【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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おじいちゃん……かっけーから脱落しないで……でも脱落するんだろうなぁ……多分景和と入れ替わりで脱落しちゃうんだろうなぁ……
そしてジャマト……結構衝撃でしたね。
……さて、今後の展開どうしよう(汗)















12 異変Ⅲ/ 逆転の旋律

――――

――

 

 

「――ようこそ! デザイアグランプリへ!」

 

 神殿に集められた参加者たちの前でツムリはゲームの趣旨を説明し始める。

 それは前回緑谷が聞いていた内容とほとんど同じで、特に目新しい情報はなかった。

 

(葉隠さんも……牛込さんも……どっちもいない)

 

 参加者を見れば、どこにでもいそうな普通の高校生から明らかに堅気には見えない者まで千差万別。だがその中には前回の参加者――葉隠も牛込もいなかった。

 前回の最終ゲームまで残っていた二人も再参加しているものだと思っていた緑谷は少し落胆する。

 

(よく考えたら、葉隠さん僕の事覚えてなかったし……そういうことだよな)

 

 今回の参加者の中で見知った顔はエースのみ。彼(?)は前回の優勝者であるため参加する権利を得られたのかもしれない。

 

「――それでは手元のデザイアカードに願いをご記入ください♪」

 

 緑谷は瞳を閉じて今一度願いについて考える。

 前の世界では『ヒーローになれる』世界を願った。でもその願いは優勝せずとも叶ってしまった。

 

 ――『きみはヒーローになれるよッ!!』

 

 葉隠による励ましの言葉は、確かに彼の欲していた言葉だった。

 ならばこの世界では何を望めばいいのか?

 

(またデザイアグランプリが開催されるってことは、きっとジャマトは根本からいなくなっていないってこと……それに何度も何度も繰り返されてきたってことだ)

 

 缶蹴りゲームの時、エースが言っていた過去のゲームの話――かつて全滅して幕を閉じてしまったデザイアグランプリ。

 全滅と言うことは、すべてのプレーヤーの命が奪われてしまったということだ。

 

(それに、前回も――平先生が犠牲になってしまった)

 

 ――『……無念だ』

 

 きっとこれまでのデザグラで失われた命は少なくないはずだ。

 

(それに、消滅した人たちを生き返らせる世界だって――叶うはずだ)

 

 ――『はい。それが、あなたの“理想の世界”であれば……』

 

 ツムリの言葉に偽りがなければ、きっと退場してしまった人たちの命だって取り戻せるはずだ。

 

「だったら……これしかない」

 

 緑谷は羽ペンを走らせる。

 書いた願いは――『過去、デザイアグランプリで消滅した人たちが生きている世界』

 全ての悲劇をなかったことにするのは難しいかもしれない。だからせめて、デザイアグランプリに関わったことで失われてしまった命だけでも取り戻したい。

 

(そして次があるなら――)

 

 こうして新たなデザイアグランプリが幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 第1回戦は“海賊ゲーム”。街中に配置されたジャマトの落とし物である旗を守り抜くゲーム。もし旗を奪われてしまえばジャマトは凶暴化してしまう。

 今回はゲーム開始時にバックルが配布されており、参加者たちはボックスに収められたバックルを手にしていた。

 

「っゾンビバックル……! 幸先がいいぞ」

 

 緑谷は自分に割り当てられたバックルに喜んでいる。

 

「……これ、は?」

 

 海賊ゲームはチーム戦。緑谷は2人のプレーヤーと共に戦うこととなっていた。

 一人は同い年くらいの少年。牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけ、清潔感のあまりない髪形のザ・オタクと言った風体だった。彼はマグナムバックルを手にオドオドしている。

 もう一人もまた同年代の少女。どこか愛嬌のある顔つきで、ウェーブのかかった薄桃色のロングヘアと唇の左端にある黒子が特徴的だった。彼女はプロペラバックルを手にしていた。

 

