【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

54 / 66
お久しぶりです。
ギーツⅨによって二次創作欲がアフレデルゥ!!したためまたもやifルートを書き上げました。
ギーツ本編も間もなく最終話。それを回収できるような話にできればと思っています。

















ifルート:混沌編
Ex2-1 異変TU/パンクジャック:オリジン


――――

――

 

 ――これはあり得たかもしれない、もう一つの可能性の話。

 

 時は夏、雄英高校の1年――ヒーローの卵たちは来る林間合宿に向けて準備を進めていた。

 

「――じゃ15時に集合な!」

 

 1-Aの面々は県内最大級のショッピング施設――木椰子区のショッピングモールへとやってきていた。

 

「……あっつ」

 

 各々の買いたいものが分かれていたため集合時間を決めての自由行動をとっていた。

 エースは靴を買いたい葉隠、上鳴と共に靴屋をめぐっていたが――この日は記録的な猛暑日。

 半分屋外なショッピングモールは人の多さも相まって暑さの極みだった。

 

「暑いねぇ……」

 

 皆で遊ぶのは楽しい、気心の知れた仲間と買い物に行くことは非常に楽しいのだが――いかんせん暑すぎては楽しさも半減である。

 どうしても冷房の効いた室内へ逃げ込みたくなるものである。

 

「あ、あれは……」

 

 そんな暑さの中、上鳴はオアシスともいえるキッチンカーを発見する。

 

 ――かき氷。

 

 暑さの中で食べればたちまち回復する素晴らしいアイテムである。

 

「ふふ……買い物の前に、少し涼みたいね」

「さんせー」

「だな……」

 

 暑さに参っていた三人は吸い寄せられるようにキッチンカーへ向かっていく。

 

「おっと、失礼」

「……」

 

 少しふらついた拍子にエースはすれ違った男性と肩がぶつかってしまう。

 エースとぶつかった男性は振り返ることすらせずそのまま人ごみに紛れる。

 

「――んっ!?」

 

 数瞬遅れてエースはポケットの中が軽いことに気づく。

 財布を掏られてしまったのである。

 

「ん、どうしたのエースさん?」

「やられた……っ財布盗まれたッ!」

「ッマジか!」

 

 普段の彼女(?)ならばぶつかった瞬間に気づいていただろうが、この暑さである。気づくのが遅れてしまい不覚を取ったのである。

 エースはすぐさま男の消えていった方角へと駆けていく。

 葉隠と上鳴もまた犯人の行方を捜してくれていた。

 

「っ居た……!」

 

 エースは己の感覚を研ぎ澄ませすぐさま犯人を発見。犯人の男もまたエースが追ってきたことに気づくと慌てたように駆けだしていく。

 

「逃がさないッ……!」

 

 盗まれた財布は彼女(?)にとって大切なものである。今は亡き恩人、狐火 英寿からプレゼントされた物であり、他の何にも代えがたい物だった。

 中身以上に外側、財布そのものが彼女(?)にとっては大切なものであった。

 

「くそ……っ! しくじった! あと少しだったのに――」

 

 盗人は時折エースの方を振り返りながら群衆を縫うようにして逃走する。

 

「ど、どけっ!」

「おっと――」

 

 ()()()()()を押しのける盗人、そのまま逃走を続けようとするも盗んだ財布がなくなっていることに気づく。

 

「へぇ? “触れた人の身に着けている物を手元に引き寄せる”個性か。いい個性だね」

 

 金髪の少年――物間はいやみったらしい笑みを浮かべたまま盗人から盗み返した財布を弄んでいる。

 

「ま、僕の個性ほどじゃないけど」

「……っパンクジャック?」

 

 数瞬の後にたどり着いたエースは物間の姿を見つけ、驚きに目を見開いている。

 

「おやおや。これはデザ神サマじゃないか! こんなところで出会うなんて……」

 

 気が付けば盗人は人ごみに紛れて逃げおおせていた。

 物間は盗み返した財布とエースの顔を交互に見つめ、事情を理解する。

 

「アハハ! そういうことか! デザ神ともあろう人が不用心だねぇ!」

 

 彼はここぞとばかりにエースを煽り始める。

 

「よかったじゃないか。盗まれたのが財布でさぁ! ――ドライバーを盗まれたら一大事だ」

 

