【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

58 / 66
Ex2-5 混沌Ⅱ/漆黒の将軍

――――

――

 

 混沌の一夜が明けた翌日。

 

「――これが、私の知ってるデザイアグランプリの全てです」

 

 宿舎に集められたヒーロー科の面々の前で葉隠は自分の知るすべてを語る。この期に及んで守秘義務などと言ってられない状況であった。

 

「……“勝者は理想の世界を叶えられるゲーム”か」

 

 相澤はテーブルの上に置かれた3つのデザイアドライバー――ナーゴ、ギーツ、パンクジャックの物だ――とビートバックル、ブーストマーク3バックルに視線を送る。

 

「…………ごめんなさい。ずっと隠していて」

 

 葉隠は零れ落ちる涙を押さえる。

 ずっと秘密にしてきたこと、そのうしろめたさを突きつけられ悲しみがあふれてきているのだ。

 

「で、でもさ。本当に何でも願いを叶えてくれんのか? だってさ、こういうの漫画とかじゃ“叶える気がありませんでした”ってなるだろ」

 

 困惑した様子で切島が問いかける。

 勝者の願いを叶える、そんな設定の創作は数多く存在する。だがそれらの様式美(テンプレート)としてよく“そもそも願いを叶える気はなかった”というものがある。

 参加者を募るためのエサ、確かに叶うが実は出来レースだった、叶うには叶うが望み通りの叶え方ではなかった……創作の主人公たちはそんな肩透かしを食らうことが大半だ。

 

「……だから巻き込んで願い叶う瞬間を見せてンだろ」

 

 爆豪は吐き捨てるようにつぶやく。

 確かに思い当たる節があった。

 中三のある時期、緑谷が急に海岸の掃除を始めた頃。

 恐らくそこでデザグラに巻き込まれたと考えれば心境の変化に説得力が生まれる。

 

「だがこれだけの規模だ。いくら守秘義務を貫いたところでいつかは情報漏えいが起こるはずだ。我々の様に巻き込まれた者達にかん口令が敷かれているわけでもない」

 

 ブラドキングはデザグラの事が噂程にも知れ渡っていないことに疑問を覚える。

 確かに参加者たちの間で守秘義務を課したところで、巻き込まれた一般人たちにはそれがない。彼らの手によってデザグラの存在が公にされてしまうことだって考えられる。

 

「――そこで登場するのがスポンサーさ」

 

 疑問に答えるのは物間。

 ラフレシアジャマトとの戦いで消耗していたが、休息したことで会話できる程度にまで回復していた。

 

「デザグラの運営はまずその時代の有力者に取り入る。理想の世界を叶える見返りに資金面、政治面、あらゆる協力をさせるって寸法だ」

 

 どれだけ財を成しても、どれだけ権力を得たとしても、なんでも好きな願いを叶えてくれる――そんな提案に抗えるほど満たされることは無い。

 なぜなら金でも権力でも覆せない自然の摂理というものが存在するからだ。

 永遠の命、大切なものを生き返らせる、強い個性を手に入れる――人の望みはキリがないのだ。

 

「例えば、デザグラで退場してしまった人を失踪扱いで処理する、とか」

 

 超常社会、不慮の事故など日常茶飯事。個性によってはまるで失踪してしまったかのように見せかけ人を殺めるヴィランも存在する。

 そんな行方不明の人間が増えたところで誰も気に留めない、異常事態だと気づきもしないだろう。

 

「――だから失った物はデザグラで取り戻すしかないんだ」

 

 意識を取り戻したエースはテーブルの上に置かれたドライバーへと手を伸ばす。

 

「理想の世界を叶えて、犠牲になった人たちを取り戻す。それしか方法はない」

「待て。俺はお前に確かめるべきことがある」

 

 相澤はその手を掴んで止める。

 

