今回から新シーズン開幕。新しいオリキャラや懐かしいオリキャラが登場しますのでお楽しみいただければと思います。
――――
――
――十二年前。
『……?』
狐は自分の姿がきれいに映っている板にくぎ付けだった。
人耳の代わりについている狐の耳。男と思えば男に見え、女と思えば女に見える中性的な顔。
その顔は泥と垢にまみれてとても綺麗とは言い難かった。
『……』
男の家に着くや否や案内された部屋は身を清めるための場所のようだ。“シャワー”というワードは体を洗う、という意味があるのだと狐は理解していた。
『いっ……』
壁に備え付けられた管を取るも、先端が思いの外重く足に落としてしまう。足先を殴打して狐は思わず涙目になる。
恨めしそうに管の先端を見れば、そこには小さな穴がいくつも開いており、隙間には水が溜まっている。
どうすればいいのかと思案し、管の根本につまみがついている事に気づいた。
成程、これをひねれば水が出てくるのだろう。狐は自分の賢さに少しだけ気分がよくなる。
『……♪』
狐は上機嫌でつまみをひねる。
しかし文明の利器の恐ろしさを狐は知らなかった。
そも、彼女(?)の生きていた時代には蛇口はおろか水道管すらなかった。
水を使いたければ井戸から汲んでくる他になく、体を洗うとなれば桶に貯めた水をかぶって汚れを落とす程度の方法しか知らなかった。
――プッシャァァァ!!
『ひゃん!』
故に、管の先端――シャワーヘッドから勢いよく水が噴き出すなど思ってもいなかったのである。
突然の水に驚いた狐はシャワーを落とし、水びだしになりながらパニックとなってしまう。
『――な、なにごとっ!?』
悲鳴を聞きつけた男が風呂場へ駆けつける。彼が見たのはシャワーから出てきた水に驚き慌てふためく狐の姿。
『ま、まさか……おめぇシャワーの使い方知らねぇのか?』
『……』
狐は涙目になりながらうなずく。
男はため息をつきながらシャワーを止め、ズボンのすそをめくった。
『ったく、ほら。背中向けな。洗ってやるよ』
罵声を浴びせられると思い身構えていた狐は男に抱き起されて座らせる。
『ひっ……!』
彼は筒から何かの液体を出して手に取り、それを狐の背中に塗りたくる。
そして布切れを取ってくると狐の背中を優しくこする。彼女(?)はくすぐったさで思わず瞳をきつく閉じる。
『おーすげーな……おめぇどんだけ風呂入ってなかったんだ?』
『っ……そ、その』
狐は言葉を詰まらせる。雨でも降らなければまともに体を洗えなかったとは言い難かった。
そうこうしているうちに彼女(?)の体はたちまち泡で覆われ、汚れ切った体が清められていく。
泡を洗い流され、次は頭を洗ってもらう。くすぐったさで背筋がぞくぞくしていた。
『――よし、こんなもんだろ!』
全身を洗い流され、古びた布で体を拭かれる。
髪の毛は
『……♪』
生まれて初めて味わう爽快感に狐は思わず笑顔になる。
『ほら、娘のお古だがそれで我慢しといてくれな』
渡されたのは古びた女児服。やたらと眼力の強い猫の絵が描かれている。
『?』
しかし狐は着方が分からずに困惑する。
『……やっぱ嫌だよな。悪いな、娘はちょっとセンスが変わっててな』
『ち、ちが……ど、どうやって、着る、の?』
男は何とも言えないような表情になる。
『ふっ……何だい。タイムスリップでもしてきたみたいだな』
彼は苦笑しつつ狐に服を着せてくれる。
タイムスリップ、という言葉はよくわからなかったが、狐は自分の生きていた世界と今いる世界は異なるものなのではないか、と感じているのだった。
――――
――
――現在。
「ようこそ、デザイアグランプリへ」
神殿へ集められた参加者たち。開幕を告げるツムリの表情は暗く、どこか事務的な雰囲気を醸し出していた。
(なんだか、雰囲気が違うな)
緑谷は集められた参加者を見てどこか緊張感を覚える。
半数は初参加と思われる一般人。
しかし残りは
「――この時を待ってたよ」
ツムリの説明が終わるや否や殺気を放つ参加者がいた。
端整な顔立ちだがどこか他人を見下したような嫌味な表情の少年。
(っダパーン!)