 エースは狐耳を後ろに倒して不快感をあらわにする。

 

「……返してくれないか、それは私の大切な物なんだ」

「へぇ? このボロボロな財布が」

 

 物間はニヤニヤと笑いながら策を巡らせる。

 期せずして手に入れたライバル(ギーツ)の大切な物。ただ返してやってもいいが、それではつまらない。

 

「ま、君に返してやってもいいけど――取り返してやったんだからお礼の一つくらいしてくれてもいいんじゃないかな?」

「……お礼?」

 

 彼は笑みを消すとエースに迫る。

 

「――君の持ってるバックル全部と交換、でどうかな?」

「っ!」

 

 バックルと交換、つまりエースは今後エントリーフォームにしか変身できないことを意味する。

 デザグラの参加者としてはあまりに重すぎる“お礼”にエースは顔を思い切り顰める。

 

「……なんて、ね。僕だって本気じゃ」

「はい」

 

 冗談だ、と肩をすくめた物間にエースはニンジャバックルとフィーバースロットバックルを差し出す。

 

「……本気かい? ああ、個性で僕を化かそうってわけか! その手には乗らな」

「そんなことはしないさ。ほら、早く返してよ」

 

 エースは押し付けるようにバックルを物間へと渡し、ひったくる様に財布を取り戻す。

 予想外の展開に物間は呆然としながら手元のバックルを見つめている。

 

「よかった……っ!」

 

 そんな物間の様子など一瞥もせず、取り戻した財布を胸に安堵の表情を浮かべるエース。それは普段の不敵で自信に満ちたそれとは違い、年頃の少女のような、無垢な物だった。

 

「……君も、そんな表情(かお)するんだ」

 

 物間の胸に得も言われぬ罪悪感が広がっていく。自分はエースの大切なものを――それも普段の彼(?)の仮面を引きはがすような大切なものを交渉の材料に使ったのだ。

 良心が咎められ、針で突きさされているかのような痛みが走る。

 

「……ッ」

 

 エースの頬が赤くなる。

 “素の自分”を見られて気恥ずかしくなったのだ。

 

「少し、君に興味が湧いたよ――少し、話さないかい?」

 

 物間はベンチの方を顎でしゃくる。

 

「……どうして君と話さなきゃいけないんだい? こう見えて、私は忙しいんだけど」

「あ、そう。デザグラのスタッフしか知らない裏話でもしようかと思ってたけど、忙しいなら仕方ない! ああ残念! 折角話す気になったっていうのに」

 

 物間の切り出したカードはエースの欲しくてやまなかったもの。

 

 ――デザグラの秘密。

 

 デザグラの存在しない世界を目指すエースにとって必要不可欠の情報だった。

 

「じゃ、次のゲームで」

「待ちなよ。忙しいとは言ったけど、君と少し話すくらいの時間ならあるさ」

「……そう来なくっちゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 皆と出かけたはいいものの、一人出遅れた緑谷は一人さみしく買い物をしていた。

 

(せっかくみんなと出かけたのに……)

 

 彼はスポーツ用品店のトレーニング器具のコーナーでウェイトリストを購入すると、当てもなくモールを散策していた。

 休日ということもあり、モール内は家族連れを中心とした人々で賑わっていた。

 猛暑にも関わらず子供は元気で、対照的に大人たちは暑そうにハンカチで額の汗を拭い、配布していたうちわであおいでいた。

 

「……あ」

「……あら、奇遇ね」

 

 緑谷は見知った顔に足を止める。

 暗い茶色のセミロングの髪、額には牛のような角。表情はどこか気だるげだが、顔立ちは整っていることがうかがえる。

 服装はノースリーブのシャツにホットパンツ、足元はサンダルという少々露出が高かった。

 

「き、奇遇ですね、バッ……牛込さん」

 

 緑谷はデザグラ参加者――仮面ライダーバッファ、牛込 茜を前に照れたようにお辞儀する。

 

「……あんたも買い物?」

「はい。クラスメイトと来たんですけど……気が付いたらこんな状況になっていたというか」

「……ふーん」

 

 牛込はポケットから棒付きのキャンディを取り出すと、包み紙を乱雑に剥ぎ取り口に放り込む。

 

「牛込さんも、お買い物ですか……?」

 