「一緒に頑張りましょう! 僕は緑谷 出久。ライダーとしての名前は“タイクーン”です」

「え、と……糸成(いとなり) (つむぎ)、です。ら、ライダー? の名前は……“レター”、かな?」

「…………」

 

 チーム戦であるためお互いのことを知ろうと自己紹介をするも、オタク風の少年は黙りこくったまま答えない。

 

「……あの、君は?」

「……うわっ陽キャじゃん……ふひっ……しょ、初対面の人に名乗りたくない、し」

 

 オタク風の少年はどもりつつ独り言のように返答する。

 

「い、いや僕はどちらかと言えば陰……ってそんなことはいいよ! これはチーム戦だから協力したいんだ! えっと……燃道(ねんどう) 主税(ちから)、くん?」

 

 一向に名乗ろうとしないオタク少年の名前をスパイダーフォンで調べる。プレーヤー名は“ゴージュン”だった。

 

「っ! な、なんだよ……こ、答えたくなかったのに……これだから陽キャは」

「ご、ごめん! でもこれも戦いの――」

 

「イズトグファテル!」

 

 そうこうしているうちにゲームが始まってしまった。

 海賊のようなボロボロの服に舶刀(カトラス)を装備したジャマト達が迫ってくる。

 

「っ行くよ――変身!」

 

 ――ZOMBIE...

 

 緑谷はタイクーンへと変身、ジャマトへと立ち向かっていく。

 

「え、えと……こう、かな?」

 

 ――ARMED PROPELLER

 

 ピンク髪の少女――糸成もベルトにバックルを装填しレターへと変身する。

 

「…………」ブツブツブツ

 

 オタク風の少年――燃道はぶつぶつ何かつぶやきつつバックルを装填。

 

「っへ、変し――っ」

 

 ――MAGNUM

 

 ゴージュンへ変身しマグナムシューターを構える。

 

「よしっ! 行こう!」

「うっうん!」

「…………」ブツブツブツ

 

 何やら不穏な雰囲気を漂わせながらも、海賊ジャマトとの戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 時は少しだけ遡り、どこかの公園。

 ここにもまた海賊ジャマトの旗が設置されていた。

 

「……成程。これがバックルか」

 

 ボックスを開封したマスクの男――治崎はクナイと手裏剣の付いたバックル――ニンジャバックルをつぶさに観察する。

 ゲーム開始までの半月ほど、デザイアドライバーの解析に費やしていた彼は初心者ながらバックルの使い方の検討がついていた。

 

「ほぉ……最近の“サポートアイテム”はよくできてるのぉ」

 

 腰を痛そうにさすっている老人――出水 聖拳はドリルバックルの精巧さに感心している。

 

「……ハンマー、ですか」

 

 三人目、どこか疲れ切った表情の男性――サラリーマンのようだ――はハンマーバックルを死んだ魚のような目で見つめていた。

 

「お前ら、足は引っ張るなよ」

「ほっほっ! わかっとるわい若いの! ……ところで()()()()、堅気じゃないな?」

 

 聖拳は治崎を鋭く見つめる。

 

「……警察に突き出してリタイアさせようって魂胆か?」

 

 治崎は殺気を放ちながら手袋に手をかける。

 

「なに、後ろ暗いのはお互い様じゃ! ワシも――ムショ帰りなもんでな!」

 

 気の抜ける返答に治崎は一旦手袋をはめなおす。潔癖な彼は可能な限り素手を外界に触れさせたくないのだろう。

 

「――クテウトエビキョヅデチャ!」

 

 ジャマト達が姿を現す。

 

「こうか?」

 

 ――SET

 

 治崎はバックルを装填、起動させる。

 

 ――NINJA

 

 忍者の装束を思わせるアーマーが形成され装着、カラスのような仮面にペストマスクのような装飾品が特徴的なライダー“クロウ”に変身した。

 

「変身……そういう感じですね」

 

 ――ARMED HAMMER

 

 サラリーマンもそれにならってバックルを装填。サーベルタイガーを思わせる仮面に左腕のバンダナが特徴的なライダー“ヤイバ”に変身した。

 

