【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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英寿ゥ! お前マジかっ!?
予想だにしない結果に非常に驚いております。
オイオイオイ……クリスマスの悲劇には、まだ早いぜ……

と、言うわけで遅くなりましたが体育祭編はこれにて終了です。どうにか2話で収めることができました。ようやく本筋に戻ることができそうです!













17 幕間/雄英体育祭(トーナメント):ハイライト

――――

――

 

『――ほら、出来たぞ』

 

 初老の男はおおきなおにぎりを乗せた皿を手にやってくる。

 彼はそれをちゃぶ台の上に乗せると、一つ手に取り差し出す。

 

『腹、減ってんだろ? 遠慮せず食いな』

 

 名無しの狐はそれを受け取ると、恐る恐る口に運ぶ。

 米本来の甘味だけでなく、どこか人工的な甘さのそれをゆっくりと噛みしめる。腹の虫はもっと寄越せと言わんばかりに主張を始める。

 一体いつぶりの食事だろうか、気が付けば夢中でおにぎりを頬張っていた。

 

『そうか、うめぇか』

 

 男の言葉に彼女(?)はしきりに首を縦に振った。

 男は嬉しそうに微笑むと自分もおにぎりを一つ手に取りかぶりつく。

 

『――うっ! あ、甘……っしまったぁ! 塩と間違えて砂糖入れちまってた!』

 

 おにぎりと言えば塩が基本である。

 料理下手あるあるな間違いに男は頭を抱える。

 

『ま、待ってな! すぐに作り直し――』

 

 慌てて皿を下げようとする男の手を、名無しの狐は掴んで引き留める。

 

『これで、いい……おいしい、から』

 

 彼女(?)は激甘なおにぎりをゆっくりと口に運んでいる。男はその様子をみて強がりではないことに気づき、安堵の息をつく。

 

『そっか……でも次はちゃんと塩むすび作ってやるからな』

 

 名無しの狐は頭を撫でられ、不思議と穏やかな気持ちになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「ん……」

 

 エースは医務室のベッドの上で目を覚ます。

 上体を起こし、手を握ったり開いたりして確かめる――本調子とは言い難いが、十分に回復していた。

 

「目、覚めたかい?」

 

 養護教諭のリカバリーガールはエースが目覚めたことに気づき、お菓子を差し出してくる。

 

「ええ、おかげさまで。今の時間は?」

 

 エースは差し出されたお菓子を受け取りつつ時間を尋ねる。外の明かりを見る限り、既に体育祭が終了してしまったということはなさそうだ。

 

「ちょうどお昼休みさね。最終種目は参加するのかい?」

「ええ、もちろん♪」

 

 ここまで来てリタイアする選択肢は彼女(?)にはない。最後まで勝ち抜けると信じて戦うだけだった。

 

「……そうかい。あまり、無茶はするんじゃないよ?」

「ふふ。大丈夫、勝つのは私ですから♪」

 

 微笑むエースだったが、その目は笑っていない。真剣に戦うべき級友(ライバル)をだた見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 雄英体育祭体育祭、最終種目――トーナメント。

 1vs1のガチンコバトルだった。

 

『1回戦! その見た目は伊達じゃない? ヒーロー科、狐火 エース! VS ごめん、未だに活躍ナシ! 普通科、心操 人使!』

 

 トーナメントのルールはいたってシンプル。指定されたフィールドで戦い、相手を降参させるか行動不能にする、もしくは場外に押し出せば勝利。ただし、ヒーローらしからぬ命に関わる行為は反則。

 

「なんだ、あのままダウンしてくれてりゃ不戦勝で2回戦進出だったのに」

「お生憎様。私はそこまでやわじゃない」

 

 心操とエースの間で火花が散る。

 

「羨ましいぜ。そんな()()()()を持って生まれるなんてさ。いままでさぞ()()()()を送ってきたんだろうな」

「っ!」

 

 謀ってか、はたまた偶然か。心操の放った言葉はエースの逆鱗に触れていた。

 

 

『――レディィィィッ――』

「なあ、教えてくれよ! ()()()()()()ってやつをさ!」

 