仮面ライダーダパーン――伴野 優太。
緑谷が初めて参加したデザイアグランプリに参加していた嫌味な高校生。他人を蹴落とすことばかり考え、しかし自分が窮地に陥ると恥も外聞もなく他人に助けを求める傲慢な性格。
幼児的万能感の抜けきっていないまま成長してしまったともとれる少年だ。
「
彼は前回のデザグラでツムリに組み伏せられてしまったことをよほど根に持っているのか、これ見よがしに拳の関節を鳴らしながら彼女へ迫る。
ツムリは冷ややかに彼を見つめるも、ナビゲーターとしての仕事を優先する。
「――それでは、お手元のデザイアカードに願いをご記入ください」
「おい! 無視してんじゃねぇよっ!」
伴野はスルーされたことに腹を立て拳を振りかぶる。
「――やめておけ」
そんな彼を止めたのは一人の大男だった。
(で、でか……オールマイトよりもでかいぞ……!)
大男の身長は優に3メートルに迫るほどだった。外国人のような彫りの深い顔立ち、革ジャンにジーンズと外国人を思わせる服装だった。
彼は伴野の拳を掴み、彼を見下ろす。
「何すんだよッ! まずはお前からぶっ飛ばしてやろうか?」
自分の2倍近くの体格を持つ大男に怯むことなく伴野は歯をむき出しにして威嚇している。
大男はため息をつきつつ伴野を見下ろす。
「……お前初参加じゃないだろ? なら知っているはずだ――神殿での戦闘行為は禁止だ」
「……ッ何見下してんだよ。ムカつく」
伴野は悔し気に吐き捨てると、大男の手を振り払い自分のデザイアカードに願いを書き込み始めた。
(ッそうだよ……! 僕も早く願いを書かなきゃっ)
やり取りに夢中だった緑谷は慌てて手元のデザイアカードと向き合う。
前回は『過去、デザイアグランプリで消滅した人たちが生きている世界』だった。
しかし同じ理想の世界では今回の状況は覆せない。
何か妙案を考え付かなくてはならない。
(……っそうか、こうすれば――)
ひらめいた緑谷はデザイアカードに理想の世界を書き込んだ。
「――それではデザイアグランプリ第一回戦を開催いたします」
緑谷が最後だったのか、書き終えると同時にツムリはゲームの開始を宣言する。
「記念すべき第一回戦は――ヒーロー狩りです」
「……は?」
ツムリの告げたゲーム内容は、彼にとって到底信じがたい物だった。
――――
――
――ヒーロー狩り。
ジャマーエリア内に潜むプロヒーローを
エリア内には当然ジャマトも解き放たれており、当然ジャマトもヒーローを襲い続ける。
ジャマトが狩るよりも先にヒーローを狩り、得点を得ることで次のゲームへ勝ち抜けることができる。
得点は次の通り――
ランカーのヒーロー …… 1000pt
一般ヒーロー …… 500pt
学生ヒーロー …… 100pt
他プレイヤー ……50pt
ジャマトライダー ……10pt
ジャマト …… 0pt
無得点の者はゲーム終了時に強制的に脱落となる。
(めちゃくちゃだ……! デザグラはジャマトから人々を守るゲームじゃなかったのかよッ!)
