【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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42 終局F / 私の世界

――――

――

 

 地獄絵図――まさにその言葉が似あう状況だった。

 

「……っ」

 

 エースはツタのようなもので磔にされながら眼前に広がる惨状を睨み付ける。

 

「早く……抜け出さないと」

 

 両腕に力を籠め、引きちぎろうとするもツタはびくともしない。

 

「んッ……!」

 

 ――あきらめちゃえよ。

 

 彼(?)の脳裏に言葉が響く。

 見上げれば、みすぼらしい姿の子供がこちらを見つめている。

 泥まみれでボロボロな着物をを身にまとい――もはや切れる状態でなく体にひっかけているだけだった――両の耳はなく代わりに狐の耳と尻尾がついている。その尻尾は垢まみれくすみ、毛もボロボロだった。

 

「……諦める、もんか」

 

 エースは子供に言い返す。

 子供はゆっくりと顔を上げる。生まれてから一度も顔を洗っていないかのように汚れているが、その顔はどこかエースとそっくりだった。

 

 ――こんな奴ら、助ける価値もないじゃないか。わたしをいじめてきた奴らの子孫なんだ。当然の報いだと思わない?

 

 子供――名無しの狐は人々の悲鳴を嬉しそうに聞いている。

 かつて、自分の事を迫害した村人たち。もう彼らは歴史の片隅から消え去り、その痕跡はどこにも残されていない。

 逃げまどう人々の血の中、そこに彼らの血が1滴流れているかどうかである。

 

 ――大丈夫、わたしだけなら助かるのは簡単だよ。だから楽になろう。

 

 名無しの狐はエースに甘い言葉をささやく。

 確かに、体中が悲鳴を上げ、今すぐに意識を手放してしまいたいと思えるほど苦痛を感じていた。

 このまま眠ってしまえれば、どんなに楽だろうか?

 このまま全てを投げ出してしまえれば、どんなにいいだろうか。

 

「……それだけはできないよ」

 

 エースはゆっくりと口角を釣り上げる。

 どこまでも自信に満ち溢れ、勝利を疑っていないかのような笑顔だった。

 

「私はまだ、何一つ返せていない。恩人たちに、何一つ返せていない……!」

 

 確かに彼(?)は村人たちに迫害されてきた。人ならざる姿で生まれ、化け狐と忌み嫌われさげすまれてきた。

 何度も世界を呪った。何度も村人に怒りを抱いた。

 それでも――

 

「こんな私に手を差し伸べてくれた人たちの世界を、守らなくちゃいけない」

 

 手を差し伸べてくれる人がいた。

 助けてくれる人が、受け入れてくれる人がいた。

 ほんの些細な、取るに足らない出来事。そんな出来事に、名無しの狐――エースは救われた。

 

「彼らが平穏に、幸せになれる世界を作る――それが私の理想だ」

 

 エースは両腕にあらん限りの力を籠める。

 歯を食いしばり、体中の力を込めて拘束を破らんとする。

 

「ん……あああああっっッ!」

 

 ぶち、ぶち、とツタが悲鳴を上げ始める。

 

「ああああああッッ!!」

 

 ツタがちぎれ、エースの戒めが解かれる。

 同時に、名無しの狐は姿を消してしまう。まるで幻であったかのように。

 

「返してもらうよ――私の世界を」

 

 エースは瓦礫に埋もれたマグナムバックルを拾い上げる。

 彼(?)の狐耳は、怒りを表すように揺れ動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――ゾンビってのは、死にかけてから(こっから)が本番でしょ……?」

 

 ――ZOMBIE STRIKE!

