【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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38 終局Ⅳ/ 私の理想

――――

――

 

 ギーツとタイクーンが激闘を繰り広げているその裏で、八百万はゲームプロデューサーのニラムの下を尋ねていた。

 

「……誰かと思えば、大スポンサーの娘さんとは」

 

 ニラムは呑気に寿司を食べながら彼女を迎え入れる。

 

「何か食べたいネタがあれば言ってくれ。彼女が握ってくれる」

「いえ、結構です」

 

 八百万は彼の提案を断ると、静かに席へ着く。

 

「あ、そう」

 

 彼はため息をつくとマグロの握りを口へ運ぶ。

 傍らでは秘書のサマスが淡々と寿司を握っていた。

 

「……それで、ご用件は? 見ての通り、私は忙しい」

「ご冗談を。ゲームを好き勝手に運営されて困っている最中なのでは?」

 

 痛いところを突かれたニラムはわずかに眉を顰める。

 

「確かに、あの男の運営には思うところがある。が、彼は彼なりにゲームを盛り上げようとしてくれているんだ。その頑張りを無碍にはできない」

「本当にそうなのですか?」

「……何が言いたい」

 

 その名の通り、ニラムに睨まれた八百万はひるむことなく睨み返す。

 

「何もできずに手をこまねいているだけではありませんの?」

「…………」

 

 ニラムは一際大きなため息をつく。

 

「……君を子供だと思って侮っていた。そこまでお見通しとはね」

 

 彼は食事の手を止め、改めて八百万に向き直る。

 

「君も知っての通り、デザイアグランプリには優勝者の“理想の世界”を叶える能力がある。詳細は伏せるが、その力は“ゲームプロデューサー”と“ゲームマスター”、この2つの権限によって行使できる」

 

 世界を意のままに作り変える権能、それは絶大な力であり一個人の手に委ねていい代物ではない。

 故に、権限を分散させることで対策をしているのである。

 

「あの男は、現ゲームマスターを傀儡にすることでゲームを乗っ取っている。プロデューサー(わたし)の権限でゲームマスターを変更し、あの男を排除することは可能だが、一つだけ問題がある」

「問題、とは?」

「“個性”さ」

 

 ゲームマスター――ギロリを傀儡としているオール・フォー・ワンは数多の個性を所持している。その中には当然“超再生”の類も含まれている。

 

「私も個性が我々のシステムにどのような影響を及ぼすか把握しきれていなくてね。もし万が一、プロデューサー権限で排除しきれなかった場合、ゲームを完全に乗っ取られてしまう」

「でしたら現ゲームマスターを解雇(クビ)にし、ゲームを凍結すればいいのでは?」

「そこは、“大人の事情”だ。そう易々とゲームを凍結するわけにはいかない」

 

 ニラムは大げさに肩をすくめている。

 その仕草はまるで、知られたくない秘密をどうにかして誤魔化そうとしているかのようだった。

 

「仮に、私が実力行使に出たとして、万が一敗北すれば――それこそ一巻の終わり。だからこうして状況を大人しく見守っている――ご理解いただけたかな?」

「……ではもし――」

 

 八百万は不敵に微笑む。

 まるで挑発するかのような微笑だった。

 

「もし、ゲームマスターが不正を働いていたとして、それも見逃すと」

「それは断じてない」

 

 ニラムはバン、とテーブルを叩く。

 

「それだけは断じてない。デザイアグランプリからリアリティが失われることこそ、一番に防がねばならないことだからね」

「でしたら、ぜひともご覧に入れたいものがありますわ」

 

 と、彼女はスマホを取り出し画面を見せる。

 どこかとビデオ通話がされており、音声はつながっていなかったがどこかの廃工場の映像が映し出されていた。

 画面にはタイクーンとギーツの激闘が映されている。

 

「……ほう?」

 

 ニラムの視線は二人の戦闘――ではなく、画面の端に映る人物に注がれる。

 ギロリ――その姿を騙るオール・フォー・ワンが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(ツムリめ。勝手にドライバーを配布されてどうなることかと思ったけど――)

 

 ギロリ――オール・フォー・ワンは廃材の陰に隠れてタイクーンとギーツの戦いを見守る。

 

(成程、こういう展開ならば好都合だ♪)

 

 彼はギーツの事をよく知らない。

 デザイアグランプリで何度も優勝するほどの凄腕のプレイヤーである。幾度もデザ神となり己の私服を肥やす欲深き()――それがオール・フォー・ワンがギーツに下した評価だった。

 

「緑谷 出久……君がデザ神になる未来は決して訪れない」

 

 ――INSTALL...

