【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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37 終局Ⅲ/ 狐火 エース:オリジン

――――

――

 

 ――8年前

 

 エースが目覚めてから4年の月日が経過したころだった。

 彼女(?)の義父、狐火 英寿は行き先を告げずに出かけることが増えていた。

 どこへ出かけるのかを尋ねれば、慌てたように誤魔化し、煙に巻いた。

 

『ま、そんな遅くなんねぇから気にすんなって!』

 

 狐火はエースの頭を撫でつつ出かけていく。

 意味もなく嘘をつくような人でも、隠し事をするような人でもなかった。

 エースは不安を抱きつつもじっと彼の帰りを待っていた。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ある時、出かけた狐火が傷だらけになって帰ってくる。

 

『だ、大丈夫!? ヴィランにやられたの?』

『へへっ……そんなとこかな』

 

 狐火は言いよどみながら傷の手当てを受ける。

 彼はエースの方を見て、仏壇に飾られている彼の娘の写真を見て、深くため息をつく。

 

『……何か、悪いことに巻き込まれてる……?』

『そんなんじゃねえよッ! ……別に悪いことはしちゃいねぇ』

 

 エースの追及に狐火は声を荒げて反論する。初めて会った時以来の怒号に、エースは思わず身を竦ませる。

 

『ま、あんま心配すんなって。俺は大丈夫だからよ』

 

 狐火は申し訳なさそうに頭を掻きつつ、エースに微笑みかける。

 彼女(?)はその表情に、ひどく不安を覚えた。

 何か悪いことが起こってしまうのではないか、幸せな日々が終わってしまうのではないか、そんな漠然とした不安に襲われているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 幸せな日々は、唐突に失われてしまうものである。

 傷だらけになって帰ってくる狐火が心配になったエースは、彼の後をこっそりとつけて行っていた。

 彼は人気のない路地に入ると、唐突にベルトのバックルのようなもの――デザイアドライバーを取り出して装着する。

 

(っき、消えた……?)

 

 ドライバーを装着した瞬間、姿を消した狐火を見たエースは驚いて辺りを見回すも、彼の痕跡はどこにもなく、まるで消滅してしまったかのようだった。

 

『おじさん……』

 

 得体の知れない不安に襲われたエースは大慌てで狐火を探し始める。

 付近を巡回中のヒーローに声をかけ、捜索を手伝ってもらったがそれでも見つからず、彼女(?)は途方に暮れた。

 一体どこへ消えてしまったのだろうか?

 消えてしまった先で何かが起きているのではないだろうか?

 そんな漠然とした不安が胸に渦巻く。

 街を走り回っていると、彼女(?)の狐耳が悲鳴を捉える。

 

『――っ!?』

 

 それはとても()()()()()光景だった。

 ヴィランが現れ、それをヒーローが捕縛する。そしてそれを見世物(ショー)であるかのように楽しむやじ馬たち。

 人々が集まるということは、それはヒーローとヴィランの戦いが繰り広げられていることを意味する。

 だがそんなありふれた光景の中、異質な部分が一つ。

 

『――お、おい! どうなってるんだ!? どうしてこの先に進めない!?』

 

 ヒーローの一人が空気を叩いて叫んでいる。

 まるでパントマイムの様に、見えない壁でも叩いているかのようだった。

 見えない壁の向こうでは骸骨を思わせる異形――ジャマトが人々を蹂躙する光景が広がっており、ヒーローはどうにかして壁を越えようと試行錯誤しているも、壁は有刺鉄線のような模様を浮かべるだけでびくともしない。

 人混みが苦手なエースは、どうにか人の少ない場所を探して移動する。

 

『……なに、これ』

 

 エースは誰も居ない場所まで移動し、見えない(ジャマーエリアの)壁に触れる。

 何も無いハズなのに、確かに触れている実感がある。

 試しに拳を叩きつけてみるも、入ることを拒むかのように衝撃が吸収される。

 

『――っぅ!?』

『ひっ!』

 

 壁に何かがぶつかりエースは小さな悲鳴を上げる。

 それは動物の仮面に黒のスーツを纏った人間だった。

 仮面の人物は壁からずり落ちると、そのまま目の前に倒れ込む。

 

『ね、ねえ! 大丈夫っ!?』

 

 エースは動かない動物仮面に声をかける。

 

 ――MISSION FAILED...

