本当は日曜日の夜に投稿しようかと思ってたのですが、想像以上に筆が乗ってしまったのでこんな時間の投稿です。
本当にハッピーエンドに向かっていくのか、こうご期待です。
35 終局Ⅰ/ 女王の真実
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――
ずるずると、麺をすする音が響く。
デザイアグランプリのプロデューサー――ニラムは執務室でラーメンをすすっていた。
「――よろしいのですか?」
呑気にラーメンを食べる彼を、秘書の女性――サマスが諫める。
「……なにが?」
ニラムは言わんとしていることを理解しつつも、あえてとぼけてみせる。
「あの男の運営で
サマスの示したデータを見れば、オール・フォー・ワンがゲームを仕切り始めてからの視聴率がどんどん下がり続けていることが分かる。
「……だろうね。ワンパターンで終わる気配のないゲームだ」
彼は肩をすくめつつ、レンゲでスープをすする。
「君の言う通り、このまま放置すればデザイアグランプリの存続に関わる……が」
デザイアグランプリは慈善事業ではない。
故に、視聴率を低下させ続けるオール・フォー・ワンの運営は最悪の一言に尽きるのである。
「下手に動いて“創世の女神”の存在を気取られたら厄介だ」
デザイアグランプリは勝者の理想の世界を叶える能力を持つ。
その能力の根源こそ“創世の女神”である。
ヴィジョンドライバーによってその権能の一部を行使することでゲームを運営し、優勝者の理想の世界を作り出しているのである。
「かといって首を切ろうにも――奴はギロリを利用することでゲームを運営している。ギロリの代わりを立てようにも、そいつが乗っ取られればまた同じことの繰り返しだ」
彼が直接干渉できない理由はそこにあった。オール・フォー・ワンはあくまでゲームマスターを傀儡として扱うことでゲームを乗っ取っている。
今のゲームマスターを首にし、新しいゲームマスターを用意しても再び傀儡にされれば元の木阿弥である。
かといってオール・フォー・ワンをゲームマスターに任命してしまえば、世界創造の秘密――“創世の女神”について知られてしまう。
「その上、奴の持つ“個性”は非常に厄介だ。致命的なバグが生まれれば取り返しがつかなくなる」
オール・フォー・ワンはその身に無数の個性を宿している。
中には“超再生”――受けた傷を一瞬で治癒してしまう類の個性も含まれている。
もしゲームマスターに任命、即プロデューサー権限で彼を消去しようにも、個性が原因で何らかの不具合が起きてしまう可能性も秘めているのである。
「もっとも、誰かがヴィジョンドライバーを取り戻してくれるのなら――話は別だがね」
ニラムはナプキンで口元を拭うと手を合わせて食事を終える。
もし、ヴィジョンドライバーを使ったオール・フォー・ワンを圧倒する実力を持つプレイヤーがいるとするならば――状況は一変するだろう。
――――
――
「――それではデザイアグランプリ第
デザイアグランプリは未だに続いていた。
緑谷は終わりの見えない戦いに深くため息をつく。
「……変身」
――NINJA
緑谷――タイクーンは力なくニンジャデュアラーを構えながらジャマーエリアをうろつく。
「ジャ」
現れたのはクイーンジャマト。幾度となく戦ったボスを前に、彼はある種の親近感を覚えていた。
「またお前なのか……お互い、大変だね」
しかし同じ相手であるが、強さは大きく変わっている。
使ってくる個性はゲームを経るごとに増えていっており、途中参加のプレイヤーでは太刀打ちできないほどであった。
「――ジュラピラ、ヘン、シン」
――Jyamato
クイーンジャマトの取り巻きはドライバーを取り出すと変身する。
「へえ……今回はジャマトライダーもいるんだ」
タイクーンは無感動につぶやく。この展開は初めてではなく、幾度となく経験した戦いの中の一幕に過ぎなかった。
彼はすかさず分身を生み出し、それぞれの敵と1対1の状況を作り出して戦いを始めるのだった。
――――
「――
ツムリは冷ややかな目でオール・フォー・ワンを見つめる。
『言わせておけばいいよ。どうせあのセセラとかいう女性からだろう?』
「……」
度重なるクレームに慣れてしまったのか、オール・フォー・ワンは堂々と構えている。
『ふぅむ……もっと参加者を厳選した方がいいかもなぁ。また緑谷 出久が勝ち残りそうだ』
ゲーム進行を見守る彼は呑気にそうつぶやく。視聴率が下がり続けていることなど意に介さないようだった。
『だがまあ、飽きられているだろうし――そんな
彼は仮面の下でいやらしい笑みを浮かべると、電話を使いジャマーガーデンへと連絡を入れるのだった。
――――
「――よし、ゲームクリアだ」
タイクーンは難なくジャマトを斃すと、力なくその場にへたり込む。
度重なるゲームは彼の体を着実に蝕んでおり、誰も味方のいないという状況は彼の精神を確実に疲弊させていた。
「……今日は、どこで寝よう、かな――」
彼は寝床を求めふらふらと歩きだすも、力尽きて倒れてしまう。
既に体力の限界だった。
そんな彼を、一人の女性がじっと見つめていた。
(……誰、だ?)