「今年の入試、合格者の中に採点した覚えのない奴が紛れ込んでいた。だが思い返せば確かに採点し、合格を出した……だが確かに名簿を見た瞬間に違和感を覚えた――狐火、お前の事だ」

「……」

 

 相澤の言葉に、察しの良い者は言わんとしていることを既に理解していた。

 勝者の理想の世界を叶えるというデザグラの報酬。

 

「お前は――理想の世界を叶えて雄英に入ったんだな」

「……ああ、そうだよ」

 

 エースはその言葉を肯定した。いつものようにはぐらかすことなく、事実をありのままに伝えた。

 

「……私にはこの場にいる資格はないんだ。だから――放せよ、()()()()()()()()

 

 彼女(?)は怒りのこもったまなざしで相澤を見つめる。

 だがその目の奥底には――

 

「……プロヒーローとしてお前の、お前たちの活動を容認することはできない」

 

 相澤はそれを感じ取るとエースの手を放す。

 

「だが状況を鑑みて見逃すことにする。確かにこの状況をどうにかできるのはお前達だけだ」

 

 この場には合宿に参加していたヒーロー科の面々が集められている。

 だがその中に――緑谷 出久の姿はなかった。

 ライダーとして戦い、散った。

 取り戻すためには理想の世界を叶えねばならない。デザグラを根本から対処せねばならない。

 

「狐火、葉隠、そして物間と言ったな。お前ら3人に、プロヒーロー“イレイザーヘッド”の名の下に戦闘を許可する」

「いいのかイレイザー?」

 

 プロヒーローによる戦闘の許可。それは公の場で個性を使うことの許可ともいえる。

 出すからには正当な理由が必要であり、理由もなく許可を出せば最悪の場合ヒーロー免許のはく奪すらあり得る。

 

「……責任は俺が取る。公安委員会(うえ)に掛け合ったところで、奴らの息がかかってる可能性は高い」

 

 デザグラはあらゆる方面に根回しを行っている。

 この時代であれば、当然ヒーロー公安委員会にも手が回っている事だろう。

 

「大丈夫さ。私が――全部終わらせるから」

 

 エースはドライバーとブーストマーク3バックルを手に取る。

 その目には、復讐で燃える炎が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 頭が上手く回らなかった。

 辛うじてバイトの事を思い出し、トラックを運転して営業所まで帰った。退勤し、暑くなりつつある帰り道を歩いていた気がする。

 

「……緑谷ッ」

 

 思い返されるのは退場し消滅する緑谷の姿。

 あと少し早く合流できていれば、助けることができていたかもしれない。道に迷っていなければ、同時に退場してしまっていた聖拳も助け、緑谷も助けることができていたかもしれない。

 ああしていたら、こうしていたら、そんなもしもが頭の中を駆け巡り、めぐるごとに怒りの炎がくすぶっていく。

 激しく燃える怒りではない。

 くすぶりながらも復讐を目論み滾る怒り。

 

「……はぁ」

 

 気が付けば家についていた。鍵を開けるのを億劫に感じながらもなんとかシリンダーを回し、倒れ込むようにしてドアを開ける。

 むせかえるような熱気。空調などない部屋はいら立ちを増幅させるにもってこいだった。

 

『――よお、災難だったな牛込 茜』

「…………」

 

 部屋の中央、ちゃぶ台の上に見覚えのない置物があった。

 スーツを着込み、頬杖をついてこちらを見詰めてくる蛙。

 声はそこから発せられていた。

 

『っておい! 待て待て待て何する気だ!?』

「……捨てる」

 

 怪しさ満点の置物を放置するほど彼女はずぼらではなかった。

 牛込は汚物を持つように置物を手に取り、ごみ箱へと直行する。

 

『馬鹿野郎! 捨てるんじゃねぇ!』

「……ったく。誰の悪戯よ……大家さんに言っとかないと」

 

 置物からの声など意にも介さずごみ箱の蓋を開く。

 

