【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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一昨日辺りに編集途中の話を誤って投稿してしまっていました。
すぐに削除しましたが、操作ミスとは怖いものですね……
投稿者の方々は十分にお気を付けください。私は絶対にやらかさねーよwwwと思ってましたがやらかしてしまったので。

今回はサブタイの通りクイーンジャマトの登場です。正体を察している方もおられると思いますが、今後どのような形で明かされるかを楽しみにしておいてください。





















29 逆境Ⅳ/クイーンジャマト

――――

――

 

 ――十二年前。

 

『――狐火……英寿(えいす)?』

『違う違う! 英寿(ひでとし)!』

 

 狐は男――狐火から字の読み方を教わっていた。

 彼女(?)の生まれた時代では字を読めるというのはある種の特権のようなものだった。

 当然、彼女(?)の生まれた村に字を読める者はいなかったし、いたとしても彼女(?)に字を教えようとはしなかっただろう。

 

『……むずかしい』

『まーそんなすぐには無理だな! 時間はあるし、ゆっくり覚えていきな』

 

 狐は教本とにらめっこしつつ、狐火の書いてくれた字を見て自分も練習する。

 ――狐火 英寿(ひでとし)、それが彼の名だった。

 教本の字に比べるとへたくそな字を真似し、狐は少しずつ字の書き方を学んでいる。既に鉛筆は1ダース使い切っており、狐火が仕事で出かけている間にも練習し続けていることがうかがえる。

 

『……なまえ』

『ん?』

 

 新しい鉛筆を削っていた狐火は狐の発した言葉にその手を止める。

 

『わたしの、名前……ない』

 

 狐には名前がなかった。

 物心がつき、名前を教わる前に母は亡くなった。

 村の人々はそもそも彼女(?)を名前で呼ぶことはなく、ただ“化け狐”や“あれ”など名前ともいえない呼び方で読んでいた。

 

『……そっか、おめぇも随分辛い思いしたんだな』

 

 狐火は優しそうなまなざしを狐に向ける。

 彼女(?)は悲しそうに眼を伏せ、狐耳はぺたんと垂れ下がっている。

 

『ないなら……そうだな、“エース”ってのはどうだ?』

『……えーす?』

 

 不思議そうに首をかしげる狐に、狐火は紙に書いた自分の名前を指し示す。

 

『そうさ。俺の名前は英寿(ひでとし)だが、さっきおめぇが読んだみたいに英寿(えいす)って読むこともできんのさ。まあ、要するに俺の名前を分けてやるってことだな』

『……えいす……エース……ふふっ』

 

 狐は嬉しそうにその名を読み上げ笑っている。

 

『わたしの名前は――エース』

『そうさ! おめぇの名前は、今日からエースだ!』

 

 狐火に頭を撫でられた狐――エースは嬉しそうに頬を緩ませる。

 初めての自分の名前に、心がときめいているのを感じていた。

 

『よーし! 今日は名づけ記念日だ! なんかうまいもんでも食うか!』

『……もしかして、わたしを“こうじつ”にしてる?』

『うっ……言うようになったじゃねぇかよ』

 

 狐火に拾われて数か月、エースは既に言葉の裏を読めるようになるまで成長していた。

 彼はバツが悪そうに頭の後ろを掻いている。

 

『よし、じゃあおめぇの記念日だ。エース、おめぇの好きなもんなんでも作ってやるよ!』

『いいの!? じゃあ、“あまい”おにぎりがいい!』

『……本当に気に入ってんだな、あれ』

 

 エースの輝くような瞳を見て狐火もそれを無碍にできず、仕方なしに甘いおにぎりを作るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――デザイアグランプリ第一回戦、“ヒーロー狩り”。

 ヒーローを狩り、互いに蹴落とし合うようなゲームは熾烈さを極めており、参加者の数は目に見えて減ってきていた。

 

『ふぅん……状況が膠着してるねぇ』

 

 ゲームの状況を見守っていたオール・フォー・ワンは、ある時を境に鈍くなったゲーム進行にため息をついていた。

 彼の想定ではもっと苛烈にゲームが展開し、血で血を洗うような争いが繰り広げられているはずだった。

 “自分の理想の世界”、と言うエサはどうにも心を慎重にさせる効果があったようだ。

 

