読者の方々と気持ちが同じでよかったです、やっぱあいつクソだよね。
そしてメリーおじさんも彼に負けず劣らずクソキャラに仕上がりました。どうか、どうか耐えていただけると・・・
ひとまず、神経衰弱編はオリキャラの牛込さんを掘り下げようと思っています。原作キャラはあまり絡みませんが、読んでいただけると幸いです。
――――
――
牛込 茜。性別、女性。年齢、19歳
個性は
某県の公立中学校を卒業すると、高校へ進学することなく家を飛び出しフリーターとなる。
コンビニのバイトから個性を生かした肉体労働まで、水商売を除いた様々なアルバイトをしながら生計を立てていた。
(ん……そろそろ時間ね)
コンビニの深夜バイト、朝になり日も少しずつ顔を出し始める時間。
レジで待機していた彼女は店長に時計を示してアイコンタクトを取る。品出しをしていた店長は意図を察しサムズアップした。
(よし、あと3時間……頑張らなきゃ)
牛込が大きく伸びをしながらバックヤードへ戻ろうとした時だった。
「――失礼、お嬢さん」
怪しげな二人組が入店する。
片方は銀髪の男性。英国紳士風のコスチュームと立派な髭が特徴的だ。
もう片方は小柄な女性。紅髪のツインテールに目元には濃い隈があり、両手には撮影機材と思われる道具を抱えている。
男性の方は懐からナイフを取り出してレジにいた牛込に突きつける。
「動画撮影に協力願いたい」
品出しをしていた店長は二人組の正体に気づき目を見開いている。
「ど、動画で見たことあるぞアンタら……迷惑行為を繰り返してるっていう」
「ご視聴感謝する。そう! 私は救世たる義賊の紳士――ジェントル・クリミナル!」
男性――ジェントルはナイフを突きつけつつ丁寧にお辞儀をしている。
(ッなんなのよ、こいつら……!)
牛込はナイフに臆することなく歯を食いしばる。
(もう
彼女はいそいそと撮影準備をしているジェントルの相方を睨み付ける。いっそこのまま掴みかかって組み伏せてもいいが、逃げられてしまえば他店にも被害が出てしまう。
そのためレジカウンターの内側――カラーボールのある位置に目線をやると静かに手を伸ばした。
「準備オッケーよ、ジェントル!」
「ありがとうラブラバ――ンンッ!」
ジェントルは一つ咳ばらいをすると口上を述べ、今回の“趣旨”を説明し始める。
「――今、私は強盗をしています」
簡潔に現状の説明をするとレジカウンターにブリーフケースを置く。
「では現金をこのブリーフケースに入れてくれたまえ。あ、千円札は10枚ごとにまとめてもらえると助かります」
(知るかよ……んなこと……!)
牛込の怒りのボルテージは徐々に高まってきている。
「え、なぜこんなことをしているのかって? 実はこのコンビニ――」
ジェントルは続けて背景の説明に入る。
曰く、このコンビニチェーンは“食品偽装”をしていたのだという。
例えば、サンドイッチは断面だけ立派に具材が入っているように見せかけ、開くと断面部にしか具材が詰まっていなかった。弁当を買って箸を入れたらとんでもない上げ底で中身は殆ど入っていなかったなど、購入者をがっかりさせるような出来事が間々発生していた。
これに対しコンビニサイドは事実を否定。
ジェントルはそんな非紳士的なコンビニに対して制裁、こうして動画を撮影するに至ったのだという。
(だったら本部に直接文句言えよ……ッ!)