 

 オール・フォー・ワンはグレアに変身し“その時”が来るのを虎視眈々と狙い続ける。

 

(自分の欲を満たすためなら他者を蹴落とす狐……君も所詮は理想の世界(エサ)にまんまとかかる愚かな獣、というワケだ)

 

 しかし彼の思惑に反しタイクーンが優勢であり、次第にギーツを追い詰めていく。

 それもそのはず、コマンドフォームはマグナムフォームを凌駕する性能を誇っている。いかに変身者の技能が優れていようとも追い詰められるのは自明である。

 

「ふぅん……じれったいな。どれ、僕が手を貸してあげようか」

 

 ――DELETE...

 

 グレアはプロビデンスカードをドライバーに装填、肩のユニット――ヒュプノレイを射出し必殺技を放つ体勢に入る。

 

(信じていた者に裏切られ退場する――実に悲劇的な筋書き(シナリオ)だ)

 

 必殺技を繰り出そうとしてたタイクーンは背後の存在に気づき振り向く。

 

 ――MAGNUM TACTICAL BLAST

 

 その隙をついたギーツはバックルをマグナムシューターに装填し起動させている。

 

「……ようやく僕の下に返ってきたね――弟よ」

 

 勝ちを確信したグレアはギーツの必殺技に合わせて技を繰り出す。

 

「っ!」

 

 ――REVOLVE ON

 

 だがしかし、()()()()()()()()()()()()()かのようにタイクーンはベルトのロックを解放しベルトを反転、ギーツとグレアの必殺技を回避する。

 ギーツもまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのように技を撃っており、弾丸はまっすぐにグレアへ飛んでいく。

 

「何ッ!?」

 

 技は見事命中し、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 タイクーンはジェットモードになると着地し膝をつく。

 

「や、やったのか……?」

「……いいや」

 

 ギーツは油断なく爆炎に向けてマグナムシューターを構える。

 爆炎が晴れると、そこには傷一つ負っていないグレアが立っている。

 

「何故だ……っ! 君達は争っていたはずじゃないのかい?」

「ふふッ……!」

 

 困惑するグレアを見たギーツは心底可笑しそうに笑い始める。

 

「何が可笑しいんだい?」

「ふふふっ……こうも作戦が上手くいくと楽しいものだね♪」

 

 彼(?)はゆっくりと立ち上がり、仮面の下で口角を釣り上げる。

 

「君がタイクーンをデザ神にしたくないのはわかりきっていた。だから、タイクーンが勝ちそうな状況になれば横やりを入れてくると思っていたよ」

 

 ギーツは手で狐の影絵を作ると、おちょくる様にグレアに見せつける。

 

「狐ってのは、人を化かす動物だって、知らなかった? 君は私たちに化かされてたのさ♪」

「馬鹿な……っ! 事前に策を伝えているような時間だってなかったはずだ!」

 

 グレア――オール・フォー・ワンはゲーム状況を逐一確認していた。

 確認していたからこそ、タイクーンが勝利しそうな状況で介入し勝敗を操作するのに最適なタイミングを掴めていたのである。

 

「……エースさんは僕にこう言った――“私に化かされて”って」

 

 ギーツ――エースは戦闘が始まる前にタイクーン――緑谷へ耳打ちをしていた。

 化かす――それはエースが策を弄するときに使うワードだ。

 その一言だけで緑谷は全てを察し、一芝居を打てたのだ。

 

「僕には、その一言だけで十分だ」

「そんな……馬鹿な……! こんな、僕を引きずり出すためだけにデザ神になる機会を棒に振る? ありえない……っ! たった一人を退場させるだけで君の理想が叶うというのに」

「馬鹿は君さ」

 

 ギーツはグレアを小馬鹿にするように鼻で笑う。

 

「私が自分の欲を満たしたいだけの人間に見えているのかい? だとしたら――君は上っ面しか理解できない空っぽな人間だね」

「……」

 

 グレアはじっとギーツを凝視する。その視線には何の感情も込められていないように思える。

 

「私の理想は、私を救ってくれた人たちのためにある。私はそのために――そのためだけにデザグラで戦い続けている」

 

 ちらり、とギーツはタイクーンの方を見やる。

 

