新キャラはまさかの経験者……お決まりの即退場が無いのは物足りないですが、マンネリ高いということで面白いですね。
そして裏切者のデザスター……なんだか、人狼とかアモアスを思わせるルールですね。デザスターは新キャラか、それともレギュラーメンバーの誰かか……この先見逃せませんね!
今回は中間試験編のハイライト、ダイジェスト形式でお送りします。
あのキャラの過去もチラ見せしています!
――――
――
時を遡ること約50年前。
出水 聖拳、14歳。
中学生2年生の春のことである。
『せ、先輩……好きですっ! 俺と付き合ってくださいッ!』
振り返ってみれば青臭い、若き日の思い出。
一つ年上の先輩に一目ぼれし、玉砕覚悟の告白を決行したのだ。
『ふぅん……君、二年生?』
『う、うっす! 二年三組の出水 聖拳っていいます!』
その先輩の名は東雲 氷柱。妖艶な雰囲気でとても中学生には見えない、大人びた少女だった。
彼女は切れ長の瞳で聖拳を品定めするように見つめる。
若き日の聖拳は蛇に睨まれた蛙、のように全身が痺れて動けなくなる。
『……君、異能――個性は持ってるの?』
『な、ないっす……!』
当時、個性は今ほど浸透しておらず、無個性の人間はさほど珍しくなかった。
しかしながら無個性であることは弱者の証。持たざる者は守られるべし、そういった考えもある程度浸透していた。
『悪いけど……私、自分より弱い男の
『なっ……お、俺そんなに弱くないっす!』
『ふぅん……なら、私を斃してみる? 膝をつかせることができたら、君の
既に、聖拳の脳から恋心は消え去っていた。
ただ一つ、目の前の
『う、うおおおぶへっ!?』
バカの一つ覚えで突撃していった聖拳の頬を氷のつぶてが襲う。
それは東雲の個性によるものだった。
『ほら、弱い』
『な、なんの……うっ!』
彼は起き上がりざまに再びつぶてに襲われる。
つぶてに打たれた鼻を押さえつつ起き上がってみれば、東雲の背後に無数の氷のつぶてが浮かび上がっているのが見える。
当時、個性の出力は今ほど強くなかったと言われている。
なぜなら、個性は世代を経るごとに混ざりあって強くなっていくもので、世代を遡るごとにその出力は弱くなっていくのだ。
しかしながら、東雲の個性はこの当時でいえば規格外の強さを秘めていた。
個性を持たぬ平凡な少年では、到底太刀打ちはできなかった。
『ほら、弱い。悔しかったら強くなってみせなさい』
『…………!』
聖拳は口惜しさのあまり大の字に倒れ込んだまま動けなかった。
数分前まで好きだった先輩の背中が遠ざかっていく。次第にその背中が涙でぼやける。
思春期の少年にとって、手痛い敗北だった。
――――
『――――うおおおおおおおおおおお!!!!』
敗北を喫した聖拳はその日から鍛錬を始めた。
学校へ行くことなく、一日中山にこもって鍛錬を積み続けた。
『うおおおおおおおお!!』
朝目覚めれば腹筋腕立てスクワット走り込み、各種筋トレで体を作った。
『うおおおおおおおお!!』
昼を過ぎればひたすら空手の型の練習。
ただ愚直に練習を続け、意識を失うように就寝。
『うおおおおおおおお!!』
全ては自分を馬鹿にした先輩を見返すため。
『うおおおおおおおお!!』
肉体が悲鳴を上げ、筋繊維が引きちぎれてもなお鍛錬を続けた。
体が慣れてきたら即座に負荷を上げ、常に自分の体を追い込み続けた。
『……はあ、はあ……』
鍛錬を続けること約一年。
年相応だった少年の体には鋼のような筋肉が付き、練り上げられた動きは至高の領域に至っていた。
『…………ふっ!』