牛込はレジを操作しつつ、ジェントルに隙が生じたのを感じた。
「――ッ!」
素早くカラーボールを取るとジェントルの方へ投げつけた。
しかし、ボールは命中することなくジェントルの手前の空気に阻まれ、まるでトランポリンの上を跳ねるかのように牛込の方へ返ってきた。
「失礼、それについては経験済みでね。詳しくは動画ナンバー――」
ジェントルは得意げに話しつつ過去動画の宣伝も行っている。
だがもはや彼女の耳にその声は届いていなかった。
「――文句が」
「うん?」
「文句が、あるなら」
牛込はレジカウンターに指をかける。
「直接本部に言えよッッ!!」
そしてバッファローの膂力を生かしてそれを引きはがし、ジェントルへ向けて突進する。
彼女の個性は
闘牛と言えば、闘牛士が赤い布をひらひらとさせ、牛を翻弄させるものである。
一説によれば、闘牛は
何が言いたいのかと言うと――牛込 茜は他者に比べて非常に感情が昂りやすいのである。
“箸が転がっても可笑しい”、そんな言葉があるが、彼女の場合は“箸が転がっても腹立たしい”である。
そのため定期的に鎮静薬を摂取していなければ、いとも簡単に激昂してしまう。
そしてその薬を飲む時間を妨害されたため、今に至る。
牛込はレジカウンターごと突進、跳ね返ってきたそれを踏み台に跳躍すると“弾性のある”空気を飛び越えジェントルの胸倉をつかむ。
「んなっ! “ジェントリーバウンド”が!」
ジェントルは自身の防御技が破られたことに驚嘆する。
すぐさま牛込はジェントルの体を日用品の陳列された棚に押し付け、そのままドリンクコーナーの方向へ押し込んでいく。
「ジェントルっ!」
相方の女性――ラブラバは手早く機材をまとめつつジェントルの方を見つめる。
「“愛しているわ”」
唐突な愛の告白。
それをトリガーとしてジェントルの力が増幅、牛込の手を振りほどき拘束から逃れる。
ドリンクの陳列された冷蔵庫に突っ込んだ彼女は、ガラスの破片やエナジードリンクを全身に浴びながら再び店内へ舞い戻る。先に受けたカラーボールの色と相まって、どこかの地方部族のように見えた。
「ラブラバ、残念だが今回は――ボツと言うことで」
「ええっ! 命の方が大事だものっ!」
ジェントルはラブラバを抱きかかえると店の扉を蹴り開けて退店する。
牛込はひしゃげている商品棚を掴むと入口へと投げつける。それはコーヒーメーカに命中し、入口付近にコーヒーの水たまりを作り上げた。
「待てっ! 逃げんなッッ!」
続けて雑誌棚に向かって突進し、その背後のガラスを突き破りながら店の外へ。ジェントルは個性を使って空を駆けている。
牛込はその方向へ狙いを定めると、歪んだ雑誌棚を投げつける。陳列されていたグラビア雑誌をばらまきながら棚は飛翔し、ジェントルの足元付近の空気に命中し地面に落下した。
「クソッ! ふざけやがってッッ!」
彼女は忌々しそうにガードパイプを蹴りつける。
対個性も想定して頑丈に作られたそれは、彼女の足形に凹んでしまっていた。
――――
――
(やっちゃった……)
牛込はあの後、クビを言い渡されてしまった。
――『ごめんねぇ……茜ちゃんの事情は知ってるけど、ここまで被害を出されちゃうと本部がうるさくって』
店長は個性による弊害を理解してくれていたが、それでも起こした被害の大きさは計り知れなかった。
店は当面休業、陳列されていた在庫は大半がダメになってしまった。損害賠償を請求されなかっただけマシというものだ。
「はぁ……」
薬が効いているおかげが、軽いだるさと夜勤による眠気が同時に襲い掛かる。
カラーボールとジュースの汚れはある程度落としてきていたが、それでもわずかに汚れが残るものである。
「シャワー、借りよ……」
帰り道にあるゴミだらけの海浜公園。そこには海水浴客向けのシャワーが備え付けられており、彼女はそこで汚れを落とすと海岸線を散歩する。
(……ここ、確かタイクーンが)
牛込はごみ収集のアルバイトで付近に来ていたことを思い出す。
不法投棄や漂着物が後を絶えない中、地道に清掃を続けるタイクーン――緑谷。
少し歩くと、彼が今日もごみ掃除に精を出しているのが見えてくる。
「……いた」
「あっ――えっ!? もう集荷の時間ですかっ!?」
突如として現れた牛込に緑谷は驚いて時間を確認している。
集荷に現れたと勘違いしたのだろう。
「……違う。たまたま近くを通っただけ」
「そ、そうですか……っ」
