英寿の秘密もそうですが、デザグラの仕組みが中々にえげつないですねぇ……確かに、なんの代償もなしに願いが叶うというのも都合が良すぎますしね。
慟哭編は次回がラストっぽいですがこの後はどうなっていくんでしょうね?
さて、番外編ですが早くも6話目です。
本作の独自展開を前提として展開されるifのため、「あれ、このキャラ誰だっけ?」となったら本編ルートの18話辺りを読み返しておいてください。
――――
――
――時を遡ること数か月前。
デザイアグランプリ第3回戦、迷宮脱出ゲーム。
ジャマトの迷宮に隠された謎を解き明かし、脱出するゲーム。
「チッ! 囲まれたか」
――ARMED CRAW
治崎――クロウはレイズクローを手にジャマトライダーに立ち向かう。
このゲームはゲームマスターの意図に反し、ジャマトが変身し強敵として立ちふさがっていた。
「ったたたた……!」
「だ、だいじょうぶ……?」
痛そうに腰をさする老人――出水 聖拳はバックルを出して変身しようとするも、痛みからバックルを取り落としてしまう。
「役に立たねぇジジイだな!」
そう罵倒するのは治崎の部下――逃げ出したエリを追いかけていたところ、彼女と共に迷宮に迷い込んでしまっていたのだ。
「し、心配せんでも……このくらい……ったたた」
聖拳は根性で立ち上がろうとするも、その程度で克服できるほど腰痛は甘くない。
「ビラアーブピン」
執事ジャマトとメイドジャマトがうずくまる聖拳の下へと迫る。
「い、いや……っ!」
ジャマトが武器を振り上げた瞬間、エリの角が一際大きく輝く。彼女の持つ“巻き戻し”のエネルギーが周囲に迸っていく。
「ん? おお!」
巻き戻しの力により聖拳の腰痛は解消され、彼は嬉しそうに腰をさすっている。
しかしその程度で済むほどエリの個性は単純でない。
「――ッ暴走か! ジジイ! 消えたくなきゃ早くエリから離れろっ!」
クロウはエリの身に起きた異変を察知し止めようと動くも、ジャマトライダーがそれを許さない。
「ふむ……異能を制御できなんだか」
「ごっごめんなさ……」
エリは自分の体から迸る“巻き戻し”のエネルギーを押さえようとするも、制御の仕方が分からずただただ垂れ流しになってしまっている。
「失礼」
「ぁっ……」
聖拳は彼女のこめかみを軽く叩き、意識を刈り取る。意識が途切れたことで彼女の巻き戻しエネルギーの放出が止まる。
「難儀だのぉ……異能と言うのは」
結果として聖拳の肉体は20年程若返っていた。
40代の肉体――衰えは見えるものの、全盛期に近い肉体だった。
「――セイッ!」
全盛の肉体から放たれる聖拳の突きは音速に迫る速度だった。
拳は音を置き去りにし、衝撃波は波動のごとく駆け巡っていく。
「ジッ!?」
数瞬遅れてジャマトライダーが衝撃で吹き飛ばされる。
「さて――肩慣らしといくかの」
その突きはただの牽制に過ぎなかった。
首を鳴らしながら、聖拳は不敵に笑うのだった。
――――
――そして時は現在。
厳しくも楽しかった林間合宿を終え、ヒーローの卵たちは来る仮免試験に備えて英気を養っていた。
――♪
「……葉隠さんからか」
夏休みの課題に取り組んでいた緑谷はスマホのメッセージアプリを立ち上げる。
【週末の夏祭りいかない???】
それは葉隠からの夏祭りへの誘いだった。
(週末……そっか、夏休み最後だし少しくらい遊んでもいいよな)
緑谷はすぐさま“行こう!”とメッセージとオールマイトがサムズアップしているスタンプを送った。
――♪
【やった!】
すぐさま既読が付き、返信が帰ってくる。一緒に送られてきた可愛らしいスタンプは彼女の喜びを示しているかのようだった。
(夏祭りかぁ……小さい頃かっちゃんと行って以来かぁ)
緑谷はペンを置くと幼い頃の記憶に思いをはせる。
屋台から立ち上る食べ物の香り、オールマイトを始めとしたヒーローのイラストがプリントされた袋に包まれている綿菓子、射的、ヨーヨー吊り……楽しかった記憶がおぼろげに思い出される。
(オールマイトのフィギュアが欲しくてみんなでくじ引いたっけ)
中には純粋な子供を騙す悪質なくじ引きの屋台もあったが、それも今となってはいい思い出だ。
来る週末に向けて彼のテンションは上がっていた。
――♪
「あれ……誰だろう?」
緑谷は見知らぬアカウントからのメッセージに首をひねりつつ画面を開く。
【イズク! 週末って予定空いてる?】
アイコンはおかっぱな女子――小森の自撮り。
おそらくはB組の小森からのメッセージだった。
(えっ……どこから……誰から僕のアカウントを?)