銀灰色のストレートヘアにたぬきを思わせるぱっちりとした垂れ目、ふっくらとした唇は心配そうに閉ざされている。
思考を進めようとする緑谷だったが、眠気を押さえきれずに意識を手放してしまった。
そんな彼を、女性はお姫様抱っこの様に抱えるとどこかへ連れ去るのだった。
――――
――
――ジャマーガーデン。
牛込はビニールハウスの片隅でうずくまっていた。
(本当に……ジャマトが)
目に焼き付いたショッキングな光景を振り払おうと頭を掻きむしる。
植物から生まれた果実がジャマトとなり、そしてそのジャマトが人の姿に変身したこと。
「……退場者の末路がこれなんて、笑えないわね」
彼女はクイーンジャマトの誕生を見たのち、ジャマトの生育状況を見て回っていた。部外者が動き回っていても育成をしている男――アルキメデルは何も言わなかった。もしかすると、興味がなかっただけかもしれない。
まるで野菜でも育てているかのように植えられているジャマトの木。その根元には――ヒビの入ったIDコア。おまけにデザグラ参加者のスーツの端が見える。
共に転送されてきていた周が土に埋められていたところを見るに――人間の肉体を栄養にジャマトは育っているのだろう。
(だったら――ムツキも、このどこかに)
退場者がここへ転送されるというのなら、退場した彼女の幼馴染もここに転送され、ジャマトの栄養分にされてしまったのかもしれない。
まさか退場者がジャマトの養分になっているなど、彼女は想像もしていなかった。
(でも……だったらなんで、最近になって急にジャマトが個性を使い始めたの?)
牛込は突如として沸き上がった疑問に顔を顰める。
こうして退場者をジャマトの養分にしているのは今に始まったことではないだろう。デザイアグランプリが始まって以来、ずっと同じような手法で育てられてきたに違いない。
ならば、昔からジャマトが個性を発動するようになっていてもおかしくは無いハズだ。
「――おお、まさか本当に生きとるとは!」
「っ!」
彼女は声をかけられ跳ね上がる。
見上げると、そこには小太りな老人が2体のジャマトライダーを従えて立っている。白衣を身にまとい、メカニカルな眼鏡をかけていた。
「死体になっていてくれれば個性を頂戴するのが楽じゃったが……生きているならそれはそれで構わんわい」
老人はニタリ、と笑う。牛込はその笑顔に思わず悪寒が走る。
「実のところ、君の個性はかねてから興味があっての。あのヤブ医者が余計なことをしなければ……“マスターピース”の素体になるポテンシャルを秘めておったというのに」
「……なに、よ。あんた」
引き下がろうにも背後は壁だ。せめて反撃ができるように立ち上がっておく。
「わからんかね? 君の人生はヤブ医者のせいでめちゃくちゃにされたということじゃ――個性を御すると称して、薬漬けにされておったんじゃよ」
「……は?」
牛込は確かに薬が無くては生きていけない体である。
個性のせいで感情の制御が難しく、鎮静剤を定期的に摂取しなくてはまともに生活することもできない不便な体なのである。
この老人は、その対処が間違っていると言っているのだ。彼女の個性は薬が無くても制御が可能なものだ、と。
「ま、過ぎたことを言っても仕方ない。お前の個性はこれから作る“新たなマスターピース”の一部になるのじゃ」
