【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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我がオリキャラながら、伴野を書いていて死ぬほど不愉快になってしまいました。
中々いないよ……こんな屑。やはり名前の響きがよくないのかな?(某ドライブの悪役と同じ名前の響き)

少しチャレンジですが、オリキャラの過去にヒロアカ原作キャラを関わらせてみようと思います。まずは回想シーンから。
……破綻しないでくれよ……いや変身させている時点で今更ですが。
葉隠さんの過去が生えてきて全然違う心境が描写されたら結構詰みですね。
……大丈夫、だよな……?

※よく考えたらオリキャラなので性転換ないな、と思ったのでタグは外しました。












4 覚醒Ⅲ/見える想い

 

――――

――

 

 デザイアグランプリ2回戦――ゾンビサバイバル。

 2ウェーブ目が終了した時点で、2人のプレーヤーがゾンビに噛まれてしまっていた。

 ゾンビに噛まれたものはやがてゾンビ化してしまう。

 

「うん、これでよし……ある程度は侵食を押さえられるはずだ」

 

 神殿内の治療所。

 そこでは葉隠がエースによって治療を施されていた。

 

「ありがと……エースさん」

「どういたしまして。でも私がしたのは応急処置、治ったわけじゃないよ」

 

 葉隠はそっと傷口に手を触れる。包帯越しにゾンビ化が侵食しているのが感じ取れた。

 唇をぎゅっと噛みしめる。だがその様子は誰にも見られることは無かった。

 

「ダパーン……伴野さんも手当をしていけばよかったのに」

 

 緑谷は早々にいなくなってしまった伴野の事を気にかけている。

 彼は帰宅可能なことを告げられると真っ先に神殿から姿を消していたのだ。

 

「悪いけど、彼のことを手当てする気はなかったよ。私だって救う人間は選ぶ」

「そんな……彼だって被害者なのに」

 

 エースは聞き分けのない子供の相手をするかのように肩をすくめる。

 彼(?)が医者であるならば患者を見捨てるのならば非難されてしかるべきだが、あくまでスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ。隔てのない治療をする義務はないのだ。

 

「てっきり、君も同じ心境だと思っていたよ。ざまぁみろ、ってね」

「っそれは」

 

 正直、図星だった。

 彼は意味もなく他人を煽っては反感を買っていた。いう必要のない悪口を言っては不愉快にさせてきた。毒舌と悪口をはき違えているかのような物言いだった。

 緑谷はなぜだか幼馴染の爆豪の事を思い出していた。

 爆豪もまた他者に対する攻撃性が目に余る一人。誰に対しても高圧的でそれを納得させるだけの実力を兼ね備えている。

 もし爆豪が同じ状況になったとして、どう感じるのだろうか?

 

「私たちは聖人じゃないさ。こんな()()()()()願いを叶えるゲームに参加している時点でね。気に病む必要はないさ」

 

 エースは慰めるように緑谷の肩を叩く。

 しかし彼の心は何かに引っかかり続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 伴野 優太。

 個性は万能。

 名前だけを聞けばとても使い勝手のよさそうな優れた能力に見えるが、有体に言えば“ただひたすらに要領がよくなる”だけの個性である。

 彼は幼いころ、個性が発現して以降なんでも一番だった。

 小学校の頃は負け知らずでテストではいつも満点、かけっこでも一番。ちょっと頑張れば簡単に一番を取れている順風満帆な人生を送っていた。

 

『優ちゃんはすごいね~』

 

 そんな要領のいい彼を、母親は甘やかしに甘やかした。

 

『いいぞ、その調子だ』

 

 父親もまた、心の底からかわいがっていた。

 

(おれが世界で一番の人間なんだ!)

