今回、本筋は一旦お休み、閑話的なお話です。
タイトルの通り、小森さんが主軸のお話です。ちゃんとキャラを表現できてるかな……
二次創作なので寛容の精神で呼んでいただければ幸いです。
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ヴィラン集団による雄英高校襲撃事件。
それは首謀者である死柄木 弔の逮捕によってあっけなく幕を閉じてしまった。
現在、警察による取り調べが行われその犯行動機などがつぶさに聞き出されていた。
しかし世間はそんな“チンピラ崩れ”の襲撃事件など全く気にも留めていなかった。
なぜなら――雄英高校の体育祭が迫っていたからである。
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「――と、言うわけで体育祭が迫っている」
襲撃事件の後、数日の休校期間を経て授業が再開されていた。
相澤の言葉は生徒たちを大いに奮い立たせ、そして学校行事の到来に彼らは大いにテンションをぶち上げた。
「――!」
が、盛り上がって話が進まなくなることを相澤は良しとしない。凄まじい眼力と殺気によって教室は一気に静まる。
雄英高校体育祭。それは日本においてかつてのオリンピックに代わるビッグイベント。当然ながら全国のプロヒーローも観戦するため、ヒーロー科の生徒にとってはアピールするまたとないチャンスなのである。
「――確かに、ヴィランに襲撃された以上中止すべきって意見も上がってはいる。が、年1回、計3回しかない貴重なチャンスをヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ」
「ごときって……」
不安そうな声を上げているのは峰田。他クラスとはいえ、襲撃事件があったことで不安を覚えているのだろう。
「ま、警備は例年の5倍に強化するって話だ。こんな状況だからこそ開催して雄英の盤石さを世に知らしめる目的もある」
体育祭を無事に終えることができれば雄英高校のセキュリティが万全であることのアピールとなる。例年以上にセキュリティに気遣った体育祭となることだろう。
「襲撃は必ずしもマイナスとは限らない。危機を己の糧に変え、成長することだってできる。お前ら、うかうかしてると――B組に置いていかれるぞ」
相澤の激励は漏れなく全員に突き刺さる。
本来は職場体験やインターンで触れることとなる“本物のヴィラン”に図らずも触れたB組。己の至らなさを実感し、同時にプロヒーローの凄さを実感できた、ある意味でいい体験だったと言えるだろう。
そして彼の視線は緑谷、葉隠、エースの3名へ自然と吸い寄せられる。
「……“時間は有限”、トレーニング施設も解放している。下級生だからと遠慮せず、積極的に使っていけ」
雄英高校襲撃事件、表向きは“ヴィラン連合”を名乗る集団によって引き起こされた事件であると報道されている。
しかし当事者と雄英教師陣、そして警察の上層部しか知らない真実があった。
――本当の襲撃犯はヴィランではなく謎の生命体である。
生徒と襲撃犯が解放され、教師達が中に踏み入った時には既にもぬけの殻。謎の生命体の痕跡すら残っていなかった。
(ジャマト、か……)
相澤はHRを終え職員室へ戻りつつ、ちらとUSJのある方角へ視線を向ける。
謎の生命体、それを“動物のような仮面を身に着けたヴィジランテ”が“ジャマト”と呼んでいたという。
USJ内部の監視カメラには一切記録が残されていなかった。捕まったヴィランの中には電波妨害を行える個性の者もおり、その人物の仕業であった。
手がかりは生徒たちの目撃証言のみ。
作られたイメージ図はおよそ人の見た目とは思えない歪な外見。異形型個性とは違う“不気味さ”を放っていた。
(こんな生物がいるなら、もっと話題になっていてもいいと思うんだがな)
相澤は職員室につくとPCのファイルを開く。
(……だがもし、こんな生物が人知れず繁殖していたとして、もし今回と同じような事件が起きていたのなら)
開いたのは緑谷の身辺調査記録。ヴィランとの内通を疑い、相澤が個人的に調べ上げた緑谷の半生。
――『――緑谷ねぇ……特に素行に問題もない、真面目な子でしたよ』
思い返されるのは緑谷の中学時代の担任の言葉。
――『でも実は爆豪――緑谷と一緒に進学した子ですよ――彼とすごく仲が悪くて、一時期いじめまがいの嫌がらせも受けていて』
――『ただ、去年の6月くらいだったかな? 急に爆豪の嫌がらせが無くなりましてね』
去年の6月――それは前回のデザイアグランプリが始まった月である。
――『きっかけ? う~ん……特にはないですが、強いて言えば――進路指導の平先生が行方不明になっていて――』
