【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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どうにか年内に間に合いました、年内最後の投稿です()!
職場体験、ヒーロー殺し編はスキップする予定でしたが、いいオリキャラが思い浮かんだのでスキップせずに進めることにしました。
一応、デザグラも絡むので幕間ではなく本編扱いです。
なお、冒頭しばらく違う作品のような感じになりますが、間違いなく“僕の
デザイアグランプリ”ですのでブラウザバックはしないようお願いします……













20 異変Ⅷ/はぐれジャマト

――――

――

 

「――はい、はい……その件についてはこのあと……そうですね、16時ごろに……はい、承知しました。失礼いたします」

 

 男は電話を切ると深いため息をつく。

 数日前から同僚の不眠が行方不明となり、彼が抱えていた仕事が降りかかってきているのである。

 そのうちのいくつかは男が押し付けた仕事であったため自業自得であると言えるのだが――それでも辛いものは辛いのである。

 

(はぁ……身から出た錆、ちゃんと頑張らねえと)

 

 男はスマホで乗り換え案内を調べ、電車の時間を調べる。

 

(っ……そこの裏路地使えば、次の電車に間に合うな)

 

 裏路地はヴィランの格好の隠れ場、通ることは非推奨な道である。

 しかし次の電車に乗ることができれば乗り換えがスムーズに進み、時間に余裕が生まれる――タスクの量に忙殺されかかっている彼にはわずかな空き時間でも欲しかった。

 

(っええいままよ! どうかヴィランと出くわしませんように!)

 

 意を決した彼は、恐る恐る、しかし足早に裏路地を突き進む。

 エアコンの室外機が多数設置されているせいか、路地は生温かな空気を醸し出していた。

 

「――ぅう……ん」

 

 やわらかな甘い匂いと共に女性のうめき声が聞こえてくる。

 

「うっ……!」

 

 男は思わず足を止めてしまう。

 ゆっくり振り返れば、エアコンの室外機にもたれかかるように少女がうずくまっていた。

 緩やかにウェーブのかかった栗色のロングヘア、端正で薄く化粧のされた顔はゴスロリのようなひらひらとした服も相まってフランス人形を思い起こさせた。

 少女は頬を赤く上気させ、苦しそうに吐息を漏らしていた。

 

(って何立ち止まってんだよッ! こんなとこにいるなんて十中八九カタギじゃねえよッ! ムシムシっ!)

 

 人目を忍ぶヴィランにとって路地裏は絶好のスポット。警察やヒーローからは特に女性は通行しないように注意喚起がなされる場所である。

 そんなところでうずくまっている女性など、まず普通の人間ではない。

 ヴィランか、それともその関係者か。

 君子危うきに近寄らず。

 ノータッチ、スルーしてしまうのが賢い選択だ。

 

(そうさ! ヴィランなんだから自業自得……)

 

 不意に、少女の境遇と自分の境遇が重なってしまう。

 人の良い同僚に仕事を押し付けて自分は遊び三昧。その同僚がいなくなって今は押し付けてきたツケを払わされている。

 別に、悪いことをしたからなんだというのだ?

 苦しんでいるのだから、善人悪人問わずに助けてあげるのが人情というものではないのか?

 

「っ……!」

 

 気が付けば、男は踵を返して少女の下に駆け寄る。

 

「おい! 救急車とヒーロー呼んでやっから! どこか痛むところはあるか?」

「……む、胸」

 

 少女は誰か来たことに気づくと、ゆっくりと顔を上げる。

 誰もが美少女と認める整った顔、ふさふさとしたまつ毛に囲まれた潤んだ瞳は男女問わず心を射貫けてしまうだろう。現に、男は少女の目にくぎ付けとなってしまった。

 

「胸が……苦しい」

「っお、おう……俺、急いでっから救急車来たらすぐ行くからなっ!」

 

 甘い香りに男は理性が揺らぎかけるも、鋼の意思で邪心を払いのける。

 

「大丈夫……」

 

 少女はスマホを取り出した男の手を取り、その体をぐい、と近寄せる。

 

「っ!」

「貴方のおかげで――楽になれる」

 

 そして男の顔を両手で挟み込むように掴み、薄桃色の唇を近づける。

 

