【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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36 終局Ⅱ/ もう引き返すことはできない

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 緑谷の慟哭が響き渡る。

 

「……本当に戦う必要なんてあるの? 理想の世界のために戦って、それで死んじゃって、そしてジャマトになる――これじゃ戦わない方がマシじゃないっ!」

 

 牛込はゆっくりと上体を起こし、あふれ出る涙を押さえる。

 なぜだか悔しくて涙があふれ出てしまっていた。理想の世界と言う魅力的な報酬(エサ)につられた欲深い人間を戦わせ、その挙句ジャマトの養分としてしまっている。

 これを見世物として楽しんでいる者がいるとしたら、相当趣味の悪い人間に違いない。

 

「……ねぇ緑谷、もうやめにしよう。あたしたちが戦えば奴らの思うつぼよッ!」

「っ……ッッできない」

 

 緑谷は怒りに任せて砂浜を叩きつける。細かい砂が巻き上がり、緑谷の体を汚す。

 

「できるわけ、ないだろ……っ! 勝たなきゃ――戦わなきゃ世界は、変えられないんだから……ッ!」

 

 今更世界の真実を知ったところで今までの行いが無くなるわけではない。

 勝ち残って理想の世界を叶えるため、戦い続けるしかない。

 たとえ相手が、自分の大切な人であったとしても。

 

「何でッ!? 勝たせる気のない奴のゲームで戦い続けたって――ッ!」

 

 緑谷につかみかかる牛込だったが、突如として彼女の口から黒い液体が噴き出す。

 

「それでも戦うしかないよ……理想の世界を叶える以外に、みんなを救ける方法なんてないんだ」

「――んっそう、だけ、ど……ッ!」

 

 噴き出た液体はたちまち彼女の体を飲み込み、その体をどこかへ転送してしまった。

 一人残された緑谷は頬を伝う雫を拭い去る。

 

「……泣いてたって、世界は変わらない」

 

 スパイダーフォンが鳴動する。次のゲームの呼び出しだ。

 彼はスーツの袖で涙を押さえると、デザイアドライバーを取り出す。

 

「僕が……世界を、取り戻すんだ……!」

 

 ドライバーを装着した緑谷は終わらないゲームへと再び身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――んはっ!?」

 

 視界が晴れる。

 そこはジャマトが実る木々が茂っているビニールハウス――ジャマーガーデンの一角だった。

 

「お勤めご苦労! と、言っておこうかの」

 

 目の前にはメカニカルな眼鏡をかけた老人――殻木。

 

「どうじゃ? 良かれと思ったことが裏目になってしまった気分は?」

「……ざけんじゃ、ないわよ――ッ!」

 

 牛込は殻木を殴り飛ばしてやろうとするも、すぐさまジャマトライダーが割って入りそれを阻む。

 

「折角じゃ。もっと面白いモンを見せてやろう」

 

 どこからともなく現れたポーンジャマトが彼女を両脇から抱える。

 殻木は鼻歌交じりでビニールハウスを進み、やがて一つの木の前で立ち止まる。

 その気の根元にはナーゴのIDコアが埋められている――クイーンジャマトの生る木であった。

 

「ジャマトは、人間のなれの果てではない――ただその姿をコピーしてるだけじゃ」

「え……?」

 

 殻木は出来の悪い生徒に教えるがごとく語る。

 

「当然、コピーできる精度には個体差がある。より完璧に模倣(エミュレート)する個体、ただ記憶だけを引き継ぐ個体、そこは人間と一緒じゃ」

 

 ぽとり、と果実が地面に落ちる。

 デジャヴのような光景だ。果実は人の姿へと変貌し、やがてクイーンジャマトとなり、ツタがほどけるように人の姿――葉隠の姿へと変貌する。

 

「……あれ、私……?」

 

 クイーンジャマトは流暢に喋り始める。

 それはまるで、自分自身が葉隠 透であるかのようなふるまいだった。

 

「すばらしいっ! 遂にIDコアの情報全てを吸い出したかっ!」

 

 殻木は新しいおもちゃをもらった子供であるかのようにはしゃいでいる。

 その笑顔は無邪気な少年のようだったが、所業は邪悪の一言に尽きる。

 IDコアに保存されたデータを全てジャマトに埋め込み、その人間があたかも生き返ったかのように見せているのである。

 