老人の指示でジャマトライダーが動き出す。
「ッ! こっち来んな!」
牛込は近づくジャマトライダーを足蹴にして牽制するも、相手は強力な変身体。ちょっとやそっとではひるまない。
「っ変身――ッ!」
せめてエントリーフォームに変身しようとするも、ドライバーは反応しない。
ドライバーに装填されているバッファのIDコアは破損しており、そもそも起動することはできないのである。
「っなんで!?」
「ほっほっ! 故障したドライバーじゃ変身できないじゃろうて」
老人の無自覚な煽りに牛込は青筋を浮かべる。
怒りこそ彼女の力の根源である。彼女は迫ってきたジャマトライダー達の胸倉を掴むとそのまま胸の前でかち合わせる。
「ジッ!?」
「オラッ!」
「おわっ!?」
そして怯むジャマトライダーたちをぼろ雑巾の様に投げ飛ばし、老人をひるませる。
生まれた隙をついて牛込は逃げ出す。
(っ逃げないと――何されるかわかったもんじゃな)
「ぐっ……!?」
「ジャ……」
しかし彼女の逃走経路上に別のジャマトライダーが存在しており、胸倉を掴まれてしまう。
「……じゃじゃ馬ここに極まれりじゃな。おぅい! こっちへ連れてきてくれい!」
「くっ……!」
牛込は胸倉を掴む腕を叩くも、ジャマトライダーは意に介さない。
「っくそ! 動いて……っ!」
手放してくれないと判断した彼女は、一転してドライバーを叩き始める。
一昔前の機械よろしく、叩けば直ると言わんばかりの愚直さである。
二度、三度、複数回叩くとドライバーに電流が走る。
――E...ENT...ENTRY
幸運なことに叩いたことでドライバーが起動し、辛うじてエントリーフォームの変身に成功する。しかしその仮面の瞳は暗く濁っており、パーソナルアクセサリーの腰布はボロボロに裂けている。
「このっ!」
ジャマトライダーの腕を殴って手を離させる。
だが耐え難い激痛が走りバッファは崩れ落ちるように膝をつく。
それもそのはず、破損したIDコアは本来動作するはずがないのである。強引に変身すれば負荷がかかるのは当然なのだ。
「っ……ううッ!」
激痛にもがきながらも起き上がり、ジャマトライダーに飛び掛かる。
「――っらァッ!!」
「おわーっ!?」
バッファの投げ飛ばしたジャマトライダーを老人は大げさに避ける。彼女はその隙にビニールハウスの外へと飛び出す。
「っ……!」
「――ジャ」
這いながら逃げていくバッファをジャマトライダーが追いかける。
(っ……戦うしか)
このままでは追いつかれると判断したバッファは振り向きざまにジャマトライダーへラリアットをかます。
そして腕を回したままバックドロップを仕掛ける。
「ッ!」
「このッ――!」
バッファは拳を固めるとそのままジャマトライダーの仮面へ振り下ろす。二度、三度と振り下ろしやがてジャマトライダーは動かなくなる。
とどめとばかりに頭部を掴むと、そのままねじる様にしてへし折った。
「……」
「~~~~ッ!?」
ジャマトライダーの体が消滅するも、バッファの体に電流が走って苦しむ。だがそんなことはお構いなしに増援が現れる。
1対1で戦うことすらままならないのにここで複数体の相手をするのは骨が折れる。
苦し紛れに伸ばした手が、偶然ジャマトライダーの装着していたデザイアドライバーに触れる。
(このバックル……!)