 

 動物仮面は問いかけに応えることは無かった。

 無機質な機械音声と共にその体が消滅し、倒れていた場所には水道の蛇口を思わせるバックルが落ちていた。

 

『き、消えた……』

 

 その光景は狐火が姿を消したときと同じで、エースの不安をより掻き立てる。

 

『――っエース!?』

 

 壁の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

『おじさんっ!?』

 

 黒い狐のような仮面の人物は、狐火と全く同じ声を発していた。

 彼はチェーンソーのような武器を振り回してジャマトと戦いつつ、壁の外側にいるエースを見て戸惑っている。

 

『――ピ()アーブ()

『うぐっ!?』

 

 黒い狐は巨大な拳に殴られ見えない壁に衝突する。

 見れば、巨大なジャマト――サボテンナイトジャマトがビルをなぎ倒しながら暴れまわっており、黒い狐はそれに巻き込まれてしまった形となる。

 

『……っやっち、まったなぁ』

 

 黒い狐の変身が解除され、その正体を露にする。

 

『やっぱり、おじさんだ……』

 

 その正体は狐火であり、彼は苦しそうに息をしながら見えない壁にもたれかかっている。

 

『……どうしてここにいるんだ、エース?』

『だって……おじさん、けがして帰ってくるから……なにか、わたしにも言えないことに巻き込まれてるんじゃないかって……!』

 

 殴り飛ばされた狐火はいつになくボロボロで、今すぐにでも病院へ向かった方がいいほどの重傷だった。

 

『ったく……いっちょ前に心配しやがって』

 

 狐火は乾いた笑い声をあげる。

 呆れているような、子供の成長を喜んでいるような、そんな笑いだった。

 

『……あいつらと戦えば、“理想の世界”が叶うんだと。ヒーローじゃどうしようもねぇ怪物と戦えば、俺の理想……“コンの生きている世界”を叶えてくれるって』

『えっ……』

 

 (コン)――それは彼の娘だ。

 デザイナー志望で、異形型個性を持つ者達を支援しようとする優しい人物だったが、心無いヴィランに殺されてしまった少女。

 

『……勘違いすんなよ。俺はおめぇと一緒に過ごしてて幸せだった。コンが生きてるときと同じくらい、な』

 

 狐火の瞳には涙が浮かんでいた。

 

『でもよぉ……どうしても思っちまうんだ……! “ああ、ここにコンがいたら”って』

『……っ!』

 

 彼は右手で顔を覆う。その手の奥からは涙が零れ落ちている。

 それはポタポタと顎を伝って落ちていく。

 

『だからよぉ……どうしても叶えたかった……! 理想の世界を叶えて、エースと、コンと、3人で幸せに暮らそうって』

『……わたしだけじゃ、だめだったの……?』

 

 エースもまた、涙を流していた。

 自分だけが満足していて、恩人である狐火に何も返せていなかったことを知り、彼女(?)は辛い気持ちでいっぱいだった。

 

『わたしっ……おじさんのこともっと幸せにするよっ……もっともっと、コンさん分まで、幸せに……! だから……っ』

『そうじゃねぇ……そうじゃねぇんだ……っ!』

 

 狐火は悲しそうに首を振る。

 

『“形”が違うんだ。おめぇがくれる幸せの形と、コンがくれた幸せの形は違う……っだから、おめぇからいくらもらっても、ダメなんだ……!』

 

 彼は涙を拭うと、ふらつきながら立ち合がる。

 

