【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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まさかまさかの1日2本目の投稿です。
思わず筆が乗って書き上げてしまいました。
ようやく書きたかった合宿編まで到達できました。ヴィラン連合のいない雄英合宿、どうなるのでしょうか!?














23 異変Ⅹ/奪われたゲーム

 

――――

――

 

 ――デザイア神殿。

 

「――名無しの狐。これで貴様は終わりだ」

 

 ゲームマスター、ギロリは次のゲームの企画が完了しほくそ笑む。

 その名も“椅子取りゲーム”、椅子取りとは言っても奪い合うのは“ライダーの椅子”。

 制限時間内にジャマトに奪われたドライバーを奪還できなければ即脱落。万が一エースがドライバーを入手できそうな状況ならばゲームへの介入も辞さない構えだった。

 

「あーあ、不敗神話もここでおしまいか」

 

 ゲームマスターの手先として働く物間はゲームの内容を見て笑っている。

 いくら強い個性を持っていようとも所詮は人間の体、ジャマト相手には苦戦が強いられることになるだろう。

 

「……パンクジャック、お前もいい加減働け。私の我慢も長くは続かないぞ」

「わかってますって……?」

 

 突如、空間に黒い靄が発生する。

 そこからゆるりと人の体が現れる。

 

『――念のため黒霧の個性をコピーしていて良かったよ。おかげで座標を特定するだけで済んだ』

 

 現れたのは生命維持装置のような仮面を纏ったスーツの男。

 

『初めまして、かな? 君がこのゲームのゲームマスターと見て間違えが無いようだね』

「……貴様、どうやってここが」

 

 ギロリは鋭い瞳で仮面の男を睨み付ける。

 

『僕には()()()()()がたくさんいるんだ。この場所を割り出すことくらい訳はないさ』

 

 仮面の男の表情は見えなかったが、どこか楽しそうな声だった。

 

『といっても、結構苦労したんだぜ? 敗退者の記憶は全て消去している徹底ぶり! そのおかげでいろいろな個性を試せて楽しかったけどね』

 

 仮面の男は愉快そうに拍手をしている。

 

「……そうか、最近ジャマトの動きが妙だったのは貴様の差し金か」

 

 ギロリは目の前の仮面の男こそがジャマトに起きている異変の元凶であると結論を下す。

 仮面の男は困ったように肩をすくめる。

 

『だったらどうするんだい?』

「……決まっている――貴様を排除するまでだ」

 

 ギロリは静かにゲームマスター用のドライバーを取り出す。

 

 ――VISION DRIVER...

 

『おっと、これが()()()()ってやつかい? させな……』

 

 仮面の男は個性を発動し変身を妨害しようと試みるも、何も起きないことに疑問符を浮かべている。

 

「残念だが、ここでは一切の戦闘行為を禁じている。もちろん個性を発動することもな」

 

 ――GLARE : LOG IN

 

 ギロリは手袋を外しドライバーを起動。カード型デバイス、プロビデンスカードを取り出す。

 

「変身」

 

 ――INSTALL...

 

 プロビデンスカードをドライバーに読み込ませ、変身する。

 

 ――DOMINATE A SYSTEM : GLARE

 

「不穏分子は排除する――行くぞパンクジャック」

「……了解ですよ、ゲームマスター」

 

 ――MONSTER!!

 

 神殿からどこかの廃工場跡へ場所が転移する。

 物間はパンクジャックに変身し終えると拳を構える。

 

『へえ、瞬間移動か! 個性によらない移動は新鮮で面白いね♪』

 

 仮面の男は個性によらない移動が楽しいのか子供のようにはしゃいでいた。

 

「余裕でいられるのも今のうちじゃないかなッ!」

 

 パンクジャックの拳を仮面の男は軽々しく受け止める。

 モンスターフォームのモンスターグローブは屈指の近接格闘能力を有していた。その拳はオールマイトのスマッシュにも引けを取らない高威力を発揮する。

 

「なっ……」

『ふむ。いい威力だね。衝撃吸収一つじゃ殺しきれなかった』

 

 しかし仮面の男はそれを衝撃吸収の個性を複数掛け合わせることで相殺する。

 

