【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-4 混沌Ⅰ/暴走

――――

――

 

「あ、あわわわわわ……!」

 

 デザイア神殿。

 この事態を面白がり、オーディエンスに提供していたチラミは取り返しのつかない事態にめまいを起こしていた。

 人気ライダーの退場。

 そのヒロイックなキャラクターから根強い人気を誇っていたタイクーンの退場に、頭を抱えていた。

 

「ま、まずいわよ……! ゲーム外で退場になっちゃうなんて」

 

 ライダーの退場などデザグラにおいて日常茶飯事。

 命がけで理想を叶えようと戦う姿にオーディエンスは興奮し、その生きざまに感動するのである。

 

 ――だがそれは、あくまでゲーム内においての話である。

 

「……ゲームマスター、先ほどから抗議の連絡が」

「黙らっしゃい! ……何やってんのよ全くもう!」

 

 ゲーム外の、それも運営の管理をはぐれたジャマトによってやられてしまうなど、何をやっているのだという話である。

 これから見れたであろうタイクーンの活躍を、彼がいかにして理想を叶えるのかという楽しみを、一瞬にして奪われてしまったのである。

 

「そ、そうよ……ワタシがゲームマスター権限で女神の力を使って、タイクーンを蘇らせれば」

『――それは許可できない』

 

 通信が割り込み、険しい顔のプロデューサー、ニラムの顔が映し出される。

 

『そんなリアリティの欠片もない行為、私が許すとでも?』

「でっでも! このままじゃオーディエンスが」

『この事態を容認したのは君だろう? 確かにリアルだが……それ相応の安全策(セーフティ)を用意しておくべきだった』

 

 突発的事態でもそれがリアルならばよし――ニラムはそう考えていたが、最低限の保護は検討すべきだったと指摘する。

 イレギュラーな事態だからこそ、傍観ではなく注視すべきだった――ライダーの安全が損なわれるようなら即座に横やりを入れるべきだと。

 

「で、ですが――」

『それに――()()()()()()()()()

 

 ニラムが示すのは、ベロバにヘッドロックをかけられているエースの映像。

 そう、失われるのはタイクーンだけとは限らないのだ。

 

「ま、まずいわよぉ……それこそギーツは歴代最多連勝のかかってる最重要キャラ……! ップロデューサー、後から“リアルじゃない”なんて言いっこなしよ!?」

 

 チラミはヴィジョンドライバーを装着すると、大慌てでエースの下へ転送されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「はあ……もっとマシな人選はなかったのか」

 

 任命早々トラブルを起こしたチラミに頭を抱えるニラム。

 全てを自由にデザインできる未来人であっても、人事の悩みは無くならないのだろう。

 

「……サマス、私は出かける。何かクレームがあれば後でチラミに」

 

 息抜きの食事に向かおうとしたニラムだったが、そんな彼の前に拳銃を構えたサマスが立ちはだかる。

 

「プロデューサー・ニラム。その座を退いてもらいますよ」

 

 ――乾いた音が響く。

 

 ニラムは熱く鈍く痛み始めたわき腹を押さえる。

 手の平には真っ赤な血がこびりついていた。

 

「……なぜ?」

 

 サマスは彼の懐からヴィジョンドライバーを奪い取る。

 

「常々思っていました。リアルにこだわるあなたを下らないと」

 

 彼女は自分のしでかしたことの重大さと、この後に手に入るかもしれない権力に想いを馳せている。

 

「エンターテイメントなんて所詮作り物(フィクション)でしかないでしょう?」

「……こんなことをして、スエルが黙ってないぞ」

「御心配には及びません。女神は我々が押さえる――デザグラは我々の物です」

 

 サマスはドライバーを装着するとどこかへ姿を消す。

 一人取り残されたニラムは壁にもたれかかりつつも自分の終わりをひしひしと感じ取っていた。

 

「……作り物(フィクション)の我々がリアルにこだわらないでどうする」

 

 体が徐々に薄れる中、彼は一人のライダーへ想いを馳せる。

 

「狐火 エース。最後まで見届けたかったよ――君の理想の果て――その執念(リアル)を」

 

