【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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エースの性別について気になったのでどう感じていたかアンケートを取ってみました。
まあ、大半の人が可愛ければどっちでもええんじゃと回答。ですよね! 私もそう思います。
……あれ、でも性別ないってことはヒロインレースに参加……出来ない?
いや、参加してもいいのか? ……うーん、センシティブ。
まだヒロインがどうなるかはっきりしていませんが、温かく見守っていただけると。
















11 異変Ⅱ/日常、そして開幕

――――

――

 

 まばゆいほど晴れた日だった。

 緑谷は白のタキシード姿で何かを待っていた。

 

『似合ってるぜ、緑谷()()!』

 

 同じく礼服姿のオールマイトはサムズアップで彼の姿を褒めたたえてくれる。

 

 夢見心地のまま、気が付けば教会へと場面は移っている。

 緑谷はドアが開き、花嫁衣裳を纏った“結婚相手”がやってくるのをぼんやりと見つめる。

 ウェディングドレスのヴェールから垣間見える狐の耳、ドレスの腰から出ている狐の尾、中性的なその顔は薄い化粧のおかげか女性的な側面を強めている。

 

『ふふ。胸を張るんだ――ここからが、()()()()人生のハイライトさ』

 

 花嫁はヴェールの向こう側でわずかに微笑んでいる。緑谷はそのヴェールをはがす。

 そして二人の唇がゆっくりと近づいていき――

 

 

 

 

 

――――

 

「――っはぁっ!?」

 

 緑谷は思わず飛び起きた。

 慌てて周りを見回し、時計を確認――まだ朝の4時を回った頃だった。

 

「……なんて夢、見てんだ」

 

 夢を思い返し、彼は赤面する。胸は恥ずかしさで早鐘を打っていた。

 クラスメイトとの結婚を夢に見る。中々に思春期な夢だろう。

 

(……まったく、エースさんがあんなこと言うからなぁ)

 

 エース曰く、彼(?)には性別が無いのだという。

 男だというなら男で合っているし、女だというなら女で合っている。

 名簿上は男になっているが、生活上は女としても過ごす。すべては気分次第だと語っていた。

 

(性別ないってことは……結婚とかしても子供が作れないってことだよな)

 

 変な夢で目覚めたせいか、普段考えないことを考えてしまっていた。

 

(よく考えたら、僕ってエースさんのこと何も知らないな……)

 

 緑谷は瞳を閉じ、二度寝の体勢に入る。

 あと小一時間ほど寝たら日課のトレーニングの時間だ。

 

 ――『大丈夫?』

 

 瞳を閉じると、なぜか幼き日の記憶がおぼろげによみがえってくる。

 

(そういえば……あの時)

 

 幼き日、獣の個性の子供に手を差し伸べた記憶。

 

(あの子も確か……狐っぽい見た目、だった気がする)

 

 思い出そうと唸っていると、二度寝の世界に落ちてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 雄英高校は日本最高峰の高校。それはヒーロー科に限らず他の科も同じである。

 当然ながら授業の難易度も早さも他の高校の追随を許さぬレベル、気を抜いていてはあっという間に取り残されてしまう。

 特にヒーロー科は、ヒーロー科専門科目をこなす関係上一般科目に割ける時間は他の科以上に短く、圧縮された密度の濃い授業が展開されているのである。

 

「――ぷはぁ! 中学の頃とはレベルちげーな!」

 

 上鳴は授業の難易度についていくのが精いっぱいで思わずため息をついている。

 

「なぁ緑谷! 数学だけど――」

 

 緑谷は入学式の日の出来事がきっかけで上鳴とつるむ機会が多かった。

 

「成程、私もここがよくわかていなかったんだ」

 

 二人が話していると決まってエースが加わる。彼らは早くもA組の仲良しグループとして認知されつつあった。

 

「――げっ! 財布忘れた」

 

 そして昼食。上鳴は昼食を買いに行こうとするも鞄の中に財布が入っていないことに気づく。

 

「マジか……午後ヒーロー基礎学あるのに昼飯抜きかよ」

「ふふ。私のおにぎりでよければ分けてあげるけど」

「マジ!? サンキュー」

 

