【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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チラミ……お前何やらかしてんのよ……(呆れ)
映画でも示唆されていましたが、ヴィジョンドライバーを手に入れてしまえば世界を作り変えることはできてしまうようですね。次回予告を見る限りでは、流石にドライバーを手に入れただけではどうにもならないようですが……なってないよね……?
もう少し様子見しながら書くべきだったか……

あ、そういえば福さん変身してましたね。














33 逆境Ⅷ/ “なりたかったもの”

――――

――

 

 ヒーローとは何か?

 そう問われれば、多くの者がこう答えるだろう――“ヒーロー免許を取得した者”、と。

 だが答えにNoと突きつけたヴィランがいた。

 

 ――“ヒーロー殺し”ステイン。

 

 彼は現代のヒーロー観は根本から腐っていると主張し、その独自の思想から多くのヒーローを“粛清”してきた殺人鬼だ。

 ヒーローへの粛清は()()()()()()に逮捕されたことで終止符が打たれたが、その思想は瞬く間に広がっていった。

 良くも悪くもわかりやすい思想はマスメディアが積極的に取り上げ、逮捕された瞬間を収めた映像は削除と転載を繰り返すことで多くの人々へ広まっていった。

 皮肉にも、彼の伝えたかった英雄回帰の思想は逮捕された後に広まったのである。

 

「……また、一人」

 

 シーカーはレイズハンマーを振り下ろす。

 不意を突かれたヒーロー、ミッドナイトは一撃で意識を失い倒れる。後頭部からはおびただしい量の血が流れており、致命傷を負っていることは確かだった。

 

 ――MISSION CLEAR

 

 ヒーロー殺害のミッション達成を受け、彼の足元にボックスが出現する。

 蓋を開けると中にはマグナムバックルが収められている。

 

「……名誉欲に取りつかれた、偽物のヒーローは粛清だ」

 

 シーカーは仮面の下で涙が流れているのを感じる。

 

「なんだ……っなんだ、この涙は」

 

 シーカー――心瞳は変身を解除すると涙をぬぐう。

 そしてポケットから鉢巻きのような布――ステインのマスクのレプリカを取り出し身にまとう。

 

「……俺は間違っていない。ステインの意志は――俺が継ぐ」

 

 ――SET

 

 心瞳はマグナムバックルを装填し起動する。

 

 ――MAGNUM

 

「俺が――ヒーローの“あるべき姿”を取り戻すんだ」

 

 シーカーはマグナムシューターを構えると、次なる獲物を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

(っこんなミッション、クリアできるはずありませんわ……!)

 

 八百万――ロポは表示されるミッションに頭を抱える。

 校舎の破壊工作、ヒーローの殺害、一般人の下へジャマトを誘導する――どれも人を傷つけさせるようなものばかりで達成できそうもない。

 ロポは未だにエントリーフォームのまま、校舎内をさまよっていた。

 

「せめて……人を傷つけずにクリアできるミッションを――」

 

 ――“ラウドボイス”

 

 爆音波がロポを襲う。

 あまりの声量に彼女は咄嗟に耳をふさぐも、音波はその体を大きく傷つける。

 

「――見つけたぜ動物の仮面……!」

「あぅっ!」

 

 硬直し動けないでいるロポを攻撃の主――プレゼント・マイクが組み伏せる。

 普段は陽気な彼も、この状況とあって表情は硬かった。

 

「……気絶させたつもりだったんだけどな。スゲースーツじゃねえかよ」

「ま、まって……わたくしは」

 

 プレゼント・マイクはロポが抵抗していないことに気づくと拘束を解く。

 

「そんだけスゲースーツならよ、今街に蔓延ってるジャマトとも戦えるんじゃねえの?」

 

 代わりにその体を引き起こし、彼女の胸倉を掴む。

 その表情はとても険しく、ロポだけでないデザイアグランプリの参加者すべてに憤っていることをうかがわせた。

 

「なのになんでだッ!? なんで悪事(こんなこと)に使うんだよッ!?」

「ち、ちが……わたくしは、人々を守ろうと」

「とぼけんじゃねえよッ! てめえの仲間のせいでどれだけのヒーローが犠牲になったと思ってんだッ!?」

 

 デザイアグランプリ第1回戦、ヒーロー狩り。

 ゲームの結果、多くのヒーローが犠牲となっている。ロポはヒーローを一人も狩らずに勝ち残ったが、傍から見れば彼女も同類に見えるだろう。

 