 

 そんな環境で自尊心はむくむくと膨れ上がって育ち、小学校高学年になるころには立派な“プライド”へとなっていた。

 彼はクラスメイトがアニメやドラマを見ている中、ニュースや情報番組を好んで見ていた。

 テレビの向こうではヒーローの不祥事、失敗などがさも一大ニュースであるかのように取り上げられ、情報番組ではヒーローのあり方について徹底的に討論されていた。

 

(ははっ! 大人(ヒーロー)ってのも大したことないね)

 

 そんなヒーローたちは、彼から見れば大したことのない低能な存在。

 不満のはけ口にしかならないサンドバック。

 わざわざしゃしゃり出て問題に首を突っ込み事態を悪化させている無能な働き者。

 

(ま、あと10年もすればこんな状況も変わるよ。俺がサクッと解決するからさwww)

 

 根拠のない自信、幼児的万能感。

 彼はそれを失うことなく成長していってしまった。

 そんな彼が挫折を味わったのは中学に入学して間もなくの頃だった。

 

 中学に入学して最初の定期テスト。

 小学校の頃とは違う現実を叩きつけられる最初の関門。

 伴野は今まで通り()()()()テストを解いて学年一番を取れる――そう信じてやまなかった。

 結果は――()()5()()

 傍から見れば十分な結果だ。学年でも五本の指に入る実力は他人から見れば十分に羨望の的となるだろう。

 だが彼はその結果に納得していなかった。

 ()()()()()()()()()()()()、そう信じてやまなかった彼はテストの結果に憤った。

 自分の上に4人もいる。それは自尊心の塊だった彼にとって屈辱的なことだった。

 もしこの時、彼がこれまでの自分を顧みて努力をすれば、現実は今と異なるものとなっていただろう。

 しかしながら、彼はこの結果に対してこう思ってしまった。

 

(――ま、今回俺は()()()()()()()()()だけだし)

 

 完全なる言い訳、負け惜しみ。

 自分の実力不足を棚に上げ、原因を外的な要因に帰結してしまったのだ。

 その結果、彼は1番になれる可能性がありながらも常にそれを逃し続けてしまった。

 

 さらに中学になってから、級友たちは色恋に目覚め始めた。

 誰が可愛い、だの、誰と付き合ってみたい、だの、彼からすれば低俗でなんの価値もない話題だった。

 

『――あの、私と付き合ってくれませんか?』

 

 彼にとって不幸なことに、彼はそれなりの容姿を兼ね備えていた。

 ()()()()髪形を整え、()()()買った私服はとてもセンスが良く、女子たちの間ではあこがれの“イケメン”として話題になっていた。

 無論、彼は色恋に全く興味がない。

 ()()()()()()()。彼にとって世界はそれだけであり、異性と付き合うという発想はなかった。

 

『俺と?』

 

 女子はコクコクと頷く。きっと勇気を振り絞って告白したのだろう。

 彼女は()()()()()()()()両手をぎゅっと握り締め、答えを待っていた。

 

『はっ。誰がお前なんかと付き合うかよw』

 

 異形型の個性を持つ者に対してよい感情を持たない人間は少なからずいる。

 都会ではさほどだが、田舎では依然“異形差別”が横行しており、ある種の社会問題となっていた。

 

『お前鏡見たことないの? よくその顔で俺と付き合えると思ったなwww』

 

 伴野はいたって普通に、思った通りの事を言った。

 ()()()()()()()()なのだから、思った通りの事を言っても許してもらえる。そう信じてやまなかった。

 イグアナの女子とて、自分が付き合えるとは思ってもいなかった。

 実らぬ恋の終着として告白を選択、フラれることで気持ちに区切りをつけようとしていた。

 

『ちゃんと身の丈に合った相手と付き合おう、な? 俺と付き合いたかったら来世に期待だwww』

 

 フラれることは織り込み済みだった。

 しかしここまで手ひどく馬鹿にされると――容姿まで言及してこき下ろされるなど彼女にとっては想定外だった。

 彼女の心はひどく傷つき、その場で泣き崩れてしまう。

 伴野はなぜ泣き出したのか心底理解できず、めんどくさそうなものを見る目でイグアナの女子を見つめていた。

 

『は? 付き合えるとでも思ってたワケ? ウケるwww お前頭までイグアナなのかよwww』

『――ちょっと! そんな言い方無いでしょっ!』

 