「私がタイクーンを退場させる? それだけは絶対にありえない」

 

 工場の入り口から葉隠とエリが姿を現す。葉隠は戦いが止まっていることに安堵のため息をついている。

 

「だって彼は――私の大切な人だからね♪」

 

 ぱち、ぱち……と静かな拍手が響く。

 

「ご高説をありがとう! それで? 僕を引きずり出したってなにも状況は変わらない」

 

 グレアはわざとらしく手を叩きながら小馬鹿にするようにギーツへ問いかける。

 

「僕の装備はゲームマスター専用の高性能(ハイエンド)、君は一般参加者用の低性能(ロースペック)、大人しく僕の策に乗っていればよかったのに」

「……タイクーン、10分……いや、5分で十分かな? そのバックルを貸してほしい」

 

 ギーツは静かにタイクーンへ手を伸ばす。

 

「それはいいけど……一体何を」

「決まってるでしょ?」

 

 ――SET

 

 タイクーンからコマンドジェットバックルを受け取ったギーツは、それをバックルへ装填する。

 

「あいつを斃すのさ♪」

 

 ――GREAT

 

 レイジングソードを装備したギーツはゆっくりと切っ先をグレアへと向ける。

 

「さ、ここからが、ハイライトさ♪」

 

 ――READY FIGHT!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ヒュプノレイが射出されギーツを攻撃する。

 ギーツはそれを躱しつつグレアへ肉薄し、レイジングソードを振り下ろす。

 

(無駄だ――衝撃反て)

 

 グレアは個性を発動しようとし、それができないことに気づく。

 舌打ちしつつそれを腕で受け止めると回し蹴りを放つ。

 

「よっと」

 

 ギーツはそれに合わせて跳躍、グレアの足を踏み台にして飛び上がる。

 

「空中じゃ躱せないだろう?」

 

 そこにヒュプノレイのレーザーが照射される。

 

「それはどうかな?」

 

 彼(?)は空中で身をひねると間一髪で攻撃を回避、体操選手を思わせる華麗さで着地する。

 

 ――FULL CHARGE

 

(見え透いた強化なんてさせはしないよ)

 

 グレアは再び個性を使って拳を振り抜こうとするも、それは不発に終わる。

 

「ああじれったいな!」

 

 グレア――オール・フォー・ワンにとってライダーシステムは自分の力を制限する拘束具でしかない。

 彼の強みは黎明期から収集し続けてきた個性の手数にある。

 その時に応じて適切な個性を掛け合わせることで確実に敵を排除する――個性を使えない戦いと言うのは彼にとって初であった。

 

 ――TWIN SET

 

 グレアがもたもたしている隙にギーツはコマンドキャノンバックルを装填し起動。

 

 ――TAKE OFF COMPLETE! JET & CANNON

 

 コマンドフォーム、ジェットモードへ変身したギーツはジェットパックによる急加速で突撃する。

 

「くそっ!」

 

 グレアは迫りくるギーツを躱すと打開策を模索し始める。

 

(うん?)

 

 辺りを見回していると、葉隠とエリの姿が目に入る。葉隠の腰にはおあつらえむきと言わんばかりにデザイアドライバーが装着されている。

 

「はははっ! 風は僕に吹いているようだね!」

 

 ――HACKING ON ...

 

 グレアの持つ機能の一つ、洗脳機能。

 デザイアグランプリ参加者であれば問答無用で乗っ取り、意のままに操ることができるようになる力。

 彼はヒュプノレイを葉隠の方へ向けて射出する。

 

「っ!?」

 

 それに伴い彼女は自動でエントリーフォームへ変身させられてしまう。

 

「させないっ!」

 

 ――NINJA

 

 だがそれはタイクーンの横やりで防がれてしまう。

 ヒュプノレイはニンジャデュアラーの手によって地面に縫い付けられる。

 

「もう二度と……葉隠さんを操らせるもんかっ!」

「ひゅう♪ さすがだね」

 

 ――COMMAND TWIN VICTORY!!

 

 ――RAISE CHARGE

 

 ギーツはすぐさまバックルを起動しレイジングソードのコマンドソケットのボタンを押す。

 

「っこの」

 

 グレアはまたしても個性を使おうとし、できずに舌打ちする。長年しみついた行動はそう簡単に変えることはできないのである。

 

「はあっ!」

 

 ギーツはジェットパックによる急加速でグレアへ蹴りを見舞う。

 

 ――TACTICAL RAISING!