「わたくしは……そんなことなど」

 

 弁明をしようとしていたロポは、廊下の角から銃口が覗いていることに気づく。

 

「っ危ない!」

「うおっ!?」

 

 マグナムシューターの銃口が火を噴くのと、ロポがプレゼント・マイクを突き飛ばしたのはほぼ同時だった。

 

「ッ!」

 

 銃弾はプレゼント・マイクの後頭部を掠め、ロポの左目に命中した。彼女は打たれた箇所を押さえながら倒れ込む。

 

「お前……俺を、庇って」

「……お怪我は、ないですか……先生?」

 

 ロポの変身が解除される。その正体を知ったプレゼント・マイクは驚愕で目を見開く。

 

「っ八百万!? お前、なんで」

「申し訳、ありません……事情を説明することは許されていないのです」

 

 彼女は左目を押さえつつ申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 ――SECRET MISSION CLEAR!!

 

 直後、八百万の足元にボックスが出現する。どちらにも牛のようなアイコンが描かれていた。

 

(っ視界が……!)

 

 彼女は空振りつつもふたを開ける――片方には重機を思わせるバックル――パワードビルダーバックル、フィーバースロットバックルが収められていた。

 

「――チッ……外したか」

 

 廊下の角から銃撃の主が姿を現す。

 鹿のような仮面に、マグナムシューターを構えたプレイヤー――シーカーだ。

 

「どけよ。そいつは名誉欲に取りつかれた()()のヒーローだ。正しくもないヒーローは、俺が粛清する」

 

 八百万はバックルを手に取るとシーカーに立ち向かう。

 

「貴方……もしや、ステインのフォロワーですの?」

「……だったらどうする」

 

 シーカーは挑発するように銃口を向けてくる。プレゼント・マイクは状況が飲み込めずに呆然と二人のやり取りを見つめている。

 

「決まっています――」

 

 ――SET CREATION!

 

 八百万はギガントブラスターバックルのセットされたパワードビルダーバックルをベルトへ装填。そのままバックルを起動する。

 

「貴方を、止めるまでですわっ! 変身!」

 

 ――DEPLOYED POWERED SYSTEM : GIGANT BLASTER

 

 八百万――ロポはパワードビルダーフォームに変身、召喚されたギガントブラスターを構える。

 

「あくまで、他人のために力を使うのか……お前も偽物の卵だと思っていたが、違うようだな」

 

 シーカーは銃口をロポから外す。

 その瞬間をロポは見逃さなかった。すぐさまセメントのような物質を生成し壁を作り上げる。

 

「先生っ! 今のうちにお逃げくださいッ!」

「っ馬鹿言え! 仮にも生徒のお前を置いて逃げ――」

 

 プレゼント・マイクはロポと共に戦おうとするも、すぐさま壁に入ったヒビを見て固まる。

 

「ぅっ判断が早い……!」

「――小細工だな」

 

 壁が砕かれシーカーが姿を現す。そのドライバーは反転し、空いていたスロットにはハンマーバックルが装填されている。

 レイズハンマーを召喚することで壁を破壊したのである。

 

「狭い室内なら、飛び道具よりは近接武器の方が取り回しやすい!」

 

 シーカーは両足のアーマードガンを展開し回し蹴りをしつつ銃弾を放つ。

 ロポは避けようとするも、目測を誤り躱し損ねてしまう。

 

「っほれ見たことか!」

 

 プレゼント・マイクはボイスでシーカーをけん制しつつ、ロポを連れてその場を離脱する。

 

「……地の利は向こうにある。が、逃がしはしないッ!」

 

 シーカーもまたその後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ロポはプレゼント・マイクに引きずられながら逃走する。

 

「先生っ……離してくださいましッ」

「んなことできるかよっ! 第一、聞きたいことが山ほどあるんだ!」

 

 彼は背後から迫るシーカーの足音に冷や汗を流しつつも、必死で駆ける。

 

「それに、お前を見捨てたらヒーロー――ッていうか教師失格だろ!?」

「ッ……!」

 

 銃弾がプレゼント・マイクの逆立った髪を貫通する。

 彼は振り返りざまに音波攻撃を放って牽制しつつ、廊下の角を曲がる。その後ロポがギガントブラスターを使い壁を作り上げ道をふさいだ。

 

