【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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とりあえず、2話目を書いてみました。
ストーリーは基本ギーツ側寄りです。気が乗らなければデザグラ1週分でENDにして締めようかな・・・(エタり前科n犯)
長めですが、最後まで読んでいただけると幸いです。












覚醒編
2 覚醒Ⅰ/もう一つのオリジン


――――

――

 

 緑谷の通う中学では進路面談を行っている。

 各々が書いた調査票からその進学先が適しているか、進路に迷っている者には適切な進路を薦めるために必ず一度は実施されているのだ。

 

「へぇ……雄英高校、か」

「はいっ!」

 

 面談担当の教師、平は緑谷の調査票を見て大きく頷く。

 雄英高校と言えばヒーロー科が特に有名だが、普通科やサポート科、経営科など他の学科も日本最高峰。名実ともに日本トップの高校と言えるだろう。

 

「うん、あそこはヒーロー科に目が行きがちだけど()()()も十分にレベルが高い。君の成績なら合格も狙えるし、いい志望校だね」

「あ、あの……」

 

 緑谷は恐る恐るといった体で手を上げる。

 

「目指してるの、ヒーロー科……なんです」

 

 平は呆れたようにため息をつき、ペンを机へと置いた。

 真剣なまなざしを向けられた緑谷は思わず体を竦ませる。

 

「緑谷君は、確か“無個性”だったね」

「……はい」

 

 人口の約8割が個性と呼ばれる特殊能力を持った現在、若い世代では個性がないということは大きなハンディキャップと言えるだろう。

 ヒーローは個性ありきの職業。それを目指す同世代となれば強い個性を持った者達の中でもさらに上澄みが集まる場となることは目に見えており、ヒーローとして活躍するとなればその傾向はさらに顕著となるだろう。

 

「っ僕だって無理があるってことはわかっています! でも……子供の頃からの夢なんですッ! オールマイトのような、みんなを笑顔で助けるヒーローに」

「――私の息子もヒーロー科に通っていたんだ」

 

 平がつらそうな表情をしているのを見て、緑谷の頭は一気に冷える。

 

「先生の息子さんも、ですか?」

「ああ……3年、いやもう4年になるかな」

「ッということはもうデビューされてるんですかっ!? どんなヒーローなんですかッ?」

 

 ヒーローオタクな緑谷は思わず早口でまくし立ててしまう。

 期待に目を輝かせる緑谷に対し、平はどこまでも悲しくつらそうな表情のままだった。

 

「……亡くなったよ」

「え……?」

 

 亡くなった、その言葉は完全なる想定外だった。

 

「インターン中、子供を助けようとしての事だったそうだ。未だに受け入れられないよ」

 

 平は懐からハンカチを取り出し涙を拭っている。

 

「息子の個性は決して強いものではなかったよ。それでもヒーローの夢をひたむきに目指していて、私もそれを応援していた……」

 

 ヒーローの殉職率は決して低くはない。

 ヴィランとの戦闘、災害現場での救助、常に危険と隣り合わせの仕事だ。

 

「緑谷君、私は決して君のことを否定するわけではない。でも、ヒーローとは個性を持っていてすら命を落としうる危険な仕事だ。無個性の君には到底薦めることはできない」

「……はい」

 

 現実を突きつけられたように感じた。

 ショービズ色の強い現在の職業ヒーロー。テレビの向こうでは数多のヒーローが輝かしく活躍していて、そんなヒーローを目指す子供は星の数ほどいる。

 しかしその本質は自己犠牲の奉仕活動。

 命を賭して人々を救う仕事なのだ。

 

「夢を見ることは大事だ。しかし相応に現実も見なくてはいけないよ。そのことを……決して忘れちゃいけない」

「……はい」

 

 緑谷は俯きながら膝の上で拳を握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

『――ある日、中国で光る赤子が誕生した。これが世界で最初に確認された“個性”である』

 

 緑谷は宿題と予習を兼ねて教科書を読んでいた。

 