 

 続けてレイジングソードを振り抜き、グレアに致命的なダメージを与える。

 

「ぐっ……!」

 

 ダメージを受けすぎたことによりグレアの変身は解除され、ヴィジョンドライバーが地面に転がる。

 ギロリの姿も泥が崩れるように溶け落ち、スーツに工業地帯のようなマスクをかぶったオール・フォー・ワンの姿へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

『……くっくっくっ……!』

 

 敗れてなおオール・フォー・ワンは愉快そうに笑っている。

 

『君が頑張って斃したそれは僕の武器(おもちゃ)の一つにすぎない! さあ、第2ラウンドと――』

「――残念だがそれはない」

 

 個性を発動させ息巻く彼の前に一人の男が現れる。三つ揃えのスーツに蝶ネクタイ――デザイアグランプリのプロデューサー、ニラム。

 ニラムは地面に落ちているヴィジョンドライバーを拾い上げ、大きなため息をつく。

 

「……あなたは?」

 

 タイクーン――緑谷は変身を解除しつつニラムへ問いかける。

 

「――このゲームのプロデューサー、ですわ」

「八百万さんっ!?」

「ヤオモモ!? なんでっ!?」

 

 八百万がデザイアグランプリに関わっていることを知らなかった葉隠は一際大きく驚いている。

 

「……彼女の父はデザグラの出資者(スポンサー)らしくてね、そのコネを使わせてもらったのさ♪」

 

 ギーツ――エースは変身を解除しつつ微笑んでいる。

 

「ゲームマスター、貴方の事を告発させていただきました――特定のプレイヤーを退場させようと、勝敗操作の八百長(やらせ)を行っていた、と」

「……確かに、この目で確認した」

 

 ニラムは回収したドライバーを懐へしまうとオール・フォー・ワンを一瞥する。

 

「ゲームマスターがゲームの勝敗を操作し、不正を働く瞬間を」

『馬鹿な……っ! そんな証拠がどこにあるって言うんだい!?』

 

 デザイアグランプリは観客(オーディエンス)に向けた映像を撮影するカメラが無数に配置されている。だがそのカメラも万能ではなく、死角となってしまう場所がいくつか存在している。

 オール・フォー・ワンは死角となる場所から攻撃を仕掛けようとしていたため、デザグラのカメラは不正の瞬間を捉えていないはずであった。

 

「――ここにあるぜ!」

 

 どこからともなく声が響く。

 エースが指を弾くと、スマホを構えた少年――ミサオが姿を現す。

 

「オレのスマホでばっちり撮ったぜ!」

 

 ミサオはエースの認識阻害によって姿を隠しつつオール・フォー・ワンを撮影しており、スマホを通じてニラムに不正の瞬間の映像を送っていたのである。

 

『っ……!』

 

 オール・フォー・ワンは想定外の事態が連続し唇を噛みしめつつ、打開策を検討する。

 不正を働いていないという言い訳を必死になってひねり出す。

 

『っそれは……』

 

 そんな中、彼はエースの存在を思い出す。

 自分がエントリーさせていない、恐らくツムリの差し金で参加してきたプレイヤー――つまりは不正な参加者に他ならない。

 

『僕はね、勝敗の操作をしようとしていたわけではないんだ』

 

 焦りから一転、彼は堂々とした仕草で弁明を始める。

 

『不正にエントリーしたギーツ――狐火 エースを排除しようとしていただけさ!』

 

 オール・フォー・ワンはエースを指差し笑顔を浮かべる。

 

『ゲームマスターの許可なく参加した人間が優勝することは“ルール違反”だろう? だから僕は健全なゲームを守るために――』

「――貴方に彼の参加を拒むことは不可能です」

 

 勢いづく彼を止めたのはツムリ。

 彼女はデザイアカードを片手に姿を現す。

 

『不可能? そんなことは無いさ! ゲームマスターは参加者を選ぶ権利を持っている』

 

 オール・フォー・ワンはニラムに訴えかけるように弁明する。

 まるで自分は悪くないと主張しているかのようだった。

 

『そもそも、彼は君の横流ししたIDコアでエントリーしたんだろう? 中立と言っておきながら、随分と肩入れするじゃないか!』

「いいえ、私はあくまで中立です」

 

 ツムリは首を横に振って否定する。

 