緑谷は決して社交的な性格ではない。知り合った人と片っ端から連絡先を交換することもないのだ。
【えっ……と、小森さん? かな?
ごめん、週末は予定が入ってて】
――♪
緑谷が返信するや否やメッセージが返ってくる。
【え~】
“ざんねんキノコ”、とメッセージの入った変わったスタンプが送られてくる。
何かに誘うつもりだったのだろうか、がっかりとしているような雰囲気だった。緑谷は少しだけ罪悪感を覚えた。
「よし……夏祭りまでに宿題は終わらせちゃうか」
再び宿題と向き合う緑谷。
鈍感な彼は小森からのメッセージの真意に気づくことは無いのだった。
――――
――
――週末。
夏の長い日はようやく陰り始め、駅前を茜色に染めている。
吹きゆく風は少しだけ生暖かく、どこか夏の終わりを感じさせていた。
緑谷は濃い緑色の浴衣に身を包み、葉隠がやってくるのをそわそわしながら待っていた。
「――あっ! おーい!」
「っ葉隠さ……」
緑谷は現れた葉隠を見て思わず固まる。
可愛らしい浴衣に身を包み、そのあどけない顔は満面の笑みに染まっている。
そう、葉隠の素顔が露になっているのだ。
「はっ葉隠さん個性が……」
「へへん! すごいでしょ? 合宿の個性伸ばしでこんなこともできるようになったの! ほら、プールで腹筋に力入れ続けている人がいるでしょ?」
I・アイランドの時とは異なり、今回の葉隠は個性の力で姿を露にしていた。
夏の合宿で光の波長をコントロールする――つまり、ただ透過するだけでなく光を屈折させて自分の姿を見せることができるようになっているのだ。
「すごい……! 姿を消したり見せたりできるってことは、それだけヒーロー活動に幅が出るってことだね!」
「でしょ? それにこうやって……その、デートだってできるし」
彼女は恥ずかしそうに俯きながらつぶやく。その拍子に個性のコントロールが乱れ発光してしまう。
「ウッ……め、目が……!」
「わーっごめん!」
突如として発光した葉隠の光を直視してしまった緑谷は目を押さえながらうずくまる。姿を現す制御はまだ未熟なようだった。
――――
舞台は“鈴鳴神社”
起源はその名の通り――と、堅苦しい話はしないでおこう。この神社では夏の終わりに“鈴鳴祭り”と呼ばれる祭りを催しており、某チャリティ番組の様に晩夏を想起させるイベントとなっていた。
祭りの会場は早くも賑わっており、老若男女、様々な人たちが非日常の祭りを楽しんでいた。
「すごい賑わいだなぁ」
中には私服で警備しているヒーローもおり、非日常の中でも事件は起きうるのだと察せられた。
「はぐれないようにしなきゃね!」
と、緑谷の腕に抱き着く葉隠。彼女のやわらかな温もりに緑谷は思わず赤面した。
周りのカップルと思わしき男女もここぞとばかりに腕を組んでおり、はた目から見れば彼らもカップルであると思われている事だろう。
現に、男子グループでやってきているであろう一団とすれ違った瞬間、思い切り舌打ちをされた。
「――そこのカップルさん! ウチのたこ焼き買ってきなさいよ」
「えっ? って牛込さん!」
偶然通りかかった屋台の店番をしていたのは牛込。彼女はニヤニヤしながら緑谷と葉隠を見つめていた。
「どうしてここに?」
「バイトに決まってるでしょ……へぇ……あんたたち、付き合ってるんだ」
「い、いや……まだそんな関係じゃ」
「
緑谷はしまった、と思い口をふさぐ。テンパるあまり余計なことを口走ってしまったようだった。
「……ま、あたしには関係ないことだけど――はい。あたしのおごり。お幸せにね」
牛込は手早くたこ焼きを包むと緑谷へ渡した。
「あ、ありがとうございます……」
「……」
ちら、と緑谷は隣の葉隠を見つめる。先ほどまで露になっていた顔は急に見えなくなっていた。