『俺は罰当たりだよ……っ! こんな優しい()がいるのに、足りねぇって欲張っちまった……っ!』

 

 そしてゆっくりとエースへ向き直る。彼は精一杯の笑顔を見せ、エースの頭を撫でようとして見えない壁に手を触れる。

 

『エース、復讐とか、バカなこと考えるんじゃねぇぞ。そんなことしたら、絶縁だぜ』

『おじさん……っ!』

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしているエースを見た狐火は、普段と変わらぬ笑顔を浮かべている。

 まるで今生の別れであるかのような、もう二度と会わないつもりであるかのような、そんな笑顔だった。

 

『エース、おめぇはこんな、つまんねぇ生き方すんじゃねぇぞ。辛いことなんて、本当は()()()()()()んだからよ』

 

 くるり、と狐火は振り返る。すぐそこにまでサボテンナイトジャマトが迫っていた。

 

『エース、おめぇは、自分の幸せをつかめよ』

 

 ――SET

 

 狐火は変身すると、単身サボテンナイトジャマトへと突撃していく。

 

『待ってッ! いかないでッ! おじさんがいないと、わたし……ッ!』

 

 エースは彼を止めようと必死に壁を叩く。

 彼女の想いをあざ笑うかのように壁は頑健さを見せ、誰も入らせまいと拒み続ける。

 

『――うおおおオオオッ!』

『ダメっ! おじさんッ!!』

 

 サボテンナイトジャマトは平手を振り下ろして狐火を叩き潰す。

 それはまるで羽虫を叩き潰すかのような、矮小な存在を面白半分に殺すような無邪気な邪悪さであった。

 

『おじさん――ッ!』

 

 壁の向こう側がまばゆい壁に包まれる。

 思わずエースは顔を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 その後、エースは自分の部屋で目を覚ます。

 

『ゆ、夢……?』

 

 彼女(?)は慌てて自分の部屋を出て狐火の寝室へ向かう。

 頼むから夢であって欲しい、朝から騒々しいと呆れながら叱って欲しい。

 そんな期待は儚く砕ける。

 

『いない……』

 

 部屋の扉を開けると、そこはもぬけの殻だった。

 しかもしばらくの間誰も使っていなかったかのようにこぎれいだった。

 

『……っ!』

 

 現実を見せつけられてもなお彼女(?)はそれを信じることができなかった。

 見えない壁のあった場所――サボテンナイトジャマトの暴れていた付近へと向かう。

 

『え……?』

 

 エースは愕然として膝をつく。

 ジャマトの暴れていたエリアは消滅していた。

 建物が不自然に途切れ、不自然な空白がわずかに生まれ、その先に建物が続いていく――そんな異様な光景に戸惑いを隠せなかった。

 

『――どうかしたのかい?』

 

 呆然としている彼女(?)に巡回中のヒーローが声をかける。

 

『あ、あの――』

 

 エースはヒーローにありままに起こったことを説明する。

 見えない壁の向こう側で怪物が暴れていたこと、その怪物に自分の義父が殺されてしまったこと、そしてその壁のできていた場所が消え失せてしまっていること。

 

『うーん、怪物、ねえ……』

 

 ヒーローは困ったように苦笑している。どう返答すべきか迷い、頬を掻いている。

 

『本当にそんな怪物がいるなら、ヒーロー(ぼくたち)の間で知れわたっているよ。もしかして、ヴィランに幻でも見せられたんじゃないかな?』

『ち、ちがう……っ本当なんですッ! 信じて――』

 

 エースの狐耳が話し声を捉える。

 声を潜めているのか、それとも聞かせようとしているのかわからない声量の内緒話だった。

 

ねえ、あの子

ああ、狐火さんのとこの……可哀想に、事故で無くなったことが受け入れられないのよ、きっと

 

 ヒーローは何かわかったら教えることを約束し、パトロールへ戻っていく。

 だがエースはもはやそんなことはどうでもよくなっていた。

 

『事故……?』

 