人々を守るどころか傷つけるようなゲーム内容に緑谷は憤りを覚える。
同時に協力を前提としないルールから周囲に転送された者達に警戒心を抱いてしまう。
他プレイヤーも得点となる、つまりこのゲームで他のプレイヤー全員を退場させてしまえば自動的に今シーズンの“デザ神”となれることが確定する。
まるで互いに殺し合うことさえ良しとするルールに嫌悪感が湧き上がってくる。
『――それでは“ヒーロー狩り”を開始いたします。皆様にはそれぞれアイテムをプレゼントしております。ぜひご活用ください』
緑谷は足元に現れたボックスを開く。
中に収められていたのはアローバックル――幸先の悪いスタートだった。
「……変身」
――ARMED ARROW
変身するや否や、どこからともなく悲鳴が響き渡る。早速ヒーローを狩り始めた者がいるのだろう。
「……ッルールがなんだ! 僕は絶対に――ヒーロー狩りなんてするもんか!」
緑谷――タイクーンはレイズアローを構えると悲鳴の聞こえた方向へ駆けていく。
――♪
突如、スパイダーフォンが鳴動する。
それはミッション追加の告知だった。今回のゲームではミッションをクリアすることで報酬が獲得できる仕様となっていた。
前回も“シークレットミッション”という形で報酬を得られることはあったが、今回からはそれが公開される形となったのだろう。
「……は?」
タイクーンはそのミッション内容に目を疑う。
――『MISSION:仮面ライダータイクーンを討伐(0/1)――報酬:ブーストレイズバックル』
それは自分を斃せという内容のミッションだった。
「――おい、タイクーンって」
「――あいつか?」
げっ歯類を思わせる仮面のプレイヤーと羊を思わせる仮面のプレイヤーがタイクーンを指差している。
まさにミッション内容を確認したばかりといったところだろう。
「っちょ、ちょっと待って!」
「なんか弱っちそうだし、報酬はもらったぜ!」
げっ歯類の仮面のプレイヤーは戦闘に消極的なタイクーンを絶好のカモだと判断し襲い掛かってくる。
「っごめんな! さすがにヒーロー殺すのは気が引けるけどさ、お前ならなんかイケる気がすんのよ!」
羊のプレイヤーもレイズウォーター片手に飛び掛かってくる。タイクーンは咄嗟に躱しつつレイズアローで牽制射撃をする。
生身の人間を狩れ、と言うのはいささかハードルが高いが、変身したもの相手ならば抵抗感も薄れる。さながらゲーム感覚で相手を斃せてしまうのだ。
「っ……こうなったらバックルを奪って――」
退場させずに無力させるにはバックルを奪って変身を解除させるしかない。覚悟を決めたタイクーンはレイズアローを構える。
「――伏せろ」
反射的にタイクーンはかがむ。直後、彼の頭上を星のような衝撃波が駆け抜けていく。
「うっ!」
「ぐっ!?」
二人のプレイヤーは衝撃波に吹き飛ばされていく。
「……お前がタイクーン、緑谷 出久だな?」
タイクーンは射し込んだ影に思わず身構える。相手の身長は自身の倍ほどもあり、自然と威圧感を覚えてしまう。
こんなにも大柄な参加者は唯一無二だ――おそらく、伴野を諫めていた大男が変身した姿なのだろう。
「あ、あなたは……」
「……俺は“ナッジスパロウ”、
ナッジスパロウは油断なく周囲を伺いながらタイクーンに手を差し伸べる。
彼はモンスターバックルを使用しており、その気になればタイクーンを一撃で退場させることも可能だろう。
「っ……そうやって僕を油断させるつもりですか?」
ミッション内容を知った今、タイクーンにとってすべてのプレイヤーが敵も同然である。
「……ああ、それもそうだな。ならば俺も信用を見せないとな」
ナッジスパロウ――周は変身を解除すると懐からニンジャバックルを取り出してタイクーンへ差し出す。