 

 バッファの命を懸けた渾身の一撃が、キングジャマトの体を貫く。

 ただの貫手などジャマトの体には通用しない。超再生を持つキングジャマトならばなおさらだ。

 

「ウッ……」

 

 しかしバッファの手には黒く光るIDコアが握りこまれている。

 ジャマトに人格を完全移植するためにはIDコアが必要不可欠だった。肉体の情報を読み取ってジャマトは進化し、IDコアに保存された情報を使って確固たる人格を獲得する。

 模倣でしかなかったジャマトの意志が本物となるのである。

 

「んっ……!」

 

 バッファのカギヅメ――バーサークローがIDコアを握りつぶす。

 まるでガラス細工を砕くかのようだった。

 コアの破片は空中で輝きながら消滅していく。同時にバッファは崩れ落ち、腕はキングジャマトの体から引く抜かれる。変身は解け、牛込の息は絶えてしまう。

 

「ウッ……ウウッ……!」

 

 キングジャマトは崩れ落ちるように膝をつく。超再生の個性は失われたIDコアを修復しようと懸命に組織を再生させるも、本来肉体に無い器官であるため再生が終わることはない。

 ただひたすら、治るはずのない傷を治そうと発動し続けるのみだった。

 

「くっ……再生を、止めない、と」

 

 本来ならばなんの問題もない個性の使用は、キングジャマトの体に負荷を与え続けていた。

 超再生を止めようにも、自動で発動し続ける力のためそれも叶わない。

 傷口は絶えずうごめき続け、終わることのない治療を強い続ける。

 

「超再生……惜しいが、誰かに、与え……」

 

 キングジャマト――オール・フォー・ワンの個性は強力だ。個性を奪い与える個性――他に類を見ない非常に強力な個性だ。

 しかしそんなオール・フォー・ワンの個性にも弱点はあった。

 “一度奪った個性は破棄でない”

 たとえ奪った個性がデメリットしかもたらさない毒であったとしても、それを不要であると破棄することができないのである。

 

「仕方ない、君に――」

 

 幸いにも超再生は獲得前に負った傷に対しては効果を発揮しない。

 キングジャマトは倒れているバッファに手を伸ばし超再生を押し付けようと試みる。

 

 ――TACTICAL RAISING!

 

 伸ばされた腕がレイジングソードによって切断される。

 

「ッ緑谷 出久……!」

 

 ジェットパックで浮遊しているタイクーンをキングジャマトは忌々しそうに睨み付ける。

 このまま個性を押し付けようにもタイクーンが妨害するだろう。無機質なタヌキの仮面は油断なくキングジャマトの動向を観察している。

 

「やあッ!」

 

 ――TACTICAL THUNDER

 

 更に雷撃が襲い掛かる。

 ナーゴのビートアックスが再生しきれていない傷口を傷つける。

 

「ッ……また無茶して、退場しないといいねぇ!」

「もう二度と――そんなことにはならないよッ!」

 

 かつて退場してジャマトにされていたことを引き合いに出したキングジャマトだが、ナーゴも負けじと言い返す。

 装填されたフィーバースロットバックルの出目は???(ランダム)、そして抽選されているのはブースト。疑似的なブーストフォームにより彼女の戦闘能力は大幅に向上していた。

 

「ああそうさ! 僕がそんなことさせないッ!」

 

 よろめいたキングジャマト相手にタイクーンは空中から急襲する。

 高度を利用した縦斬りはもろくなっていたキングジャマトの肉体を両断する。

 

「たった一つの、弱点をつけただけで勝てたつもりかい……?」

 

 タイクーンとナーゴの猛攻にキングジャマトは膝をつく。

 傷は絶え間なく再生しているも、個性使用の負荷によって肉体はどんどん消耗してしまっている。修復しては崩れ、崩れては修復する。

 まさに瀕死の状態となってもなお、キングジャマトは自分の優位を疑っていなかった。

 

「体が崩壊するからなんだ!? いくら万全じゃないからって、君たちを斃すのに何の支障もないッ!」

 

 ――“固定化” + “圧縮” + “押し出す”

 

 キングジャマトの周囲の空気が押し固められ、勢いよく射出される。

 

 ――“加速”×5 + “膂力増強”× 2 + “硬質化”

 

 続けて加速の個性を使い移動速度を上昇させる。度重なる個性の使用で肉体に大きな負荷がかかり、体中が崩れ落ちるも構わず攻撃に移る。

 

「ッゥ!?」

 

 極限にまで加速した拳はナーゴのスーツをいとも簡単に破壊する。

 数瞬遅れて破裂音が響き、彼女の体が大きく吹き飛ばされ近くに残っていたビルの壁に叩きつけられる。

 