『――しかし、最近の研究ではこれ以前にも“個性に似た特殊能力”を持つ人間が少数ながら存在していたと言われている。各地に残る神話のモチーフになったと考えられており――』

 

 緑谷は教科書を閉じると、机の引き出しを開ける。

 ベルト――“デザイアドライバー”と狸のアイコンが描かれた“IDコア”、そして“デザイアグランプリ”の説明が書かれたカードが仕舞われていた。

 

「……最後まで生き残った勝者の、“理想の世界”が叶う」

 

 緑谷は呟きながらデザイアドライバーとIDコアを手に取る。

 

「……よし」

 

 ――DESIRE DRIVER

 

 意を決し、デザイアドライバーを装着する。ベルトが自動で伸び、腰にピタリとフィットする。

 続けてIDコアをベルトの中央へ装填しようとして、進路指導の言葉が思い返される。

 

『――夢を見ることは大事だ。しかし相応に現実も見なくてはいけないよ』

 

 IDコアを装填すればデザイアグランプリへの参加(エントリー)が確定する。

 だがネガティブな思考が頭を駆け巡り参加を躊躇ってしまう。

 

『――ごめんねえ出久』

 

 無個性だと告げられた幼き日、母から投げかけられた謝罪の言葉。

 

『――案外、君もヒーローに向いてるかもね』

 

 そして前の世界――ギーツから投げかけられた称賛の言葉。

 

「やっやってみなくちゃ……わからない……っ!」

 

 ――ENTRY

 

 景色が一変する。

 オールマイトグッズに囲まれた部屋はいつの間にか神殿のような場所となっており、周囲には同じように選ばれた“仮面ライダー”たちがいた。

 老若男女、本当に“厳正なる審査”を行ったのか疑いたくなるようなバリエーションの多さだ。

 

(こんだけいりゃ……僕だって選ばれる、よな……)

 

 一瞬でも自分が特別なんだと舞い上がっていた緑谷は現実を見せつけられ落胆する。

 

「――ねえあれ」

「っ嘘“エース様”!」

 

 神殿の一部が騒がしくなる。

 なぜならそこには世界的な大スター――スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズがいたからだ。

 

(っギーツ!)

 

 緑谷はその姿を覚えていた――いや、思い出していた。

 中性的で男とも女ともとれる容姿、狐人間と呼ぶにふさわしい“個性”

 前の世界ではスターでもなんでもなかった彼が、この世界ではスターと呼ばれている。それはこのデザイアグランプリの報酬に現実味を帯びさせるに十分だった。

 

 

「――ようこそ! デザイアグランプリへ!」

 

 突如、神殿の中央に女性が姿を現す。

 白と黒の衣装に身を包み、長く黒い髪をポニーテールにし、とらえどころのない笑みを浮かべている。

 参加者たちにデザイアドライバーを配布していた女性だった。

 

「私はゲームナビゲーターの“ツムリ”です!」

 

 女性――ツムリは一礼すると、デザイアグランプリの概要を語り始める。

 曰く、この世界は謎の生命体“ジャマト”の脅威にさらされており、デザイアグランプリはジャマトから人々を救うために開催されているゲームであるという。

 ヒーローたちは何をしているんだ、という声が上がると、ツムリはにこりと微笑んでそれに返答する。

 

「残念ながら、並みのヒーローでは太刀打ちできないのです」

 

 当初、ヒーローたちはジャマトをヴィランと同様に逮捕、対話を試みていた。

 しかし捕らえたそばから脱獄され、多くの命が奪われた。ヒーローはジャマトを討伐すべき敵と認定、逮捕ではなく戦闘による撃破を試みる。

 だがジャマトは最下層でも並みのヒーローを凌ぐ実力を備えていた。

 故にジャマトの生態を研究、最も効果的な装備が開発された。

 

「それが皆さんの持つデザイアドライバーとIDコアなのです♪」

 

 ジャマトと戦うためのサポートアイテム。それがこのデザイアドライバー。

 緑谷は腰に装着されたそれを見つめると、思わず生唾を飲み込む。

 これを使えばギーツのように戦うことができる。

 無個性である自分も、ヒーローたちと対等に戦うことができるのだ。

 

