【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-2 異変T/崩壊の予兆

――――

――

 

 ――林間合宿3日目。

 

 如何に雄英がスパルタと言えど、頑張る者には報酬が与えられるものである。

 日中の過酷な訓練に耐えた卵たちに待っていたのはレクリエーションという楽しみであった。

 クラス対抗肝試し大会、それぞれのクラスが互いに相手を驚かせ合い、より相手を驚かせた方が勝利――勝ち負けがあるわけではないが、対抗となれば相手の上を行きたいというのが人情である。

 

 

「――お、俺達にもアメを! さ、サルミアッキもいいからアメを」

「サルミアッキ美味いだろ」

 

 ただし、楽しみを得られるのは優秀な者のみ。期末試験で赤点を取った者達は補講を受けることになったのである。

 先行の驚かせ役はB組、彼らは準備のため一足先に森の中へと足を踏み入れる。

 

「――あ」

「あ”!?」

 

 A組の者達は共に肝を試すペアを決めるべくくじを引いた。

 その結果に皆が一喜一憂する中、緑谷のペアは――爆豪だった。

 

「チッ……よりによってテメエかよ」

「うん……よろしく、かっちゃん」

 

 友好に進めようとする緑谷だったが、爆豪は気に入らないとばかりにそっぽを向く。

 

「ね、そんなに嫌なら私とペア交換しない?」

 

 ここぞとばかりに葉隠は爆豪に交渉を仕掛ける。

 

「ダメにゃん♪ ペアの交換はナシ! 恨むなら自分のクジ運の無さを恨むにゃん」

 

 葉隠に限らずペア交渉が発生していたため正式にピクシーボブから禁止のお達しがされる。

 

「そんなぁ……」

「……俺と組むの、嫌だったか?」

 

 ペア交換ができずに落ち込む葉隠。そんな彼女を見たペアの轟はどこか悲しそうな表情を浮かべている。

 

「っ違うよ? 嫌ってワケじゃなくて、その……なんというか……」

「?」

 

 弁明しようとしている葉隠を見て轟は疑問符を浮かべている。

 人の感情の機微に疎い彼は葉隠の様子から真意を察することができなかった。

 もしこの場に芦戸がいればあることないことを恋愛にこじつけられたのだろうが、残念ながら彼女は補習中である。

 

(ペア、変わってもらいたかったな……)

 

 ペア交換禁止令を受けてがっかりしているのは葉隠だけではなかった。

 緑谷は爆豪と共に肝を試すことに、若干の気まずさを感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 ――ジャマーガーデン。

 

「キッショ……何だここw」

 

 ベロバの手によってデザグラの記憶を取り戻した伴野は、彼女に連れられジャマトの育成場――ジャマーガーデンへ赴いていた。

 

「ここはジャマトを育成する農園よ」

 

 ベロバはビニールハウスの片隅、退場者の遺品が積まれている区画からデザイアドライバーを取ってくる。

 

「はい、これであなたも仮面ライダーよ♡」

「ははw なんだ、運営とジャマトはグルだったんだwww」

 

 ――ENTRY

 

 伴野は意気揚々とドライバーにコアを装填し、腰へ装着する。

 

「あら、悪いのかしら?」

「別にw 願いを叶えてくれるなら何でもいいよwww」

 

 そして伴野は最速するように手を出す。

 

「ほら、早くカード寄越せよ。俺の願いを叶えてくれるんだろ?」

「せっかちな坊やね。物事には順序ってものがあるのよ」

 

 呆れたように肩をすくめてみせるベロバ。

 バカにされと感じた伴野は露骨に顔を顰める。

 

「は? 俺を騙したのか?」

「アハハ! 今すぐ願いが叶えられるなら私が叶えてるわ。私たちは――今から“女神”を奪って、思うままに世界を叶えるのよ♡」

 

 デザグラ運営の持つ“理想の世界”を叶える力の根源。

 “創世の女神”と呼ばれる存在の力によって優勝者の理想の世界を叶えることができるのだ。

 