「っぱとんでもねースーツだ。全然効いてねーぞおい」

「……そのはずですわ。これはジャマトと戦うための装備、ですもの」

「ハァン!? ならなんでヒーロー殺しなんてやってんのよ!?」 

 

 プレゼント・マイクの問いかけにロポは目を伏せる。

 

「本当はジャマトから世界を守るゲームだったそうです。ですが……何者かによってそれがゆがめられてしまっているようなのです」

「ゲームゥ? よくわかんねぇな」

 

 彼は頭を掻きむしりながら問い返す。

 

「世界を守るってのに、なんでゲーム形式なワケよ?」

「えっ……」

 

 その言葉にロポは固まる。

 言われてみれば確かにその通りである。世界を救うという大義名分があるのにそれを“ゲーム”と言う形に落とし込んでいるのである。

 世界を守るという口実が本当ならば、わざわざゲームとする必要はなく、そもそも戦いに不慣れな素人を起用する必要はどこにもない。

 

(もしや……デザイアグランプリには世界を守る、以外に目的が?)

 

 ロポは自分の父が関わっている以上、純粋に()な目的のためにデザグラが存在していると思い込んでいた。

 だが、プレゼント・マイクの指摘の正当性は痛いほどに理解できていた。

 もし、デザグラが世界を守る“正義”を掲げているなら、なぜそれをゲームとして扱っているのか。なぜ“理想の世界を叶える”という報酬をエサに参加者を競わせているのか。

 

(ですが他に一体……)

 

 思考を進めるロポだったが、悠長に構えている余裕はなかった。

 

「――思った通り、あの壁は偽物だよな」

 

 シーカーが目の前に現れる。

 

「だったら、先回りしてみればいい。地の利が無くても、全体マップがあれば問題ない」

 

 彼はスパイダーフォンを掲げてみせる。

 ゲームである以上、雄英高校の校舎内のマップデータは全参加者が持っているのである。

 

「先生、下がっていてください」

「そりゃこっちのセリフだぜ」

 

 ギガントブラスターを構えシーカーに向き直るロポ。それに負けじと前に出るプレゼント・マイク。

 

「ふん……今更行動を改めたところで、粛清対象であることには変わりないさ」

 

 シーカーはレイズハンマーを肩に担ぐように構えた。

 

 ――一陣の風。

 

「レディ――ファイト、ってな!」

 

 ギガントブラスターの弾丸を弾き、爆音波を物ともせずにシーカーは突撃する。

 ロポのギガントブラスターとレイズハンマーがぶつかり、鍔迫り合いが起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 心瞳 創。性別は男性、年齢は18。

 彼の父はヒーローだった。

 名を“親切ヒーロー”カイン、お世辞にも有名であるとは言えないマイナーヒーローであり、ビルボードチャートにかすったことすらない最底辺のヒーローである。

 しかし他のヒーローに手柄を横取りされても“救われた人がいるならそれでいい”、と言ってのける高潔な精神の持ち主だった。

 彼の母は、父のそんな穏やかな部分に惹かれて結婚したのだという。

 トップでなくとも良い、誰かに必要とされ、誰かの助けになるような、そんな“ヒーローの鏡”と言えるような父に惚れたのだ、と彼の母は語っていた。

 心瞳少年はそんな素朴な家庭で生まれ、4歳の個性が発現するその日まで幸せな人生を過ごしていた。

 

 

 

 

 

――――

 

 運命は個性が発現した日に大きく狂い始めることになる。

 心瞳少年の個性は“メンタルエネルギー”、身体強化できる“増強系”の個性でその強化幅は抱いている感情によって変化する。落ち込んでいるときは全く力を発揮できず、逆に怒りなど激しい感情を抱いているときは無類の力を発揮する個性だ。

 それは両親の個性の個性が混ざり合い、昇華したしたものだった。

 

 ――増強系の個性はそれだけでわかりやすく、華がある。

 

 心瞳少年の個性は彼の母に眠っていた野心に火をつけてしまった。

 

『――創、おまえは将来ヒーローになるのよ』

 

 母の言葉に、心瞳少年は大きく頷く。

 ヒーローの鏡のような父を見て育っている彼は、誰に言われるまでもなくヒーローになりたいと思っていた。

 

『でも父さんみたいな万年底辺なダメヒーローになったらダメよ? ちゃんとビルボードチャートに載るような――いえ、載っても名簿の片隅じゃなくてトップ100位以内に入れるような、そんなヒーローになるのよ?』

 