バッファはドライバーに装填されていたバックル――ジャマトバックルを抜き取る。
果たして人間が使える物なのか。だがほかに使える武器はないのだから使わざるを得ないだろう。
「――んっ!」
ジャマトバックルがドライバーに装填される。
「――かっ! あっ!」
直後、彼女の体に耐えがたい激痛が走る。それはドライバーの不具合によって起きた痛みの比にならないほどだった。
バッファの仮面はジャマトバックルに侵食され、瞳は緑へ濁っていく。
「~~~~ッッ!」
――Jyamato
装甲が装着され、その能力が暴走する。
地面からツタのようなものが迸り、ジャマトライダーの体を貫いていく。
「ふうっ……んっ!」
変身が解除される。
牛込は脂汗を浮かべながらジャマトバックルをドライバーから引き抜いた。
「……ここにいたら、何されるかわかったもんじゃないわね……」
彼女は震える足を懸命に動かしながら、ジャマーガーデンの外へと向かうのだった。
――――
「――逃げられたら厄介じゃのぉ」
老人――オール・フォー・ワンの腹心、ドクターこと殻木は逃げる牛込を呼び戻そうと転送の個性を持ったジャマトに命じる。
「まだ、大丈夫」
と、彼を止めるのはアルキメデル。捉えどころのないいやらしい笑みで殻木の肩に手を置いている。
「今あの子を逃がせば、タイクーンは“真実”を知る。偉大なるオール・フォー・ワンはそれをお望みだ」
「……まったく。先生は空恐ろしいことを考える」
殻木は個性の発動を取りやめると呆れ半分の乾いた笑い声をあげる。
牛込が逃げれば当然緑谷と接触する。そうなれば――緑谷はジャマトの真実を知ることになるだろう。
――――
――
『――んがっ!?』
緑谷は頭をはたかれて目を覚ます。
『俺の授業で寝るとはいい度胸だな』
どうやら授業中だったようで、相澤の額には青筋が浮かんでいる。
『えっ……あれ? なんで、僕』
『ったく寝ぼけてんな。顔でも洗ってこい』
緑谷は戸惑いながらも教室を後にする。見回せば、上鳴は呆れたように笑みを浮かべ、エースはくすくすと笑っている。
いつもと何ら変わりのない教室である。
教室を出る間際、葉隠と目が合う――見えないがあったような気がした。
廊下へ出た緑谷は窓から外の景色を眺める――荒れ果てたこともない、ヒーローがいつも通り活躍している風景が眼下に広がる。
そこには我が物顔で街を闊歩するジャマトもいないし、混乱に乗じて悪事を働くヴィランもいない。
トイレへ向かう道すがら、
彼はすれ違いざまに微笑みかけてくれる。
緑谷はそんな何気ない日常に涙を浮かべていた。
まるで、ずっと悪い夢でも見ていたような気分だった。
(そっか、あっちが夢だったんだ……!)
あふれる涙をぬぐいながら、彼は廊下を小走りで駆けて行った――
――――
「――っ」
瞳を開くと、僅かに頭痛がするのを感じた。
「……そう、だよな」
緑谷は夢で見た幸せな日常を思い出し、涙を浮かべた。
残念ながら終わらないゲームを続けているこっちが現実だった。続くはずだった日常、それを取り戻すための戦い。
(っていうかここどこだ……次のゲームが始まっちゃうよ)
彼はゆっくりと体を起こす。どうやらふかふかの布団の上で眠っていたようで、疲れ切っていた体がすっかり回復していることを感じる。
服も真新しいパジャマになっており、ボロボロだった私服はどこにもない。
ベッドの脇にはデザイアドライバーとバックルが置かれており、これが夢の続きでないことを物語っていた。
「えっ……?」
寝ぼけ眼で周囲を見回していた緑谷は、部屋中に飾られているフィギュアを見てぎょっとする。
タイクーンのフィギュアに自分の姿のフィギュア。いつ採寸されたのか分からないが、彼の体格を寸分の狂いもなく再現されていた。
そして壁には一面にタイクーンの写真と緑谷のオフショット――いつ撮られたのかすらわからず、もはやプライベートもあったものではなかった。
「――お気づきになられましたか?」
「っ」
部屋の主が姿を現す。
銀灰色のストレートヘアにタヌキを思わせるぱっちりとした垂れ目の女性。彼女は恐る恐ると言った風に部屋へと足を踏み入れる。
「あの……あなたは?」
「ぁひぃっ! 話しかけていただいたっお、おおちつきなさいよセセラ取り乱してドン引きされたら一巻の終わり」
女性――セセラはテンパったように早口でまくし立てている。
「セセラ、さん?」
「な、ななななんで私の名をっ!?」