「全く近頃の若いモンは……気軽にアイテムに頼りおって」

 

 しかし聖拳は二人の姿を見ても変身することなく拳を構えている。

 海賊ジャマトは丸腰な彼の姿をあざ笑い、マスケット銃片手に突撃する。

 

「ふぅ……せあっ!」

 

 正拳突きが放たれる。何もない空を切ったそれは、まるで素振りのように見えた。

 

「ジャ……?」

 

 海賊ジャマトは不思議そうに自分の体を見つめる。

 

「ジッ!?」

 

 直後、何かに撥ね飛ばされてしまったかのように吹き飛んでその後爆散する。

 

「「は?」」

 

 クロウもヤイバも非現実的な光景に度肝を抜かれている。

 

「……我が拳に異能無し。どこからでもかかって来んかい!」

 

 放たれた()()だけで海賊ジャマト達がたじろく。

 この老人は決して丸腰などではない。

 拳と言う名の武器で武装した立派な戦士だ。

 

「せぁあっ!」

 

 老人の拳がジャマトを蹂躙するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 河川敷に配置された旗のそばでも戦闘が起きようとしていた。

 

「変身♪」

「変身」

 

 エースともう一人――いやみったらしい金髪の少年の二人はそれぞれバックルを起動させて変身する。

 

 ――BOOST

 

 ――MONSTER!!

 

 エースはギーツに、そして金髪の少年は――パンクジャックに。

 

「……え、君がパンクジャックだったの?」

「何を言っているかよくわからないなぁ……ほら、来るぜ?」

 

 パンクジャックはとぼけるように肩をすくめつつ、迫りくる海賊ジャマトを手で示す。

 

「……ま、君が運営側のライダーなら語る義理はない、か!」

 

 ギーツは諦めたように海賊ジャマトへと向かっていく。

 

「さて、お手並み拝見……」

 

 その様子をパンクジャックはじっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――ぷはぁっ!」

 

 第1ウェーブ終了。

 生き延びた参加者たちはサロンで休息を取っていた。

 

「な、なんで二人とも戦わないの……?」

 

 結局、緑谷は一人で海賊ジャマトから旗を守り抜いた。二人の仲間は戦闘に加わらず陰から見守っているだけだった。

 

「…………」ブツブツブツ

 

 燃道は小声で何か言い訳をしていた。が、声量が小さすぎて何を言っているのかよくわからなかった。

 

「むっ無理だよっ! ……戦うなんて、怖くて」

 

 糸成はソファの上で膝を抱えてうずくまっていた。

 

「君にだって、叶えたい願いがあるんでしょ?」

そんなのないよっ!

 

 心からの叫びにサロンが一時静まり返る。

 

「……あるわけないじゃん……なんでも願いが叶うって言われても、正直ピンとこないよっ!」

 

 糸成は膝と膝の間に顔をうずめる。

 デザイアグランプリ参加するものが必ずしも強い願いを持っているとは限らない。彼女のように、漠然とした想いしか持っていない参加者も間々いるのだ。

 

「そりゃ……人並みに幸せになりたいけど……っでも戦えって言われても戦えないよッ!」

 

 彼女がデザイアカードに書いた願いは『幸せになりたい』

 日々を平穏に生きる小市民が抱く願いとしては十分なものだろう。

 

「……だっだいょう、ぶふっ! お、オレが、ま、守るよっ!」

 

 燃道がどもりながら励まそうとしているも、スケベな表情から下心が透けて見えていた。

 

「お、俺だってプリユアと仲良くなる願いを叶えるんだっ!」

 

 どうやら彼は見た目通りのアニメオタクだったようだ。ヒーローオタクの緑谷とは方向性が違ったようだ。

 

(……やっぱり一筋縄じゃ、いかないか)

 

 緑谷はチームメイトを見て不安な感情を掻き立てられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 第2ウェーブ開始。

 緑谷は再びタイクーンに変身すると海賊ジャマトと戦う。

 