 しかし続く母の言葉に、心瞳少年は首をひねるばかりだった。

 なぜランキングに載るようなヒーローにならなけばならないのか、全く理解できなかった。

 父の様に、誰かを助け、感謝されるようなヒーローになりたい。それが心瞳少年の原点(オリジン)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 個性の診断がされた翌日から、彼の母の英才教育が始まった。

 

『――創、お塾の見学に行くわよ』

 

 名を成すヒーローの大半は名のあるヒーロー科高校のOBである。

 特にランキングトップの出身校である雄英高校に入学できれば活躍が約束されると言っても過言ではない。

 ただし、雄英高校のヒーロー科は倍率数百倍の難関で偏差値も80に迫る難関校だ。

 故に幼いころから学を身につけなければ合格するのも難しいだろう。

 

『――創、習い事を始めましょう。そうね……無難に音楽がいいかしら』

 

 ショービズ色の強い昨今のヒーローは一芸だけでは務まらない。多芸であれば多芸であるほど活躍の場が広まるものである。

 

『――体が弱くちゃヴィラン退治もできないわ。体も鍛えなくちゃいけないわね』

 

 当然、ヒーローの主業務は街の平和を守ることである。ヴィランに負けるヒーローなどいないに等しい。

 過度なトレーニングは成長の妨げになるが、早いうちから鍛え始めた方が他と差がつくものである。

 

『――友達は選びなさいね? 没個性の子とお友達になっても将来のためにはならないわ』

 

 人脈はとても大事なものである。

 悪の道にたぶらかす友と付き合ってしまえば、たちまち人生はお先真っ暗。自分も引きずり込まれてしまうことだってあるだろう。

 

『――泣き言を言うんじゃありませんッ! こんなところで弱音を吐いていたら立派なヒーローにはなれないわよッ!』

 

 塾に習い事にトレーニング、たまの休みに遊ぶ友達は無理やり交友を断たれ、さほど仲の良くない子と無理やり引き合わされる。

 度の過ぎた英才教育に心瞳少年の心はすり減らされていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 だがそんな英才教育に異を唱える者がいた。

 

『――流石にやりすぎだぞ。創だって泣いてるじゃないか』

 

 彼の父は英才教育で疲弊する心瞳少年を見て、それに反対していた。

 子供が望むならそれをやらせてあげたい。だが泣いているのに無理やりやらせるのには反対の立場だった。

 

『創のためよ。将来ヒーローになりたいって、あの子が言うんだもの』

『あんなことしなくたってヒーローにはなれるよ! 毎日塾に習い事なんて、創がかわいそうじゃないか!』

『そうやってあなたが甘やかすから創が泣き言を言うんじゃないのッ! あの程度で音を上げてちゃトップヒーローになんてなれっこないわよ!』

『トップヒーローだけがヒーローじゃないだろっ!』

『そんな考えだからアンタは“万年底辺”のヒーローなんじゃないッ!』

 

 母の言葉に父が凍り付いた。

 心瞳少年はその時の傷ついた父の表情が、今でも忘れられなかった。

 

『万年底辺……ずっと、そう思ってたのか?』

『っええそうよ! 折角の手柄を他人に横取りされてッ! ヒーローやってるって言っても嘘だって思われるような無名ヒーローじゃないッ!』

 

 そして激昂する母の醜い表情も、今もなお頭にこびりついていた。

 

『恥ずかしくて仕方ないわよッ! 友達の旦那さんは立派な商社マンにいいとこの役職持ちよっ! それなのにアンタは……誰も知らないような名もなきヒーローじゃないのッ! とても大きな声じゃヒーローやってるなんて言えないわよッ!』

『……悪かったよ、万年底辺で。他人を蹴落とすなんてどうしても性に合わないんだ……っでも、創は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 ――母の怒号が響き渡る。

 

 もはや人の言葉でなく獣の雄叫びにも近いそれはしばらく止むことは無く、終止符を打ったのは怒号を聞きつけてやってきた巡回中のヒーローだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 母の心無い罵倒を浴びた父は心を壊し、ヒーローを廃業してしまった。

 英才教育は歯止めが効かなくなり、心瞳少年の心は壊れ切ってしまった。

 

