【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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逆境編、ラストです。
暗い展開を逆転するような明るいストーリーを心がけましたが、余計曇らせるような展開になってしまいました……どうしてこうなった……
予定とは少し異なる最後となってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。














34 逆境IR / ゲームは終わらない

――――

――

 

 ――十数分前。

 

 クイーンジャマトの出現を受けたタイクーンは大急ぎで出現地点へと向かう。

 

(上位の個体も複数存在してるのか……? だとしたらかなり厄介だぞ……っ!)

 

 危惧するのはクイーンジャマトがより強力な個性を宿していた場合――つまり以前に戦った個体よりも強化されていた場合である。

 

(ブーストバックル……正直終盤まで温存したいけど、使わざるを得ないかもしれない)

 

 考え事をしながら走っていたタイクーンは目の前に生えていたキノコに気づかなかった。

 

「へっ?」

 

 それはぬめりながら輝いているなめこ。当然無防備に踏みつければ滑って転んでしまうこと間違いなしである。

 

「な、なんでなめこぉっ!?」

 

 バナナで滑る人よろしく、タイクーンは無様に大転倒してしまう。

 

「っこ、このトラップ……覚えがあるぞ……」

 

 ――『即席なめこちゃんトラップ☆ 足元注意ノコ♪』

 

 痛そうに腰をさすりながら記憶を探る。

 あれは小森に呼び出されたときの事だ。あの時も無様に引っかかって転倒してしまっていたことを思い出す。

 

「うっ!」

 

 そんなタイクーンに捕縛布が絡みつく。

 たちまちミイラの様にがんじがらめとなってしまう。

 

「……動物の仮面に黒のスーツ。成程、目撃証言通りだ」

 

 タイクーンはこの捕縛布と声の主を知っている。

 

「小森、こいつのベルトを引っぺがせ――タヌキ野郎。妙な動きはするなよ」

 

 茂みの中からおかっぱ頭の女子――小森が姿を現す。その手にはキノコの胞子をばらまくためのサポートアイテムが握られている。

 彼女は用心しつつタイクーンへ近寄り、恐る恐るといった風にそのベルトへ触れる。

 

「――っ!?」

 

 その手が偶然にもベルトのIDコアに触れ、彼女の脳裏に()()()()()()()が蘇る。

 救助訓練中に謎の生命体(ジャマト)に襲われたこと、命を奪われそうになったところをタイクーンに助けてもらったこと、そしてそんな彼に――

 

「イズク……?」

「っそうか、IDコアに触ったから……」

 

 小森は両目からぽろぽろと涙をこぼしながらタイクーンに抱き着いた。

 

「よかった……! イズク()死んじゃってたと思ったノコ……!」

「えっ……死……?」

 

 彼女の言葉にタイクーンは戸惑う。

 確かにこの状況、連絡がなければ何かあったのかと思ってしまうだろう。だがタイクーン――緑谷()死んだとされるのには違和感があった。

 

「……その声、確かに緑谷だな」

「……はい」

 

 捕縛布が緩められたことで両腕が自由になる。タイクーン――緑谷は変身を解除して相澤へ向き直る。

 

「成程、それが事情か」

「へ?」

「……いや、こっちの話だ。お前の知っていることをすべて話せ」

 

 緑谷は口を閉ざす。

 デザイアグランプリのルールでは、ゲームのことを無関係な人間に話してしまうことは許されない。それはデザイアグランプリの事を――ひいてはジャマトのことを隠ぺいするためなのではないだろうか?