祭りの喧騒がどこか遠く聞こえるようだった。
緑谷は意を決して口を開く。
「……あ、あのさ……この間の話――あ、I・アイランドの時の話の続きなんだけどさ」
「――ああ―――っ!」
突如として響いてきた叫び声に緑谷は思わず肩を跳ね上げる。葉隠も驚いたようで少しだけ発光していた。
「っこ、小森さん!?」
「あ、B組の?」
そこに立っていたのはB組のおかっぱ女子、小森。彼女は浴衣姿で両手には屋台の戦利品を抱えており、存分に祭りを楽しんでいることがうかがえた。
「――おっ! 緑谷に葉隠か! 合宿ぶりだな」
「ん……」
続けて現れるのはB組の学級委員長の拳藤と同じくB組の小大。二人とも浴衣姿で、小森と共に祭りに来ていることがうかがえた。
「わーん! 先越された~!!」
小森は誘いを断られた理由を察し、拳藤に泣きついていた。
「……緑谷くん、どういうこと?」
「えっと実は――」
緑谷は事のあらましを簡単に説明する。
本当にタッチの差だった。もし小森の方が先に祭りに誘っていたら、彼は葉隠と共に出かけてはいなかっただろう。
「へぇ……モテモテなんだね」
葉隠は再び素顔を見せており、その瞳は鋭く細められていた。
「えっ……いやそんなことは」
「――ッこうなったら勝負ノコ!」
ピタリと泣き止んだ小森は葉隠をビシッと指差す。
「21時からの“鈴取り”でどっちが先に鈴を奪えるか、私と勝負するノコ!」
「ッ!」
鈴取り――それはこの“鈴鳴祭り”の一大イベント。
祭りに現れた鬼の持つ鈴を奪う催しだった。
曰く――鈴を取れたものは願いが叶う。曰く――鈴を取ったものは思い人と結ばれる。
嘘か真か、そんなジンクスがあった。
「っもちろん……受けて立つよ!」
葉隠は真っ向から宣戦布告を受けつけた。
二人の間で火花が散る。
緑谷は底知れぬ殺気を感じ、思わず息を呑んだ。
(女の子って……怖い)
しかしそれが自分を巡った争いであることは思いもしていなかった。
――――
小森たちと別れてからは、しばらく後。
「――あれ? エリちゃんに……エースさん! おじいさんも」
緑谷と葉隠は祭りを楽しむエリとエース、そして聖拳に出逢う。
「へぇ……二人でデートってこと?」
「っいや、それは……」
エースにからかわれ緑谷は顔を赤くしつつも強くは否定しない。
「エースさんこそ、どうしてエリちゃんたちと?」
葉隠はエリの頭を撫でつつ問いかける。
「……私が誘ったのさ。どうにも、この子は他人の様に思えなくてね」
エースは何かを思い返すように遠い目をしている。
絵になるような美しさだったが、両手には綿あめを二本ずつ携えているため少々間抜けな雰囲気だった。
「人ごみは危険かもしれんが、家でジジイと二人きりというのもつまらないと思ってな。何、いざという時はワシが何とかするわい」
聖拳はニカッと笑った。
「ふむ、一緒に回った方が楽しかろうが……でぇとの邪魔かの」
「そ、そんなことないですよっ! 僕たちだって、エリちゃんのことは放って置けないですし」
「大丈夫、勝負はこの後だから……!」
エリ達と共に回ろうとする緑谷と葉隠。しかし当の本人は申し訳なさそうな顔をしていた。
「……ごめん、なさい」
「謝らなくてもいいよ! 僕たちだって、エリちゃんと一緒に遊びたかったんだ!」
緑谷はしゃがんで目線を合わせつつエリに微笑みかけた。
「よーし! じゃあどこからまわろっか……?」
エリの手を取った葉隠だったが、遠目に迷子らしき少女を発見する。
真っ赤なチューリップハットをかぶり、白のワンピースを着ている――夏祭りの場ではいささか場違いな装いだった。
「迷子……ねえ、大丈夫? はぐれちゃったのかな?」
緑谷は少女の下まで駆け寄り、手を差し伸べる。
「…………」クスクス
帽子の影から覗く少女の口元が笑っている。
――カッ!
