【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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ギーツ最新話……景和を唯一支持していたと思われるサポーターが登場しましたね。彼(?)は一体何者なのか、気になりますね。
そしてナッジスパロウ……さてはオメー、デザスターだな? もしそうでなくて退場しなかったとしても、大きく支持率を下げそうですね。

そして本作は新章突入です。サブタイからお察しいただけるかと思いますが、もう少しだけ暗い展開が続きます。
ですが、“逆境”の通り、こんな状況からどう勝ち残っていくのかを見ていただければと思います!


























逆境編
26 逆境Ⅰ/象徴の崩壊


――――

――

 

 ――十二年前。

 

 名無しの狐は飢えていた。

 目覚めてから口にしたものは恩人からもらった甘い水だけ。

 長い時間休眠していた体には到底栄養が足りていなかった。

 

『……っ』

 

 食べることのできる物を探し名無しの狐は体をひきずるようにして山を下る。

 時折登山客とすれ違ったが、彼らは明らかに“訳アリ”な狐を見るや否や目も合わせぬようにして過ぎ去っていく。

 そんな仕打ちなど狐にとっては日常茶飯事、罵声を浴びせられないだけマシというものだ。

 

『ぇ……?』

 

 山を下った名無しの狐は、眼前に広がる景色に度肝を抜かれた。

 自然と決別したかのような石造りの建物群。地面は小石が敷き詰められているようで、その実歩きやすいよう平らに舗装されている。

 空気はどこか澱んでいて一息吸うごとに気分が悪くなる。

 

『っ』

 

 そんな空気の中、少しだけ嗅ぎ慣れた香り――線香の香りが漂ってくる。

 視線を左右に探れば、そこには寺のような建造物があった。どうやら土地がどれだけ変化しても寺は変わらずに存在しているようだ。

 寺の前には鏡のように輝く長方形の石がずらりと並べられている。文字が彫られていたが、狐にはなんと書いてあるのか理解できなかった。

 

『――よし』

『っ!』

 

 人の気配に狐は咄嗟に身を隠した。

 桶と花を持った男がこちらに向かって歩いて来ていた。無地のTシャツにジーンズ、サングラスをかけ頭はオールバックで口元には見事な髭を蓄えている。左耳には簡素な耳飾りをつけており、人相も相まって威圧感のある風体だった。

 男は石の前の一つにたどり着くと供えられていた花を交換すると石に水をかけ始める。

 

『……もう、4年になるのか。早ぇもんだな……』

 

 男は一人、つぶやいている。

 水をかけて拭き終えると、彼は鞄の中からおにぎりを取り出し供える。

 

『――ぁっ』

 

 狐は思わず声を出していた。途端に腹の虫が主張を始める。幸いにも距離が開いていたおかげで男に腹の音は聞かれていなかったようだ。

 欲しい。どうしようもなく食料が欲しかった。

 だが男はおにぎりを供えた後は手を合わせたままじっと動かなくなる。

 

『……っ』

 

 狐は石の裏に突き刺してあった平たい棒を引き抜くと気配を殺しながら男に近づく。

 きっと話しかけたら気味が悪いと追いやられる。お前にやるものは無いと暴力を振るわれる。

 かつての経験から、狐は“誰かから奪う”というやり方しか知らなかった。

 

『――ん?』

『――ッッ!』

『あいたッ!』

 

 男が気配に振り向こうとした瞬間、狐は棒を思い切り振り抜く。

 軽い音が鳴ると男はもんどりを打って倒れてしまう。倒れた拍子にサングラスが外れ、切れ長で鋭い瞳が顔をのぞかせる。

 

『――あっ……んむ、っ……!』

 

 狐は供えられていたおにぎりを夢中になって口へ押し込む。

 一体いつぶりだろうか。まともな食事に狐は涙を流していた。

 

『ってて……なんだってんだよ』

 

 男は打たれた頭をさすりながら起き上がる。弱り切った体では男を気絶させることは敵わなかったのだ。

 

『――っ! あ?』

『ッ! あ、ああ……』

 

 男と目が合う。狐はかつての経験から体を竦ませ、すぐさま逃げ出そうとするも、体は目の前の食料を前に動きたくないと強張ってしまう。

 

『いきなり人の頭をなぐんじゃねぇよっ! そんなに喰いたかったなら一言そういいやがれってんだ!』

『……っ! んっ……!』

 