 連戦連勝のデザ神。

 魅入られていたのは何もオーディエンスだけではなかったのだ。

 

「……やれやれ。この時代の大人気グルメ――ようやく予約が取れたというのに……まあいいか。これもリアル――」

 

 ニラムは人間臭い未練を残しつつ、その体を消滅させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――

 

 二つのバックルが地面に落ちる。

 爆豪は消えてしまった幼馴染の感触を確かめるように手を動かす。

 だが何も感じない。指先は空を切る。

 

「……っ」

 

 ゆっくりと、赤いメタリックの輝きに手を伸ばす。

 託されたそれを握りこみ、その眉間に大きく皺を寄せた。

 

「……いつ勝つってんだ、クソッ!」

 

 ギリギリと歯を食いしばり、幼馴染の無念を噛みしめる。

 

「――ヒャハ♪」

 

 静寂を打ち破ったのは無邪気で能天気な笑い。

 暗闇からぬるりと顔を出すのはパンダを思わせる仮面の男。

 大きな頭部に不釣り合いな黒のスーツを身にまとい、愉快で仕方ないと笑いをこらえている。

 

「ヒャハハハハッ! いつか勝つってw? 残念でしたーwww お前はもう一生負け犬でーすwww ヒャハハハハッwww!」

 

 パンダ仮面――ダパーンは今にも腹を抱えて転げまわって笑い出しそうだった。持っていたレイズアローを投げ捨て、アローバックルを外すと放り捨てる。

 

「……何笑ってんだ……ッ!」

「この状況でw 笑うなって方がむりだろwww だって――あんな無様な消え方面白くて仕方ないだろwww」

 

 爆豪の悲しみ、怒りなど気づきもせず、ダパーンは彼を指差して大笑いする。

 

「ほらどけよw」

「がッ……!」

 

 ダパーンは爆豪を蹴り飛ばす。エントリーフォームは最低限の肉体強化しかされないものの、キック力は数トンに及ぶ。

 生身の爆豪にはひとたまりもないだろう。

 意識が飛びそうな感覚に陥りつつも、意地でもブーストバックルは手放すまいと握りこみ地面を転がった。

 

「これこれw っぱあんな雑魚に持たれたんじゃ可哀想だよなwww」

 

 ――MAGNUM

 

 ダパーンは嬉しそうにバックルを拾い上げ、即座にマグナムフォームへ変身する。

 次に目を付けたのは爆豪の持つブーストバックル。

 

「ほらw 寄越せよwww お前が持ってても意味ね―からwwwww」

「ッ……誰が渡すかよ……ッ!」

 

 爆豪は渡すまいと姿勢を低くして構える。

 そんな彼の姿勢をダパーンはあざ笑う。

 

「ウケるwww 勝てると思ってんのw? これが目に入らないんでちゅか~www? 撃っちゃうよ~www」

「撃てるなら撃てやチキン野郎ッ!」

 

 ただの虚勢。

 それでもひな鳥を守る親の様に、限界まで威嚇する。

 勝てない相手ではないはずだ。

 

(変身のキモはあのベルトだ。ベルトさえ奪えゃただのザコに成り下がる)

 

 油断しきっている相手に一撃を与えてベルトを奪う。

 それが唯一見えている勝ち筋。

 

「……うっざ。何? 勝てるとでも思ってるんだ。ナメられてんな~……マジムカつく」

 

 刹那、ダパーンの目の色が変わる。

 以前の彼ならばいくら煽られようとも気を引き締めることなどなかった。最後まで自分の優位を信じて疑わず、相手が()()()()()()()と信じてやまなかった。

 だが手ひどい敗北と屈辱が彼を変えた。

 

「雑魚が変身してイキってるだけだろうが……変身できなきゃなんもできねぇザコが粋がんなよ」

「……ガキが。粋がってんのはお前だろw」

 

 ――BULLET CHARGE

 

 ダパーンはマグナムシューターの撃鉄を起こして銃口を爆豪へと向ける。

 引き金に掛けられた指に力が籠められ――

 

「――ッッ!?」

 

 しかし引き切る前に飛来した()()()()()()()()がそれを弾き飛ばす。

 勢いそのままにゾンビブレーカーは木の幹にめり込んで突き刺さる。

 

