【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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こういうごちゃごちゃした戦いは、あまり好きじゃない(書きにくい)
オリジナル、ケイドロゲーム編終了となります。
ルールに関しては、ちょっとまとめる時間も欲しいので次回のあとがきあたりで書く予定です。しばしお待ちいただけると。
そういえば、公式のネタバレで新キャラが出てくるようですね。
……まずい、これ以上キャラが増えると展開ががががが
















14 異変Ⅴ/狐と烏の化かし合い

――――

――

 

 ――中央広場。

 

「――策がある、ねえ?」

 

 エースは怪訝な顔でスパイダーフォンを取り出す。

 

「……クロウ、だね。私は君みたいな策士気取りが退場して(しくじって)きたところを何度も見てきた。そう簡単に化かせると思わないことだ」

「まあ、確かに信用はできないだろうな。だが即座に断らない以上、お前には具体的な策がない、違うか?」

 

 図星を突かれたエースは狐耳を後ろに倒す。

 

「そう言われてしまうと辛いな。君の“策”とやらを聞かせてくれるかい?」

「……個性を使う」

 

 治崎は手袋を外すと近くの地面を引っ掻く。すると一瞬地面に大きな穴が開き、即座にそれが元に戻る。

 

「俺の個性は“分解と修復”、対象を分解し俺の望む形に再構築できる」

「……それ、人に使ったら」

 

 凶悪な個性に葉隠は思わず息を飲む。

 もし人に対して個性を使えばあっという間に体を肉塊へと変えることができる。そんな能力を躊躇うことなく使えることに葉隠は恐怖を感じていた。

 人を殺しうる個性、真っ当に生きていればまず使おうとすら思わないだろう。

 それを息をするように使う治崎は、ヒーローでなければヴィランに近しい人間であると言えるだろう。

 

「確かに殺せるがすぐに修復すれば問題ない。荒療治だが傷も病気も治せる」

 

 治崎は葉隠の信用を得るため、後ろめたいことが無いことをアピールする。

 

「……つまり、君が個性を使って私たちに有利な地形を作る、と?」

「その通りだ。個性を使う以上、俺は変身ができない。檻を開く誰かが必要だった」

 

 エースは眉を顰める。

 治崎はあくまで自分はサポートに徹すると言うのである。利用して自分だけポイントを得ようという魂胆だと考えていたエースはお人好しな作戦に疑問符を浮かべる。

 

「信用ならないな。その作戦じゃ君は解放ポイントは獲得できない。君に全くメリットがない」

「意外か? こう見えても()()()()()()()()好きなんだ。勝ちが惜しくない訳じゃないが、まずは人命優先だ」

 

 治崎は眉一つ動かさずに反論する。人は見かけによらない、彼はそう主張していた。

 

「それに、お前に声をかけたのは同じ穴の貉だと思ったからだ。お前はさっきそこの透明人間――葉隠を見捨てずに助けた。頭数が減った方が勝てる確率は上がるのにお前はそうしなかった。お人よしは()()()()じゃないか?」

 

 エースは手持無沙汰そうにスパイダーフォンをいじり、ため息をつく。その後、彼(?)は座り込んでいる葉隠の肩を軽くたたく。

 

「……そうだね。対立しててもメリットはないし」

「うん……ちょっと怪しさ満点だけど。協力するっ!」

「決まりだな」

 

 ――広場のある方角から爆発音が響き渡る。

 三人が慌ててその方角を確認すると、檻のそばでは脳みそがむき出しなヴィラン――脳無が看守ジャマト相手に大立ち回りをしているのが見える。

 

「……時間がない、急ぐぞ」

 

 脳無が暴れてしまったせいで檻のある広場方向へジャマトが集結し始めてしまっていた。

 

「言われなくても」

「了解っ!」

 

 ――BOOST

 

 ――BEAT

 

 エースと葉隠は即座に変身、脳無の暴れる広場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――土砂ゾーン。

 

『――あそこだ』

 

 タイクーンは青山と小森の二人を脱出ポイントまで連れて行く。

 

『あそこからエリアの外へ脱出できます。僕は他に残された人を探すから』

「待って!」

 

 踵を返し、USJ内部へ戻ろうとするタイクーンの腕を青山が掴んだ。

 

「き、キミは一体何者……?」

『僕は……』

 