『待てよ()()()()! 俺はお前のサポーターだっ!』

「ッ」

 

 限られた者しか知らない自分の名を叫んだ置物。彼女はごみ箱の上で手を止める。

 

「……サポーター?」

『ああそうだ。俺はケケラってんだ』

 

 蛙の置物――ケケラは牛込が思いとどまってくれて胸をなでおろしている。

 

『まあひとまずテーブルの上に置きなおしてくれよ。このままじゃ落ち着かねぇ』

「……」

 

 牛込は怪訝な目でケケラを見つめつつも、彼(?)をちゃぶ台の上に置きなおす。

 

『ふぅ……突然押しかけて悪かったな。推しの一大事と聞いていてもたってもいられなくてよ』

「推し……? あたしをアイドルかなんかと勘違いしてない?」

『アイドルか。いい得て妙だな。実際俺にとっちゃお前は偶像(アイドル)みてぇなもんさ』

 

 ケケラは軽薄な調子で答える。

 

『俺はよ。お前が初めてデザグラに関わった瞬間から目をかけてたんだぜ? いつかきっとデザ神となって理想の世界を叶えるってよ。だから俺はお前をライダーに推薦したのさ』

「……は?」

 

 デザグラの参加者は厳正な審査を経て選ばれている。

 その厳正な審査とは――観客(オーディエンス)によって行われている。

 観客が気に入った人間をエントリーさせ、ゲームに挑ませる。つまりはいかに気に入られるかがキモとなってくるのである。

 

『おいおい。デザグラは慈善事業じゃねぇんだ。俺たちみたいな観客(ファン)のお布施で成り立ってるんだぜ?』

「……あっそ」

 

 だが牛込はそんな裏事情などどうでもよかった。

 胸の奥でくすぶり続ける怒り。これをどうにかしたいと顔を顰め続ける。

 

『……余裕がねぇなオイ。タイクーンをやられたのが余程ショックだったようだな』

「……何が分かるってのよ」

 

 何気ないケケラの一言が牛込の怒りを燃え上がらせる。

 彼女はケケラにつかみかかる。

 

「安全な所から見てたあんたに、あたしの何が分かるってのよッッ!」

『分かってるから寄り添おうとしてるんじゃねぇかよッ!』

 

 だがケケラも負けじと言い返す。

 

『大切な奴を失えばそりゃ怒りの一つや二つ抱くってもんだ。だがその怒りのまま復讐に走ったって、あいつらは喜ぶのか?』

「……ッ!」

 

 牛込のしようとしていることはただの復讐だ。

 タイクーン――緑谷を奪ったダパーンへの仇討ち。

 だが本当に彼はそんなことを望むのだろうか? 他人の為ならば躊躇うことなく動くことの出来た彼が、誰よりもヒーローに向いている彼が、そんな復讐を望むのだろうか?

 

『怒りを抱くのは間違っちゃいねぇさ。だがそれを向ける先を間違えちゃあいけねぇよ。お前にはまだ“手”が残されてるだろう?』

「……あたしに、何ができるってのよ……?」

 

 その瞬間、笑うはずのないケケラの人形の口元が笑った気がした。

 

『――デザ神になれ、牛込 茜。お前が理想の世界を叶え、タイクーンを生き返らせるんだ』

「あたしの……理想」

 

 彼女の理想の世界――“デザイアグランプリで退場したすべての人がよみがえった世界”

 確かにそれを叶えれば退場した者は蘇るだろう。

 だが緑谷は()()()()()退場したわけではない。ゲーム外の想定外(イレギュラー)で退場してしまったため、彼女の理想の範囲内に彼は含まれない。

 

「ダメよ……あいつは、デザグラで退場してないし」

『デザイアカードなんて俺がもう一度書き直させてやるさ。タイクーンだけじゃない、お前の幼馴染、お前を助けて散ったライダー、助けたい奴を助けてやれる世界を叶えればいいのさ』