 ならば、ジャマトが解き放たれている今ならば――

 

「世界を守る、ゲームでした――」

 

 全てを語ってしまえばルール違反により脱落してしまうかもしれない。

 緑谷は言葉を選びながら自分の立場を説明する。

 自分たちはジャマトから世界を守るために戦っていたこと。しかし仕切っている者が変わったのか、ジャマトと共に世界を滅ぼさねばならなくなってしまったこと。そして今は本来あるべき姿を取り戻すために戦っているということ。

 

「……合理性に欠けるな。素人に武器を渡したところで所詮は烏合の衆、最初からジャマトと戦わせるために訓練させた方が戦力になるはずだ。恐らく、お前も知らない裏があるんだろうな」

 

 相澤はため息をつきながら緑谷のデザイアドライバーを掴む。手のひらがIDコアに触れ、記憶が蘇る。

 

「安心しろ。もうお前が戦う必要はない。後はプロヒーロー(おれたち)に任せろ」

 

 彼は一瞬ためらうも、ドライバーを引きはがして自分の腰に当てる。

 そして緑谷からニンジャバックルを奪い取ると、ドライバーに装填、バックルを起動させる。

 

「何故だ? 何故反応しない?」

 

 しかし相澤が何度バックルを起動させようとも反応することは無かった。

 

「……多分、僕にしか使えないようになっているんだと思います」

 

 デザイアドライバーはIDコアによって使用者を認識する。

 万が一、持ち主以外が使おうとしても変身できないようになっているのである。

 緑谷はドライバーを取り戻すと再び自分の腰に装着する。

 

「ごめんなさい……これが違法であることはわかっています……! っでも、これしか方法がないんですッ!」

 

 デザイアグランプリに優勝すれば理想の世界を叶えることができる。

 退場した人を蘇らせたり、今まで理不尽に奪われてきた命だって取り戻すことができる。

 その権利を持つのは“仮面ライダー”に選ばれた者のみ。

 

「……緑谷、俺はお前を除籍するつもりはない。もちろん狐火も、葉隠も、な」

「っ……!」

 

 相澤の出した名前は奇しくも緑谷と共にデザイアグランプリを戦っていた者達。

 

「林間合宿の襲撃でB組の生徒が半分行方不明になっている。恐らくジャマトに殺害されたんだろうな」

 

 その言葉に小森は辛そうに眼を伏せた。

 通常、デザイアグランプリに巻き込まれ命を落とした一般人は、ゲーム終了時にその命を取り戻す。すべてが()()()()()()になるのだ。

 だがそれは通常のデザイアグランプリの話だ。

 

「もし本当に理想の世界が叶えられるなら、俺はその可能性に賭ける」

 

 相澤の鋭い視線が緑谷を貫く。

 

「それがプロヒーローとしての()()()判断だ」

「……はい」

 

 緑谷はぎゅっと拳を握り締める。

 その肩にまた一つ、大きな責任がのしかかっていた。

 

 ――♪

 

 その時、緑谷のスパイダーフォンが鳴動する。

 プレイヤーがまた一人――シーカーが退場してしまったのである。

 

「っそうだクイーンジャマト!」

「俺も行こう。個性を使うジャマトがいると聞いている。小森、お前は周囲にいる人を避難させろ」

 

 緑谷と相澤は駆けだす。

 

「……むぅ」

 

 小森は憮然と佇むも、指示を無視して二人の後を追いかけた。

 恋する乙女はなんとやら、暴走しないことを祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――そして現在。

 

 タイクーンはクイーンジャマトへと駆けていき、ロポはその後ろから援護射撃を行う。

 左目を負傷し狙いをうまく定められないロポだが、マグナムチェスターの機能により命中精度は向上している。

 

「マ、マッ、テ」

 

 クイーンジャマトは戸惑ったように後ずさり逃げようとするも、轟が氷壁を生み出して退路を断つ。

 

「はっ!」

「ッ!」

 

 ニンジャデュアラーがクイーンジャマトを切り裂く。

 打撃攻撃には耐性があっても斬撃に対しては無力である。呻きながら後退するもそこには氷の壁が存在している。

 

 ――ROUND 1

 

 すかさずシュリケンラウンダーを回転させ、タイクーンは必殺技を放つ。

 

「ヤメー―」

 

 ――TACTICAL SLASH!

 

「ジャァッ!!」

 

 タフネスは普通のジャマト以上にあるのか、氷の壁に体をめり込ませるも爆散しない。

 

「とどめだ――」

 

 ――ROUND 1・2・3! FEVER!