 てっきり痛めつけられるものと思っていた狐は予想外の言葉に戸惑ってしまう。

 

『あーあー米粒まみれになっちまって。どうした? 父ちゃんと母ちゃんは?』

 

 強面に似合わずお節介なのか、男は狐に問いかける。

 狐は静かに首を振った。

 

『……そうか。お前()一人なのか』

 

 男はため息をつきつつ、外れて落ちていたサングラスを拾い上げる。

 

『……行く当てがないなら、うち来るか? おにぎりだって腹いっぱい食わせてやるぜ』

 

 彼はサングラスを襟元に掛けつつ笑いかける。

 狐は人生で一度も見たことのない“愛のこもったまなざし”に涙があふれ出す。

 

『……っ』

 

 狐は静かに首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 デザイアグランプリ。それは勝者が“理想の世界”を叶えることのできるゲーム。

 異変を見せていた前回のゲームは唐突に終わり、何者かが“デザ神”となって幕を閉じていた。

 

「――っ!」

 

 緑谷は自分の部屋で目を覚ます。

 

「あ、あれ……さっきまで、強化合宿……って、夢か」

 

 内容の思い出せない妙にリアルな夢に彼は冷や汗をかきつつ、安堵の息をつく。

 

「――おめでとうございます」

「わっ!」

 

 突如部屋に現れた女性――ツムリに緑谷は腰を抜かす。

 

「貴方は前回のゲームで優秀な成績を残されました。よって()()()()()()()()により仮面ライダーに選ばれました」

「仮面……?」

 

 開かれているボックス、その中に収められていたIDコアに触れる。

 

「っ――どうなってるんですかッ!? 前回の最後、あんなのゲームでもなんでもないじゃないですかっ!」

 

 全てを思い出した緑谷はツムリにつかみかかる。

 

「……前シーズンは“デザ神なし”で幕を閉じました。ですのでファイナリストの緑谷 出久様には優先エントリー権が与えられているのです」

 

 ツムリはどこか悲しそうに眼を伏せつつも、ナビゲーターとして毅然と対応する。

 

「っふざけるなよ……僕たち、ルールもわからないまま戦わされたんだぞッ! それに……あの個性を持ったジャマトは何なんだよッ!?」

「……お答えできかねます」

 

 疑問をぶつけた緑谷だったが、悔しそうなツムリの表情に冷静さを取り戻す。

 

「……それでは、第一回戦の開始まで、今しばらくお待ちください」

 

 ツムリが姿を消したあと、緑谷は一人頭を抱えた。

 

(落ち着け……! ツムリさんのあの表情、きっと運営側で何かトラブルがあったんだよ。だからあんな“イレギュラーな”ゲームになっていたわけで)

 

 小声で分析しつつ、同時に渡されたスパイダーフォンを取り出し参加者を確認する。

 

「……あれ?」

 

 緑谷は一覧表をスクロールしつつ冷や汗をかく。

 

 ――仮面ライダーバッファ、牛込 茜。

 ――仮面ライダーケイロウ、出水 聖拳。

 ――仮面ライダー……

 

 なじみのある参加者――優先エントリー権によって参加したであろう顔なじみの名はあったが、肝心の二人――仮面ライダーギーツ、狐火 エースと仮面ライダーナーゴ、葉隠 透の名前が一向に見つからないのだ。

 

(まだエントリーしていない? いやだとしたらこの“承諾待ち”の所に名前があるはずだ)

 

 ドライバーの配布段階だからなのかリストは二種類に分けられており、参加予定者はリストの最後に名前が記されていた。

 しかしそこにも名前が記されていない、考えられる原因は一つだった。

 

「っまさか……!」

 

 緑谷は己の結論が間違っていて欲しいと思いつつ、それ以外に可能性は無いと理性が結論付ける。

 

「エースさんも、葉隠さんも……退場した……?」

 

 前回の最終戦は何もかもイレギュラーだった。

 つまり、誰かしら不覚を取っていてもおかしくはないのだ。

 

 ――♪

 

 絶望感に頭を抱える緑谷をよそに、スパイダーフォンが通知音を鳴らす。それは新たな参加者がエントリー表明をしたことを告げる通知音だった。

 

「……え?」

 

 表示されている名前に緑谷は呆然とする。

 

 ――仮面ライダーロポ、八百万 百。

 

(どうして八百万さんが……? 偶然にしちゃ出来過ぎてる)

 

