――――
――
「全く……たった一度の隙を許した結果がこれか」
キングジャマトによって破壊の限りを尽くされているエリアを眺め、ニラムは深いため息をつく。
本来のデザイアグランプリを取り戻せたのもつかの間の出来事に悲しみすら覚えていた。
「どうするおつもりで?」
「……どうしたものかねぇ」
秘書のサマスに問いかけられ、ニラムは思案するように両手の指を合わせる。
「全てをリセットしてなかったことにするのは容易い、が……」
ビルの屋上、辛うじて崩壊せずに済んでいるそこに降りたったニラムは眼下に広がる惨劇を眺める。
あちこちで爆炎が広がり、黒煙が吹き荒れている。
人々は逃げまどい、ヒーローたちは人々を逃がそうとジャマトと戦う。
決して作り物ではない
「見たまえよ。この世界の
「はあ……」
ニラムはこの状況すらも楽しんでいた。
彼の好む“リアル”が目の前で繰り広げられており、それは今までのどんなデザグラでも体感することができなかったものだ。
「少しだけ期待してみようじゃないか! この世界の
彼の心に正義は無かった。
ただただこの状況を楽しんでいるだけだった。
――――
――
「私が――緑谷くんを守るっ!」
――READY FIGHT!!
「守る、ねぇ……」
ビートアックスを構えたナーゴをキングジャマトは鼻で笑う。
「君がそんなに強いようには思えないけど!」
「私だって――!」
――ROCK FIRE
――FUNK BLIZZARD
二本のビートアックスのエレメンタドラムを素早く叩くと、ナーゴは火と氷の攻撃を繰り出す。
低温と高温の攻撃が混ざり合い、空気が爆ぜる。
――METAL THUNDER
――METAL THUNDER
「これで――決めるっ!」
――TACTICAL THUNDER
――TACTICAL THUNDER
二本のビートアックスから雷撃が迸る。
無数の雷がキングジャマトへと襲い掛かり、爆発が起きる。
「……ド派手な余興だね」
――“固定化”
だがキングジャマトは無傷だった。
攻撃は目の前の見えない壁に全て阻まれており、本体にまで攻撃が及んでいなかったのだ。
「嘘……!」
「僕は君なんかよりも個性の扱いが上手なんだぜ? 例えば――」
キングジャマトが腕を上げ、振り下ろす。
当初は見過ごそうとしていたナーゴだったが、嫌な予感がしたため咄嗟に躱す。
「――え?」
彼女は先ほどまで自分のいた場所に起きた異変を見て背筋に悪寒が走った。
まるで鋭利な刃物で切断されたかのようにえぐれてしまっているのである。
「いい判断だね! あのままだったら君は今頃二つに分かれていたかもしれないよ」
使われた個性は“固定化”、手に触れた物を固定し不変にする能力。
この力によって空気を固定し壁を生成、ナーゴの攻撃を防ぎ、そして剣の形状に固定化させることで切断攻撃を繰り出したのだ。
回避が少しでも遅ければ痛い、では済まなかったかもしれない。
「まだまだ降参しないでおくれよ? まだまだ試してみたい個性がいっぱいあるんだ♪」
ナーゴはビートアックスを構えなおす。
(せめて――エースさんが来るまでは!)
次々と飛び交う攻撃を捌きつつ、ナーゴは消極的な思考を抱いていた。
その本人が戦闘不能であることを、彼女は知る由もなかった。
――――
(っ早く僕も復帰しないと……!)