「んっ」

「っ!?」

 

 男は思わず顔を赤くする。彼の口は少女の唇によって塞がれてしまう。

 

「んぐっ!?」

 

 彼の理性がはじけ飛んだのもつかの間、少女の咥内から何かが噴き出してきたのを感じる。

 

「……んっ……んむっ……ちゅっ」

「ぐっ……! んぐっ!?」

 

 男は咄嗟に少女をつき飛ばそうとするも、彼女は尋常でない怪力を発揮し男の体を抱き留める。

 

「んっ……んはっ」

 

 少女は男を貪るかのように接吻を続け、やがてその口を離す。

 

「がっ……! っひゅっ!」

 

 男の手からスマホが落ちる。彼の全身が強張り痙攣している。顔面は蒼白で、目はこれ以上ないくらいに見開かれているも、その瞳孔は散大し何の信号も捉えていない。

 彼は必死に息を吸い込もうと口を開いているも、肺は正常に機能しておらず喘ぐように口を動かすだけである。

 

「……ふふっ」

 

 少女は瀕死の魚のように痙攣する男の姿を見て嬉しそうな表情を浮かべている。

 

(っや、やっぱ……裏路地なんて、通るべきじゃ、なかった……)

 

 全身の感覚が薄れ、意識が暗転する中彼は自分の選択を呪い続けていた。

 

(不眠……ごめんなぁ……)

 

 最後、男が目にしたのは、いとおしそうに自分を見下ろす少女の姿だった。

 

「……ごちそうさま♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 木芽(きのめ) (かえで)。性別は女性、年齢は18。

 フランス人形を思わせる端整な顔立ちで、ロリータ風の服を好んで着用する、一見するとどこにでもいる少女趣味の美少女だ。

 すれ違う人は思わず足を止めて彼女を見つめ、陽な男は声をかけてワンチャンを試み、その手の仕事のスカウトマンは声をかけて勧誘を試みようとするほどの圧倒的美少女。

 だが人も殺せぬように見える美少女が、その実両親すらも殺害した凶悪なヴィランであることを、誰も気づくことは無い。

 

 彼女の個性は“毒の胞子”。

 体内で猛毒の胞子を生成する能力。胞子は36-38℃の間で最も毒性を発揮し、吸い込んだ人間の神経を破壊し死に至らしめる。ただし、嫌気性であるため空気中に放出されれば毒性はある程度弱まる。

 彼女は一見すると無害そうな美少女な容姿を利用してターゲットを誘い込み、口と口の濃厚接触(ディープキス)によって胞子を注ぎ込んで殺害する。

 未成年であるため実名報道はされていないが、警察から追われ続けている身なのである。

 

 そんな木芽には好きな人がいた。

 

「……いらっしゃいませ」

「……っ!」

 

 人気の薄いコンビニ。店員の気だるそうな挨拶に彼女の胸は高鳴る。

 

(ああ……お姉さま♡)

 

 お目当てのお姉さまはレジカウンターで作業をしていた。額には牛のような日本の角、セミロングの髪は邪魔にならぬように後ろで束ねている。

 木芽は足早で雑誌コーナーへ向かいつつ、視界の端にレジに立つ“お姉さま”を捕らえる。

 

「……っ」

 

 ガラスに映った自分の顔を見て、咄嗟に前髪を整える。ファッション雑誌を手に取るとそれを立ち読みするふりをした。

 

「――いらっしゃいませ」

 

 日も陰りつつある夕方、様々な人種が来店し、その都度接客の声が響く。

 店内BGMなどもはや耳に入らず、木芽の耳は麗しきお姉さまの気だるそうな声のみを拾い続ける。

 

「……あの~お客様、立ち読みは他のお客様のご迷惑になりますので」

「ッ!」

 

 店長と思われる薄毛の男に注意され、木芽は思わず顔を顰めて店長を睨み付ける。思わず殺してやろうかと思ったが、衆人環境の中で行為に及ぶほど彼女は愚かではない。

 手にしていたファッション雑誌を手にレジへ向かう。

 

「……900円になります」

 

 ずっと見つめ続けていたが、いざ正面で向き合うと恥ずかしさで目を合わせられなかった。挙動不審になりながら、仕方なしに“牛込”と書かれた名札の写真を見つめる。

 