 

 ケケラの表情は薄ら笑いのままだったが、どこかその瞳が暗く、怪しげに揺らめくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ――デザイア神殿。

 

「あーどうしましょ。ヴィジョンドライバー失くすわニラムと連絡取れないわ……はいもう考えるのやーめた」

 

 着任早々数多のトラブルに見舞われたチラミはすべてを諦めたように天を仰ぐ。

 数多のクレームが鳴り響く中、彼は考えるのを止める。

 この事態を解決できたであろうプロデューサーのニラムは音信不通。夢であるなら覚めて欲しい、そんな言葉が似あう状況だった。

 

「――呆れたな」

「だっ誰!?」

 

 そんな時、神殿に“四次元ゲート”が開き仮面をかぶった男が姿を現す。

 暗い色のスーツを身にまとっており、体格はチラミ以上にがっしりとしていた。仮面を取るとその下の表情は険しく、不機嫌の絶頂であるかのようだった。

 

「えぇ……“ジット”じゃないの。今のゲームマスターはワタシが任されてるのよ! “バッドエンド請負人”の出る幕じゃないわ」

 

 仮面の男――ジットは鋭い眼光をチラミに向ける。

 

「それにあんたの出番は最終(グランドエンド)シーズンじゃないの。はい、回れ右!」

「……誰のせいで俺が派遣されたと思っている?」

 

 軽薄な調子で追い返されそうになったジットは懐から特殊警棒を取り出し伸長させる。

 

「えっ、あっ……えっ?」

「ジャマトの管理もできず! 不慮の事故でライダーを退場させ! 挙句の果てにヴィジョンドライバーを紛失する!」

 

 ジットは特殊警棒をチラミにつきつけながら一歩ずつ距離を詰めていく。

 チラミは詰められるごとに後ずさろうとするも、後ろには何もなく下がることができない。

 

「おまけに――()()()()()()()()()()()ハズのダパーンがIDコアを手に入れている!?」

「ヒィッ!?」

 

 警棒で肩を打ち据えられチラミは思わず膝をつく。

 

「まあコアの出自はこの際どうでもいい」

「ほっ……」

 

 安堵の息を吐いたチラミをジットは鋭く睨み付ける。その態度はチラミがコアを横流しにしたと白状するようなものだった。

 

「――ニラムが()られた」

「ええっ!?」

 

 秘書サマスの反逆。ニラムは信頼していた秘書の凶弾によってこの世から姿を消していた。

 

「スエルはこの状況でデザグラの続行は不可能と判断し――終幕(グランドエンド)を決断した」

「っ……だからあんたが派遣されたのね」

 

 ジットは終幕(グランドエンド)時に派遣されるゲームマスター。

 彼のゲームメイクは――悪辣の一言に尽きる。

 多くの人間を不幸にし、数多の悲劇を生み出す。他人の不幸を何よりも好む()()()()()オーディエンスを満足させるために行われる最後のデザイアグランプリ。

 それがゲームマスター、ジットの本領であった。

 

「スエルは残念がっていたよ――この時代のデザグラは人気だったのに、こんな形で幕を閉じねばならないことをな」

 

 ジットは特殊警棒をゆっくりとチラミの首筋へと運んでいく。

 

「えっまっちょっ……!」

「そしてこうも言っていた――お前のようなゲームマスターはクビだ、と」

 

 チラミはジットのしようとしていることに気づき青ざめている。

 

「待って! ワタシはまだまだやれるわっ! そうよ! ヴィジョンドライバーさえ見つければ」

「悪いが命乞いは聞かない主義でね」

 

 警棒が空を切る。

 鈍く、乾いた音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 当てもなく街をさまよう。

 

 ――『――デザ神になれ、牛込 茜。お前が理想の世界を叶え、タイクーンを生き返らせるんだ』

 

 頭の中でケケラの言葉がぐるぐると駆け巡る。

 

 ――『タイクーンだけじゃない、お前の幼馴染、お前を助けて散ったライダー、助けたい奴を助けてやれる世界を叶えればいいのさ』

 

 好きな者だけ生き返らせる。確かに理想の世界ならばそれも許されるだろう。

 だがそれは到底ヒロイックとは言えない。エゴにまみれた自分本位な願いである。

 

(ムツキも……緑谷も、あたしを助けてくれたあのおっさんも、みんな助けてあげたい……でも、ダパーンみたいな奴は助けたくない……ッ!)