緑谷の足元にタイクーンのIDコアが落ちる。そして少女の手にはデザイアドライバーが――緑谷の持っていたドライバーがあった。
「ッ!? え、い、いつの間に!?」
彼があっけにとられていると、少女はするりと歩き出し葉隠、エース、聖拳の前を通り抜けていく。
――カカッ!
そして少女が通り抜けたそばからIDコアが――ナーゴ、ギーツ、ケイロウのコアが次々と地面に落ち、少女の手にはデザイアドライバーが握られる。
「えっ嘘ッ!?」
「……っやるね、あの子」
「言っとる場合か!」
少女の背後からはポーンジャマトが3体現れる。
「ッもしかして、これが今回のゲームってコト!?」
葉隠はエリを庇うように抱きしめる。
「そういうことなんだろうね!」
「折角の祭りを台無しにしおって!」
エースと聖拳は即座に臨戦態勢に入る。
ジャマトは少女からドライバーを受け取り、自分たちが変身できるようにディスコアIDを装填しようとしている。
「――ッフルカウル!」
「――コン♪」
「――セイヤッ!」
緑谷、エース、聖拳は即座に動き、ジャマトからドライバーを取り返す。
「葉隠さんッ!」
少女からもドライバーを取り戻し、緑谷は葉隠へとドライバーをパスする。
「ありがとっ!」
――ENTRY
彼らは取り戻したドライバーにIDコアを装填し、装着。
――SET
バックルを装填するとジャマトを取り囲むようにして構える。
「「「「変身!」」」」
――MAGNUM
――NINJA
――BEAT
――ARMED DRIL
タイクーンはマグナム、ギーツはニンジャ、ナーゴはビート、ケイロウはアームドドリルにそれぞれ変身する。ケイロウは変身するや否やレイズドリルを投げ捨てている。
――READY FIGHT!
彼らの変身に合わせて法被を着たジャマト――お祭りジャマトが姿を現す。
「ッここで戦ったらマズい――避難を」
「…………」クスクス
ジャマトを逃がさないように立ち回るタイクーンだったが、少女が目の前を通り過ぎた瞬間ドライバーを奪われて変身が解除されてしまう。
「そんなっ!」
「……」クスクス
少女はライダーたちの前を通り抜け、次々とドライバーを奪い取っていく。
「っ厄介な相手だね……!」
変身解除させられてしまい、流石のエースも冷や汗を流している。
「――あはははは! ドライバーを奪われちゃ流石のギーツもお手上げってコトかい!?」
颯爽とジャマトを斃しつつ現れたのはパンクジャック。彼はドライバーを奪われてなす術もないギーツをあざ笑いつつもジャマトを次々と撃破していく。
「……」クスクス
そんなパンクジャックの前を少女が通り過ぎ、ドライバーを奪っていく。
「っ!?」
「自分だけ対象外だと思っていたのかい?」
ここぞとばかりに煽り返すエースだったが、その額には冷や汗が浮かんでいる。
「――ジュラピラ」
ドライバーを受け取ったポーンジャマトはディスコアIDを装填し腰に装着、ジャマトバックルを構える。
「ヘン……ヘッ……ジャ」
バックルを装填する寸前で突如として体が痙攣し始める。
「何が、起こって……」
ドライバーを奪ってきた少女の正体もジャマトだったようで、その姿がモウセンゴケを思わせる姿に変化する。
次第に法被を着ていたポーンジャマトの姿が変化し、具足を纏った足軽のようになる。
「っ私たちの服まで!?」
葉隠は変化した自分の服を見て驚いている。彼女の服は浴衣から戦国時代を思わせる着物姿に、エースや緑谷たちもそれぞれ浪人、忍者と戦国時代風の装いへと変えられてしまっている。
「っそんなバカな……こんなゲームだなんて聞いてない」
「……パンクジャック、君は運営側なんだろう? 知っていることがあるなら素直に白状した方がいい」
エースは侍を思わせる姿となった物間に問いかけた。
「知っていればいくらでも教えるさ!」
お祭りの屋台も書き換えられ、時代劇を思わせる長屋の建物へとその見た目を変えてしまう。
「なんにせよ、ここは一旦退いた方がよさそうじゃな」