「……は、はい」

 

 わざと大きな額を渡し、お釣りを受け取りつつ不意の接触――をしようにもこの店舗の支払いはセルフ形式、残念ながら手と手が触れ合うチャンスはなかった。

 がっくりとしつつ財布――殺した人から奪った財布だ――に釣銭とレシートを収め、レジ袋を受け取ろうとし――

 

「……ぁっ」

 

 その刹那、指と指がわずかに触れ合う。ほんの一瞬、掠める程度の時間だったが、確かに触れ合った。

 全身にとてつもない多幸感が広がっていく。

 木芽は顔がどうしようもなく熱くなっているのを感じながらも、足早に店を後にする。

 

(さっ触っちゃった! お姉さまとっ!)

 

 純情な少女はわずかな時間の接触でも十分だった。嬉しくて嬉しくて体が震え、下腹が熱く疼くのを感じる。

 指先の感覚を何度も反芻し、つかの間の幸福を感じる。

 

「――よー彼女w この時間にこんなところ歩いてるってことは、()()()()()()期待してる?w」

 

 見るからに遊び人と思われる金髪の男は木芽の肩に手を回す。

 

「――んっ」

「んぐっ!?」

 

 幸福な時間を邪魔した男を、恋する乙女は決して許さない。木芽は男の唇を奪うと猛毒の胞子を注ぎ込む。

 彼女は痙攣する男の体をまさぐり財布を抜き取る。

 

「……お生憎様。私、お外でする趣味は無いの」

 

 財布にはわずかな小銭しか入っていなかった。

 木芽ははした金しか入っていない財布を放り捨て、その場を後にする。

 

「……♡」

 

 夜となれば路地は光がほとんど射し込まない。暗く、ほのかに暖かい室外機の近くは彼女のお気に入りの隠れ場所だった。

 いつもの場所に陣取ると、つかの間の逢瀬に想いを馳せる。

 

(ああ……いつかお姉さまとデートしたいわ。いっぱい遊んで、一緒にお買い物して、おいしい物を食べて――そして幸せに浸るお姉さまを殺すの

 

 木芽は自らの口づけで命を奪われる()()()()の姿を思い浮かべ、体を疼かせる。

 痙攣し、息をすることもままならない体に人工呼吸をし、最後の一息は自分から吸わせる。死の間際を思うだけで、体は火照り胸は昂っていく。

 

(そうよ……私は――お姉さまを幸せにした最初で最後の人になるの)

 

 夜の裏路地に、発情した少女の嬌声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 雄英高校1年A組の面々はそれぞれの職場体験先へと向かう。

 方向が同じ者たちは同じ電車に乗り、これから体験するプロの現場への期待と不安を語り合っていた。

 

「はぁ……」

 

 深いため息をつく葉隠は職場体験への不安を感じている者の一人。

 彼女が向かう先は“スニークヒーロー”アイズ――知名度はあまり高くないが、カメレオンのように肌を保護色に変化させて透明化することのできる個性を持ったヒーロー(緑谷談)である。

 体育祭で唯一葉隠を指名していたヒーローの一人である。

 

(私、なんで戦ってるんだろ)

 

 憂鬱な原因は職場体験だけではなかった。

 鞄の中に忍ばせてあるデザイアドライバーとビートバックルに意識が向く。

 漠然と“戦いの記憶を忘れたくない”という意識で戦っている彼女は、ライバル達の立派な理想(ねがい)を前に後ろめたさを覚えていた。

 

(緑谷君も、牛込さんも……二人とも立派な理想を持ってる)

 

 “デザイアグランプリで退場したすべての人がよみがえった世界”

 なんと壮大な理想の世界だろうか。自分本位な願いを持つ彼女は、そんな願いしか持てない自分を恥ずかしく思っていた。

 

「――君も同じ電車だったんだね、ハガクレ……いや、ナーゴ」

「エース、さん」

 

 電車のボックス席、一人座っていた葉隠の正面にエースが腰かける。

 取り繕う相手(クラスメイトたち)がいないせいか、ライダー名で彼女を呼ぶ。

 