「っさっきより、数が――!」

 

 他のエリアから旗を回収したと思われる海賊ジャマトが合流し、旗を奪いに来る勢いは先ほどよりも増していた。

 

「お、俺だって――」

 

 ゴージュンに変身した燃道はマグナムシューターを使って懸命に戦っている。が、その動きはギーツやダパーンに比べてかなりお粗末で、全くと言っていいほど使いこなせていなかった。

 

「むりっ……私には」

 

 糸成はレターに変身したはいいが、戦いに加わろうとせず物陰で震えている。

 

「クキョ! レレララサテキョ!」

 

 掛け声がかかり海賊ジャマト達が集合し始める。

 

「しまっ――」

「へっ?」

 

 海賊ジャマトは大砲を構え、旗の防衛にあたっていたゴージュンを砲撃する。

 

「うわああああっ!」

 

 砲撃をもろに喰らってしまったゴージュンは爆風で吹き飛ばされてしまう。

 

「キョロチャ!」

 

 無様に転がるゴージュンを海賊ジャマト達は袋叩きにしてしまう。

 まるでリンチのような光景である。

 

「やめろっ!」

 

 タイクーンは組み合っていた海賊ジャマトをゾンビブレーカーで撃退すると、ゴージュンをリンチする海賊ジャマトを追い払う。

 

「っ遅かった……!」

 

 救援に入るもむなしく、ゴージュンのIDコアには致命的な損傷が入ってしまっていた。

 

「な、なんで……ここからかちすすんで、ゆうしょうするぱたーんじゃ」

 

 ――MISSON FAILED...

 

 体が消滅し、マグナムバックルが地面に落ちる。

 タイクーンは震える手でそれを拾い上げる。

 

「ごめん……っ助けて、あげられなくて……!」

 

 退場した人たちを救うと決意しておきながら新たな退場者を生み出してしまった。タイクーン――緑谷は己の未熟さを呪う。優勝して復活させるからと見殺しにしていいワケではないのだ。

 

 ――SET

 

 だがそのままうじうじしていていいほどデザイアグランプリは甘くない。

 

「イズトイズモオズスト」

 

 ベルトを反転、マグナムバックルを装填し起動させる。

 

 ――DUAL ON

 

「触んなッッ!」

「ジャァッ!」

 

 ――MAGNUM & ZOMBIE...

 

 タイクーンはマグナムシューターで旗を奪おうとしていた海賊ジャマトを銃撃、辛うじて撃退する。

 ゾンビバックルの膂力とマグナムバックルの遠距離攻撃でなんとか防衛を続けるも、正直に言ってしまえば猫の手でも借りたい状況だった。

 

(っ糸成さんはもう戦えるようなじょうたいじゃ――っ!)

「ジャッジャッジャッ……」

「ひっ!」

 

 続けて海賊ジャマトが標的にしたのは隠れていたレター。

 確実に敵戦力を減らす作戦に切り替えたのだろう。

 

「クソッ!」

 

 タイクーンは思わず助けに走ろうとするも、旗を攻撃するジャマトに阻まれてしまう。

 

「っやめろぉっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 糸成 紬。性別は女性、年齢は17。

 個性は糸。五指の先から蜘蛛の糸のような強靭な糸を放出するだけのシンプルな個性。

 彼女はヒーローに憧れなかった、今時では珍しい少女だった。

 もし彼女がヒーローとして個性を伸ばしていれば、その糸は数トンの物体を吊り下げても切れぬほど強靭で数十メートルは優に伸ばすことが可能となっていただろう。さながら、某国のスパイディヒーローのような活躍が見込めたかもしれない。

 

「いや……っ!」

「ジャァ……」

 

 糸成――レターはジャマトが目の前に迫ってなお、戦いの決断を下すことはできなかった。

 それは彼女が臆病な性格であったからに他ならない。

 超常社会、ヒーローが飽和してなお目指す少年少女が多い中、彼女がヒーローを目指さなかった理由はそこにある。

 

「やだっ!」

 

 レターは必死に抵抗するも、腰の引けた攻撃ではジャマトはびくともしない。

 舶刀(カトラス)やこん棒で袋叩きに遭いながらも、彼女は必死になって抵抗した。

 

「――いやぁっ!」

 

 ――PROPELLER STRIKE!