「えっ……なにを、言ってるの?」

 

 クイーンジャマトは殻木の言葉を理解できないのか、怪訝な表情を見せている。

 

「――やはり、破損したIDコアでは時間がかかる。でも、ここまでよく育ったねぇ!」

 

 満面の笑みで姿を現したのは農家のような男――アルキメデル。

 彼はクイーンジャマトに抱き着き、頬ずりをする。

 一見すると気色悪い光景で、クイーンジャマトも嫌そうに顔を顰めている。だがどこかまんざらでもないようにも見える。まるで父親からの抱擁を受けているかのようだった。

 

「……どうなって……なんで……?」

 

 牛込は混乱していた。

 目の前にいたジャマトが人間に変身し、そして人間であるかのように振る舞っている。

 人間同士の心温まる交流の様に見えるのに、なぜだか心の底から嫌悪感が湧き上がってくる。

 

「うんうん。良い出来じゃが――まだ()()()()()()()()()()()()()()な」

 

 殻木は地面に埋まっていたナーゴのIDコアを掘り起こすと、それをクイーンジャマトの胸部に埋め込む。

 

「か――っ!」

 

 クイーンジャマトは苦しそうに目を見開き、その姿を元のジャマトへと変貌させる。

 手が引き抜かれると、胸にはヒビのような傷跡ができている。

 

「……ジャ」

「私の愛しきジャマト……さあ! 存分にライダーを斃してきなさい!」

 

 アルキメデルの言葉にクイーンジャマトは頷き、外へと向かう。

 

「――さて、楽しんでもらえたか?」

 

 殻木はいやらしい笑みで牛込へ問いかける。

 

「…………っ!」

「ふむ、つまらん……が、お前もジャマトバックルを使ったことで人間を辞めることになる。残念じゃが――マスターピースの素材にするのはやめにしよう」

 

 牛込を抱えていたジャマトライダーは指示を受け、ビニールハウスの外へと彼女を運んでいき、乱雑に放り出した。

 その拍子にポケットから眼鏡ケース――周のサポートアイテムをしまっていたケースだ――が転げ落ちる。

 彼女は力なくそれに触れる。

 

 ――『――すまない。これしか方法がないんだ』

 

 思い返されるのは周の言葉。

 

(これしかって……あんた、何がしたかったのよ)

 

 眼鏡ケースを手に取り、ゆっくりとそれを開く。

 どこからどう見ても普通の眼鏡にしか見えないそれは、近未来的なデバイスだ。牛込はゆっくりと、恐る恐るそれを装着する。

 

 ――“虹彩認証――OK”

 ――“装着者を牛込 茜であることを確認。メッセージを再生します。”

 

「虹彩なんていつの間に……っあの時」

 

 初めて会ったとき、自分の疑いを晴らすため周は牛込にこれを装着させていた。その時に採取していたのだろう。

 

『――これを聞いているということは、お前は俺の手で退場したが生き返っているということになる』

 

 グラス上に周の姿が投影される。まるでSF映画のようなホログラフィックの姿だった。

 

『まずは謝罪をしたい。目的のためとはいえ、俺は一度、お前の命を奪った。済まなかった』

「ごめんで済めば、ヒーローはいらないっての……」

 

 牛込は顔を顰めながらメッセージの続きを聞く。

 

『だが生きてジャマトの本拠地に潜り込める人間はお前しかいなかった。デザイアグランプリに複数回参加し、そのたびにゾンビバックルを使っていたのはお前――牛込 茜だけだった』

 

 確かに、彼女はデザグラに参加するたびに必ずと言っていいほどゾンビバックルを求めていた。

 幼馴染が使っていた形見のようで、他の誰にも渡したくなかったからだ。

 

『詳細など語ってもお前は理解できないだろうから省略する――』

「は?」

 

 彼女は思わず映像にキレてしまう。

 グラスを握りつぶしそうになるも寸前でこらえる。

 

『――近い将来、人間の全てをコピーすることのできるジャマトが誕生する。それこそが奴らの―ーデザグラを乗っ取った奴らの目的だ』

「……っ!?」

 