超常社会、行方不明事件は間々起こりうる社会問題だ。
ヴィラン犯罪に何らかの形で巻き込まれ、行方知れずとなってしまう。ヒーローたちの捜索も空しく遺体が発見されることもしばしばだ。
調べてみれば、平は今もなお行方不明となっており、親族からの捜索願も出されていた。
(十中八九、ジャマトはUSJ以外にも出現している。そして緑谷たちもそれに一枚噛んでいる)
相澤は半ば確信めいたものを抱いていた。
緑谷たちはヴィランの回し者ではなく、このジャマトと関わる何らかの事件に巻き込まれているのだと。そしてヒーローたちに頼ることのできない何らかの制約――例えば、人質のようなものを取られている――があるのではないか、と。
(まずはヒーローネットワークで情報を募ってみよう。もし仮説が正しければ、同じような行方不明事件が起きているはずだ)
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――
――昼休み。
体育祭が迫ろうとも授業が中止になるわけではない。
通常通りのハードな授業が終わり、緑谷たちは学食へ向かう。
「――しっかし、狐火も一緒は珍しいな。いつも弁当派だろ?」
「一人は少し寂しくてね。学食の味を確かめようかと」
入学から1か月、緑谷、上鳴、エースの三人グループは峰田をくわえた4人グループとなっていた。
昼時はそこへ時折委員長の飯田が加わり、稀に麗日や葉隠が加わり、極々稀に轟が加わることもある。緑谷は中学時代と違って周囲に人が絶えないことを新鮮に感じていた。
「――本当にやって大丈夫かよ。体育祭」
峰田は未だに体育祭反対派であり、ネガティブなことをつぶやいている。
「確かに襲撃があった以上、安心できないけど……先生の言う通り僕たちにとっては“見てもらえる”チャンスだし」
「
卒業後、いきなり独立して活動するヒーローはそこまで多くない。大抵は大手事務所のサイドキックとして下積みをするものだ。
つまり、注目されていえばそれだけ引く手あまたと言うことだ。
「――いつか独立を夢見て、万年サイドキックと言う話もよく聞くけどね。君はそうなりそうな予感がするよ」
「くっ!」
遅れてエースが合流する。手にはたぬきそばの乗ったお盆。
「ってか、きつねそばじゃないんだな! やっぱ食べにくいモン?」
「ああ。名前が気に入らないね」
上鳴の話題逸らしにエースは狐耳を揺らす。そして意味ありげに緑谷へ視線を送る。
「それにしても、なんでたぬきそばと言うんだろうね? 具は揚げ玉だけのようだけど」
「あー確かに、もしかして昔はたぬきが入ってたんじゃね?」
「ないない」
上鳴の愚直な推測に峰田は首を横に振っている。
「そういえば、揚げ玉がたぬきの毛皮の色に似てる、とか“種抜き”が変化してたぬきになった、とかって聞いたことがあるかな」
緑谷は自身が変身するタイクーンのモチーフなだけあり、たぬき関連の雑学に詳しくなっていた。
「――へえ、詳しいんだ」
「い、いやぁ……ちょっと気になって調べたことが、あっ……て……?」
突如として隣から聞こえてきた女子の声に、緑谷は硬直する。
油の切れたロボットのようなぎこちない動きで首を回すと、隣には小柄でおかっぱ頭の女子――小森が座っているのが見える。
彼女はキノコパスタを食べつつもちらりと緑谷の方を見る。
「え、あ、あの……君は」
「他に座る席がなかったノコ。一緒にいちゃダメ?」
「あれ? 希乃子?」
緑谷の耳に小森を探しているB組の女子の声が聞こえてくる。
「え、あれってもしかして君の友達じゃ」
「席がなかったノコ」
「あ、はい……」
圧を感じて緑谷は思わず黙ってしまう。
「私、小森 希乃子。君は?」
「ぼっ……僕は緑谷、出久……です」
「ふぅん……イズクかぁ」
いきなり名前で呼ばれた緑谷はその心臓を思い切り跳ね上げる。
助けを求めるように上鳴と峰田の方を見る。
上鳴はニヒルな笑みを浮かべつつ箸を思い切り握り締めていた。
峰田は菩薩のような微笑で両手の中指を天高く突き立てていた。
(うっ……エースさんは)
男子二人の助けを諦め隣に座っていたエースに助けを求める。
エースは我関せず、とばかりにそばをすすっていた。しかしその耳は思い切り緑谷の方を向いて、狐の尾は落ち着かないように揺れていた。
「青山も誘ったんだけど来なかったノコ」
「え、あお……?」
「騎士様みたいなコスチュームの」
「ああ……」
緑谷は小森の説明で顔を思い出す。彼がUSJ――デザイアグランプリで助け出した生徒の一人だった。
「? なんでわかるノコ? 一緒の授業になったことないのに」
「ッ!?」
かつ丼をかっ込んでいた緑谷は思わずむせてしまう。
(ッ何油断してんだよ! 僕、この子の前で変身解いちゃってるんだぞッ!?)