「――それではお手元の“デザイアカード”に願いをお書きください!」

 

 気が付けば、参加者たちの手元にカードと羽ペンが出現していた。

 

(僕の……願い)

 

 様々な思いが駆け巡る。

 子供の頃、個性が出ることをあきらめきれずにもがいた日々を思い出す。

 

「……よし」

 

 緑谷はデザイアカードに自分の願いを書き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 どこかの森。

 何の変哲もない森が、赤い有刺鉄線のような壁に囲われる。

 デザイアグランプリの参加者たちはサバイバルスーツへと身を包み、壁の内側――ジャマーエリアへと解き放たれる。

 

 ――第一回戦は“宝探しゲーム”

 

 ジャマトに奪われてしまった宝箱を取り戻すゲームだ。

 

「っひぃぃっ!」

 

 参加者たちがジャマトへと挑む中、緑谷は必死になって逃げていた。

 

(シャレにならん……変身できないなんて!)

 

 変身してジャマトへと挑めると思っていた緑谷は、生身での戦いを強いられ逃走していた。

 蘇るのかつての恐怖体験。

 幼馴染の断末魔、街中に転がる亡骸たち。

 何の個性も持たない自分が戦えるような相手ではなかったのだ。

 

「――伏せてっ!」

 

 緑谷は言われるがままに目の前へスライディングする。

 

「ジャッ!」

 

 彼の頭上を枝葉によって作られたトラップが通過し、ジャマト達を追い払う。

 

「ジャ~」

 

 そしてジャマト達が去った後には二つの宝箱が落ちていた。

 

「たっ……助かったぁ……」

「その声、もしかして緑谷君?」

 

 安堵のため息をついていると、トラップの作り主が姿を現す。

 

「え……平先生?」

 

 進路指導を担当していた教師、平。彼もまたデザイアグランプリへと参加していたのだ。

 

「そうか、君の所にも……っあれが宝箱か?」

 

 平は足早に宝箱へと駆け寄る。

 宝箱は二つ、彼は緑谷へ片方の宝箱を渡す。

 

「受け取ってくれ、君と協力して手に入れたようなものだからね」

「あっ……ありがとうございます」

 

 緑谷はピンクと黒を基調としたボックスを受け取り、蓋を外す。中に収められていたのは緑の弓矢のようなバックル――アローバックル。

 平が引き当てたのはバイクのスロットルのようなバックル――ブーストバックル。

 

「やった……これで“変身”でき」

 

『――そんな“雑魚バックル”じゃ逆転されるのは目に見えているし』

 

 緑谷は嫌な言葉を思い出す。

 前の世界、シロクマ人間がこれを使っていた。それを牛人間が“雑魚バックル”と馬鹿にしていたのだ。

 対する平が手にしたブーストバックルはギーツが巨大なジャマトを斃す際に使っていた“強バックル”、どちらの方が強いかは火を見るよりも明らかだろう。

 

「どうかしたのかい?」

 

 死んだ目になっている緑谷を心配する平だったが、緑谷は静かに首を振るのみだった。

 

「――アイテム獲得、おめでとうございます」

 

 気が付けば、白いスーツの男性が立っていた。

 

「さ、こちらへどうぞ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 光のゲートを通り抜けると、そこはちょっとした喫茶店のような場所だった。

 中央にはソファとテーブル、壁際にはカウンターが備え付けられていた。

 

「ここはデザイアグランプリの参加者のみが利用できる“休憩所(サロン)”でございます。しばし、おくつろぎください」

 

 スーツの男性――ギロリは一礼するとカウンターの奥へと消える。

 そこでは既にアイテムを手に入れた参加者がくつろいでいた。

 

「あっ……」

 

 緑谷はその中の一人――透明な人物がいることに気づく。

 

「あーっ! 緑谷くんだ! また会ったね」

 

 向こうも気づいたのか手を振ってくる(手は見えないが)。

 