「……んだよ。めんどくさw ま、俺の力が必要ってのは悪い気しないけどなwww」

 

 伴野は頼られたのが嬉しいのかまんざらでもない表情で農園を歩く。

 そして目の前に垂れてきたジャマトの幼体の前で立ち止まる。

 

「ははっw ほんとキショいなwww これが、あのジャマトになるとかw」

 

 伴野は気味悪そうに幼体を引きちぎるも、ジャマトの頭部に手足が生えたかのような見た目に気味悪がって地面に捨てる。

 

「もっとマシなデザインなかったのかよw センスねーなwww」

 

 そして幼体を足蹴にしてニヤニヤと笑っている。

 

「――んなっ! 何をするんだ!!」

 

 傍若無人な伴野のふるまいに憤るのは農園の主、アルキメデル。

 彼は伴野を突きとばすと足蹴にされた幼体をいとおしそうに抱きかかえる。

 

「……うっざ。腐るほどいるんだから別にいいだろw」

「ベロバ様ぁ! なんなんですかこの男はっ! 私の愛しいジャマトを……!」

「アハハ! いいじゃない。このくらい突き抜けてる方が、いい不幸を生んでくれるものよ♡」

 

 助けを求めるアルキメデルだったが、ベロバは取りつく島もなかった。

 

「それで? アンタはどうやって女神サマを奪うのかしら?」

「……簡単さ」

 

 伴野の個性は“万能”――文字通りなんでもそつなくこなすことのできる優良な個性。

 それ故彼は人生で一度も努力をしないままでもそれなりに優秀だった。

 裏を返せば努力せずとも1番に()()()()()()()。両親から溺愛されたこともあいまって彼は幼児的万能感の抜けきらないまま大人となってしまった。

 彼自身、味わってきた挫折を“本気を出してこなかった”と他人のせいにし変わる機会をことごとくふいにしてきた。

 

「これがあんたの言う通り、“ショー”だっていうならさ、不祥事は防ぎたいよなw」

 

 だがデザグラが彼を変えた。

 デザグラの記憶を失ったうえで、自分を蹴落とした者達に再び立ちはだかられた。その事実は彼に怒りを抱かせ、その全才能を用いてでも仕返しをせんという“目標”を与えた。

 万能の個性がその本領を発揮し始めたのである。

 

「例えば……ショーの人気者が、ゲームでもないところで死ぬ、なんて事態が起きそうなら――」

「いいじゃない♡ 気に入ったわ」

 

 伴野のたくらみを理解したベロバは、いやらしい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

「――く、悔しい……っ!」

 

 クラス対抗肝試しは大いに盛り上がっていた。

 

「驚かせるのは私の専売特許なのに!」

「そうなのか?」

 

 見事に驚かされている葉隠はなぜだか悔しそうな雰囲気をにじませていた。

 

「つっ、次は絶対に驚かないもんね!」

「……おう」

 

 意気込む葉隠のせいで冷静になってしまう轟。表情に変化は少ないが、彼自身楽しんではいるようだった。

 

「――ジャ」

「へ?」

「ん?」

 

 そんな二人の前に現れたのは――ジャマト。

 刀を持ったポーンジャマトが森の中を闊歩していたのである。

 

「ッ!?」

 

 数瞬遅れて警戒態勢になる葉隠。幸いにもドライバーとバックルは携行しており、轟さえいなければ即座に変身できる状態であった。

 

「……何だ? これもB組の奴の個性か?」

「ダメッ! 個性じゃないよっ!」

 

 無警戒な轟を手で制する葉隠。その表情はうかがえなかったが、険しい物であることは声色から推察できた。

 

「ジャァ……」

 

 二人を発見したジャマトはドライバーとジャマトバックルを取り出す。

 

「ジュラ、ピラ……ヘン、シン」

 

 ――Jyamato

 

「姿が変わった!?」

 

 ジャマトが変身したことでようやく目の前の存在が“敵”であると認識した轟は、即座に個性を発動しジャマトライダーを氷漬けにする。

 

「……ヴィランか? だがここのことは先生たちとプッシーキャッツしか知らないはずじゃ」

「っ他にもいるかも! 早く先生たちに」

 