咳き込みつつ緑谷は過去の自分の行為を呪う。
あの後、教師陣や警察から個別に呼び出されるということは無かった。恐らく、別のクラスであったことが幸いし、“たぬき仮面のヴィジランテ=A組の緑谷”という紐づきがなかったのだろう。
(もしかして……バレてる?)
こうして小森が緑谷に接触してきたのは、確かめるためなのではないだろうか。彼は内心焦り始める。
あの日のヴィジランテが本当にA組の緑谷 出久なのかどうか、彼女はそれを突き止めるつもりなのではないだろうか。
「え、い、いや……ちょっと前にすれ違ったことがあって……ほ、ほら! 体育祭前だし!」
「ふぅん……」
小森は目を細めながらパスタを巻いている。心なしか口元はニヤついているようにも見える。
(だ、大丈夫、だよな……?)
「“キノコ”、好き?」
文脈を考えれば、食べ物の方の
だが不幸なことに、緑谷はどうにか身バレしないようにと頭を働かせていた結果、言葉の意味を深読みしてしまう。
「えっ……あっ、えっ?」
(きのこって……そういえば小森、さんの名前も……え、本当に食べ物の方のキノコ? もしかして小森さん自身の事聞いてる? っ一体どっちの)
テンパっている緑谷の頭に何かがぶつかる。
「あっごめーん(棒)」
偶然か、通りかかっていた葉隠の肘が当たっていたのである。完全に棒読みな謝罪は彼女がわざとぶつかったことを暗に示していた。
「エースさん、隣いい?」
「うん、いいとも♪」
「いっ」
続けざまに足もとを誰かに踏まれる。見れば犯人はエースだった。が、当の本人は素知らぬふりをしていた。
「あっ、その……す、好き、かな?」
「……ふぅん」
小森は意味深に微笑むとパスタを頬張っている。
「(見ました? 今の?)」
「(完全に脈あり、おふぁっくですわね)」
上鳴と峰田はなぜかお嬢様言葉でこそこそ話し合っている。
(ひっ……人の気も知らないで)
「
「っ!」
緑谷は思わず体を跳ね上げる。
遂に核心に触れに来たのかと思わず身を強張らせる。
「――好きなの?」
「えっ……その」
「さっき詳しいって言ってたの聞いたノコ。たぬきの事好きなのかな~って」
「うん……その、
他愛のない世間話だと安心し、緑谷はホッと胸をなでおろす。
どうやら小森は探りに来たのではなさそうだ。単に相席した相手だから話をしようとしているのだと――それはそれでどうかと緑谷は不思議に思ったが――納得させ、軽くため息をつく。
小森はそんな緑谷の耳元に口を近づける。
「やっぱり、あの時のたぬきさんは貴方だったノコ♡」
「ッ!」
とんでもない策士だと緑谷は戦慄する。
単なる世間話だと油断させ、欲しかった情報を聞き出したのである。
(馬鹿野郎……っ! もう少し様子を見ておけよッ!)