 映像の中の周の言葉は事実だった。

 現に、彼女はジャマトが葉隠の全てをコピーした現場に出くわしている。

 

『もしかしたら、もうお前は目撃しているかもしれない。だとしたら話は早い――』

 

 牛込は思わず息を呑んだ。

 まさに責任重大、とても失敗できるような“お願い”ではなかったからだ。

 

『――人間をコピーするジャマトの完成形を破壊してくれ。それで世界は救われる』

「……ッ!」

 

 映像はそこで終わった。

 彼女はゆっくりとグラスを外しつつ天を仰ぐ。

 

「……とんだ貧乏くじね」

 

 同時に、緑谷の悲痛な叫びが蘇る。

 今にも壊れそうなのに、それでもなお戦おうと立ち上がる姿。その顔はなぜだか――助けを求めているように見えた。

 

(あいつを助けてあげられるのは、あたしだけだ)

 

 デザグラを乗っ取った者達の最終目的――人間を完全にコピーするジャマト。

 彼女はその計画の全てを理解できたわけではないが、B級SF映画のような“より優れた体に乗り換える”をジャマトで実践しようとしているのだろう。

 確かに、ジャマトの体にも個性を宿すことができるなら、もはや人間の肉体にこだわる必要もない。

 

「……緑谷、待ってなさい。あたしが――あんたを助けるッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

「――あむ……んむ……」

 

 エースは夢中でおにぎりを頬張っていた。

 

「きつねさん、いっぱいたべるね……」

 

 おにぎりを握っているエリはエースの食べっぷりに驚いている。

 

「――甘いおにぎりっても悪くないな! オレはしょっぱい方が好きだけどな!」

 

 と、快活に笑っているのはミサオ少年。

 

「あむ……まさか、君たちが一緒にいるとは思ってなかったよ……んぐ」

 

 エースは指についた米粒をしゃぶり取りながらミサオに問いかける。

 

「オレの“けいかく”のために探したんだ! 世界を救うための“かんぺき”な“けいかく”さ!」

 

 ミサオは得意げに胸を張っている。

 

「へえ……ぜひ私にも聞かせてくれないか? ……んふぅ」

 

 満腹になったエースは幸せそうにため息をつく。

 ミサオは得意げに微笑んだ。

 

「エリの個性でさ、世界を元に戻すんだ!」

「……できるの?」

 

 エリはふるふると首を横に振る。

 彼女の個性は“巻き戻し”、ありとあらゆるものを巻き戻し、時に人を進化する以前の存在――無個性な人間、それよりもっと前の類人猿にすら巻き戻せてしまう力を秘めている。

 だがその対象範囲は世界の全てに及ぶわけではない。

 あくまで限定的な範囲でしか力を使うことはできない。

 

「……いけると思ってたんだけどなぁ……オレとエリの友情コンボでさ~……でも、()()()()()()なんてひどいぜ」

「……ごめんなさい」

 

 いじけるミサオにエリは申し訳なさそうに目を伏せる。彼女に非はないが、自分が悪いかのように捉えてしまっていた。

 

「……少年。君は私たちがどうやって出会ったのか覚えているかい?」

「もちろんさ! エリといっしょにやばそーなヤツからにげてさ、そしたら城みてーなとこにいて、んでもってあんたたちがあらわれて、それでそれで!」

「うん、その通りだね」

 

 エースは意味深に微笑む。

 ミサオの説明はとても拙い物だったが、デザグラの迷宮脱出ゲームに巻き込まれ、そこでエリと出会いエースたちプレイヤー達とも知り合った。その筋書きに間違いはなかった。

 世界が変われば一般人たちの記憶はリセットされ、たとえデザグラに巻き込まれた事実があったとしても忘れてしまう。

 だがミサオは()()()()()()()()()()()

 

「そうか……君も()()()()だね」

 

 エースはニコリ、と微笑むとポケットからギーツのIDコアを取り出す。

 

「エリちゃん、これに触ってごらん」

「……?」

 

 彼(?)に促され、エリは恐る恐るIDコアに触れる。

 

「……ぁっ」

 