「そっその節はどうも……」

「――へぇ、あんたたちも“選ばれた”んだ」

 

 緑谷が照れながらも葉隠に歩み寄ると、別の方向から声がかけられる。

 暗い茶色のセミロングヘア額には牡牛のような2本の角――牛人間のライダーだ。

 

「あっ……あの時の牛の人!」

「……バッファ」

 

 葉隠に牛と呼ばれ牛人間――バッファは憮然としながら懐から“スパイダーフォン”を取り出す。

 

「……“ナーゴ”と“タイクーン”。ま、短い付き合いになりそうね」

「っ短い付き合いって……」

 

 緑谷もスパイダーフォンを取り出し、バッファの本名を探る。

 

「えっと……“牛込 茜”さん?」

「気安く呼ばないで」

 

 バッファはそっけなく言い返しそっぽを向く。

 どうやらなれ合いを好まない性質のようだ。

 

「――なぁ、君らは何のバックルを手に入れたの?」

 

 続けて話しかけてきたのは、高校生ぐらいの少年。他人を馬鹿にするかのようにニヤニヤしながら緑谷と葉隠へと話しかける。

 

「えっ……あの、ぼっ僕は“弓矢”を」

「私は“ハンマー”!」

 

 二人はそれぞれ獲得したバックルを見せる。

 

「うっわw 見るからにハズレじゃんwww かわいそーwww」

 

 少年は小馬鹿にするように笑いながら自分が手に入れたバックルを見せつける。

 リボルバー銃のようなバックル――マグナムバックル。

 前の世界でギーツが使いこなしていた“当たり”のバックルだ。

 

「やっぱ俺って“持って”んな~」

 

 そしてそれを光にかざしながら見せびらかしてくる。

 

「――なぁ少年、よかったら俺のバックルと交換しないかい?」

 

 と“盾”のバックルを差し出し交換を求めたのは、小太りな中年の男性。髪はオールバックになでつけており、人のよさそうな笑顔で図々しい交渉を仕掛ける。

 

「……話しかけんなよ。臭ぇのが移んだろ」

 

 少年の笑顔は鳴りを潜め、男の提案を邪険に却下する。

 男は気を悪くしたのか、ムッとしたような表情となり殺気を放つ。

 

「――“サロンでの戦闘行為は一発退場”。何があったのか知らないけど、あまりお勧めはしないよ」

 

 険悪な空気を一蹴したのは、丁度ミッションをクリアしてサロンへとやってきた狐人間――ギーツ。

 彼(?)は捉えどころのない笑みで険悪な二人をけん制する。

 

「……しょうがない。おじさん、心が広いから許してあげるよ」

「ふん――ね、君は何のバックルを手に入れたの?」

 

 少年は例の小馬鹿にした笑みでギーツへ問いかける。

 

「うん? “蛇口”と“盾”」

 

 ギーツは余裕の笑みを浮かべながら二つのバックルを見せる。“弓矢”と“ハンマー”同様、あまり強そうには見えないバックルだ。

 

「うっわw デザグラって容赦ないねwww 君みたいなスターでも“ハズレ”ひかされるんだwww」

「……“馬鹿とハサミは使いよう”。ギロリさん、コーヒーを」

「――かしこまりました」

 

 ギーツはバックルを仕舞いつつコーヒーを注文する。煽られたのを気にも留めていないようだ。

 

「……はぁ?」

「あれ、知らないの? 勉強不足だね。リタイアして国語の勉強でもしたらどう?」

 

 少年は煽り返され顔を真っ赤にする。

 再びサロンに険悪な雰囲気が漂う中、電話の呼び出し音が鳴る。

 受話器を取ったギロリは一言二言返すと、真剣な表情で参加者たちに告げる。

 

「皆さま、緊急事態です――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――盗賊ジャマトの親分が出現。

 