 

 タイクーンは無数の分身を生み出し、ニンジャデュアラーに火・水・風・土――元素の力を纏わせ振りかぶる。

 

「モ、ヤメ……テ」

「ッ!?」

 

 ツタがほどけるようにクイーンジャマトの顔が露になる。

 現れるのは少女の顔――まるで楊貴妃とザビエルを足して二で割ったかのような顔立ちだった。

 人の顔が現れたことでタイクーンは攻撃を躊躇ってしまう。

 

「――ッ」

 

 間の悪いことに、相澤が瞳を閉じて個性が解除されてしまう。抹消の個性は強力だが、彼自身がドライアイであるため効果が長続きしないのである。

 個性が復活した途端、クイーンジャマトは即座に動き出す。

 その体から炎が噴き出しタイクーンを吹き飛ばす。氷壁が蒸発することで蒸気が発生、煙幕の様に視界を遮る。

 

「――させませんわ!」

 

 ――RIFLE

 

 霧に乗じて逃げ出そうとするクイーンジャマトだったが、ロポの狙撃によってそれを阻まれる。

 

「イ、イヤ……」

 

 クイーンジャマトは体勢を崩しつつもなお逃走を試みる。その体が徐々に透明へと変化していく。

 

「まずいっ……逃げられ――」

 

 透明になりつつあるクイーンジャマトの体から、ぴょこんとキノコが生える。それは炎を思わせる形をしていた。

 1本生えたのを皮切りに次々とキノコが生い茂っていく。

 

「ジャッ?」

 

 クイーンジャマトはうっとうしそうにキノコを払いのけようとする。

 

「――――ッ!!」

 

 が、キノコに触れた瞬間ジャマトは苦しみ始める。

 

「――カエンタケちゃん。人間相手じゃ使えないけど、ジャマト相手なら関係ないノコ見つけても触ったらダメキノコだよ?

 

 小森はサポートアイテムを構えながら舌を出している。

 

「イ、イタイ……!」

「……っ!」

 

 タイクーンはのたうち回るクイーンジャマトを前にしり込みしてしまう。

 隙だらけの今ならいくらでも必殺技を叩きこんでとどめを刺せる。

 だがなぜだか――クイーンジャマトが助けを求めているように感じてしまった。

 

「タイクーン! 何を躊躇っているのですッ!?」

「っそう、だね」

 

 ロポに促されタイクーンはバックルを起動させる。彼女もまた、マグナムシューターにバックルを装填し起動させる。

 

 ――NINJA STRIKE!

 ――MAGNUM TACTICAL BLAST

 

「ジャッ……」

 

 ぴたり、とクイーンジャマトの動きが止まる。

 そして勢いよく起き上がると相澤の方へ突進する。

 

「なっ!」

 

 彼は咄嗟に避けようとするも、その拍子に瞬きをしてしまう。

 抹消が解除された瞬間、クイーンジャマトの背中に無数の口が出現し、そこから歯の刃が放出される。

 

「っまずい――!」

 

 タイクーンは必殺技をキャンセルすると、すぐさま小森を攻撃から庇う。

 ロポもまた、マグナムシューターを捨てると轟を助けようと動く。彼は先んじて氷壁を生成していたが、それは歯の刃によって破壊されてしまっていた。

 

「あぐっ!」

 

 背中に攻撃を受けたロポ――八百万は変身解除され、気を失ってしまう。彼女の持っていたパワードビルダーバックル、フィーバースロットバックルが地面に落ちる。

 

「おい八百万っ! しっかりしろッ!」

 

 轟が体をゆするも、八百万の返事はない。

 彼らの目前まで歯の刃が迫るも、寸でのところで抹消が働きそれは停止する。

 

「――小森さん、けがは?」

「だ、大丈夫だけど……イズクの方こそ」

 