 心操は容赦なくエースの逆鱗を撫で続ける。それはさながら地雷原でタップダンスを踊っているようなものだった。

 エース――否、彼女(?)に限らず異形型個性を持った者たちは決して順風満帆な人生を送れているわけではない。

 ――異形差別。都心部では比較的廃れているものの、地方では未だに異形型個性の者を差別する悪習が残り続けている。

 残念ながら都心部でも著しく人の姿から外れている物は、大なり小なり偏見の目を向けられるものである。

 

『――START!!』

 

 エースが決して勝ち組の部類にならないことは心操は重々承知の上だった。彼女(?)も異形である以上、何らかの差別を受けたことはあるはずだった。

 だが彼の個性――“洗脳”を発動させるためにあえて侮辱した。

 例え級友から“発動条件”を示唆されていたとしても、激情すれば反論せざるを得なくなる。

 怒りは強制的に対話に引きずり出す感情の一つなのだ。

 

「…………」

「――っ!?」

 

 放たれた殺気に心操は思わず後ずさる。まるで首筋に刃物を突き付けられたかのような気分だった。

 

「……一つ、君に問いたい」

「……っなんだよ?」

 

 心操の個性は問いかけに応じることがトリガーとなる。故に、ただ話しかけるだけでは洗脳することはできないのだ。

 

「今の言葉は、本気なのかな?」

「……だったらどうする?

「……君を」

 

 エースが硬直する。

 心操の問い返しに()()()形となり、発動条件を満たしてしまったからだ。

 

「……悪いな」

 

 実況のプレゼントマイクが動きのなさに文句を言う中、心操は己の個性の醜悪さを嘲っていた。

 

 ――『悪いことに使えそうだよな』

 

 洗脳する力を持っていれば、まず第一に思いつくのは“悪いことへの使い方”だろう。誰かを洗脳して望みのままに動かせば、完全犯罪の出来上がりである。

 それでも彼は、ヒーローになりたかった。

 体育祭の結果如何では2年次からのヒーロー科編入も検討されると言われている以上、手段を選んでいる場合ではないのだ。

 

「……振り向いてそのまま場外へ出ろ」

 

 洗脳状態の相手は心操のいいなりとなる。しかし、エースはその命令に抗っていた。

 

「……っどうした!? 早く振り向いて――」

「っ……!」

 

 エースが崩れ落ちる。胸を押さえ、息は上がっているが自分の意志で確かに動いていた。

 

「……悪いね。()()()()()は誰にも負けないのさ」

「まさか……それだけで洗脳を解除したっていうのか?」

 

 いまだかつて体験したことのない現象に心操は戸惑う。

 しかし問いかけに答えれば洗脳されてしまうことを知ったエースはだんまりを決め込む。

 いくら意志の力で解除できるとは言え、精神力を消耗してしまうのだろう。

 

「……うらやましいな! お前は個性だけじゃなくて、意志まで強いってのかよ!?」

「…………」

 

 エースは答えず、ゆっくりと心操に近づいていく。

 心操はもう問いかけに答えさせることは不可能だと悟ると格闘戦を仕掛ける。エースにつかみかかろうとするも、彼女(?)は合気の要領でそれを躱して組み伏せ、そのまま関節を極めて拘束する。

 

「――――っ!?」

 

 耐え難い激痛に心操は悲鳴に近い声を上げる。必死にタップして降伏の意志を伝えるも、エースは聞き入れず極め続ける。降参のルールは相手に“参った”と宣言させること。万が一降伏したふりをして奇襲することも考慮し言質を取ろうとしているのだろう。

 

「――っぁ……ま、まいっ――ぐっ!?」

 

 心操が降伏を宣言しようとするも、エースはすかさず拘束を強めて口を開かせないようにする。

 

「そう簡単に言わせないよ。君は私を怒らせたんだからね……!」

「――っ! まっ……お、おれ……!」

「安いもんだよ。腕の一本くらい」

 

 エースは冷たい瞳で心操を見下ろす。このまま彼の腕が使い物にならなくなったとしてもお構いなしと言った風だった。

 

「――狐火さん、そこまでよ!」

 

 しかし待ったをかけたのは主審のミッドナイト。心操が戦闘不能となっていると判断し、勝者がエースであると決定した。

 

「……気を付けた方がいい。もし私がヴィランだったら、もしこれが試合じゃなかったら、君の命は無くなっていたかもしれない」

「……っ!」

 