 急遽現れた“ボスキャラ”に対し、アイテムを獲得できなかった参加者は強制的に脱落。残された7人のプレーヤーが再びジャマーエリアへと転送される。

 そして各々がライダーへと強制的に変身させられる。

 タヌキをモチーフとしたライダー、タイクーン。

 猫をモチーフとしたライダー、ナーゴ。

 パンダをモチーフとしたライダー、ダパーン。

 羊をモチーフとしたライダー、メリー。

 牡牛をモチーフとしたライダー、バッファ。

 ペンギンをモチーフとしたライダー、ギンペン。

 そして狐をモチーフとしたライダー、ギーツ。

 

 戦いの火ぶたが、切って落とされた。

 

 

 

――――

 

 ――SET

 

 バッファは“ゾンビバックル”をベルトへ装填、起動する。

 

 ――ZOMBIE...

 

 右手にはチェーンソー、左手には大きなカギヅメ。ゾンビを思わせる禍々しい装備だ。

 

「ふぅんっ!」

 

 バッファはチェーンソーを振り下ろし、子分ジャマトを薙ぎ払う。追撃を仕掛けようと突進したところを、遠くからの狙撃によって子分ジャマトごと撃ち抜かれる。

 

「っ!?」

「ははは! ごめんごめんw」

 

 木の上ではダパーンがライフルモードのマグナムシューターを構えてバッファの方を見つめていた。仮面のせいで表情は見えないが、おそらくその下では人を小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいるのだろう。

 

「やっぱ漁夫った方が効率いいよね~w 馬鹿みたいに突っ込むんじゃなくてさwww」

「……チッ」

 

 ダパーンの悪質な行動に、バッファは舌打ちすることで応える。

 本来、他の参加者への攻撃は違反行為となりペナルティが課せられる。だが故意ではなかったせいか特に忠告のアナウンスは流れなかった。

 

「さーて……次の標的は……w」

 

 

 

 

――――

 

「もう一度――息子に!」

 

 ――SET

 

 ギンペンはブーストバックルを装填、スロットルを吹かし起動する。

 

 ――BOOST!

 

 対するは大きな斧を構えた盗賊ジャマトの“親分”――ルークジャマト。

 

 ――READY FIGHT!!

 

「うぉぉおおお!」

 

 ギンペンの走りに合わせ、装甲のマフラーが火を噴き加速させる。振り抜いた拳はルークジャマトの体を大きく吹き飛ばす。

 木々をなぎ倒しながら飛んでいくルークジャマトを、ギンペンは加速しながら追跡、追撃を仕掛ける。

 

「ジャッ」

「な、なにっ!?」

 

 仕掛けられた高速のラッシュに対し、ルークジャマトは拳を正確に見切り躱していく。

 “ブーストフォーム”は他のフォームとは一線を画するスペックを誇る。戦い慣れていない素人の拳でも、ルークジャマトを斃すに余りある十分な力を秘めている。

 しかし強い力を秘めていたとしても、それを扱いきれるかどうかは別問題である。

 

「うっ!」

「ジャッジャッジャッ……」

 

 ギンペンのラッシュは完全に見切られ、拳を受け止められる。

 続けざまにルークジャマトは斧を振り下ろし、手痛い反撃を与える。装甲から火花を散らしながらギンペンは地面を転がっていく。

 とどめを刺そうとするルークジャマトを、光の矢が撃ち抜く。

 

「先生から離れろっ!」

 

 緑谷――タイクーンはボウガンを構え、続けざまにルークジャマトを攻撃する。

 ルークジャマトはうっとうしそうに矢を斧で弾きつつ、それをタイクーンに向けて大きく振りかぶる。

 

「――危ないッ!!」

 

 斧が振り下ろされる。

 タイクーンの目の前の地面が爆ぜると同時に、ギンペンがその体を突き飛ばした。

 二人の体は爆風と共に吹き飛ばされ、崖の下へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「うぅ……」

 

 緑谷は変身が解除されてしまっていることに気づく。

 足元には小川が流れており、半身がずぶぬれになってしまっている。

 

「っ先生!」

 

 隣ではギンペン――平が倒れていた。

 

「だいじょ――っ!」

 