 クイーンジャマトの攻撃によってタイクーンのマスクはひび割れてしまい、緑谷の素顔が一部露になってしまっている。

 

「僕は大丈夫……っ!」

 

 タイクーンはクイーンジャマトへ向き直る。見れば、クイーンジャマトが相澤を打ちのめし、意識を奪っているところだった。

 

「――ッ!」

 

 とどめを刺そうとしているジャマトにタイクーンは手裏剣のようなエネルギー弾を放ち牽制する。

 

()()()……」

 

 クイーンジャマトは相澤を放すとタイクーンに標的を変更する。

 

「先生から離れろっ!」

 

 無数の分身を生み出しながら迫るタイクーンを、クイーンジャマトは筋繊維を増殖させた腕で薙ぎ払う。

 既にダメージを負って満身創痍だった彼はその一撃だけで変身解除に追い込まれる。

 

「――ッ!」

 

 ドライバーからニンジャバックルが外れ落ち、緑谷は傷だらけになりながら転がる。

 

「――イズクっ!」

「――緑谷ッ!」

 

 小森と轟の声が響く。

 辛うじてIDコアは無事だったが、緑谷はもはや戦える状態とは言えなかった。

 

「うっ……ううっ……」

 

 ここで倒れれば全滅は確定する。彼はなんとかこの状況を打開しようと策を巡らせる。

 

「っブースト単体で逆転できるような相手じゃない……仮に個性がなくてもパワーが違過ぎる。多少の個性なんて気にならないほどの、圧倒的な……オールマイトみたいなパワーを」

 

 緑谷は一か八か、個性を使った特攻をすべきか検討し始めた矢先だった。

 

「っそうか……!」

 

 彼の視界に八百万の落としたフィーバースロットバックルが入る。

 すかさず体を起こすとそれを手に取る。

 

「もしこれでブーストを引ければ――」

 

 脳裏に浮かぶのはギーツの姿。

 脳無(かいじん)相手に無双の活躍を見せたブーストとブーストの組み合わせならば、クイーンジャマトに勝てるかもしれない。

 

 ――SET FEVER!

 

「分の悪い賭けだけど――もうこれしかないッ!」

 

 ――SET

 

 無数の候補の中からたった一つのアタリ(ブースト)を引き当てる。

 かなり分の悪い賭けだ。

 

「……お前達にも何か事情があるかもしれない。でも――」

 

 クイーンジャマトは緑谷の鬼気迫る眼光にたじろく。

 

「勝つのは、僕だッ! 変身っ!」

 

 スロットが回転を始める。

 マグナム、ゾンビ、ニンジャ、ビート、モンスター、そして???(ランダム)

 まずは 6種類の中から一つが抽選される。

 スロットの回転音が静かに響き渡る。

 

 ――GOLDEN FEVER

 

 抽選されたのは???(ランダム)の絵柄。

 続けてその中から任意のバックルが選択され、装甲として展開される。

 

 ――JACK POT HIT! GOLDEN FEVER!!

 

 それは運命か必然か、それともタイクーンの固有装備が持つ運気上昇の効果か。

 選出されたのはブースト。

 上半身もブーストで下半身もブースト。

 緑谷――タイクーンはフィーバーブーストフォームへの変身に成功する。

 

「よしっ……これなら」

 

 大当たりに内心ガッツポーズをしているタイクーン。しかしコンディションが最悪なのは変わらない。狙うのは短期決戦である。

 マフラーから炎が吹きだし、目にもとまらぬ速さでクイーンジャマトに接近する。

 

「ジッ!?」

 

 クイーンジャマトは筋繊維を限界まで増幅し、大木のような腕で攻撃を放つ。

 それはタイクーンの右ストレートとぶつかり合い、衝撃波を発生させる。

 

「はっ!」

 

 仕掛けるのは高速のラッシュだ。

 相手はゴムのような弾性のある肉体で、多少の打撃は吸収されてしまう。

 吸収されてしまうなら、吸収できないほどの衝撃を与えてやればいい。

 まるで分身しているかのようなタイクーンのラッシュに押され、次第にクイーンジャマトは後退していく。

 

「これで――決める!」

 

 左ストレートでクイーンジャマトを吹き飛ばし、バックルを起動させる。

 

 ――BOOST TIME!!