 いくら世間が狭いとはいえ、知り合いが偶然新規にエントリーすることなど考えにくい。

 話を聞こうと、緑谷はスマホを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 緑谷は勉強会以来ぶりの八百万家の訪問だった。

 並外れて広い家に前回は家柄の違いを叩きつけられた思いだったが、今はそんなことに怖気づいている余裕はなかった。

 

「……お待ちしておりましたわ。緑谷さん」

 

 出迎えた八百万は普段と違い髪を下ろし、ラフな私服姿だった。

 緑谷は案内されるがままに離れへ向かう。

 

「エースさん……! っよかった」

 

 その一室ではエースが大きなベッドで眠りについていた。

 

「わたくしも思い出したばかりなのですが……彼女、強化合宿で受けた傷が治り切っていないようなのですわ」

「……そう、だったんだ」

 

 緑谷はエースの無事に安堵しつつも、葉隠の所在が知れぬことに不安を覚える。

 

「っ葉隠さんは……? 一緒に、いるん、だよね……?」

「っ! それは、その……」

 

 希望を込めた彼の言葉に八百万は顔を伏せる。

 

「――退場したわ」

 

 割って入ってきたのは牛込。彼女はどこかで買い物をしてきていたのか、買い物袋を携えている。

「……あんた、気づいてなかったのね。あんな状況だけど、通知自体は入ってたのに」

「っ嘘、だろ……葉隠さんが、退場……?」

 

 緑谷はがくりと膝をつく。

 デザイアグランプリでは年も近く、共に戦ってきた戦友。雄英高校に入学してからはつかず離れずの距離感だった仲のいい友人。近頃では一緒にいると胸が高鳴ることもあった。

 ずっと、一緒にいられると思っていた。

 まさかこんな形で別れることになろうとは思ってもいなかった。

 

「ま、退場しちゃった方が気が楽だったかもしれないわね」

 

 牛込は部屋に備え付けられていた小さなテレビの電源を入れる。

 

『――ジャマト出現情報です――』

 

 テレビではジャマトによる街の被害状況をニュースキャスターが伝えていた。

 チャンネルを変えれば、今度は今日殉職したヒーローの情報。他のチャンネルは避難所の情報と避難の呼びかけをしている。

 

「なんで……?」

「……デザ神なしって話だけど、ホントかしらね。誰かが“ジャマトが知れ渡った世界”を願ったとしか思えないわ」

 

 牛込は呆れたようにため息をついている。

 

「一般市民には避難勧告が出ていますわ。ですが……わたくしたちが避難所へ行けば正体が割れてしまいます」

「……っそうだよ! どうして――どうして八百万さんが選ばれたの?」

「話せば少し長くなるのですが――」

 

 八百万はなぜ自分がライダーとして選ばれたのかを語り始める。

 合宿中ジャマトに襲われたこと。その際エースが変身して戦い守ってくれたこと。戦闘の最中、バックルが外れて変身が解除されてしまったこと。

 

(あのバックル……エースさんの意志じゃなかったのか……)

 

 緑谷はエースが負傷する遠因となってしまい負い目を感じた。

 

「――わたくしは狐火さんのIDコアに触れて、思い出したのです。以前、怪しげな女性からドライバーを渡されたことを」

「そうか、八百万さんも前に参加してたんだ」

「いいえ。参加はできませんでしたわ」

「……え?」

 

 緑谷は疑問符を浮かべる。

 ドライバーとIDコアを渡されれば、それは仮面ライダーへの片道切符だ。受け取りを拒否することなどできないはずだ。

 

「父がドライバーを奪って、わたくしはその記憶を失くしましたわ。そしてこの前、父から渡された小箱の中に、IDコアが入っていました」

「……それってさ、あんたの父親がデザグラに関わってるってことかしら?」

 

 牛込の指摘に八百万は頷く。

 

「ええ……おそらく。ですが、この状況になってから連絡が取れないのですわ」

「……そ」

 

 緑谷は話を整理する。

 八百万の父はデザグラに何らかの関りがあり、ある程度参加者について干渉ができる。

 そして前の世界で何らかの異変を察知していた彼は、娘にIDコアを渡して万が一の事態に対応しようとしていた。

 

「――重傷を負ってしまった狐火さんの代わりに、わたくしが変身して戦いましたわ。その戦いの最中、鐘の音が聞こえて」

「そうか、前回のファイナリストが優先エントリー権を持ってるから……エースさんの代わりに八百万さんが」

 