「い、いや……だって今言っていましたよね……?」
「おはぁっ!? 口に出ていたぁっ!? 大変お見苦しいところをお見せしちゃって申し訳ありませんッ!!」
彼女は緑谷が静止するまでもなく土下座をかましている。
緑谷はどこかシンパシーのようなものを感じていた。
「も、もういいですから……ここは、どこなんですか?」
緑谷はベッドから足を下ろしつつ問いかける。
「……デザイアグランプリの観戦部屋です」
セセラはどこか後ろめたそうに答える。
「観戦……そうだよな。そりゃ、ショーだから見る場所もあるよな」
「あのぅ……この状況でゲロるのもあれなんですが、私は貴方様のファンでして……その、精一杯サポートさせて欲しいなって」
彼の胸中に様々な思いが渦巻く。セセラはあくまで提供された
でも、そもそもショーを楽しむ観客がいなければデザグラはそもそも存続しなかったのだ。
こんな悪趣味な見世物を楽しむ者さえいなければ――誰も死ぬことは無かったのだ。
「……いい気なもんですね」
口をついて出たのは怒りの言葉だった。
「あなた達の楽しみのために、今まで一体どれだけの命が……どれだけのライダーが退場してきたか……ッ! 考えたことはないのかよっ!?」
「……解釈一致」
セセラは緑谷の怒りを受けてなぜか恍惚とした表情を浮かべている。
「その気持ち、わかります。でも――私は純粋に応援したいんです。ちょうどヒーローを応援している君の様に、ね」
「ヒー、ロー……?」
緑谷ははっと息を呑む。
確かに、自分たちも同類なのかもしれない。
命がけのヒーローの仕事をあたかも
「いいじゃないですかぁ……私は貴方様を推して楽しみ、貴方様は私の支援で理想の世界を叶える。所謂win-winの関係」
「……」
緑谷はセセラから差し出されたサバイバルスーツを受け取る。まるで新品かのようにクリーニングがされていた。
「……助けてくれて、ありがとうございます。でも――僕たちはあなたの欲求を満たすための道具じゃない。応援するのは勝手だけど、あなたと仲良くする気はない」
「……ん”っ!」
緑谷の冷ややかな視線を受けたセセラは悶えながら鼻血を流す。
ふらり、と崩れ落ちながら熱い吐息を漏らしている。
「お、推しが尊すぎて辛い……いっそ彼の手で殺されるのも悪くないかも……?」
(……どうしよう、僕やばい人に目ぇつけられてる……?)
興奮しすぎて悶えているセセラを見た緑谷は、静かに冷や汗を流すのだった。
――――
セセラの部屋を後にした緑谷は海浜公園の近くに来ていた。
(……ああは言ったけど、僕に責める資格はあるのか……?)
海岸に座った緑谷は雲一つない夜空を眺める。
(僕がこうして今ここにいるのも、デザイアグランプリがあったからだ)
緑谷が変わろうと思ったきっかけ――葉隠からもらった欲しかった言葉。
それはデザイアグランプリが無ければ起きなかった出来事だ。
もしデザグラに参加しなければ、彼はヒーローオタクな一般高校生をしていたことだろう。
雄英高校に通うなど夢のまた夢、オールマイトと出会うことすらなく一生を終えていたかもしれない。
(でも、デザグラが無ければ……
ほんのりと胸に湧き上がる罪悪感。
デザグラでいい思いをしてしまった自分がまるで悪人であるかのように感じてしまっていた。
「……ここに、いたのね」
「――っ牛込さん!?」
声をかけられ緑谷は飛び上がる。振り向けばそこには満身創痍な牛込がいた。
彼女は糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
「まさか……生きていたなんて……っそうだよ、退場したら死ぬなんて誰も」
「……あたしだけよ」
淡い期待は牛込の一言で砕かれる。
退場=死であることは事実であった。
「……あたし以外で生きてるのは、他にいないんじゃないかしら」
牛込は緑谷に肩を貸してもらいながら起き上がる。
「そんな……だったら何で」
「さあ? あたしが知りたいくらいよ……」
彼女は砂浜に腰を下ろすと、そのまま大の字に寝転がる。
「……デザグラ、まだ続いてるの?」
「……はい。今は20回戦目です」
「…………それ、勝たせる気ないじゃないの」
「だとしても、戦うしかないですよ――理想の世界が叶う可能性が、少しでもあるなら」
緑谷は波打ち際に視線をやる。波がゆったりと砂浜を濡らしていた。
「……戦っている相手が、元は人間だったとしても?」