 そして中学校入試。彼は答案用紙を白紙で出して見事不合格。

 発狂する母を尻目に彼は自分の部屋に引きこもった。

 もう何もかも嫌になっていた。

 真っ暗な部屋で空虚に過ごす一日。一日も自由な日の無かった彼にとって、何もしないでいいことはたまらなく爽快だった。

 何もすることなく、ただ呆けて過ごす――彼は齢12にして隠居した老人のような枯れた精神となってしまっていた。

 彼の母は引きこもる心瞳少年に兵糧攻めを行い、音を上げて外に出るのを待ち構えていた。

 だが彼はその程度では動じなかった。もはやそのまま干からびて死んでしまっても構わないと感じていた。

 

 心瞳少年は兵糧攻めの末、脱水症状で病院に搬送されることとなる。

 彼の母はついにその野心の炎が消え、彼の引きこもりを肯定してしまう。

 “したいようにしていいから、どうか死なないでくれ”、その言葉に彼は爽快感を覚えた。

 何もない自分の部屋で空虚に過ごす。

 死ぬまでそうしてやろうと思っていた。

 それこそが母へのささやかな復讐だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 引きこもり始めてから8年の時が経った。

 彼は衝撃的な出会いをする。

 

 ――“ヒーロー殺し”、ステイン。

 

 その独自のヒーロー観は彼に衝撃を与え、失われていた“生きる意味”をよみがえらせた。

 

(そうか、今のヒーローは間違っているんだ)

 

 ヒーローランキング――名誉欲に取りつかれたヒーローの蔓延る今の社会は間違っている。

 ランキングなどなければ両親の不仲は訪れなかった。

 ヒーローが真に平和を希求する職業ならば、そもそも母があそこまで狂うこともなかった。父は今でもヒーローを続けることが出来た。

 

「……粛清、だ」

 

 心瞳はステインに心酔し、その教えに準ずる決意をした。

 手始めに部屋の外へ出た。

 久しぶりの外はとてもまぶしく、とても腹立たしかった。

 名誉欲に取りつかれたヒーロー(クズども)の蔓延る世界の空気を吸うことに嫌悪感すら覚えた。

 

 だがステインの教えを全うするためには、彼は衰えすぎていた。

 家の外へ出て数百メートル歩くだけで息切れをしていた。

 衰えた体力を取り戻すためにトレーニングを始めた。

 子供の頃はあんなにもやりたくなかったそれは、とても楽しかった。

 全ては正しきヒーローを取り戻すために、彼はそのためにひたすら鍛錬を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

『――おめでとうございます。厳正なる審査の結果、貴方は選ばれました』

 

 そんな彼の下にデザイアドライバーが届けられる。

 理想の世界を叶えるゲーム、デザイアグランプリ。

 心瞳は配られたデザイアカードに願いを書きこむ。

 

 ――“正しきヒーローのみ存在する世界”

 

 名誉欲に取りつかれたヒーローは粛清しなければならない。

 全ては正しきヒーローのため、ステインの教えを全うするため。

 

 こうして、最もヒーローを狩ったライダー――シーカーは誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ロポ&プレゼント・マイクとシーカーの戦闘は佳境を迎えていた。

 

 ――D・Jパンチ!

 

 プレゼント・マイクの拳がシーカーに命中する。

 

「かっってぇ! なんて装甲してやがんだ」

 

 しかしライダーのスーツは生身の拳を受け付けるほどヤワではない。彼は痛そうに手を振っている。

 

 ――GIGANT HAMMER

 

 ロポはギガントハンマーを召喚しシーカーへ振り下ろす。

 

「チッ! リーチが違すぎるな」

 

 その大きさはシーカーのレイズハンマーとは比べ物にならなかった。加えてギガントハンマーはスラスターによる加速が可能だ。

 

「はっ!」

 

 ロポのギガントハンマーは距離を置こうとするシーカーの体を捉え、そのまま廊下の窓を突き破りながら外へと追い出す。

 

「あっ! やってしまいましたわ……」

 

 追い出すつもりはなかったのか、ロポはしまった、と口に手を当てる。

 

「セメントスとパワーローダーが後で治すさ! いいから後を追う――」

 

 ――GRAND MISSION

 

 後を追おうとする二人だったが、ロポのスパイダーフォンが鳴動する。

 制限時間はとっくに半分を過ぎており、グランドミッションの開催タイミングとなっていたのだ。

 

 ――GRAND MISSION:クイーンジャマトを討伐(0/1)――報酬:コマンドジェットレイズバックル

 

「っそんな……斃したばかりですのに」

女王(クイーン)ってことは」

「ええ、かなりの強敵ですわ」

 