「……既に退場してしまった奴から拝借したものだが、これをお前に渡そう。俺がお前を謀っていると疑うのならばスコアを確認してみろ」
「……」
タイクーンはニンジャバックルを受け取りつつ得点を確認する。仮面ライダーナッジスパロウ、周 隼人――0pt。
それは未だにヒーローを狩っておらず、ニンジャバックルも斃して奪ったということではないということを意味する。
ただし、斃さずとも横取りすることでもバックルは手に入れることはできるためまだまだ油断はできないところだ。
(本当に信じても大丈夫か? この人は経験者っぽいし、僕を斃せば手に入るブーストバックルの重要性も知っているはずだ。でも、だったらこうして僕にニンジャバックルを渡すメリットはないしなんなら背後から奇襲して斃せばよかったはず――」ブツブツブツ
周は独り言のようにつぶやき始めたタイクーンに呆れてため息をつく。
「……心配ならば
「いえ、そこまでは……でも、貴方のメリットは何ですか? ここで僕を助けてもデメリットにしかならない」
なおも疑念を浮かべるタイクーンに周は困ったように顎をさする。
「……俺の
彼は真剣な目でタイクーンを見つめるのだった。
――――
――BEAT
「――おやめくださいっ! こんなゲームをクリアして何の意味があるのですっ!」
八百万――ロポはヒーロー狩りをしようとしているプレイヤーをビートアックスで牽制する。
「くそっ! 邪魔すんじゃねぇよッ!」
「僕は――勝たなきゃいけないんだッ!」
プレイヤーたちは思いをぶつけながらも妨害してくるロポを振り切ろうともがく。
彼らは根っからの悪人ではない。しかしその胸にはどうしても叶えたい理想の世界があった。
永遠の安全、大切な人の蘇生、絶対に悪人と遭遇しない強運――彼らにとってそれは、例えヒーローを狩ることになったとしても叶えたい理想の世界だった。
「――ジャ」
しかしヒーローを狙うのはプレイヤーだけではない。
「っ!」
「――――!」
ジャマトは腕を刃物のように変化させると、民族衣装のようなものを纏ったヒーローの首を切断し殺害する。
ロポは咄嗟に手を伸ばしていたが、僅かに間に合わない。
「くそっ! お前の――せいだっ!」
鹿を思わせる仮面のプレイヤーは苛立ったようにレイズドリルをロポへぶつける。
「そうだよ――他のプレイヤーだって得点になるなら――邪魔なお前を狩ってやる!」
像を思わせる仮面のプレイヤーはレイズチェーンアレイを振り回しながらロポへ迫る。
装備の差でいうなら彼女が圧倒的に有利だ。しかし相手を退場させてはいけないという意識が彼女を躊躇わせる。
(拘束技で迎撃を――っでも過度に攻撃しては消滅させてしまいますわ……っ!)
ロポの脳裏に浮かぶのはオールマイトとオール・フォー・ワンの戦い。
力を誤れば相手を返り討ちにし、退場させてしまう結果になりかねない。
――TACTICAL BREAK!
「――おらっ!」
そんなロポを助けたのは乱入してきたバッファだった。
バッファはゾンビブレーカーを振り抜き、攻撃を仕掛けてきていたプレイヤーたちを一掃する。
「……なにぼさっとしてんのよ! こんなところで退場したいの?」
「で、ですが――やりすぎれば彼らを退場させてしまいますっ!」
「……ん、そのことなら大丈夫よ」
なおも敵意を向けてくるプレイヤーたちをバッファはじっと見据える。
「……ちょっとやそっとの攻撃じゃ、退場させることはできないわ。だから思い切りぶっぱなしなさいよ」
「そうでしたか。でしたら――」
――FUNK BLIZZARD
ロポはビートアックスのエレメンタドラムを素早く三回叩き、インプットトリガーを押す。
――TACTICAL BLIZZARD!