「だったら手数で――」

『ならばこちらも“衝撃反転”を追加しようか♪』

「ぐっ!?」

 

 パンクジャックはカウンターを喰らって吹き飛ばされる。

 

「……何を遊んでいる!」

 

 その様子を見かねたグレアは自分から動き出す。体に装着されたユニットを射出し遠隔攻撃をしつつ、身体能力を生かした格闘戦を試みる。

 

『ますます面白いね♪ 下手な個性持ち(ヒーロー)と戦うより楽しいね』

 

 だが仮面の男はそれを苦にせず捌く。

 グレアは本来デザイアグランプリにおいて不正を働いたライダーを排除するために使われるゲームマスター用装備。そのスペックはデザイアドライバーで変身するいかなるライダーよりも高く設定されており、そう簡単に手玉にとれるようなものでもない。

 

「っデザイアグランプリは世界を守るためのゲームだ! 貴様などに――乗っ取らせはしないッ!」

 

 ――DELETE...

 

 グレアは必殺技を発動、この状況を打開しようと試みる。 

 その威力は衝撃吸収も衝撃反転も通用しない強力な必殺技だ。

 

『おおっと! 危ない危ない』

 

 だが仮面の男はそれを超加速の個性を用いて躱し、グレアのベルトに手をかける。

 

『どれどれ、僕にもこれを使わせておくれよ♪』

「グッ……!」

 

 グレアはベルトを引きはがされ変身が解除される。衝撃でギロリは吹き飛ばされ無様に地面を転がっていく。

 

『さあて、手始めにこいつの解析を』

 

 ――MONSTER STRIKE!

 

 悠長にドライバーの解析を始める仮面の男。

 その油断が命取りとなる。

 

「――“背中に目をつける”個性でも使っておくべきだったね」

 

 パンクジャックの拳が仮面の男の背中に突き刺さる。

 

『……確かに、そんな個性があれば便利だったね』

「なっ……」

 

 しかし仮面の男は全くの無傷だった。

 なぜなら、攻撃を受けた箇所には()()()()()が防壁のように生み出されており、攻撃を見事に防いでいたのだ。

 

『でも、こういう個性だってあるんだぜ? 結構前に()()()()個性だけど、小回りが利いて使い勝手がいいんだ♪』

 

 氷のつぶてはパンクジャックへ牙を剥き、次々と命中しその体を吹き飛ばす。

 そうこうしているうちにドライバーの解析が完了し、仮面の男はヴィジョンドライバーを装着する。

 

『個性ストックを使っても変身者の設定を変えられないのは面倒だね。よくできているシステムだ』

 

 仮面の男は指先を注射器のように変化させギロリの体へ突き刺す。

 そして仮面を外して口を露出させる。

 

「っ……! 貴様、なんだその顔は」

 

 仮面の下には口以外の顔パーツを失ったのっぺらぼうの姿。まるで顔の上半分を失っているかのような姿だった。

 

『何、昔いろいろとあってね』

 

 仮面の男はギロリから採取した血を飲み込む。するとその体が泥のようなものに覆われ、ギロリと瓜二つに変化する。

 変身の個性で姿を変えた仮面の男はギロリにならってドライバーを起動する。

 

 ――GLARE : LOG IN

 

「ええ、とこうだっけ」

 

 ――INSTALL

 

 本来、変身の機能はゲームマスターとして承認された人間にのみ与えられる特権。第三者が不正に利用できないように生体認証でロックがかかっているのはそのためだ。

 しかし、こうして姿を借りてしまえば――いとも簡単にセキュリティは突破できるのだ。

 

「変身♪」

 

 ――DOMINATE A SYSTEM : GLARE

 

 仮面の男はグレアに変身、認証スイッチ――バイオメトリクサーを起動させ能力を発動する。

 

 ――HACKING ON ... CRACK START ...