緑谷はかつて冷蔵庫だったものを抱えつつゴミ捨て場の方へと歩いていく。小柄な彼の肉体では、大きなごみを運ぶのに苦労することだろう。
「……ねえ」
「あっはいっ! 何ですか?」
牛込に呼び止められ、緑谷は汗をぬぐいつつ振り返る。
「どうしてごみの片づけなんてしてるの? あんたが掃除した傍から不法投棄してる奴もいるし、なんかしらのごみだって流れ着いて来てるのに」
この海浜公園の掃除は、かつて市がそれなりの予算をかけて取り組んだが、結局掃除しても掃除してもキリがないので匙を投げられたほどだった。
「いや、そのっ……体を鍛えようかと」
「だったらジム行けばいいじゃん。知らないかもだけど、個性の使用が許可されてるとこもあるし」
昨今のジムは単に肉体を鍛える場にとどまらず、個性の鍛錬場としても機能している。もちろんごく少数だが、駅の近くならばプロヒーローが監修している“個性使用可能な”ジムも1件くらいはある。
もっとも、そのジムに入会したからと言って個性使用の許可が下りるとは限らないが、将来ヒーローを目指す少年少女はそういった場所で個性の自主練を行っているのだ。
「いやぁ……行っても無駄ですよ。だって僕――無個性、だから」
緑谷は苦笑いしながら近くのごみに手をつく。その腕はごみ運びの成果か、しっかりとした筋肉がついていた。
「無個性……」
人口の約8割が何らかの特殊能力、個性を持っている現在。若い世代では特に無個性は少ない。
個性の強弱がスクールカーストへもろに直結する昨今。弱個性の人間ですら虐げられるのだから、無個性の緑谷がこれまでどのような人生を送ってきたかは想像に難くない。
「……ごめん」
「そ、そんなっ! 別に謝られることじゃ……僕、ずっとヒーロー目指すのなんか無理だって思ってて。でも認めたくないからヒーローのことはしっかり調べて、将来に備えようって」
彼は照れ隠しにごみを持ち上げて少し運ぶ。
「でも――“ヒーローになれる”って言ってもらえたから、その言葉に報いたくって――だからまずは何か自分にできることをやってみようと」
ひとしきり語ると、緑谷は恥ずかしそうに赤面すると腕を突き出す。
「あっご、ごめんなさい勝手に語っちゃって」
「……じゃ、あんたの理想は“自分に個性がある世界”ってとこかしら?」
「あっ……はは、そんな、とこですね」
緑谷ははにかみながら頭の後ろを掻いている。
「あっあの……そういう牛ごっバッファさんはどんな理想を?」
「っ!」
――『ごめん……ひどいこと言っちゃって……』
――MISSION FAILED...
刹那、牛込の脳裏に浮かぶ記憶。
彼女はギリ、と歯を食いしばる。
「……あんたら“ライダー”をぶっ潰す、事よッ」
「ぶっ……つぶす?」
緑谷は驚き目を見開いている。
「……っだから、余計なお節介はしないことね。あたしが勝った暁には」
牛込は俯きつつ拳を握り締める。
――♪
その時、スパイダーフォンが鳴り響く。
デザイアグランプリ、第3回戦の開戦を告げる音だった。
――――
――
デザイアグランプリ、第3回戦。
その名も“デュオ神経衰弱”。
これまでの個人戦とは趣向が異なり、プレーヤー同士が“デュオ”を組んで挑むゲームだ。
現在の残りプレーヤーは5人。そのため数合わせとして“運営サイド”のライダーが参加することとなる。
顔出し、声出しNGのライダー――その名もパンクジャック。
先日退場したダパーンの頭部をオレンジ色に塗装したような仮面のライダーだ。
「ちょっハロウィンちゃん!?」
そのパンクジャックと組まされたのはメリー。彼は入手したばかりのチェーンアレイバックルの武装を手に狼狽えている。
「…………」
なぜなら、パンクジャックは協調性0、独断専行なライダーだったからだ。
パンクジャックはメリーに押し付けられたシールドバックルを用い、単身突撃。協力を呼び掛けるメリーを無視して行動しているのだ。
「あーもう! 少しは話を聞けってッッ!」
メリーは自分勝手なパンクジャックに苛立っている。
パンクジャックはぬるり、と振り返るとメリーをじっと見つめる。心なしか、その仮面はメリーをあざ笑っているように見えた。
――――
「んっ……ブーストバックルね」
場所は変わってどこかの海岸付近。
タイクーンとバッファペア――緑谷と牛込はゲーム開始時に支給されたアイテムをチェックしていた。
「あっまただ……」