「浮かない顔だね」

「……ちょっと、悩みがあって」

「それは、私に聞いてほしいってことかな?」

 

 葉隠は頷き、その後それでは意図が伝わらないのではと思い口を開く。

 

「他の人には、相談できないって言うか」

「デザグラの事、かな?」

 

 すぐさまエースは指を弾く。

 認識阻害がかかり二人の会話が外に漏れることは無くなる。

 

「……私、何のために戦ってるのかな、って思って。緑谷君も牛込さんも……きっとあのおじいちゃんと変なマスクの人も立派な願いがあるのに、私だけ自分本位な願いで戦ってる」

 

 勝者が叶えられる理想の世界。自分本位な願いを持つ者より、より良い世界を願うもの――他人のための願いを持つ者が勝ち抜くべきなのではないだろうか?

 葉隠は思いの丈をエースへぶつけた。

 

「何を悩んでいるのかと思えば……ふふっ」

「っ私は真剣に悩んでるんですけど!」

 

 悩みを鼻で笑われてしまい、葉隠は全身で遺憾の意を示す。

 

「私から言わせてみれば――願いに立派も何もないよ。どんな願いでも、自分の願いが一番さ」

「……一番は、そうかもだけど」

「そこまで言うなら――私の理想を教えてあげようか」

 

 エースはクスリと微笑むと、見えないはずの葉隠の瞳をじっと見据える。

 

「“私がデザイアグランプリの運営スタッフになっている世界”」

「……は?」

 

 葉隠は聞き間違いではないかと思った。

 デザイアグランプリの運営に関わって何になるというのか、皆目見当もつかなかった。

 

「私の願いこそ、君たちの願いに比べたら()()()()だろう?」

「っぅ……そ、そうかも」

 

 後ろめたそうに顔を背ける葉隠に対し、エースはポケットからボロボロになったオールマイトのカードを見せる。

 

「あ、それ……お菓子の付録の。エースさんもそういうの買うんだね」

「これは私の恩人の落とし物さ……もう10年前になるかな」

 

 エースは懐かしむようにカードを眺める。

 

「私がデザグラに参加している理由は二つ。一つはこのカードの持ち主――私の恩人を見つけること。こっちはもう叶っているようなものだけどね」

 

 彼女(?)はカードを再びしまい、不敵な笑みを浮かべる。

 

「もう一つは……恩返し。彼が平穏に生きることのできる世界を叶えたい」

「えっ……だったらそう願えばいいのに」

 

 “私の恩人が平穏に生きれる世界”とデザイアカードに書けばエースの願いは叶うはずだ。

 そんな単純な解決方法に気づかないほどエースは間抜けではないだろう。

 

「無駄だよ。()()()()()()()()()()()()()()()()この世界に平穏は訪れない。だから私は――デザグラを終わらせる。彼の平穏のためにね」

「えっ待って……そんな願い」

「叶うはずもないだろうね。だから――私は運営側に近づきたいってこと」

 

 どんな理想の世界が可能とはいえ、ゲームそのものの存続を揺るがす世界など叶えてくれるはずもない。

 だからゲームの運営サイドの人間となる。

 運営サイドになることで内部から願いを叶えられるように暗躍する。

 

「どう? これを聞いても、君は私の願いを“自分本位”って思う?」

 

 葉隠は首を横に振る。

 

「どんな理想の世界にも理由――原点(オリジン)が存在するものさ。君だってそうだろう?」

「えっ……?」

 

 問いかけられ葉隠は思わず思考が停止する。

 なぜ戦いの記憶を忘れたくないと願ったのだろうか?

 咄嗟にその答えを出すことができなかった。

 

「――っと、私はここで降りなきゃ。じゃ、職場体験頑張って♪」

 

 答えを導きだす前にエースは電車を降りる。

 一人残された葉隠は、自分の“理想の世界”について思いを巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 事務所に着いた葉隠は、コスチュームに着替え(と言っても制服を脱いで手袋とブーツを装着しただけだ)、応接室へ向かう。

 

「雄英高校から来た葉隠 透ですっ――ヒーロー名は“インビジブルガール”……あれ?」

 

 元気よく挨拶するも、応接室には誰も居ないことに気づく。

 誰も居ないのに挨拶をしてしまい、彼女は少しだけ気恥ずかしくなってしまう。

 

 ――ようこそ! 私の事務所へ!