 エースは冷たく微笑むと、心操をお姫様抱っこして舞台を降りる。

 

「このまま医務室に連れて行ってあげるよ♪」

「っま、待てよ! 自分で歩け――」

 

 心操は女子(に見えるエース)に運ばれている事実がたまらなく恥ずかしくて抵抗するも、殺気のこもったまなざしに思わず身を強張らせる。

 

「私、やられたら根に持つタイプでね。存分に辱めてやり返してあげる♪」

 

 この風景を普通科の生徒に激写され心操はしばらくの間いじられ続けるのだが、それはまだ先の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 1回戦はその後も滞りなく続き、2回戦に進む者が決定する。

 第1試合――エース vs 轟。

 第2試合――上鳴 vs 飯田。

 第3試合――麗日 vs 常闇。

 第4試合――緑谷 vs 爆豪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 第1試合、エース対轟。

 予選でトップ争いを繰り広げた二人の激突。

 会場やテレビ中継、SNS、動画配信者によるミラー配信、各媒体では事実上の決勝戦だとかつてない盛り上がりを見せていた。

 

『――さあ来たぜ予選ツートップのガチンコバトル! 狐火 vs 轟!』

 

 会場が盛り上がる中、不思議と舞台の上は静まりかえっていた。

 嵐の前の静けさか、それとも並び立つ二人の間でしかわからない“熱”が迸っているのか。

 

『――START!』

 

 号令がかかるや否や、轟の氷結が発動する。

 対するエースはそれを狐火で相殺、爆発が起き土埃が舞い上がる。

 

「っ!」

 

 それに紛れて距離を詰めるエース。轟は炎で受けようとするも、すぐに取りやめ再び氷結を発動する。

 

「……舐められたものだね、私も」

 

 エースはそれを躱しつつ呆れてため息をついた。

 炎を使って迎撃していれば確実に痛手を与えられていただろう。しかし発動を躊躇ったせいでタイミングを読まれ、躱されてしまっている。

 

「なら――私も君と同じことをしてあげようか♪」

「っ……!」

 

 エースは左手を見せつけるように体の後ろへ持っていき、右手を伸ばして挑発する。

 片手で斃してやるからかかってこい――彼女(?)の瞳は挑発的に細められる。

 

「っ……そう、簡単に――割り切れねえんだよ!」

 

 轟は歯を食いしばりつつ大規模氷結――1回戦で瀬呂を破った大技を繰り出す。

 会場が真冬のように凍てつく中、エースは狐火でそれを回避する。

 

「第一、なんで俺に(ひだり)を使わせたい!? 親父に金でも渡されたか!?」

 

 父親(エンデヴァー)ならそういうこともしかねない、轟は会場に来ているであろう父親を思い嫌悪感に襲われる。

 

「何でって、決まってる――」

 

 エースは挑発的に微笑んだ。

 

「全力を出してもなお勝てない君の顔を、見てみたいからさ♪」

「……あ?」

 

 轟の目が細められる。

 あれほどちらついていた父親の顔がきれいさっぱり消え去り、目の前の化け狐(エース)へ上書きされる。

 

「ふふ。まさか――勝てるとでも思ってたのかい? おめでたい頭だね」

「……っ!」

 

 次第に彼の中の中にある父親への恨みが、次第にエースへの怒りへと塗りつぶされていく。

 

「悔しかったら見せてくれよ――君の()()を」

 

 その言葉で怒りは一瞬冷える。

 目の前の級友が見ていたのはNo.2(エンデヴァー)の息子ではなく、轟 焦凍という一人の人間だったと。

 左側の炎を父親(エンデヴァー)の力としてではなく轟 焦凍の力としてみていた。

 

 ――『なりたい自分に、なっていいんだよ』

 

 ――熱気が迸る。

 

「……おめでたいのはどっちだって話だ」

 

 霜が降りつつあった轟の右半身は、左側から迸る熱に温められていく。

 

「やってやる……! 俺の全力で!」

「ふふ。そう来なくっちゃ♪」

 

 嬉しそうに微笑むエースの周りに狐火が漂い始める。それはさながら化け狐とそれに対峙するヒーローのような構造だった。

 

「さあ――ここからが、ハイライトさ」

 

 炎が巻き上がり、氷結によって冷やされた空気が膨張し爆風が吹き荒れる。

 

「っ!」

 

 指を弾く音が聞こえると、轟の足元に()()()()が出現し落ちそうになる。

 

(んなわけねぇっ! これは幻覚だ!)