 上鳴はエースからおにぎりを受け取ると思い切りかぶりつく。

 満面の笑顔だった彼の表情は、その瞬間に凍り付く。

 

「……あ、甘ぇ」

 

 エースの食べていたおにぎりはとんでもなく甘かった。“塩と砂糖を間違えちゃった、てへぺろ”な甘々おにぎりだったのだ。

 が、好意で分けてくれたものを不味いと無下にするほど上鳴は非道な男ではない。頑張って笑顔を作りながらおにぎりを頬張る。

 

「っこ、個性的な味っ味だな……! でもこれ塩と砂糖間違えてね?」

「いいや。私は甘いおにぎりが好きなんだ」

 

 エースは何食わぬ顔で甘いおにぎりを頬張っている。彼女(?)の表情は自然な笑顔で、決して上鳴をからかって遊んでいるわけでも強がっているわけでもなさそうだ。

 

「……上鳴くん、お金貸そうか?」

「あ、ああ……頼むわ」

 

 苦悶の表情を浮かべている上鳴に緑谷は助け舟を出した。

 

「……おいしいと思うんだけど……はむ」

 

 一人教室に残されたエースはさみしそうに甘々おにぎりを食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ヒーロー基礎学。

 それはヒーローになるためのイロハを学ぶための必須科目。ヒーロー科で最も単位数の多い授業だ。

 初めての基礎学の時間は――戦闘訓練。

 オールマイト主導のもと、各々が考えたコスチュームを身にまとい訓練を行っていく。

 

「――似合ってるぜ、皆!」

 

 コスチュームを纏ったA組の面々はどこか初々しく、まだ衣装が体に馴染んでいない。特に女性陣はボディラインがはっきりと浮き出るスーツの者もおり、羞恥心で頬を赤くしていた。

 そんな初コスチュームを身にまとい浮足立ったA組の面々は矢継ぎ早にオールマイトへ質問していく。

 

「んんん! 聖徳太子っ!」

 

 ヒーローとしてはNo.1でも教師としては新米なオールマイトは質問攻めに悶絶しつつ演習の内容を解説していく。

 今回の訓練はヒーローサイドとヴィランサイドの2陣営に分かれて行われる。ヴィランサイドは屋内に核爆弾を持って立てこもっているという設定で、ヒーローサイドはヴィランをいち早く確保するのが目的となっている。

 ヴィランサイドは制限時間いっぱいまで耐えきったら勝利、ヒーローサイドは核爆弾を確保するかヴィランを全員捕縛したら勝利――ヴィランの思考とヒーローの思考の両方を同時に学ぶことができる訓練だ。

 そして肝心のチーム分けはくじ引きによって行われる。これは現場において即興でチームが組まれることになれる目的がある。

 

(神経衰弱ゲームの時みたいだな)

 

 緑谷はデザイアグランプリでのゲームを思い出し少し焦りを感じた。未だに開始されない第一ゲーム、もしかしたら自分だけ除け者にされているのではないかという思いが心のどこかに巣食い始めていた。

 どこか上の空でくじ引きを引き、ペアが決定する。

 入試の時、緑谷が助けた丸顔女子――麗日 お茶子だった。

 

「入試のとき以来だ! よろしくね」

「う、うん……よろしく」

 

 麗日のコスチュームはボディラインがはっきり見える族、緑谷は恥ずかしさのあまり赤面してしまっていた。

 

「――続けて最初の対戦相手はこいつらだ!」

 

 オールマイトが対戦カードのくじを引く。

 ヒーローサイドはBチーム、ヴィランサイドはIチーム。

 緑谷と麗日はAチーム、今回は出番がなかったようだ。

 

「ふふ。いきなり私の番とはね」

 

 Iチームはエースと尻尾の男子――尾白のコンビ。

 エースは巫女装束のようなコスチュームを翻すと演習の現場となるビルへと足を踏み入れる。

 

「――さ、他の皆はモニタールームで観察だ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「これが核兵器の張りぼてか。結構重さあるなぁ」

 

 尾白は核兵器のプロップを持ち上げようとして汗をかいている。

 

「ふふ。つまり持って逃げ回るって作戦は取れなさそうだ」

 