 

 デザグラで退場したすべての者が善人であるとは限らない。

 中にはダパーンすら可愛く見えるほどの悪人だって含まれているはずだ。

 そう考えた瞬間、皆を等しく平等に助けたいとは思えなくなってしまっていた。

 

「……あたし、最低だ……っ!」

 

 憎しみによってあぶりだされた醜いエゴ。

 牛込は自分の胸に湧き上がるエゴを感じ、激しい嫌悪感に襲われた。

 

「――緑谷さんの、彼女さん?」

 

 どこまでも自己嫌悪に陥っていた彼女を呼ぶ声がする。

 振り向けばそこにはツムリ――とよく似た少女、浮世(うきよ) 作世(さよ)がいた。

 作世(さよ)は暗い表情の牛込を心配そうに見つめている。

 

「あんた……あの時の」

「その節はどうも。何かあったんですか? そんな暗い顔して」

 

 純粋な善意の心配が、どこまでも牛込を傷つける。

 醜い自分のエゴをつつかれているようで、激しい嫌悪感に襲われる。

 

「別に……あんたに関係ないじゃない……」

「関係ないのは承知の上です! 助けてもらったんだから、私もあなたの力になりたいんです!」

 

 心が痛む。

 善意がナイフの様に突き刺さり、ゆっくりと深く突き刺さっていく。

 

「やめて……っ!」

 

 悪意に染まった心を、際限なく傷つけていく。

 

「やめてっ! あんたには関係ないんだから、ほっといてよ……!」

 

 拒絶しようとしても、振り払えない。

 その善意が心地いいものだから、本当は受け入れたいものだから、突き離せない。

 

「――あーあw ひっでぇwww」

 

 能天気な笑い声が響く。

 どこまでも人を見下し、あざ笑うような声。

 

「ッ! あんた……!?」

 

 牛込はその声を聴いた瞬間、怒りの炎が燃え上がるも隣に控えていた人物を見て固まる。

 

「……緑谷、さん?」

 

 作世(さよ)は伴野の隣で佇む緑谷を怪訝な目で見つめる。

 虚ろな瞳で、頬はツタのようなものが侵食している。

 

「ははっw 無個性女もいるとか。丁度いいじゃん……勘違い女たちをわからせるのにうってつけだwww」

 

 伴野はニヤニヤしながら緑谷(?)の肩に手を置く。

 

「そんな……あいつは――タイクーンは退場したはずじゃ」

「うっわw これだから馬鹿な女は困る――退場したからここにいるんだろ?」

 

 牛込の怒りが再び燃え上がる。

 理屈はわからないが、伴野は命を落とした緑谷を弄んでいるのだ。その亡骸に細工をし、物言わぬ操り人形に仕立て上げる。

 恐らくこうしてゆかりのあるの者達を襲わせようとしているのだ。

 

「……ッ許さない!」

「へっ?」

 

 ――SET

 

 ドライバーを装着しゾンビバックルを装填する牛込。見たこともないアイテムに作世(さよ)は驚き目を見開いている。

 

「変身っ!」

 

 ――ZOMBIE ...