 その瞬間、エリの脳内に前の世界の記憶が流れ込む。

 命からがら治崎の魔の手から逃げ出したこと。ミサオと出会い、デザグラに巻き込まれたこと、そして心優しい老人――出水 聖拳と出会い、引き取られたこと。

 ジャマトのいない平和な世界での出来事を全て思い出す。

 

「エリちゃん、彼にはきっと特別な力がある――私と同じように、ね」

「え……?」

「“とくべつ”な力? ってオレ無個性だぜ?」

 

 エースの言葉にエリもミサオも首をかしげる。

 

「それで言うなら――私だって無個性さ

「「!?」」

 

 彼(?)は得意げに微笑んでいる。その狐耳は愉快そうに揺れている。

 

「私はね、君達よりもはるか昔――個性なんてものが生まれる前に生まれたんだ」

 

 時は遡ること数百年前。中国で光る赤子が生まれるよりも更に前――まだ人々が個性と言う特殊能力に目覚めるよりも前、日本が分裂し、戦国武将がしのぎを削っていた時代だ。

 そんな時代にエースは生まれた。

 狐と人が交わって生まれたかのような狐人間のような容姿。

 今よりももっと信心深かった時代、人々は“狐の祟り”と言って忌み嫌った。

 

「――私は化け狐だと忌み嫌われ、私と同じように特殊な能力を持った人間に封印されてしまった」

「……信じらんねぇ……じゃ、じゃあさ! オレにもなんか“とくべつ”な力がある、ってコト!?」

 

 ミサオは目をぐるぐるとしながら頭を抱えている。エリは話のスケールについていけず、どこか虚空を見つめていた。

 

「それは私にもわからない。でもね、きっとこれは偶然じゃない」

 

 エースは世界が切り替わっても記憶を失わなかった。それは決してデザ神であり続けていたことが原因ではない。

 ()()()()()()()()()()()力を供えていたがゆえに、デザグラ運営の想定を超えた力を持っていたからである。

 

「私と一緒に、世界を救わないかい?」

 

 彼(?)はにっこりと微笑んだ。

 まるで人を化かしているかのような、化け狐の微笑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――僕が、世界を救うんだ……」

 

 緑谷はうわごとのようにつぶやく。

 デザイアグランプリ第21回戦――“鬼ごっこ”ゲーム。

 “鬼”としてエリア内を逃げ回るクイーンジャマトを捕まえ、退治する――それが勝利条件だ。このゲームでクイーンジャマトを討伐した者こそ今シーズンの勝者――すなわち“デザ神”である。

 今回、クイーンジャマトには明確な弱点が設定されている。

 それは胸に埋め込まれたコア。

 破壊すればもう二度とクイーンジャマトが生まれることは無いのだ。

 

 ――SET

 

「変身……」

 

 彼はコマンドジェットバックルを装填し、起動させる。

 その目はうつろで、焦点は定まっていなかった。

 

 ――GREAT

 

 緑谷――タイクーンは召喚されたレイジングソードを引きずるようにして構える。

 一歩、一歩と踏みしめるたびに切っ先が地面を削っていく。

 

「――つ、強すぎィッ!」

 

 ――MISSION FAILED...

 

 目の前ではクイーンジャマトによる殺戮が繰り広げられており、ジャマトの足元には無数のデザイアドライバーが転がっていた。

 

「ジャ――緑谷くん。久しぶりだね」

 

 クイーンジャマトは少女の姿に変化する。

 タイクーン――緑谷はピンとこなかったが、牛込から聞かされた情報を元に推測する。

 

「葉隠さん、なの……?」

「うん。もう死んじゃった~って思ったけど、大丈夫だったよ」

 

 クイーンジャマト――葉隠(?)は気まずそうに微笑んでいる。

 

「いやぁびっくりしたよね! 私ってこんな顔だったんだね。なんだか見られてるって思うと恥ずかしいけど」

 

 彼女は自分の顔をペタペタと触りながらはにかんでいる。

 最初に参加したデザイアグランプリで彼女は“見えるようになりたい”と望んだ。その願いがゆがんだ形ながら叶ったのである。

 

「黙れよ……」

 

 タイクーンは自分の発した声に鳥肌が立つ。

 自分がこんなにも冷たい声を出せるとは思ってもいなかったのだ。

 

 ――『――怒りを制し、心を制する。そうすれば自ずと正しい行いができるはずですわ』

 