『“優先エントリー権”、なんてものがなければもう少し参加者を厳選できたんだがね』

「……ルールは絶対です。たとえゲームマスターであっても」

 

 共にゲーム進行を見届けていたツムリは冷たく言い放つ。

 彼女はあくまで中立の立ち位置だが、悪辣なゲームに思うところがあるのだろう。

 

『ゲームは残り1時間……さて、このままじゃ観客(オーディエンス)が飽きちゃうだろうし、少し刺激を加えてみようか』

 

 オール・フォー・ワンはマスクの下で口角を釣り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――ここならまず見つからないだろう。ゲームの終了まで身を隠しているといい」

 

 周と緑谷は波動と負傷したリューキュウをつれ人気のない廃ビルへ案内する。

 リューキュウの傷は周によって治療がされており、安静にしていれば命に別状はなさそうだった。

 波動は何か言いたげに口を開きかけるも、周のまなざしを受けて再び口を閉ざす。質問攻めが相当堪えたようで、視線にわずかにだが怒りが込められていた。

 

「……じっとしていて――くれないですよね、きっと」

 

 二人は廃ビルを後にすると、スパイダーフォンを取り出してゲームの状況を確認する。

 序盤に比べるとプレーヤーの減少も得点の獲得状況の変動も緩やかになっており、残されたプレーヤー同士での駆け引きが始まっていた。

 

「……だろうな。あの二人はヒーローだ。ヒーローと言うものは困っている奴を放っておけないものだ」

 

 緑谷の言葉に周はため息をついていた。

 

「やっぱり、僕たちが護衛に着いた方が」

「……必要ない。ここまでくれば後は潰し合いになる」

「つぶし合い……?」

 

 周はしまった、とった表情となりながら顎をさすっている。

 

「……簡単な推理だ。点差が開いている以上、今更点数の低いヒーローなど狩っても逆転の目は薄い。ならば勝ちにこだわる者ならどうするか?」

「っそうか……! 自分より得点の高いプレイヤーを退場させれば、得点を取りつつ順位を上げることができるっ!」

「……そういうことだ」

 

 得点を見れば点差は数千から一万程度と幅が広い。特に一位と二位の差は広く、今から一人一人ヒーローを狩っていっても点差は埋まりにくいだろう。

 つまり、後のことを考え高順位で勝ち残りたい者はこう思考するだろう――得点上位の者を蹴落とし順位を繰り上げる。たとえ得点一位でも徒党を組んで挑めば逆転も可能だ、と。

 逆に、徒党を組んで油断させ裏切って背後から刺す――そのような戦略を取ろうと試みる者も出てくるかもしれない。

 いずれにせよ、もはやヒーローを狩って細々と点を稼いでいるフェーズではないのである。

 

「だったら僕たちは――次ゲームに進めるだけの点数は稼いだし、後は徹底して戦闘さえ避ければ」

「……忘れたのか? お前はミッションの討伐対象。一発逆転のため、報酬目当てで狙われる」

「っ狙われる状況には覚えがあります」

 

 緑谷は雄英体育祭、エースと共に組んだ騎馬戦の内容を思い出す。

 あの時、エースの持っていた1000万ptを狙って多くの騎馬が彼らに戦いを挑んでいた。

 片時も休まることのない緊張感、そして()()()()()()、取れねば勝てない、その意識が生む視野の狭さも経験済みだった。

 

「相手は一発逆転を狙うか次のゲームのために僕を斃そうとしています。だとしたら狙いは僕に絞られるはずで、僕が逃げたとしても周さんがマークされる可能性は薄いです。だとしたら僕が囮になって周さんが奇襲してもいいしさっき手に入れたバックルで逃走することも――あ、チャージは必要だから戦う必要があるからこの方法はリスキーだな」ブツブツブツ

「……考えがあるなら結構だ。しかし、この膠着状況を運営が良しとするかは甚だ疑問だな」

 