 

「わっ!」

 

 どこからともなく響いてきた声に葉隠は思わず驚いて身を竦ませる。

 

 ――指名に応えてくれてありがと! 早速だけど――()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!」

 

 声の方向から位置を推定することは難しそうだ。

 そうなればやることはただ一つ。

 

「そこだぁっ!」

 

 第六感。

 あてずっぽうで場所を当てるのである。

 葉隠はソファに向けてダイブするも、空ぶってしまう。

 

 ――残念! 正解は

 

「――ここでした♪」

「ひゃん!」

 

 背中を指で撫でられ葉隠は思わず悲鳴のような声を上げてしまう。

 振り返れば、そこには七色の髪を持つ女性が立っていた。彼女――アイズはボディラインを強調するようなスーツを身にまとっており、口元にはスピーカーのようなマスクを装着している。

 

「意地悪しちゃってごめんね? ワタシ、いつも来てくれた学生さんとかくれんぼしてるんだよね♪」

 

 アイズは個性を発動しその体を透明化させている。変化に合わせてスーツとマスクも透明化している。

 

「ま、ワタシはキミと違って保護色になるだけで、完全に透明になるわけじゃないんだよね! ところでさ――」

「あっ……ちょっ……そこ」

 

 葉隠はソファの上で全身をまさぐられて思わず身をよじらせる。見られていないから恥ずかしくない、と思っていたが、直接まさぐられればさすがに羞恥心が芽生えてくる。

 彼女は体が火照ってくるのを感じた。

 

「キミ、もしかして……服、着てない?」

「え……はい」

 

 何をいまさら、と言った風の葉隠の返答に、アイズは額に冷や汗を浮かべる。

 なんとも気まずい職場体験の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――緊張感が場を支配する。

 緑谷は個性を発動させ、次の一撃を待ち構える。

 

「!」

 

 飛来する小柄な老人の動きを見切り、左に跳んで躱す。

 

(――っで、空中で体を捻る!)

 

 回避だけでなく続けて攻勢に転じる。

 空中を泳ぐようにして方向転換した緑谷は小柄な老人に向けて拳を振り上げる。

 

「スマァァアァッシュ!」

 

 ワンフォーオール――オールマイトの力の10%程度の力であったが、老人を打ち負かすには十分すぎる力だった。

 

「甘いわっ!」

 

 老人の足からジェット噴射のように空気が放出され、即座に回避される。そのまま勢いを利用され組み伏せられてしまう。

 

「フン! 有精卵小僧にしちゃぁ上出来だ! 俊典の奴、いい後継を見つけたな」

 

 老人――グラントリノは頬の擦り傷の血を拭いつつ笑っていた。

 

「……っ手も足も出なかった……!」

「若造にしてやられるほど老いちゃいねぇよ。ほれ、もう一回だ」

 

 緑谷は額の汗をぬぐいつつ再び個性を発動する。

 次こそは絶対に一撃を当てる。

 次こそは絶対に勝つ。

 気が付けば、緑谷は不敵な笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――んっふっふ~♪」

 

 薄暗いビニールハウス。どこにでもいるような農家のような男は、鼻歌交じりに作業をしていた。

 

「さーて、今回の死体(ひりょう)は~?」

 

 男は転送されてきた亡骸に種子を埋め込む。

 

「さあ! 大きく育つんだよぉ! 私の愛しいジャマト達!」

 

 ビニールハウスの中には所狭しと作物が実っている。

 ツタの先に実っているのは――ジャマトの幼体。

 ここは農園は農園でも、ジャマトを育てる農園だった。

 

「――おお! お前たち、大きく育ったなぁ!」

「ジャ……」

 

 新たな成体が完成し、産声を上げる。

 傍らにはセーラー服を身にまとった女子高生と思われる亡骸と、顔をすっぽりと覆い隠すような全身タイツを纏った亡骸が放置されていた。

 亡骸は全てを絞りつくされたように干からびており、元の人相を判別することはできなかった。

 