 間に割って入ったのはイグアナ女子の友人たち。

 陰から彼女の告白を見守っていたのだ。

 

『は、なんで? 事実を言って何が悪いんだよwww』

『っあんたねぇ!』

 

 イグアナ女子の友人は堪忍袋の緒が切れ伴野の胸倉をつかむ。

 

『あの子は勇気を出してあんたに告白したのよ!? それをあんなフリ方することないじゃないッ!!』

『いてっ……』

 

 個性が暴発し、静電気のようなものが迸る。

 人を小馬鹿にしたような笑いは引っ込み、伴野は躊躇うことなく右の拳を目の前の女子へ振るった。

 

『いてぇんだよッ』

『ッ!』

 

 伴野は自尊感情の塊のような少年だった。

 故に、自分より下だと感じている人間から振るわれた暴力(こせい)をトリガーに怒りが爆発したのだ。

 相手が女子なのもお構いなく伴野は暴力を振るった。

 個性のおかげで戦闘センスも秀でていたせいで女子は顔が腫れ上がり腕の骨を折るような怪我を負ってしまう。

 男子数人がかりでも伴野の暴走を止めきれず、それに終止符を打ったのは“波動を放出する”個性の女子だった。

 当然職員室へ呼び出された伴野は、ジンベエザメのような個性の教師にお説教をされていた。

 

『――今時流行らんぞ。“異形差別”など』

 

 だが教師すらも下に見ていた彼は一切その言葉を聞き入れなかった。

 その態度は両親が来てもなお改まることは無く、最終的に父親が多額の示談金を支払うことで騒動は終息した。

 

 この事件は瞬く間に広まり、伴野の名は誰もが知る“忌み名”となっていた。

 同じクラスになったものは誰も話しかけず、話しかけられても返す者はいなかった。

 原因が自分に無いと考えている彼は、すべては告白してきたあのイグアナ女子とその友人たち、さらには自分を暴力(こせい)で止めた波動の女子、それらのせいだと決めつけていた。

 時は瞬く間に過ぎ去り時は高校受験、彼は当然のように日本最高峰の雄英高校を志望。模試のA判定を過信し碌に勉強もせず受験に臨んだ。

 

 ――結果は不合格。

 

 素行の悪さを突かれて落ちた――などと言うことは無く、普通に筆記も実技も点数が足りていなかった。

 さらに彼の神経を逆なでさせたのは例の“波動の女子”は雄英高校に合格していたという事実。

 

(ふざけんな! どうして俺が落ちてあんなクソ女が合格するんだ!)

 

 そこで自分の非を見つめ、顧みていれば彼の末路は変わっていただろう。

 だがここでも彼は、原因を自分に見つけなかった。

 

(はっ……所詮は低能なヒーローが選別してる入試だ。雄英(むのう)が俺の価値を理解できるわけもなかったんだよ)

 

 自分のすごさを理解できない世界の方が悪い。

 彼はとことん“他人のせい”な男だった。

 

 

『――おめでとうございます!』

 

 そんな彼の下に届いたデザイアグランプリへの招待状。

 遂に世界が自分の価値に気づいた、彼は笑いが止まらない気分だった。

 神殿でルール説明を聞きながら周囲を見渡す。

 老若男女、無差別に選んだのではないかと感じる無秩序さ。

 

(はっ! あれが俺のかませ犬、ってわけねwww)

 

 伴野は参加者たちを見下しつつ、手元に出現したデザイアカードに願いを書き込む。

 

 ――『世界の支配者』

 

 今日日、小学生でも書かないような願いが、彼の望む“理想の世界”だった。

 こんなにも素晴らしい才能を持った自分を認めない世界など間違っている。

 自分が世界の支配者となれば、もう誰も間違ったことなどしない。

 そう、あの憎き波動の女子――“波動 ねじれ”だって支配下に置ける。

 最高の辱めを受けさせ、足元につくばらせ許しを請わせる。

 そうすれば――いくらか気分は晴れるだろう。

 

 

 