「ナ――」

「よそ見禁物だぜ?」

 

 ――“引力” + “槍骨” + “鋲” + “増殖”

 

 息をつく間も与えずキングジャマトはタイクーンを引力によって引き寄せる。

 タイクーンはスラスターを噴出してそれに抗うも、じりじりと引き寄せ続けられている。

 

「ッ!」

 

 逃げるのを諦めたタイクーンは反転しレイジングソードを構える。引き寄せる力を利用し懐へ潜り込む算段であった。

 

「知ってたさ! 君ならそうするってね!」

 

 ――“衝撃蓄積” + “加速”×5 + “膂力増強”× 6 + “硬質化”× 2

 

 待ってました、と言わんばかりに個性を切り替え目にもとまらぬラッシュを仕掛ける。

 キングジャマトの腕はまるで増殖したかのように分裂して見えていた。

 タイクーンは攻撃を捌こうとレイジングソードを振るうも、極限まで加速した攻撃を捌き切ることはできずその大半を受けてしまう。

 

「ほら! “スマッシュ”ってね!」

「――ッッ!!」

 

 衝撃蓄積によって溜められたダメージが一気に解放されタイクーンの全身が爆発する。

 レイジングソードはもちろん、コマンドジェットバックルとコマンドキャノンバックルも砕けちってしまっている。

 辛うじてIDコアは無事だったが、もはやそれは奇跡ともいえる状態だった。

 

「あっ……くっ……」

 

 しかしIDコアが残ったとて、緑谷は戦える状態ではない。

 積み重なったダメージは彼の体を行動不能に陥らせている。かろうじて眼球を動かすことはでき、緑谷はゆっくりとキングジャマトの方へ視線を向ける。

 

「見ろ……! こんな状態でも、君たちを斃すのはじゅうぶん……」

 

 キングジャマトの体表は醜く崩れ落ち、もはや元の姿を知ることができない状態へと成り下がっていた。

 

「っみどりや、くん……!」

 

 ビルの壁にめり込んでいるナーゴは、動かない体に鞭を打ってバックルを起動させようと腕を動かす。

 

「そうさ、風は僕に向けて吹いている……すべて、僕の思うがままだ……」

 

 キングジャマトは緑谷へ向けて手を伸ばす。彼の体に宿る個性、ワン・フォー・オールを奪い取るためだ。

 無論、そんなことをすれば負荷に耐え切れずキングジャマトの体は自壊してしまうことだろう。

 そんな簡単なことすら理解できないほどに、キングジャマトの知性は低下していた。

 IDコア(じんかく)を失った結果、ジャマトの肉体に宿る執念のみで動いている状態だった。

 

「ダメッ……!」

 

 だがそんなことをナーゴは知る由もなく、緑谷を助けようと懸命に体を動かしている。

 

「戻ってくるんだ……与一」

 

 緑谷の頭に手が触れる寸前、キングジャマトの周囲に狐火が漂い始める。

 青白い光は、醜く崩れているジャマトの肉体を淡く照らしている。

 

「――コン♪」

 

 指が弾かれ狐火が爆ぜる。

 崩れる寸前だったジャマトの肉体はいとも簡単に吹き飛び、腐敗した体液をまき散らす。

 

「ッなん、だ……?」

「……楽しそうだね。私も混ぜておくれよ」

 

 ゆるりと姿を現したのはエース。

 傷だらけになりながらも、その瞳には闘志と怒りを宿していた。

 

「ギーツ……ッ!」

 

 キングジャマトは肉体を再生させつつエースを睨み付ける。再生が不完全でジャマトの顔に人間の瞳だけがぎょろり、と浮かび上がっている。

 

「ちょうど、いいところに来たね……! 今から君の大切なものを、全部壊してあげよう! 絶望する君の顔を、しっかりと拝んであげようじゃないか……!」

 

 いやらしさの滲む笑い声が響く。

 ジャマトの顔に人間の口が浮かび上がり、吐き気を催すような邪悪な笑みを浮かべた。

 

「悪いけど、私はそこまで気が長くないさ」

 

 エースはマグナムバックルを構える。

 

「いいや! 眺めることしかできないさっ! だって――」

 