 

 全身から黄金のオーラを発生させるタイクーン。

 両腕、両足のマフラーから炎を噴き出しつつ飛び上がる。

 

「ジャッ――!?」

 

 筋繊維と歯の刃で防御しようとしたクイーンジャマトだったが、能力が発動せずに戸惑っている。

 

「――いまだっ決めろ……!」

 

 見れば、辛うじて意識を取り戻した相澤が抹消を発動させ、個性を封じたのである。

 

「ヤ、ヤメーー」

 

 なす術を奪われたクイーンジャマトは怯えた子供の様に震えながら後ずさる。

 空中で拳を構えたタイクーンはお構いなしに突っ込んでくる。

 

「スマァァァァァッッッシュ!!」

 

 ――HYPER BOOST GRAND VICTORY!!!!

 

 黄金のオーラはやがて緑がかった稲妻へと変化し、彼の拳に集約される。

 拳を振りかぶった姿は、かつてのオールマイトをほうふつとさせる威容だった。

 

 ――衝撃波がクイーンジャマトを襲う。

 

 空を薄く覆っていた雲は余波で吹き飛ばされる。

 まさしく、右手で天候を変えてしまう威力だった。

 

 ――GRAND MISSION CLEAR!!

 

 クイーンジャマトは声もなく撃破され、ミッションクリアのアナウンスが高らかに響き渡る。

 ブーストバックルを失い、変身解除されたタイクーン――緑谷の足元にはクリア報酬――コマンドジェットバックルの収められたボックスが出現していた。

 

「はぁっ……はぁっかっ、た……?」

 

 緑谷は肩で息をしながらボックスを開き、バックルを手に取る。

 その瞬間、時間切れとなりゲームが終了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――皆様、お疲れさまでした」

 

 ゲームが終了し、勝ち残ったプレイヤーが神殿へと集められる。

 その人数は――たったの2人。

 

「これにて第2回戦は終了、スコア最下位のプレイヤーは脱落となります」

 

 ツムリは意識を朦朧とさせながらもなんとか立っている八百万へと視線をやる。

 

「――八百万 百様。貴女は仮面ライダー失格となります」

「……はい」

 

 八百万は一つもミッションを達成できなかった。

 シークレットミッションはあくまでオーディエンスからの支援、ゲームの得点には関わらないのである。

 

「……緑谷さん、後は――よろしくお願いしますわね」

 

 ――RETIRE...

 

 IDコアが消滅し、八百万の体が消滅する。

 

「残ったのは、僕だけ……」

 

 緑谷はふと気づく。

 勝ち残ったプレイヤーが自分一人、唯一の勝者となっていることに。

 

「もしかして……僕が、デザ神……?」

 

 一人しか勝ち残れないゲームで一人勝ち残っているということは、その人物が優勝に他ならない。

 

「っそれは」

『――残念ながらそれはない』

 

 神殿に工業地帯のようなマスクをかぶった男――オール・フォー・ワンが姿を現す。

 

『初めまして、緑谷 出久。僕がこのゲームを取り仕切っている“ゲームマスター”だ』

「……嘘、つくなよ」

 

 緑谷はその言葉が嘘であることを知っている。

 なぜなら、彼は一度だけゲームマスターと対面したことがあるからである。

 前々回のデザイアグランプリ最終戦――缶蹴りゲーム。イレギュラーが発生したため急遽ゲームマスターが姿を現したのである。

 

「僕の知ってるゲームマスターは、お前みたいな姿じゃなかった!」

『……なんだい。知っているなら言ってくれよ。こう見えてもそれっぽく振る舞おうとしてたんだぜ?』

 

 オール・フォー・ワンはつまらなさそうに肩をすくめた。

 