 

 牛込はバッファへと変身すると、即座にゾンビブレーカーを構える。

 

「姿が、変わった……?」

「ははっw いいのか? 一般人の前で変身しちゃってさwww」

 

 変身に驚いている作世(さよ)

 伴野は愉快そうに笑っているも、バッファが意に介さず向かってきているのを見て冷静さを取り戻す。

 

「……そっちがその気なら、相手してやる――こいつがなw」

 

 伴野が指示を出すと、緑谷(?)はバックルを取り出す。それは黒一色で、中心には刀のようなパーツが取り付けられている。

 

 ――SET AVENGE ...

 

 緑谷(?)の体を黒い靄のようなものが包み込む。

 ――瞳が禍々しい緑に輝く。

 

ジュラピラ(へんしん)

 

 ――BLACK GENERAL

 

 靄に包み込まれた体が変化していく。

 仮面はタイクーンを思わせるタヌキ、だがその瞳は暗くバイザーの赤が一際輝いている。

 体は無骨な黒い鎧で包まれ、背には黒いマントがたなびいている。

 

 ――BUJIN-SWORD

 

 靄の中から一振りの刀――武刃が姿を現す。

 タイクーンはそれを掴むと、ゆっくり鯉口を切る。わずかに露出した刀身にタイクーンの仮面が映し出される。

 

「何よ……それ」

「ははっw 面白いだろ? ジャマトの力を与えたらこんな姿になるんだからなぁ!」

 

 ――MAGNUM

 

 伴野もダパーンに変身し、2対1となる。

 バッファはどちらも斃さなくてはならない“敵”であると割り切り、それを認めねばならないフラストレーションをぶつけるようにゾンビブレーカーを地面に叩きつけた。

 

「……サヨ、あんた下がってなさい」

「っ……はい」

 

 覚悟を決めたバッファは、足でゾンビブレーカーのスライドを操作する。

 

「……やってやるわよ……あんたみたいなクズぶっ殺して、あたしがデザ神になってやるわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――さて、とくと拝ませてもらおうか」

 

 時を遡ること数分前、牛込と伴野が遭遇したころ。

 彼女たちの様子を物陰から見守る人物が一人。

 髪には白と緑のメッシュが入っており、スーツは胸元を大きく開け18金のネックレスが覗いている。どこからどう見てもアングラな世界の住人そのものであった。

 

「牛込 茜……早く覚悟を決めろ」

 

 その正体は――ケケラ。

 蛙の置物は推しの警戒心を解く仮の姿、否、もう一つの姿。

 容姿を自由自在にデザインできる彼らにとって姿は文字通り見せかけの物でしかなかった。

 

「こっちに手札はそろってんだ。後は覚悟を決めるだけだぜ?」

 

 ケケラのスーツの胸元には、ヴィジョンドライバーが仕舞われていた。

 チラミの手から離れたそれは、こうしてケケラが拾得していたのである。彼はそれの返却をする見返りに牛込のデザイアカードの書き換えを目論んでいるのだ。

 

「――相変わらずですねぇケケラさん」

「……んだよこれからがいいとこだってのに」

 

 声をかけられたケケラは煩わしそうに頭を掻きむしる。

 

「推しが退場して傷心かと思ったぜ、セセラ?」

「絶賛喪中だっつーの。だからってじっとしているわけにもいかねーでしょ」

 

 暗がりから姿を現すのは、銀灰色のストレートヘアにどこかタヌキを思わせる顔立ちの女性――セセラ。

 タイクーンが推しだった彼女は、今まさに悲しみのどん底に落とされていた。

 

「大人しくヴィジョンドライバー返却しなさいよケケラさん。よからぬこと企んだって無駄」

「そう急かすな。今まさに、俺の推しが覚悟を決めようとしているんだ! ヴィジョンドライバー(これ)はそのために必要な手札(カード)なのさ」

 

 ケケラは牛込たちの様子をじっくりと見物している。セセラの忠告などどこ吹く風だった。

 

「――やってやるわよ……あんたみたいなクズぶっ殺して、あたしがデザ神になってやるわっ!」

 