緑谷はキングジャマトとナーゴの戦いを観察しながら息を整える。
多種多様な特殊攻撃で応戦するナーゴだったが、手数でキングジャマトに勝てるはずもなく、防戦一方だった。
「やあっ!」
「へえ?」
ナーゴのビートアックスとキングジャマトのパンチがぶつかり合い衝撃波が発生する。
吹き荒れる風に耐え兼ね、緑谷は吹き飛ばされてしまう。
「っててて……わっ!」
彼は自分の上に折り重なるように飛んできたものに驚き身を強張らせる。
「っ……牛込、さん」
それは牛込の亡骸だった。
首は曲がるはずのない方向に曲がり、半開きになった瞳には光が宿っておらず、手足は力なく垂れ下がっている。
緑谷はゆっくりと彼女の体を横たえ、開いていた瞳を閉じてあげようとその顔に手をかざす。
「えっ……?」
亡骸から感じられる温もりに彼は違和感を覚える。
人は無くなればその体から温もりは失われていくものである。それはすべての生物に共通する摂理、それが死というものである。
だが牛込の体にはまだ生者と変わらぬ温もりを持っていた。まるで
「嘘、だろ……?」
通常、首を折られて生きている
わずかな損傷ならばともかく、完全に折れてしまえば生命維持は不可能となり死が訪れる。
「バッファローが不死身の能力を持っている? いやそんなはずはないか。牛込さんの個性が特殊だったとして、不死を持つのには違和感あるし。だったら外的な要因? 一度退場したから何かが起きて――」
――『バックルによっては使い続けると副作用があるらしい』
考察をしていた緑谷の脳裏にナッジスパロウ――周の言葉が浮かび上がる。
「まさか……ゾンビバックルの効果?」
バックルの副作用――確かに、牛込はゾンビバックルを愛用していた。
緑谷の知る限り、彼女はゾンビバックルを使い続けてきていた。
ゾンビと言えば死者の蘇生、つまり
「ありうるのか……?」
偶然か、足元にはゾンビバックルが転がっている。先ほどキングジャマトの攻撃を受けて変身が解除された際、外れて落ちていた場所に飛ばされたのだ。
気のせいか、ヒビの入ったバッファのIDコアがうっすらと輝いているようにも見える。
「っそういえば、ニンジャバックルも……」
緑谷は懐からニンジャバックルを取り出す。
それは筋繊維を生み出すジャマトとの戦闘の際、どこからともなく飛来し彼の窮地を救っていた。
まるで彼の“洸太を助けたい”という思いに反応するかの様に。
「っ……!」
――SET
彼はゾンビバックルを拾い上げ、牛込のドライバーに装填する。
(もし、もしバックルにそんな力があるなら――)
振り返ってみれば、退場し命を落としたはずの牛込は確かに息を吹き返していた。間々あることかと思えばそんなことは無く、彼女はイレギュラーなケースだったという。
もし本当に、ゾンビバックルが使用者に何らかの影響を与えているのだとしたら?
(牛込さんを生き返らせてくれッ!)
緑谷は半ば祈る様にバックルを起動させた。
――――
――
辺りはひどく静かだった。
何の音も響いてこず、自分の呼気すら感じ取れないほどの静寂。
(ああ……思い出したわ)
どこか夢うつつな心持ちで牛込はそこを歩く。
周囲は靄がかかっているようで、どれだけ目を凝らしても先が見えない。
(あたし、今度こそ死んだのね)
絶え間なく襲い続けていた激痛は鳴りを潜め、ちょっとのことで癇に障る精神は静かに凪いでいた。
どこともわからぬ場所――言うならば死後の世界を彼女はさまよう。
空気はひんやりとしているようで、暖かい。
どれだけ息を吸い込んでも満たされることは無く、だが確かに心地よい。
(……あれ、は?)