 八百万と語らったときの事が思い返される。

 怒りに任せて力を振るえば、それはヴィランと何ら変わらない。肝心なのは感情のコントロール、心を制することである。

 

(大丈夫、僕は……冷静だ)

 

 タイクーンはゆっくりとレイジングソードを構える。

 

「……白々しい演技はよせよ。君が葉隠さんじゃないってことはよくわかってるんだ」

「……ひどい」

 

 葉隠(?)は悲しそうに顔をゆがめる。

 その瞳にはじんわりと涙が浮かんでいる。

 

「ひどいよ緑谷くん……私は……私は――葉隠 透だよ……!」

「ウソつくなよ……! 少なくとも僕が知ってる葉隠さんは――敵を退場させる(ころす)ような人じゃないッ!」

 

 タイクーンの叫びをうけ、葉隠(?)は泣きまねを止める。

 

「……泣き落としはダメかぁ。緑谷くんならコロッと騙されてくれると思ったんだけど♪」

 

 泣き顔から一転、彼女は邪悪な微笑を浮かべる。人を小馬鹿にするかのような、挑発的な笑顔だった。

 

「でもね、私は葉隠 透、それは間違いないよ――(ここ)には、ちゃんと()()記憶が詰まってる」

 

 葉隠――クイーンジャマトは大仰な身振りでタイクーンに語り掛ける。まるで自分が透明で、存在感をアピールしなければ気にも留めてもらえないとでも言わんばかりの動きだった。

 

「でも、私はもう人間じゃない。緑谷くんも、一緒にジャマトになろ? そうすれば――ずっと一緒だよ?」

「……なるわけ、ないだろ」

 

 タイクーンはレイジングソードを握りなおす。

 ぎりぎり、と握り締めすぎて既にスーツの内側の指はうっ血してしまっていた。

 

「だよね~……そういうと思った」

 

 クイーンジャマトはてへ、と笑った。それは悪戯に失敗した子供のような無邪気な微笑だった。

 

「変わらないね――ううん、変わったのは私。私はこの力で強くなった。もう救えないジャマト(ひと)はいない」

 

 彼女の瞳が鋭く細められる。

 強くなる――それは葉隠のもう一つの願い。

 失われる命を一つでも少なくしたい。そのためには強くならなくてはならない。強くなり、デザイアグランプリを終わらせる。

 形は違えど、彼女は願いを叶えた。

 デザイアグランプリを()()()()()()()終わらせる力を手に入れた。

 

「緑谷くん、覚悟してね――今までの私とは違うんだから」

 

 クイーンジャマトは左手を真横へ伸ばす。

 彼女の瞳が妖しく輝いた。

 

「……変身(ジュラピラ)

 

 体がツタのようなもので覆われ、姿を食虫植物を思わせるジャマトの姿へと変貌させる。

 

「……僕が、世界を救うんだ」

 

 タイクーンはうわごとのようにつぶやくと、レイジングソードを振り上げた。

 対するクイーンジャマトも武器を――ビートアックスの複製を生み出す。

 

「――ッ!」

「――ジャッ!」

 

 レイジングソードとビートアックスがぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 制服を身にまとい街へ出ると、少しだけ懐かしい気分だった。

 たった数か月の短い高校生活だったが、人生の中で一番印象に残っているといっても過言ではない。それだけ濃密な日々だった。

 

「――ジャ」

 

 だが懐かしい街を汚す者がいる。

 ジャマトは我が物顔で街を闊歩する。まるでここが自分たちの街だと言わんばかりの狼藉である。

 

「……邪魔」

 

 エースは指を鳴らし、狐火でジャマト達を追い払う。

 自分の理想の世界を汚され、彼女(?)はご立腹だった。

 やがて雄英高校の校門へたどり着く。非常時とあって門は厳重に閉じられていたが、エースは気にすることなく進む。

 学生証を持っていても、現在は入校前にチェックを要する。

 

「そんな悠長なこと、してられないよね♪」

 

 彼女(?)は認識阻害を発動し校門でのチェックをスルー、足早に目的地へ向かう。

 お目当ての人物はすぐに見つかった。

 

「――狐火さん……?」

 