『ふむ。世間話をするような雰囲気じゃないかな? なら結論を先に伝えよう――君はまだ“デザ神”じゃない。たった2回のゲームで終わったら観客(オーディエンス)もつまらないだろう?』

「……オーディエンス?」

 

 嫌な予感が緑谷を襲う。

 

 ――『――恐らく、お前も知らない裏があるんだろうな』

 

 疑問に思っていたことがある。

 世界を守るという大義がありながら、なぜそれを“ゲーム”という形式に落とし込んでいるのか。

 ヒーローが職業として存在している社会ならば、ヒーローの夢をあきらめた者も数多くいるだろう。そんな者達ならば、ゲームという形式でなくても、たとえ“理想の世界”という報酬が無くても進んでライダーとなるだろう。

 それなのに、なぜデザイアグランプリというゲームという形式になっているのか。

 

『なんだい、こっちは知らなかったか!』

 

 オール・フォー・ワンはわざとらしく驚いて見せ、緑谷の絶望感を煽る。

 

『君はこれを、純粋に世界を守るゲームだと思っていたのかい?』

「それ、は……」

 

 疲弊していた緑谷の精神は今にも折れそうだった。

 これ以上残酷な真実を伝えられれば、その心は真っ二つに折れてしまうだろう。

 

『残念! これは世界を守るゲームではない――見世物(ショー)さ!』

 

 オール・フォー・ワンが指を鳴らすと、神殿の周りを取り囲むカメラが無数に出現する。

 ずっとプレイヤーたちの戦いを観戦し続けた観客(オーディエンス)の目。今まで秘匿されていたそれを公開したのである。

 

『“リアリティライダーショー”――それがデザイアグランプリの正体さ』

 

 出現したカメラに震えている緑谷の肩をオール・フォー・ワンは慰めるように叩く。

 

『君はよく戦ってくれた。これからも、観客(オーディエンス)を楽しませるような活躍を期待しているよ!』

 

 見世物(ショー)

 緑谷はデザイアグランプリの真の目的を知り、虚しさに襲われる。

 とどのつまり、ただの見世物だったのである。

 理想の世界という報酬(ニンジン)をぶら下げられ、醜く争う様を面白おかしく楽しむ悪趣味な連中の見世物にされていたのである。

 そんな下らない目的のために多くの命が奪われてしまった。多くの悲劇が生まれてしまった。

 

「ふざけるなよ……」

 

 緑谷はがくりと膝をつく。

 退場した者達の顔が脳裏に浮かぶ。デザイアグランプリ(こんなもの)が無ければ失われずに済んだ命がある。奪われずに済んだ命がある。

 そんな命のやり取りすら、ただの娯楽の一端に過ぎなかったというのである。

 

 ――『――たのんだぞ……オールマイトの弟子!』

 

 もう何もかも投げ出したくなったが、託された想いがそれを阻んだ。

 今ここで投げ出してしまえば、命がけで託してくれた者達に申し訳が立たない。

 たとえ見世物(ショー)だったとしても、世界を救わなくてはならない。

 

「……理想の世界は」

『うん?』

「理想の世界は、ちゃんと叶えてくれるのか?」

 

 緑谷の瞳からは光が消えていた。

 

『……もちろんだとも! 命がけで戦ってもらっているんだもの、それ相応の報酬は支払わなくてはね!』

 

 大げさすぎて嘘みたいな言葉に、緑谷は決意を更に固める。

 少なくとも、勝ち残れば理想の世界を叶えてもらえる。

 ――“デザイアグランプリが原因で死んでしまった人が生きている世界”、それが今回緑谷が願った世界である。

 デザイアグランプリ、つまりはジャマトやライダーが原因で命を落とした人を生き返らせる。

 退場してしまったプレイヤーだけでなく、ゲーム外で奪われた命さえも取り戻す――それが彼の目的だった。

 

「……だったら、最後まで勝ち残ってみせる。たとえ僕が見世物になってしまったとしても、僕の理想の世界を叶えてやるッ!」

『……』

 