 周は一つの可能性を危惧していた。

 それは――運営によるテコ入れ、ゲームを活性化させるための燃料投下である。

 腹の内を探り合いながら互いにけん制し合う状況、見ようによってはスリリングな駆け引きを楽しめるだろう。だが制限時間があり、かつ一位になったところで報酬が得られるということもない――次のゲームに順位がどう作用するかも定かではない以上、無理に一位を目指す必要性もない。

 そして点数さえ確保できていれば次のゲームへ進める以上、戦うことがリスクとなる可能性だってあるのである。

 つまり――このまま何もせずゲームが終了する可能性だってありうるのである。

 

 ――♪

 

 噂をすればなんとやら、スパイダーフォンが鳴動し新たなミッションの出現を告げる。

 

 ――『MISSION:クイーンジャマトの討伐(0/1)――報酬:フィーバースロットレイズバックル』

 

「フィーバースロットって、確か」

 

 緑谷は前の世界の記憶を探る。

 使っていたのはギーツ――エース。さながらスロットマシンのようにバックルの能力がランダムで抽選され、当たりを引ければ大幅な強化が見込めるが外れれば一気に弱体化する。まさにスロットゲームのようなギャンブル性を兼ね備えたバックルだ。

 確かに強力なバックルであることは間違いないが、クイーンジャマトという敵がどれほどの強さを持っているか未知数である以上、無理に達成する必要のないミッションと言えるだろう。

 

「……成程、次を見据えるならクリアしたいミッションだが」

 

 ミッション詳細には報酬となるフィーバースロットバックルの説明が書かれており、参考映像として脳無や無数のジャマト軍団を相手に無双するギーツの戦闘風景が添付されている。

 初参加の者にもバックルの()()()()()()()()伝わり、入手意欲を掻き立てるようになっていた。

 

「確かに間違っちゃいないけど……あのバックルは狙って当たりを引けなきゃ使いこなせないピーキーな性能なのにそれを伝えないのはズルだろ……っ」

「……それが狙いだろうな。わかりやすい報酬があれば戦闘への意欲も湧くだろうしな」

 

 周はスパイダーフォンに表示されたクイーンジャマトの位置情報を見てため息をつく。

 まるで早い者勝ちだ、とでも言わんばかりのおぜん立てだった。

 

「周さん。提案があります」

「……ああ、その案で行こう」

「え、あの、まだ何も言ってないんですけど……」

 

 緑谷が何も言う前に周は結論を出していた。彼はまたもやしまった、と言った風に顎をさすっている。

 

「……仲間と合流したい、という提案だと推測した。間違ってるいか?」

「い、いや……その通りなんですけど……もしかして周さんの個性、ですか?」

 

 自分の提案を狂いなく言い当てた周に緑谷はつい引いてしまっている。

 未来視の個性なのではないかと思えるほどの洞察力だった。

 

「……それは違う。その時が来たらお前にも種明かしするさ」

「は、はあ……」

「……よし、そうと決まれば行くぞ。あと途中で食料を調達していこう。この状況だ、サロンで休息している余裕もないだろうしな」

 

 緑谷は周 隼人という男のことがよくわからず困惑していた。

 

(もしかして未来から来た人……? んなわけないよな)

 

 未来人だからこそ過去に何が起きたか知っており、だからこそ超人的な洞察力を持っているかのように見えるのではないか? 

 彼は周の出自を考察しようとするも、腹の虫が主張し始めたため思考を放棄した。

 確かに、長期戦で腹が減ってきているのは確かである。

 

「……そこのコンビニだ。心配するな、金は置いていく」

 

 緑谷は周の後について買い出しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――オラぁッ!」

 

 バッファのゾンビブレーカーがジャマトライダーを打ち破る。

 

「そこですわっ!」

 

 ――TACTICAL BLIZZARD!

 

 ロポの攻撃によりジャマトライダーの下半身が凍り付く。

 

「今です!」

「……ん!」

 

 ――ZOMBIE STRIKE!

 

 ――TACTICAL BREAK!