 緑谷は恐る恐ると言った風に問いかける。以前なれ合うのは好きでないと語っていた彼女に対してプライベートの詮索はよくないのではないか、そんな考えが頭をめぐるがつい口に出ていた。

 

「ん。そんなとこかしら? あたしの家、エアコンないのよね。だから買い物ついでに涼みに来たってとこ」

「エアコンが……! 大変じゃないんですか?」

「基本バイトで家いないからいいのよ。それに電気代かかるから使えないし」

 

 なれ合いが好きでないと言っていた牛込だたが、緑谷の質問には快く答えている。

 気が付けば話に花が咲き、その場で話し込んでしまっていた。

 

「――それでオールマイトが」

「もうオールマイトはいいわよ。本当に好きなのね」

 

 雄英の生活について聞いていたはずが、気が付けばオールマイトのオタク語りになっていることに苦笑する牛込。

 

「い、いやぁ……憧れなもので。お恥ずかしい」

「――あ、あの! 雄英の人、ですよね?」

 

 そんな中、緑谷に一人の少女が話しかける。

 

「体育祭見てました! かっこよかったですっ!」

「あっえっっと……ありがとうございま」

 

 照れながらもお礼を言おうとした緑谷は、少女の容姿を見て固まる。牛込もまた、驚いたように目を見開いている。

 

「……()()()()()?」

 

 艶のある黒のロングヘア、かわいいというよりは美人という表現がふさわしい整った顔立ち。

 その容姿はデザグラのナビゲーター、ツムリと瓜二つであった。

 

「へ? 違いますけど……」

 

 少女は不思議そうに首をかしげている。

 よく見れば服装もどこかの制服姿で、ツムリとは全くの別人であることが分かる。

 

「ッッで、ですよねっ! し、しし知り合いに似ていたものでっ……!」

「は、はぁ……」

 

 ツムリ似の少女は戸惑った様子だった。

 

「……驚いた。あんた本当にツムリじゃないのね」

「え、ええ……私は浮世(うきよ) 作世(さよ)っていいます。あだ名でもツムリなんて言われたこと……」

 

 ツムリ似の少女――作世(さよ)は困ったように微笑んでいた。

 

「そっかぁ……私のそっくりさんかぁ……どんな人なんです? そのツムリさん、って人」

「えっと……そうだな……ミステリアスというか、とらえどころがないッていうか」

 

 緑谷はツムリの事を思い浮かべる。

 常に冷静沈着、微笑を絶やさずゲームをナビゲートする女性。

 

「ミステリアス……ふふっ! 私とは真逆……もしよかったら、今度ツムリさんに会わせてください」

 

 作世(さよ)は会釈すると踵を返す。その瞬間、彼女の体が強張る。

 

「――あれw 無個性女じゃんwww」

 

 彼女の視線の先には薄ら笑いを浮かべた少年の姿がある。少年は世の中を舐め切ったかのような生意気な顔つきで、それでいて端整な顔立ちであった。

 

「っ……うわっ……伴野

 

 少年の正体は、かつてデザグラで緑谷たちと争ったダパーン――伴野 優太だった。

 伴野は作世(さよ)のつぶやきが耳に入ったのか、露骨に顔を顰める。

 

「は? 何呼び捨てにしてんだよ……無個性は礼儀も知らねぇのかよwww」

「……っ」

 

 作世(さよ)は嫌がるように後ずさり、伴野は小馬鹿にしたようなにやけ顔で距離を詰める。

 

「逃げんなよw 別に怒ってないからさwww 土下座して謝ったら許してやるからさwww」

「――っ嫌がってるじゃないですか……!」

 

 そんな二人の間に緑谷は割って入った。

 

「うっわw ワンチャン狙いの勘違いオタクキッツwww アニメの見過ぎwww」

 

 デザグラで敗退した者は記憶を抹消される。そのため伴野は緑谷の事を覚えていなかった。

 その上、彼は雄英体育祭など当然未視聴。緑谷の顔など知らなかった。

 

「……お二人の間に何があるのか知らないですけど、これ以上は見過ごせないです」

「わぁかっこいーwww ……俺に命令すんじゃねぇよ殺すぞ」

 

 伴野はこれ見よがしに拳を掲げ、関節を鳴らして威嚇している。

 隙だらけで何度も先制するチャンスを与えるだけだったが、一学生である緑谷が手を出すわけにもいかず出方を伺っていた。

 