遠くに見える明かりに惹かれ、彼女は吸い寄せられるように向かっていく。
なんとなく、直感的に彼女はそこが所謂“天国”のような場所であることを理解する。
「……ここまで推測通りだと、いっそ清々しい気分だ」
光場所の手前、何もない場所に腰かける大男。
身長は3m近くあり、顔は外国人の様に彫りが深い――ナッジスパロウこと周がそこにいた。
彼の体はどこか半透明で、実体のない存在なのだと理解が出来た。
「あんた、なんでここにいるのよ」
牛込は嫌がるのを隠そうともせずに問いかける。
「何でだろうな。カンに近い推測だが、ここでお前を待たなければいけないような気がしてな」
「あっそ。人にあんな大役を押し付けておいてよくもまあ平然としてられるわよね」
苛立つはずのない心がざわつき始めるのを感じる。思えば、この男に退場させられたことが事の発端、貧乏くじの押し付けにならなかった。
「悪いな。もっと適任がいればそいつに任せたんだがな」
周はいら立ちを見せる牛込を一瞥し、鼻で笑う。
「ねえ、この世界って痛みは感じるのかしら? 一発ぶん殴りたいんだけど」
「さあな。が、ここにお前が来た以上、計画が順調でないのは確かじゃないか?」
痛いところを突かれた牛込は言葉を詰まらせる。
「……そうね。無様に負けたわよ! 一回バラバラにしたのに、あっさり元に戻っちゃったわ!」
「上出来だ。俺も誕生前の阻止ができるとは思っていなかったからな」
周はゆっくりと立ち上がり、伸びをする。
「完全に成長してしまっていれば勝機は無かった。膨大な個性にジャマトの肉体が組み合わされば、たとえ全盛期のオールマイトだって勝てはしない」
「……まだ勝てるって言いたいの?」
牛込の問いかけに、周は頷く。
「一度バラバラにしたということは、そこが奴の弱点になるはずだ。負荷をかければかけるほどそこにほころびが出るはずだ」
彼女は自分の死の間際を思い出す。
キングジャマトは腕を変形させ刺突攻撃を繰り出そうとしていたが、その腕が腐ってしまったかのように崩れ落ちた。
「そうね。確かにあいつの腕が崩れたのを見たわ。でも今更あたしが知ってどうするのよ? もう死んじゃってるんだからどうしようもないわ」
周は微笑みつつ牛込の肩に手を置く。
「聞くが、ゾンビってのはそんなに簡単に死ぬと思うか?」
「えっ……?」
肩を押された牛込は咄嗟に手をつこうとするもすり抜け、絶え間なく落ち続けていく感覚に陥る。
「ちょっ……! どこまで……っ!」
「死ぬのはまだ早い、と言うことだ」
意識がぼやけていく。
同時に体中に激痛が走る。
耐え難い激痛にさいなまれながらも、意識が暗転する。
――――
「――っかはッ!?」
体中に鈍い痛みが走っていた。
頭はやすりでこすられているかのように鈍く痛み、鉛でも入っているかのような重さだった。
――ZOMBIE ...
牛込の体がスーツに包まれる。同時に変な方向に曲げられてしまっていた彼女の首が無理やり戻され再び激痛が走る。
「ッ!」
アーマーが装着されると痛みが和らぐ。
牛込――バッファは肩で息をしつつ辺りを見回す。
「――っ牛込さん!? 本当に生き返った……!」
すぐに飛び込んでくるのは緑のもじゃもじゃ髪にそばかすが特徴的な少年――緑谷の顔。
彼は傷だらけで、その瞳には涙を浮かべていた。
「勝手に、ころすなっての……!」
「い、いやでも首の骨を折られてて」
「……そ」
じんわりと痺れている頭が徐々に覚醒していき、バッファは自分に起きたことを理解する。
(臨死体験、って奴かしら?)
彼女は確かに首の骨を折られて絶命していた。それは事実だった。
そして夢うつつな状態で周と出会い、そして押し返された。恐らくゾンビバックルが起動されたことがトリガーとなったのだろう。
「……で、状況は?」
バッファは体を起こし、周囲の惨状を目の当たりにする。キングジャマトを止めきれなかったことが原因であることは想像に難くなかった。
「っ個性を複数使うジャマト、クイーンジャマトに近い能力を持ったジャマトが生まれました――」
緑谷は早口で説明する。
クイーンジャマトの類似個体が街を破壊したこと、そのジャマトはデザイアグランプリを乗っ取ったオール・フォー・ワンそのものであること、そしてナーゴが戦っているが状況は劣勢であるということ。
「牛込さん――いや、
「ふん――!」
「ぶっ!?」
バッファは軽く緑谷を殴り飛ばす。
「……やるに決まってんでしょ。わかり切ったことをいちいち聞かないでよね」
「じゃ、じゃあなんで殴ったんですか……?」
緑谷は殴られた頬を押さえつつ問い返す。
「……寝ぼけたこと言ってるから、目を覚まさせてあげただけよ」
バッファは仮面の下で笑う。緑谷はそんな意地の悪さに苦笑しつつ、コマンドジェットバックルを取り出す。
「それじゃあ――一緒に戦いましょう!」
「……ん!」
――SET
緑谷はバックルを装填し起動させる。
「変身っ!」
――GREAT
「……それ、大丈夫なの?」
武装がレイジングソードのみのタイクーンを見たバッファは不安そうにこぼす。
「はいっ! 時間はかかるけど――ちゃんと強いですから」
「……そ」
バッファはゾンビブレーカーを肩に担ぐようにして構える。
「……それじゃ――行くわよ」
――READY FIGHT!!