「申し訳ありませんっ! これで止まってくださいなっ!」
「っくそ!」
「う、動けない!」
氷結攻撃が放たれ、プレイヤーたちを拘束する。
「……ん、これでジャマトに専念できるわね」
「ええ。では――ジャマトライダー、とやらを探しましょう。初戦敗退は避けませんと」
ヒーローも他プレイヤーも狩らずに次ラウンドへ進む方法――それはジャマトライダーを狩ること。
しかしジャマトライダーは強敵だ。その上得点は雀の涙――まず誰も狩ろうとはしないだろう。
「……そうね。でも、油断しちゃダメよ。あいつらかなり手強いから」
「ええ!」
バッファとロポは共にジャマトライダーを探し向かうのだった。
――――
――
「――はぁ? なんでこんなタイクーン潰しのミッションがあるんですかぁっ!? ッざけんじゃねーぞクソGMがよぉッ!」
異空間に存在する6畳ほどの部屋。
そこはデザイアグランプリの
「あーもうなんでよっ! どうして
露骨なタイクーン潰しともいえるゲーム進行に憤っているのは一人の女性。
銀灰色のストレートヘアにたぬきを思わせるぱっちりとした垂れ目、ふっくらとした唇は怒りでわなわなと震えている。
彼女が手に持つのは表面に“TYCOON”、裏面には“LOVE”と書かれた所謂“応援うちわ”。見れば、彼女の周囲には使用済みと思われるペンライトも散乱している。
更に部屋の中央に位置するテーブルの上にはタイクーンフィギュア(自作)、緑谷 出久フィギュア(自作)が飾られ、彼女が纏うのはタイクーン法被(自作)。背後の屏風にはタイクーン及び緑谷のプロマイド(盗撮)が所狭しと貼り付けられていた。
「っだー! あのクソデカノッポ! ポッと出の分際で親し気に話してんじゃねーぞクソがッ!」
映像の中ではタイクーン――緑谷と共に行動するナッジスパロウ――周の姿が映し出されている。
彼女は緑谷と葉隠、そしてエースの三角関係(妄想)が大好きだったため、突如として沸いてきた周に中指を突き立てている。
その熱量は前回のデザグラで追加エントリーのメンバーにさせたほどである。
「――荒れているねぇ」
そこへ現れるのはミステリアスだがどこか愛嬌の感じられる少年。
「んん? ジーンさんではないですか? 何の用……あ! もしや推しのギーツが参戦してなくてタイクーン推しになるおつもりね! なら特製タイクーン入門編グッズがここに」ペラペラペラ
「違うよ。ボクのギーツ推しは変わらない」
「帰れ」
少年――ジーンは呆れたようにため息をつく。
「相変わらず君はタイクーンが好きなんだね、セセラ」
「最初から強い奴を応援して何が楽しいワケ?」
女性――セセラはジーンを冷ややかに見つめる。
「勝ち馬に乗る快楽ってヤツ? ッかー! わかってないっ! 最初は強くないしヘタれなところもあるけどだんだん成長して立派になっていくところを見守るのがいいんだっつーの! そしてデザ神になった暁には腕組みしながら理解者面すんのが乙ってもんなのよ!」ペラペラペラ
滔々とタイクーンの良さを演説するセセラ。
その愛は前回のデザグラでゲームマスターにタイクーンのエントリーを余儀なくさせるほどだった。
「違うよ。僕はギーツの
ジーンはゆっくりと座椅子に腰かける。
「来たーッ! オラッ! ぶちかませ~っ!」
「……ボクの話、聞いてる?」
映像の中ではタイクーンがジャマトと会敵して戦闘を開始していた。セセラはどこからか取り出したペンライトを手早く発光させオタ芸のごとく振り回している。
「でも残念だったね。ギーツは今回不参加、不敗神話もここまでカナ?」
「いいや。そんなことは無いさ」
セセラが話を聞いていたことが分かるとジーンはホッとため息をついている。
「ギーツならきっと、この状況からでもゲームに参加し勝ち残る――ボクはそんな気がするさ」
「きゃーっ! がんばえー! タイクーン!」
「…………」
ジーンは深々とため息をついた。
「……でもそうだね。タイクーンには勝ち残ってもらわないと。ギーツ参戦まではゲームが続いてもらわないと困る」
彼はスマホのような端末を取り出すと、どこかへ電話をかけるのだった。
――――
――
「――元デザ神っ!?」