「ほら! 泣いて謝るなら今のうちだぞwww」

 

 伴野は大きく拳を振りかぶる。まるでその隙を突かれることなど夢にも思っていないようだった。

 

「ッ」

 

 緑谷はそんな隙だらけの右ストレートを容易く受け止める。

 職場体験で()()()()の相手は何人も相手してきていた。それ以前に――デザグラで対峙するジャマトは比べるまでもない。

 個性など使わずともあしらうことは容易いのである。

 

「……ヒーロー、呼びますよ」

「は? なんで俺が悪者になってるワケ? 悪いのはそこの礼儀も知らねぇ無個性女だろうがッ!」

 

 伴野は冷静になるどころか怒りをヒートアップさせている。

 

「ってかなんで受け止めてんだ素直に殴られろよクソがッ!」

「――あんたバカなの?」

「ッ!?」

 

 左の拳を振りかぶった伴野の顔面に牛込の張り手が命中する。

 彼女は傍観を決め込んでいたが、見るに堪えかねて横やりを入れたのだ。

 

「さっきから聞いてれば、全部あんたの逆ギレじゃない……勝手に絡んで勝手にキレてって、いい迷惑よ」

「……ッ顔だけしか取り柄のない無個性女が可哀想で声かけただけだっての! 俺の何が悪いか言ってみろよッ!」

「皆まで言わせる気?」

 

 牛込は伴野の胸倉を掴んで持ち上げる。その額には青筋が浮かんでいた。

 

「……オールマイトは、“余計なお節介はヒーローの本質”って言ってたけど……貴方のお節介は本当に余計だし迷惑なだけだッ!」

 

 緑谷もまた、無個性であることを理由に差別する伴野の態度に怒りを抱いていた。

 

「……ッ離せよ! マジムカつく」

 

 伴野は何も言い返せず、牛込の手を振り払うとそのまま退散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――さて、と。何から話そうか」

 

 ベンチに腰掛けたエースと物間。

 物間は芝居がかった仕草で問いかける。

 

「……君達は何者なのか、デザグラの本当の目的は何なのか……話して欲しいことは山ほどある」

「そう急かすなよ。時間はいくらでもある……僕たちは何者なのか。少なくとも()()この世界の人間さ」

 

 含みのある言い方にエースは怪訝な表情を浮かべる。

 

「君以外はこの世界の人間ではないかのような言い方だね」

「察しがいいね。僕はこの世界の人間だが――ツムリやギロリ、上層部の人間は違う世界……四次元世界の人間、らしい」

 

 物間は信じられない、と言ったように肩をすくめる。

 

「彼らはこの世界の遥か未来――それこそタイムパラドックスの影響を受けないほどの未来の人間だ。彼らは過去の世界へ赴き、その時代の協力者(スポンサー)を獲得しデザイアグランプリを開催する。僕みたいな末端のスタッフはスポンサーに仕事を斡旋されてるってワケ」

 

 デザグラ運営は遥か未来の存在だが、訪れた時代のルールに従うという決まりがある。

 彼らはその時代の有力者に理想の世界(見返り)を提示し、その協力を取り付ける。

 そうして手に入れた基盤を元にデザイアグランプリは開催されるのである。

 

「……なるほどね。つまり君は使い捨てのコマってワケだ」

「使い捨てなんかじゃないさ。確かに今回は君を蹴落とすためだけにエントリーした。願いだって書いてないしね」

 

 物間がデザイアカードに書いた理想の世界は――“希望無し”。

 あくまでギーツを、エースを蹴落とすためだけの存在であるがゆえに、万が一勝ち抜いても何の理想も叶えるつもりがないのである。

 

「たとえ最後まで勝ち残れなかったとしても、リタイア後にIDコアを届けてもらう手はずになってる。今後も僕は運営に携われるのさ」

「ふふふっ……」

 

 エースは思わず笑いをこぼしていた。

 

「何が可笑しいんだい?」

「本当にその約束を信じてるのかい? だとしたら……君は相当間抜けだね」

 

 エースは笑顔を消すとじっと物間の方を流し見る。

 

「連勝を続ける私のことが気に入らないからと蹴落とそうとしている運営が、約束を守ってくれると本気で信じているのかい?」

「……ッ!」

 