 ――“電撃”

 

 キングジャマトの指先から電流が迸る。向かう先は無論、エースの体だった。

 

「君は電気(これ)に弱いだろう!」

 

 電流がエースに襲い掛かる。

 彼(?)の全身が痙攣し、狐耳と尾の毛は電荷によって逆立つ。

 

「「エースさんッ!」」

 

 緑谷は動かない体を懸命に動かそうとし、ナーゴはフィーバースロットバックルのレバーに指をかける。

 

「ふふふっ! 君はいったいいつの話をしているんだいッ!?」

 

 電流に体を蝕まれながらも、エースは不敵に微笑む。

 なす術もなく蹂躙されるしかないはずの体は、確かに電流に抵抗していた。

 

「私は――もうすでに電気(それ)は克服したさ!」

 

 狐火 エース、彼(?)に()()()()()

 彼(?)の生まれは超常の以前、まだ人々に個性と呼ばれる異能の力が宿るよりも前であり、その異能を個性と呼ぶのは筋違いというものだ。

 だがしかし、あえてその異能を個性になぞらえていうのならば、こう呼ぶのが適切だろう。

 

 ――“異能:化狐”

 

 人を化かして誑かす化狐。

 化け狐っぽいことならなんでもできる“異形型”の異能。時に()()()()()()()()ことで弱点すら克服し、生命の危機すら乗り切る。

 まさに変幻自在、個性の枠に収めるにはあまりに歪な異能だった。

 

「なん……だって?」

 

 キングジャマトは電流を止め、呆然としている。

 

「ここは“私の世界”だ」

 

 ――SET

 

 エースは笑みを崩さないまま、マグナムバックルをドライバーに装填する。

 

「私が生きている限り――壊させはしないッ!」

 

 ――SET

 

 続けてブーストバックルを取り出し、反対側に装填する。

 

「変身ッッ!」

 

 ――DUAL ON

 

 エースの体がスーツで覆われ、狐の仮面が装着される。

 

 ――GET READY FOR "BOOST & MAGNUM"!!

 

 左右に白の装甲と深紅の装甲が装着され、蒸気を噴き出す。

 

「さあ――」

 

 エース――ギーツはゆっくりとマグナムシューターを構える。

 

「ここからが、ハイライトだッ!」

 

 ――READY FIGHT!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「壊させはしないって?」

 

 キングジャマトはギーツの姿を見て冷笑する。

 その姿はマグナムブースト――決して弱くはないが、最強とは言い難い形態だ。

 肉体が崩壊寸前とはいえ、数多の手数(こせい)を持つキングジャマトを相手取るには少々心もとない装備ともいえる。

 

「その姿でよく言うぜ! やれるもんなら、やってみなよ!」

 

 ――“荷電” + “押し出す”

 

 個性によって押し出された電子がギーツに襲い掛かる。

 ギーツは攻撃を横に跳んで躱しつつマグナムシューターの引き金を引く。

 弾丸は電子の波にもまれて弾道を複雑に変化させつつも、互いにぶつかり合ってキングジャマトへと命中する。

 

「はっ!」

 

 ギーツの脚部のマフラーが火を噴き加速する。スライディングの様に滑りつつも横なぎに弾丸を放つ。

 どろどろに溶けているキングジャマトの体表に弾丸が命中し、体液をまき散らす。

 

 ――“水流” + “圧縮” + “押し出す”

 

 キングジャマトは手を合わせ、その先をギーツに向ける。中指の間から勢いよく水が噴射される。

 ウォーターカッターの要領で放たれたそれは、瓦礫をいとも簡単に切断する。

 

 ――REVOLVE ON

 

 ギーツは前転しつつのリボルブオンで回避、ふくらはぎへと移動したアーマードガンを展開する。

 一際大きく跳躍し、キングジャマトへ踵落しを見舞う。

 

「ウッ」

 

 ――“衝撃反転”

 

 キングジャマトは衝撃反転で受け止めるも、もろくなった前腕はいとも簡単に砕ける。

 

「ふッ!」

「!?」

 