 クイーンジャマトは複数の個性を使ってくる強力なジャマト。その肉体はゴムの個性を持っているせいで打撃攻撃が通用せず、複製体を生み出す個性で数の利も通用しない、まさに強敵である。

 

「わたくしはシーカーを追いますわ。ですから先生は避難民の方々を」

「ああ……ッヤオヨロズ」

 

 プレゼント・マイクは普段の彼に見合わない険しい表情でロポを見つめる。

 

「死ぬんじゃねぇぞ。ちゃんと生きて帰って、イレイザーにこっぴどく叱られな」

「……ええ!」

 

 ロポは壁に開いた穴から外へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 地面に落下したシーカーはしばらく動かず、呆然と空を眺めていた。

 

「はァ……やっぱ、あのバックルは欲しいなぁ……より多くのヒーローを粛清するには、あの力がいる」

 

 ――REVOLVE ON

 

 ロポの使っているパワードビルダーバックルはシーカーと相性のいいバックルだ。その力を引き出すことで彼は多くのヒーローを狩ってきていた。

 シーカーは再び召喚されたマグナムシューターを冷めた目で見つめる。

 

「――諦めた、ワケではなさそうですわね」

「当然だ。お前を斃してそのバックルを手に入れる。そして俺はステインの教えを全うする」

 

 地面に降り立ったロポをシーカーは冷ややかに見つめる。

 

「……でしたら――」

 

 ――GIGANT HAMMER

 

 ロポはギガントハンマーを召喚して構える。

 

「力ずくで、貴方を止めてみせますわ!」

「ふん……止めてみな」

 

 マグナムシューターから無数の弾丸が放たれる。

 ロポはギガントハンマーを地面に打ち付け、無数の壁を作り出すことでそれを防ぐ。

 シーカーはそれをパルクールの要領で飛び越えつつアーマードガンを展開し銃撃を繰りだす。ロポは負けじと壁をハンマーでたたき無数の柱を形成、シーカーの着地先を奪っていく。

 

「チィッ!」

 

 シーカーは舌打ちしつつも雲梯の様に柱を掴み、次々と飛び移りながらロポを追いかける。

 

 ――GIGANT BLASTER

 

 ロポはギガントブラスターで足場を形成しつつ逃走する。

 

 ――RIFLE

 

 シーカーは追いつくことが難しいと判断し狙撃を試みるも、ロポは壁の向こうへと消えてしまう。

 

 ――GIGANT SHOOTER

 

 ロポの武装が交換された音が響く。

 シーカーはいつどこから攻撃されても大丈夫なように身構える。

 

 ――弾丸がシーカーの角を掠める。

 

「っしま――」

「残念だったな!」

 

 不意討ちの攻撃はわずかに狙いがそれてしまう。ロポは左目を負傷しており、距離感をうまく測れていなかった。もし彼女が万全な状態であれば、攻撃は問題なくシーカーに命中していただろう。

 

 ――MAGNUM HAMMER VICTORY!

 

 シーカーはすかさずバックルを起動し必殺技を放つ。

 一瞬で距離を詰め、シーカーのアッパーカットがロポに命中する。彼女の体は大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――あれ……私、なんでここにいるんだろう……?

 

 彼女はふらふらと雄英高校の敷地内をさまよう。

 ここに至るまでの経緯を必死で思い出そうとするも、頭に霞がかかっているようではっきりと思い出せない。

 

 ――あ、轟くんだ

 

 彼女は見覚えのある紅白頭に気づくと声をかけようと手を伸ばす。

 

「ジャ……」

「ッジャマト!? なんでここに!」

 

 轟は即座に臨戦態勢に入ると氷結の個性を発動する。

 

 ――え……?

 

 彼女は攻撃されたことが理解できずに戸惑う。下半身はたちまち凍り付き、身動きが取れなくなってしまう。

 

 ――どうして……ッ!