 物間は考えないようにしてきたことを指摘され、顔を強張らせる。

 

「……守るさ。君はゲームマスターの事を知らないだろ? この世界を本気で守ろうとしてる人間だぜ? きっと約束を守ってくれるさ」

「……わかってないのは君の方さ」

 

 エースは懐から古びたオールマイトカードを取り出す。

 かつての恩人の忘れ物。助けてくれた少年の事を思い出しながらエースは続ける。

 

「本気で世界を守りたいなら、プレイヤー全滅のシーズンなんか起きるはずないだろ。私は運営の事なんてこれっぽっちも知らないけど、これだけは言える――奴らに世界を守る気なんてない」

「……言うじゃないか」

 

 物間の心に突き刺さった“正論”は彼がどれだけ否定しようとも抜けることは無かった。

 それは心の奥底に押し込めておいた疑念をほじりだし、考えないようにしていた顛末を見せつける。

 

 ――いいように使われ、都合の悪いことを知っている物間(パンクジャック)はお役御免。

 

 どんなに否定しようにも、再び湧き上がった疑念の火は燃え上がり続ける。

 

「……例え君に何を言われようとも、僕は君を蹴落とす。それだけさ」

 

 物間は悔し紛れに空を仰ぐ。

 一度走り始めた以上、途中で止まることもできない。

 彼はエースから譲り受けたニンジャバックルを手に取り、そっとそれを傍らに置く。

 

「……今日は話せてよかったよ。おかげで君の原点(オリジン)が見えた気がするよ」

「へぇ?」

 

 物間はゆっくりと伸びをしながら立ち上がり、エースを一瞥する。

 

「とどのつまり、君は復讐者ってワケだ。デザグラに大切な人を奪われたから、デザグラの全てに復讐をしようとしている」

「……もしそうだと言ったら、君はその言葉を信じるのかい?」

 

 エースは不敵に微笑む。真意を仮面の奥に隠し、本音を悟られぬように取り繕う。

 物間はその意図を察し、片頬を釣り上げる。

 

「……ああ、そうそう。例えば僕が忘れ物をしていたとして、不敗のデザ神サマは盗み取るなんてせこい真似はしないよねぇ?」

 

 そして煽るかのように笑いながら人ごみへ紛れていった。

 

「……案外、優しんだね。君は」

 

 エースはベンチに()()()()()ニンジャバックルを手に取ると、静かに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――さっきはありがとうございました。彼、クラスメイトなんですけど……いつもああやって私に絡んでくるんです」

 

 伴野がいなくなって後、作世(さよ)は申し訳なさそうに緑谷と牛込に謝る。

 

「私が無個性だからって、それだけで下に見て。さっきみたいに誰かが止めようとすると、ああやって逆ギレして……だから、学校では誰も助けてくれなくて……」

「ッ無個性……」

 

 緑谷はなぜだか胸が痛んだ。

 彼もかつては個性がなかった。それゆえ幼馴染の爆豪からいじめられていた経験がある。だが作世(さよ)とは異なり緑谷は紆余曲折あって個性を手に入れるに至った。

 同じ境遇でありながら救われた緑谷は、作世(さよ)にかける言葉が思いつかなかった。

 

「だから、私、“無個性の少年がよみがえらせた”って記事に衝撃を受けました」

「えっ」

「私、あなたのファンなんです――()()()()

 

 かつて、自分を変えようと始めた海岸の掃除。

 それはやがてオールマイトに見初められる結果となり、そして無個性の少年の偉業として有名となった。

 ハンディキャップにめげずに努力し続けた少年――一時期、緑谷はネットの片隅で有名人となっていたのだ。

 

「私と同じ無個性なのに、それでも努力して……本当にすごいことだと思います」

「あっ……と、その」

 

 作世(さよ)は緑谷の手を取り、両手で握り締める。

 

「これからも応援してます。絶対に、すごいヒーローになってくださいね!」

「~~っはい!」

 

 緑谷は歓喜で胸がいっぱいだった。

 ちっぽけなことかもしれないが、オールマイトに比べれば些細な活躍かもしれないが、それでも一人の少女の心を救っていた。

 そのことがたまらなく嬉しくて感極まっていた。

 

()()()()も、ありがとうございました! とってもかっこよかったです」

 