 

 グレアの胸部ユニット――ヒュプノレイがパンクジャックに向けて射出される。

 

「えっ――っぐああああああっ!?」

 

 パンクジャックの頭部がヒュプノレイに置き換わり、()()が開始される。

 

「くっくっく……どうだい、ゲームマスター君? 世界を守るゲーム、だったっけ? 今からそのゲームを僕がめちゃくちゃにしてやるわけなんだが――今一体どんな気持ちだい?」

「……っあまり、図に乗るなよ」

 

 ギロリは強がるも、グレアによって気絶させられる。

 

「さあ! 始めようか――世界をめちゃくちゃにするゲームを!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――夏休み。

 

 多くの高校生が青春を謳歌する中、雄英高校ヒーロー科の面々は強化合宿へと赴いていた。

 和気あいあいと楽しくバスで合宿先に向かっている中、彼らに試練が訪れる。

 

「――合宿はもう始まっている」

 

 休憩所で下車させられたA組の面々は、土石流に巻き込まれうっそうと茂る森の中へ叩き落とされる。

 

「――私有地につき、個性の使用は自由よ!」

 

 崖の上から響く声は合宿の教官、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの一人、マンダレイ。

 A組が叩き落とされたのは通称“魔獣の森”、プッシーキャッツの一人、ピクシーボブの個性によって生み出された土魔獣が闊歩する恐ろしい森だ。

 

「やれやれ、やってくれたね……」

 

 エースは制服についた土埃を払いつつ、腰に身に着けたホルスターから銃型のサポートアイテムを引き抜く。

 合宿前、サポート科の発目より受け渡されたそれは彼女(?)専用のサポートアイテム。狐火のエネルギーを元に弾丸を生成する試作品だ。

 

「まさか狐火……これを見越してそれを?」

「ふふ……」

 

 クラスメイトの砂藤はエースの周到さを称賛し、彼女(?)は得意げに微笑んでいる。

 だがエースは決してこの出来事を予感していたわけではない。折角作ってもらえたオーダーメイド品のサポートアイテムを見せびらかしたくて装備していたのが、偶然功を奏しただけであった。

 

「さ、こんなところ、さっさと突破して鼻を明かしてあげようか――私たちを()()()()こと、後悔させてあげよう♪」

 

 エースは2丁のサポートガンを構え現れた土魔獣に相対する。

 

「――ぁ……」

 

 土魔獣を前に呆然とする峰田。彼の股間がジワリと濡れ始めてしまっていた。

 立ちションを試みた刹那のことであった。

 

「ミネタ、ご愁傷様……はっ!」

 

 エースは峰田の前に現れた土魔獣の頭部を撃ち抜いて撃退する。

 

「――っ!」

「――フルカウル!」

「――レシプロバーストッ!」

「――死ねぇっ!」

 

 それを皮切りに轟、緑谷、飯田、爆豪の四人も現れた土魔獣を撃退する。

 

「よーし! 私たちもやったろー! お昼抜きなんて嫌だしね!」

「ええ、でしたら――最短距離で突破を!」

 

 葉隠の奮起に触発され、他の面々もやる気を出す。八百万の指示のもと、彼らをフォーメーションのようなものを組み始める。

 

「よし! A組総員、行くぞッ!」

「「「オー!」」」

 

 委員長、飯田の号令で土魔獣との戦闘が開始される。

 各々が個性を生かし、土魔獣を撃破していく。

 

「ふふっ」

 

 そんな中、エースは悠々と歩みを進めながら土魔獣を撃ち抜いていく。

 まるで観客を魅了するかのような優雅さを秘めた動きに、クラスメイトは思わず見とれてしまう。

 

「すげー……体育祭の時も思ったけど、狐火も大概才能マンだよな……」

「ふふ♪ ありがと」

 

 エースは称賛され嬉しそうに微笑んでいる。

 

「さ、ここからが――ハイライトさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 さて、12時までの到着を決意したA組の面々。

 しかしながら彼らの実力はその決意を実現するには足りていなかった。

 

「……はぁ、はぁっ……」

 

 時刻は15時過ぎ。

 目標時刻を大幅に過ぎた到着となってしまっていた。

 

「ねこねこねこ! 思ってたよりお早い到着にゃん♪」

 

 疲弊した彼らを出迎えたのはピクシーボブ。

 彼女はあの手この手でA組に試練を与えていたが、それを難なく突破した彼らを心から称賛していた。

 