耳元の小森はいたずらっ子のようにニヤニヤと笑っている。
「放課後、お話したいノコ♪」
弱みを握られてしまっていた緑谷は首がちぎれそうになるくらい縦に振っていた。
なお、上鳴と峰田からは舌打ちの音が止まらなかった。
――――
――
時は過ぎ放課後。緑谷は校舎の裏へ呼び出されていた。
字面だけ見れば胸ときめく甘酸っぱい青春のイベント。しかし彼にとってはそんなことに思いをはせる余裕すらなかった。
(……午後の授業で何事もなかったってことは小森さんはまだ誰にも話してないってこと。だったらどうにか穏便に)ブツブツブツ
緑谷は緊張のあまり思考が半分口から漏れ出てしまっていた。
「――おそーい。女の子は待たせちゃダメキノコだよ?」
小森は先に来ていたようで、壁を背に彼を見つめている。
「あっご、ごめんなさ」
「早くこっちに来て?」
小悪魔のような微笑の小森に一瞬ドキッとしつつ、緑谷は小走りでかけていく。しかし校舎裏の日陰、そこにはなぜかぬめぬめとした
「ってて……」
「即席なめこちゃんトラップ☆ 足元注意ノコ♪」
痛そうに腰をさすっている緑谷の上に小森は馬乗りとなる。
やわらかな彼女の肉体を直に感じ取り、彼は思わず赤面する。女子特有の甘い香りに脳内はパンク寸前だった。
「あっ……あの!」
「変なの。前に会った時とは別人みたいノコ♪」
“緑谷の秘密”という最強のカードを持っている小森は挑発的に微笑む。
緑谷とて男子、いくら草食系ヘタレだとしても女子と密着した状況では
もし
「……っ!」
「ねえ――どうして“ヴィジランテ”をしてるノコ?」
真剣なまなざしに緑谷の邪心は静まりかえる。
「最初は私のせいでヒーロー科落ちちゃったせいだと思ったノコ。でもイズクはヒーロー科にいて、ちゃんとヒーロー目指せてる。なのに、どうして……」
「……助けたい人が、いるんだ」
緑谷の脳裏に浮かぶのは目の前で消滅していった恩師――平の姿。
デザイアグランプリで消滅すれば、この世からその存在が消え去ってしまう。唯一、それを覆すことのできる手段があるとすれば――それは優勝して理想の世界を叶えることしかない。
「僕はその人に助けてもらえたから、今ここにいる」
――『気が付いたら体が動いていたよ……』
あの時、平が攻撃を庇ってくれなければ脱落していたのは緑谷の方だっただろう。彼がこうして雄英高校に進学し、充実した青春を送ることができているのは庇ってくれた平のおかげだ。
「……
緑谷には全てを忘れ、平穏を享受するという選択肢もあった。当たり障りのない願いを書き、何事もなく
でも彼はそうしなかった。
受けた恩を仇で返す――助けられる
オールマイトのように“笑顔で全てを
「こんなお願い、するのもどうかと思うけど……僕のことは黙っていて欲しいんだ。全部終わったら、ちゃんとケジメはつける。だから――今は見逃してほしい」
「……」
ヴィジランテ行為は犯罪行為。個性を使っていない以上明確な罪があるわけではないが
「……目、つぶって」
「へ?」
「いいから」
緑谷は言われるがままに目を閉じる。
しばらくして、頬に吐息がかかるのを感じる。何をされるのかわからず心臓が早鐘を打ち始める。
「――いいよ。黙っておいてあげるノコ」
耳元でささやかれ、思わず鳥肌が立つ。恐る恐る目を開けると、小森が抱き着くようにしてささやいているのが目に入る。
密着したことで感じ取れるやわらかな感触が、彼の邪心を再び活性化させてしまう。
「2回も助けてもらったもん。仕方ないから目をつぶってあげるノコ」
小森はゆっくりと緑谷の体から下りる。変な気が起きなかったことと、秘密を話さないでいてくれることに安堵し、歩っとため息をついた。
「でも、もしイズクがずっとヴィジランテを続けているなら、この私――“シーメイジ”が必ず捕まえるノコ♪」
小森は人差し指を銃のようにして緑谷へ向ける。
「だから――無茶したらダメキノコだよ」
そうつぶやくと彼女は小走りで去っていった。
「無茶はダメ、か……」
ジャマトの強さは心なしか、前回よりも強くなってきていた。
大型バックルを手に入れれば安泰だと考えていた緑谷は、内心焦っていた。
このままではいずれ限界が来るのではないだろうか? と。
「……大丈夫。僕は、必ず勝つから」
口をついて出たのは、どこかの狐のような、自信過剰な言葉。
緑谷は制服の汚れを払うと、校舎裏を後にするのだった。
――――
一人になった小森は、胸の高鳴りを押さえるようにぎゅっと押さえつける。
緑谷に見せていた小悪魔的な余裕の表情は消え失せ、恥じらいを見せていた。頬は上気し、瞳はぐるぐると渦巻いている。
「…………っ」
そんな表情にさせている感情の正体を、彼女は知る由もなかった。
次回はヒロアカサイドのお話。二次創作の鬼門である“雄英体育祭編”です。
数多の作品がエタるポイント。どうにかして乗り切って見せますとも!
乗り切って……見せます(前科n犯)
あっ……ケイドロゲームのルールまとめるの忘れてた。もう少しだけお待ちください……