軽い正拳突きを放つ。
拳が空を切り、放たれた衝撃は波動のごとく駆け巡る。
――彼の目の前に立っていた大木の幹が弾ける。
限界を超えた鍛錬を積んだ結果、彼の拳は異能と呼べる領域に到達したのである。
『見てろよ東雲先輩っ!』
一皮も二皮も向けた聖拳は少年は、意気揚々と山を下って行ったのだった。
――――
「――おじいちゃん?」
「はっ!」
心配するようなエリの声に聖拳は意識を現代へと戻す。
「……またワシ、ぼーっとしてた?」
「うん……」
聖拳は霞がかかったような頭をトントン叩いて意識を戻す。
最近どうしても呆けてしまうことが増えていたのだ。
(……マスキュラ―の奴め)
原因は一つ。怨敵マスキュラ―の死である。
デザイアグランプリで優勝し、全盛の肉体を取り戻し復讐を誓った。しかし事を成し遂げる前にマスキュラーは命を落としてしまった。
抗争に巻き込まれたか、はたまた何らかの陰謀に巻き込まれたか。どちらにせよ息子の敵はもうすでにこの世にはいない。
「う~ん。最近暖かいからどうにも、な」
「……もう夏だよ?」
咄嗟に誤魔化そうとするも、付け焼刃はすぐに見抜かれてしまう。
「ははは! ワシも年か……」
死んだのなら結構だ。
これ以上マスキュラ―の手によって奪われる命は無いのだから。
それでも――
(どうして、今なんじゃ……)
己の手で復讐を成し遂げたかった。
そのための全盛の肉体、そのために取り戻したいかつての体。
「……お出かけの時間、そろそろ?」
「はっ! そうじゃった、忘れておった!」
聖拳は不安そうにしているエリの頭を撫でてやる。
(呆けてちゃあいかんな。この子が無事に大人になるまで、おちおちボケられんわい!)
――――
――
短かった職場体験が終わり、雄英高校ヒーロー科の面々はそれぞれ一皮むけていた。
厳しい大人の世界を目の当たりにした者、自らの課題に気づかされ克服に励む者、新たなスキルを身に着け成長した者、そして大きな事件を経験した者。
そしてそんな彼らに試練が待ち受けていた。
「勉強してねー!」
試練――それは期末試験だった。
1学期の集大成、ここで赤点を取れば二学期以降に響く最初の関門である。
大事な試験を前にしてあほ面を晒しているのは上鳴である。
彼はクラスの中で最も中間試験の成績が悪かった男。
同じように芦戸も虚ろな目で来る期末試験を憂いていた。
「くそっ! なんでだ! ついこの間中間試験やったばっかじゃねえかよッ!」
「こ、こればっかりは仕方ないよ上鳴くん……」
嘆く上鳴をなだめる緑谷。その隣には補習に次ぐ補習でしおれているエースの姿。
「っで、でもよ……俺には仲間がいる」
上鳴はしおれているエースの肩を抱く。
彼女(?)は英語が大の苦手で補習続きの劣等生。総合成績でいえばクラスの中でも上位だが、唯一の苦手科目があることで彼はシンパシーを感じていた。
「狐火、一緒に補習受けような……?」
既に赤点を取ることが前提の物言いにクラス中が呆れてため息をついている。
「……ふふ。君と、一緒にしないでもらいたい……」
「ウェ?」
と、エースが取り出したのは追試の解答用紙。
点数は43点――お世辞にもいい点数とは言えなかったが、赤点は辛うじて回避できている。
「私だって苦手をいつまでも苦手で放置はしない。期末試験は赤点回避してみせるさ……」
しおれながらもエースは不敵な笑みを浮かべている。
「ウェイッ!?」
上鳴はその宣言を受け大げさに後ずさり、黒板に激突しずるずると崩れ落ちる。
「う、うらぎり、もの、め……」
――MISSION FAILED...