「……さ、3時間て嘘じゃないっすか」

 

 赤髪の少年、切島は倒れ込むようにして力尽きる。

 

「それ、()()()()()ってことね? 本当はもう少しかかると思ってたし、簡単に突破されるのも悔しいからちょ~と難しくしたけど♡」

 

 ピクシーボブの意地悪そうな表情にA組の面々は辟易した。

 

「特に、前衛で活躍していたそこの四人と――狐ちゃん。三年後が楽しみ~唾つけちゃお」

 

 物理的に唾つけをしようとするピクシーボブ、それに切れて殴りかかろうとするエースを羽交い絞めにして止める飯田。

 そんな中、緑谷はこの場に不釣り合いな子供に気づく。

 

「――あの、適齢期と言えば」

「と、言えばって?」

 

 緑谷はピクシーボブの殺気を受け流しつつ、子供を指差して尋ねる。

 

「あの子はどなたのお子さんですか?」

「――ああ、違うよ。あの子は私のいとこの子供」

 

 マンダレイは子供を手招きで呼び寄せる。

 

「洸汰、挨拶しな。これから一週間過ごすんだから」

「…………」

 

 洸汰はマンダレイに促されても終始無言で、じっと緑谷たちを睨み付けている。

 

「えっと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷、よろしくね」

 

 緑谷は険悪な態度を隠しもしない洸汰へ歩み寄り、にこやかに手を差し伸べる。

 どんな相手にも態度を変えず接する様はまさにヒーローの卵、純粋な彼の善意である。

 

「……!」

「はうっ……!」

 

 しかし、その好意を洸汰は無碍にした。

 唐突に拳を構えると緑谷の股間を殴りつけた。

 そこは全男性にとっての急所が備え付けられている部位、思い切り殴られて無事でいられるわけもなく、緑谷は悶絶しうずくまる。

 

「誰がお前らなんかとつるむかよ――っ」

 

 洸汰はそそくさと立ち去ろうとするも、凄まじい怒気を感じて身を竦ませる。

 

「――ばっかもん!」

「いてぇっ!」

 

 初対面の急所を殴った彼に拳骨が落ちる。

 洸汰の祖父、聖拳が姿を現し、無作法を鉄拳制裁で懲らしめる。

 

「いきなり他人様の股間を殴りおって! ちゃんと謝りなさい!」

「っ何すんだよじいちゃん!」

 

 洸汰は思い切り聖拳を睨み付けるも、拳で反抗するほど荒れてはいなかった。

 

「いいから謝りなさい」

「~~~~ふんっ!」

 

 謝れと言われて謝れるほど彼は素直ではなかった。洸汰は拗ねたように踵を返すと建物の中へ逃げていく。

 

「……まったく。誰に似たんだか……大丈夫かい緑の」

「あ、は、ハイ……」

 

 緑谷は悶絶しつつも受け答えができるレベルに意識が回復していた。

 

「――この人は私のおじにあたる人よ。格闘技の経験者だから、今回の合宿を手伝ってもらうの」

「うむ。出水 聖拳じゃ。みっちりしごいてやるから覚悟しておけよ~」

 

 高笑いする聖拳だったが、その拍子に腰に激痛が走り体を強張らせる。

 

「ちょおじさん大丈夫!?」

「あたた……油断しとった……」

 

 なんともしまらない自己紹介に、A組の面々は一気に不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 1日目の日程はつつがなく進み、夜の入浴時間となる。

 

「――まあ、ぶっちゃけ飯とかはどうでもいいんすよ」

 

 露天風呂に皆がテンションを上げる中、一人よこしまな考えを抱くのは峰田。

 

「重要なのはこの壁、壁の向こうの世界……!」

「み、峰田君まさか……」

 

 男女の風呂場を仕切る壁、峰田はそこを前にして一人その向こうの世界を思い描く。

 きっとむさくるしい男風呂とは全く違う、華やかな桃源郷が広がっていることだろう。

 他の野郎どもも峰田のやろうとしていることに気づき、僅かに期待してしまっていた。

 

「今日日、男女の入浴時間をずらさないのは事故……そう、事故なんすよ」

「おいおい……本気か?」

 