 対するエースは余裕に構えている。デザイアグランプリだけでなく、戦闘訓練でも負けないつもりなのだろう。

 

「君の個性はその尻尾、ってところかな?」

「ああ。地味で普通の個性だよな……狐火さんは?」

 

 尾白は地味なことを気にしているのか、尻尾を悲しそうに下げている。

 

「私の個性は――」

 

 エースは指を鳴らし狐火を生み出す。

 

「これ、かな? あとは人を化かすこともできるよ♪」

「了解。戦闘は俺が主体に立ち回るのがよさそうだね」

 

 尾白はエースが肉弾戦を得意としていないと思ったのか、近接戦闘を買って出る。

 二人が作戦を話あっていると、戦闘の開始時間となる。

 

「――跳べっ!」

 

 空気が一瞬で冷え、床が凍結し始める。

 エースの掛け声で尾白はジャンプしており、辛うじて凍結に巻き込まれずに済む。

 

「ってて……いきなり全凍結とか聞いてないって」

 

 着地時に足を滑らせた尾白は痛そうに腰をさすっている。

 

「でもいい作戦だ。(わたしたち)も核も一気に確保できる……やれやれ、これは強敵だ」

 

 エースは不敵に微笑み、狐の尾を揺らしている。

 

「オジロ、作戦変更だよ。屈強なヒーローは――盛大に化かしてあげないとね♪」

 

 指を弾く音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――寒っ! ここまで冷えてくるぜ……」

 

 赤髪の男子――切島は寒そうに腕をさすっている。上半身裸のコスチュームの彼にはさぞ寒いことだろう。

 

「仲間を巻き込まずかつ核も傷つけずに敵を弱体化!」

 

 解説しているオールマイトも肌寒そうに歯を振るわせている。

 モニターの先ではビルを凍結させた男子――轟と腕が複数ある男子――障子が警戒しつつもビルへ突入していくのが映し出される。

 

「が、狐火()()も感覚が鋭い! 凍り付くのを察知して咄嗟にジャンプ! 足場は悪くなったが少なくとも抵抗できる状況だね」

 

 音声情報を持っているのはオールマイトのみ。そこからしか手に入らない状況を見学の生徒たちに伝える。

 

「初っ端からレベルたけー……」

 

 ビルを凍結させた轟は推薦入試の合格者。狭き門である一般入試よりも更に狭くレベルの高い推薦入試をトップで合格している猛者だ。並みの相手では太刀打ちすらできなかっただろう。

 

「でもよ……なんで二人とも()()()()()()に向かってってるんだ?」

 

 醤油顔の男子――瀬呂が不思議そうにつぶやいている。

 轟と共に行動している障子は索敵に長けた個性の持ち主。複製された器官を用いて核を捜索し、その部屋へと迷うことなく進んでいた――ように見えていた。

 しかし二人が向かっているのは全く別の部屋、しかも()()()で向かっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――動いてもいいが、足の皮がはがれちゃ満足に戦えないだろ?」

 

 轟は核のそばで足を凍り付けられている二人をけん制しつつ、凍り付いた核へと歩み寄っていく。

 邪魔するものは誰もおらず、それに触れ終了のアナウンスが流れるのを待つ。

 

「……?」

 

 しかし、いつまで経ってもアナウンスが流れることは無かった。

 不思議に思い左右を見回していると、突如核に触れていた手に温もりを感じる。

 

「――どこを触っているんだい?」

「っ!」

 

 ゾっと肌が粟立ち、轟は慌てて飛び退く。

 今まで核だと思っていたのは一人の人間――エースだったのだ。

 彼はやわらかな胸の感触を急に知覚し、思わず手のひらを見つめる。気恥ずかしさよりも恐ろしさの方が勝っていた。

 

「なんで……っ! 俺は核のある部屋に」

 

 轟は体勢を立て直すために踵を返す。しかし()()()()()()()()()()()()()おり、部屋の外へ逃げることができなかった。

 

「クソッなんでこんなところに壁が!」

「ふふふ。狐は人を化かすと相場が決まっているだろう?」

 