 

 バッファによって召喚されたゾンビがジャマトライダーを打ち上げ、そこをゾンビブレーカーの一撃が入る。

 ジャマトライダーは爆散しドライバーが落下した。

 

「はぁっ……はぁ……これで、勝ち抜け決定ね」

「ええ……」

 

 バッファ――牛込は変身を解除し座り込む。息は荒く、滝のような汗を流していた。

 ロポ――八百万も変身を解除するとホッと一息をつく。

 

「どうやら、緑谷さんも得点できているようですわ。後は出水先生だけですが」

「……あのじいさんなら大丈夫でしょ。そんなことより、少し休みましょ」

 

 牛込は汗をぬぐいながら空を仰ぎ見る。秋風が彼女の体をゆっくりと冷やしていく。

 

「あの――よければこれを。風邪をひいてしまいますわ」

「……ん。ありがと」

 

 八百万はタオルを創造し牛込へ渡す。彼女はそれを受け取ると、顔に押し当て汗をぬぐう。

 

「……ごめんなさい」

「へ?」

 

 唐突な謝罪に八百万は怪訝な表情となる。

 

「……あんたのこと、戦力的に今一つって言っちゃったこと。全然そんなことないわ。あんたがいてくれたおかげで、かなり戦いやすかったわ」

「い、いえそんな……! わたくしの方こそ、相手の戦力を教えていただいたからこそうまく戦えたのです!」

「……そ」

 

 牛込は使い終わったタオルを首に掛けつつ頬を赤らめている。持ち上げられて少し気恥ずかしかったのだろう。

 

 ――♪

 

 そんな二人の元に新ミッションが追加された通知が入る。

 クイーンジャマトの討伐、報酬を見た八百万の瞳が大きく見開かれる。

 

「フィーバースロットバックル……これは相当強力なアイテムなのではないでしょうか?」

「運が良ければ、強いのかもね」

「?」

 

 牛込はジャマトの迷宮でギーツと共に戦ったときの事を思い出す。

 

 ――『これも嬉しいけど! ――引き直し、かな!』

 

 彼(?)はバックルを使った後に“引き直し”と言っていた。

 つまり、出した絵柄はランダム。運が悪ければウォーターやシールド(たいして強くない)バックルの能力が引き出されることも考えられる。

 

「……当たり外れが激しいかもってこと。この“クイーンジャマト”ってのがどれほど強いかわかんないけど、無理してまで取りに行く必要はないわ」

「な、成程……ならばそのことは書いてしかるべきなのでは?」

 

 八百万はフィーバースロットバックルの()()()()()()()()()()()()()()()()説明に憤りを感じている。

 

「――レレ()()ダ()()

 

 二人の背筋に悪寒が走る。

 鋭い殺気と得体の知れない存在感が二人に警戒心を植え付ける。

 

「あれが……クイーンジャマト、ですの……?」

 

 そのジャマトは女性的なシルエットで、確かに“クイーン”の名を冠するにふさわしい容姿だった。

 

「……あの感じ、ラスボス級、かも」

 

 しかしながら可憐な見た目に相反し、食虫植物を思わせるおぞましさも兼ね備えており、相手がただならぬ存在であることは確かだった。

 

「牛込さん、ここは様子見しつつ逃げる方向性で参りましょう」

「……ん、そうね」

 

 ――SET

 

 二人は及び腰になりながらもバックルをセットする。

 そして八百万は瞑想するように大きく深呼吸、牛込は右の拳を左の手のひらに打ち合わせ、それぞれ気合を入れる。

 

「「変身っ!」」

 

 ――BEAT

 ――ZOMBIE...

 

 二人が変身したのに気づいたのか、クイーンジャマトはゆっくりと視線を向ける。

 

「……モット、ツヨク」

 

 クイーンジャマトの指先から糸が放出される。ロポとバッファはそれぞれ左右に分かれて跳んで攻撃を躱す。

 それを見たクイーンジャマトは即座に自身の複製体を生み出す。

 

「っ……あいつ、他のジャマトの力も」

 

 バッファはその能力を見たことがあった。

 

 ――ポ()ダ()()!』

 

 あの発狂していたジャマトの使った分身能力と同じとみて間違いないだろう。

 つまり――このジャマトも個性を使うことができる。

 