 オール・フォー・ワンは仮面の下で口角を釣り上げる。

 このまま心が折れ、リタイアされるのではないかと内心冷や汗をかいていたのである。

 ゲームを続けてくれるとわかった以上、ワン・フォー・オールを手に入れるチャンスはいくらでもあるのである。

 

『君の活躍を、期待しているよ』

 

 孤立無援な状態で、一体いつまで戦い続けられるのか――

 去り際にポン、と肩を叩くと、オール・フォー・ワンは神殿から姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

(おみせ、どこもやってないなぁ)

 

 エリは荒廃してしまった街を一人さまよっていた。

 一人、ライダーたちの帰りを待っていたが、一向に戻ってくる気配はなく、物資もそこをつき始めていたため単身飛び出してきたのである。

 

(きつねさんの好きなもの、かってあげたいけど)

 

 エリは未だに目を覚まさないエースを心配し、ため息をついた。

 

「――みつけた!」

「っ!」

 

 突如として声をかけられたエリは驚いて飛び上がる。

 恐る恐る振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。活気に満ち溢れた表情で、頬にはばんそうこうが貼られている――かつてデザイアグランプリで出会った少年、摂理(セツリ) (ミサオ)だ。

 

「だ、だれ……?」

 

 しかしエリはそのことを覚えていない。

 世界が切り替わったことで彼女の記憶は操作され、デザイアグランプリに関する記憶は失われているのである。

 

「そっか、オレの事わすれちゃったか! だったら思い出させてやるよ!」

 

 対するミサオは()()()()()()()()()()ようで、溌剌な笑顔を見せている。

 

「オレはセツリ ミサオ! いずれオールマイトをこえる最強のヒーローになる男だ!」

「ミサ、オ……?」

 

 エリは必死になって思い出そうとするも、靄がかかったように思い出せない。

 

「べつにおもいだせないならそれでいいさ! そんなことより、オレに力をかしてくれないか?」

 

 ミサオはかつての様に、エリへ手を差し伸べる。

 

「オレといっしょに、世界をとりもどそうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――青臭い土の臭い。

 まるで蒸し暑い梅雨の日を思わせる不快感。

 

「……ん」

 

 牛込は固いコンクリートのような床の感触で意識を取り戻す。

 

「ここ、は……?」

 

 彼女は記憶を探り辿り、思い出す。

 

「っそうよ、あたし……ナッジスパロウに」

 

 全てを思い出し、ふつふつと怒りがこみあげてくる。

 ナッジスパロウは裏切者だった。さんざん信用させ、味方だと思わせて手のひらを返したのである。卑怯なやり方に彼女は憤りを感じていた。

 

「あいつ……次会ったら容赦しな、い……?」

 

 そこまで思考し、彼女は自分がビニールハウスのようなところにいることに気づく。

 そして手のひらに何か握りこまされていることに気づいた。

 

「紙……?」

 

 一枚のメモだった。ゆっくりと広げると、そこには一言だけ書かれている――“俺の眼鏡”

 

「……?」

 

 不可解な言葉に首をかしげていると、どさり、と何かが落ちる音がする。

 振り向くとそこには3mに迫る巨漢――周が倒れていた。

 

「っここ、退場者のくる場所ってワケね」

 

 牛込は一発殴ってやろうと周に近づき、その胸倉を掴んで引き起こす。

 

「……おい」

 

 彼女は周の頬を叩いて起こそうとするも、違和感に気づく――ひどく冷たいのである。

 彼の体には全く力が入っておらず、手足はだらんと垂れ下がっている。

 

「えっ……し、しんで、る……?」

 

 恐る恐る首筋に触れれば、脈を感じ取ることはできなかった。

 本来、退場者は命を落とすものである。

 息を吹き返している牛込の方がイレギュラーな存在であるといえる。

 

「――おや、息を吹き返したのか」

 

 声をかけられ振り向くと、そこには農家のような男がいた。

 