「……ああ。もう8年前になるか」
ジャマトを追い払った緑谷と周は物陰に隠れると一息つく。
「……かつて、俺はデザイアグランプリに参加し優勝した。IDコアに触れるまで忘れていたがな」
「ど、どんな世界を叶えたんですか?」
「……“巨万の富。俺が一生かかっても使いきれないほどの金”、だ。」
俗っぽい願いに緑谷は警戒心を高めてしまう。
「……“金なき夢はただの妄想。金を得ることで夢は初めて実現可能な目標となる”。それが俺の信条だ。俺の目的を叶えるためにはどうしても金が必要だった、だからそう身構えなくていい」
「っ……す、すみません」
周は緑谷の心理状態をすぐさまに察知しフォローする。
「……だが警戒して損はない。運営はお前の個性を狙っているんだろう。俺のことを信頼しきる必要もないさ」
「えっ……なんで、個性を?」
緑谷は心臓を掴まれたかのように身を強張らせた。
彼の個性――ワン・フォー・オールは確かに特別なものだ。継承者たちが平和を願い蓄え続けた力の結晶。万が一にも敵の手に渡ってはいけない物だ。
だがそのことを知っているのはほんのごく一部の人間のみ。初対面の周がそれを知る由も無いハズなのだ。
「……簡単な推理だ」
周は困ったように顎をさする。
「……このゲームのルールは善人をふるいにかけ、他者を傷つけることを良しとする人間を残そうとしている。だが善人にも救いは残されている。それがジャマトライダーだ」
ヒーロー狩り、つまり人を殺めなくてはいけないゲーム。
そうなれば勝ち残れるのは人を殺すことに抵抗の無い者、もしくは他者を蹴落としてでも叶えたい願いのある者。誰も傷つけずに助けようとする“ヒロイックな”者はお断りだと言わんばかりである。
しかし勝ち筋の無いゲームは“クソゲー”の烙印を押されてしまう。
そのために用意されているのがジャマトライダー。
得点さえ獲得していれば次へ勝ち残ることのできるルールである以上、ジャマトライダーを1体でも斃せれば次のゲームを勝ち残ることができる。
「でもジャマトライダーは強敵です。初参加の人は到底勝てっこない」
「……だろうな。ただでさえ厄介なジャマトが変身をするのだからな。そしてジャマトに負ければ退場は不可避、勝ちたいが人は傷つけたくない、という人間が退場しやすいルールだ」
ジャマトライダーは装備が整っていて戦闘経験のあるライダーでさえ苦戦するほどの強敵。
そんな相手に弱小装備――しかも戦い慣れていないものが挑めば返り討ちは必至だ。
「確かに……退場させることを前提としてるようなルールだ……っ」
そこで何かに気づいたように緑谷は息を呑む。
「っそういえば、ジャマトが個性を使い始めてるのって」
緑谷はジャマトが個性を使った前回の最終ゲームを思い出す。思えば、あのゲームは何もかもがイレギュラーで、なにもわからないままにゲームが終わってしまっていた。
もしその時から運営サイドに
「そうか……! ジャマトに個性を与えるために、退場者が増えるようなルールになったのか!」
「……俺と同じ結論のようだな。そしてお前をピンポイントで脱落させたいということは、運営の人間はお前の個性を求めているということに他ならないだろう」
もし緑谷が退場することとなれば、ワン・フォー・オールを持ったジャマトが生まれるかもしれない。
それを狙ってミッションが設定されたのだとしたら、運営サイドの人間にワン・フォー・オールの秘密を知る者がいるのかもしれない。
「……そういうことだ。少なくともお前は脱落、最善は誰も手に掛けず勝ち残ることだ。俺はそのために力を貸すつもりでいる」
「それは……ありがたいですが」
――悲鳴が聞こえてくる。
反射的に動こうとする緑谷だったが、周は腕を掴んで引き留める。
「……言った傍からそれか。お前は命を狙われている、迂闊に行動することは避けるべきだ」
「わかってます……っ! でも――」
――SET
緑谷はニンジャバックルをドライバーに装填する。
「放ってはおけないんですッ!」
――NINJA
緑谷――タイクーンは忍術で周の手を振り払うと悲鳴の聞こえた方角へ駆けていく。
「……まったく、手のかかる
――MONSTER!!