――――
――
「――っ!」
巨大な岩石をぶつけられ、ナーゴの変身が解除される。
「……まだ、まだ……っ!」
葉隠は外れて落ちているバックルを手に立ち上がろうとするも、両足は震え立つことができない。
「可哀想に……君がいくら頑張っても――結末は変わらないさ」
――“磁力”×2 + “電気”
キングジャマトの肩から棒状の器官が2本生成され葉隠へ照準を向ける。
それは電流のようなものを纏っており、弾丸のようなものを把持している。
「この組み合わせは初めてでね――君で試し打ちさせてもらうよ」
超常の始まりによって研究は頓挫していたが、一時期は次世代の兵器として注目されていたものだ。
個性によって疑似的に再現された超電磁砲から弾丸が射出される。
葉隠は避けることもできず顔を伏せる。
「――ッ!」
だが攻撃が命中することは無かった。
割って入ったタイクーンがレイジングソードによって弾丸を弾き、葉隠を守ったのである。
「かっこいいねぇ! ヒロインのピンチにはせ参じた、と言ったところかい? 感動的だなぁ」
キングジャマトは小馬鹿にするように手を叩いている。
「……余裕ぶっこいてんじゃないわよッ!」
――TACTICAL BREAK!
背後からバッファが奇襲をかけ、キングジャマトの背中を斬りつける。
「なんだ、生きてたのかい? 中々しぶといじゃないか」
――“粘液”
だが攻撃はいとも簡単に受け止められてしまう。チェーンソーの刃は体表の粘液の上を滑るのみで、その体を傷つけていない。
「ッ!?」
「本当に君の個性は“
「……っあんたこそ、“びっくり人間”とでも名乗ってみたら?」
ゾンビブレーカーが滑り抜ける。体勢を崩したバッファの背に触手のようなものが打ち据えられる。
追撃と言わんばかりに無数の触手が生み出され、彼女の体に向けて降りかかる。
「っ!」
負けじとバッファも体を反転させ触手を全てわしづかみにする。
それらを巻き取りながらキングジャマトの背中にしがみつく。
「タイクーンッ!」
「っわかってる!」
バッファの合図でタイクーンは飛び出す。レイジングソードを突き刺し背後のバッファごとキングジャマトを貫く。
「うっ……ひ、ひどいねぇ。仲間ごと斃そうって魂胆かい?」
「……悪いけど、そう簡単に死ねないのよね、あたし」
「斃すのはお前だけだ――オール・フォー・ワンっ!」
――FULL CHARGE
レイジングソードは刺し貫いたキングジャマトから生命エネルギーを吸収し即座にコマンドキャノンバックルを解放する。
タイクーンはすぐさまバックルを取り外しドライバーに装填、起動させる。
――TAKE OFF COMPLETE! JET & CANNON
変身が完了するや否や、タイクーンはトロンキャノンの砲弾をキングジャマトに浴びせる。
絶え間ない攻撃にさしものキングジャマトもうめき声をあげる。
「っこれは、まずいね!」
「させないッ!」
――ZOMBIE STRIKE!
攻撃の予兆を察知したバッファは即座にバックルを起動、必殺技でキングジャマトを拘束する。
「これで――終わりだ!」
――RAISE CHARGE
――COMMAND TWIN VICTORY!!