 葉隠はすぐに戻ろうと試みるも、遠くの木陰からボウガンのような武器――レイズアローが覗いているのが目に入る。

 

「危ないッ!」

 

 彼女が轟を突き飛ばしたのと矢が放たれたのは殆ど同時のタイミングだった。

 矢は葉隠の肩を掠めるように飛んでいき、ジャマトライダーを閉じ込めていた氷を破壊する。

 

「大丈夫か葉隠!?」

「へ、平気……かすっただけだよ」

 

 葉隠は傷口を押さえるも、手のひらの向こうは赤く血で滲んでいる。

 

(っ変身しなきゃ……でも、轟くんの前で変身したら)

 

 デザグラ参加者には守秘義務がある。

 故にゲームの範囲外でみだりに変身することは叶わないのである。

 

「……ジャ、ジャア……」

 

 氷を割られたことで解放されたジャマトライダー。レイズアローを構えた個体と合わせて2体となる。

 いくら轟が実力者であったとしても、相手が悪すぎた。

 

(迷ってる場合じゃ、ない!)

 

 意を決した葉隠はドライバーを装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ――宿舎前。

 

 数十人が滞在するとなれば、その分食料を含めた備品が必須となる。

 いくら秘密厳守と言えども、物資補給のために業者が出入りする。

 

「……今日の納品です」

 

 ドライバーのバイトをしていた牛込は期せずして合宿所への配送を担当することとなっていた。

 

「おや、お前さんは」

「牛の、お姉さん?」

 

 そして合宿所には出水 聖拳――デザグラ参加者の一人が講師として滞在していた。その傍らにはこれまたデザグラで出会った少女、エリがいる。

 

「……世間、狭すぎない?」

「案外そういうもんよ」

 

 牛込は台車に荷物を下ろしつつため息をついていた。

 

「食堂はこっちじゃ。案内しよう」

「ん、どうも」

 

 荷物を宿舎内へ運ぼうとした瞬間、森の中からウツボカズラを思わせるジャマト――ルークジャマトが姿を現した。

 

「ジャ」

「ッ!?」

 

 即座に動いたのは聖拳だった。

 一足で距離を詰めるとルークジャマトへ正拳突きを食らわせる。

 ルークは苦しそうによろめきながら後ずさり爆発する。だが爆風の向こうから次から次へとポーンジャマトが姿を現した。

 

「まさかっ! ここがゲームの舞台か!?」

「違う! 何の通知も来てないわっ!」

 

 牛込はエリを抱きかかえて逃走体勢に入る。そんな彼女の下へポーンジャマトが押し寄せ、彼女は逃げつつ応戦する。

 

「だったらこ奴らはなんだ!? なぜ今この場に現れるッ!」

「知らないっての!」

 

 エリを庇いながらの戦闘に悪戦苦闘する牛込。だが彼女の背後から赤い液体――血液が飛び出しジャマトを押さえつける。

 

「――大丈夫ですか!?」

 

 血液を操る主はB組担任のブラドキング。騒ぎを即座に察知し赴いてきたのである。

 

「ええ……」

「早く宿舎の中へ避難を。ヴィランは私が」

 

 前線へと躍り出たブラドキングは聖拳と牛込を避難させる。変身して戦うのが手っ取り早いが、ブラドキングがやってきてしまった以上それもかなわなかった。

 

「……どこかで隠れて変身しましょ。いくらヒーローでも生身じゃジャマトに敵わないもの」

「うむ……」

 

 聖拳は落ち着かない様子で宿舎の中を見回している。

 

「出水さん! ……と、そっちのあんたは?」

 

 廊下の角から現れたは相澤。彼は捕縛布を巻きつけつつも生徒の安全確保のために森へ向かう途中だった。

 

「バイトよ。運送会社の」

「そうか……災難だったな。そっちの部屋に生徒が待機している。安全確認取れるまではあんたも待機してくれ。出水さん、後は頼みます」

 

 用件だけを簡潔に伝えると相澤は足早に駆けて行こうとする。

 