 八百万は巡回の手伝いをしていたのか、ヒーローコスチューム姿だった。

 彼女は驚いて目を見開き固まっていた。

 

「や、久しぶり♪」

「っ心配しましたのよ!? 一体今までどこにいらし――」

 

 デザグラを敗退し記憶を失っていた彼女はエースへと駆け寄も、放り投げられたものを見て咄嗟に受け止める。

 それはギーツのIDコアだった。

 触れた瞬間、八百万は全てを思い出す。

 

「……そうですわ……わたくし」

「君に聞きたいことがある」

 

 エースはIDコアを回収するとスパイダーフォンを取り出す。

 

「前回のゲーム、私は不覚にもジャマトの攻撃を受けてダウンした。その時私と一緒にいた君がデザグラにエントリーされている。偶然にしては――出来過ぎているよね?」

「ええ。偶然などではありませんわ――」

 

 八百万はなぜ自分がエントリーされたかを語り始める。

 自分もかつてデザグラのプレイヤーとして選ばれたことがあるということ。それをなぜか父が阻止し、ゲームには不参加となったこと。そして――父から急にIDコアを渡されたこと。

 

「成程ね。君は私のドライバーを使って変身して戦った、そしてゲームが強制終了したことで君もファイナリスト扱いとなり、優先エントリー権を得た、と」

「ええ……ですが、敗退してしまいこのザマですわ」

 

 いきなり参加して勝ち残ることは非常に難しいことだ。

 

「問題はなぜ君の父がデザグラの参加権をコントロールできたのか、だね」

「……もしかすると、父は出資者(スポンサー)なのかもしれません」

 

 ゲームの運営よりも上位の権力を持った存在――それは運営の資金援助を行う者、スポンサーの存在である。

 出資の打ち切りをちらつかせれば運営側も従わざるを得なくなる。出資者だからこそ振るえる権力もあるのだろう。

 

「……ふふっ」

 

 エースは思わず笑いをこぼす。

 

「どうかなさいましたの?」

「いや、足りないピースが揃って嬉しくなっただけさ」

 

 怪訝な表情の八百万の肩をエースは叩く。

 

「私に策がある。この状況をひっくりかえせる、とっておきの策さ」

 

 エースは彼女に策の全貌を語る。

 

「……確かに、ひっくりかえせるかもしれませんが……父は今音信不通でして」

「君なら、いざという時の逃げ道をどこに用意する?」

 

 八百万ははっ、と何かに気づく。

 

「まさか」

「恐らく君の父はデザグラの秘密を握ろうとするものから逃げるために姿をくらませたんだろうね。だとすれば――その入り口はどこにあるのか?」

「っお任せを。必ず見つけてみせますわ」

 

 エースは満足そうにうなずくと、ドライバーを取り出しIDコアを装填する。

 

 ――ENTRY

 

「じゃ、行ってくるよ♪」

 

 ドライバーを装着したエースは、どこへともなく消えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 レイジングソードどビートアックスがぶつかり合う。

 入手当初は使うだけで四苦八苦していたレイジングソードも、立派に使いこなしていた。

 タイクーンはビートアックスを受け流しつつ斬りこむ。

 

「――っ!」

 

 クイーンジャマトは大きく後退し体勢を整える。

 

「ジャッ!」

 

 直後、武器に蒼い炎を纏わせブーメランのように放り投げる。

 タイクーンは上体を反らしつつそれを躱す。

 

 ――FULL CHARGE

 

 その体勢のままコマンドキャノンバックルを取り外しベルトへ装填する。

 

 ――TWIN SET

 

 クイーンジャマトは変身させまいと弾丸のようなものを放出する。

 それは本来、体の鱗を発射する個性だったが、ジャマトの肉体と相まって拳銃のような威力と化してしまっている。

 

 ――TAKE OFF COMPLETE! JET & CANNON

 

 弾丸を受けつつもコマンドフォームへ変身、即座にトロンキャノンから砲弾を放って相殺する。

 

「スゴイ、ネ。イマ、ソンナソウビアルンダネ」

 

 クイーンジャマトはガスのようなものを放出する。薄桃色の、どこか甘い香りのするガスだ。

 

 ――REVOLVE ON

 