鎧武者のような姿の聖拳はエリを抱っこしつつゆっくりと後ずさっていく。
彼らはジャマトの異変を尻目に撤退するのだった。
――――
「――デザイアグランプリ第三回戦“椅子取りゲーム”」
神社の境内に集まったプレイヤーたちはツムリからのブリーフィングを受けていた。
「椅子は椅子でも奪い合うのは“ライダーの椅子”、ラスボスの“隠れん坊ジャマト”が撃破されるまでにドライバーを持っていた方が勝ち残るゲーム……でした」
本来開催されるはずだったゲームの説明をしつつも、ツムリはどこか困った様子でため息をついた。
『こちらとしても想定外の状況だ。原因が判明するまではゲームは一時中断とする』
ツムリと共にやってきていたゲームマスター――ギロリの腰にはヴィジョンドライバーが装着されている。その服装はまさに戦国武将、仮面はいつもと同様だったが全身に甲冑を身にまとっており容易に身動きが取れないような状態だった。
「……このまま待てっての? ドライバー取られてる人もいるのに」
少女――隠れん坊ジャマト遭遇しなかったおかげでドライバーを奪われていない牛込は緑谷たちを示して抗議する。彼女の姿は女武者、袴姿で袖をたすきでまとめ薙刀を携えていた。
『その点については安心してほしい。万が一、椅子取りゲームが再開できない場合は新たなドライバーを支給する』
「……フン。余計なことを」
ギロリの差配に内心舌打ちするのは治崎。彼もまたドライバーを奪われていない一人だった。羽織袴を身にまとっており、雰囲気はどこぞの大名だった。
「……白々しいねぇ、ゲームマスター。アンタのドライバーはデザイアグランプリの一切を管理できるんだろう? なのになんの手も打ってないなんておかしいよねぇ?」
唯一、デザイアグランプリの運営を知っている物間はギロリに問いかける。
ヴィジョンドライバーにはデザイアグランプリの運営に関わるあらゆる機能が搭載されている。その中にはゲーム開始当初からの全ての記録も残されており、まさにゲームマスターが使うにふさわしいものとなっている。
『私が何の対抗もしていないと?』
「…………」
ギロリの仮面の奥の瞳ににらまれ物間は息を呑む。
「そのドライバーで運営を、ねぇ……タイクーンにナーゴ、あのドライバーに見覚えがあるんじゃない?」
エースは探るような視線をギロリに向ける。
「えっ……あ!」
「I・アイランドのヤツ!?」
緑谷と葉隠は大きく目を見開く。
彼らはヴィジョンドライバーと同様のドライバーをI・アイランドで目撃している。科学者のケイ・アッドが開発したドライバー、それと見た目がそっくりなのである。
『……詳しく聞かせて――』
『ようこそジャマトグランプリへ!』
突如、少女の声が響き渡る。
空中に映像が投影され、黒髪の少女――ベロバが映し出される。彼女の腰にはヴィジョンドライバーが装着されていた。
『私はこのゲームのゲームマスター、ベロバよ♡』
画面の中のベロバはいやらしい笑みを浮かべつつゲームの趣旨を説明する。
これはジャマトと呼ばれる生命体による殺戮。エリア内にいる人間のありとあらゆるものを壊して点数を競う悪趣味なゲーム――それがジャマトグランプリの全容だった。
『――そして記念すべき第一回戦は……“戦国ジャマト祭り”よ!』
ジャマトグランプリ第一回戦、“戦国ジャマト祭り”。
戦国時代よろしくジャマト側と人間側に分かれて争い、敵の大将を討伐し“姫”と呼ばれるキーパーソンを手に入れるとゲームクリアとなる。
『ジャマト軍の大将はこの子――ビショップ。そして姫は私』
映像に投影されたのはモウセンゴケを思わせる姿のジャマト――本来隠れん坊ジャマトとして戦うはずだったジャマト。
『そして人間軍の大将は――ゲームマスター、ギロリ』
「えっ!?」
「嘘ッ!?」
『…………』
思わぬ形で正体を明かされてしまったゲームマスター――ギロリはため息をつきながら仮面を外している。
「まさか、貴方がゲームマスターだったとはね」
「……余計なことを」