「分身は本体ほど頑丈じゃないわっ! 攻撃すれば消えるはずよ」

「はいっ!」

 

 ロポの下へ複製体が向かい、本体はバッファへ迫る。

 

「……ツヨク、ナル」

「は?」

 

 人と同じ言葉を発したクイーンジャマトにバッファは眉を顰める。

 どういうことか考えようにも、彼女にそんな暇はなかった。

 

「……ジャ」

「っ!?」

 

 クイーンジャマトの腕が筋繊維で覆われ肥大化、強化された腕力でバッファは殴り飛ばされる。

 咄嗟に両腕を交差して受け止めるも、その威力はすさまじく受け止めきれず吹き飛ばされた。

 

「――ぅっ糸!?」

 

 勢いそのまま後退しようとしたバッファだったが、腰に糸が巻き付いて引き寄せられてしまう。

 動きを阻害されたことで彼女の怒りに火がつく。

 クイーンジャマトに引き寄せられながらもひるむことなく、バッファは体を大きくのけぞらせる。

 

「んッ!!」

「……」

 

 バッファの頭突きを喰らったクイーンジャマトはわずかに怯み、動きが固まる。

 

「……えっ。なに、これ……ゴム……?」

「……モット、ツヨク」

 

 しかし()()()()()()()()()()()()()()()、全くと言っていいほどダメージを受けていなかった。

 

「――ッ!」

 

 お返しと言わんばかりにクイーンジャマトは青白い炎を放出してバッファを大きく後退させる。

 

「……そんな……あの個性、まさか、ムツキの……?」

 

 ゴムのような体の個性。

 バッファはその個性に覚えがあった。

 彼女の幼馴染、後藤 睦月。彼の持つ個性と瓜二つだった。

 無論、この超常社会で似たような系統の個性が生まれることは珍しくはない。世の中には自分と似た顔の人間が数人いるというくらいなのだから、同じ個性の者が複数人いても不思議はない。

 

「っバッファさん!?」

 

 複製体と戦っていたロポはバッファの異変を察知しフォローしようとするも、複製体の相手だけで手いっぱいになってしまっている。

 

「……そんな、なんで……?」

 

 クイーンジャマトの持つ個性が幼馴染のそれと似ているだけという可能性だって十分にあり得る。

 だが彼女の心はクイーンジャマトの個性が幼馴染のそれと同じだと信じ切ってしまっていた。

 ――デザイアグランプリで退場した者がどうなるのか?

 その答えを参加者たちは知らない。

 もし、退場した者達の成れの果てがジャマトなのだとしたら?

 

「……お前、まさか、ムツキ……なのか?」

「……ジャ?」

 

 バッファの問いかけにクイーンジャマトは首をひねる。言葉の意味が理解できないのだろう。

 

「っ喋れんだったら――ちゃんと答えろよッ!」

 

 ゾンビブレーカーが振り下ろされる。クイーンジャマトはそれを受け止めると、球体のように圧縮して奪い取る。

 

「なっ……!」

 

 続けざまにバッファのゾンビバックルに触れ、それも球体に変化させて奪い取ってしまう。

 バックルを奪われたバッファは何も装備していないエントリーフォームへと弱体化してしまう。

 

「返せよッ!」

「ジャ……」

 

 クイーンジャマトはバッファの反撃をひらりと躱し、大きく口を開けて球体化させたゾンビバックルを飲み込んだ。

 

「ぅっ……」

 

 バッファは何も装填されていないドライバーに触れつつ後ずさる。

 素体であるエントリーフォームは生身より少し強い程度の戦闘力しかない。まさに絶体絶命の状況だった。

 

「……ツヨク、ナル」

「――伏せてろ」

 

 ――MONSTER STRIKE!

 

 巨大な体躯から繰り出された拳がクイーンジャマトの胴体へクリティカルヒットする。

 いくらゴムの体で衝撃に強いとはいえ、耐久力には限度があった。

 

「ジッ……」

 

 クイーンジャマトは大きく体をのけぞらせながら後ずさる。

 

「――やおっ……ロポ! 下がってッ!」

 

 ――TACTICAL SLASH!