 作世(さよ)は牛込の方に向き直ると満面の笑みでお礼を言う。

 だが牛込が緑谷の恋人であると盛大に勘違いしており、それは緑谷の心を大いに惑わせた。

 

「あっいやいやっ! この人は彼女じゃ」

「それじゃあ、また縁があればお会いしましょうね!」

 

 否定する間もなく作世(さよ)は去って行ってしまう。

 緑谷は間違ったうわさが広がるのではないかと肝を冷やしていた。

 

「ど、どうしよう……誤解解けなかった」

「……ま、言いふらすような子じゃないと思うけど」

 

 牛込は呆れたように肩をすくめている。

 

「……勘違いついでに、本当の恋人になってあげてもいいけど?」

「えっ! ええ!? いやそんな」

「冗談よ。本気にするなっての」

 

 彼女は緑谷の額を小突く。

 その頬は心なしか紅潮しているようだった。

 

「気にするなら、彼女の一人ぐらい作ったら?」

 

 牛込はからかうように笑いながら人ごみへ消える。

 

「……な、なんだか釈然としない」

 

 一人取り残された緑谷は、憮然とした表情で佇むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 胸が高鳴っている。

 頬が熱くなっているのは、決して気候のせいだけではないだろう。

 

「……何喜んでんのよ……バカみたい」

 

 どうしようもなく切なくなるこの気持ちを、彼女は知っていた。

 これはきっと――

 

「……あるわけないでしょ……年の差考えろ~……」

 

 その気持ちに蓋をするように、彼女は呟いた。

 決して抱いてはいけないと、戒めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――デザイア神殿。

 

「――名無しの狐。これで貴様は終わりだ」

 

 ゲームマスター、ギロリは次のゲームの企画が完了しほくそ笑む。

 その名も“椅子取りゲーム”、椅子取りとは言っても奪い合うのは“ライダーの椅子”。

 制限時間内にジャマトに奪われたドライバーを奪還できなければ即脱落。万が一エースがドライバーを入手できそうな状況ならばゲームへの介入も辞さない構えだった。

 

「……これはまた露骨なゲームだ。気づかれたらどうするんです?」

「パンクジャック。私に意見したいなら自分の仕事を全うしろ。私の我慢も長くは続かないぞ」

 

 諫めるような物間の言葉を受け、ギロリは不機嫌そうに返す。

 

「仕事、ねぇ……」

「そうだ。忘れたとは言わせないぞ」

 

 パンクジャックは逡巡するようにドライバーを見つめる。ソケットに収められたオレンジのコアには、クマを思わせるアイコンが――パンクジャックのアイコンが刻まれている。

 

「本当に、ギーツを蹴落とすつもりで?」

「何度も言わせるな。なんのためにお前をエントリーさせたと思っている? 己の私服を肥やすために勝ち続けているギーツを探り、場合によっては排除させるためだ」

 

 ギロリはサロンのコンシェルジュとしてプレイヤーの情報を探っていた。

 ゲームマスターとして、誰が勝ちぬけるにふさわしいか見定めるために。勝ち抜けてはいけない者をさりげなく蹴落とすために。

 

「……私腹を肥やす、かぁ……僕にはそう見えなかったけど」

「お前の意見は求めていない。黙って私の指示に従え」

「……つまり、それは“やらせ”をしろと――そういうことですね?」

 

 物間の探るような視線を受け、ギロリはわずかにたじろく。

 

「そうなるな。だがこれは健全なデザグラのためだ。やむを得ん」

「……成程……どう思います? ()()()()()()()?」

「――断じて許されることではない」

 

 どこからともなくプロデューサーのニラムが姿を現す。

 

「ッニラム!? なぜここに」

「……確かに聞かせてもらった。ゲームマスターによる参加者への八百長(やらせ)の指示」

 

 ニラムは残念そうに眼を伏せている。

 

八百長(やらせ)などフィクション以外の何物でもない。もはや君にゲームマスターを任せるわけにはいかない」

「ッバカな……! なぜ」

「アハハハハ! 察しが悪いぜゲームマスター。そんなの僕が()()()()からに決まってるだろ?」

 

 狼狽えるギロリを笑う物間。

 その顔は憑き物が落ちたかのような、晴れやかな表情だった。

 