 タイクーンは即座に形態を変化させ空中へ飛び上がる。

 対するクイーンジャマトは五指の先から糸を生成、それらをより合わせ筋繊維を纏わせ鞭のようなものを生み出す。仕上げとばかりにそれに炎を纏わせ空中のタイクーンへ向けて振るう。

 高速で迫る鞭を回避し、レイジングソードで切断し、クイーンジャマトへ急降下する。

 

「スマァァッシュッ!」

「ッ!?」

 

 タイクーンの特攻を躱しきれなかったクイーンジャマトはレイジングソードを胸に受ける。

 勢いそのまま地面を引きずられていき、やがてどこかの廃工場前まで滑りつく。

 

「これで――」

 

 ――RAISE CHARGE

 

 タイクーンはレイジングソードを引き抜き、コマンドソケットのボタンを押す。

 そしてそのまま振り下ろすように構える。

 

「終わりだッッ!!」

 

 ――TACTICAL RAISING!

 

 胸元の傷跡は閉じ切らず、ナーゴの破損したIDコアが露出している。

 彼はそこへ向けてレイジングソードを振り下ろした。

 

「……ッッ!」

 

 だが切っ先はIDコアを砕く寸前で止まり、葛藤するかのように震える。

 このまま貫けばコアは完全に破壊され、タイクーンはゲームの勝者――すなわちデザ神となれる。

 デザ神となれば彼の理想の世界――“デザイアグランプリが原因で死んでしまった人が生きている世界”が叶う。

 そうすれば退場したすべてのプレイヤー、ジャマトによって殺された人、そして何よりオールマイトだって生き返らせることができる。

 クイーンジャマト――葉隠の記憶と人格を宿したジャマトさえ、斃すことができるのならば。

 

「……できるわけ、ないだろ……ッ!」

 

 タイクーンは仮面の下で嗚咽を漏らす。

 できるはずもなかった。

 理性(あたま)では目の前のジャマトが葉隠を騙る偽物であると理解ができる。ナーゴのIDコアを使い、葉隠 透という人物のデータを吸い出しただけのジャマト――そんなこと十分すぎるほど理解できていた。

 だが感情(こころ)はそうでないと叫んでいた。目の前のジャマトは確かに葉隠なのだと、姿形は違えど彼女の心を持っているのだと、そう叫んでいた。

 たとえ偽物でも、自分には斃せない。

 たとえ模倣(コピー)だとしても、葉隠を斃したくない。

 もうこれ以上、彼女の面影(コピー)を斃したくない。

 

「アマイネ」

「がはっ……」

 

 クイーンジャマトの手が槍の様に変化し、タイクーンの腹を貫く。

 そして貫いたまま葉隠の姿へと変化する。

 

「もう……どうしてとどめさせないかな? 折角の!」

「ッ……!」

 

 右へ、左へ、かき混ぜるように腕がねじられる。

 ダメージはとっくに許容量を超えており、変身が解除される。当然ながらIDコアにはヒビが入っている。

 

「チャンス! だったのに……」

「ゴフッ……」

 

 緑谷の口からおびただしい量の血が吐き出される。

 クイーンジャマトは自愛のまなざしを彼に向けている。

 

「でも、そういう所、好きだよ……誰も彼も助けようって、ひたむきな所さ」

 

 腕が引き抜かれ、緑谷は大きく後退する。

 

「お疲れ様。これでようやく――楽になれるね♪」

「……ッ」

 

 クイーンジャマトは緑谷の血で濡れた腕を愛しそうに抱きしめる。

 緑谷の瞳は次第に焦点が合わなくなり、その体は徐々に消滅していく。

 

「……ごめ、ん……なさい」

 

 緑谷は涙を流しつつも、どこかホッとしたような表情だった。

 世界を守れない悔いはあったが、それよりもこれ以上クイーンジャマトを斃さずに済んだ安堵も込められているのだろう。

 

 ――MISSION FAILLLLLLL

 

 消滅する刹那、彼の体が光に包まれる。

 音声は壊れたCDの様にノイズが混ざり、同じ音をループさせている。

 

「……え?」

 

 その光景にクイーンジャマトは戸惑いを隠せない。

 まるで退場がキャンセルされ、()()()()()()()()かのようだった。

 

 ――LIAF NOISSIM

 