「…………ッ!」

 

 暗闇から十字の光が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 腹の奥底が熱く煮えたぎる。

 怒りは沸点を通り越しもはや計り知れない。

 

「……許さない」

 

 だが不思議と心は凪いでいた。

 バッファはゆっくりと爆豪へと歩み、握りこんでいたブーストバックルを掴む。

 

「……貸して」

「……あ?」

 

 あっけにとられる爆豪だったが、バッファの有無を言わせぬ圧力に怯んでしまう。

 

「……貸せ」

「……ッ」

 

 ――SET

 

 ひったくるようにしてそれを受け取ったバッファは、ベルトにセットするとスロットルをゆっくりと握りこむ。

 

「おい何人の物盗ってんだよ……! それはお前みたいな低能女が持っていいもんじゃねぇよw」

「…………」

 

 ダパーンは不快感を表しつつも右腕のアーマードガンを展開する。

 対するバッファはスロットルを吹かして起動させる。

 

 ――DUAL ON

 

 だが早くしろと急かすように何度も何度もスロットルを吹かし続ける。

 その身を焦がす怒りを、更に滾らせるように。

 

 ――ZOMBIE ... & BOOST

 

 ダパーンは変身させまいとバッファを撃ちつづけるも、彼女は意に介することもなく受け続ける。

 装甲が装着されるや否や、バッファは駆けだす。それは怒り狂った闘牛のような動きであった。

 

「が……っ!」

 

 ただの突進であるにも関わらず、ダパーンは躱せなかった。

 両の角をその腹に受け、仮面の下で苦悶の表情を浮かべる。慣性のままダパーンは飛んでいく。バッファは視界の端でゾンビブレーカーを確認すると、ゆっくりと歩み寄り、カバーを掴んで引き抜く。

 

 ――POISON CHARGE ...

 

 猛毒が充填される。

 バッファは再びそれをダパーンへと投げつける。呻きながら起き上がろうとしていた彼は、飛来したゾンビブレーカーを躱すこともできずに顔面に受けている。

 パンダの仮面に弾かれたゾンビブレーカーが宙を舞う。

 バッファは飛び上がってそれを掴み、トリガーを引いて振り下ろす。

 

 ――TACTICAL BREAK

 

「ガハッ!」

 

 ダパーンは攻撃をもろに喰らい、うめき声をあげる。

 

「……ッ!」

「やっやめろ……」

 

 バッファはゾンビブレーカーを投げ捨て、ダパーンの胸倉を掴んでその体を引き起こす。

 

「おい……っ! お前自分が何してるかわかんてんのか!? 俺を殺すことの意味が解ってんのかよッ!?」

「……クズが一人、世界から消えるだけでしょ?」

 

 ――BOOST TIME!!

 

 スロットルが吹かされる。

 それはダパーンの処刑を告げる合図だった。

 

「やめろっ! 待てよッ! ふざけんなっ!!」

 

 必死になってもがくも、バッファの手が離れることは無い。

 

 ――ZOMBIE BOOST GRAND VICTORY!!

 

 バッファの左腕が振りかぶられる。

 

「――おっと、やらせねぇぜ?」

「ッ!?」

 

 しかし思わぬ横やりが入る。

 弾丸はバッファの体を撃ち抜き、必殺技をキャンセルさせる。

 難を逃れたダパーンの下に、蛙を思わせる異形が姿を現す。

 

「はぁ……危ねーなおい。またそうやって怒りに任せて敵討って、それで満足か?」

 

 蛙の異形はゆっくりとしゃがみ込み、頬杖を突きながらバッファを睨み付ける。

 

「……邪魔すんじゃないわよッ!」

「おっと♪」

 

 蛙はダパーンを抱えつつ器用に避ける。

 

「おいダパーン、お前をこんなところでやらせねぇぜ? お前は俺の()()を完成させるのに必要不可欠だからな」

「ははっw 誰だか知らないけど、よくわかってんじゃん」

 