 ギーツのアーマードガンが火を噴き追撃する。前腕を再生しつつキングジャマトは大きく後ずさる。

 更に軸足を交互に変えつつ回し蹴りとアーマードガンによる波状攻撃を繰り出す。

 とどめとばかりにマグナムシューターを引き抜き銃口をキングジャマトへと向ける。

 

「無駄だ」

 

 ――“膂力増強”×3 + “瞬発力”×3 + “伸縮”

 

 キングジャマトの腕が伸び、ギーツを殴り飛ばす。

 不意を突かれたため、ギーツは防御できずに体勢を崩す。

 

「君がいくら攻撃を重ねたところで――僕を斃すことはできないのさ!」

 

 ――”筋骨発条化”+“瞬発力”×4+“膂力増強”×3+“増殖”+“肥大化”+“鋲”+“槍骨” + “荷電” + “膨張”

 

 キングジャマトは体液をまき散らしながら跳躍し、右腕を大きく振りかぶる。

 その腕は刺々しく膨れ上がり、大きさはその体躯の何倍にも膨れ上がる。

 ギーツだけでなく、近くにいる緑谷たちも攻撃範囲内に入ってしまっている。

 

「君達を始末すれば王手(チェック)だ! 僕を揺るがす者はいなくなるッ!」

「……始末できれば、ね」

 

 ――REVOLVE ON

 

 ギーツは空へ飛び上がるキングジャマトを見上げつつ再び形態変化、マグナムブーストへと姿を戻す。

 彼(?)の手はゆっくりとブーストバックルのスロットルへ伸びていき、しっかりと握りこむ。

 

「さあ――打ち上げようか!」

 

 ――BOOST TIME!!

 

 スロットルが吹かされ、バイク――ブーストライカ―が召喚される。それは狐の形態に変形し、飛び乗ってきたギーツを上空へと打ち上げる。

 

「ひねりつぶしてあげるよ!」

 

 キングジャマトの腕が振り下ろされる。電流を纏った腕は空気を裂きながらギーツへと迫る。

 

「“過ぎたる力は身を亡ぼす”――君にはその言葉がお似合いさ!」

 

 ――MAGNUM BOOST GRAND VICTORY

 

 ギーツは空中で身を縮め、ライダーキックの構えを取る。

 

 ――衝撃が駆け巡る。

 

 二つの攻撃がぶつかり合い、その余波はジャマーエリア中へと駆け巡っていく。

 じわじわと押し戻されるギーツだったが、ブーストライカーの後押しで少しずつ押し返していく。

 キングジャマトの腕は次第にひび割れはじめ、遂にはじけ飛んでしまう。

 

「馬鹿な――ッ!」

「はぁぁぁッ!」

 

 ギーツのライダーキックがキングジャマトに命中し大爆発を起こす。

 地上へ降り立ったギーツのドライバーからは、ブーストバックルが勢いよく射出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

(まだだ……!)

 

 爆散したキングジャマトの断片は、しぶとくもその体を再生させようとしていた。

 こぶし大ほどのそれはわずかながらも失われた体をよみがえらせようとしている。

 

「……ッまだ、のこってた!」

 

 それを発見したのはナーゴ。ビートアックスを引きずる様にしながらも確かに歩を進めている。

 彼女はビートバックルを起動、フィーバースロットバックルのレバーに手をかけ必殺技を発動させる。

 

 ――HYPER BEAT VICTORY!!

 

「ま、まて――」

「やぁあああああッッ!」

 

 ナーゴはビートアックスを振り上げ、キングジャマトの断片に向けて思い切り振り下ろす。

 あまりの威力に断片は勢いよく吹き飛んでいく。

 

(ッ仕方ない、時間はかかるが――)

 

 いくら断片を砕かれようとも、無事な細胞があればキングジャマトはそこから復活できる。

 故に細胞をいっぺん残らず焼却しきらなければ真に斃したとは言えないのである。

 

「――ウウゥウゥッ!!」

 

 その刹那、キングジャマトの細胞は緑の閃光を認知する。

 長年つなげられてきた執念、思いの結晶のようなものが、キングジャマトに幻覚を見せる。

 

「スゥゥマァァァッッッシュ!!」

 