牛込はボックスからブーストバックルを取り出す。緑谷は再び先を越され、三度ブーストバックルの取得に失敗する。
「だから譲り合いはするなって言ったでしょ。あんたのは雑魚バックルなんだから」
本来、ブーストバックルは低確率出現の激レアアイテム。そのアイテムが目の前に現れながら取得できない緑谷は、運がいいのか悪いのかよくわからない状態だった。
「はは……癖っていうか、前に出れないっていうか……」
無個性であるがゆえ我を前面に出すことに慣れていなかった。
「そ。じゃこれはもらっておくわ」
牛込がブーストバックルをしまうと、ジャマトが姿を現す。ジャマトの姿はファンタジー作品に登場するトランプ兵のようであった。
――SET
「変身っ!」
「あっ作戦をッ――変身!」
協力しようと作戦会議を持ち掛ける緑谷だったが、牛込――バッファは話を聞かずに突撃していってしまう。
緑谷は仕方なく変身、ジャマトへと向かっていくのだった。
――――
ギーツ、ナーゴペア――エースと葉隠もまた配布アイテムを取得していた。
「ふふ。お帰り」
エースはボックスからマグナムバックルを取り出す。失格になったダパーンから回収されていたものが再び配布されたのである。
前の使用者の事を思い出したエースは思い切り顔を顰めた。
「よし、塩を振ってお清めしておこう。厄払いしなきゃ」
「……そんなことしたら壊れない?」
レイズバックルがどのようなものかはさておき、塩をかければパーツに挟まって誤作動を起こしそうだ。
「冗談だよ。さ、ターゲットのお出ましさ♪」
「わっ! 不思議の国の!」
――SET
葉隠はジャマトの見た目に驚きつつ、ハンマーバックルを装填。
エースもマグナムバックルを装填、手を狐の影絵のようにして前へ突き出す。
「「変身!」」
――MAGNUM
――ARMED HAMMER
迫るジャマトは4体。それぞれコミカルに左右へ揺れている。
――READY FIGHT!!
「さ、行こうか♪」
「オッケー!」
ギーツとナーゴはジャマトへ戦いを仕掛ける。
ギーツは左腕のアーマードガンを展開した2丁拳銃スタイルで、ナーゴは愚直にハンマーを振り回して攻撃する。
ジャマトは攻撃を受け転がっていく。トランプのような服が一瞬透過し、ハートのマークを浮かび上がらせる。
「――うん?」
「よーし、とどめっ!」
――HAMMER STRIKE!
ナーゴの必殺技を受けたジャマトは体を爆散させ、クラブのマークを浮かび上がらせる。
その後、何事もなかったかのように立ち上がると、再びコミカルに左右へ揺れ始める。まるで自分を斃せないライダーをからかっているかのようだった。
「えーっ!? 確かに当たったはずなのに……」
必殺技が効かず落ち込むナーゴ。
ギーツは斃された2体目を見て法則に気づく。
「ああ、そういうことね――ナーゴ、“神経衰弱”だよ」
「え……あ、そっか!」
第3回、デュオ神経衰弱のキモは文字通り“神経衰弱”だ。
2体1組のジャマトを同時に撃破しなくてはならない頭脳戦。
「よし、じゃ――」
ギーツは個性を発動、たった今確認した2体のジャマトへ狐火を付着させる。
「わっ便利~」
「ナーゴ、君は右のを確認して。私は左を」
「了解っ!」
法則に気づいた二人にもはや敵は無い。
意気揚々と戦いを挑むのだった。
――――
――
ジャマト達が撤収してしまったことでゲームは一時中断となる。
プレーヤーたちは一時サロンへ撤収し休息していた。
「まさか
緑谷はスパイダーフォンを確認し愕然としている。
「もう~あんなのってないよ~」
ジャマト撃破への法則に気づいたギーツ、ナーゴデュオ。
しかし相対した4体のジャマトはすべて違う
葉隠は思い切り不貞腐れていた。
「やっぱ何か法則があるんだ。今までと違ってデュオを組まされているから――」ブツブツブツ
「あ、それね――むぐっ」
考察を始める緑谷へ法則を教えてあげようとした葉隠だったが、それはエースによって阻まれる。
彼(?)は片目を閉じ人差し指を唇に当てている。
「私たちはお互いライバル。気軽に助けちゃだめだよ?」
「……はぁい」
そう、忘れがちだがデザイアグランプリの勝者はたった一人。理想の世界を叶えられるのはただ一人だけなのだ。
「――あ~もう最悪だッ!」
ソファーに体を預けて貧乏ゆすりをしているのはメリー――黄金。
彼は傍らに控えている
「声出しできないっても、少しぐらい協力してくれたっていいじゃないの――このっ!」