 全くかみ合ってない会話をする蛙とダパーン。

 大きく跳躍して逃げていく二人を追いかけようとするも、必殺技を使った代償でブーストバックルが彼方へと飛び去ってしまう。

 不発であろうと一回は一回。彼女は敵討ちの機会を逃してしまったのである。

 

「~~~~ッ! 逃げんじゃないわよッ!!」

 

 バッファの雄叫びは、森の中でにしく響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――上鳴くん!?」

 

 葉隠と轟は逃げ遅れた者がいないか、森の中を駆け回っていた。

 そんな彼女たちの前に傷だらけの上鳴が姿を現す。

 

「……葉隠? それに、轟……ッ手ェ貸してくれ、狐火が……!」

「っエースさんが?」

 

 思わず上鳴のやってきた方向へ視線をやる葉隠。

 その視線の先には――

 

「白い、狐……?」

 

 漆黒の尾を携えた、ギーツの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ――数分前。

 

『――私と一緒にもっと不幸を味わいましょ♡』

 

 ベロバはエースの首を締め上げる。

 ここで彼女(?)を解放すれば即座に仲間の下へ駆けつけることだろう。だが不幸を見たいベロバにとってそれは不都合だった。

 

『はな、せ……!」

 

 エースが見たのは、タイクーンの退場を知らせる通知だった。

 きっと共に勝ち抜ける。勝ち抜けることができると、そう信じてきた彼女に(?)とって衝撃的な知らせだった。

 

『アハハ! 次は誰が犠牲になるのかしらねぇ?』

 

 ベロバはそんなエースの頭をいとおしそうに撫でながらギーツの次の通知が来るのを待ち受けている。

 

『――狐火を解放しろよッ!』

 

 だが友の危機に黙っているほど上鳴は意気地なしではない。

 恐怖で震える膝を押さえながら、指先を銃の様にしてベロバへと向けている。

 

『アハハ! ほら、撃ちたければお友達ごと撃ってみなさいよ』

 

 ベロバは負けじとエースの体を引き寄せ盾とする。彼が電撃を放てばエースに当たってしまう位置関係だった。

 それ以前に、彼の個性は指向性を持たせることなどできない。

 つまり、ただのはったりでしかなかったのだ。

 

『……やめろっ! 彼に、手を出すな……!』

『どうしようかしら♡ あの子を殺せば、あんたはもっといい不幸(かお)を見せてくれるのかしら?』

 

 ベロバはレイズライザーの銃口を上鳴へと向ける。

 

『やめろ……っ!』

 

 エースの脳裏に、最悪のシナリオが浮かぶ。

 ベロバとジャマトの手によってクラスメイト達が亡き者にされてしまう。

 それを止められず、ただ見ている事しかできない――そんなストーリー。

 

『やめろ…………ッッ!』

 

 そしてタイクーンの退場する瞬間を、脳裏で想起してしまう。

 刹那――湧き上がる怒り。

 大切な人を守れなかった、自分への怒り。

 大事なことを確かめることのできなかった、勇気のない自分への怒り。

 

『やめろぉぉぉぉぉぉぉッッ!!』

 

 ――鐘の音が鳴り響く。

 

 エースが叫び声をあげた瞬間、保留となっていた“理想の世界”が叶えられる。

 

 ――“いつか、私の恩人が危機に陥った時、それを救う力”

 

 いつの日か、助けてくれたあの日の“彼”に危機が訪れるかもしれない。

 だからこそ救うことのできる力を。

 何があっても――この恩を返すのだと、決意し願った理想。

 

『っな、何!?』

 

 突如として鳴り響く鐘の音に驚くベロバ。

 まさか保留となっていた願いがあることなど、夢にも思っていなかっただろう。

 

『――ッ!』

 

 エースのドライバーにバックルが出現する。

 白と赤を基調としたバックル。それはブーストバックルに酷似していたが、似て非なるものだった。

 

『待ちなさいっ! お友達がどうなってもいいの!?』

『――ッ』

 

 変身させまいとレイズライザーを構えるベロバだったが、エースは構わずにバックルを起動させた。

 

 ――BOOST:Mark.3

 

 変身の余波でベロバは大きく吹き飛ばされる。

 エース――ギーツの背後には黒く禍々しい尾が生えていた。

 

 ――READY ... FIGHT ...