「待ってくれ! 洸汰は見なかったか!? 気配を探っとるが見つからん!」

「……見かけてない……ってことは生徒たちといるか、もしくは彼しか知らない場所にいるか」

 

 言葉を聞いた瞬間、聖拳の顔から血の気が引く。

 脳裏に浮かび上がるのは最悪の展開――一人でいるところをジャマトに襲われる。

 

「うぉぉぉお! 洸汰ぁっ!」

 

 気が付けば聖拳の体は動いていた。腰痛など感じさせない俊敏な動きで宿舎を飛び出していく。

 それは相澤の制止が間に合わないほどの速度だった。

 

「……っなんて速さだ。ったく!」

 

 一般人を危険地帯で放置するわけにもいかないため、相澤は慌てて後を追いかけていく。

 

「……はあ」

 

 牛込は抱っこしていたエリを下ろしてあげると、その頭にそっと手を置く。

 

「心配しないで。あの爺さん、ちゃんと連れ戻すからさ」

「……うん」

 

 エリは不安そうな顔のまま胸の前で手を握り締めている。

 そんな気持ちにさせた聖拳にため息をつきつつも、牛込は制服のキャップを脱ぎ捨てつつドライバーを装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――なんか、二人っきりってのも珍しくね?」

「そうだね、いつもはミドリヤかミネタがいるからね」

 

 エースのペアは上鳴だった。

 上鳴は期末試験でのクリア条件を満たせなかったものの、最後まであきらめずに勝ち筋を探し続けた姿勢を評価され赤点を回避していたのだ。

 とはいえギリギリの合格であったことは相澤から深く、深く釘を刺されていた。

 

「……そいやさ。ずっと気になってたんだけど」

「うん?」

「狐火って緑谷の事好きなん?」

「好きだよ」

 

 口に出してからエースは己の発言に気づき口を押える。上鳴の軽い口調に思わず乗せられてしまったのだ。

 

「マジかー! やっぱそうだよな~」

「……もちろん、人として、ね?」

 

 苦し紛れの弁明に、上鳴はわかってる、と言わんばかりに彼女(?)の肩を叩く。

 

「今更隠したって遅いって。みんなも薄々察してると思うぜ?」

 

 普段馬鹿をやっている上鳴だが、こういう所では容赦なくエースを追い詰める。彼女(?)は恥ずかしそうにその狐耳を垂らしていた。

 

「……ま、おかげで吹っ切れたわ。実は俺、お前の事好きだったんだぜ?」

「…………私に性別はないんだよ?」

「わかってるって。それでも好きになっちまったんだって」

 

 上鳴は柄になく真面目な表情で続ける。

 

「そりゃ初めは見た目だけっつーか、かわいい子だったから声かけたってのはあったけどさ……友達やってるうちに、すげーやつなんだって気づいて」

 

 言葉を紡ぐうちに次が出てこなくなったのか。彼は頭を掻きむしる。

 

「とにかく! お前は俺の目標なのよ。いつか隣に並べるかっけー男になる、俺はそんなヒーローになりてぇって」

「ふふ……そっか。私が目標か」

 

 エースはどこか複雑そうな表情を浮かべている。

 彼女(?)はデザ神になったことで雄英生になった、ある意味不正な生徒である。

 そのヒーロー性を認められたわけではない。その実力を真に評価されたわけではない。

 純粋な上鳴の視線を受け、エースはなぜだか後ろめたく感じていた。

 

「――ジャァ」

「ウェッ!?」

「きゃっ」

 

 ジャマトが現れ、上鳴は驚き少しだけ放電してしまう。それを受けたエースは小さな悲鳴を上げた。

 

「わ、わり……っすげぇ不気味だな……これ着ぐるみ?」

 

 ジャマトの中身がB組の誰かだと思っている上鳴はジャマトに声をかけるも、エースはそれを手で制する。

 

「違うよ――下がってて」

 

 エースはどこか悲しそうな目でドライバーを装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――洸汰ァッ!!」

 