 ぼんやりとした青紫色の光が浮かび上がり、それらは集約し狐火のように漂う。

 それはエースの姿を妖艶に照らし出す。さながら伝承にある化け狐のように。

 

「さあ、よそ見は厳禁さ♪ ここからが――ハイライトさ」

 

 エースの指が弾かれる。轟は咄嗟に氷の壁を生み出して防壁を作り出す。

 壁の内側が爆ぜ、轟は背後の壁に背中を思い切り打ち付ける。

 

「っ」

 

 彼はエースの姿を探すも、自身で生み出した氷の壁に阻まれてしまう。

 

「チッ……!」

 

 これではどこから攻撃してくるのか皆目見当がつかない。

 それならば、と轟は全方位に向かって凍結を繰り出す。どこから仕掛けて来ようとも全方位をカバーしてしまえば問題がない。

 

「……やったか?」

 

 コスチュームについたヒーターが起動し冷え切った体温を上昇させる。

 周囲は氷塊に覆いつくされており、とても人が動けるような状況ではなかった。

 

「――どこから来るかわからない相手に範囲攻撃、悪くない」

「ッ!?」

 

 背後から響くエースの声。

 

「でも、甘い♪」

 

 氷塊が砕け散り中からエースが姿を現す。狐火を周囲に漂わせており、妖しさに磨きがかかっていた。

 

「く……っ!」

 

 下手な氷結は自分の首を絞めるだけ。轟は拳を構え格闘戦の構えを取る。エースは一足で間合いを詰めると彼の背後に回り込み背中のヒーターに向けて回し蹴りを見舞う。

 続けざまに左手の腕を奪い関節を極める。

 

「君、左側で炎を出せるようだけど一向に使わないね? 知っている身からすれば――攻撃し放題の弱点(ボーナス)をもらえてるようなものだ」

 

 エースは袖口から確保証明のテープを取り出す。これをつけられると戦闘不能――これ以上の続行は許されない。

 

「俺は……戦闘で(ひだり)は、使わねぇッ!」

「へぇ……大したこだわりだ。えっと、これを巻けば戦闘不能だっけ」

 

 片手でテープを取ろうとエースがもたついている隙をつき、轟は右手を床に叩きつけ、そこから氷塊を生み出す。

 生み出された氷塊は彼の体を浮かせ、拘束を緩ませる。このまま上昇すれば天井に激突するため、エースは慌てて飛び退く。

 

「はぁっ……はぁっ……クソッ!」

 

 轟の個性は氷結を繰り返すほど体温を奪われていき、体の動きは鈍っていく。そのデメリットを解消するためのヒーターはエースの回し蹴りによって不調になっており、下がった体温を上昇させる術はなかった。

 

「ますます不思議だ。炎を使えば体温が戻せるだろうに、それを使わないなんて」

「俺の勝手だ……っ! 外野が口を出すなっ!」

 

 轟はエースを睨み付けつつ右腕をさすって体温を取り戻そうと試みている。

 

「ふふ。“縛りプレー”ってやつ? 結構な自信だけど――」

 

 エースが指を弾くと、轟の視界から彼女(?)の姿が消える。

 

「勝てない相手にするものじゃないよね?」

「っしま――」

 

 彼は首に回された腕に体を竦ませる。背後から抱き留められているのだ。

 

「はい、これで君は戦闘不能だ♪」

「……っ」

 

 エースは器用に轟に確保証明のテープを巻きつけている。訓練だからこの程度で済んでいたが、もしこれが実戦で、もしエースが彼を殺す気で来ていたならいとも容易く命を奪うことが出来ただろう。

 

「じゃあね♪」

 

 戦闘不能となった轟は、歯を食いしばりながら左側の炎で体温を温める。

 伏せられた目は、悔しさに滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 第1回戦はヴィランサイド――Iチームの勝利で終わる。

 

「ぶっちゃけ初戦からハイレベルだったけど、今回のMVPが誰かわかる人?」

 

 オールマイトが問いかけると、緑谷がすっと手を上げる。

 

「障子くん、だと思います――」

 