 

 無我夢中で暴れる彼女の手が、偶然にもプロペラバックルを起動させることに成功する。

 プロペラが高速で回転し、ジャマト達を薙ぎ払う。

 

「ジッ!」

 

 海賊ジャマトは爆散し、レターは九死に一生を得る。

 

「はっ……はっ……ぁっ」

 

 レターは思わず両手を見つめ、顔をしきりに触る。

 生きている。

 もう殺されてしまうのかと思った、走馬灯が見え人生の終わりを覚悟した。

 だが生きている。

 心臓は確かに拍動し、肺は存分に酸素を取り込んでいる。

 

「わたっ……いき、て」

 

 とてつもない幸福感。

 のんびりと平穏に生きてきた今まででは一度も感じたことのなかった“生きている実感”。確かに今、生きている――それを感じ取ることのできる愉悦。

 レター――糸成はその快感を知った。

 

「あは……はははっ!」

 

 思わず笑いがこみ上げていた。さっきまで怖くて仕方なかった海賊ジャマトが、とてつもない快感を味合わせてくれる“ごほうび”に見えてくる。

 

「私は――()()()んだ!」

 

 レターはプロペラを構えると、海賊ジャマトへと突撃していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 形勢が不利なことには変わりなかった。

 レターが参加したとて焼け石に水。海賊ジャマトの猛攻を凌ぐには実力不足に感じられた。

 

(っせめて――あと、もう一人……!)

 

 タイクーンはマグナムシューターで海賊ジャマトを追い払う。ジャマトの勢いは更に増し、もはや旗を守り切ることは難しかった。

 

(頼む……! あと、少しなんだっ!)

 

 頭にちらつくのは“敗北”の二文字。

 そんなネガティブな考えを振り切りながら戦う。

 

「――モオズスト!」

「しま――っ」

 

 一瞬の油断、気を抜いた一瞬の隙をついて海賊ジャマトが旗に手をかける。

 

 ――FUNK BLIZZARD

 

 氷結攻撃が旗を奪おうとしていたジャマトを追い払う。

 続けざまに、()()()()()ライダーが乱入し、エレキギターのような武器――ビートアックスで旗の近くに集っていた海賊ジャマト達を撃破する。

 

「っまさか……」

「えへへ……私が来た、なんつって♪」

 

 猫のようなライダーはビートアックスを肩に担ぐとおどけたようにポーズを決める。

 その正体はナーゴ――葉隠だった。

 

「はがっ……ナーゴ! どうして?」

「追加エントリー? ってやつなんだって! 間に合ってよかった!」

 

 ナーゴは楽しそうにビートアックスを構え、旋律を奏でる。

 

 ――ROCK FIRE

 

「ジャァッ!?」

 

 炎の攻撃がジャマト達を襲う。

 

「それじゃ、必殺技――行ってみよう!」

「うん!」

 

 ――TACTICAL BLIZZARD!!

 

 ――MAGNUM ZONBIE VICTORY!!

 

 ナーゴがビートアックスを手に海賊ジャマトへ突進、氷漬けにする。

 その後、凍結したジャマト達をタイクーンの回し蹴りが砕く。

 二人の連携技によって、ゾンビジャマトは一掃されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 時は少しだけ遡る。

 葉隠は帰宅し、次の日の授業に備えて予習をしているところだった。

 

「――おめでとうございます!」

「わっ!」

 

 突如として背後から声をかけられ彼女は驚いて椅子から転げ落ちる。

 振り向けばそこには白と黒を基調とした衣装をまとった女性――ツムリが二つのボックスを手に佇んでいた。

 

()()()()()()()()()、貴女は()()()選ばれました!」

「し、審査? 選ばれた?」

 