 上鳴もまた覗きはやぶさかではない健全なチャラ男、思わず前のめりになるも、失敗した時のリスクを考えやや及び腰だ。

 

「なっやめたまえ峰田君! それは己も女性陣も貶める――」

「やかましいんすよ」

 

 諫めてくれた飯田を穏やかな表情で一蹴する峰田。菩薩のようでいて、その実煩悩にまみれた最低な表情であった。

 

「それに、気にならないんすか? 性別不詳な狐火の体がどうなっているのか」

「うっ……」

 

 飯田は己の好奇心を刺激されて押し黙ってしまう。

 確かに、性別不詳な体がどうなっているのかは誰もが気になるところ。果たして()()()()()()()、それともついていないのか。体つきは男性と女性、どちらに近いのか、そもそも同じ身体的な構造になっているのか、否か。

 

「あっ……それならエースさん、さっき一人だけ専用のお風呂だって言って拗ねてたよ」

「やかましいんすよ」

 

 口実を破ってきた緑谷に峰田は静かに中指を突き立てた。

 

「壁とは――超えるためにある! うおおおおおおプルスウルトラ!」

 

 だがそんな峰田の下衆なたくらみは、洸汰少年のファインプレーによって阻止されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――合宿2日目、夜。

 

 1日目のゲスト対応とは違い、二日目は超が付くほどのスパルタ仕様。

 個性強化訓練で死ぬほど疲れている中、彼らは夕食を自炊せねばならなくなったのだった。

 

「――みんな! おいしいカレーライスを作ろう!」

 

 そんな中、委員長の飯田は自炊の意図を()()()に解釈し、率先して炊事の指揮を執った。

 

「――お、おい! 誰か狐火を見張ってくれ! なんにでも砂糖入れようとしてやがるッ!」

「別にいいじゃない。甘い方がおいしいし」

「ダメだ! こいつバカ舌だ!」

 

 超がつくほどの甘党なエースと調理班のバトルが勃発するも、それなりにおいしいカレーが完成する。

 自炊補正で皆が感動しながらカレーを頬張る中、緑谷は洸汰が一人姿を消したことに気づく。

 

「――あ”? 何チョコレート入れてんだカレーの味がぼやけんだろっ!?」

「――知らないのかい? 隠し味にチョコレートは最適なんだよ」

「――にしても限度があるわっ! 入れ過ぎなんだよクソがッ!」

 

 緑谷は勃発したエースと爆豪の喧嘩を仲裁しようか迷いつつも、足跡をたどって洸汰を追いかける。

 たどり着いたのは裏山の洞窟。

 人の気配はなく、一人になりたいときには最適なスポットだろう。

 洸汰は洞窟の前に座り込み、腹の虫を泣かせていた。

 

「――お腹、すいてない? これ食べなよ」

「ッ! なんでここが!?」

「ご、ごめん……足跡をたどって。ご飯いらないのかなって」

「……いらねぇよ。俺はお前らとはつるまん」

 

 年不相応な物言いに緑谷は冷や汗をかく。

 

「だから俺の“ひみつきち”から出てけ」

「……」

「なんなんだよ、お前ら……個性を伸ばすって張り切って。気味が悪い。そんなに力をひけらかしたいかよ」

「ッ」

 

 緑谷は指摘されて思わず息を呑む。

 

「……少なくとも、僕は力をひけらかしたいから、ってワケじゃないよ」

「……だったら、なんでだよ」

「“世界を変えるため”、だよ」

「は?」

 

 緑谷の言葉が理解できず、洸汰は目つきを鋭くする。

 

「僕さ、ずっと無個性……ッだと思ってたんだ」

 

 継承した個性(ワン・フォー・オール)のことを言うわけにもいかず、緑谷は曖昧な言葉でお茶を濁す。

 

「何にもできない、出来損ないだ、って言われて……ほんとその通りで、先生だって助けられなくてさ……ッだから、その、頑張って体鍛えて、そしたら個性に目覚めて」

 

 緑谷は自分の転機がデザイアグランプリに関わっていることを思い出し、言葉を詰まらせる。事細かに語ってしまえばルールに抵触してしまう。

 言葉に迷っているうちに洸汰は機嫌を損ねてしまったようでそっぽを向く。

 