 緑谷はオタク特有の早口で語り始める。

 まず轟。一見するとビルを全凍結させることで敵の拘束を図ったが、万が一敵が拘束を抜け出た時の配慮が足りておらず、完全に油断しきっていた。その後の戦闘でも炎の個性を使えるにも関わらずなぜか使わず氷結に頼った戦闘をしていたためこれも減点要素と言えた。

 次にエース。氷結を回避しヒーローサイドを誘導することが出来たものの、その後戦闘に持ち込んでしまっていたこと。派手な戦闘にならなかったからよかったものの、核を持っているという設定なのに根城を破壊しかねない戦闘は非推奨。個性で戦闘を回避できるのだから徹底して戦闘を避けるべきだった。

 尾白は特によかったところがなかった。核の見張り役に徹していたが、ヒーローサイドと会敵することがなかったので見せ場はなかった。作戦に忠実に動いていたのはよかったが残念ながら特段よい働きは見受けられなかった。

 障子は轟と分断されていることに気づくと個性を使って現状を把握。轟が敵の一人を足止めしている隙に核を発見しもう一人を確保しに動いていた。残念ながらエースの個性から抜け出したわけではなかったため核の発見には至れなかったが、情報をいち早く収集し自分の役割を果たそうとする。減点要素が少ないためMVPと言えただろう。

 

「――ですが、加点法でいえば狐火さんもMVPと言えますわ」

 

 緑谷に対抗して意見を述べるのはポニーテールの少女、八百万。彼女は緑谷の考察を別の視点から切り分け加点法的に評価していく。

 高度なディベートが繰り広げられるのをクラスメイト達はポカンと見つめていた。

 

「――ふっ二人ともそこまで! 時間押してるから続きは放課後ね……?」

 

 オールマイトは自分が言おうと思っていたこと以上の議論を繰り広げられてしまったため冷や汗をかいていた。

 

「まあ、MVPとは言ったが4人ともベストを尽くせていた! 皆のお手本となるような初戦だったよ! それじゃ第2回戦行ってみよう!」

 

 オールマイトは無いハズの胃がキリキリ痛むのを感じた。予定していたペースよりも授業の進行が遅れており、これでは次のコマに支障が出てしまう。

 

(う~ん。先生って難しい!)

 

 まさかNo.1ヒーローが冷や汗をかきながら授業をしていることを、A組の面々は誰も気づいていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 続けた第2回戦はヒーローサイドがAチーム、ヴィランサイドはDチーム。奇しくも因縁のある緑谷と爆豪が対戦するカードとなった。

 

「――そっか、中学時代ずっとバカにされて」

「うん……でも、僕だって変わったんだ。負けるつもりはないよ」

 

 緑谷と爆豪が犬猿の仲であることは周知の事実だった。

 

「男のインネンってヤツだね! 一緒に頑張ろう」

「……うん。麗日さんにはつき合わせちゃって申し訳ないけど」

 

 緑谷は深呼吸すると腹を拳で二回叩く。敵いそうもないと思っている相手なのに、自然と勇気が湧き上がってくる。

 

「……大丈夫……僕は、勝つんだ……!」

 

 戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

(緑谷くんってすごいなぁ……)

 

 葉隠はモニター映像を見てしみじみと感じた。

 八百万の個性で作ってもらった毛布で防寒しつつ、緑谷と爆豪の戦いを観戦する。

 

「――おお! めっちゃ躱してる!」

 

 爆豪は初手から独断専行で突撃、緑谷に奇襲を仕掛けていた。

 当然、そうしてくるのを読んでいた緑谷と麗日は即座に二手に分かれ、爆豪を緑谷がひきつけている展開となった。

 緑谷は()()()()()()アクロバティックな動きで攻撃を躱し続け、爆豪は頭に血が上ってしまったかのように単調な攻撃を仕掛け続ける。

 

()()()()()()ってとこなのかなぁ? シンプルだけど強そうでいいなぁ)

 

 葉隠は自分の個性と緑谷の個性を比較してため息をついている。

 その思考はまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()で働いており、彼女が前の世界で知ったことは抜け落ちてしまっていた。

 

(ま、私の個性も見えないって強みあるし!)