ギロリは仮面を投げ捨てつつ映像を睨み付ける。
『姫は――』
「……私でしょうね」
ツムリは面倒くさそうな、どこかまんざらでもなさそうな表情をしている。
『――この子よ』
しかし予想に反して映像に投影されたのは――エリだった。
「……わたし?」
聖拳に抱っこされていたエリの姿が姫を思わせる十二単に変わる。
「……私じゃ、ない?」
指名されなかったツムリは残念そうに肩を落としていた。
『――“戦国ジャマト祭り”、開戦よっ!』
残酷なゲームの火ぶたが切って落とされた。
――――
――
「――みーつけた♪」
敵陣を目指して駆けるエース、緑谷の前にベロバが姿を現す。
「……いきなり敵の姫と出会えるなんてね」
「待ってエースさん、あからさますぎるし罠かも」
勝利条件は敵大将の討伐と“姫”の確保。
そのうちの一つがのこのこと現れた以上、何か裏があると考えるのが心理だろう。
「アハハ! どうかしらね?」
「構わないさ。私を化かせるもんなら、化かしてみて欲しいものだけど♪」
エースはニンジャバックルを、緑谷はマグナムバックルを構える。その腰には再支給されたデザイアドライバーが装着されており、変身の準備は万端だった。
「いいわね! ゾクゾクしてきた♡」
ベロバは素早くレイズライザーを抜くと緑谷とエースを狙撃する。二人は咄嗟に回避するも、その拍子にバックルを取り落としてしまう。
「っ!」
――SET
緑谷はすぐさま転がってきたニンジャバックルをセット。
「ふふっ。久しぶり」
――SET
エースは微笑みつつマグナムバックルを拾い、セットする。
「「変身っ!」」
――NINJA
――MAGNUM
タイクーンとギーツに変身した二人はそれぞれ武器を構える。
「あら、絶体絶命……なのかしら?」
「だとしたら、大人しく降参するかい?」
ギーツの問いかけにベロバは口角を釣り上げる。
『――ジャマトグランプリに巻き込まれた人たちに大スクープをお届けするわ』
突如上空に映像が投影される。
先ほどと同様、ベロバによる仕込みだった。
「どうかしら……私にかかりきりになってる余裕があるのかしらね?」
――――
デザグラ陣営の本陣にはお祭りジャマト改め足軽ジャマトが攻めてきていた。
「やあっ!」
「セイッ!」
ナーゴとケイロウは押し寄せる足軽ジャマト相手に奮戦している。
「――一体一体は弱いですが、数が多すぎますね」
数の不利をカバーするべくツムリもジャマトと戦っている。どこか拗ねているかのような不満げな表情だった。
「……そうか、ならば私も」
「えっ!?」
ギロリは刀を抜きつつ前線に姿を現す。
大将自らの出陣だった。
「お前さんがやられたら終わり、大人しく引っ込んで――」
下がらせようとするケイロウだったが、ギロリの鮮やかな太刀捌きを見て固まる。
まるで達人のような無駄のない動き、“一振り一殺”と言わんばかりの鮮やかな太刀筋。
「えっと……これ、私たちが守らなくてもいいんじゃ」
「……真に守るべきはエリちゃんじゃな」
無論、ギロリはまだグレアに変身するという手段も残しているのだが、二人はそれを知る由もなかった。
『――ジャマトグランプリに巻き込まれた人たちに大スクープをお届けするわ』
そんな中、再び映像が投影される。
――――
空中に映像が投影される。
今回は実写ではなくベロバをデフォルメしたようなアニメーション映像だった。
『――貴方たちがどうしてこんなゲームに巻き込まれちゃったのか、その理由を教えてあげるわ!』
映像が切り替わり、デザグラ陣営にいるエリが投影される。傍らにはバッファが護衛についており、自分たちの映像が中継されていることに戸惑っている。
『それはこの子、今回のゲームのキーパーソンよ♪』
エリの映像が小さなワイプ状に縮小され代わりに古びた映像が映し出される。それはどこかの家の一室で、今よりも少しだけ幼いエリと男性――恐らく彼女の父だ――が映されている。
『彼女はとんでもない“個性”を持っているの――何でも巻き戻して消してしまう力♪』