 葉隠れは戸惑いながらも黄色のボックスを受け取り蓋を外す。なぜだかわからないが、収められていたIDコアへ自然と手が伸びていく。

 

「っ……う、そ……?」

 

 それに指先が触れた瞬間、脳裏に忘れていた記憶と想いがあふれ出す。

 

「なんで、忘れてたの……」

「既にゲームは開催中となっております。こちらのデザイアカードに願いをお書きください」

 

 葉隠はひったくるようにデザイアカードを受け取るとペンを走らせる。

 『忘れたくない』

 この記憶を忘れたくなかった。

 前の前の世界――緑谷と共にジャマト達から逃げ回っていた時の記憶。

 

 ――『君が――助けを求めている()をしていたっ!』

 

 ずっと誰も見ていないのだと思っていた。

 見えていないと思っていた。

 それに気づかず、前の世界では見えるようになりと言う願いを叶えようとした。

 

(そうだよっ……緑谷くんは、私を()()()()くれた!)

 

 見えるはずのない顔を見えると言ってくれた。

 きっと彼には、何かが()()()いたのだろう。

 見てくれた、たったそれだけの事実に嬉しさがあふれて仕方なかった。きっとこの後怪物(ジャマト)に命を奪われても悔いはない。そう思えていた。

 その思いが世界のリセット共に消えてしまう。

 この気持ちはもう失いたくない。だから――戦うしかない。

 

「はい!」

「……はい、確かに」

 

 葉隠はもう一つのボックスを開く。中身は鍵盤とターンテーブルのようなものが付いたバックル――ビートバックルが収められていた。

 今度こそ勝ち抜く。

 勝ってこの記憶を二度と忘れないようにする。

 

 ――ENTRY

 

 こうして、ナーゴは再びデザイアグランプリへとエントリーするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 デザイアグランプリ第1回戦は8人のライダーが勝ち残ることとなった。

 連戦連勝、無敗のデザ神、狐火 エース――ギーツ。

 前シーズンのファイナリスト、緑谷 出久――タイクーン。

 辛くも生き残った女子高生、糸成 紬――レター。

 指定敵団体若頭、治崎 廻――クロウ。

 最強の拳法家、出水 聖拳――ケイロウ。

 名もなきサラリーマン、不眠(ねむらず) (すすむ)――ヤイバ。

 追加エントリーされた実力者、葉隠 透――ナーゴ。

 そして――

 

「流石はデザ神サマだ。一筋縄ではいかないね」

「……首尾はどうだ?」

 

 ゲームマスター――ギロリは参加者のいなくなったサロンでくつろぐ少年に声をかける。

 

「心が痛みますよ! こんな贔屓までしてもらって」

 

 少年はモンスターバックルを掲げてみせる。それは彼の変身するパンクジャックのIDと相性のいいバックルだった。

 最初に配布されるアイテムはゲームマスターの一存で決定される。ただし、ブーストバックルだけはランダムで配布されるプレーヤーを決定する仕組みとなっている。

 つまり、彼がモンスターバックルを手にしているのはゲームマスターの依怙贔屓に他ならない。

 

「その割にはずいぶん楽しそうに見えるが?」

「……冗談。僕は真剣さ――なんせ主役を喰う絶好の機会だからね」

 

 彼の個性は模倣(コピー)

 条件を満たせばどんな個性でもコピーすることができる。

 誰かの個性ありき、自分一人だけでは()()を張ることは不可能。心強い味方の個性を複製することでしか強みを発揮できない彼は、生まれながらにして2番手を約束された悲しい宿命の持ち主だった。

 

「期待しているよ、パンクジャック――物間 寧人」

 

 勝ち残った7人目は運営側のライダー、物間 寧人――パックジャック。

 無敗記録を樹立し続けているギーツの優勝を阻止すべく派遣されたライダーである。

 

「お任せを、ゲームマスター」

 

 物間は嫌味ったらしい笑顔でギロリへ返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 デザイアグランプリの第1回戦から数日後。