 そんなはずはない。

 確かにこの目で巨大な怪物の手のひらに潰されるところを見た。

 なぜそれが事故となっているのか理解ができなかった。

 

『そんな……ウソだよ……わたしをだまそうとしてる……』

 

 エースはおぼつかない足取りで家に帰ると、居間に座り込む。

 狐火は確かに怪物――ジャマトに殺されてしまっていた。

 でもそれが事故であるということにされてしまっている。

 理解ができずに頭が混乱していた。

 

『――おめでとうございます!』

『だ、誰っ!?』

 

 振り返れば、そこには白と黒を基調とした衣装を身にまとった女性――ツムリが立っている。

 ツムリはドライバーとIDコアの収められたボックスを手にエースへ歩み寄る。

 

()()()()()()()()()、あなたは選ばれました! 今日から貴方は“仮面ライダー”です!』

 

 ボックスを開き、エースは直観した。

 この女性はあの怪物の事を知っているのだ、と。

 

『えっ……あれ、これ……こう?』

 

 ――ENTRY

 

 エースは初めて触れるドライバーに四苦八苦しつつ、IDコアを装填することに成功する。

 ドライバーを腰に装着すると、そこは神殿のような場所だった。

 

『――ようこそ、デザイアグランプリへ!』

 

 即座にゲームの説明が始まり、エースはすべて理解する。

 勝者が“理想の世界”を叶えることができるゲーム、デザイアグランプリ。

 謎の生命体ジャマトから世界を守るゲームを行い、最後まで勝ち抜くことが出来れば“デザ神”となり、望むままの世界を叶えることができる。

 だがツムリは都合の悪いことは説明しなかった。

 もしプレイヤーが全滅し、世界を守れなかったらどうなるか。

 

(勝てば理想の世界、負ければ世界の消滅、ってこと?)

 

 狐火たち前回の参加者はジャマトから世界を守り切れなかった。その代償がエリアの消滅であり、人々の記憶の改変。

 恐らく狐火以外の犠牲者たちも同じように“事故死”として扱われているのだろう。

 

『――それでは、お手元のデザイアカードに願いをご記入ください』

 

 エースは手元に現れたデザイアカードに何を書こうか思案する。

 

(……こんなふざけたゲーム、失くしてやる)

 

 彼女(?)は怒りに任せて願いを書こうとしてペンを止める。

 

 ――『エース、復讐とか、バカなこと考えるんじゃねぇぞ』

 

(違う……こんな気持ちで叶える願いじゃ、おじさんは喜んでくれないよね)

 

 こんなことをしても狐火は喜ばない。それどころか叱るために化けて出てくるに違いない。

 エースは苦笑しつつ別の願いを考える。

 

(おじさんを生き返らせる? でも、そうしたらコンさんも生き返らせてあげたいし……)

 

 願い始めればキリが無くなってくる。次から次へと叶えたい願いが浮かんでは消えていく。

 

(それに――あの子に、会いたいな)

 

 そっと、ポケットから取り出すのは古びたオールマイトカード。

 封印から目覚めたあの日、手を差し伸べてくれた少年の落とし物。

 顔は思い出せなかったが、彼の優しい手は今でも忘れない。

 

(……参ったな。わたしには叶えたい願いが多すぎる)

 

 悩んだ末、エースはデザイアカードに願いを書きこむ。

 “私の願いがすべて叶う世界”

 まるで子供のような、都合の良すぎる願いだ。

 

『え~……』

 

 当然、そんな願いは却下される。

 デザイアカードに書かれた文字は消しゴムで消すかのように消滅してしまう。

 

(どうしよう……どれか一つなんて、選べないし)

『……ふふっ』

 

 エースは思わず笑みを漏らしてしまう。

 

(わたしも、おじさんに負けず欲張りなんだなぁ……)

 

 たった一つの願いなんて選べない。

 だったら――

 

(一つしか叶えられないなら、()()()()()()()全部叶えてやる)