 老人は全力で走る。

 癒してもらった腰はとっくに悲鳴を上げていた。ともすれば立っているだけでも激痛が走るほどに。

 だが鍛冶場の馬鹿力か、腰の痛みなど気にもせず、土埃を上げながら森の中を駆け巡る。

 

「レレ――ジャッ!?」

 

 時折すれ違うポーンジャマトは、衝撃波を受けて吹っ飛んでしまう。

 木々の葉は彼が通り抜けて数瞬の後に散っていく。

 

「むっ?」

 

 聖拳は何かを発見し急停止する。急制動は地面に小さなクレーターを発生させ、衝撃波は進行方向の地面を撫で上げた。

 

「足跡……この足の大きさは――ッ!」

 

 わずかに残された足跡。子供の足の大きさで、それは近くの岩山の方へと続いていた。

 理解するや否や、彼はすぐさま駆けだしていた。

 

「――ジャァ」

「ひっ……く、来るなよッ!」

 

 彼の足をもってすれば岩山など舗装された道路の様に駆け抜けることができる。

 頂上まで上り詰めて目に入ったのは、三葉虫のような悍ましい見た目のジャマト――マーレラジャマトが洸汰へと襲い掛かろうとしている光景だった。

 

「ッ洸汰に手出しはさせんッッ!!」

「――ッ!」

 

 空気が爆ぜる。即座に放たれた拳は空気を面の様に叩き、生まれた衝撃はマーレラジャマトを大きく吹き飛ばすこととなる。

 マーレラジャマトは声を上げることもできず、あっけなく崖の下へと落ちていく。

 

「怪我はないか!?」

「っ……」

 

 涙目になりながらも必死に頷く洸汰。

 聖拳はホッと一息を突いた途端、無茶をした反動が来て顔を顰める。

 

「くっ……腰が」

「じ、じいちゃん……何やってんだよ……」

 

 祖父のいつも通りの姿に洸汰の精神はわずかに平常さを取り戻す。

 だがその直後、月明かりを遮ったものを見て恐怖に目を見開いた。

 

「うっ後ろ――」

「ピアーブ!」

 

 マーレラジャマトには特殊能力があった。

 物質を砂の様に分解し、そこに潜り込む能力である。それを利用し岩肌を泳ぐようにして上り、取り損ねていた命を取りに――やられた仕返しを果たしに来たのである。

 

「ウグッ!?」

 

 ジャマトの鋭い爪が聖拳の背中を抉る。

 気が抜けていたのと腰の痛みで反応が致命的に遅れてしまったのである。

 

「ぬぅっ!」

「ジャッジャッジャッ……」

 

 咄嗟に裏拳を放つ聖拳だったが、マーレラジャマトはひらりと躱し、愉快そうに笑っている。

 

「……洸汰……コフッ……下がっていなさい」

 

 血反吐を吐きながらも、聖拳はドライバーを装着する。ドライバーの中央のIDコアには、僅かならが亀裂が入り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――新しいゲームマスター?」

 

 デザイア神殿では、粛清されたギロリの後任が登場していた。

 前任のギロリよろしく無機質なマスクにフードをかぶり、スーツは少し軽薄さを感じさせるラフなデザインだった。

 フードを取りつつ仮面を取り外す。サングラスにアフロという陽気さを思わせる容姿だったが、無表情のため近寄りがたさを感じさせた。

 

「……新ゲームマスターの“チラミ”よ♪ シクヨロ~」

 

 だが口を開けば軽薄そのもの、ギロリとは真反対の人物のようだった。

 

「あんたがパンクジャックね。話は聞いてるわ――ワタシのゲームでもしっっっかり働いてもらうからそのつもりで♡」

「……もちろん、精一杯やらせてもらうさ」

 

 チラミはサングラスのレンズを開いて物間をチラ見しながら反応を伺う。

 軽薄な言動とは裏腹に、その芯は真面目なのかもしれない。

 

「それにしても、相変わらずギロリの仕切りは固すぎるわ~。なんだかこう“押忍!”みたいな、暑苦しくて硬派なゲームメイクよねぇ……一応、今シーズンはその方向性で行かせてもらうけど。次のシーズンはもっとスリリングでエキサイティングな――」

