……フン。乗ってみるのも一興か」
計画の行き詰っていた治崎は、迷うことなく参加を選ぶのだった。
おじいちゃんライダー……生き残ってよかった。でも次回退場しそう……
この世界線のおじいちゃんはクソ強い予定なので、ご期待ください。
さて、エースの性別ですが、正解は“ない”です。感想をいただくたびにニヤニヤしながら返信を書いていました。まあ、男でもあり女でもありなので間違っては無いんですけどね……
ちなみに、今回エースの三人称に関して彼と彼女が混在していますが、これはあえてなので誤字ではないです。
エースの性別について
-
えっ……男じゃなかったの?
-
えっ……女じゃなかったの?
-
可愛ければどっちでもいいんだよ