――――

 

「くそっ!」

 

 伴野はゾンビ化の進む腕を殴りつけて鬱憤を晴らす。

 

「ふざけやがって――あのクソ狐!」

 

 伴野の脳裏に浮かぶのは、自分を打ち負かしたエースの笑み。

 人をからかうようなその笑顔は、伴野のプライドを大いに傷つけていた。

 

「あいつだけは――絶対にリタイアさせてやるっ!」

 

 マグナムバックルを握り締めた伴野の手は、強く握り締めすぎて赤黒く腫れあがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――ごちそうさま」

 

 緑谷は帰宅し、母親の手料理で空腹を満たす。

 しかし、ゾンビ化しそうな葉隠のことが気になってほとんど味などわからない状態で食べていた。

 食後、自室のベッドに寝そべり、来る第3ウェーブの事を考える。

 

 ――♪

 

 スパイダーフォンにメッセージが届く。

 差出人はナーゴ――葉隠。

 

「――ちょっと出かけてくる!」

 

 緑谷は変身道具一式(デザイアドライバーとバックル)だけ持つと慌てて外へ飛び出す。

 彼女が待っていたのは近所の海浜公園――緑谷が毎朝掃除している場所だった。

 毎朝の片づけが功を奏し、一部の海岸線は蘇っていた。

 葉隠は砂浜に腰かけ、ぼーっと海を眺めていた。

 

「おや、君も呼ばれたのかい?」

 

 狐耳が嬉しそうに動く。

 エースもまた、海浜公園へと足を運んでいた。スター故、赤い縁の伊達メガネで変装していた(狐耳と尻尾を隠さないと意味ないのでは? と言ってはいけない)。

 呼び出し主は、来ているのに気づいてかいないでか、ずっと海を眺めている。

 

「……命がけ、って思ってたんだけどなぁ」

 

 波の音に紛れて葉隠の声が伝わる。

 ゆっくりと彼女が振り返ると、月光の下にその顔が浮かび上がる。

 

「っそんな……!」

 

 ゾンビ化はかなりのハイペースで進んでおり、首元の包帯を既にはみだし顔の半分までその範囲を広げていた。

 そのせいか、彼女の顔は輪郭をぼんやりと浮かび上がらせ、顎と唇の形を露にしている。

 

「……結構思い切りいかれたからね。ガブッ! って」

 

 彼女の口元は力なく笑っていた。

 空元気なのは誰の目にも明らかだった。

 

「ねえ、エースさん……私、あとどれくらいでゾンビ化しちゃうの?」

「――そのペースだと、明日までは持たないかもね」

 

 エースは顔を伏せる。

 伊達メガネのレンズが月光に反射し光輝く。

 

「そっか! 明日かー……」

 

 葉隠はどっかりと浜辺に座り込んだ。

 透明な皮膚は包帯の下に見える傷跡を頭頂部越しに浮かび上がらせていた。

 

「っ……!」

 

 緑谷は心の底に怒りがわくのを感じる。

 葉隠をこんな目に遭わせ、苦しめている元凶の伴野に対して強い敵愾心を抱いた。

 

「私ね、自分の顔を見たことないんだ」

 

 葉隠は自分の生い立ちを語り始める。

 彼女は生まれながらにして透明だった。

 この世に生まれ落ちた瞬間、医者が彼女を見失ってしまったほどである。

 両親も同じく透明で、その顔を知らなかった。

 

「見えないならそれでもいいか~って思ってたんだけど、なんでかな。どうしても気になっちゃうんだよね」

 

 ぽたり、と雫が零れ落ちる。

 汚れた砂浜は彼女の涙を受け止め、地面に染みわたらせている。

 

「緑谷くんからしたら贅沢な悩みだよね……っでも、私は――見えるようになりたかったの!」

 

 勝者の理想の世界が叶うデザイアグランプリ。

 葉隠が書いた願いは――『見えるようになりたい』

 一生解除不可能な“透明化”の個性。恐らく生涯見ることのないと思われる自分の顔、両親の顔。

 一度でいいから、見てみたかった。

 どんな顔をしているのか? 目鼻立ちは? 耳の形は? 黒子は? 目の色は? 髪の色は? 髪形は?