 青山の問いにタイクーンは口をつぐむ。デザイアグランプリの詳細を故意で他人に話せばその時点で強制リタイアのペナルティが待っている。

 仮にデザイアグランプリの事をはぐらかせたとしても、変身を解除して素顔を晒せばどこの何者かバレてしまう。

 昨今のヒーローは正体を大っぴらに明かし人気を得ることで成り立っている職業。だが本来ヒーローとはその素性を謎に包むもので、人知れず人を助ける物である。

 

『ごめん、今は言えない。でも、君たちを助けたいと思ってる』

「……ウィ。誰にだって話せないことはある」

 

 青山は静かにタイクーンの手を放す。俯いたその顔は、何か後ろめたい感情を抱いているように思えた。

 

「――っ!」

『わっ! ちょっ!』

 

 小森は隙をついてタイクーンのベルトに飛びつき、マグナムバックルを抜き取ってしまう。

 変身が解除されてしまったタイクーン――緑谷は咄嗟に上着で顔を隠す。

 

「……やっぱり、あなた入試の時の人」

「っ入試……?」

 

 緑谷は状況を打開しようと頭を回転させつつ、その片隅で入試の記憶を思い起こす。

 

 ――『っだい、っじょうぶ?』

 ――『ひぃっ!』

 

 入試の際、ヴィランロボを斃しきれずに襲われかけていた小柄な女子。その顔と目の前の小森の顔が一致する。

 

「あっ……」

「ごめんね。あの時逃げちゃって」

 

 小森はマグナムバックルを緑谷へ返しつつ頭を下げる。

 

「でも、あの時はみんな自分のことで必死だった。他人を気にかけている余裕はなかったよ」

「……ずっともやもやしたノコ。お礼も言えなかったし、もし私のせいで入試に落ちてたらって」

 

 入試には救助ポイント制度があり、人助けが必ずしもロスになるとは限らない。

 だが審査制である以上、ヴィランポイントを稼ぐ方がよほど堅実に合格ができると言えるだろう。

 

「もし……私のせいで()()()()()()をしてるなら、もうやめてっ! あなたならきっといいヒーローになれる、ノコ」

「……違うよ」

 

 目を潤ませている小森を見た緑谷は、思わず顔隠す手を放す。

 素顔を晒せば、きっと二人は教師にそのことを告げてしまうだろう。助けてくれたヴィジランテの中に、A組の緑谷が居たことを。

 だがなぜだか素顔を明かさずにはいられなかった。そうしなければ二人に対して不公平ではないかと感じていた。

 

「これは、ゲームだ。人助け(ヴィジランテ)なんて立派なものじゃないよ」

 

 緑谷はマグナムバックルを見つめ、つい露悪的にふるまってしまった自分に苦笑する。

 まるで、どこかの狐のような物言いだった。

 

 ――♪

 

 緑谷のスパイダーフォンが鳴り響く。

 

「……僕、もう行くよ。安心して、全員――僕が助けるから」

 

 ――SET

 

 緑谷はタイクーンに変身するとUSJ内部へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――水難ゾーン。

 

「――君の人生の脇役、かな?」

 

 気障な笑みを浮かべる物間に対し、拳藤と鉄哲の目には怪訝な色が浮かび上がる。

 

「お前……ふざけてるのか?」

「ふざけてるだって? 僕は大真面目さ! 誰だって人生の主人公は自分で、他人は全員脇役――君たちは僕の人生においては脇役だし、僕は君たちの人生の脇役さ」

 

 自分の言い回しがうまくハマらなかったせいか、物間は拗ねたようにまくし立てる。

 

「……まあいいや。君たちを脱出ポイントへ案内するよ」

「お前、ヴィジランテってやつか!?」

 

 モンスターバックルを取り出した物間に鉄哲が突っかかる。

 

「……君には関係ないだろ? それとも、僕を警察に突き出すつもり?」

「関係なくないだろっ! 助けてくれた奴が非合法なことしてるんだぞ!? いい奴が道を踏み外そうとしてるんだったら、俺はそれを全力で引き留めたいっ!」

 

 鉄哲は物間の胸倉を掴む。

 ヴィジランテは個性を違法で使っている人間の総称、ヴィラン予備軍ともいえるだろう。無資格でヒーローをやっている人間を自警団(ヴィジランテ)と呼称しがちだが、その中身は一枚岩ではないのだ。

 そして無資格なヒーローが個性を使って人を傷つけてしまえばたちまちヴィラン――悪人のレッテルを貼られてしまう。

 