「答えになってねえよ。作り話ならよそでやれよ」

「い、いや違うよ! これ本当の話で……!」

 

 これ以上の対話が難しいと思った緑谷は引き下がることにした。

 

「ご、ごめんね……とりとめもないことしか言えなくて。カレー、ここに置いとくね」

「……とっとと失せろよ」

 

 どこまでも険悪な洸汰に緑谷は苦笑しつつ、去り際に一つ尋ねた。

 

「もし、もし仮に、だよ。“勝ったら自分の願いが叶うゲーム”、があったら、君はどうする……?」

「……どうもしない」

「そ、そう……だよね。ごめん」

 

 5歳の子供の心すら開けなかった緑谷は、大人しく退散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――合宿3日目、夜。

 

 辛いばかりが合宿ではない。飴と鞭、辛いことの後にはきちんとお楽しみも用意されていた。

 A組B組対抗の肝試し。各々が鍛え上げた個性を用いて互いに驚かし合い、より相手を驚かせた方が勝利となる。

 

「――お、俺達にもアメを! さ、サルミアッキもいいからアメを」

「サルミアッキ美味いだろ」

 

 なお、実技試験で赤点を取っていた者達は相澤によって連行されアメすら奪われてしまっていた。

 

「――うふふ。よろしくお願いいたしますわね、緑谷さん」

「あっよ、よろしく……八百万さん」

 

 先行はB組、彼らは一足先に森の中へ潜伏し準備を進めている。

 A組は共にコースをめぐるパートナーを決めるくじを引き、一喜一憂していた。

 緑谷はクラス一のナイスバディの八百万とペア組むこととなり、他の男子(主に峰田)から羨望のまなざしを向けられていた。

 

「み、緑谷ぁ……いくらだ? いくらでそのくじ売ってくれる?」

「あ、そういうのは無しにゃん♪ 自分のくじ運を恨むことね」

 

 峰田は煩悩丸出しで緑谷へと縋りつくも、ピクシーボブによって猫掴みされ連行されていく。

 

「……ちぇ」

 

 八百万とペアを変わってもらおうとしていた葉隠は、小さくため息をついているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 こうして始まった肝試し大会は大いに盛り上がりを見せていた。

 

「――み、緑谷……っ! 思い出したら笑いがっ――かかっ!」

「ほ、骨抜。笑い過ぎたら悪いって……ふふふっ」

 

 驚かせにかかっていたのは骨抜、拳藤、小大の3名。先ほど通過した緑谷の驚きっぷりがとてもコミカルで思い出し笑いをしてしまっていた。

 

「……二人とも、次」

「お、おう……くくっ」

 

 骨抜が次なる通過者を驚かせようと準備にかかった時だった。

 

 ――赤い有刺鉄線のような壁が出現する。

 

 それは合宿所全体を覆うように広がっていった。

 

「ん? あの壁……っ!」

「あれって、もしかしてUSJ事件の時の?」

「ん!」

 

 それはジャマーエリアを仕切る壁だった。

 彼らは先日のUSJ事件でそれを体感しており、即座に異変が起こったことに気づく。

 

「ジャ……」

 

 そして現れたのはジャマト。黒いボディスーツのようなものに刀のような武器を構えている。

 

「逃げるぞッ!」

 

 未知の生物相手に二度も不覚を取るほど雄英生は甘くない。骨抜は即座に個性を発動し地面を軟化、ジャマトの足場を奪う。

 

「ジャァ……」

 

 彼らの知るジャマトは遠距離攻撃の手段を持たず、かつ命を狙ってくる危険な生物ではなかった。

 それゆえに油断をしてしまっていた。

 

「っなに……からだ、しびれ」

「ん……!」

 

 拳藤と小大は苦しそうに胸を押さえる。骨抜もまた同じようにしびれを感じていたが、二人に肩を貸しつつ逃げようともがく。

 

「……オ、ネエ、サマ」

 

 ジャマトのうち一体は言葉を発しつつ、口から()()()()()()を吐き出している。それこそが彼らの不調の原因だった。

 