 

 股がすくみ上る様になるようになるも、現実的でないことから幻覚(にせもの)と断じ氷を棒状に生成する。

 あの爆風で場外へ出ていないということなら幻覚で動揺したところを叩くつもりのはず。轟は即席の武器を構え油断なく周囲を伺う。

 

「コン♪」

 

 指を弾く音が聞こえる。

 振り返るとそこには拳を構えるエースの姿。

 

(っ待て、指を鳴らしたってことはこれはフェイク)

 

 拳を氷の剣で防ごうと構えるも、個性発動のトリガーが聞こえたため逡巡する。

 迷う隙に拳が振り抜かれ、右ストレートが轟の腹に命中した。

 

「っ!?」

 

 指を鳴らしたからと必ずしも幻覚を生み出しているとは限らない。

 意識が飛びそうになる中、彼は武器を手放し腹に突き刺さったエースの右腕をわしづかみにする。

 

「この距離なら、誤魔化せねぇだろ!」

 

 放つのは全力の氷結。エースを逃げられないよう拘束し、確実にとどめを刺す。

 が、なぜか放ったのは特大の火炎。

 

「はっ?」

 

 ともすれば相手を大やけどさせかねない高火力の放出に困惑し、轟は思わずエースの腕を離した。

 

「ふふ。()()()、間違えてるよ♪ ……あっつ」

 

 エースは燃えかけの体操服を脱ぎ捨て服についた残り火を払う。狐火を使う都合か、肌着は耐火性で燃えずに彼女(?)の上半身を守っていた。

 

「まさか……()()()()()()()()()、のか?」

「ふふふ。狐は人を化かす動物、すっかり、化かされちゃたみたいだね」

 

 左右認識の阻害。右だと思っていた方向が実は左で、左だと思っていた方向が実は右だった。言われてみればなんてことのない誤差のように思えるが、轟の場合は左右で扱える力が違うため大きな妨害であると言えるだろう。

 

(知ってりゃいくらでも対応――)

 

 幻覚を生み出すときも認識を誤魔化すときも必ず事前に指を鳴らしている。つまり動きに注視していればいくらでも対応できる。

 だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 幻覚を生み出す、生み出さない。認識を誤魔化す、誤魔化さない。彼女(?)は指を鳴らしただけで数多くの選択肢を相手に突きつけることが可能なのだ。

 

「コン♪」

「っ!?」

 

 轟の目の前に狐火が生み出される。彼はこれが爆発することを知っていた。

 しかし、果たして目の前のこれが()()であるのかどうか確信を持てなかった。

 もしかしたらこれは幻覚なのではないだろうか? 警戒して飛び退いたところを追撃するつもりではないのだろうか?

 もし本物だったとして、自分の左右認識は正しいのだろうか? 認識を誤らせ、防御のミスを誘おうとしているのではないだろうか?

 数多の思考が彼の脳を支配し、次の行動をとることができなかった。

 

「っ!?」

 

 狐火が爆ぜる。

 少なくともこれが幻覚でなかったことが判明し、選択肢のいくつかが消滅する。

 

(このままじゃ場外――左右間違ってても同時に使えば踏ん張れる!)

 

 幸い、炎も氷も慣性を強引に消すことは可能である。

 が、そこで轟の脳裏に新たな疑念が生じてしまう。

 

(っ待て、()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 左右の認識を誤らせた以上、前後の感覚だって正確であるという保証はどこにもなかった。

 もし慣性を消そうとして逆方向に炎と氷を生み出してしまうのではないか?