 

 最終的にエースが書いた願い、それは――“私が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界”

 一つしか願いが叶えられないというなら、何回だって参加して勝ち抜いてみせる。

 勝ち続けることは決して簡単ではない。

 それに、まずはこの世界を叶えるために優勝しなくてはならない。

 

(全部願叶えて、このゲームを終わらせる)

 

 ひとたび道を間違えれば世界が消滅してしまう、そんなふざけたゲームは終わらせる。

 不幸を生むだけのゲームなど、無くなってしまえばいい。

 

(そうさ、こんな辛い思いをするのはわたしだけでいいんだ)

 

 エースは手元のオールマイトカードをじっと見つめる。

 このままデザグラが続けば、いずれ彼が巻き込まれる日も来てしまうだろう――もしかしたら、もうすでに巻き込まれてしまっているのかもしれない。

 

(もし彼が巻き込まれたとしても、守れるくらいにわたしが強ければいいんだ)

 

 たとえゲームに巻き込まれたとしても、絶対に守り抜いてみせる。

 決して命を奪わせはしない。

 

(おじさん、ごめん。おじさんを生き返らせてあげるのは、後回し、かな)

 

 まずは強くなる。

 誰にも勝利を譲らないほど、圧倒的な強さを得る。

 そして――何度も勝ち抜き、理想の世界を叶え続ける。

 あの日、助けてくれた少年に平穏な日々を約束するため。

 何事もなく、平和に過ごせる日々を守るため。

 

『さ、始めようか……“私の世界”を』

 

 それこそが“名無しの狐”――“狐火 エース”の恩返し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――数分前。

 

 エントリーしジャマーエリアへ侵入したエースの前に一人の少年が姿を現す。

 ミステリアスだが愛嬌のある容姿、黒いコートを身にまといタブレット端末を携えている。

 

「……君は?」

 

 エースは警戒心を隠しもせず少年に問いかける。

 

「ボクは“ジーン”、君のファンさ」

 

 少年――ジーンは捉えどころのない笑顔を浮かべている。

 

「ファン……?」

「そう! 君が初参加した時からの古参ってヤツさ」

 

 ジーンが手元のタブレットを操作すると、エースの足元にボックスが出現する。

 

「これはボクからの復帰祝いさ。受け取ってくれ」

 

 中身はマグナムバックルだった。

 エースはそれを手に取りつつジーンを睨み付ける。

 

「ギーツにはマグナムが一番似合うよね♪」

「…………」

「ああ、でもマグナムだけじゃ力不足かな? ならこれも」

 

 追加でジーンが操作するともう一つボックスが出現する。

 中身はブーストバックルだった。

 

「本当はもっと支援してあげたいところだけど……君ならこれで十分だろ?」

 

 エースは渡された二つのバックルをしまいつつ深いため息をつく。

 

「……薄々、感じてはいた。こんな悪趣味なゲーム、一個人の道楽でやるには規模が大きすぎる。どこかで観客(オーディエンス)が見てるんじゃないか、って」

「流石、察しがいいね! もしかして、君の決め台詞はボクたちを意識しているのかい?」

 

 無邪気にはしゃいでいるジーンに対し、エースは険しい表情のまま変わらない。

 

「……ふふっ。そうだね……もし、そんな奴らがいたとして、出会ったらこうしてやろうと思ってた」

 

 エースはおもむろにジーンへ歩み寄り、拳を振りかぶった。

 

「ッ!?」

 

 乾いた音が響く。

 ジーンは地面を転がり、殴られた頬を押さえている。

 

「いい気なもんだね。自分は安全な所から高みの見物ってわけかい? お生憎様、私はそういう奴は大嫌いなんだ」

「……いてて……折角支援してあげたのに、ひどいじゃないか」

 

 ジーンは涙目になりながらもどこか嬉しそうにしている。

 

「支援はありがたく受け取るよ。だからって君のご機嫌取りをするつもりはないさ」

「……いいね。そうじゃなきゃつまらない」

 