「お前、俺らと年近いんじゃないか? だったらなんでヒーロー科に入んなかったんだよ!?」

「……離せよ」

 

 物間は苛立ったように鉄哲の手を振り払い、自分の個性を発動させる。

 

「なっ……それ、俺の」

「成程、君の個性は“体を鋼鉄に変える”……で、君は」

 

 続けて拳藤に触れその個性をコピーする。

 たちまちその掌が巨大化した。

 

「私の……個性」

 

 拳藤は不思議そうに自分の手を見つめ、個性が使えることを確かめる。

 

「僕の個性は“模倣(コピー)”、他人の個性ありきの地味な個性さ」

 

 ――SET

 

 物間はモンスターバックルを装填しつつ呆然としている鉄哲と拳藤を鼻で笑う。

 

「ヴィジランテ、ねぇ……ま、守秘義務あるから教えはしないけど」

 

 ――MONSTER!!

 

 物間はパンクジャックに変身する。

 

「僕は世界を救いたくてデザイアグランプリ(これ)をしているのさ。いつか君たちは知ることになる――この僕が、世界を救った救世主(ヒーロー)だって事をね」

 

 パンクジャックは拳を鉄哲に突きつける。

 

「もし君が邪魔をするなら、手荒な手段で連れてくけど――どうする?」

「……俺、馬鹿だからお前が何言ってんのかよくわかんねぇけど――根っこの部分が雄英生(おれたち)と同じってことはよくわかった」

 

 鉄哲はパンクジャックの拳を無理やり開かせ、がっちりと握手を交わす。

 

「お前は世界を救いたいのかも知んねぇけど、俺はまず仲間(ダチ)を救いてぇ!」

「……言うと思った」

 

 拳藤は暑苦しい鉄哲の様子に苦笑しつつ、パンクジャックへ手を差し出す。

 

「私も、自分だけ先に助かりたいとは思わない。脱出するなら、仲間(みんな)も一緒だ!」

 

 パンクジャックは仮面の下で苦笑する。まぶしいくらいのまっすぐさ、何の打算もない純粋な善意に彼はため息をついた。

 

「……足は引っ張らないでくれよ?」

 

 そして鉄哲の手を放し、拳藤とも握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――セントラル広場。

 

「ツバ!」

「ピピリラビビ!」

 

 地面が波のようにうねり、看守ジャマトと警察ジャマトはたたらを踏んでいる。

 ギーツとナーゴは都合よく動いてくれる地面の上をうまく進みながら檻への距離を詰めていく。

 

「――!」

 

 しかし地面がうねろうとも構わず突き進むのは脳無。足を取られながらもジャマト達を踏みつけながらナーゴへ迫る。

 

「っ脳みそ!? 気持ち悪い」

 

 ――FUNK BLIZZARD

 

 ナーゴはビートアックスのエレメンタドラムを3回叩き技を発動する。

 脳無の足元が凍り付くも、凍り付いた足を無理やり砕いて強引に拘束を突破する。

 

「うそぉっ!?」

「っ避けろナーゴ!」

 

 脳無の繰り出そうとするパンチをビートアックスで受け止めようとするナーゴだったが、ギーツの警告を即座に聞き入れ上体を逸らす。

 

「――ぇっ?」

 

 振り抜かれた拳は空を裂き、衝撃波は遥か彼方――ジャマーエリアの壁にまで到達していた。

 その威力はさながらオールマイトの拳。

 もし攻撃を受けようものならビートアックスもろとも致命傷を負ってしまっていただろう。

 

「――!?」

 

 地面が槍のように動き脳無を貫き飛ばす。

 

「よそ見をするなッ!」

 

 治崎は大粒の汗をかきながら地面を引っ掻き続けている。ジャマトとギーツ、ナーゴの位置を計算しつつ個性で地面の再構築を行い続けている。

 少しでも集中が途切れてしまえばすべてがおじゃんになってしまうだろう。

 

「……あれでも助けるべき一般人、なのかな」

 

 ギーツは脳無の存在に冷や汗をかきつつも、檻の上部へ飛び乗る。

 レバーに手をかけるも、見た目に反しそれはさび付いているかのように堅かった。

 

「――開けっ!」

 

 腕のマフラーが火を噴く。

 ブーストの膂力でレバーは軋みながら動き、反対側へ倒れる。

 

「ジャ――!?」

 

 その瞬間、看守ジャマトも警官ジャマトも雷に打たれたかのように動かなくなる。

 

 ――Score up!