「私は、あくまでデザイアグランプリのルールに基づいて彼にドライバーをお渡ししたまでです」

『見え透いた嘘を……! 特定の人間を必ず参加させなければいけないルールなんて存在しないじゃないか!』

「……“デザイアグランプリの勝者はデザ神となり、理想の世界を叶えることができる”」

『それが、なんだって言うんだい?』

 

 彼女はゆっくりと、手元のデザイアカードを裏返す。

 そこにはエースが初めてデザイアグランプリに参加した際に願った“理想の世界”が記されていた。

 

「一度叶えた以上、その理想が覆されることは絶対にありません」

『まさか……!』

「“私が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界”――」

 

 死ぬまで――つまり生きている間は必ずデザイアグランプリに参加できることを意味する。

 たとえ運営にとって不都合なプレイヤーであったとしても、その理想の世界が有効である限り参加を拒むことは許されない。

 狐火 エースが生きている限り、その理想は叶えられなければならない。

 

「貴方がどんなに拒もうと、彼は死ぬまで“仮面ライダーギーツ”です」

「……嘘をついていたのは君の方だった、と」

 

 ニラムは嘘をついてまで切り抜けようとしたオール・フォー・ワンに呆れてため息をつく。

 

「これが誰もが恐れた“悪の帝王”だとは……」

『っ……』

 

 穏便に事態を解決できないことを悟ったオール・フォー・ワンは個性を発動させる。

 

『仕方ない――』

 

 彼は指の先から槍のようなものを伸ばし、ニラムを貫かんとする。

 

『こうなったら強硬手段と行こうか!』

 

 オール・フォー・ワンの目的はデザグラの乗っ取り、ひいては完全な崩壊である。

 プロデューサーであるニラムを排除すればもはや彼に障害はない。

 槍は目にもとまらぬ速さでニラムに伸びていくも、胸を刺し貫く寸前で停止する。

 

「ふぬっ!」

 

 見れば、ミサオがオール・フォー・ワンに向けて手を伸ばしている。

 彼の“異能”によって個性が抑制され、ニラムを傷つけることができないのである。

 

『何っ……!』

「……ゲームマスターが必要以上にプレーヤーに関与することがあってはならない」

 

 ニラムは自身の胸元に伸びる槍をつまんでゆっくりとその切っ先をずらす。

 槍はボロボロと崩れ落ちていく。

 

「君は、ゲームマスター失格だ」

『ぐっ……くっ……』

 

 ニラムが指を弾くと、オール・フォー・ワンの体に異変が起きる。

 

「たった今、ゲームマスターの権限を君に与えた。だが――」

『うっ……!』

 

 自分の体が消滅し始め、オール・フォー・ワンの顔から笑顔が消える。

 

「君のような不正を働くゲームマスターは我がデザイアグランプリには不要な存在。リアリティを汚すフィクションにはご退場願おうか」

『無駄だよ……僕には超再生が』

 

 消滅に抗うかのように彼の体が再生を見せるも、徐々にそれが追いつかなくなっていっている。

 

『っ個性でも、再生できないというのか……!』

「さようなら、悪の帝王。君の仕切るデザグラは――見るに堪えないクソゲー(フィクション)だったよ」

 

 オール・フォー・ワンは最後のあがきと言うかのようにエースへと掴みかかるも、その体はいとも簡単にすり抜けてしまう。

 

「残念でした♪」

 

 呆然とするオール・フォー・ワンをあざ笑うかのように、エースは舌を突き出す。

 

『ふふふ……ははははっ!』

 

 消滅する間際、彼は狂ったように高笑いをしていた。

 その声は、消滅してもなおしばらく響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――ふぅ……オレの手助けはいらなかったか♪」

 

 様子を見守っていたジーンは銃のようなアイテム――レーザーレイズライザーをコートの内側にしまう。

 

「流石ギーツ! 君はオレの想像をはるかに超える!」

 

 彼は“推し”活躍に感極まっていた。

 

「これでようやくオレの好きなデザグラが戻ってくる……ギーツの活躍が楽しみだな」

 

 ジーンはコートを翻すと、どこかへ姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「さて、まずは礼を言おう」

 

 ニラムはエース、緑谷、葉隠、八百万の4人の方へ向き直る。

 

「君達の助力なしにドライバーを取り戻すことはできなかった。これでデザイアグランプリは本来あるべき姿を取り戻した」

 

 ヴィジョンドライバーは運営の手に戻り、ゲームマスターを傀儡としていたオール・フォー・ワンはこの世から退場した。

 世界はボロボロだが、事態は沈静化したと言えるだろう。

 

「これは私からのささやかな謝礼だ――」

 

 ――VISION DRIVER...