 エースは不敵に笑うジーンを見て寒気を感じた。

 得体の知れないものを見るかのような、自分よりもはるかに高次元な存在と接しているかのような、不思議な感覚だった。

 

「さあ、()()にも見せてくれよ! 君の理想の果てを」

「……ふふっ。言われなくても――存分に見せてやるさ」

 

 エースは狐耳を後ろ向きに倒しつつも、タイクーンの下へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――現在。

 

「――葉隠さんッ!」

 

 クイーンジャマトの体が変化し、透明な肉体の少女へと巻き戻る。

 緑谷は崩れ落ちる葉隠の体を抱き止める。

 

「……ふふっ♪」

 

 その様子をエースは嬉しそうに見つめ、エリは個性のコントロールがうまくいきホッと一息ついている。

 

「……ごめんっ!」

 

 緑谷は大粒の涙を流している。

 

「助けてあげられなくて……気づかずに何度も斃して、ごめん……っ!」

「……謝るのは私の方だよ」

 

 葉隠はぎゅっと緑谷を抱きしめる。

 

「苦しませちゃって、ごめんね……私が退場してなければ、こんなことにならなかったんだから……っ!」

 

 悪いのは葉隠ではない。

 だが彼女は全てを他人のせいにできるほど無責任ではなかった。

 

 ――♪

 

 そんな中、緑谷とエースのスパイダーフォンが鳴動する。

 

「っそうだよ……! 討伐対象がいなくなったから、これで――ッ!?」

「……成程、一筋縄ではいかない、か」

 

 届いたのはゲーム内容変更の通知だった。

 ゲームの大前提であるクイーンジャマトの存在が消滅した今、ゲームの勝利条件が変更されるのは明白である。

 

「……っ嘘、だろ?」

 

 新しい勝利条件は――“仮面ライダータイクーンの討伐”。

 つまり、どう頑張っても緑谷がデザ神になることは叶わない。

 決して勝たせるつもりのないルールだった。

 

「お気の毒様……と、言っておこうかな」

 

 エースは躊躇うことなくマグナムバックルを取り出し、緑谷と葉隠の近くにいたエリへ目くばせをする。彼女はそれを受けて頷くと、二人からゆっくりと距離を取っていく。

 

「ま、待ってよ……っ戦う必要なんてないよ!」

 

 対する緑谷はゲーム内容に戸惑ったままバックルを取り出すこともしない。

 

「君にはなくても――私にはある」

 

 ――SET

 

 彼(?)はバックルをセットし起動する。

 

「変身」

 

 ――MAGNUM

 

 エース――ギーツはマグナムシューターで威嚇射撃を行う。

 本気であることを悟った緑谷は顔を青くしている。

 

「待ってエースさん! ここで戦ったら敵の思うツボだよ!」

「……見ないうちに、随分偉くなったみたいだね。私に指図するなんて、早いんだよ」

 

 戦う意思を見せない緑谷を前に、ギーツはマグナムシューターを構えたままゆっくりと歩を進める。

 

「――させないっ!」

 

 葉隠は二人の間に割って入る。

 両手を広げ、通せんぼのポーズを取っている。

 

「冷静になろうよ、エースさん! ここで緑谷くんを斃したって、本当に願いを叶えてくれる保証はないんだよ?」

「……邪魔」

「ッ!?」

 

 説得に耳を貸さず、ギーツは彼女を横なぎに殴り飛ばす。

 

「エースさん……どうして」

「勘違いしているようだから教えてあげる――私は人を化かす“化け狐”。人を騙して誑かす化け狐さ」

 

 ギーツは可笑しそうに仮面の下で嗤い、緑谷の耳元で何かをささやく。

 

「……っ!」

「――ひょっとして、友達になれたとでも思ってた? だとしたらお生憎様♪ すっかり私に化かされちゃってたね」

 