 彼のベルトに装填されたIDコアは無残に亀裂が入ってしまっていた。

 

「無事かい……?」

 

 平は力なく微笑む。その体はノイズが入るかのように揺らいでいた。

 

「どうして……! 先生にだって、叶えたい世界があったでしょっ!」

「ふふ……どうしてかな……? “気が付いたら体が動いていた”よ……」

 

 緑谷は視界が潤むのを感じる。

 

「これでいいんだ……これで、やっと“息子に謝れる”……!」

「へ……?」

 

 平は懐から写真を――家族写真を取り出す。

 

「本当は、応援なんかしていなかった……! ヒーローなんて危険な職業についてほしくなかった……! だから、息子と大喧嘩して、ずっと口をきいていなかった……!」

 

 写真には幸せそうな彼の家族が――中学生の頃と思われる、彼の息子と一緒に撮った姿が映されていた。

 

「いつか、息子がヒーローになったら、謝ろうと……! 頑固な父親で、済まなかった、と……!」

 

 平の体の揺らぎが次第に大きくなっていく。

 IDコアのヒビも大きくなり、砕け散る寸前だった。

 

「……無念だ」

 

 彼がデザイアカードに書いた願いは『息子がヒーローになっている世界』

 もし息子が生きていれば、必ず夢を叶えてヒーローになっていたと信じて疑わない、父親の願いだった。

 

 ――MISSION FAILED...

 

 IDコアが砕け散る。

 平の体が消滅し、ブーストバックルだけが地面に落ちる。

 

「そんな……そんな……っ!」

 

 緑谷はボロボロと涙をこぼした。

 助けられなかった。むしろ助けようとした結果、逆に自分が助けられ平は命を落とした。

 激しい無力感。

 自分に力さえあれば、笑顔で人々を助けられると信じてやまなかった己の傲慢さ。

 彼は自分の愚かしさを呪った。

 

「――泣いてたって世界は変わらないよ」

 

 そんな彼に声をかける人物が一人。

 

「……あなたは!」

 

 ギーツは緑谷の足元に落ちていたブーストバックルを拾うと、泣いている緑谷を冷ややかに見つめた。

 

「世界を変えたければ()()()()()戦うしかない」

「……無茶言うなよ」

 

 緑谷はすっかり意気消沈していた。

 目の前の人すら救えない自分は、無個性で何もできない“デク”なのだ、と。

 自分がいくら頑張っても世界は救えないのだと、心はネガティブな思いで満たされていた。

 

「どうせ僕が頑張ったって、何もできやしないんだ……だって僕は“無個性で出来損ないのデク”だから」

「……だったらそこで指くわえて見てるんだな」

 

 ――SET

 

 ギーツは迫りくるルークジャマトに気づき、ベルトへバックルを装填する。

 

「戦う意思のない奴に、世界を変える資格はない! 変身っ!」

 

 ――ARMED WATER

 

 ギーツは水道管のような武器を片手にルークジャマトへと戦いを挑む。

 その装備は決して強くはない。水場でなければ水鉄砲程度の攻撃しかできず、水道管を鈍器に見立てて殴るしかない。

 馬鹿とハサミは使いよう――どんなに弱い武器でも、使いこなせれば立派な戦力となるのだ。

 

「――やぁっ!」

 

 ルークジャマトとギーツが戦う中、ハンマーを振り回しながら子分ジャマトを斃す葉隠――ナーゴが乱入してくる。

 

「っ緑谷くん! 大丈夫?」

 

 ナーゴは無力感に打ちひしがれている緑谷に駆け寄るとその肩をゆする。

 

「……わかってたさ。無個性の僕が、オールマイトみたいなヒーローになんて……なれっこないって。僕はヒーローじゃなくて、守られる側の」

「そんなことないっ!」

 

 変身を解除し、葉隠は緑谷の顔を見つめる。

 戦闘によって発生していた蒸気のせいか、彼女の顔がシルエットのように浮かび上がっている。

 

「だって……私の事助けてくれたじゃん!」

 