黄金は鬱憤を晴らすかのようにパンクジャックを小突く。
「…………」
「ウグッ」
パンクジャックも負けじとやり返す。
「たた……ったく、こんなことならパートナー交換してほしいもんだ!」
「――可能でございます」
ぼやく黄金の下へ現れるのはサロンのコンシェルジュ、ギロリ。
彼はタブレット端末をテーブルに置くと説明を始める。
「皆さまのゲーム内活動時間に応じて獲得できる“デザイアマネー”で“デュオ交換券”を購入することが可能でございます」
「おい……それは本当か?」
黄金はタブレットへかぶりつく。老眼なのか文字を拡大し、口角を釣り上げる。彼の所有するデザイアマネーで1枚購入可能だった。
「ご購入の際はお申し付けください」
ギロリは一礼すると、再びカウンターの向こうへと戻っていった。
――――
――
「まったく……あんな木偶の坊と組まされちゃ脱落まっしぐらだよ」
黄金はロッカールームで一人作戦会議をしていた。
他のデュオはジャマト討伐のために自主練をしていた。
「あいつと戦ってたんじゃ、絶対に法則通り敵を斃せないよねぇ……」
彼もまた、ジャマト討伐のためのルールに気づいた一人だった。
しかし相棒が非協力的過ぎてコンビプレーが不可能だったのだ。
「て、ことは……このゲームの本質は“神経衰弱”じゃない……」
ゲームのルールは神経衰弱のように2体1組のジャマトを協力して撃破するというもの。
だが数合わせとして出てきた運営側のライダーは協調性0、共に戦える相棒とは言い難い存在だ。
「“ババ抜き”だ」
パンクジャックという
押し付けられたプレーヤーは得点稼ぎすらままならなず、そうこうしているうちに他デュオが討伐しきってしまう。
つまりデュオ交換券はババを押し付けるために用意されているもの。たった一度だが、指定した相手とデュオを組むことができる。効果的に使えば勝利は固くなる。
「さーて、誰に押し付けようかなぁ♡」
黄金はほくそ笑んでいた。権謀術数は彼の得意分野(だと思っている)、このゲームで自分が脱落する可能性は無くなったといっても過言ではなかった。
――――
――
――デュオ交代。
黄金 誠三が使用したデュオ交換券によってデュオが交代、緑谷はパンクジャックとデュオを組まされることになってしまう。
「よっよろしくね……!」
「…………」
緑谷が手を差し出すも、パンクジャックは無言で緑谷を見つめる。
「えっと、今回のジャマトは同じ柄の奴を2体同時にたおさなきゃいけない。だから僕が指示を――」
ジャマトが出現し、パンクジャックは緑谷の話を聞かずに飛び出してしまう。
(っ話聞いてくれよッ!)
緑谷も慌てて変身、ボウガン――レイズアローでジャマトを撃ち抜きスートを確認、スペードが2体、ハートとダイヤが1ずつだった。
スペードのジャマトを同時撃破すれば得点が手に入る。だがパンクジャックは近くにいたジャマトを手当たり次第に攻撃しており、タイクーンの指示など聞き入れそうにない。
(っこうなったら――僕がタイミングを合わせるしかない!)
バッファ――牛込との討伐練習。二人の波長は絶妙にかみ合わず、同時攻撃など到底できていなかった。
(デュオ変わったから試せなかったけど――今はこれしかッ!)
そこで考え付いたのが、相手の攻撃に合わせて攻撃すること。遠距離攻撃可能なタイクーンは状況を俯瞰してみることが出来た。つまり、相方が攻撃を仕掛けたタイミングで自分も攻撃する。
相手が合わせてくれない以上、そうするしか道はなかった。
「…………」
「ッ今だ!」
――ARROW STRIKE!
パンクジャックがスペードの柄のジャマトを攻撃する。
それに合わせタイクーンは必殺技を発動、二人の攻撃が
「…………」
パンクジャックは『やるじゃないか』、と言いたげに振り返る。通常攻撃にも関わらず、同時撃破できたのは当たりどころがよかったおかげだろう。
タイクーンの装備するバンドには運気上昇の効果が付与されている。その恩恵を受けた形になる。
「やった……!」
タイクーンは安堵の息を吐きながら、変身を解除する。
緑谷は肩で息をしながらゲームの本質を悟る。
(このゲーム、きっとハズレキャラの押し付け合いが肝なんだ。だからデュオ交換券なんてものが――)
このままパンクジャックと組んでいても状況は好転しない。同時攻撃がクリティカルになんていう偶然、早々起きはしないのだ。
(問題は誰に押し付けるかだ……!)