 

 彼女の下に、ドライバーとIDコアは届けられなかった。

 前の世界の記憶を引き継げるのはデザイアグランプリの優勝者かIDコアに触れた者のみ。ドライバーを得ていない彼女はデザイアグランプリに関する記憶はおろか、緑谷やエースと出会っていた記憶すら失われているのである。

 そしてなにより――『見えるようになりたい』という願いも失われていた。

 透明化の個性に関するネガティブな思い――自分の姿形を知りたい、一度でいいから自分の顔を見てみたい。それらの想いを失い、彼女は自分が透明であることを完全に受け入れていた。

 

「お? バクゴー大技か?」

 

 気が付けば、爆豪はコスチュームのガントレットについたトリガーに指をかけている。

 

「爆豪少年ストップだ!」

 

 音声を聞いていたオールマイトは顔面蒼白となりマイクに叫んでいる。

 しかし制止も聞かず爆豪はトリガーを引く。次の瞬間、爆発の閃光によって画面がホワイトアウトする。

 

「……おい、緑谷いなくね?」

 

 映像が復活し、爆風が晴れる。

 そこには緑谷の姿はなかった。クラスメイト達は爆風に巻き込まれ、緑谷に何かがあったのではないかと思い肝を冷やす。

 

「いや、大丈夫だ少年少女。緑谷少年は無事だ――爆豪少年。次にそれを撃ったら強制終了で君たちの負けとする」

 

 音声を聞いていたオールマイトは緑谷が無事でいることを把握しており、そのことを生徒たちに伝える。そして下手すれば死人が出かねない攻撃を躊躇なく振るった爆豪に対しては警告を発する。

 映像の中の爆豪は舌打ちしつつ消えた緑谷を探している。

 

「無事っつっても……じゃあ緑谷はどこに」

()()()さ」

 

 オールマイトは観戦中の者達に向けて解説をする。

 緑谷は大爆発が起きた瞬間射線から逃げ出し、爆豪の攻撃によって割られていた窓からビルの外壁へ飛び移る。そして外の壁をよじ登りつつ先行している麗日と合流しようとしているのだ。

 

「ケロ。ビルの外に出ちゃダメとは言ってないものね」

 

 カエルのような女子、蛙吹は唇に指をあてながら何かを考えている。自分も同じことができるため作戦に組み込もうとしているのだろう。

 

(ふふん! 緑谷くんならそのくらいでき……あれ?)

 

 葉隠は緑谷の行動に驚くクラスメイトに対し得意げにしていたが、なぜか途中で違和感を覚える。

 

(あれ……? 私、なんで緑谷くんならこのくらいできる、って思ったんだろ?)

 

 不思議な既視感。()()()()()()なのに前から知っていたかのような感覚。まるでナンパ師のようなうたい文句に葉隠は混乱する。

 

「っ……」

 

 めまいのような感覚に葉隠は倒れそうになる。

 

「――大丈夫?」

 

 そんな彼女をエースが抱き留める。

 

「あ、ありがと……」

 

 葉隠は不思議と懐かしい感覚がしていた。

 まるで、こうして支えられているだけで安心するかのような、不思議な感覚だった。

 

(やっぱ裸だと風邪ひいちゃうかな……? コスチューム考え直さなきゃ!)

 

 彼女はその感覚を裸で体調を崩してしまったからだと考えた。

 モニターでは、ヒーローチーム2対1の戦いで生真面目な男子――飯田を拘束し核を手に入れ勝利していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――や、この後お茶でもどうだい?」

 

 放課後、一人で帰ろうとしている轟をエースが呼び止める。

 

「……悪いがそんな暇はない」

「つれないなぁ」

 

 轟は誘いを突っぱねるとそそくさと家路を急ぐ。

 

「“フレイムヒーロー”エンデヴァー」

「っ!」

 

 エースの出した名前を聞いた轟は足を止める。

 

「君の父親、でしょ」

「……っ知って、たのか?」

「調べただけさ。成程、つまらない反抗心で手を抜いてたってことね」

 

 轟は拳に力が入るのを感じる。何も知らないエースの煽りが彼の心に火をつける。

 

「……“個性婚”って知ってるか?」

「ああ。意図して子供に強い個性を持たせようってヤツでしょ」

「……俺の親父はオールマイトに勝てない万年No.2のヒーローだ。自分では勝てねぇから子供に超えさせようと考えた」

 