 本来、優先エントリー権はエースが有していた。しかしゲーム終了時に彼(?)のIDコアはドライバーに装填されておらず、未エントリーの扱いだった。

 代わりにIDコアが装填されていた八百万が優先エントリーされた、といった次第である。

 

『――神野区から中継です』

 

 テレビでは今もジャマトに関する情報を報じていた。

 

「……ま、戦力としては今一つよね。悔しいけど、ギーツの方がよほど頼りになるわ」

「ちょっ牛込さん!」

 

 事実ではあったが、緑谷は八百万を気遣って牛込をたしなめる。

 

『――っオールマイトです! オールマイトが現れましたっ!』

「「「っ!?」」」

 

 三人は一斉にテレビに注目する。

 映像の奥では崩壊した建物と、何者かと対峙するオールマイトの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――神野区。

 

 オールマイトは崩壊した建物の跡地に降り立ち、現れた宿敵と相対していた。

 

「――まさか、生きていたとは――オール・フォー・ワンッ!」

『久しぶりだね、オールマイト。僕が抉ってやった腹の具合はどうだい?』

 

 仮面の男――オール・フォー・ワンは腰にヴィジョンドライバーを装着した状態で姿を現す。

 

「……5年前と同じ過ちはしないぞ――今度こそ貴様を刑務所へぶち込み、この事態を収束させるッ!」

 

 短期決戦。

 お互いに満身創痍、ならば一気に畳みかけ、最小限の被害で戦いを終わらせる。

 オールマイトは大きく踏み込みオール・フォー・ワンとの距離を詰める。

 

『残念♪ ジャマトは僕が作り出したモノじゃァない。僕を捕まえたってなにも変わらないよ』

「だが貴様がいなくなれば、少なくともジャマトは“個性”を使えなくなるだろう!?」

 

 右ストレートが当たる直前、オールマイトは何者かによってわき腹を殴られてしまう。

 

「……」

 

 無機質な紫の仮面に赤の瞳、ヒロイックな装甲を纏った人物――パンクジャック。

 彼は未だに操られており、オールマイトの事を妨害したのだ。

 

『それも不正解さ、オールマイト。ジャマトは進化する生物――彼らも僕たちのように個性を獲得しただけさ』

 

 オールマイトとパンクジャックの戦いを楽しそうに眺めつつ、オール・フォー・ワンはその姿を変化させる。

 

「君の作り出した平和な世界は、ジャマトによって破壊されるのさ♪」

 

 ――GLARE : LOG IN

 

「できれば君を生かして、この世界が滅びるさまを共に観賞したかったが――残念だよ」

 

 ギロリの姿となったオール・フォー・ワンはドライバーを起動させプロビデンスカードを取り出す。

 

「変身」

 

 ――INSTALL...

 

「なっ……!」

 

 ――DOMINATE A SYSTEM : GLARE

 

 オールマイトは変身した宿敵を見て驚愕するも、即座に意識を切り替える。

 

「いいだろう? 僕も男だからね。年甲斐もなくはしゃいでるよ」

「御大層な姿だが――その姿じゃ自慢の個性は使えないんじゃないか!?」

 

 グレアはオールマイトのスマッシュを軽々と受け止める。

 

「そうだね。攻撃系の個性は使えないよ。でも――君を殺すのにもはや個性は必要ないんだよ」

 

 と、グレアが手をかざすと空間に靄が出現し、二人の人間が姿を現す。

 どこにでもいそうな一般人で、訳も分からず辺りを見回している。

 

「おめでとう! 君たちは今から“仮面ライダー”さ!」

「へっ?」

「か、仮面……?」

 

 二人の一般人はグレアによってドライバーを装着させられ、エントリーフォームへ変身させられてしまう。

 

「待て――っ!」

 

 オールマイトはたくらみを阻止しようとするも、パンクジャックの妨害にあってしまう。

 

「そして君たちのミッションは――オールマイトの()()さ!」

 

 ――HACKING ON ... CRACK START ...