 

 それは恩返しのために願った純粋な願い。

 だが彼(?)はそれを――怒りで歪めてしまった。

 叶うはずのない理想を――都合のいい力を手に入れるために歪んだ解釈をしてしまったのだ。

 

『――ッ!?』

 

 ――PREMIUM BEROBA

 

 ベロバは咄嗟に変身し負傷を最小限に抑える。

 ギーツの尾は空間を歪めて破壊する。

 無差別に、目に入る物すべてを破壊せんと暴走している。

 純粋な理想を歪めたせいで、力の本質が歪んでしまったのだ。

 

『――助けに来たわよギーッちょわぁっ!?』

 

 ギーツが暴走をしているなど思ってもいなかったチラミは、登場と同時に破壊の尾にさらされ飛び退いている。

 

『な、なんなのよもう!』

『アハハ……もう遅かったわね、ゲームマスター』

 

 ベロバはもはやこの場にいられないとばかりに退散していく。

 ギーツは自然と取り残されたチラミに標的を変える。

 

『え……あっ』

 

 ――INSTALL ...

 

 チラミは咄嗟にグレアへ変身すると迫りくる破壊の尾を躱す。

 

『待ちなさぁいっ! ワタシは味方よッ!』

 

 鞭のように打ち付けてくる破壊の尾をグレアは波打つように体をくねらせて躱す。

 

『……ユルサナイ』

 

 ギーツはうわごとのようにつぶやいた。

 その身に宿るのは復讐心。

 大切なものを奪った者への復讐以外に他ならなかった。

 

『んもう! こうなったら強硬手段よ!』

 

 ――HACKING ON ...

 

 チラミはゲームマスターが持つ絶対的権限、プレイヤーの洗脳機能を用いてギーツを制圧せんと企む。

 だがしかし、射出されたヒュプノレイはギーツを目前にして――空間ごと歪んで破壊された。

 

『へ?』

 

 予想外の出来事であっけにとられるグレア。

 何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くしている。

 

『……ユルサナイ……!』

『あへっ!』

 

 破壊の尾に打ち据えられたグレアは吹き飛ばされ、ヴィジョンドライバーは腰から外れて茂みの中へと消えていく。

 

『ちょっ……! ここは戦略的てったいぃぃ!』

 

 変身を解除されたチラミは無様に逃亡していく。

 再び標的を失ったギーツはゆるりと周囲を見回す。

 

『…………』

『っおい……うそだろ?』

 

 上鳴は狐の仮面に見つめられ顔を引きつらせる。

 ギーツはもはや敵味方の区別がついていなかった。視界に入るすべてを破壊せんと力を解き放っていた。

 たとえその対象が――友であったとしても。

 

『――ッ!』

 

 破壊の尾に狙われた上鳴はたまらず逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「そんな……じゃあエースさんは」

「……無理もねぇ。憎しみってのは、それだけ視野を狭くしちまう」

 

 かつて、父親への反抗心――憎しみによって突き動かされていた轟はエースの暴走に理解を示してしまう。

 憎しみに捕らわれてしまえば、確かに暴走してしまうだろうと。

 

「冷静に分析してる場合じゃねぇよっ! このままじゃ狐火がみんなを殺しちまう! だから俺たちで止めんだよッ!」

「でもどうやって!?」

 

 問い詰める葉隠の眼前で、上鳴は指先から放電してみせる。

 

「へへっ……俺と狐火は()()()()だからな」

「そうか電撃」

 

 エースは電気に弱い。

 軽い静電気でも悲鳴を上げてしまうほど。変身している状態でも超高電圧を浴びせてしまえば――

 

「でも――あのエースさんに当てられるかな……?」

 

 確かに電撃を当てればギーツを止めることができるかもしれない。

 だが暴走状態のギーツであっても、大人しく攻撃を受けてくれるとは限らないのだ。

 

「正直イメージ湧かねぇけど――轟の個性なら何とかならね?」

 

 上鳴は縋る様に轟を見つめる。

 轟の個性――氷で拘束してしまえばいくらギーツと言えど身動きが取れない。

 