 緑谷は自傷覚悟で個性を発動、ワン・フォー・オールの100%を引き出しキングジャマトの細胞へ右ストレートを放つ。

 

(馬鹿な――こんなところで、僕が――)

 

 残された細胞の断片は、紡がれてきた正義への想いによって打ち砕かれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ギーツは無茶をした反動で膝をつく。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 マグナムバックルを引き抜き、変身を解除すると力なく座り込む。

 

「エースさん、大丈夫?」

 

 そこへ姿を現すのは葉隠、負傷した緑谷に肩を貸しながらふらつきながら向かってくる。

 

「ふふ……さすがにくたびれたよ。これ以上の新手が出ないことを願うばかりだね」

 

 エースの狐耳は力なく垂れており、いつになく弱弱しい表情を浮かべていた。

 

「――お疲れさまでした」

 

 そんな彼らの元に現れるのはツムリ。

 

「“デザ神”とは世界を守った者に与えられる栄誉ある称号――皆様はまさしく“デザ神”と言えるでしょう」

 

 彼女は失われた命に黙とうしつつ、ライダーたちの戦いを称える。

 

「ですが、今シーズンのデザ神はたった一人。“ジャマーボール”は予期せぬトラブルで当初のゲームとは異なる仕様となってしまいましたが、今回の結果を踏まえ、デザ神を決定させていただきます」

 

 と、ツムリが指を鳴らすと空中に円グラフが投影される。

 それは観客(オーディエンス)からの支持率を示すグラフだった。

 

「見事、オーディエンスからの支持を勝ち取ったのは――ギーツ」

 

 ギーツ――37%

 タイクーン――32%

 ナーゴ――30%

 バッファ――1%

 

 プレイヤーでなかったバッファ――牛込を支持するものもいたが、その他はほぼ横一線、誰がデザ神となってもおかしくなかった。

 

「おめでとうございます。狐火 エース様、貴方は今シーズンのデザ神です!」

 

 ツムリはにこやかな表情でデザイアカードを取り出す。

 

 ――“私の願いが全て叶っている世界”

 

 一つではなくすべての願いを叶える――それがエースの願う理想だった。

 願いが受理され、デザイアカードに“DoNe”の刻印がなされる。

 

「っ……結局、エースさんの勝ちか」

 

 緑谷は力なく笑っている。その頬からは悔し涙が流れており、地面に小さな染みを作り出していた。

 

「そんな気がしてたけど、やっぱり悔しいなぁ」

 

 葉隠もまた、緑谷を慰めつつ鼻をすする。

 

「……安心して」

 

 エースはゆっくりと立ち上がり、そんな二人を抱きしめる。

 

「私の理想は、君たちの幸せだ。君達からはたくさんの幸せをもらったんだ……! 短い間だったけど、私は十分に幸せだった……!」

 

 エースは表情を見られないよう二人をきつく抱き寄せる。その瞳からは大粒の涙がこぼれていた。

 だが涙を悟られぬよう、いつものように不敵な笑みを浮かべると二人を解放する。

 

「ふふっ……この言葉を、君たちは信じるかい?」

「はは……揶揄わないでよ、エースさん」

「でも、らしいっちゃらしいよね!」

 

 緑谷は呆れて笑い、葉隠も嬉しそうに笑う。

 鐘の音が響き渡り、エースの理想の世界の構築が始まる。

 崩壊していたビルは逆再生の様に修復されていき、ジャマトによる襲撃などなかったことにされていく。

 

 ――RETIRE...

 

 同時に、緑谷も葉隠のドライバーからIDコアが消滅し、二人の体が消滅する。

 

「さあ、始まるよ――」

 

 一人取り残されたエースは、抜けるような青空を仰ぎ見る。

 

「私の世界が……!」

 

 世界がまばゆい光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















次回、プロローグで最終回です!
最終決戦はマグナムブーストで〆ようとした結果、実は本編中ギーツは第一話以外でマグナムブーストには変身していません。原作ギーツではちょいちょい出てますが、本作では溜めました。うまく盛り上げられていたら幸いです。

ブーストマーク2、出したかったなぁ……
と、いう思いがほのぼのifルートで爆発するかもしれません。ご期待ください。

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