「えーと、確か“変身”に“二倍”の個性か! うんうん。ゲームを存分にぶっ壊すんだぞ」

「ジャ」

 

 男に肩を叩かれたジャマトは、首を振るとビニールを突き破って飛び出していってしまう。

 

「あ」

 

 ジャマトはしかるべき場所からジャマーエリアへ解き放つルールとなっている。

 もし、万が一ジャマーエリア外へ解き放たれる事態となった場合はゲームマスターへ一報を入れる決まりとなっている。

 

「ま、いいか」

 

 男は反抗心から報告を怠る。

 丹精込めて育てたジャマト達を雑に始末されてしまう虚しさ。強すぎるジャマトを育成すれば余計なことをするなとどやされる。

 傲慢なゲームマスターにも、愛すべき我が子(ジャマト)を見世物にする主催者にも、もはや従うつもりはなかった。

 

「ああ……素晴らしきオール・フォー・ワンよ! 貴方にふさわしい()()()()()()ジャマトをお届けしますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 職場体験二日目。

 

(ジャマトの言葉には法則性がある……ってことは、今までの言葉にも何か意味があったのかな?)

 

 ずっと同じ相手と戦っていては癖がついてしまう、との判断から緑谷はグラントリノと共に新幹線で都内へ向かっていた。

 新幹線の車内、緑谷は迷宮で回収していた手帳を開き、ジャマトの言葉を理解しようと試みていた。

 

「ほぉ……随分面白いモンみてるな」

「わっ!」

 

 隣に座っていたグラントリノは緑谷の手帳を覗き込んでいる。

 

「懐かしいもんだ……そういう()()、昔はよく考えたもんだ」

「え、いや……ははは、恥ずかしいなぁ」

 

 本当のことを言うわけにもいかず、緑谷は笑ってごまかす。

 そして新幹線に揺られること数時間。

 

「――さあ着いたぞ夜の繁華街!」

 

 緑谷とグラントリノは都内某所、夜の繁華街へと到着した。

 

「ひぃぃ……どうかなにも起きませんように」

「何を言う! トラブルの一つや二つ、起きんとつまらんだろう!」

 

 いくら修羅場を潜り抜けた緑谷とは言え、夜の街は初体験である。

 ましてやリアルな小競り合いなど出くわしたことすらない。緊張で心臓が口から出そうなほどに拍動していた。

 

「さあ行くぞ! ついてこい!」

 

 対してグラントリノは歴戦のヒーロー。夜の街の小競り合いなど朝飯前だ。

 

(わっ! すごい服!)

 

 肌を大きく露出させた衣装の女性とすれ違い、緑谷は思わず顔を赤くする。同級生(やおよろず)のヒーローコスチュームに慣れていたとて感性がマヒするものでもない。

 将来身を投じるであろう世界に戦慄しつつ、緑谷はトラブルが起きていないか目を光らせる。

 

「――ジャ……」

「……は?」

 

 緑谷は聞こえるはずのない鳴き声に体が強張る。

 

(なんでジャマトが……?)

 

 思わず足を止めてあたりを見回す。

 骸骨を思わせる異質な外見。黒いボディスーツのようなものを纏った異形。

 超常社会、少し変わった見た目では誰も気に留めない。ジャマトは見事に日常社会に溶け込んでいた。

 

「……ジャ? チャ()テウ()?」

 

 ジャマトと目が合う。

 緑谷はスパイダーフォンを取り出し通知を確認するも、ゲームは開始されていなかった。

 

「ってことは、ゲーム外の」

「……ジャ」

 

 にらみ合いが続き、ジャマトは脱兎のごとく逃げ出した。

 

「っ待て!」

 

 放っておくわけにもいかず、緑谷はジャマトの後を追いかけるのだった。

 

 




















と言うわけでオリジナルヴィラン、ギノガこと木芽 楓を思いついたのでヒーロー殺し編、やります(ヒーロー殺しは出ませんが・・・)
元ネタはクウガのあのキャラ、皆のトラウマ、メ・ギノガ・デ、です。

来年も完結に向けて頑張るので、もうしばらくお付き合いください!

オリキャラ木芽さんのレーティングは――

  • 大丈夫、全年齢!
  • うーん、R15かな
  • R18じゃね?
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