タイクーンもそれに合わせて必殺技を発動。ゼロ距離砲撃を浴びせ、レイジングソードで滅多切りにする。
「う、うぅ……ここまで、か」
攻撃の余波でバッファは吹き飛び、キングジャマトはよろめきながら膝をつく。
体の至るところからスパークが生じており、まさに爆発寸前と言ったところだ。
「――なんちゃって♡」
「「ッ!?」」
――“空気を押し出す” + “衝撃波”
突如、爆風がタイクーンに襲い掛かる。耐久力に秀でたコマンドフォームと言えどその威力に耐え兼ねて吹き飛ばされてしまう。
キングジャマトの体表を駆け巡っていたスパークは次第に収まっていき、徐々に万全の状態へと戻っていっていた。
「いやぁさすがの僕も死んだと思ったよ。でもやるなら
――“超再生”
発動している個性は“超再生”、ありとあらゆる傷を回復させるという破格の性能を誇った能力。オール・フォー・ワンが自らの傷を癒そうと手に入れた個性の一つであり、獲得前に負った傷には効かないという欠点を抱えているものの、本来の持ち主にとってそれは関係のないことだったろう。
仮に、キングジャマトの細胞が一片でも残っていればそこからたちまち元の体へと完全再生できてしま う。
どんなに攻撃を浴びせたとて、元の木阿弥なのである。
「そんな……馬鹿な」
「いいウォームアップになったよ。ありがとう」
――”筋骨発条化”+“瞬発力”×4+“膂力増強”×3+“増殖”+“肥大化”
キングジャマトは個性を複数発動しその全身を膨れ上がらせる。筋骨隆々としたその姿はどこかオールマイトをほうふつとさせた。
「お礼と言ってはなんだが――君はオールマイト並みのパワーで葬ってあげようか」
タイクーンは辛うじてレイジングソードを構えるも、その心は折れかかっていた。
だが引けば後ろの葉隠が傷ついてしまう。それ故に一歩も引き下がることはできなかった。
――グチャ。
一歩踏みしめた途端、キングジャマトの足が崩れ落ちる。
「……あれ?」
足はツタが絡み合うようにして即座に再生され、再び踏みしめるもすぐさま折れて崩れてしまう。
反対の足も同様に崩れて体勢を崩す。手をついて踏ん張ろうとするも、その手も崩れ落ちてしまった。
「……調子、乗り過ぎよ――!」
瓦礫を押しのけるようにして吹き飛ばされていたバッファが立ち上がる。
「……完全に成長しきる前に崩してやったんだもの。当然よね」
「ッ……馬鹿な」
キングジャマトの果実は完全に熟していなかった。
あと少しで成熟するといった段で手痛い攻撃を受けた結果、不完全な状態での誕生となってしまったのだ。
「この程度の……組み合わせで」
もはやまともに立つことすらできなくなったキングジャマトは個性を解除、体の崩壊も収まる。
「タイクーンッ!」
「っはい!」
――REVOLVE ON
タイクーンはジェットモードに形態変化し、ジェットパックで突撃する。
その反対側からはバッファがゾンビブレーカーを振り上げながら迫る。
「小癪な――」
――“転送”
キングジャマトの頭部から黒い液体が迸り、葉隠が姿を現す。
「え――っ?」
「っ!?」
タイクーンはすかさず勢いを殺すも、止まり切れずに葉隠とぶつかってしまう。二人は勢いそのまま、もつれあうようにして転がっていく。
「個性が使えなくたって――」
「かは――っ」
続けてキングジャマトは振り向きざまに拳を振り抜きバッファの腹部を殴打する。個性による強化は一切入っていない状態だったが、ジャマトの腕力は人間をはるかにしのぐ。
あまりの痛みにバッファは思わずゾンビブレーカーを取り落とし膝をつく。
「この体は既に人間を超えている! 君たちを殺すだけなら個性を使うまでもないさ!」
「……っ!」
バッファは苦しそうに呻きつつも、腹に突き刺さっている腕をがっしりと掴む。
「……あ、あたしすら、殺せないで……よく言うわ……!」
「言うじゃないか。だったら死ぬまで君を殴って見せようか!?」
掴まれていない腕でキングジャマトはバッファを二度、三度と殴りつける。
その拳はバッファの仮面を傷つけ、左の角が折れ仮面に罅が入る。
「……そんなの、痛くも、ないわ……っ!」
彼女は殴られながらもジャマトバックルを取り出す。
「いいのかい? それを使えば君は人間を辞めることになる」