 映像を巻き戻すかのように緑谷の姿が元に戻り、それに伴いひび割れたIDコアも修復される。

 

「……どうして……僕、今確かに」

 

 彼は恐る恐る腹に触れる。確かに貫かれていたそこは綺麗に塞がっており、鍛えられた腹筋がさらされていた。

 

「――ッいいよ! もう一回やって」

 

 クイーンジャマトは再び変身し、緑谷の命を奪おうとするも、自身の周りに()()が漂っていることに気づく。

 

「――コン♪」

「ッッ!?」

 

 指を鳴らす音が響き、即座にそれらは爆発した。

 

「――楽しそうだから、化けて出ちゃった♪」

 

 廃工場の奥から人影が現れる。

 狐のような耳と小麦色の髪。その顔は中性的で、男と言われれば男に見えるし、女と言われれば女にも見える。腰からはこれまた狐のような尾が生えており、まさに“狐人間”と呼ぶのにふさわしい容姿だ。

 狐人間――エースは不敵な笑みを浮かべながら姿を現した。

 デザイアグランプリのサバイバルスーツを身にまとい、その腰にはデザイアドライバーが装着されている。

 

「エースさん……よかった、目が覚めたんだ」

「ッ今さら何の用?」

 

 エースの復活に緑谷は喜び、クイーンジャマトは煩わしそうに顔を顰める。

 

「ふふっ。いろいろとあるけど――まずはこれかな?」

 

 彼(?)が指を鳴らすと、どこからともなくエリが姿を現す。認識阻害により姿を隠していたのだ。

 

「エリちゃんっ!?」

 

 葉隠の記憶を持つクイーンジャマトは驚き、咄嗟に動くことはできなかった。

 ジャマトの本能によってのみ動いていれば、即座に攻撃していただろう。だがその中にある葉隠の記憶が、意志がそれを躊躇わせた。

 エリはクイーンジャマトに抱き着くと、個性を発動させた。

 

「――――っ!」

 

 彼女の個性は“巻き戻し”。その全貌は未知数だが、一つだけ確かなことがある――生物の進化すら否定し元に戻せてしまうという点である。

 すなわち、クイーンジャマトを巻き戻して()()()()姿()に戻すことができるのである。

 クイーンジャマトは複数の個性持ちジャマトを掛け合わせて作られた品種改良(へんいしゅ)だが、そのベースとして使われたのは葉隠の肉体だ。彼女の亡骸を栄養として育ったクイーンジャマトには葉隠の身体情報が存分に含まれている。

 その上、IDコアから吸い上げた情報が組み合わさることで“葉隠 透”という人間を再構成するには十分すぎるほど要素が揃っていた。

 クイーンジャマトの体が巻き戻されていき、その胸に埋められたIDコアが排出されヒビも復元される。

 

「――ッ!」

「葉隠さんッ!」

 

 肉体からはジャマトの要素が抜き取られ、正真正銘、“透明”の個性を持つ少女の肉体へと巻き戻される。

 がくり、と崩れ落ちた葉隠の体。

 緑谷は咄嗟に駆け寄り彼女を抱き留める。

 

「……ふふっ♪」

 

 目論見がうまくいき、エースは楽しそうに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


























ようやく鬱々展開から脱出できそうです。本当に長かった……そしてエリちゃんの個性がチートすぎる……
エースが目覚めたので、常に勝ち確BGMが流れているようなものです。
次回以降もこうご期待です!

さて、ギーツ最新話、衝撃の展開ですね。
次回はデザグラの核心に迫ってくれるのか、それとも総集編的な感じになるのか、気になる所さんですね。
時期的にはそろそろ中間フォームが登場する頃合いですが……本当に登場できるのか……? 今後も目が離せなさそうですね。

本作ではもう話たたむ方向性で進んでいるので、これ以上ギーツ原作の要素を反映させることは無いと思います。と言うより反映する余裕がないというか……
ほのぼのifルートも書こうと思っているので、そっちで拾えたらと思っています。
……え、ほのぼのなのにバトルするのかって?
……ま、まあ多少バトルしてもいいかなって。
ほのぼのifルートは、予定では映画1作目+文化祭編のつもりです。仮免編は多分すっ飛ばします。
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