 あふれ出した疑念は行動をどんどんと遅らせ、対処が間に合わなくなってしまう。

 

「――轟君、場外!」

「……っ!」

 

 場外の地面に触れ、初めて自分が()()()()()()()()()()()()()ことに気づく。

 

「疑心、暗鬼を生ず」

 

 エースは大の字で倒れている轟に手を差し伸べる。

 

「もし君が初めから全力だったら、私の小細工も通用しなかったかもしれないね」

「……っ焚きつけといて何言ってやがる」

 

 彼はその手を取り、上体を起こしてもらう。

 

「俺が全力を出さなきゃ、手の内さらさずに勝てただろ……敵に塩送るようなことしやがって」

「言っただろ? “全力を出してもなお勝てない君の顔を見てみたい”って。それに――」

 

 エースはさみしそうにそっぽを向く。

 狐の耳は悲しそうに垂れ、その尻尾は落ち着かないように揺れる。

 

()()()()()、この世界の平和を守れるようなヒーローになって欲しいからね」

「……()()()、だろ。なんで自分を数から外してんだ」

「ふふ……」

 

 轟の指摘にエースは答えなかった。

 ただ、狐耳が悲しそうに垂れているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――第2試合は上鳴が危なげなく飯田に勝利、第3試合は常闇が麗日を寄せ付けない戦いで勝利。

 第2回戦は残すところあと1試合――緑谷と爆豪の戦いを残すのみだった。

 

「……このままいけば、タイクーンと私が決勝で戦うのか」

 

 エースは一人、第4試合の様子を眺めていた。

 

「……ふふ。今度こそ、確かめさせてもらうよ」

 

 激しいぶつかり合いをする緑谷と爆豪の姿。音声は聞こえないためやり取りの仔細はわからないが、組み合いながらも互いに思いの丈をぶつけ合っているのが分かる。

 

「……?」

 

 その様子はなぜか、エースを無性に苛立たせた。緑谷が爆豪へ想いをぶつけるたびに、胸の奥がざわつくのを感じた。

 

 ――爆発音が響く。

 

 ステージの上で大きな動きがあり、緑谷が腕を醜く変色させているのが見える。

 

「っなんで……?」

 

 緑谷の個性はオールマイトから受け継いだもの。長年の研鑽により蓄えられた力を未熟な器で引き出そうとすればいとも簡単に体を壊してしまう。

 それを知りながら、緑谷は全力を出したのだ。

 普段のクレバーな彼を知っているエースからすれば信じがたい暴挙だった。

 

「……なんで、あんな馬鹿なことを」

 

 自傷覚悟の攻撃に爆豪も対応しきれず、形勢は一気に緑谷側へ傾いた。だがそんな逆境でも爆豪は笑っていた。己を奮い立たせ、迫りくる敵を完膚なきまでに叩き伏せるために全力の攻撃を放たんとする。

 

「あ……っ」

 

 攻撃がぶつかる刹那、緑谷の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 ダメージが蓄積しすぎて体が先に根を上げたのだ。

 望む形での決着になっておらず、爆豪は呆然と立ち尽くしていた。

 もしあと1発、緑谷が攻撃を放つことができていたら、勝敗は異なるものだったかもしれない。

 

「……やはり、私は――」

 

 爆豪は倒れる緑谷の胸倉を掴み、何か叫んでいる。勝敗に納得がいっていないようで、しきりに何かを叫んでいる。それをミッドナイトが個性を用いて無理やり眠らせていた。

 

「君のことが嫌いだ」

 

 そんな爆豪の様子を、エースは憎しみのこもった瞳で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 

 準決勝、第1試合。エース vs 上鳴。

 

「へへっ、悪いな狐火。俺達の個性、相性最悪だぜ?」

「ふふ。お手柔らかに頼むよ」

 

 騎馬戦で判明したエースの弱点――電撃。

 このマッチアップはまさに相性負け、エースが圧倒的に不利な状況だ。

 

『――START!!』

 

 開幕早々、全力の放電を行おうとする上鳴だったが、突如として目の前からエースが消えて困惑する。

 これまでの――少なくとも入学直後の彼ならば、後先考えずに全力放出をしていたことだろう。

 だが高校生活、思慮深い友人を持った彼は反射的に動く前に考えるようになってしまっていた。

 果たしてこの状況、全力で放電をしてしまっても大丈夫なのだろうか。反動で動けなくなったところを叩きに来るのではないだろうか。

 

「っ」

 

 慣れない思考は致命的なまでに反応を遅らせた。

 気が付けばエースが目の前に迫っており、拳が振り抜かれようとしているのが目に入る。

 

「あぶね!」

 

 寸でのところで反応し、上体を反らして躱す。エースの拳は彼の顎を掠めるように振り抜かれた。

 