 

 彼女は自分の手を見つめて息を呑む。

 決して見ることのできなかった自分の手がはっきりと見ることができるのである。

 それはどこからどう見ても人間の手ではなく――

 

「ナ、ニ……?」

 

 異形の手だ。

 食虫植物を思わせるような、生理的嫌悪感をあおるような悍ましい形をしていた。

 

「――先生っ! ジャマトがいる!」

 

 轟は通信機を使って教師陣に連絡を取っている。

 

 ――()()()

 

 彼女は体中に電流が走ったかのように体を強張らせる。

 それは彼女の思考能力を完全に奪い去り、体の自由が効かなくなる。

 

「ニ、ゲ……テ」

 

 彼女の体から蒼い炎が迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――っ!」

 

 吹き飛ばされたロポは校舎の壁に体をぶつけると、その変身を解除する。

 

「――八百万!?」

 

 その先は偶然にも轟とクイーンジャマトの交戦場所だった。

 

「っ……轟、さん……なぜここに?」

「避難所の警備だ! 強制ってワケじゃないが、ヒーロー科の奴は大体参加してる!」

 

 轟はクイーンジャマトの炎を躱しつつ八百万の問いに答える。焼け石に水だが、氷の壁で彼女を炎から守っている。

 

「相澤先生は呼んである! ここは俺が押さえるからお前は逃げろっ! 近くに飯田もいるはずだっ!」

 

 八百万は呻きつつ体を起こす。

 IDコアは損傷していないものの、必殺技を受けたことで既に満身創痍の状態だった。

 外れて落ちているパワードビルダーバックルに手を伸ばし、再び変身しようとするも手は震えバックルを装填できないでいる。

 

「……それはできませんわ……生身の人間で、ジャマトには勝てませんもの」

「試験の時とは違う! こいつは本物の――」

「――なんだ、生きてたのか」

 

 八百万に肩を貸し、どうにか逃げようとする轟の前にシーカーが姿を現す。

 

「それにお前は……エンデヴァーの息子か。その紅白頭、動画でよく見る」

「っ……!」

 

 新手の登場に轟は顔を顰める。

 負傷をしている八百万を連れながらではとても2対1で戦うことはできない。

 

「まあ、この状況で怪我したそいつを見捨てないということは、最低限の良識は持っているようだ。ならば粛清の対象にはならないな」

 

 シーカーはマグナムシューターの銃口をクイーンジャマトへ向ける。

 

「お前がクイーンジャマトか。お手並み拝見と」

「ジャ」

 

 クイーンジャマトの姿が消える。その体は筋繊維の鎧につつまれており、増強された脚力で一気にシーカーの懐に潜り込む。

 咄嗟に腕を交差させて防御しようとするも間に合わず、強烈な右ストレートを喰らってしまう。

 

「ジャァ!」

 

 さらにクイーンジャマト手の平に口のような器官が形成され、そこから無数の歯が刃の様に伸びていく。

 元々は歯を鋭利な刃物の様に変化させるだけの個性。この個性の持ち主は自分の口から伸ばした歯を駆使して獲物を切り刻む快楽殺人者だった。

 人間が扱えばどう頑張っても顔についた口からしか歯の刃を生み出せないが、ジャマトが扱えば見てのとおりである。

 

「くそっ……! 一旦退いて」

 

 シーカーは攻撃を受け止めつつ、それを受け流して退避しようとするも、背後に誰かがいることに気づきそれを取りやめる。

 

「――轟さん、もう結構ですわ」

「おい何を」

 

 ――SET CREATION!

 

 八百万はロポへ変身し、クイーンジャマトへ駆けていく。轟は止めようとして手を伸ばすもその姿を見て固まる。

 

「変身、した……?」

 

 轟は目の前のことが理解できずに呆然としていた。

 そんな彼をよそにロポはギガントソードを構えてクイーンジャマトへ斬りかかる。

 

「ジャ」

 

 クイーンジャマトは反対の手にも口を生成し、そこから歯の刃を生み出す。

 ロポはそれをギガントソードで打ち破りつつ接近していく。

 

 ――GIGANT STRIKE!

 

 ギガントソードが横なぎに振るわれ、クイーンジャマトを吹き飛ばす。しかし、ロポの状態が万全でなかったがゆえに撃破には至っていなかった。

 

「……なんだ、助けてくれるのか」

 

 攻撃を受け続けていたシーカーはがくり、と膝をつく。彼の背後には雄英から逃げようとしていた一般女性が腰を抜かしてへたり込んでいた。

 彼は、女性を守ろうと体を張っていたのである。

 

「ひ、ひぃぃっ!」

 

 女性は守ってくれたシーカーには目もくれず一目散に逃げだしてしまう。

 

「……貴方、もしやあの女性を守ろうと」

「さあな……」

 

 シーカーのIDコアにはヒビが入ってしまっており、その変身が解除される。

 シーカー――心瞳は自嘲するように笑っている。

 

「気が付いたら、体が勝手に動いていた」

 

 彼はロポへ視線を向け、ゆっくりと指をさす。

 

「もう一人のもじゃもじゃ頭に、伝えとけ……!」

 

 その体は徐々に消えかかっている。

 

「お前も、名誉欲に取りつかれているなら――おれが、しゅくせいする、ってな……!」

 

 ――MISSION FAILED...