周――ナッジスパロウもまた、変身するとタイクーンの後を追いかけていった。
――――
――
(……最後の文化祭、やりたかったな)
ジャマーエリアの中、ヒーローの卵は憔悴しきった表情を浮かべながら戦いに明け暮れる。
ヒーロー名“ネジレチャン”――本名は“波動 ねじれ”。雄英高校3年A組の生徒であり、リューキュウのヒーロー事務所でインターンをしている少女だ。
彼女は迫りくるジャマト、変身したライダー達と戦い続けていた。
「はぁ……ッ!」
彼女と共に戦っていたドラゴンのようなヒーロー――リューキュウは何者かによって狙撃されダウンしており、波動一人でジャマト達を食い止めていた。
すぐさま撤退しリューキュウを治療しに戻りたかったが、迫りくる敵がそれを許してはくれなかった。
斃しても斃してもキリがない戦いに波動は次第に疲れを見せ始めている。
「おし――まい!」
「ジャッ!」
波動は最後のジャマトを斃すと、へたり込むように崩れ落ちる。
彼女の個性は活力をエネルギーに変えて放出するというもの。当然エネルギーを使い果たせば動けなくなってしまう。
この状況で新手が現れればひとたまりもないだろう。
――RIFLE
「――ぁうっ!」
波動の右肩を弾丸が貫く。彼女のヒーローコスチュームに赤い染みが広がっていく。
「…………ようやく力尽きたかよw 随分と――待たせやがって!」
近くのビルの屋上からパンダのような仮面をかぶった人物――ダパーンが飛び降りてくる。
ダパーンはマグナムシューターを片手に波動へと歩んでいく。
「あなた……誰?」
「ははw この姿じゃ流石にわからないかwww」
ダパーン――伴野は変身を解除する。
その顔には嫌味ったらしい薄ら笑いを浮かべており、ようやく訪れた復讐の時に心を躍らせているのがよくわかる。
波動は彼の顔を見て記憶をたどるも、思い出せないのか首をひねっている。
「……えっと、ごめんなさい。本当に誰かわからないの。あなた誰なの?」
彼女が覚えていないのも無理はない。なぜなら、波動と伴野が出会ったのは中学生の頃、それも数分だけのこと。
しかも彼女にとっては他クラスで起きたもめ事を鎮圧したというだけの些細な出来事で、わざわざ覚える価値もない。
雄英高校に入学してからの日々はとても濃く、中学時代に起きた些細なもめ事など記憶の片隅に追いやられ消えてしまう運命にあったのだ。
「……は?」
それを聞いて青筋を浮かべる伴野。彼にとっては人生の一大イベントであっても、相手にとっては取るに足らない出来事だった。
「忘れてんじゃねえぞクソがッ!」
「――ぁッ!」
伴野は足を大きく振りかぶり、動けないでいる波動の脇腹を思い切り蹴り飛ばした。
それなりに様になっているだけの蹴りなど、雄英高校で研鑽した波動には躱せぬものではない。
しかし彼女は反動で動くことができなかった。
「オラッ! 早く思い出せよッ! お前が――人生を潰した男の名前をよッ!」
「~~~~ッ!」
伴野は波動の綺麗な髪を掴んで体を起こすと無防備な腹部に膝蹴りを叩きこむ。
彼の膝はみぞおちを的確に捉えており、波動は苦悶で顔をゆがめる。
「……っじんせいを、つぶした?」
「はぁ? 自覚ナシってマジ? お前のせいで――俺は雄英落ちてFラン高校に行くハメになったんだよッ!」
完全なる言いがかりだった。
伴野が高校受験に失敗した原因は彼自身の努力不足に起因するもので、決して波動がいたせいではない。