 雄英高校ではクラス委員長が決定したり、マスコミたちが校門を破壊して敷地内へ突入したりなどトラブルに見舞われつつも平穏な日常が過ぎていた。

 

「――なあブラド、今度のヒーロー基礎学なんだが」

「おお、救助訓練か」

 

 相澤は1年B組担任のブラドキングへと話しかける。

 

「ちょっとヒーロー活動(ほんぎょう)で外出なくちゃいけなくなってな。カリキュラム通りの日程だと俺が見れなくなっちまった。B組と時間割を変えてもらってもいいか?」

「それは構わんが……例のマスコミの件か?」

「ああ……気になることがあってな」

 

 先日起きたマスコミによる雄英侵入事件。

 本来は“雄英バリアー”と呼ばれるセキュリティシステムによって侵入者を排除する仕組みとなっている。IDを持たない者が通過しようとすればたちどころに校門が締まり、物理的に侵入を阻むのである。

 いかにマスコミの行動力が激しいからと、容易に突入できるようなものではないのである。

 

「例の3人の件か? 授業でも気にかけてみたが……これといって怪しいところはなかった気がするが」

「……笑いたきゃ笑え。警戒しすぎて損することは無いだろう」

 

 相澤は緑谷、葉隠、そしてエースの3人の経歴を訝しみ、徹底的にマークしていた。

 だがそのうち緑谷と葉隠の疑惑は晴れつつあった。二人とも一般家庭の出身で親族に犯罪歴は特になく、入学後の素行もこれといって問題はない。単に入試の構造に気づいていた鋭い生徒だったということなのだろう。

 しかし対照的にエースへの疑惑は日に日に強まっていった。

 どれだけ調べようとも出てこない()()。役所に問い合わせても“狐火”という苗字の戸籍は存在せず、彼女(?)が在籍していたという中学校には通っていた記録がない。

 だが書類に記された住所へ実際に行ってみれば確かにそこには“狐火”の表札がかけられており、中学校へ赴けば彼女(?)の担任だったという教師から話を聞くことが出来た。

 

(狐火……お前が善人なのは接していればわかる。が……)

 

 エースが善人である。相澤はそう結論付けていた。常に飄々としていてつかみどころはなく、時に露悪的なふるまいが目立つも、その本質は善。平和を願う心があると彼は判断していた。

 

(お前は善人だとしても、お前の背後にいるかもしれない奴は“悪”かもしれない)

 

 彼女(?)を雄英に入れるよう何らかの工作を行った人物が善人とは限らない。

 もし、入学させて何かをさせようとしているのならば――雄英の内部の機密を探らせようとしているのなら、それを阻止せねばならない。

 

「ま、変わるのは構わん。折角のオールマイト同伴の授業、お前の生徒には勿体ないと思っていたところだ」

「……恩に着る」

 

 こうして人知れずカリキュラムの変更が行われた。

 救助訓練の日程がA組とB組で入れ替わる――運命は大きく変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「運営さんは何を焦っているんだろうね」

 

 エースは一人、家の縁側で空を見上げていた。

 

「あんな露骨なやり方――私が気づかないとでも思っているのかな?」

 

 第1回戦、パンクジャックと共に戦ったエースは苦戦を強いられた。

 パンクジャックは途中で仮病を使い戦線を離脱、数多くのジャマトを一人で相手させられていたのだ。

 幸運なことに割り当てられていたのはブーストバックル。そのスペックを生かし辛くも生き残ることができていた。

 

「私は平和な世界を願っているだけなのに……」

 

 今回、エースの書いた願い、それは――

 

 ――♪

 

 スマホの通知が鳴り響く。

 

「ふふ。ま、最後に勝つのは私さ」

 

 彼(?)は級友からのメッセージ確認しつつ、不敵に微笑む。

 新たなデザイアグランプリは、波乱の展開を迎えようとしていた。

 

 

 

 













次回は時系列的にはUSJ事件編です。ほぼほぼオリジナルで展開を考えるのでお時間をいただけると……
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