 そんな些細な、傍から見れば命を懸けるのも馬鹿馬鹿しいちっぽけな願い。

 それでも――自分の素顔を知らない彼女にとっては、とても大事な願いだ。

 

「葉隠、さん……」

 

 緑谷は唐突に、自分の参加しているゲームの重みを理解した。

 いや、目を背けていたことを目の前に突きつけられた。

 

(僕の願いが叶うってことは、葉隠さんの――他のみんなの願いが叶わないってことだ)

 

 願いを叶えられるのは勝者の特権だ。

 叶うのは勝者の――ただ一人の願いだ。

 

(僕の願いは本当に――他人の願いを押しのけてまで叶えていい物なのか?)

 

 緑谷はデザイアカードに書いた願いを思い返す。

 それは――

 

「今、ナーゴを勝たせてあげたい、って思ってない?」

「ッ!?」

 

 エースに考えを見透かされ、緑谷は肩を跳ね上げる。

 

「君、自分が勝てる前提で考えてない?」

 

 エースは呆れたようにため息をついている。

 

「そ、それは……」

 

 勝てると思っていないと言えば、嘘になる。

 心のどこかで、自分は勝てるかもしれない、勝って願いを叶えられるかもしれない――そう考えている節があった。

 

「最後の最後まで何が起こるかわからない――それがデザイアグランプリ。ナーゴ、君も諦めるのはまだ早いよ」

 

 エースは浜辺にゆっくりと腰を下ろす。砂をつけたくないのか、狐の尾は立てたままだ。

 

「ジャマトによって受けた毒や呪いは、ゲーム終了時に全て()()()()される」

「……っ!」

 

 ルールには記載されていない、エースだけが知る過去のゲームの情報。

 

「そしてゾンビ化が始まっても、プレーヤーとして失格になるわけじゃない」

「まだ勝ち目がある、ってこと?」

 

 第2ウェーブ終了時点でのスコアは、ナーゴ――葉隠が最下位だった。

 これまで最下位だったメリーが4位に浮上し、5位だった彼女が最下位となっていた。

 もし第3ウェーブで諦めずに得点を稼ぐことで、順位を逆転できれば――

 

「ゾンビ化も治って」

「次のゲームに進める……!」

「そういうこと♪」

 

 エースは嬉しそうに狐耳を揺らす。

 そしてズボンについた砂を掃いながら立ち上がる。

 

「だから、最後まで頑張るんだ。叶えたい世界があるなら、ね」

「……うん!」

 

 葉隠は大きく頷く。

 その口元は、自分を鼓舞するような笑顔だった。

 

「でも残念、君たちの“理想の世界”は叶わない」

 

 背を向けていたエースがゆっくりと振り返る。

 月光に照らされたその姿は、まさに伝承に現れる“化け狐”の姿だった。

 

「だって、勝つのは私だからね♪」

 

 その微笑は、見る者を惑わせる魔性の微笑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 次の日の正午。

 ゾンビサバイバル第3ウェーブが開始される。

 ジャマーエリアに集うは現在ゾンビ化が進行していない4人のプレーヤー。

 

「それでは、第3ウェーブ――開始です!」

 

 ツムリの合図によってゾンビジャマト達が出現し始める。

 4人のプレーヤーたちはそれぞれバックルを装填、眼下に迫るゾンビたちに向けて飛び降りる。

 

「ジャァァァ……」

 

 ゾンビを難なく討伐していく参加者たち。

 ここまでくれば彼らにとってゾンビジャマトはもはや敵はない。

 

 ――MAGNUM

 

 マグナムシューターの弾丸がギーツに襲い掛かる。

 ゾンビジャマトに紛れてダパーンが姿を現す。

 

「クソ狐ぇ……!」

 