 牛込の啖呵が響いてくる。

 その瞬間、ケケラは大きく目を見開きその顔が歓喜で染まる。

 

「~~ッ! いいぞッ! クククッ! そうだ、それでいいッ!」

 

 笑いをこらえようと前かがみになるも、耐え切れず終いには笑い出す。

 

「クハハハッ! いつ見てもたまらん! ククッ……いい子ちゃんぶった奴が、善人の仮面を捨て、醜い欲望(エゴ)をむき出しにする、この瞬間っ!」

 

 抱腹絶倒するケケラをセセラは冷ややかな目で見つめる。

 到底理解できない、理解しようとも思わない、そんな様子だった。

 

「……“醜い欲望を仮面で隠し、欲望のために戦う戦士”、相変わらず趣味の悪い笑いだこと」

 

 ――SESERA:SET

 

 交渉の余地がないと判断したセセラは、レイズライザーにカートリッジを装填して構える。

 

「……“悲しき涙を仮面で隠し、歯を食いしばり戦う戦士”、だったか。お前の求める“笑い”はいつ聞いても理解できん」

 

 ――KEKERA:SET

 

 ケケラもまたカートリッジに黒く禍々しいカードへ差し替え、レイズライザーに装填する。

 

「変身」

「ふん」

 

 ――LASER ON ...

 

 ――LASER ON!

 

 銃弾同士がぶつかり合い、主の下へ到達するとその装甲を形成する。

 

 ――SESERA:LOADING ...

 

 ――PREMIUM KEKERA

 

 セセラは女騎士とタヌキを組み合わせたような姿へ、ケケラは禍々しい蛙のような異形へ、それぞれ変身した。

 

「大人しくお縄につきなさいよケケラさん。あんたに推されたんじゃあの子も迷惑でしょうに」

「推しのストーキングするお前よかマシだ」

 

 同じく笑いを求めるも、主義の異なる二人のぶつかり合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――ッ!」

 

 武刃が一閃する。バッファは咄嗟にゾンビブレーカーでそれを受け止める。チェーンソーの刃が武刃をへし折らんと回転する。

 タイクーンは即座に武刃から手を放すと掌底を放つ。

 武刃が宙を舞う。丸腰となったタイクーンは自然体でバッファを待ち構える。

 

「っナメ、んじゃないわよッ!」

 

 掌底を喰らってよろめいていたバッファは怒りを糧に踏ん張り、肩でゾンビブレーカーのスライドを操作する。

 

 ――POISON CHARFE

 

 対するタイクーンはバックルの刀を納刀する。

 

「――ははっw」

 

 無論、勝負はタイマンではない。近くの街灯の上からダパーンが援護射撃をするも、バッファには全くと言っていいほど効いていなかった。

 

「ッッ!」

 

 ――TACTICAL BREAK!

 

 先に動いたのはバッファ、ゾンビブレーカーを大きく振りかぶりながら突進する。ダパーンの狙撃がそれを阻もうとするも、彼女は意に介さず突き進む。

 

 ――宙を舞う武刃の刀身にバッファの姿が映し出される。

 

 ――BUJIN-SWORD STRIKE ...

 

 タイクーンは舞い降りてきた武刃を即座に掴み、バッファの攻撃を紙一重で躱す。

 

「えっ……!」

 

 そして無防備な背を一刀両断した。

 続けざまにバックルの刀を2回連続で納刀、円月で構える。

 

 ――BUJIN-SWORD VICTORY ...