 

 檻が解放されたことでギーツに大量の得点が入る。

 

「――よし」

 

 それを見た治崎は懐からニンジャバックルを取り出す。

 ジャマトが動かない以上、変身をする必要性は薄い。彼の個性の場合、救出対象がもし非協力的でも無理やり連れて行くことは可能だからだ。

 つまり、この場で変身する理由はただ一つ。

 

「……初めからそれが狙いってわけ?」

 

 大量得点を獲得したギーツを亡き者にする。

 そうすれば現状首位を脱落させ、勝利の可能性が出てくる。

 

「ふん。騙される方がわるっ!?」

 

 ――RIFLE

 

 変身しようとした彼の手を銃弾が撃ち抜く。

 ニンジャバックルは宙を舞い、ギーツの手元へと飛んでいく。

 

「その通り、化かされる方が悪い♪」

 

 ギーツは土砂ゾーンの壁の上でマグナムシューターを構えるタイクーンに向けて手を振る。

 

「まさか……わかった上で」

「ふふふ。化かし合いで狐に勝てると思わないことだね」

 

 治崎の提案を受けた際、エースは名前を確認するふりをして緑谷へと連絡を取っていた。クロウが不審な動きをしていたら助けて欲しい、と。

 目の前の男が信用ならないと直感し、万が一の保険をかけていたのだ。

 

「ぐっ……っ!」

 

 銃弾で傷ついた手を治崎は即座に修復し、不敵にニンジャバックルを見せつけてくるギーツを睨み付けた。

 

「サポート、ご苦労様♪ よっと」

 

 ――SET

 

 ギーツは檻から飛び降りつつ、ブーストバックルとニンジャバックルを入れ替える。

 

「ここからが――ハイライト、かな?」

 

 ――NINJA

 

 バックルを起動しニンジャフォームへ変身、そして檻から“一般人”が出てくるのを待ち構える。

 

「えっ……あとは助けるだけじゃ」

「ナーゴ、あの脳みそ男は雄英の人間じゃない。ってことは――」

 

 檻が開くと同時に、ヴィランと組み合っているブラドキングが飛び出てくる。

 大人しく誘導されるような状況ではなさそうだった。

 

「――くっまだ新手が!」

 

 ブラドキングは助け出してくれたギーツ達もヴィランの一味と判断、警戒対象に加えられてしまう。

 

「やっぱり、ヴィランもいる」

「なんでっ!? セキュリティは!?」

 

 ナーゴは襲い掛かってきたヴィランをさばきつつギーツへ問い返す。

 

「よっと――こんな状況だ。セキュリティもくそもないでしょ?」

 

 デザイアグランプリが先かヴィランの襲撃が先か、どちらが先か定かではなかったが、この状況となった今では雄英のセキュリティなどあってないようなものだろう。

 

「くっ……! 生徒には指一本」

『待ってくださいっ!』

 

 ギーツやナーゴへ牙をむこうとしたしブラドキングに待ったをかけたのは駆け付けたタイクーン。なおも暴れようとしているヴィランの首筋をマグナムシューターで殴打しつつ、間に割って入る。

 

『ジャマトが動き出したらまた捕まってしまいますっ! 今のうちに脱出ポイントへ!』

「じゃま……? 何を言って」

「――――!」

 

 土の槍で吹き飛ばされていた脳無が再び姿を現す。『暴れろ』という命令を果たしに来ているのであろう。

 

『まずっ』

「――せいっ!」

 

 そんな脳無へ拳を入れるのはケイロウ――倒壊ゾーンから広場へと合流していた。

 正拳突きを喰らった脳無は硬直する。

 

「……無駄だ! そいつには“ショック吸収”の個性が」

 

 ケイロウをあざ笑おうとする死柄木だったが、呻きながら後ずさる脳無を見て硬直する。

 

「何で……効いて」

「ほっほっほっ! ワシの拳がそんじょそこらの異能で止まるわけなかろう!」

 

 ケイロウは拳を構えつつ高笑いしている。

 ショック吸収と言えど許容上限は確かにあるだろう。しかし、対オールマイトように調整されたはずの改造人間に対して有効打を与えるのは、規格外と言って差支えないだろう。

 

「……はぁ? ふざっけんなよ……っ!」

 

 死柄木は苛立ちながら首をかきむしり、ケイロウを“殺すべき標的”に定める。傍らの黒霧は意図を察知しワープゲートの個性を展開する。

 

 ――MONSTER STRIKE!