 

 次のシーズンの計画を語るチラミを見て、物間は心の底から嫌悪感が湧き上がるのを感じる。

 人の生き死にをただの娯楽としか見ていないような――デザグラ自体にその側面があるのは正しいが、それを隠そうともせずむしろ前面に押し出さんとする姿勢。

 

「――そう、共同生活ってのも悪くないわね。仲間の中の裏切者、“デザスター”を暴こうと互いに疑心暗鬼に陥る……」

「まるでバラエティの企画みたいだ。あんた、本当に世界を守る気あるの?」

 

 そんなチラミに疑問を呈する物間。

 本当に世界を守る気があるのか、ジャマトの脅威を防ぐつもりがあるのか。

 ギロリにあった最低限の良心の欠片すら見せないチラミに、物間は到底従おうとは思えなかった。

 

「あるわけないじゃない。あんたも大概ギロリに毒されてるのねぇ」

「…………はぁ?」

 

 ともすれば人を小馬鹿にするようなチラミの態度に、物間は怒りを抱いた。

 人の生き死にをただのエンターテイメントとしてしか考えていない目の前の男に激しい嫌悪感を覚える。

 

「デザグラは“リアリティライダーショー”、所詮あんた達ライダーは見世物小屋の動物。別に世界を守れようが守れまいがどうだっていいの。肝心なのはオーディエンスの“支持率(すうじ)”、いかにショーを盛り上げるか、よ」

「ショー、だって……?」

 

 世界を守るゲームではなく見世物(ショー)

 唐突に明かされたデザグラの真実に、物間は困惑していた。

 

「所詮あんたたちは“とうの昔に終わった世界”の人間、ワタシたちがどうしようと」

「ゲームマスター、それ以上はいけません」

 

 追い打ちをかけるようなチラミをツムリが制する。

 おしゃべりが過ぎて、末端のスタッフに語ってはいけない情報まで語ってしまっていたのだ。

 

「もう十分だよ……っじゃあなんだ? 僕たちはお前らの手のひらの上で、転がされていただけだっていうのか!?」

 

 物間はチラミの胸倉を掴んで問い詰める。普段クールで飄々としている彼からは想像もつかない激情だった。

 

「…………」

 

 チラミは静かにグラスを開いて物間を一瞥する。

 小馬鹿にするような、呆れているような、そんなまなざしだった。

 

「――おや?」

 

 一触即発と言った雰囲気の中、ツムリの持つ端末から音が鳴り響く。

 それはジャマトの出現通知だった。

 

「っ行ってる傍からゲーム開催って?」

「いいえ。ワタシは何も指示しちゃいないわ」

「その通りです……なぜあんな所にジャマトが?」

 

 想定外の事態にチラミは困惑し、ツムリも怪訝な表情を浮かべている。

 

「……まあいいさ。元々僕の仕事はこういった想定外(トラブル)の対処だ」

「ツムリ。ジャマト出現地帯の周囲に参加者(ライダー)は?」

 

 ドライバーを取り出し事態の対処へ向かおうとした物間をチラミは手で制する。

 その表情はこのトラブルすら面白がっているように見えた。

 

「ええ……何名かいらっしゃるようですが……」

「ならカメラ回しなさい。これは面白くなりそうね♪」

「ッふざけるな!」

 

 柄にもなく激昂した物間は、呼吸を落ち着けながらチラミを睨み付ける。

 

「……ふざけないで欲しいなぁ……僕たちは命がけで、本気で世界を守ろうとしてるんだ……それを面白半分で見世物にするとか、ほんとふざけてる」

 

 もはや我慢の限界だった物間は、ドライバーを装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「……」

「…………」

 

 終始無言のまま、緑谷と爆豪は肝試しをめぐっていた。

 名状しがたい気まずさは、肝を試す余裕すらなかった。平常ならば仕掛けに驚いたであろう緑谷は塩反応となってしまい、元来肝の強い爆豪はそもそも驚かず。

 自慢の仕掛けで驚かせなかったB組の者達は、一様に肩を落としていた。

 