 ゾンビ化はかなり進行しており、仮面の瞳はひび割れるようにウイルスが侵食していた。

 ダパーンはマグナムシューターをハンドガンモードにし、さらに腕の銃パーツ――アーマードガンを展開し2丁拳銃を乱射しながら突っ込んでくる。

 

「うおっ! あぶな!」

 

 流れ弾がメリーのふわふわとした頭部をかすめる。

 

「っめちゃくちゃかよ……っ!」

 

 タイクーンは飛んでくる流れ弾に怯むも、()()()()()()それらは全て彼を避けていく。

 

「くっ……!」

 

 バッファは流れ弾をもろに喰らってのけぞる。

 無機質な仮面からは、怒りのオーラがにじみ出ていた。

 

「ははははっ! お前ら全員リタイアさせてやるwww」

 

 無差別に攻撃しているように見せかけ、本命はギーツだった。

 乱射しながらも次第に距離を詰め、懐に入り込む。

 

「へぇ……! 思い切ったこと、するね!」

 

 ゾンビバックルを返却した結果、再びギーツはウォーターバックルを使っていた。ダパーンの使うマグナムバックルには遠く及ばない性能。

 

「どうせ脱落するんだ――なら気に入らないやつも道連れにしてやるよッ!」

 

 ダパーンの仮面が大きく開き、牙が露出する。

 

 ――ガブリ!

 

 牙はギーツの左腕に噛みついた。

 

「……とことん救えないな――君は!」

 

 ――WATER STRIKE!

 

 ギーツはウォーターバックルを起動、近くの消火栓から水を供給し高水圧の攻撃を放つ。

 

「はははっ! これでお前もリタイアだwww」

 

 水流に押し流されながらダパーンは高笑いしている。

 ゾンビ化したプレーヤーに噛まれれば、そのプレーヤーもまたゾンビ化してしまう。

 ギーツは噛まれた左腕をじっと見つめる。

 黒いスーツ越しにウイルスがうごめいているのを感じた。

 傷口はやすりで絶えずこすられているかのように痛み、血管は針虫がうごめいているかのように鋭く痛む。

 耐え難い痛みに、ギーツは仮面の下で顔を顰める。

 

 ――『化け狐めっ!』

 

 唐突に思い返される過去の記憶。

 

 ――『気味が悪いっ! お前にやる飯なんかねえよっ!』

 

 両親と違い、なぜか狐のような姿で生まれた結果、村の人間たちから迫害された記憶。

 

 ――『あいつが生まれてから不作続きだ……疫病神め』

 

 浴びせられた罵詈雑言の数々。振るわれた数えきれない暴力。

 

(あれに比べたら――)

「こんなの、痛くもないね」

 

 ギーツの足元にバックルが転がってくる。

 振り向けば、そこではバッファが戦っていた。

 

「……これで借りは――チャラねっ!」

 

 バッファはゾンビブレーカーでゾンビジャマトを薙ぎ払う。大量に撃破得点が入り、順位が逆転する。

 

「勘違いしないで――あんたに勝ってほしいんじゃなくて、あいつに脱落してほしいだけだから」

 

 と、示すはダパーン。

 目論見通りに事が運んだのが相当嬉しいようで、狂ったように笑い転げている。

 

「素直じゃないね、君は」

 

 ――SET

 

 ギーツはクローバックルを拾うと装填、起動する。

 

「あいつに構うのも癪だけど――やられっぱなしは性に合わないからね」

 

 ――ARMED CLAW

 

 装備されたカギヅメをこすり合わせる。

 

「心まで腐った奴には――たっぷり灸を据えなきゃね」

 

 ――READY FIGHT!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 眼下ではし烈な戦いが繰り広げられていた。

 

「諦めるには――」

 

 葉隠はブーストバックルを手につぶやく。

 侵食したウイルスによって彼女の顔がほとんど露になっていた。

 どこかあどけなさの残る幼い顔。

 その瞳は鋭く細められ、自分のなすべきことを思い描いていた。

 

「まだ早いッ!」

 

 ――SET

 

 ハンマーバックルとブーストバックルが同時に装填される。

 

「変身っ!」

 

 ――DUAL ON

 

 葉隠は屋上から飛び降り、装甲を身にまといながら着地する。

 

 ――BOOST ARMED HAMMER

 

 葉隠――ナーゴはハンマーを担ぎ、出会い頭にゾンビの頭を砕く。

 

「……“ブーストナーゴ”、行くよッ!」

 

 ――READY FIGHT!!