 前の世界、共にジャマトに襲われた記憶。

 転んでしまった彼女は、緑谷だけでも逃がそうとジャマトへ立ち向かった。

 

「普通助けないよ! だってついさっき知り合ったばっかだったんだよっ!? 個性だってないんだよ!? それなのに――君は私のことを助けてくれた!」

 

 緑谷が無個性であると知り、葉隠は助けなければと思った。

 なぜなら、自分には戦いに向いていないが個性があるから。ヒーロー志望として、守るべき弱い人は助けなければならないと思ったから。

 

「個性なんて関係ないッ! そんなものなくたって――」

 

 

『――超カッコいいヒーローさ……ぼくも、なれるかなぁ』

 

 泣きながら母に問いかけた幼い記憶。

 欲しかったのは謝罪ではなかった。

 本当に欲しかった言葉は――

 

 

「きみはヒーローになれるよッ!!」

 

 気が付けば再び涙があふれていた。

 緑谷はずっと言って欲しかった言葉にむせび泣いていた。

 

「ありがとう……葉隠、さん」

 

 緑谷は涙を拭うと頬を叩いて気合を入れる。

 

「お礼を言いたいのはこっちだよ。あの時、助けてくれてありがとう」

 

 相変わらず葉隠の表情は見ることができなかった。だが緑谷には、彼女が微笑んでいるように見えた。

 

「でもデザイアグランプリ(こっち)は譲らないからねっ! 私だって――叶えたい世界はあるから!」

 

 ――SET

 

「それはお互いさま、だね!」

 

 ――SET

 

 二人はバックルを装填し、同時に起動させた。

 

「「変身!」」

 

 ――ARMED HAMMER

 

 ――ARMED ARROW

 

 それぞれハンマー、ボウガンを装備する。

 強くない装備だが、それでも可能性はある。

 

 ――READY FIGHT!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 百戦錬磨のギーツでも、ルークジャマトの戦闘力には苦戦させられていた。

 装備が不十分なのもあるが、それよりも相手の対応力に舌を巻く。

 

「やれやれ……っ! 序盤にしちゃ、大した強さだッ!」

 

 ホースを足元の川へたらし、蛇口をひねる。給水を受けた“レイズウォーター”はその真価を発揮、凄まじい水圧でルークを吹き飛ばす。

 ギーツは再びバックルを起動、必殺技を使おうとするも、ルークジャマトによって子分が呼び寄せられてしまう。

 

「……はぁ」

 

 ギーツは仕方なし、といった風にブーストバックルを取り出す。

 ブーストは他とは一線を画する“切り札”。終盤まで温存しておきたいのが本音だった。

 

 ――SET

 

 子分ジャマト達が襲い掛かってくる。ギーツは攻撃を躱しつつ二つのバックルを起動させる。

 

 ――DUAL ON

 

 生成された装甲が一部の子分ジャマトを吹き飛ばしつつ装着される。

 

 ――BOOST ARMED WATER

 

「――やぁっ!」

 

 さらに背後から光の矢、ハンマーを振りかぶったナーゴが飛び出す。

 

「ふふ……役者はそろった、かな?」

 

 右手にはタイクーン、左手にはナーゴ。三人のライダーが並び立つ。

 

 ――READY FIGHT!!

 

「さ、ハイライトだ」

 

 ギーツの決め台詞を合図に三人のライダーは飛び出す。

 タイクーンは前に出過ぎないよう後方からの支援、ナーゴは雑魚ジャマト達の一掃、そしてギーツは迷うことなくルークジャマトに向かっていく。

 ブーストによって強化された速度はルークジャマトの対応力を上回り、有効打を与え続ける。レイズウォーターの強度は並みの武器を凌いでおり、鈍器として扱ってもなお歪まない優秀な武器として活躍していた。

 

「クルクテウ!!」

 

 ルークジャマトは謎の言葉を発すると斧を振り上げる。

 

「!」

 

 ――REVOLVE ON

 

 それを形態変化を利用し回避、ギーツの上半身と下半身が入れ替わる。

 

「さ、打ち上げと行こうか!」

 

 ――BOOST TIME!!