緑谷はなぜか、デザグラで退場してしまったときのアナウンスが聞こえてきた気がした。
「か、上鳴ぃぃぃ!」
上鳴は下位仲間の芦戸に介抱されていた。
「テストもきついけどよ、今回は実技試験もあるのがつれーよな」
上鳴の意見に賛同するのは峰田。ちなみに彼は中間試験10位と中間層に位置していた。
「峰田ぁぁッ!! なんでてめーはそんなに頭いいんだ! オメーのキャラはバカで初めて愛嬌でんだよどこ需要だどこ需要!」
「ふっ……世界、かな」
気障ぶってポーズを決める峰田だったが、残念ながらこの程度で彼の好感度は上がらない。
「安心して上鳴くん! 僕のわかる範囲でよければ勉強教えるからさ」
「み、緑谷ぁ……! オメーいい奴だなぁ」
上鳴は頭を垂れて感涙に噎ぶ。
「ごめん緑谷! 私にも勉強教えて~!」
緑谷の提案に便乗したのは芦戸、彼女もまた救世主をあがめるかの如く緑谷を拝んでいる。
「え、う、うん。僕でよければ……でも僕も全教科得意ってわけじゃないから」
「
と、エースが示したのは飯田、轟の二人。彼らは中間試験でも優秀な成績を修めていた。
「任せてくれ! 共に期末試験に備えよう!」
「……普通に授業受けてりゃ赤点はねぇだろ」
轟の何気ない言葉が、上鳴の心を傷つけた。
既に瀕死だった彼は死体蹴りのごとく痛めつけられた。
「――あの、座学でよければ、わたくしもお力添えできるかと。座学でよければ」
そんな彼らに救いの手を差し伸べたのは八百万だった。
クラス1位の頭脳を持つ彼女が味方となれば、もはや怖いものはなかった。
次から次へと希望者が殺到し、気が付けば一大勉強会の開催となったのだった。
――――
――
――再び時は遡る。
出水 聖拳、14歳の春のことである。
1年間の長くつらい鍛錬の結果、彼の肉体は限界を超えた。
今こそ東雲先輩に雪辱を晴らす――そう誓って久しぶりの登校をした。
――既に彼女は卒業してしまっていた。
当然のことである。1年前、中学2年生だった彼の先輩と言うことは、中学3年生。そこから1年経てば卒業なのは小学生でもわかることだ。
鍛え上げた肉体を憧れの人に披露することは無かったのだった。
『――今年の雄英体育祭、注目の生徒はこいつだぁっ!』
そして彼は、東雲が雄英高校へ進学したことを知る。
体育祭では無双の活躍をする彼女の姿が鮮明に映し出されていた。
来年は自分も同じ舞台に立とう、そう決意する聖拳少年だったが残念ながらそれは叶わなかった。
1年間不登校を決め込んだ結果、内申点が絶望的なまでに足りていなかった。
その上学力も雄英高校レベルにはなかった。それどころかその辺のヒーロー科高校のレベルにすら到達していなかった。
限界を超えた鋼の肉体を得た聖拳だったが、頭脳は据え置きだった。
『――セイッ!』
そんな彼がとった手段は、ヴィジランテ。
顔を隠し、無資格のヒーローとなることを選んだのである。
限界を超えて手に入れた鋼の肉体は、並み居るヴィランを寄せ付けなかった。
彼の活動している地域は他の地域に比べて目に見えて犯罪率が減少し、その功績はワイドショーで物議をかもしていた。
『――我が拳に、異能なし』
その口上を聞けば、ヴィランは震えあがった。
いつしか彼は、“影の象徴”と言われるまでにその名を知らしめていたのだった。
――――
――時は現代に戻る。
「――おじさん?」
「はっ!」
我に返った聖拳の目に入るのは、自分を心配そうに見つめる
どうやら、買い物中にも関わらず過去の世界へ意識を飛ばしてしまっていたようだった。
「いや~すまんすまん。ちょっと考え事を」
「……っもしかして」
マンダレイは聖拳の不調の理由に思い当たったが、彼の瞳を見て言葉を詰まらせた。
「ワシのことなど気にせず、エリちゃんの服を見繕ってやってくれ」
「う、うん……」
今日の目的はエリの私服を購入すること。
預かった当初は聖拳が服を選んでいたが、どうにもセンスがなかったためこうして協力を要請した形である。
「……おっこれなんか似合うんじゃないか?」
「おじさん、それはやめた方がいいと思う」
聖拳が手に取ったのは、やたらと目力の強い猫のプリントされた服。
絶妙に可愛くなく、お世辞にも着たいとは思わせないデザインだった。
現に、割引コーナーに配置されているため人気はあまりないのだろう。