 

 グレアの両肩に装着されたユニットが放出され、二人のライダーの頭部に装着される。

 

 

「「――――ッ!」」

 

 二人のライダーはいとも簡単に乗っ取られ、それぞれ操られるがままにバックルを取り出し装填、起動させる。

 

 ――ARMED CHAIN-ARRAY

 ――ARMED ARROW

 

 それぞれチェーンアレイ、ボウガンを手にオールマイトへ攻撃を仕掛ける。

 

「おいおい! ド派手に戦って大丈夫かい? ()()()罪なき一般人だぜ?」

「っ!」

 

 洗脳されているライダーはオール・フォー・ワンによって呼び寄せられた一般人。力いっぱい戦ってしまえば彼らを傷つけかねない。

 オールマイトが躊躇った隙をついてチェーンアレイのライダーはオールマイトに鎖を巻き付ける。

 

「アァ……」

 

 ――MONSTER STRIKE!

 

 身動きが取れなくなっていたオールマイトに向けてパンクジャックが必殺技を放つ。

 

「ッ!」

 

 ――DETROIT SMASH!!

 

 オールマイトは一瞬だけマッスルフォームを解除することで拘束を突破、すぐさま拳を構えて必殺技を迎え撃つ。

 右腕一本で天候を変えるとも言われているオールマイトの右ストレートはパンクジャックの必殺技を真っ向から迎え撃ち、逆に返り討ちにしてしまう。

 

「――っ!」

 

 パンクジャック――物間の変身が解除され、その場に倒れ込む。ベルトのIDコアには罅が入ってしまっている。

 

「っ……なんで、オールマイト……?」

 

 物間は絶望しきった表情でオールマイトを見つめる。

 普段は嫌味ったらしい言動が目立つ彼も本当は16歳の少年である。憧れのNo.1ヒーローが助けてくれなかったという事実は相当彼の心に響いていた。

 

「どうして……たすけてくれなかったんだよ……ッ!」

 

 ――MISSION FAILED...

 

 物間の体が消滅してしまう。

 洗脳されて戦わされた上に退場させられるという、なんとも救いのない最期だった。

 

「……まさか」

「あーあ、可哀想に……どうして助けてあげなかったんだい?」

 

 オールマイトは鋭い瞳をグレアに向ける。

 

「彼は、お前の仲間ではなかったというのか……ッ!」

「そんな目で見るなよ。僕が目の前でデモンストレーションしてあげたのに、気づかなかったのはお前だろ? 平和の象徴(オールマイト)!」

 

 グレアは心底楽しそうに高笑いをしている。

 憎き正義の味方に、何の罪もない少年を殺害(たいじょう)させることが出来たのだ。

 オールマイトにとっては屈辱以外の何物でもないだろう。

 

「あれ? 笑顔はどうした?」

 

 凍り付いた表情のオールマイト相手に、グレアはここぞとばかりに煽り倒す。

 まるで数年分の恨みつらみをまとめて晴らそうとしているかのようだ。

 

「……貴様っ!」

「ああそうそう。今となってはどうでもいいことだけどね。死柄木 弔を覚えているかい?」

「……雄英高校を襲撃した主犯か?」

 

 すぐさま殴り倒そうとする衝動を、オールマイトは必死に押さえつける。

 以前、オール・フォー・ワンと対決した際、相手の口車に逆上した結果が腹に開けられた傷である。

 このまま逆上して攻撃を仕掛ければ二の轍を踏んでしまう。

 

「彼ね――志村 菜奈の孫なんだよね」

「――ッ!」

 

 衝撃の事実を突きつけられオールマイトは目の前が真っ暗になったように錯覚した。

 敬愛する師匠の親族を逮捕し、そのことに気づかずただの1ヴィランとして対処してしまっていた。

 そのことは彼の心を大きく傷つけた。

 

「ずぅっと、君の嫌がることを考えてきた」

「っ! この――Oklahoma――」

 

 バイザーを赤く発行させながらつかみかかってきたライダーを振り払おうと構えるオールマイト。

 

「いいのかい? やりすぎればさっきの彼みたいになってしまうよ?」

「ッ! ならば――」

「僕だってそのドライバーの耐久力はよくわかっていなくてね。無駄な抵抗はしないことをお勧めするよ」

「グッ……この――」

 

 ライダーの耐久力はその実、明確にはわかっていない。

 同じ攻撃を受けても無事であることもあれば、致命傷に至ってしまうこともある。

 もし仮に、オールマイトが振り払うために攻撃を仕掛けたとして、それが致命傷になる可能性は否定できないのである。

 

「でも――彼らが死ぬことは変わりないけどね?」

「な――ッ」

 

 ライダーのバイザーが一際赤く発光する。

 何が起こるか察したオールマイトは咄嗟に技を放ち振り払うも、少しだけ間に合わなかった。

 二人のライダーは自爆攻撃を強制させられ、オールマイトを傷つけたのだ。

 