「……どういう、意味ですか……?」
牛込は瞳を閉じて逡巡する。
ジャマーガーデンで見たものを伝えれば、緑谷は確実にショックを受けるだろう。まさか自分の戦っているジャマトが、退場者のなれの果てだとは思ってもいないのだろうから。
だが彼女は
「……あたし、見たの――ジャマトが
「ジャマトを育てる……?」
緑谷は油の切れたロボットの様に首をぎこちなく回す。
「……そうよ。信じられないかも知れないけど――ジャマトは人間を養分にして育っていたわ」
「ッ!?」
ジャマトのなる木の根元にはひび割れたIDコアが埋められていた。わずかにだが、デザグラのサバイバルスーツの切れ端も埋まっているようだった。つまり、ジャマトの木の下には退場したライダーの亡骸が埋められているのだ。
「……もしかしたら、ジャマトは養分にした人間の力も使えるのかもね。だからジャマトも個性を使えた」
「そんな……馬鹿な……だったら――そんなこと言ったら、葉隠さんも」
牛込は頷く。
「……クイーンジャマト、覚えてるでしょ。あたし……あれがナーゴ――葉隠に変身するとこを見たわ」
時が止まったような感覚がした。
幾度となく斃してきたクイーンジャマト。敵だと思い、無慈悲に斃したクイーンジャマトの正体が葉隠だった。
「ウソだ……」
何度か、命乞いをしてきたこともあった。
助けて――助けて――と、縋るクイーンジャマトにとどめを刺したことも少なくない。
“理想の世界”を叶えるため。敵であるジャマトは斃さなくてはならないから、助けることのできない敵だから。
「……嘘じゃないわ。あの子、透明だから顔見てもわかんなかったけど――声は確かにナーゴだったッ!」
「~~~~ッ!」
嘘であって欲しかった。
牛込の見間違いであって欲しかった。勘違いであって欲しかった。
でも――期待は無残に打ち砕かれた。
何度も手にかけてきたクイーンジャマトは葉隠をベースに生み出されていた。いわば彼女のコピーだった。
(何が……ヒーローだッ!!)
助けを求める者を見捨て、あまつさえその命を奪った。
相手が悪だと決めつけ、話を聞こうとさえしなかった。意志の疎通など不可能だと決めつけ、斃すべき敵キャラと割り切って戦い続けてきた。
もしかしたら対話ができるのではないか。その可能性を一切考えず――考えないようにしていた。
“理想の世界”という報酬に目がくらみ、助けを求める者の存在を無視し続けてきたのだ。
緑谷の慟哭が、海岸中に響き渡っていた。
――――
――
――夢を見ていた。
ずっと昔の、幸せな頃の夢。
名無しの狐だった自分に名前をくれ、生きる意味をくれた人との、かけがえのない日々。
「――んっ」
エースはゆっくりと瞳を開く。
見知らぬ天井が視界に映る。
「……ふふっ。ずっと寝てたっていうのに、またおねんねか。我ながら情けないね」
彼(?)は自嘲するように微笑む。
電撃を受けて痺れていた四肢はすっかり力を取り戻し、体は万全の状態だった。彼(?)は手を握ったり開いたりして感触を確かめる。
「――きつねさんっ!?」
水の入った桶を手に部屋へ入ってきたエリは、驚いた拍子にそれを落としてしまう。
「……やあエリちゃん。久しぶりだね」
エースは駆け寄ってきたエリの頭を撫でてやる。彼女の額にある一角獣のような角がエースの脇腹をつつく。
「……あのね、きつねさんがねてたあいだね、いろんなことがあったの」
「ふふっ。慌てなくても大丈夫――」
その時、腹の虫が盛大に鳴く。
エースは恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「ごめんね、私のお腹が我慢できないみたいだ♪」
「な、なにか持ってくるね!」
エリは大慌てで部屋を飛び出していく。
入れ替わる様に白と黒の服をまとった女性――ツムリが姿を現す。
「おめでとうございますっ!
ツムリはいつになく上機嫌でボックスを持ってくる。
「――今日からあなたは“仮面ライダー”です!」
エースは苦笑しつつボックスを受け取り、蓋を外す。
中にはギーツのIDコアとデザイアドライバーが収められている。
「ああ……
彼(?)はドライバーを手に取ると、不敵に微笑むのだった。
遂にデクくんが真実を知ってしまいました。
一気にバッドエンドルートへ直行しそうな感じになってしまっていますね……これ本当にハッピーに終われるのか……?
なおどの辺が筆乗ってしまっていたのかはご想像にお任せします()