「え、そうかの……エリちゃん、どうじゃ?」
聖拳は引きつった笑みでエリに意見を求める。
彼女は服を手に取り、自分の着ている姿を想像した。
大きく表情が変わらなかったが、少しだけ口角が下がる。
「……ダサい」
「なっ!」
還暦を過ぎた老人に若者のコーディネートは難しかったようだ。
遠慮しがちなエリの言葉に、聖拳は衝撃を受け固まるのだった。
――――
――
――期末試験、実技テスト当日。
八百万家での勉強会を終え、筆記試験を辛うじて突破したA組の面々。
残すは実技テストのみだったが、風の噂で“入試の時のようなロボ無双”と聞いていた彼らは半ば消化試合のようなムードを漂わせていた。
「――今年から内容を変更するのさ!」
その期待を打ち破ったのはネズミのような校長、根津。
相澤の捕縛布から顔を出し、愛くるしい顔でA組の面々を地獄へと叩き落とした。
変更後の試験は“教師とのマッチアップ”、あらかじめ指定されたペアで教師に戦いを挑むのである。
ただし、教師側には相応のハンデが与えられる。仮にもプロヒーローの彼らが全力で戦えば、ヒーローの卵は逃げの一手となってしまうからである。
「――次、狐火と爆豪がペア。相手は」
「――私が、するッ!」
土埃と共に姿を現したのはオールマイト。
エースはペアを組む爆豪を苦々しく見つめつつ、No.1ヒーローの相手ができることに笑みを浮かべていた。
――――
『――次に狐火と爆豪、この二人は成績や相性で選んでいません。偏に仲の悪さ! 入学当初からこいつらは特に仲が悪い』
相澤の言葉に他の教師陣は大きく頷いた。
普段の授業で仲の悪さをいかんなく見せつけているのだろう。
『そして、緑谷と麗日。緑谷に関しては、個性の扱いに課題があります。13号には緑谷に対して徹底的に負荷をかけて欲しい』
緑谷は個性を開花させてから日が浅く、コントロールに失敗して負傷することが間々ある。
そして二人の対戦相手は13号。ブラックホールの個性は圧倒的な吸引力を誇っており、振り切って脱出するには骨が折れる相手だった。
『負傷した緑谷を麗日がきちんとカバーできるか、そこをテストします。どうも麗日は緑谷に対する
麗日は決して劣等生ではない。演習や課題はそつなくこなすし、成績は平均的であった。
だがそれは一人で挑む場合に限る。
ヒーロー基礎学の演習において、緑谷と組んだ麗日は積極性が落ち、ほとんど緑谷に頼ったスタンスになっているのだった。
――――
――
試験開始の合図が鳴る。
「……オイ、クソ狐。足引っ張るんじゃねぇぞ」
「それは私のセリフだよ。もっとも、丁度いい囮になってくれるなら嬉しいけど」
「あ”!?」
早くも仲の悪さを発揮しエースと爆豪は険悪な雰囲気となる。
――エースの狐耳が飛来する何かの音を捉える。
「っよけろ!」
それは土埃を上げながら着地し姿を露にする。
「さ、お二人さん――真心こめてかかってきなさい!」
オールマイトは画風の違う彫りの深い顔に笑みを浮かべて挑発する。
「……わかっているね、爆豪」
「ふん! 誰にモノ言ってんだクソがッ!」
二人はNo.1相手にも臆することなく戦闘態勢に入る。
「逃げるぞ!」
「ぶっ潰す!」
しかし取った行動は全くの逆だった。
エースは心底呆れたようにため息をつき、爆豪は心底軽蔑するような視線を送る。
「ん? いきなり仲間割れって、ずいぶん悠長だな!」
オールマイトはお構いなしに爆豪を迎え撃つ。
「……全く、君の頭には脳みそが詰まっていないようだね」
エースは即座に個性を発動しオールマイトの攻撃をずらす。
「……女々しいのはそのナリだけにしやがれ」
一瞬、死を予感させる気迫にさらされた爆豪は舌打ちしつつ距離を取った。
「今のが狐火少女の“幻覚”! わかってても避けられないモンだね!」
だが小細工が通用するなら、この男に“平和の象徴”と大それた二つ名はつかない。
オールマイトは体をひねるようにして構える。
「Oklahoma――」
エースは隙を作り出そうと個性を使う。
攻撃の方向を誤らせ、その隙にこの場を抜け出そうと試みているのだ。
「SMASH!」
だがその期待は綺麗に打ち砕かれる。
遠心力によって放たれた衝撃波は全方位にくまなく放たれ、爆豪とエースもろとも吹き飛ばされてしまう。