 

 ワープゲート越しに死柄木がケイロウに触れようとした瞬間、パンクジャックの拳が飛来する。

 

「はぁ……何やってるんだか。早いとこずらかった方がいいぜ?」

 

 拳の風圧でワープゲートが霧散、死柄木は己の手が切断されぬように慌てて手を引っ込める。

 

「……っざけんなよ! なんなんだこのバグの多さはっ!?」

「病気だな」

 

 死柄木の叫びは治崎の個性で肉体を砕かれキャンセルされる。

 意識を刈り取られる状態で復元され、彼の体は力なく倒れる。

 

個性(そんなもの)があるから自分が何かできると勘違いしている……ヒーローほどじゃないが、お前らヴィランも十分病気だよ」

 

 続けて黒霧の意識も奪った治崎はため息をつきながら手袋をはめなおしている。

 

「おい、お前さん“へんしん”はどうした?」

 

 ケイロウは変身せずにいる治崎を心配して声をかける。

 

「お前には関係のない話だ」

「はは~ん。さては、アイテムを失くしたな? ドジな奴だのぉ」

 

 悪意のない煽りが治崎を襲う。彼の額に青筋が浮かび上がる。

 

「ほれ、分けてやるからさっさと変身せい! 顔バレは結構面倒じゃぞ?」

「……ジジイ……っ!」

 

 ケイロウはクローバックルを差し出す。シークレットミッション達成に伴い手に入れていたバックルだった。

 

 ――ARMED CRAW

 

 治崎はクロウに変身、武器の先端をケイロウに突きつける。

 

「お前、俺を怒らせたことを後悔させてやる……っ!」

「ほっほっ! できるもんならやってみぃ!」

 

 二人は気絶した死柄木と黒霧をそれぞれ抱えると脱出ポイントへ向かった。

 

「――お前たち、何者だ?」

 

 ヴィランたちを制圧し終えたブラドキングは共に戦ったギーツ達へ問いかける。

 

「ふふ。名乗るほどのものではないさ♪」

 

 ギーツは気絶したヴィランを担ぎ上げる。

 ナーゴ、タイクーンもそれにならって意識を失っているヴィランを担ぐ。

 

「――先生!」

「おおっ! 拳藤に鉄哲! 無事だったか!」

 

 パンクジャックの後をついて来ていた拳藤と鉄哲が合流する。ブラドキングは生徒の安全に安堵の溜息をつく。

 

「……生徒の安全確保が先だな。“脱出ポイント”とやらに案内してくれ、お前らに協力しよう」

「ふふ。ちゃんと化かされてくれて助かるよ♪」

 

 硬直していたジャマト達がわずかに動き始める。

 彼らは慌ててその場を離れ、脱出ポイントへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――セントラル広場。

 

「――皆様、お疲れ様でございました」

 

 全ての()()()がエリアの外へと脱出し、ゲームクリアとなる。

 エリア内へ残されたプレーヤーたちの前へボックスを手にしたツムリが姿を現す。

 

「第2回戦、“ケイドロ”ゲームはこれにて終了となります♪」

 

 ツムリの宣言でスコアが発表される。

 

「栄えある第一位は――チッ――ギーツ!」

 

 堂々の第1位はギーツ。檻から一般人を解放したことによる大幅加点が勝利の要因だった。

 

「ねえ、今舌打ち」

「こちらが勝利報酬のスペシャルアイテム”に――」

「――――!」

 

 突如、エリア内に雄叫びが響き渡る。

 唯一、救出されずに取り残されていた脳無が再び動き始めたのである。

 

「えっ? もう一般人は救出されたはずじゃ」

「私はあれを一般人にカウントしたくないかな」

 

 エースはボックスをツムリの手から奪いとり、中身を取り出す。

 

「――!」

 

 脳無は大きく跳躍し、残されていた人間――デザイアグランプリ参加者に狙いを定める。

 

「仕方ない――お手並み拝見と行こうか」

 

 ――SET FEVER!

 

 エースはスロットマシンのようなバックル――フィーバースロットバックルとブーストバックルを同時に装填する。

 

「変身!」

 

 ――GOLDEN FEVER

 

 フィーバーバックルの抽選が開始され“???”の絵柄がヒットする。

 

 ――JACK POT HIT! GOLDEN FEVER!!