 緑谷はぎゅっと拳を握り締める。

 いろいろな感情が入り混じった表情でギーツの事を睨み付ける。

 

「……っそっちがその気なら――!」

 

 ――SET

 

 彼はギーツを突き飛ばすとニンジャバックルを装填する。

 

「やってやる……! 僕だって、君のそういうとこが気に食わなかったんだ!」

 

 上ずった声で啖呵を切った緑谷はバックルを起動させる。

 

「変身っ!」

 

 ――NINJA

 

 緑谷――タイクーンはニンジャデュアラーを構える。

 

「ふふっ。それじゃあ――始めようか」

 

 ギーツもまた、マグナムシューターの照準をタイクーンへと定める。

 

 ――READY FIGHT!!

 

 静寂が場を支配する。

 

「ふっ!」

「はっ!」

 

 銃弾が放たれる。

 タイクーンは身をかがめるようにしてそれを躱し、素早くギーツの懐へ飛び込む。

 その動きを読んでいたギーツはマグナムシューターの銃床を振り下ろす。

 ニンジャデュアラーの切っ先とマグナムシューターの銃床がぶつかり合い、鍔迫り合いへと発展する。

 

「くっ……!」

「ふふっ。やるじゃないか」

 

 ギーツはすかさず左腕のアーマードガンを展開し、タイクーンへその銃口を向ける。

 

「っ!」

 

 銃口が火を噴くのと同時にタイクーンの忍術が発動。銃弾は全て丸太が受け鍔迫り合いを透かされギーツは体勢を崩す。

 

「ふふっ! やるね」

 

 空中に飛び上がっているタイクーンを視界の端で捉えたギーツはマグナムシューターの銃床でベルトのロックを解除、体を捻って攻撃を躱しつつベルトを反転させる。

 

 ――REVOLVE ON

 

 ――TWIN BLADE

 

 タイクーンは即座にニンジャデュアラーを分割し二刀流となり、足技を中心に攻めてくるギーツを相手に攻撃を捌いていく。

 幾多の戦いを経て成長したタイクーン相手では、ギーツと言えど苦戦を強いられていた。

 

「強くなったね、タイクーン」

「いつまでも、エースさんの後ろを歩いているわけじゃないんだッ!」

「へえ?」

 

 タイクーンは煙幕を張りつつ距離を取る。そしてニンジャバックルをコマンドジェットバックルと取り換える。

 

 ――GREAT

 

「――はっ!」

「おっと」

 

 ギーツはレイジングソードに驚きつつも横に跳んで躱す。

 

「知らないバックルだね。お手並み拝見と行こうか」

 

 彼(?)は牽制で射撃をしつつ廃工場の中へと逃げ込んでいく。

 

「逃がさないッ!」

 

 タイクーンもまた、その後を追いかけていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 戦いを始めた二人に葉隠は戸惑いを隠せなかった。

 

(おかしいよ……! 早く戦いを止めなきゃ!)

 

 彼女は足元に転がっているナーゴのIDコアと地面に落ちているデザイアドライバーを手に取る。

 

「っ……!」

 

 ――ENTRY

 

 ドライバーを装着し、二人の後を追いかけようとしたところをエリに引き留められる。

 

「だいじょうぶ」

「何言ってるのッ! 戦いを止めないとッ!」

 

 焦る葉隠に対し、エリは諭すような表情で続ける。

 

「だいじょうぶ、だよ。だって、きつねさんの作戦通りだから」

「っエースさんの……?」

 エリはこくり、と頷く。

 葉隠は戸惑いつつも、エリを連れて工場の中へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ギーツを追いかけてきたタイクーンはレイジングソードを構えつつ慎重に進む。

 廃工場の中は放置された資材が散乱しており、身を隠しながらの射撃に適していた。

 

「……っ」

 

 風で天井から吊るされた鎖が揺れる。神経を研ぎ澄ませていたタイクーンはそれに驚き、身構えてしまう。

 続けて足音が響く。

 咄嗟に音のする方へ振り向くも、そこには誰も居ない。

 