 エンデヴァーは炎だけの個性を持ったヒーロー。個性を使うほどに体に熱が溜まっていくという弱点を持っていた。つまり、その弱点を打ち消すことができれば――オールマイトすら超えることのできる力になりうるだろう。

 彼は氷の個性を持つ女性と結婚することで、子供に炎と氷の二つの個性を意図して引き継がせようとしたのである。

 そうして轟 焦凍は氷と炎の二つを兼ね備えた個性を持って生まれた。上の兄弟はうまく個性を引き継げなかったため“失敗作”と半ば放任され、轟はスパルタ教育を施された。

 轟の母はそんな異常ともいえる教育から心を壊し、彼の左側に煮え湯を浴びせた。

 

「――だから、俺は左側の個性(ちちおやのちから)を使わず一番になって奴を否定する。それだけだ」

「……恵まれてるね」

 

 反射的に轟はエースの胸倉をつかんでいた。彼女(?)の表情はとても冷ややかで、まるで彼のことを憐れんでいるかのようだった。

 

「今……なんて?」

「恵まれていると言ったのさ。羨ましい限りだ、そんな()()()()()を持っているなんて」

「ふざけるのも大概にしろよッ! お前に俺の何が分かるッ!」

「わからないね。だって私に親はいないから」

「……っ」

 

 なんてことのないように言ったエースの言葉に、轟はゆっくりと掴んでいた胸倉を放す。

 

「私の父親は、自分の子供が狐のような見た目であると知って逃げ出した。私の母は、狐のような姿の私を生んだことで“呪われた女”と迫害された。私の物心がつく頃には亡くなっていたよ」

「異形差別……ってやつか」

 

 個性という異能が浸透した現在でも、異形型の個性を持つ者達は大なり小なりの差別がされていた。都会では薄れつつあったが、地方では未だに酷い差別が行われているという。

 

「私には母が残してくれた家とわずかな土地があった。でも気が付いたらそれは誰かに奪われていたよ。雨風もしのげない小屋で眠り、食べる物も満足になくてその辺の雑草とか残飯を食べて飢えを凌いだ」

「…………」

 

 軽い口調で語られる壮絶な過去。

 不幸に優劣などつけられるものではない。だがエースの体験した“幼少期”は轟の“幼少期”に負けず劣らずの酷いものだった。

 

「で、君は? 英才教育を施す父親の苛烈さに母が耐えられなくなって君を傷つけた。ああ羨ましい、私もそんな母でいいから欲しかったよ」

「……悪い。辛いことを思い出させた」

 

 轟は罪悪感で胸がいっぱいだった。自分と同じくらい辛い体験をした同級生にその体験を語らせてしまったのだ。

 

「君がこだわるのは結構だ。でも――()()()力で勝てるほど、世界は甘くない」

 

 エースは乱れた襟を正し、轟の肩を叩く。

 

「だって――この私がいるんだからね♪」

「ふん……結構な自信だな」

 

 轟は苦し紛れに言い返す。

 

「ふふ。悔しかったら全力でかかっておいで。それでも私が勝つけどね♪」

 

 エースは不敵な笑みを浮かべていた。

 絶対に負けないという自信にあふれた笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 帰り道、緑谷は鞄の中のスパイダーフォンが鳴動していることに気づく。

 

「っ来た……!」

 

 それはデザイアグランプリ開始の合図だった。

 

(僕が――世界を変えるんだ!)

 

 緑谷は周囲に人がいないことを確認すると、デザイアドライバーを鞄から取り出す。

 

「……よしっ」

 

 ――DESIRE DRIVER

 

 こうして、新たな戦いが幕を開けるのだった。

 











というわけで戦闘訓練まで進みました。次回はギーツサイドが少し進みます。
原作とほぼ同じ流れの部分はナレーションベースで進める予定です。(描写するのが大変なので……すんません)
今のところはデクくんが早くからワン・フォー・オールを使いこなしつつあること、轟の左側使用フラグが早めに立ち始めたって感じです。乖離ぶりを楽しみにしていただければ……
さーて、変身者誰にするか考えねば……(無計画)
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