 

 ナーゴはハンマーを振り回し手当たり次第にゾンビジャマト達を討伐していく。

 ハンマーバックルは強いバックルではない。通常の攻撃はゾンビジャマトを斃すには不十分で、弱点である頭を叩くことでようやく有効打となる威力だ。

 しかしブーストバックルはその性能を大幅に引き上げていた。

 一撃が強化され、どこに攻撃が命中しても一撃でゾンビジャマトを屠ることができるのだ。

 

「ははは! 無駄無駄w どんなに頑張っても――お前の脱落は変わらないんだよwww!」

 

 奮闘するナーゴをダパーンはあざ笑っている。

 

「――最後まで結果はわからない。それがデザイアグランプリだよ」

「どうして人を傷つけるようなことばかり言うんだよッ!」

 

 ギーツ、タイクーンによるコンビ攻撃がダパーンに命中する。

 ダパーンは次の標的をタイクーンに変更、マグナムシューターの銃口を向ける。

 

「私は――ッぅ」

 

 ナーゴは傷口の痛みに耐えかね膝をつく。

 ウイルスは仮面に侵食していた。

 

「私は――!」

 

 ――REVOLVE ON

 

 他の人に比べれば些細な願い。

 ただ自分の姿を見てみたいというちっぽけな理想。

 それでも彼女は立ち上がる。

 命を懸けてでも叶えたい願いがあるから、命を懸けなければ叶わない理想であるから。

 

「――絶対に勝ち残るッ!」

 

 ――ZOMBIE STRIKE!

 

 バッファの発動した必殺技がゾンビジャマト達を拘束する。

 

「……協力技」

「っうん!」

 

 ――BOOST HAMMER VICTORY!!

 

 ナーゴは再びバックルを起動し、必殺技を放つ。

 ハンマーが巨大化し、ジェットが展開される。

 ジェットによって加速したハンマーはゾンビジャマト達を巻き込んで振り抜かれ――拘束されていたゾンビジャマト達は爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ナーゴの必殺技は最後のゾンビジャマト達を殲滅、それにより第3ウェーブが終了する。

 プレーヤーたちの変身は解除され、進行していたゾンビ化も解除される。

 

「は……なんで?」

 

 伴野は元通りになった自分の腕を見つめる。

 蝕んでいたウイルスはすっかり消え、元通りとなっていた。

 

「っよかったぁ……」

 

 葉隠のウイルスも消滅し、元通りの透明な皮膚へと戻る。

 

「――みなさま、お疲れさまでした! それでは結果発表です!」

 

 思い思いのゲームエンドを迎える中、ナビゲーターのツムリが姿を現し得点を発表する。

 

 1位――バッファ、牛込 茜。

 2位――ギーツ、エース。

 3位――メリー、黄金 誠三。

 4位――タイクーン、緑谷 出久。

 そして5位――ナーゴ、葉隠 透。

 

「最下位、脱落となるのは――ダパーン!」

 

 6位――ダパーン、伴野 優太。

 

「これにより伴野 優太様は脱落――()()()()()()()()となります♪」

 

 ゾンビ化したプレーヤーは脱落する。そう思っていた伴野は想定外の事態に震える。

 

「ふざけんなよ……! 終わったら治るなんて……そんなルールがあるならどうして()に教えなかったッ!」

「どこまでも自分本位だね、君は」

 

 子供のようにわめく伴野を冷ややかに見つめるエース。

 

「私たちは君の母親じゃない。望んだだけじゃ右往左往して世話は焼いてくれないんだよ?」

「ふざけるな……ふざけるなぁあぁっ! 俺が、こんなところで終わるわけないんだよッ!」

 