「……ジャ」

 

 柔くなった地面を突破したジャマトの1体が刀を振り上げて迫る。

 

「くっ――この!」

 

 拳藤は歯を食いしばり、拳を巨大化させてジャマトを殴りつける。

 質量は威力に直結する。たとえ痺れた体の一撃とて巨大化した拳は相当な打撃力を生んでいた。

 加えて合宿中に受けた空手の手ほどき。

 彼女の全体重が乗った拳はジャマトすら撃退できるほどの威力を秘めていた。

 

「……ジャ、ゴ、メン」

「えっ……」

 

 しかし、ジャマトはびくともしていない。まるでその体が()()()()()で出来ているかのようだった。

 

「オ、レノ、セ、イデ……」

「拳藤っ!」

 

 骨抜は咄嗟に拳藤を突き飛ばし、振り下ろされる刀から庇う。

 しかし少なからず重傷を負ってしまう。

 

「っ骨抜!」

 

 噴き出した血の量は、傷が致命傷であることを物語っていた。

 

「っ……せめて」

「ジャッ!?」

 

 骨抜はせめて級友を逃がそうとジャマトへしがみつき、個性で地面を軟化させ一緒に沈み込む。

 

「ほね、ぬき……っ!」

 

 絶望する彼女の前に現れたのはオレンジのクマのような被り物をしたライダー――パンクジャック。

 

「っクマのやつ! 助けてっ! 今クラスメイトが……っ!」

 

 助けが来たと希望を取り戻す拳藤だったが、すぐさま絶望の底へと叩き落とされる。

 パンクジャックが手にしていたのは彼女の級友――鉄哲と塩崎の二人。彼らは頭からおびただしい量の血を流しており、相当痛めつけられたのが見て取れる。

 

「っそん、な……」

 

 意識が途切れる刹那、彼女が見たのは、クマの仮面の奥で怪しく輝く赤の仮面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

(なっ! こんな時に――!)

 

 緑谷は出現したジャマーエリアの壁を見て怒りに似た感情を抱いていた。

 

「? B組の方の個性かしら」

 

 何も知らない八百万は、一瞬見えた赤い有刺鉄線のようなものを不思議そうに眺めていた。

 

(――っでも、なんで通知が来ないんだ!?)

 

 緑谷はスパイダーフォンを確認するも、そこに通知は来ていない。

 しかし画面上では確かにジャマーエリアの見取り図が表示されており、ゲームが始まっていることは確かだ。

 

 ――『――俺の“ひみつきち”から出てけ』

 

 その時、頭に浮かぶのは昨日のやり取りだ。

 エリアの見取り図を見れば、ギリギリ洸汰少年のひみつきちがエリア内に含まれていた。

 

「――緑谷さん?」

「っ!」

 

 突如、普段使っていないスマホとにらめっこを始めた緑谷を八百万が怪訝な目で見つめていることに気づく。

 

「あ、ご、ごめん……」

 

 緑谷はどうにか誤魔化しつつスパイダーフォンをポケットにしまい込む。

 

(そういえば、洸汰くん……今日もいなかったから、ひみつきちにいる――っ!)

 

 ひみつきちのことを知っているのは洸汰本人と緑谷のみ。

 もし本当にデザグラが開催されており、ジャマトが現れたとしたら――洸汰少年はなす術もなくジャマトに殺されてしまうだろう。

 

(僕たちの前……エースさんだ。だったら――)

 

 隣の級友か、それともか弱い少年か。

 どちらも守りたい大切な存在だ。しかし気が付けば緑谷の体は動いていた。

 

「ごめん八百万さんッ!」

「あっ! どこへ行くんですのっ!?」

 

 緑谷はデザイアドライバーを装着しつつ、洸汰のひみつきちへと駆けだしていた。

 ――だが、ドライバーを出した拍子に、マグナムバックルを落としてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















……平和な合宿になると言ったな、あれは嘘だ。
と、言うことで合宿中にデザグラが勃発してしまいました。あれ、でもゲーマス……あれれ? これは正規のデザグラなのでしょうか?
どうなる次回!?
※筆が加速したら今日中、もしくは明日投稿します。
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