 

 ニラムはドライバーを装着すると指を鳴らす。

 鐘の音が響き渡っていき、崩壊しかけていた世界が復元されていく。

 

「たった今、世界を前シーズン最後の状態へと復元した。よって、今回起きた悲劇は無かったことになった」

「っじゃ、じゃあ……今回退場した人たちも」

「そこまではしていない」

 

 緑谷の期待は儚く砕け散る。

 世界の状態は元に戻されたが、退場したプレイヤーたちは元に戻されていなかったのだ。

 

「ライダーの死は絶対的な物でなくてはならない。下手に生き返らせればデザイアグランプリのリアリティが損なわれてしまう」

「そんな……」

 

 葉隠は悲しそうに俯いている。

 彼女はジャマトとして活動していた時の事を覚えていた。数多のライダーを退場させ、多くの人々を傷つけてきたこと、それまでは“なかったこと”にできないというのだ。

 

「が、今回の件はこちらにも非がないわけではない。そこで――私の権限で“デザ神決定戦”を開催する」

 

 ニラムが指を弾くと、場所が神殿へと移動する。

 招待されたのはエース、緑谷、葉隠――デザイアドライバーを装着していた3人。

 

「こちらの準備が整い次第、デザ神を決定する特別ゲームを開催する。今回に限り、叶える世界に制限は設けない」

 

 例えば、とニラムは続ける。

 

「“自分の願いが全て叶う世界”、とか。無論、運営の根幹に関わる願いは除くが」

「……へぇ」

 

 エースはその言葉を聞くと不敵に微笑む。

 かつて拒否(キック)された願いを叶えてくれるという言葉に、エースは気分が高揚していた。

 

「それでは“デザ神決定戦”、楽しみにしているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――ジャマーガーデン。

 

「一件落着……とはいかないんじゃ、これが」

 

 殻木は鼻歌交じりで一つの木の前へ向かう。

 他の木々の栄養を根こそぎ吸い上げるかのように成長しており、樹齢千年に迫るかのような壮大さだった。

 その根元には無傷の黒いIDコアが埋められており、何者かの情報を吸い上げて成長し続けていた。

 

「なんにせよ、奴らは動き始めるのが遅すぎた♪」

 

 ジャマーガーデンでひそかに行われていたジャマトの品種改良。

 個性を与えるところから始まり、死体の情報を吸い上げその人格を模倣させ、最終的にはIDコアの全情報を読み取り生前と何ら変わりのない姿を模倣させるに至った。

 その集大成こそクイーンジャマト。

 複数の個性を持っていながらも破綻することなく、かつ素体(ベース)とした人間の人格をそのまま引き継いだ。まさに体の乗り換えと言っても差支えの無い所業を成し遂げたのである。

 

「改良が完了した以上、もはやあのゲームを掌握する必要もなし! 思う存分暴れまわることができるんじゃよ!」

 

 殻木の前にある大木は()()()()()()()()()()のIDコアを元に成長しているジャマトだった。

 彼の持つ遺伝子技術をふんだんに注ぎ込むことでストックしていた個性因子を全て吸い上げて成長し、今まさにオール・フォー・ワンの情報をIDコアから吸い上げている最中だったのだ。

 

「楽しみじゃのぉ! オール・フォー・ワンの肉体的全盛期、黄金時代(ゴールデンエイジ)が再び始まるんじゃ!」

 

 実っているジャマトの果実が脈打ち、ギロリ、と眼を見開く。

 

「さあ再びはじまるぞぉ! ワシらの“理想の世界”が!」

 

 最悪のジャマトが誕生するまで、そう時はかからないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















これにて一件落着……かと思いきや、不穏そうな引きとなってしまいました。
恐らく本作は後数話で最終回となりますので、もう少しだけお付き合いください。

ギーツ本編、総集編かと思いきややはり重要そうな情報が開示されましたね。
英寿の初変身が描かれましたが、あれが本当に初変身なのでしょうか……? 一般高校生にしては肝が据わりすぎてるように見えますが……
謎がやや深まったところもありますが、本編も見逃せない状況ですね!
それはそうとキューンさん、僅かしか登場していないのにサジェストに“キモい”が出てきてて可哀想……イケメンでも許されないことがあるのですね。
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