――――
――
(やるねぇ……狸少年)
再びジャマトが撤退していった。
今回の撃破成績は各デュオ1組ずつ――それぞれ200ptずつ獲得していた。
黄金は神殿の通路で内心、冷や汗をかいていた。
彼の目論見では、パンクジャックを押し付けられた緑谷はポイントを一切獲得できず0pt終了。それを覆されてしまったのだ。
「くく……でも――その優しさが仇になるんだよなぁ♪」
黄金はロッカーの入り口付近の角に身を隠し、中から緑谷が出てくるのを虎視眈々待つ。
狙うはデュオ交換券。
緑谷がペア交換を決断し、ロッカーから出てきたところを奪い取るのだ。
「――……」ブツブツブツ
何やら独り言をつぶやきながら緑谷が姿を現す。
「――もらったぁっ!」
「わっ!」
黄金は緑谷から交換券を強奪する。
「っ返せ! ――返してよッ!」
「あたたっ! この、しつけぇガキだなっ」
しがみついて交換券を取り戻そうとする緑谷。黄金はそんな彼を足蹴にして引きはがそうとするも、何度蹴ろうともコバンザメのように張り付いて離れなかった。
「――このっ!」
「が……っ!」
黄金は両手を組んで振り下ろす。肩甲骨の間を打たれた緑谷はたまらず手を離した。
「っ返せよぉ……! 僕の、交換券……勝ち筋、なのに」
「わかってるっつーの。だから――」
黄金はとどめとばかりに緑谷を足蹴にし、交換券をビリビリに引き裂いてしまった。
「はーっはっはっ! これでお前はもうデュオを交換できないっ! 残念だったな!」
「――緑谷くんッ!」
偶然通りかかった葉隠は慌てて緑谷へ駆け寄ると黄金を睨み付ける。もっとも、顔が見えないため黄金には伝わっていなかった。
「ひどい……なんでこんなことッ!」
「あのさぁ透明人間ちゃん。これはシビアな生き残りゲームだよ? 勝ち残りたきゃ――手段は選べないんだよ!」
黄金は目論見通りに事が運び、高笑いするのだった。
――――
――
「これでいい……これでいいのよっ」
黄金と緑谷の乱闘を陰から見ていた牛込は、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
作戦は相方から聞かされていた。
万が一、緑谷がデュオ交換を目論んでいたら、交換券を奪って引き裂き、交換不能としてしまおう、と。
「……っ」
牛込は胸が痛むのを感じる。
打ちのめされむせび泣く緑谷の姿。交換券を引き裂いて高笑いする黄金。打ちのめされている緑谷を助ける葉隠。
「なんで……っ!」
胸が何かに握り締められているかのように痛む。
これでいいはずだ、と彼女は自分に言い聞かせる。
思いがけず知ってしまった緑谷の背景と彼の願い。
自分の願いとは重さがまるで違う――彼のことを応援してしまいたくなるような理想。
――『バッファローちゃんはよくわかってるなぁ! おじさん、君を選んで正解だったよ』
違う、お前のような卑劣な人間と同列に扱うな、と叫びだしそうになった。
これは甘い自分への戒め。
ちょっと相手の過去を知ったくらいで同情し、自分の
きっと、彼がこの先勝ち残れば、きっと自分は彼に勝ちを譲ってしまう。だから――ここで脱落してもらうしかない。
自分勝手な自分の
それでも――
(なんで……こんなに痛いのッ)
胸は締め付けられるように痛み続けていた。
「――見損なったよ。バッファ」
声をかけられ睨み付けるように視線を向ける。
エースもまた、騒動を聞きつけやってきていた。彼女を非難する彼(?)の目は鋭く、その狐耳は後ろに向かって倒れていた。怒りを抱いているのは明白だった。
「君は、誰ともなれ合わないが、正々堂々と戦う人だと思っていたよ。“こういう卑劣なやり方”は嫌いなんじゃなかったの?」
「……うるさいっ!」
牛込は叫ぶ。それは目の前のエースに対してなのか、自分の中の罪悪感に向けてなのか、もはや彼女にはわからなかった。
「大丈夫? 立てる?」
彼女の目に、葉隠の肩を借りながら立ち上がる緑谷の顔が目に入る。
目元は暗く、表情はよく見えなかったが――その頬には一筋の涙が見えた。
――『返してくれ……俺の――』
刹那、彼女の脳裏に幼馴染の顔が浮かぶ。
「……ムツキ」
それは目の前の緑谷の顔と重なり、彼女の心を大いに乱すのだった。
……嫌な奴を書いてると、イライラするんだなぁ(イライラ)
でもキャラを曇らせるのは楽しいですね♪