映像はエリが初めて個性を使ったときの物だった。
彼女の額の角から光が迸り、父親を巻き戻して消滅させてしまう。残されたのは父親が着ていた服と何が起こったのかわからず呆然としているエリ。
『私たちはその個性が欲しくてこんなゲームを始めたのよ! あーあ……もし彼女がいなければ、こんなゲームすぐ辞めちゃうのになー』
ベロバのナレーションはどこまでもわざとらしく、思ってもいないことを言っているかのようだった。
『以上、ベロバからの大スクープでした♡』
――――
――『オイマジかよ』
どこからか声が響いてくる。
――『あんな小さな女の子が恐ろしい個性を』
それは静かに、だがはっきりと聞こえてきている。
――『ったくなんでそんなヤベー個性の奴がこんなとこ来てんだ! 自粛しろ自粛!』
それは無責任な正義の代弁者の声。
――『てゆーかヤバくない? 個性暴発したらアタシら消えちゃうじゃん』
彼らはわが身の可愛さゆえに、他人を慮ることなど到底できず。
――『折角の祭りが台無しだよ! とっとと捕まっちまえよ!』
彼らは無自覚に悪意を発露する。
「あっ……ああ……っ!」
「聞いちゃダメッ!」
咄嗟にエリの耳を塞ぐバッファだったが時すでに遅し。
響いてきた“人々の本音”は彼女の心をずたずたに引き裂いた。
――――
「アハハ! アハハハハッ! いいわ! 本当にゾクゾクするわ♡」
映像は絶望して顔を強張らせるエリの姿が映し出されている。傍らのバッファが必死に慰めているが、効果はなくただただ絶望の底へ沈んでいくのみだった。
「これよこれ! ああ……本当に他人の不幸は最高ね♡」
ベロバは恍惚とした表情で映像を眺めている。どこまでも悪趣味で下劣な女だった。
「っ――!」
タイクーンは思わず飛び掛かりそうになるが、寸でのところで冷静さを取り戻す。
なぜなら、自分以上に怒っている者がいたからだ。
「…………」
ギーツはゆっくりとマグナムバックルを引き抜くとI・アイランドの戦利品――ブーストマーク2バックルを取り出す。
「あら? 私なんかに構ってていいのかしら? 放っておいたらあの子……一体どんな目に遭うのかしら? ああ♡ 想像するだけでゾクゾクするわ」
「……タイクーン」
「っうん……!」
ギーツに促されてタイクーンはエリのいる本陣へと戻っていく。
「……こんなに怒りを抱いたのは久しぶりだ――私は君を絶対に許さない」
――SET
「アハハ! バッカみたい」
――GLARE2:LOG IN
ベロバは怒れるギーツをあざ笑いながらドライバーを起動する。その指紋は既に再デザインされており、ドライバーを起動することができるようになっていた。
「変身♡」
――INSTALL ...
ベロバはグレア2へと変身する。
「…………!」
――BOOST:Mark2
ギーツはあふれんばかりの怒りを抑えつけつつもバックルを起動する。
装着された真っ赤な装甲は、彼(?)の怒りを表しているかのようだった。
――READY ... FIGHT!!
【分岐要素】
・迷宮脱出ゲームに巻き込まれたのはエリちゃんと治崎の部下A
→ 本編ルートで登場したオリキャラのミサオ君はこの時空では存在しません
彼の不在がifルート最大の分岐要素ともいえますね
なお部下Aは迷宮脱出後に粛清された模様
・林間合宿が平和に終わる
→ 本作では敵連合系のイベントはフラグが全折れしているので何も起こらず
AFOさんも監獄なので至極平和に合宿が終わりました
・葉隠さん、素顔フォームがまさかのレギュラー化
→ 特撮特有の予算が無くなる現象が本作でも発生!
心の中で葉隠さんの素顔を思い描いてください!
さて文化祭を挟む前に夏祭りです。ヒロアカ原作ではああなったので発生しなかったイベントですが、そこは二次創作の特権ということで考えてみました。ギーツの雷祭り編との複合という感じです。
もう少しイチャイチャシーンを書こうかと思いましたが、尺の都合上カットしました。文化祭編までお待ちください。