「……ふっ! 方向を見誤らせるなら、全方位攻撃しちゃえばいい☆ ってね」
ニカッ、っという効果音が似合いそうなオールマイトの笑みに、エースは心の底からため息をつく。
「めちゃくちゃでしょ、流石にさ!」
分が悪いと判断したエースは逃げ出そうとするも、残念ながら
「ッまともな判断もできないのか……!」
「狐火少女――逃げたい君には、これをプレゼントしよう!」
と、引き抜いたガードレールを携えたオールマイトが迫る。逃げられないように拘束するつもりなのだろう。
すかさずエースは狐火を生成し自身の周りに漂わせる。
「おっと! させないぜ!」
「ふふっ! 何を?」
オールマイトは跳躍しエースの攻撃の射線から逃れる。
エースもすかさず体を捻り、軽く跳びあがる。
「えい♪」
「ふがっ!?」
そしてくるりと回転しつつ狐の尻尾でオールマイトの頬を掠める。虚を突かれた彼の隙をつきガードレールを強奪、仕返しとばかりにオールマイトの体を地面に縫いつける。
「――ほら、行くよ」
「ッおい放せ!」
オールマイトが脱出に手間取っている間、エースは爆豪を連れて戦線を離脱する。
「何やってんだボケが! このまま逃げ切って勝てると思ってやがんのか!?」
「思ってないさ。だけどあのまま力押ししたって
「ッ!」
正論を言われ爆豪は歯ぎしりする。
「この試験は私たちの弱点や欠点を克服させるためのもの。恐らく私たちは“互いの仲の悪さ”を克服させるために組まされた」
「チッ……だからオールマイトが相手か、クソッ!」
No.1相手となれば互いに協力しなければクリア条件を達成する目はゼロだろう。
だがこの二人は犬猿の仲ともいえる最悪の相性。
「……私は君のことが大嫌いだ。好きになりたくもない」
「……はっ! そりゃお互い様だ」
「……でも勝利をあきらめるのは、君を好きになること以上に嫌なことだ」
「……チッ」
仲良くなるつもりはない。だが、勝利のために手を貸せ――エースの意図に気づいた爆豪はコスチュームの籠手を外す。
「ほら」
「物分かりがよくて助かるよ」
生半可な火力ではオールマイトをのけぞらせることすらままならない。
だが隙の大きい攻撃はオールマイトに当てることすらできない。
故にゼロ距離での最大火力を当てる。可能性を少しでも上げるために二人でやる。
「チッ……今だけだ。今だけ――手ェ貸してやんよ!」
再びオールマイトと相対する二人だったが、この程度の小細工で破れるほどオールマイトは甘くない。
「――一人じゃ敵わないと協力するのはさすがだが……忘れてないかい? それって
「くっ……」
エースは爆豪から借り受けた籠手を砕かれ、右手を掴まれ宙づりにされる。
悔しそうに指を構えるも、オールマイトは握る手を強めてそれを阻止する。
「諦めない姿勢は感心だが、私だって直に触れている君の腕を間違えはしないぜ?」
エースの認識阻害は触れていないからこそ真価を発揮する。
直接触れていないからこそ、相手の認識を狂わせ、大いに化かすことができる。
だが直接触れてしまえば何のことは無い。後付けで誤魔化そうにも、触れているという実感まで惑わすことは難しいだろう。
「狐火少女、君には終了時まで寝ていてもらうぜ」
「……っもうちょい、いけると思ったんだがなァ」
「?」
普段とは異なる口調のエースにオールマイトはわずかな違和感を覚える。
「へへっ……
「what!?」
エースの姿が霞のように揺らぎ、爆豪へと変化する。
オールマイトと戦っていたのはエースの姿を借りた爆豪だったのだ。
「――はっ!」
虚を突かれたオールマイトだったが、流石は現役No.1。即座に意識を切り替え迫るエースへ立ち向かう。
だが捕まっている爆豪は大人しくはしていない。
オールマイトに爆破を浴びせて少しでも意識を割こうと試みる。
「あったたた! 実はそこ弱いんだよねっ!」
偶然にもそこはオールマイトの左わき腹――宿敵によって負った大きな傷が残されていた。
がむしゃらに振った攻撃がうまくそこに命中し、オールマイトは苦悶の表情を浮かべる。
「“千丈の堤も蟻の一穴より崩れる”さ、オールマイト!」
「なんの!」
エースはガントレットの引き金に手をかけるも、オールマイトは爆豪を盾にすることでそれをけん制する。
「私もヴィランらしく、人質作戦といこう!」