 

 タイクーンは地面を転がりつつも体勢を整えていたバッファに追い打ちを仕掛ける。

 

「かは……っ!」

 

 ゾンビバックルが外れ、変身が解除される。牛込は膝から崩れ落ち、仰向けに倒れ伏す。

 

「ざっこw 弱すぎて笑えるwww」

 

 対した戦果も挙げてないにも関わらず、ダパーンは力なく倒れる牛込を煽り倒す。

 意気揚々と街灯から飛び降り、地面に転がっているゾンビバックルを嬉しそうに拾得する。

 

「……」

 

 もうすっかり勝った気でいるダパーンに対し、タイクーンは最後まで手を抜く様子はなかった。

 倒れる牛込の下に歩み寄り、彼女の首元に武刃の切っ先を突きつける。

 

「……ッ」

「容赦ねーwww さっすがジャマト様だwww」

 

 牛込は武刃を掴んで止めようとするも、それを察したタイクーンによって阻まれる。

 万事休す、タイクーンは思い切り武刃を振り上げ――

 

「――やめてっ!」

 

 タイクーンを止めたのは作世(さよ)だった。

 彼女は恐怖で顔を歪めながらも、牛込を救おうと必死だった。

 

「正気に戻ってください……っ! 緑谷さん、あなたはそんな人じゃ無いハズです……ッ!」

「……」

 

 タイクーンの瞳が揺らいだように見える。作世(さよ)の手を振り払おうともせず、されるがままに受け入れていた。

 

「でしゃばんなよw 無個性はそのへんでピーピー泣いてろってw」

「きゃっ!」

 

 作世(さよ)の説得がタイクーンを変えたかに見えたが、ダパーンがそれを阻む。作世(さよ)を殴り飛ばしたダパーンはタイクーンから武刃を奪い取るとそれを作世(さよ)に向ける。

 

「……勘違い女には、ちゃぁんとわからせてやんないとなw」

 

 武刃を手にしたダパーンはこれ見よがしにそれを構える。仮面が無ければ今にも刀身を舐めだしそうだった。

 

「ッその子は関係ないでしょ……! やるならあたしをやれよっ!」

「そう急かすなってw ちゃんとお前もわからせてやるからよwww」

 

 どうにかして狙いを自分に引き戻そうとする牛込だったが、ダパーンはあざ笑うだけで意に介さない。

 タイクーンは電池の切れた人形の様に微動だにしなかった。

 

「っ待って――!」

 

 牛込は傷ついた体にむちを打ち手を伸ばす。作世(さよ)は助けを求めるような目で見つめている。

 

(助けなきゃ……っ! こいつを、ぶっ潰してッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

「っなんだ?」

 

 ハンドベルのような、軽く甲高い音が響き渡る。

 牛込の装着していたデザイアドライバーが光り輝き、右側のスロットには黄金に輝くバックル――フィーバースロットバックルが装填されている。

 

「っ!」

 

 考えている余裕はなかった。

 彼女はすぐさまバックルを起動し変身を試みる。

 本来フィーバースロットバックルは複数の絵柄から一つが抽選され変身するギャンブル性の高いバックル。

 だがそれは彼女にとって都合の良い物が選出される。

 

 ――ZOMBIE !

 

 牛込の姿がバッファへと変化する。だがその仮面の角は肥大化しており、天高くそびえたっている。

 

 ――HIT! ZOMBIE!

 

 だがそれを除けば通常のバッファと何ら変わらぬ姿だった。

 

「何……これ?」

 

 突如として起きた奇跡に、バッファは戸惑うように自分の手を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

「――ほう……」

 

 そんな奇跡を目撃するものが一人。

 仮面を装着し、ローブを身にまとう男。だがグローブの裾から覗くはずの素肌は見えず、まるで透明人間であるかのようだった。

 

「創世の力……ミツメ以外にも存在していたとはな」

 

 仮面の人物の視線は作世(さよ)へと注がれている。彼女もまた、何が起こったのかわからず目を白黒とさせていた。

 

「丁度いい。終幕(グランドエンド)と同時に、彼女も回収させてもらおうか……」

 

 仮面の男は愉快そうに笑う。

 デザイアグランプリの終幕まで猶予は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















次回作の制作発表があると最終回を感じますね……
もう1年ギーツを見たさもありますが、ガッチャードに期待ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。