 

 ギーツは再びバックルを起動、川の水がまき上げられ周囲を渦巻き始める。

 その背後には専用のバイク――“ブーストライカー”が現れ狐の形態へ変形、水流を吸い込んでいく。

 

 ――BOOST WATER GRAND VICTORY!!

 

「はぁっ!」

 

 ブーストライカーによって吐き出された水流に押されたギーツは右こぶしを振りかぶり、振り抜く。

 その拳はルークジャマトの体を貫いた。

 同時に、タイクーンとナーゴも子分ジャマト達を討ち果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 親分が討伐されたことにより第1回戦が終了。

 参加者たちは再び神殿へと招集された。

 

「――それではまた、ジャマトが出現したらゲームが開催されます。それまでごきげんよう……」

 

 ツムリによって終了が宣言され、グランプリの第1回戦が幕を閉じる。

 

「あ、あのっ!」

 

 立ち去ろうとするツムリを緑谷は呼び止める。

 

「退場した人を蘇らせることって、できますよね……?」

 

 勝者は理想の世界を叶えることができる。

 どんな願いであっても、運営はそれを最大限叶えてくれるだろう。

 

「はい。それが、あなたの“理想の世界”であれば……」

 

 ツムリは意味深に微笑むと神殿の奥へと姿を消す。

 他の参加者たちも姿を消す中、ギーツは緑谷の前でぽつりとつぶやく。

 

「……君がどんな願いを叶えるのも自由、それがデザイアグランプリだ。でも――最後に勝つのは私だけどね♪」

 

 ギーツはポン、と緑谷の肩を叩く。

 そして彼にも聞こえないほどの小さな声でつぶやく。

 

「……もしかして、君なのかな? 私の探している人は」

 

 そのつぶやきは誰にも聞かれることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「ふぅ……よしっ!」

 

 早朝、緑谷は近所の海浜公園へとやってきていた。

 そこは海流の関係で漂着物が多数流れ着くため、便乗した不法投棄が多発しごみの山となってしまっていたのだ。

 彼は手始めに運びやすそうなタイヤを抱え、近くのごみ捨て場まで運ぶ。

 

(ぅっ……思った通り、ごみの形で使う筋肉が全然違う! いいトレーニングに、なりそうっ!)

 

 ずっと、心のどこかで無理だと諦めていた。

 無個性はヒーローになれないと、認めている自分がいた。

 気づいていたからこそ、それに気づかないよう必死になって目を逸らし続けていた。

 

『――世界を変えたければ命を懸けて戦うしかない』

『――きみはヒーローになれるよッ!!』

 

 ――無理だ、何の個性(ちから)もない僕がヒーローを目指すなんて無茶もいいところだ。

 心の中の理性(じぶん)がささやいてくる。

 

(んなこと……わかってる!)

 

 無茶は百も承知だ。

 普通の人は鍛え上げた肉体に各々の個性(ぶき)を重ね合わせて戦っている。ただ体を鍛えただけの無個性(まるごし)な人間がどうして対抗できようか。

 

「でも――戦わなきゃ、世界は――変わらないッ!」

 

 それでも、進もうと努力しなければ何も変わらないのだ。

 無理だと諦め停滞しているままでは、変わるための機会(チャンス)すら掴むことすらできない。

 

「……ふぅ」

 

 緑谷は大きくため息をついてその場に腰を下ろす。

 見渡す地平線にはそこかしこにごみが広がっている。

 まずはこの海浜公園のごみを全て片付けてみよう。なんの意味もないただのお節介かもしれない。それでも成し遂げた暁には何か変わっているかもしれない。

 

「……よし」

 

 緑谷は額の汗を拭うと、ごみ掃除を再開するのだった。

 

 












オリキャラにしようと思って考えたダパーンが想像以上にうざいキャラになってしまった。こんな奴現実にいたら絶対関わりたくないな・・・

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