「お生憎様! 私は彼のことが嫌いでねっ!」
「……悪ぃが――俺だって大人しく捕まってやるかよッ!」
爆豪の手のひらが一際大きく光る。彼の装着しているガントレットは最大火力をノーリスクで撃つためのサポートアイテム。
汗腺に負荷はかかるものの、その気になればいつでも最大火力を放てるのである。
「あたっ!?」
至近距離での最大火力に苦悶するオールマイト。
それでもなお手を離さないオールマイトにエースは舌打ちしつつ、急遽ガントレットを下向きに変更してロケット噴射のように空へ跳躍する。
「うっ……!」
土埃と噴煙で視界が封じられるオールマイト。
――さあ、ハイライトさ
どこからともなくエースの声が響き渡る。
「……人を化かすのは君の得意分野だったね――狐火少女」
オールマイトはため息をつきつつ爆豪を優しく放す。
その手には確保証明用のカフスが装着されている。
「ふふっ……もしかして、気づいていてわざと捕まってくれました?」
何事もなかったかのようにエースが姿を現す。
ガントレットの爆風で空へ跳躍したと見せつつ、本当は爆炎に紛れてオールマイトの背後へと回り込んでいた。
跳躍していたのはあくまで幻、オールマイトはすっかり化かされてしまっていた。
「まさか! 君たちの協力プレイにまんまとしてやられただけさ」
オールマイトは快活に笑いつつ手足に着いたハンデ用の錘を外している。
その重量は約100kg、もしそれが無ければ――エースがいくら化かしたとしても対応されていたかもしれない。
「――おい
「それは君の責任だろう? それとも、君も一緒に撃ち抜いてほしかったのかい?」
「んだとォ!? 俺を巻き込まないように撃てねえほどてめえは下手かッ!?」
「第一、これ指向性は無いだろう? 設計ミスなんじゃないの? ていうか、それ付ける発想すらないとか、センスないね♪」
「ア”ァ”!?」
試験が終わるや否や口喧嘩を始めるエースと爆豪を見てオールマイトは大きなため息をつく。
「……うーん、喧嘩をするほど仲がいい、かな?」
――――
「――まだだ! 諦めんな! まだどっかに出口につながるルートがあんだろッ!」
上鳴は自分に言い聞かせるようにして芦戸を奮起させる。
試験官の根津は重機を巧みに操り彼らの行く手を阻み続けているも、クリアの可能性を完全に潰さないよう立ち回っていた。
しかし時間は無常に過ぎていき、時間切れとなってしまうのだった。
――――
(いつまでも、緑谷君に頼ってちゃダメなんだ!)
徹底的に対策され負傷した緑谷を庇い、麗日は単身13号に攻撃を仕掛ける。
(今こそ――ガンヘッドさんのとこで教えてもらったこれで――)
麗日は13号の吸引力を利用して急加速、組み伏せにかかる。
「どりゃあああああッ!」
「甘いよ!」
それを予測していない13号ではない。
即座に個性の使用を止め、麗日を迎え撃つ。
「……20%――デラウェア・スマッシュ!」
動けなくなりながらも、緑谷はデコピンから衝撃波を放つ。約3か月間の鍛錬で一瞬なら許容上限の20%程度まで個性を発動することができるようになったのである。
「わわっ!」
「――しぃぃぃっ!」
油断していた13号は反応が遅れ、まんまと麗日に組み伏せられてしまった。
――――
――
中間試験も終わり、各々で林間合宿に向けた準備を進めていた。
「――お父様、大事なお話とは……?」
そんな中、八百万家には深刻そうな空気が走っていた。
「……百、これを」
と、八百万父が差し出したのは小さな箱。
ちょうど婚約指輪などを入れるような大きさの箱だった。
「これは……」
「待った、まだ開けちゃいけないよ」
箱を開けようとする八百万だったが、八百万父はそれをしないように制する。
「でも、これからはそれを肌身離さず持ち歩きなさい。そしてそれを開けるべき時が来たら、開けなさい」
「開けるべき時……?」
「……その時が来たら、わかるはずさ」
彼女はじっとその小箱を見つめた。
不思議と、引力のようなものを感じていた。
エースとかっちゃんは某海賊漫画の剣士とコック並みに相容れない性質です。隙あらば喧嘩しているので教師陣は常に頭を悩ませています。
次回、林間合宿編です! 最近暗い話が続いていたので明るい話に出来たらいいな、と思っています!