「……あの、さ」

「…………あ?」

 

 気まずさに耐え兼ねて声をかける緑谷だったが、険悪な返答に身を竦ませる。

 

「っごめん、何でもないや」

「……フン」

 

 だが話題が何も思いつかず、再び口を閉ざしてしまう。

 

「……てめーの個性、遅咲きなんだってな」

 

 代わりに口を開いたのは爆豪だった。

 

「う、うん……なんか、ある程度体を鍛えることが発現のトリガーだったみたいで」

 

 本当(ワン・フォー・オール)の事を話すわけにもいかず、それっぽい言い訳をでっちあげる。

 

「……ずっと無個性だったじゃねぇか。ずっと、クソナードしてただろうが……なのに、なんで」

 

 爆豪は言葉が上手く紡げず頭を掻きむしった。

 

「ずっと俺が先を進んでたはずだッ! ずっと俺が一番で……なのにてめぇはいきなり追い抜いてぶっちぎってきやがった!」

 

 その表情は今にも泣きだしそうで、感情があふれ出して抑えきれないような、やり場のない感情にさいなまれているかのようだった。

 

「かっちゃん……」

 

 見たことのない幼馴染の姿に緑谷は困惑していた。

 いつも自信満々で、嫌な奴だけどそれでいて憧れたくなる強さを持っている――それが緑谷の知る幼馴染(ばくごう)の姿。

 

「雄英入ってから、テメーは俺を見向きもしなくなった……テメーはずっとあのクソ狐を見てやがる……あれほど遠ざけたかったのに、いざ遠ざかるとどうしようもなく苦しい……! 俺自身の“弱さ”を突き付けられたみたいで……!」

「えっ……」

 

 知られざる胸の内を明かされ、緑谷は戸惑った。

 確かに緑谷は中学時代――いや、個性が発現して以降ずっといじめられてきた。それは自分が無個性の弱者だからで、気弱なナードだったからで、いじめられるに足る条件を満たしていたからだと。

 

「なあデク――いや、()()。俺とお前は、何が違うんだ? お前の中にある()()は……何なんだ?」

「……」

 

 緑谷と爆豪の大きな違い――デザグラに巻き込まれ、生還したか否か。

 デザグラの記憶を宿し続けているか否か。

 脳裏に浮かぶのはもっぱらデザグラの事だが、きっとそれではないと緑谷は直観していた。

 もっと根本にあるもの――

 

「――レレスダト」

 

 だがその答えに至ることはできなかった。

 二人の前に古代魚のようなジャマト――ダンクルオステウスジャマトとポーンジャマトの群れが現れたのだ。

 

「――ッ!」

 

 爆豪はポーンジャマトを見て大きく目を見開く。

 時折見る悪夢に出てくる怪物――それと全く同じ姿の存在が目の前に現れ恐怖心をあおられたのである。

 

「なんで……こんなところにジャマトが……!」

 

 突然の状況に困惑する緑谷だったが、即座にドライバーを装着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 突如として出現したジャマト達。

 様々な思惑が交錯する中、ライダーたちの心は一つだった。

 

 ――SET

 

 ジャマトの好きなようにさせない。

 ジャマトから皆を守る。

 己の理想ではなく、大切なものを守るためにその力を振るわんと決意したのだ。

 

「「「『変身!』」」」

 

 ――BEAT

 

 ――ZOMBIE ...

 

 ――NINJA

 

 ――ARMED DRILL

 

 ――MONSTER!!

 

 ――MAGNUM

 

 6人のライダーは、それぞれジャマトへと立ち向かう。

 決して見返りのない戦い。

 勝利しても理想の世界など得られない想定外(イレギュラー)な戦い。

 それでも彼らは、命を賭して戦うのだ。

 

 ――READY FIGHT!!

 

 大切なものを、守るために。














映画観てきました。
事前情報の通りコメディでしたが、ちゃんとアツいシーンもあって大満足でした。何気に重要情報も明かされているという……

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