「凍らせたところであの尻尾をどうにかしないと抜け出されるだろ」

 

 ギーツの背後でうごめく破壊の尾は現在進行形で森を破壊しつくしていた。空間を歪め、木々を破壊しつくす。

 

「……だったら、私が尻尾を引き受けるよ!」

 

 ――BEAT

 

 ナーゴへと変身した葉隠を見て上鳴は大きく目を見開く。

 

「マジか……葉隠まで」

「ナーゴです、よろしくね!」

 

 ギーツは彼らを冷たく見つめると、破壊の尾をうごめかせる。

 

『……ユルサナイ』

「っ止まって、エースさん!」

 

 ナーゴはスライディングの要領でギーツの足元を潜り抜けて背後を取る。

 破壊の尾は自動的にナーゴを標的に定めてうごめいていく。

 それは瞬く間にナーゴのビートアックスを破壊しつくす。

 

「止まれ狐火っ!」

 

 轟が凍結を放つ。

 破壊の尾は即座に標的を切り替えるも、数瞬間に合わずに下半身が凍り付く。

 

「――狐火、お前のムカつく気持ちはわかるけどよ――」

 

 破壊の尾が対象を定められずに惑っている隙に飛びつき、上鳴は個性を全力で放出する。

 

「いったん頭冷せッ!」

 

 ――無差別放電:130万V

 

 敵味方問わず最大容量の電気を放つ。

 単純であるがゆえに強力、一手で状況をひっくり返せる切り札。

 

『――ッ!』

 

 弱点である電撃を喰らったギーツは体を硬直させ、変身が解けゆっくりと崩れ落ちる。

 

「うぇ……うぇ~い……」

 

 目論見通りエースを止めることが出来たが、個性の反動でアホとなってしまったため締まらない決着だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ギーツとグレアの交戦していた跡地。

 茂みに落ちていたヴィジョンドライバーを手に取る者がいた。

 

「…………」

 

 ヴィジョンドライバーの1本は、チラミの失態により運営の手を離れることとなってしまったのだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――ジャマーガーデン。

 

「あー……イライラする」

 

 協力者のおかげで無事逃走に成功したダパーン――伴野。

 だがバッファにやられた傷が疼くのか、腹を押さえて顔を顰めている。

 

「あのクソ女――思い切りやってくれちゃってさ!」

 

 ――MAGUNUM

 

 伴野はダパーンに変身するとマグナムシューターでジャマトの幼体を次々と撃ち抜いていく。

 

「キャー」

 

 木の実の様に成っている幼体はそれこそ射的の的のようで、ダパーンの鬱憤を晴らすのにはあつらえ向きだった。

 

「なっ! 何をするんだおまえぇぇっ!」

 

 新たな死体(ひりょう)を運んできていたアルキメデルはダパーンの蛮行を目にし、大慌てで止めにかかる。

 

「近寄んな! キモいんだよッ!」

「ぐはっ!」

 

 アルキメデルは振り向きざまに顔面を殴られて地面を転がる。

 

「ポズポズ!」

「ポズポズ!」

 

 育ての親に駆け寄るポーンジャマト達。ダパーンはそれを軽蔑するように見つめる。

 

「あーあ。そんな怪物にしか構ってもらえないとか……一周まわって尊敬するわw」

「お前ぇ……ッ!」

「そこまでよ」

 

 二人の仲裁をしたのは意外にもベロバだった。

 暴走するギーツの攻撃を受けて傷を負っているも、五体満足で帰還していた。

 

「チッ……おい、ベルトは?」

「無理だったわ。ギーツ……まさかあんな隠し玉を持ってたなんて」

 

 ベロバは忌々しそうに吐き捨てる。

 所詮は古代人――ナメていた代償を払わされたのだ。

 

「は?」

 

 だがダパーンはそんな失態を許さない。

 

「ふざけんなっ!」

「きゃっ」

 

 怒りに任せてベロバを殴りつける。思わぬ反逆に彼女は信じられないものを見る目でダパーンを見つめる。

 

「はぁ……これだから女はダメだ。無能しかいないw 最低限の仕事もできないのかよッ!」

「ッそういうあんただってドライバー奪えてないじゃないのッ! 自分の事棚に上げてんじゃないわよッ!」

 