彼の人生がうまくいっていないのは彼自身のせいであって、決して波動のせいではないのだ。
「あぁ……ほんとお前顔だけはいいよなァ……中身は残念だけどなっ!」
「ぁぐ――――!」
伴野は波動の後ろに回り込むと裸絞めを仕掛ける。
積年の恨みを簡単に晴らすつもりはなく、
その悠長さは波動に回復の隙を与えてしまう。
「――ッッ!」
――
それは波動の代名詞ともいえる必殺技。
わずかに回復した活力をエネルギー波に変えて放出する。
威力は完全に落ち切っており、拘束を抜け出すことしかできなかった。
「……ざっこw 俺こんなのに負けたのかよwww」
伴野は思わぬ抵抗に苛立ちつつも、想定以上の弱弱しさであざ笑っている。
無論、ここまで消耗しなければ変身を解除した伴野など片手間にあしらうことは可能である。
波動は雄英ビッグ3と呼ばれる成績優秀者。才能にかまけなんの努力もしてこなかった伴野など戦うまでも無いハズなのである。
「はぁ……はぁ……っ」
「やっぱ気絶じゃなくてここで半殺しにすっかw その方がダルくねぇしwww」
――SET
「はっw そんな目ができんのも今のうちだよw “許してください伴野様! 私が悪かったですぅ!” って言わせてやるからさwww」
「ばん、の……っ!」
波動は何かを思い出し、目を見開く。
「思い、出した……“嫌われ者”の伴野くん」
「……は?」
伴野は何気ない波動の言葉に青筋を浮かべる。
「嫌われてたんじゃねえよ――あいつらが、俺と友達になるまでもないモブキャラだっただけだッ!」
――MAGNUM
伴野――ダパーンはバックルを起動し変身、マグナムシューターで波動の額を殴りつける。
「っ!」
「お前、ヒーロー科なんだろ? だったら――このくらい耐えられるよなwww」
――BULLET CHARGE
ダパーンはマグナムシューターを波動の下半身に向ける。
必殺技を受ければ彼女の足は無事では済まされないだろう。
「ははっwww」
引き金が引かれ、銃弾の嵐が吹き荒れ削れたアスファルトが土埃を舞い上げる。
「はははwww ……は?」
無残な姿をあざ笑おうとしたダパーンは波動のいた位置に残された
それはまるで変わり身の術でも使ったかのようだった。
「――間に合ってよかった……!」
ダパーンは声のした方へ振り向く。
そこには波動をお姫様抱っこしながら背を向けるたぬき仮面のプレイヤー――タイクーンがいた。
タイクーンは優しく波動を下ろすと、ダパーンの方へ向き直る。
「お前だったのか……ダパーン!」
「上から目線で話すんじゃねえよ……死にたいのかwww」
ダパーンはこれ見よがしにマグナムシューターを掲げてみせる。
彼の目にタイクーンは気弱な中学生の姿に映っているだろう。
「身の丈に合ってないことは承知で言わせてもらうけど――」
タイクーンもニンジャデュアラーを構える。
その無機質な赤い瞳には怒りの色が浮かんでいた。
「
デクくんのおかげでねじれさん凌辱ルートは回避されました。めでたしめでたし。
……え、余計なことするなって? この作品はR-15程度なのでご容赦ください……
さて最悪のゲームが開催されてしまいましたが今後の展開はどうなるのでしょうか? 期待の斜め下にならないように頑張ります!
ねじれさん凌辱ルートについて
-
ぜひとも読ませていただきたい
-
待て、早まるんじゃない
-
私に任せろ!