「へへっ見つけたウェ……?」

 

 上鳴はこれ幸いと放電しようとするも、意識が揺らいでいるのを感じる。

 個性の反動で脳がショートしてしまったかのような酩酊感。意識がぐらぐらと揺れ、がくりと崩れ落ちる。

 

「――上鳴君、戦闘不能!」

 

 エースの拳が顎を掠めたことで上鳴は脳震盪を起こしていた。

 電撃が弱点とわかっているからこそ、それを撃たせる前に決着をつける。もし上鳴が考えなしに放電を行っていればエースの目論見は外れていただろう。

 

「ふふ。付け焼刃はあまり強くはないよ」

 

 担架で運ばれていく上鳴を尻目に、エースは来る決勝戦の事を思い浮かべる。

 もし準決勝で勝利するのが爆豪だったら、全力で叩きのめす。

 もう二度と這いあがれぬように心をへし折ってやろう――エースの胸には静かな怒りが抱かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 準決勝、第2試合。結果は爆豪の勝利で終わる。

 常闇の個性、黒影(ダークシャドウ)の弱点を突き鮮やかに勝利を決めていた爆豪だったが、その顔はどこか不満げだった。

 

『――決勝戦! 狐火 vs 爆豪!!』

 

 決勝戦、エースと爆豪はステージの上でにらみ合う。

 

「……デクに完勝できなかったが――まずはてめえからぶっ殺してやんよ」

「やれるものなら――やってみな」

 

 余裕、むしろ調子が上がってきたと言わんばかりの爆豪に対し、エースは半ば消耗しきっている。苦戦を強いられるマッチアップだった結果、体力を大幅に消耗してしまっていた。

 対する爆豪は緑谷戦を除けば余力を残しつつ勝利している。さながら適度にアップしたかのような状態だった。

 

『――START!!』

「!」

 

 開始の号令がかかるや否や、爆豪は水中にいるかのような息苦しさを感じる。吸えども吸えども肺が空気を取り込まない。視界は水の中にいるかのように滲んでいる。

 

(幻覚、か……クソ!)

 

 エースは苦しそうにもがく爆豪へ肉薄し、足を大きく振りかぶる。回し蹴りで爆豪の側頭部を殴打するつもりだ。

 

「グッ!」

「なっ……!」

 

 しかしその蹴りを爆豪は寸でのところで受け止める。彼は歯が砕けんばかりに食いしばり、エースの見せる幻覚に抗っていた。

 

「何驚いてんだ……てめえだって似たことやってんだろッ!」

 

 爆豪は右腕を大きく振りかぶり反撃に出ようとするも、エースは大きく飛び退いて指を鳴らす。

 

「ッ!」

「いかれてるね、君は……!」

 

 爆豪は両の頬をはたき軽い爆発を起こす。爆発的な髪は爆風でより爆発的になり、口の端は切れて一筋の血が垂れている。

 自傷することでエースの見せる幻覚、認識阻害を振り払ったのだ。

 

「……出し惜しみしてねえで全部出して来いや! そんでそれを叩きのめして勝ってやるからよ!」

「嫌だね」

 

 狐火が出現する。爆豪は待ってましたとばかりに駆け出し、爆破を用い立体的な軌道で迫る。

 対するエースはそれを冷静に見極めカウンターを仕掛ける。

 

「甘ぇっ!」

 

 それを()()()()反応した爆豪は回避しつつ背後を取る。エースの背を掴むと思い切り背負い投げる。

 

「空気を投げたって意味ないんじゃない?」

 

 爆豪は急に手の感触が消滅し目を見開く。確かに掴んだと確信していたが、その実何もつかめておらず――それどころか見当違いな方向を攻めていたようで、離れたところで立っているエースは愉快そうに笑っていた。

 

「幻覚……っ指鳴らす必要はねぇってことか」

「ようやくかい? 脳みそは使ってあげないと衰えちゃうよ?」

 

 エースは能力を発動させるため、常に指を鳴らしていた。しかしそれはただの見せかけ(ルーティン)、望めば自在に発動することができるのである。

 つまり、指を鳴らせば何らかの能力が発動しているかもしれないし、ブラフかもしれない。だが何もアクションを取っていないからと言って能力が発動していないとは限らない――既に()()()()()しまっているかもしれないのだ。