 ダパーン――伴野は変身を解除しベロバに嫌味な笑みを見せる。

 

「ははっw いやー俺ってやっぱ有能だわ。無能のお前と違ってちゃんと根回ししてるからさwww」

 

 伴野が示した先には――ドライバーを装着したサマスがいた。

 

「何で……どうやって?」

「人って権力に弱い生き物なんだよw ま、お前にはわかんないかwww」

 

 サマスはプロデューサーの秘書。故にジャマトの育成が滞りないか、余計なことをしでかしていないか時折視察に来る。

 偶然その場に出くわした伴野は――彼女にささやいた。

 ただの秘書ではなくプロデューサーに成り上がりたくないか、と。

 

「あーあw っぱ俺がいなきゃなんもできない無能だったわけだwww」

「……十数年しか生きてない分際で……っ!」

「年齢でしかマウント取れない老害キッツwww」

 

 怒りのこもったベロバの視線などどこ吹く風でガーデン内を闊歩する伴野。

 既に針の筵状態だったが、彼は自分が恨まれるなどという発想はなかった。

 “すごい自分を肯定するのが当たり前”

 そんな今日日幼児でも抱かない自己中心的感性を持ち続けていたのだ。

 

「あーあ。負け犬君はジャマトの肥料になっちゃいました~www」

 

 そして伴野はアルキメデルの放り出した死体(ひりょう)――緑谷の前で足を止める。

 

「……そういや、このバックルってジャマト用だよなぁw」

 

 伴野がポケットから取り出したのはジャマトバックル。ガーデン内を散策した際にくすねてきていたのだ。

 

「ははっw これをお前に使ったらどうなるんだろうなwww」

 

 面白半分でそれを緑谷のデザイアドライバーに装填する。その瞬間、ジャマトの因子が注入され緑谷の体が大きく跳ねる。

 

「キッモw 死にかけの魚じゃんwww」

 

 伴野は子供の様に無邪気に笑いながら、もう一つのバックルを取り出す。

 

「ほら、ジャマトにしてやるよwww 喜べよw これで勝ち組人生だぜwww あ、死んでるかwww」

 

 空いている側にもジャマトバックルを装填する。

 本来想定されないバックルを――それも過剰に装填したことで、不具合(バグ)が起きる。

 

「がっ……っ」

 

 それはもしかすると、緑谷の中に眠る個性(ワン・フォー・オール)が原因だったかもしれない。

 個性因子とジャマトの因子がぶつかり合い、バックルに変化をもたらす。

 ツタを思わせるバックルは黒く、中央に刀を携えたかのような形状に変化する。

 

「ははっ! すっげ! これ大発見じゃね?」

「そんな……ありえない」

 

 無邪気に喜ぶ伴野に対し、ベロバは信じられないものを見る目で目の前の事象を見つめている。

 そもそも退場したライダーはバックルを使用できない。参加資格であるIDコアが破損しており、変身のための機能がそもそも起動しないからである。

 唯一の例外がゾンビバックル。

 使用を続けることで使用者に影響を及ぼし不死の特性を与える。

 

 ――BLACK GENERAL

 

 バックルが独りでに抜刀される。

 緑谷の体が浮かび上がり、黒い靄で覆われていく。

 

 ――BUJIN-SWORD

 

 本来ならばありえない姿。変身できるはずのない姿。

 だが緑谷の個性の特異と、伴野の奇行が奇跡的にかみ合うことでそれを可能にした。

 

「…………」

 

 本来光を宿しているはずのタイクーンの瞳は黒く、その上を覆い隠すようなバイザーの赤さを際立たせている。

 全身は無骨な黒いアーマーで覆われ、黒いマントを纏っている。

 その姿はまさに将軍。

 武人の名に違わぬ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

















非常に筆が乗りました。なぜでしょうか()。私の中のベロバがそうさせたのかもしれません。
今回からifルートの本性が姿をあらわしました。その名も“混沌”編です。
早くも混沌の様相を見せていますが、果たしてこれからどこまで落ちていくのか。本編以上の鬱が待っているかもしれませんが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
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