 

 心瞳の体が消滅し、マグナムバックルとハンマーバックルが地面に落ちた。

 ロポ――八百万は変身を解除するとそれを拾い上げた。

 

 

「……貴方の事情は存じ上げませんが――もし、道が違えば、貴方もヒーローだったのかもしれませんわね」

 

 名を成すヒーローはデビュー前から多くの逸話を残している。

 どの話も詳細は異なるが、最後はこの言葉で締めくくられる。

 

 ――“気が付けば体が動いていた”

 

 八百万は心瞳の過去を一切知らなかった。だがその根本はヒーローにふさわしかったのではないかと直感していた。

 

「ジャ……ジャ……!」

 

 必殺技を受けてダウンしていたクイーンジャマトが呻きながら起き上がる。ゆっくりとその腕を上げ、歯の刃を生み出そうとするも、何も起きない。

 

「――ジャマトの力が個性なら、俺の抹消で止まる」

 

 続けざまに伸びてきた捕縛布がクイーンジャマトを拘束する。

 

「相澤、先生……!」

 

 捕縛布の持ち主は相澤だ。ゴーグルを装着しており、その向こう側では赤い瞳が輝き個性が発動中であることを示していた。

 

「――八百万さん! 大丈夫っ!?」

 

 相澤の後を追いかけるように緑谷が姿を現す。更にその後ろを不満そうにおかっぱ頭の女子――小森がついて来ている。

 

「……また女の子かぁ

「おい小森……お前は避難誘導に加われと言ったはずだが……まあいい」

 

 呆れてため息をつく相澤に緑谷は口早に伝える。

 

「気を付けてください。個性がなくても元々のパワーは人間以上です」

「ああ、心得て――ッ!?」

 

 緑谷の忠告に相澤は捕縛布を握り締めるも、クイーンジャマトが内から思い切り引きちぎろうとし――今にもそれがなされてしまいそうで冷や汗を浮かべている。

 

「ッ八百万さん、後は僕に任せて」

 

 ――SET

 

 緑谷はニンジャバックルを装填しつつ八百万の前に立つ。

 

「……いいえ、わたくしもまだ、戦えますわ……っ!」

 

 ――SET

 

 八百万もふらつきながら緑谷の隣に並び立つ。装填するのはマグナムバックル――パワーはあるが取り回しずらいパワードビルダーよりは扱いやすく、援護もできるという判断だろう。

 

「っ……二人共変身するなら急げっ! もう保たん!」

 

 捕縛布は今にも千切れそうで、相澤の瞳からは大量の涙が漏れ出ていた。

 彼の瞳が閉じる瞬間、氷塊がクイーンジャマトを拘束する。

 轟がいち早く反応し、拘束に動いたのである。

 

「「変身っ!」」

 

 ――NINJA

 ――MAGNUM

 

 変身が完了するのと、クイーンジャマトが氷結から抜け出すのはほぼ同時だった。ジャマトはすかさず糸を放出し、厄介な相澤を排除しようとする。

 

「させるかっ!」

 

 轟の炎が阻止する。糸は焼き切れて灰となる。

 

「……轟、小森、()()は援護だ。緑谷と八百万の援護だ。悔しいがジャマトはヒーローでも手に余る」

 

 相澤はゴーグルのうちに溜まっている涙をぬぐい取り、再び個性を発動しクイーンジャマトの能力を封じる。

 

「死ぬなよ……緑谷、八百万!」

「「はいっ!」」

 

 タイクーンとロポはそれぞれ武器を構える。

 生き残ったプレイヤーは彼らのみである。

 敗北してしまえば――雄英高校を含むジャマーエリアは消滅してしまうのだ。

 

 ――READY FIGHT!!

 

 負けられない戦いが、今始まる――

 

 

 

 

 

 

 

 















次回で逆境編はラストです!
逆境編の次は今度こそ終章です!
デザイアグランプリを取り戻し、理想の世界を叶えることができるのか。それともこのままバッドエンドルートを突き進んでしまうのか……もう少しだけお付き合いくださいっ!

……あ、そうだ。ほのぼのifルートも考えねば。
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