「――ッ!」

 

 なぜだか()()()()がした。頭痛のような、耳鳴りのような感覚だ。

 タイクーンは咄嗟にレイジングソードを振るうと、そこにマグナムシューターの弾丸が命中する。

 

「へえ、今の防げるんだ」

 

 ギーツの声が響くも、反響しすぎていてどこから話しかけているのか特定できない。

 続けざまに銃声が響き渡る。

 

「っ跳弾か!」

 

 廃材から火花が散り、無数の弾丸が跳弾を経てタイクーンへと向かってくる。

 タイクーンはほぼ直感に頼りつつ躱し、受けきれない部分はレイジングソードで弾く。

 銃弾を弾くたびにレイジングソードのリアクトメーターが上昇していく。

 

「――ッ!」

 

 銃弾を捌くタイクーンは、やがて自分が追い込まれてしまっていることに気づく。

 背後には鉄骨の積まれた山。数本の縄で固定されているが、衝撃を与えれば崩れてしまいそうだ。

 

「ふふっ。追い詰めたよ」

 

 袋小路に追い込まれ焦る彼の前にギーツが姿を現す。

 

 ――BULLET CHARGE

 

 彼(?)はレバーを引くことでエネルギーを充填、タイクーンに向けて無数の弾丸を放つ。

 だがそれらはことごとく逸れていき、一発も命中することは無かった。

 

「……外れ?」

「それはどうかな?」

 

 何かがきしむ音が響く。

 タイクーンが振り向くと、鉄骨の山が崩れかかっているのが目に入る。

 

「っそうか――僕を狙ったんじゃなくて、鉄骨を止めていた縄を狙ったのかッ!」

「ご名答♪」

 

 音を立てて鉄骨が降り注ぐ。

 鉄骨の雨はタイクーンを容易く押しつぶしてしまう。

 ギーツは勝利を確信し背を向けた。

 

 ――TWIN SET

 

「ん?」

 

 ――TAKE OFF COMPLETE! JET & CANNON

 

「はあっ!」

 

 直後、鉄骨の山を突き破ってタイクーンが飛び立つ。ギーツの虚を突きトロンキャノンで砲撃を行う。

 

「ッ」

 

 ――REVOLVE ON

 

 ギーツは形態変化の無敵時間を利用し攻撃を躱すも、容易く距離を詰められてしまう。

 袈裟切りを喰らったギーツは大きく吹き飛ばされ地面を転がる。

 

「形成逆転だよ」

 

 タイクーンは起き上がって体勢を立て直そうとしているギーツに砲撃を行い追い打ちをかける。

 次々と爆発が起き、ギーツはなす術もなく爆炎に飲まれていく。

 

「っ成程ね。時限式のバックルかぁ」

 

 ギーツは柱を背に立ち上がろうとするも、無数の砲撃は彼(?)の体を蝕んでいた。

 

「……もう、一番強いのは君じゃない」

 

 ――LOCK ON

 

 トロンキャノンの照準をギーツへと合わせ、ロックする。

 タイクーンはゆっくりとコマンドキャノンバックルのレバーに手をかける。

 

 ――DELETE...

 

「へっ?」

 

 突如として響いたシステム音声にタイクーンは振り向く。

 ギーツはその隙を逃さなかった。バックルをマグナムシューターへ装填、即座に起動させる。

 

 ――MAGNUM TACTICAL BLAST

 

「はっ!」

 

 充填されたエネルギーが収束され、タイクーンに向けて放たれる。

 

 ――技は見事命中し、大爆発を引き起こした。

 

 

 




















オイオイオイオイ。
何をしているんだエースさんや。

なおこの世界のジーンさんは、福さんフェイスではなくヒロアカ特有の嫌味っぽいムカつくフェイスです。
福さんフェイスでないと考えると……あと2、3発はぶん殴っても文句は言われないですよね。
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