 

「っぐ!」

「ま、もとより腐った脳みそ。あったって意味はないよね?」

 

 気が付けば視界の中のエースは消え去り、背後から首を絞められていた。

 このまま締め落し、判定勝ちを狙う――だが爆豪はエースの力が弱っていることに気づく。

 

「――!」

「っ」

 

 爆豪は思い切り足を振り下ろしエースの足を攻撃する。拘束が緩んだところを抜け出し、振り返るとエースの腹に右手の平を押し当てる。

 

「っいいのかい? もしかしたら君が触れているのは私ではないかもしれないよ?」

「んなもん――」

 

 爆豪は不敵に微笑み、右手を輝かせる。蓄積していた汗が一気に反応し、最大火力の爆発が引き起こされる。

 

「撃って見りゃわかんだよ――()()ィ!」

「か……はっ」

 

 特大の爆風がエースを襲う。今度ばかりは幻覚ではなく、彼女(?)の体を的確に捉えていた。

 最大火力を放った代償か、爆豪は右手に走る激痛に顔を顰めている。

 

「かつのは……っ私だッ!!」

「あっ――!?」

 

 爆豪は周囲に漂っていた狐火の存在を思い出し、咄嗟に身構えようとするも間に合わず、連続で爆ぜるそれに打ち上げられ場外へと飛んでいく。

 

『――ッとぉっ!? どっちだ!? どっちが先だっ!?』

 

 二人の体は殆ど同時に場外へ着地していた。

 

「――審議よッ!」

 

 ミッドナイトは即座に判定を下すことは不可能であると判断、映像による判定が行われることとなった。

 

「……俺の、勝ちだ」

 

 爆豪は倒れ伏したまま起き上がることができなかった。

 

「……ふふ。私の、勝ちさ」

 

 エースもまた一歩も動くことができなかった。

 映像を何度も確認したミッドナイトは、やがてジャッジを下した。

 

「映像を見る限り、先に場外へ出たのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

「……ん、こっちが勝ったんだ」

 

 六畳一間の狭い部屋の中、牛のような見た目の少女――牛込 茜はスマホの配信サイトから雄英体育祭を視聴していた。

 1年の部は大きく盛り上がっており、2年、3年の部の視聴数に大きく差をつけていた。

 決勝戦、狐火 エースvs爆豪 勝己の戦いが始まるとコメント欄は視認するのがこんなほどのコメントで埋め尽くされ、視聴数もそれに伴い爆上がりしていた。

 接戦の結果、勝利したのは――爆豪。

 ほんの僅か、映像をコマ送りにしなければわからないほどの差だったが、僅かにエースの方が先に地面に着いており、それが勝敗の決め手となっていた。

 

「わ、荒れてるじゃん」

 

 しかしネット上ではその判定に疑問を抱くものもおり、誤審だと批判する声が続出している。

 コメント欄は“狐火勝利派”、“爆豪勝利派”、“ミッドナイトの判定を受け入れよう派”の3つに分かれ、混沌を極めていた。

 だが裏を返せばそれほどに接戦であり、どちらが勝ってもおかしくはなかっただろう。

 

「……()()()()()()()()()()

 

 牛込は動画アプリを閉じるとSNSを開く。

 家を飛び出してから友人知人の連絡先は全て消去しており、バイトの連絡用途でしか使っていなかった。

 

「……っ」

 

 気が付けば通話アプリを開き、実家の電話番号を入力しようとしている自分に気づく。

 彼女は慌ててスマホを放り投げ、それを阻止した。

 

「迷惑でしょ。今更あたしから連絡したって」

 

 最後に幼馴染の姿を見たのは卒業式の後、実家を飛び出した後。

 追い出されるように家を出ていく牛込を、幼馴染は驚いたような目で見ていたのが印象に残っていた。

 

「……?」

 

 牛込は何か引っかかるものを感じた。

 何か、重要なことを忘れてしまっているかのような、不思議な感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















冷静に考えると、脱落してしまうところまで含めて英寿の策略なのかもしれませんね。よく考えると、バックルは全部景和に譲渡してしまって変身できない状態でしたし。脱落して何かを企んでいる……んじゃないかな……?
どうなる来週!?
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