 伴野はマグナムバックルを取り出しベルトへ装填、起動させる。

 

「……っ! なんでだっ!? なんで変身できないッ!」

 

 しかし何度起動させようと、伴野はダパーンへ変身することはできなかった。

 

「伴野様、貴方はライダー失格となりました。その時点で変身能力は凍結されているのです♪」

 

 ツムリはにこやかに、事務的に事実を伝えた。

 伴野の脳裏に、あの日自分を止めた波動 ねじれの姿が浮かぶ。

 

 ――『ねえ、どうしてそんなにひどいことができるの?』

 

 冷ややかに見つめる目線が、目の前のツムリと重なる。

 

「馬鹿に――しやがって!!」

 

 伴野の怒りが頂点に達した。

 拳を振り上げツムリへと向かっていく。

 ツムリはにこやかな表情を崩さないまま、伴野の拳を合気の要領で受け流すとそのまま組み伏せる。

 

「クソッ! クソォッ! ……おい! なにぼーっと見てんだよッ!! 早く()()()()()()ッ!!」

 

 伴野は静観している他のプレーヤーたちに命令する。

 そうすればいうことを聞いてくれると信じてやまない傲慢なふるまいだった。

 

「――助けようとした手を、君は払いのけたじゃないか……!」

 

 緑谷がぽつり、とつぶやく。

 その瞬間、ライダー失格を受けダパーンのIDコアが消滅する。

 

「そう都合よく助けてもらえると思うなよッッ!!」

 

 第2ウェーブ終了時、伴野へと差し伸べた手を彼は払いのけた。

 助けなんていらない。その意思表示をしておきながら、都合が悪くなれば助けてくれと手を伸ばす。

 身勝手なふるまいをしても許してもらえると思う傲慢な心。自己中心的なふるまいに、緑谷の堪忍袋の緒は切れた。

 

「はぁ……? ふざけんな……! モブの分際でぇぇぇぇ――」

 

 ――RETIRE...

 

 伴野の体が消滅した。

 残されたデザイアドライバーとマグナムバックルはツムリの手で回収される。

 

「……お疲れさまでした。これにて第2回戦は終了です。それでは次回までごきげんよう……」

 

 ツムリが立ち去ると、エースはぽつりとつぶやく。

 

「ふふふ。妨害なんかせず、勝ち残るために努力していれば……助けてあげてたのに、ね」

 

 彼(?)の狐耳は、悲しそうに垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「あーあ、少年も青いねぇ……」

 

 神殿の控室。

 メリー――黄金は今しがた脱落した伴野の事を思い返しほくそ笑む。

 

「他人、ってのは利用するもの……」

 

 ゾンビサバイバルの最終結果は3位。序盤の低得点が信じられないほどの大躍進である。

 彼は第1ウェーブのインターバルで聞いた緑谷の攻略法から、ゾンビジャマトを逃げ遅れた一般人の下へ誘導、それを討伐することで討伐ptと救助ptを一気に稼いでいたのだ。

 

「あーやって突っかかってちゃ、こうなるわな」

 

 黄金は他者を巧みに利用(していると思っている)し、自分の思い通りに人生を歩んでいた。

 貸しを無理やり作り、利子をたっぷりつけて返させる。

 ほんの少しの苦労で甘い蜜をたっぷりと吸い尽くす。

 

「場をかき乱す厄介者も消えたし、後はおじさんの思うまま、かな?」

 

 黄金は薄暗い控室で静かにほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














それでは皆さん、ご唱和ください!
せ~の――ざまあ!

というわけでギーツの流れ通りダパーンが脱落、オリキャラ伴野君はここで退場です。
本当はナーゴ編ということで、葉隠さんの心境を捏造した過去話を書こうとしていたのですが、まんまとオリキャラに食われました。なんやこのクソキャラぁ……
……伴野君のことは嫌いになっても、この小説のことは嫌いにならないでもらえると幸いです。

オリキャラ伴野くんの末路について

  • ざまあ!
  • いいぞ、もっとやれ
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