 

 煙と共に現れたタイクーンはニンジャデュアラーを振り抜く。

 ロポは寸でのところでそれを躱し、攻撃は無事クイーンジャマトへ命中する。

 許容量を超えた複製体は泥のように溶けて消滅する。

 

「タイクーンっ! なぜあなたがここに」

「説明は後だッ! ここは撤退を――」

 

 タイクーンは即座に煙幕を張ると、ロポ、バッファ、ナッジスパロウの三人を抱えて撤退する。

 

「……ジャ……レレヴォエインゼラデラ……?」

 

 残されたジャマトは何やら言葉を発すると、次の標的を探してさまよい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――よし。ここまで逃げれば十分だろう」

 

 ジャマトの襲撃によって荒れ果ててしまった公園。

 かつて子供たちが楽しく遊んでいた遊具は歪み切り、端の方は既に錆びかかっていた。

 

「……あんた、誰なのよ?」

 

 牛込は弱り切った表情で周に問いかける。戦い続けて消耗していたところに、クイーンジャマトの個性が幼馴染のそれと同じであった衝撃で彼女の精神はボロボロだった。

 

「……俺は周 隼人――ライダー名はナッジスパロウ。訳あってタイクーン、緑谷 出久に協力している」

「……そういえば、タイクーンを斃せってミッション、あったわね」

 

 牛込は虚ろな目で緑谷を見つめる。

 

「あんたを斃せばブーストバックルゲット、ってとこかしら?」

「えっ……いや、まさか」

 

 緑谷はテンパったように身構える。彼女の目の鋭さから、本気でミッション達成を狙っているかのようだった。

 

「……冗談よ。本気にしないで」

 

 からかったつもりだったのか、牛込は冷たく鼻で笑う。

 

「周さん、でしたか? 貴方はなぜ緑谷さんに協力を?」

 

 八百万は警戒心を隠そうともせず周に問いかける。その手はビートバックルへと伸びており、何かがあればすぐにでも変身する構えだった。

 

「……それが俺の目的を叶えるために()()だからだ」

「信用できませんわね。もしや、寝首をかく為に協力者を装っているのではなくて?」

「ちょっ八百万さ」

「いや、その通りだ。初対面の人間を信用しろと言う方が無理のある話だ」

 

 言葉をオブラートに包もうともしない八百万をたしなめようとする緑谷だったが、周は彼女の猜疑心を肯定する。

 

「……だが俺から言わせてみればお前ら二人も信用ならない。()()()()でこいつをたぶらかし、自分の手駒にしようとしているように見えるが」

「なっ……! 取り消してくださいっ! 私と緑谷さんは共に切磋琢磨する学友ですわっ! そんな……い、色仕掛けなど」

「……ああ、知っているさ。俺はあくまで可能性の話をしたまでだ」

 

 八百万は頬を赤く染める。

 色仕掛けというワードから何やら連想してしまったのかもしれない。

 

「……だからこそ俺は誠意を見せることで信頼を勝ち取ろうと考えている」

 

 周は洞窟を思わせる洞穴のような遊具の中に隠してあったビニール袋を引きずり出す。大柄な彼にとって遊具の大きさはひどく小さく見えた。

 彼は袋の中から紅茶の入ったペットボトルを取り出し八百万へ差し出す。

 

「え、あ、ありがとうございます……?」

「……心配するな。その辺のコンビニで拝借してきたものだ。金はちゃんと払っている」

 

 警戒心を抱きつつも、未開封であったため安全と判断し八百万はそれを素直に受け取った。

 

「……お前にも、だ、バッファ」

 

 と、周は牛込にマグナムバックルとおにぎりを差し出す。

 

「…………ん」

 

 彼女はうなだれたままそれを受け取る。

 ゾンビバックルを奪われた彼女にとってマグナムバックルはありがたい贈り物だった。これで再び戦うことができる――いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うべきか。

 

「……その可能性は高いかもな」

「は?」

「……いや、すまない。言葉が足りなかったな」

 

 周は慌てたように顎をさすりながら言葉を付け加える。

 