 

 上半身はブースト、下半身もブースト。そして首元のマフラーは普段と違い金色に輝いていた。

 

 

「さあ――ハイライトさ!」

 

 ギーツと脳無の拳がぶつかり合う。

 衝撃波が辺り一面に駆け巡り、プレーヤーとツムリを吹き飛ばす。

 

「!」

 

 脳無は続けて拳を繰り出す。ギーツは受ければ不利と判断しそれを躱す。

 ギーツの足のマフラーが火を噴く。加速した足はショック吸収を貫通するほどの威力の蹴りを生み出した。

 

「はっ!」

 

 反撃の隙は与えなかった。

 ギーツは続けざまに拳を繰り出し、脳無を圧倒していく。超再生の個性も搭載されている脳無だが、フィーバーブーストフォームとなったギーツはそれを上回る速度で攻撃を繰り出す。

 単純なパワーは脳無には劣るものの、それを技術でカバー。息もつかせぬ攻防で圧倒する。

 

 ――GOLDEN FEVER VICTORY!!

 

 ギーツはバックルを再び操作、ブーストライカ―を召喚し脳無へ突進、引きずり回していく。

 

「――!?」

 

 エリアの外周まで到達すると急ブレーキ、脳無をエリアの壁へ吹き飛ばす。

 そしてブーストライカーを飛び降りたギーツはそのままハンドルを掴んだままそれを振り回し――

 

「――飛んでいけっ!」

 

 脳無に叩きつけ、背後の壁を破壊しつつ外へと追い出した。

 ひび割れた壁の向こう側、脱出した一般人(ヴィラン)を捕縛しているオールマイトの姿が目に入る。

 裂け目が修復される刹那、ギーツとオールマイトの目が交錯する。

 

「……お勤め、ご苦労様♪」

 

 裂け目は即座に修復され、再び外の空間から断絶される。

 ブーストバックルはその役目を終え、蒸気と共に吹っ飛んでいく。

 変身を解除したエースはそれを遠目に見つつ、新たに手に入れたバックルの“有効性”を実感するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

『おーおー……盛大にしくじりおって』

 

 古びたモニターから呆れたような声が響く。

 

「“デザイアグランプリ”か、これは予期せぬアクシデントだね」

 

 部屋の主は愉快そうに答える。

 傍らには生命維持装置、口元には呼吸用のマスクが装着されている。そして何よりその頭部の上半分は欠損しており、顔は口元しか残っていなかった。

 

『おまけに対平和の象徴(オールマイト)用の脳無まで失くしおって……』

 

 雄英を襲撃したヴィランたちは彼らの差し金だった。

 自分の後継者たる死柄木 弔に経験を積ませ、次なる“悪の象徴”に育て上げるための一手目だった。

 だがその目論見はデザイアグランプリによって阻まれてしまう。

 ゲームに巻き込まれた死柄木たちはエリアからの脱出後、エリア内への侵入を試みていた雄英教師陣に捕縛されてしまったのである。

 更に対オールマイトの切り札である改人、脳無まで所在が知れなくなってしまったのだ。

 彼らにとっては甘く見積もって大失敗であったと言えるだろう。

 

「いいんだドクター。過ぎたことを悔いていても仕方がないだろう?」

 

 しかし部屋の主――悪の象徴(オール・フォー・ワン)は気にした風もなく答える。

 自分の栄華を崩壊させた平和の象徴(オールマイト)への報復計画が頓挫したにもかかわらずその機嫌は悪くなかった。

 

「……興味がないからすっかり忘れていたよ。ジャマト……そんな“生命体”もいたっけ」

 

 かつて、この男はデザイアグランプリを知る機会があった。

 ジャマトと呼ばれる生命体を用いた世界を守るゲーム。個性の運用方法に執心していたオール・フォー・ワンにとってはどうでもいい、取るに足らない児戯に等しかった。

 だがこうして自分の計画を阻んだことで一気に関心が向いていた。

 

「……ねぇ、ドクター」

『先生、何か悪いことでも思いついたようじゃが』

 

 モニターの奥の“ドクター”はオール・フォー・ワンの思いついたことを察していた。

 

「僕たちで()()()()()()()()()を崩壊させるってのはどうかな?」

 

 相手の嫌がることを全力で実行する――それが悪の象徴(オール・フォー・ワン)の流儀。

 

『それは……年甲斐もなく胸が躍ってしまうわい』

 

 オール・フォー・ワンは口の端を大きく釣り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

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