「構いはしないっての……ッ!」
――Jyamato
バッファは変身完了と同時にキングジャマトへ頭突きを食らわせる。
その拍子に仮面が砕け、その下の素顔が露になる。
「その、程度で……あんたを斃せるなら、上等よ!」
「……わからないなぁ。そんなことしたって君には何のメリットはないんだぜ?」
キングジャマトは変身を解き、オール・フォー・ワンの姿となる。
「僕はデザイアグランプリのエネミーじゃない。斃したところで得点にもならないし、かといって君が理想の世界を叶えられるわけじゃないんだぜ?」
「……あいつらは、わかんないけどさ」
バッファは静かにゾンビブレーカーを拾い上げる。
「少なくともあたしは、死んだ人を生き返らせたくて戦ってんのよ……!」
かつてのデザイアグランプリでバッファ――牛込 茜は幼馴染を失った。
自分のために戦ってくれた大切な人を助けたくて、彼女はデザイアグランプリに参加した。己の理想を
叶るため、戦い続けてきた。
「願いが叶わないから何よ? 叶わなくたって――これから死んじゃうかもしれない人を、守れるかもしれないでしょ?」
敗北し理想を願う心を失った彼女を救ってくれた名もなき
余計なお世話と言われてもなお、助けることを良しとした人だった。理想を願う心を失ってもなお戦う意思を持っていれば、彼は助けられたかもしれない。
「あんたが人の命を奪うってんなら、あたしが何度でも止めてやるわよッ!」
――POISON CHARGE
バッファはゾンビブレーカーのカバーをスライドし、必殺技を放つ体勢に入る。
「何度殺されたって――あたしは死なないッ! 死んだって生きてやるッ!」
――TACTICAL BREAK
チェーンソーがうなりを上げる。
火花を散らすそれを、オール・フォー・ワンに向けて振り下ろす。
「……小娘が」
血しぶきが迸る。
ジャマトの姿となっていないオール・フォー・ワンの肉体は人間の物。その状態で必殺技を喰らえばひとたまりもない。
しかし超再生の個性が即座に発動し、傷口は瞬く間に塞がっていく。
「こんなにも煩わしいのはオールマイト以来だよ」
――“圧縮”
オール・フォー・ワンはバッファの左わき腹に触れ、圧縮の個性を発動しその肉をえぐり取る。
「ッ……え?」
「オールマイトはこうやって腹を抉ってもさ、内臓をまき散らしながら迫ってきたんだ。怖いったらありゃしないよ」
続けて右胸に手を触れてえぐり取る。傷口から勢いよく血が噴き出し、オール・フォー・ワンは血のシャワーを浴びる。
「その点、君は普通の人間で安心したよ! さすがに一歩も動けないんじゃないかい?」
「……かっ……!」
とどめにみぞおちがえぐり取られ、バッファの体が崩れ落ちる。
オール・フォー・ワン露骨に顔を顰めながら倒れてきた彼女の体を避ける。
「これでもう君は死ぬと思うけど、もし死ななかったら……そうだな、君の体をドクターに調べてもらうとにしようか」
とどめは刺したと言わんばかりに、オール・フォー・ワンは再びキングジャマトへ変身すると残りの敵――タイクーンを探しに向かう。
その足をバッファ――牛込はがっしりと掴む。
「……離してくれないか?」
「……うっさい」
左手で足を掴みつつ、彼女の右手がゾンビバックルへと動く。
「……ゾンビってのは、
――ZOMBIE STRIKE!
バッファの命を懸けた渾身の一撃が、キングジャマトの体を貫いた。
C ... Counterattack(反撃)
大変長らくお待たせしてしまいました。ラスボス、キングジャマトの斃し方が思いつかなかった……と言うことは無く、書いている暇がなかったというか、忙しかったというか……エタるつもりはないので気長にお待ちいただけると。
ギーツ本編では遂にブーストマーク2が出てきましたね! ブースト×5とかそりゃ強いですわよね……
そしてまさかの英寿転生者だったとは……確かに前世も含めれば西暦元年から戦ってると言えますね。
本作ではブーストマーク2が本編で登場することは無さそうです。
中間フォームに頼らずとも、エースたちはラスボスを斃してくれると思います。
……斃せるよね……?
また間が空いてしまうかもしれませんが、もう少しだけお付き合いください。