「クイーンジャマトが持つ個性が()()()()()()と同じ、だから奴は幼馴染と何か関係があるのではないか? と、お前は思っているんじゃないか?」

「――ッ! なんでそんなこと知ってんのよッ!? あたしは誰にも話したことないのよッ!?」

 

 牛込は飛び上がるようにして周の胸倉を掴んで引き寄せる。身長差があるせいで掴みかかるのも一苦労のようだ。

 

「――僕も、気になっていました。貴方が話すとき、時々会話がずれていて、それがまるでこれから話すことの結論になっているみたいでした」

 

 緑谷も鋭い視線を周にぶつけている。

 

「……そうだな。ここで話すのが()()か」

 

 周はそっと牛込の手を離すと、懐から眼鏡ケースのようなものを取り出す。

 中身は、所謂スマートグラスのようだった。

 

「……これは、俺の開発した()()()()()()()()だ。AIがこの先の行動を予測し、数多くの選択肢を提示してくれる――もっとも、これは携行用に小型化したものだがな」

 

 彼はそれをかけるように牛込を促す。

 

「……っすご……えっ? なによ、これ」

「……俺はAIの示した予測を元に行動をしていた――まあ、話し方については俺の癖なんだが――だからお前の幼馴染のことも把握していたし、ある程度このデザグラで何が起こるか予測できている」

 

 ひとしきりサポートアイテムの凄さを堪能した牛込は、目をぱちくりとさせながらそれを外した。

 

「まるで“ラプラスの悪魔”のようですわね」

 

 八百万も興味深々と言った風にサポートアイテムを見つめている。

 

「……俺の最終目標はまさにそれだ。この世の全ての事象を入力(インプット)することで未来を予測する――そうすることで()()()()()()()()()()()()()()し、未然に防ぐことができるはずだ」

「それが、周さんの()()……?」

 

 緑谷は怪訝な顔をしていた。

 元デザ神、つまりは一度は理想の世界を叶える権利を得ているのにも関わらず、彼は“巨万の富”を願っている。それはいま語っている目的とは相反するものだ。

 

「……理想の世界を叶える、という言葉を信じていなかったからな」

「っ!」

 

 彼は自分の思考を言い当てられ肩を跳ね上げている。推測通りだったのが可笑しかったのか、周は苦笑していた。

 

「俺は一度デザグラで優勝し、巨万の富と言う願いを叶えた。金さえあれば俺のシステムは実現することが出来た。“犯罪の起きない世界”を願うよりは、金を得て自分の願いを叶える方が現実的だからな」

 

 ――ただし、何事にも例外はある。

 デザイアグランプリは優勝者の“理想の世界”を可能な範囲で叶えてくれる。しかしその願いが無理のある物だったり、運営にとって都合の悪い物だったり、様々な理由から例外が発生してしまうのだ。

 

「……まあ、いざ完成して世界が“こうなる”と予測されて驚いたよ。だが、()()()()()の一大事だ。何か力になりたいと思ってな」

「……()()?」

 

 周の言葉に緑谷はまたもや怪訝な表情となる。

 彼は不敵に微笑みながらこう続けた。

 

「ちゃんとした自己紹介がまだだったな。俺は周 隼人――出身は雄英高校のサポート科だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




















前回の終わりから募集してみたアンケート、結果を見る限り私はR-18ルートは書かなくてもよさそうで安心しました。正直かける気はしないので。
ていうよりウケ狙いで設定した“私に任せろ!”の選択肢に投票している人がいて驚いています。
……え、マジで任せてもいいんですか? 名乗り出てくれればお願いしますが……R-18ルートについてはそこまでモチベーションないので名乗り出てもらわなくても大丈夫ですが……

それよりも、最近ヒロアカ原作の文化祭編見てて、ほのぼのifルートを書いてみたいパッションが生まれました。
需要があれば番外編的に書こうかと思っています。
……なので恒例のアンケートを設定しておきますので、気が向いたら投票をしておいてください。


ほのぼのifルートについて

  • 読みたい(今すぐにでも)
  • 読みたい(本編完結後に)
  • そういうのはいいかな……
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