「はぁっ……っ」

 

 攻撃そのものはオールマイトにとって大きな痛手ではなかった。

 罪なき一般人を爆弾として特攻させ、救えないままに命を散らされるという行為は彼の精神を大きく消耗させる。

 そして、小さなダメージも積もっていけば手痛い一撃となる。

 

「それが、本当の姿(トゥルーフォーム)ってことかい?」

「…………っ!」

 

 度重なる攻撃はオールマイトの活動可能時間を大きく削り、しぼみ切った真の姿(トゥルーフォーム)をさらけ出させてしまう。

 

「ろくに人助けもできず、宿敵さえ満足に斃しきれない――得たのはかりそめの平和だけ!」

 

 グレアはそんなオールマイトをあざ笑うとプロビデンスカードを取り出し、再びベルトへ読み込ませる。

 

「その惨めな姿をさらけ出して――死ぬといい」

 

 ――DELETE...

 

「――勝って! オールマイトッ!」

 

 どこからか声援が聞こえてくる。

 その声は次第に大きくなり、大合唱のようにオールマイトの勝利を祈り響き渡る。

 

「……かりそめなんかじゃないっ! この平和は――私が守り抜くんだよッ!」

 

 しぼんでしまったオールマイトの右腕が再び膨れ上がり、マッスルフォームへと変貌する。

 片腕だけの発動、それは彼の中に残る個性の残り火がわずかになってしまった証だ。

 

 ――UNITED STATES OF SMASH !!!!

 

 渾身の一撃。

 個性(ワン・フォー・オール)の残り火を全て注ぎ込んで繰り出した右ストレートは、グレアの必殺技を軽々と打ち破り、その変身を解除させ大きく吹き飛ばす。

 

「……っ!」

 

 拳を振り抜いたオールマイトは動かない、いや動けない。

 醜い薄紫色に変色した拳を構えたまま、その身を残心させている。

 

「……はぁっ……っ」

 

 やがて、オールマイトは地面に落ちていたヴィジョンドライバーに気づき、それを拾い上げる。

 

「――うっ!」

 

 呆然とそれを見つめていると、オールマイトの胸を何か鋭い槍のようなものが貫く。

 

「――おめでとう! まさかダメージを受けすぎて変身が解除されるとは思ってもいなかったよ!」

 

 その根元はオール・フォー・ワンの指先。

 槍は静かに引き抜かれ、オールマイトは静かに膝をつく。

 

「でもね、君が苦労して変身解除させたそれは――僕の装備の一つ。本体はこの通り、無事なのさ!」

「……ッ!」

 

 もはやオールマイトに戦う力は残されていなかった。

 悠然と迫ってくるオール・フォー・ワンを前になす術もなかった。

 ヴィジョンドライバーが彼の手から滑り落ちる。胸に空いてしまった穴に触れ、自分がここまでであることを悟ってしまう。

 

「……私は死なないぞ。オール・フォー・ワン」

「負け惜しみだね。それとも――()()()に期待しているのかな?」

 

 オールマイトの瞳に怯むことなく、オール・フォー・ワンは個性を複数発動させその腕を肥大化させる。

 

「それだけじゃない。私が死のうとも、平和を望む心が絶えることは無い――いつか、私の意志を継いでくれる者が現れる」

「……負け惜しみここまでくると滑稽だね――!」

 

 ――”筋骨発条化”+“瞬発力”×4+“膂力増強”×3+“増殖”+“肥大化”+“鋲”+“槍骨”

 

 それは弱り切った人間を殺害するにはあまりにも過剰な組み合わせだった。

 複数の個性が発動した結果、右腕は醜く膨れ上がり所々槍のような骨が突き出していた。

 

……すまない。緑谷少年

 

 赤いしぶきが迸る。

 悲鳴とも悲嘆ともいえる叫びが日本中に響き渡っていた。

 

 平和の象徴は悪の帝王によって破壊されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

「――オールマイトォッッ!!」

 

 緑谷はテレビにしがみつき涙を流す。

 幼いころからの憧れで今では師匠ともいえるヒーローの死に耐え切れず嗚咽を漏らしている。

 

「そんな……嘘、ですわよね……?」

「……だったら、よかったけど……っ!」

 

 八百万、牛込もまたオールマイトの死に涙を流している。

 