「ゾンビバックルを使い続けたせいかな? こんなこともあるものだねぇ」

 

 男は牛込を押しのけ周の亡骸を持ち上げる。

 

「お、でかいだけあって重いな……!」

 

 持ち上げられた拍子に周の亡骸から眼鏡ケースが落下する。

 

(“俺の眼鏡”ってまさか)

 

 牛込はそれを拾ってポケットにしまうと、男の後を追いかける。

 部屋を出た先は植物園のようで、何やら不気味な鳴き声が響いてきていた。

 

「なに……これ?」

 

 植物には無数の木の実が生っていた。

 その形はジャマトの頭部と酷似しており、時折腕のようなものがうごめいていた。

 

「何って――ジャマトさ

 

 男は愉快そうに答えると、空いているスペースを掘り返し始める。

 

「ジャマト……?」

 

 牛込は異様な光景に恐怖心を抱いていた。

 まさか自分たちが戦っていたジャマトが育成されていたものだとは思ってもいなかったのである。

 

「――おっ! 成長が早いなぁ!」

「っ!」

 

 ポトリ、とジャマトの実が落ち、人の姿に変化する。

 食虫植物を思わせる異様な姿のジャマト――クイーンジャマトである。

 クイーンジャマトは伸びをするように体をほぐすと、その姿を変化させた。

 ツタのようなものの奥から現れたのは人間の少女――薄い黄緑色で癖のあるロングヘアにあどけなさの残る幼い顔、その容姿を例えるなら楊貴妃とザビエルを足して二で割ったような姿。

 デザイアグランプリのサバイバルスーツを纏っていることから、かつての参加者の一人であることは間違いないだろう。

 クイーンジャマトはゆっくりとあたりを見回し、牛込を見つけるとじっと見つめてくる。

 目と目が合った瞬間、なんだか嫌な予感がした。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()ような感覚。

 その姿は初めて見るはずなのに、確かにこの少女の事を知っている。そんな奇妙な既視感を抱いた。

 

「ウシ、ゴメ、サン……?」

「ッ!」

 

 少女の容姿は知らなかった。

 だがその声は――少しだけハスキーな可愛らしい声には聞き覚えがあった。

 

「……まさか、ナーゴ、なのか……?」

 

 牛込の問いかけに、クイーンジャマトは不思議そうに首をかしげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――「なあ、またジャマトが出たってよ」

 

 デザイアグランプリは終わらない。

 

 ――「知ってる、それで動物の仮面のヴィランも出たんでしょ?」

 

 少年は理想の世界を叶えるため、戦いを続けていた。

 

 ――「ああ、でもその中のタヌキ仮面は、俺達を守ってくれるって噂だ」

 

 どんなに強制されても、人を傷つけるようなことは絶対にしなかった。

 

 ――「らしいね……ヒーローだったり、するのかな?」

 

 あくまでジャマトから人を守る。

 人々を助けるという前提は崩さない。

 

 ――「期待したらダメだろ、だってさ――」

 

 例えそれが――終わらぬ戦いであったとしても。

 

 ――「タヌキ仮面、どう見てもヒーローって見た目じゃなかったよ」

 

 理想の世界を叶えられると信じて、戦い続けるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















曇らせが確定し、少しだけ希望の光が見えたところで逆境編はラストです。
本当は逆境編で締めようと思っていたのですが、プロット上もう少し話数がかかりそうで、そうなるとサブタイに使ってるローマ数字が変換で出せなくなっちゃうんですよね……
なので気持ちを切り替えるという意味でも章を切り替えることにしました。

サブタイの"IR"は原作“謀略編”のラストを飾ったものです。最初どういう意味か分からなかったのですが、どうやらイレギュラー(irregular)の頭文字らしいですね。確かにイレギュラーなラストでしたね。

さて、次章こそ最終章になります。
現状はバッドエンドまっしぐらに見えますが、ご安心ください。ちゃんとハッピーエンド(?)で締める予定です! ここからどうハッピーになるのか、こうご期待です!
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