「僕は、僕自身が主役になれると思ったからスタッフになったんだぜ? 脇役(モブ)同然の捨て駒になんてなってやるかよ」

「……心情(リアル)を見誤ったな。最も、平然とフィクションを作ろうとする奴に理解できるとも思えないが」

 

 四面楚歌の状況にギロリは一歩、また一歩と後ずさる。

 

「ッ私はギーツのくだらない欲望から世界を守ろうと」

「いいじゃないか。欲望(それ)もまたリアルだ」

 

 ニラムは捉えどころない笑みでギロリへ迫る。

 

「ッ待て! ジャマトは今想定以上の進化を始めているんだぞ! 私以外の誰に、この状況が仕切れるって言うんだ!」

「……君の変わりはいくらでもいる」

 

 ニラムが指を弾くと、ギロリの体が消滅する。

 やらせ(フィクション)を肯定するゲームマスターなど不要――それがニラムの下した結論だった。

 

「……ご愁傷様」

 

 物間は声もなく消えていったギロリを鼻で笑う。

 当然の報いだ、と言わんばかりの態度だった。

 

「プロデューサー。告発の見返りというわけではないけど、一つお願いが」

「……言ってみたまえ」

 

 ニラムは掌をゆっくりと重ね合わせる。笑顔を浮かべていたが、その目は笑っていなかった。

 

「僕のデザイアカードを書き直させて欲しい。あれはギロリに強要されて書いたものなんだ」

「いいだろう。改めて君のリアルを書くといい」

 

 物間は手渡されたデザイアカードに“理想”を書き記す。

 

 ――“僕が主役となれる世界”

 

 芽生えた個性は“模倣(コピー)”という他人(しゅやく)ありきの能力だった。

 生まれながらに脇役を宿命づけられたともいえる。

 だからこそ、彼は主役であることにこだわった。

 誰かの人生の脇役ではない。自分自身の人生の主役である、と。

 

 ――『これはお前にしか頼めないことだ』

 

 親戚の資産家からやってきたデザグラスタッフの仕事。

 つつがない運営を手助けするために個性がうってつけであると。

 だがそれは誰かの人生の脇役(うらかた)になると言っても過言ではなかった。

 それでも、彼は主役になれると信じていた。

 

「僕は主役にはなれない――()()、ね」

 

 だが時に、主役を喰うほどの活躍をする脇役もいる。

 総じて、主役を喰った脇役は、やがて主役へと成り代わるのである。

 

「待ってろよ、ギーツ。主役の君を喰うほどの活躍をしてみせるからさぁ!」

 

 更新されたデザイアカードを手に、物間は高らかに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――クソッ! ふざけやがって……!」

 

 伴野は鈍く痛む顔を押さえながら炎天下を歩いていた。

 すれ違う人は難癖をつけられぬよう、大きく距離を取って迂回している。そのことが彼のプライドを大いに刺激する。

 

「今度会ったら容赦し」

 

 そんな彼に相対する少女が一人。

 いや、本当に少女なのかは定かではなかった。ピンクのメッシュが入った黒髪のロングヘアにゴスロリ風の衣装。何かを隠すかのような濃い化粧のせいで、年不相応に大人びて見える。

 

「アハハ! いい不幸(かお)ね♡」

「あ? ぶっ飛ばすぞ」

 

 少女は愉快そうに笑いながらゼリービーンズを口に運ぶ。そしてポケットから白のIDコア――パンダのようなアイコンが刻まれたダパーンのIDコアを取り出す。

 

「あら怖い♡」

 

 少女――ベロバはIDコアを伴野へ放る。

 コアが伴野の手に触れた瞬間、彼は全てを思い出す。

 

「……ッ!」

「ねえ、私と一緒に楽しいこと、しない?」

 

 全てを思い出して混乱している伴野を見たベロバは、悪魔のような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















※TU ... Turning Point(転換点)

本編、ifルートその1でも無様にリタイアしてしまった物間パンクジャックのオリジンでした。オリジンを思い出したことで彼の生存ルートが見え……見えたのか?
プロット次第にはなります。
本ifルートはサブタイトルの通り「異変」編からの直接分岐になります。ですが本ルートではAFOが関わらないルートになります。
ですので恐らくきっと、鬱展開になります。あしからず。
展開を見つつ書いていくので更新速度に関しては期待しないでいただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。