「――いやはや、外はひどいもんじゃ」

 

 悲しみに暮れる彼らの下へ外出していた聖拳が帰ってくる。荷物を取りに行っていたのか、背中には大き目な風呂敷包みを背負い、エリを抱っこした状態だった。

 

「……みんな、パニックになってた」

 

 エリも悲しみと不安の入り混じったような表情だった。幼いながら、一大事が起こっていることを悟ったのだろう。

 

「なんじゃこの世が終わったような顔しおって。まだまだ世界は滅びんよ」

「……そんなこと言ったって、外はジャマトが暴れてるし、オールマイトだって……」

 

 緑谷はテレビから滑り落ちるようにうずくまる。

 オールマイトの死は彼の心に大きな影響を与えていた。

 

「情けない。恩師の敵を討とうとすら思わんのか」

「っ……!」

 

 聖拳の言葉は緑谷の心に火をつける。

 

 ――『泣いてたって世界は変わらないよ』

 

 思い出されるのはかつてエースに掛けられた言葉。

 失ったものを嘆いたって何かが変わるわけでもない。

 世界を変えたければ――戦うしかない。

 

「……ジジイ……! あんた人の気持ちが分かんないのッ!?」

「そうですわッ! 少しは緑谷さんのお気持ちを」

「いいんだ……っ!」

 

 牛込と八百万が聖拳を責めようとするのを緑谷は手で制する。

 その瞳には涙がにじんでいたが、精一杯強がって笑顔を浮かべる。

 

「っ泣いてたって、世界は変わらない……っ! 僕、戦いますっ! デザグラで勝って、オールマイトを、いや、みんな僕が救って見せますっ!」

「……その意気じゃ」

 

 聖拳は不敵に笑いながらデザイアドライバーを取り出す。

 デザイアグランプリで優勝すれば“理想の世界”を叶えることができる。

 もし世界に絶望しかないのならば――勝って理想の世界を叶えればいい。

 

 ――こうして、デザイアグランプリの新シーズンは幕を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――デザイア神殿。

 

『――余興はどうだったかな?』

 

 サロンのソファに深々と腰かけたオール・フォー・ワンは黙々と仕事をしているツムリへ語り掛ける。

 

「……この会話は仕事に含まれますか?」

『おいおい! つれないなぁ……折角、君を“洗脳”せずに雇ってあげているというのに』

「ッ……」

 

 そっけなく対応するツムリへオール・フォー・ワンはヴィジョンドライバーをちらつかせて煽る。

 ヴィジョンドライバーの有する洗脳機能はライダーだけでなく運営スタッフに対しても有効である。ツムリを洗脳し、自分好みのナビゲーターに仕立て上げるのは簡単だったが、彼はあえてそうしていなかった。

 

『そろそろ教えて欲しいものだけどね……デザイアグランプリ、その運営の上層部のことを』

「……お断りします」

 

 当然ながら、デザイアグランプリのトップはゲームマスターではない。

 ゲームマスターよりも権力が上の存在――プロデューサーやスポンサーがいるのだ。

 

『そうか、それは残念だ』

 

 オール・フォー・ワンはため息をつきながらヴィジョンドライバーを撫でる。

 ゲームマスター権限の委譲、それが彼の狙いだった。

 ただし、今の状態で権限を得てしまえばより上位の権限を持つ者から粛清されてしまう可能性が高い。“世界を滅ぼすゲーム”を主催している以上、スポンサーがいい顔をするはずもないからだ。

 故に、未だにゲームマスターとしての権限はギロリが持っているが、その姿を借りることでゲームマスターとして行動をしているのである。

 

『……それじゃあ、始めるとしようか――デザイアグランプリ、新シーズンの開幕さ!』

 

 ツムリは手にしたボックスをぎゅっと握り締める。

 中にはデザイアドライバーと狐の描かれたIDコアが収められていた。

 

 それは受け取り手が不在であったため渡すことができなかったものだった。



















何度見ても自爆攻撃はえげつねぇ……
メタ的な話だと、パンクジャックの中の人が舞台の仕事で忙しくなるから自爆特攻で退場になったとのうわさもありますが、ニチアサでやっていい攻撃じゃないですよねぇ……
次回は本作でのナッジスパロウとあのクソうぜーオリキャラが再登場します。
クソッ……IDコア砕いて退場させておけば……何が嬉しくてテメーを出さねばならんのだ……
こうご期待です!

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