【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-6 混沌Ⅲ/推しのためならば

――――

――

 

「――何……これ?」

 

 自分の身に起きた奇跡に戸惑うバッファ。

 

「は? なんだそれ……ご都合主義なんか誰も期待してねぇんだよッ!」

 

 突如として起こった想定外にダパーンは憤り、標的をバッファへと切り替える。

 バッファは迫りくるダパーンに向けてゾンビブレーカーを振り抜く。その瞬間、肥大化したバッファの角が輝く。

 それはただの反射、カウンターに過ぎなかった。

 

「が……ッ!」

 

 ダパーンは仮面の下で苦悶の表情を浮かべる。攻撃を受けたマグナムチェスターにはヒビが入り、それの破片をまき散らしながら吹き飛んでいく。武刃とマグナムシューターが手放され宙を舞い、腰のホルダーで保管していたゾンビバックルは外れて転がっていく。

 

「え……?」

 

 何気ない攻撃が致命傷を与えたことに戸惑うバッファ。

 彼女の足元にダパーンの手を離れたゾンビバックルが転がる。

 

「……っ」

 

 ――SET

 

 宙を舞っていた武刃はタイクーンの前に突き刺さる。動きを止めていたタイクーンはそれを認めると引き抜く。そして遅れて落ちてきたマグナムシューターもキャッチし構える。

 

 ――HIT! FEVER ZOMBIE!!

 

 バッファの両足にゾンビの装甲が装着される。そしてその背には紫のマントがたなびいている。

 

「……」

 

 タイクーンはバッファに向けて弾丸を放つ。

 攻撃が当たる瞬間、バッファのマントが輝く。

 

「……?」

 

 弾丸は青いエネルギーに包まれ霧散する。二度、三度と続けて放たれるも、すべて青いエネルギーで相殺されてしまう。

 タイクーンはマグナムシューターでは有効打を与えられないことを悟り、それを捨て武刃を鞘に納刀し居合の構えを取る。

 

「っ考えてる場合じゃ、ないわね」

 

 バッファは状況の理解を諦めタイクーンに向き直る。

 タイクーンはカウンターを狙っているのか、構えたまま動かない。

 無視して先にダパーンを斃すこともできる。だがバッファにそんな駆け引きはできなかった。

 

「っらあッッ!」

「!」

 

 愚直な突進、タイクーンはすれ違いざまに抜刀し居合を決めるも、刀身はバッファの体を滑るだけに終わる。

 

「……すごい防御力ね。全然痛くないわ」

「……!」

 

 初めてタイクーンが感情のようなものを発露する。

 戸惑うような、困惑しているような、そんな感情だった。

 

「この力なら……あんたを眠らせてあげられるかもね」

 

 バッファはゆっくりとゾンビブレーカーのカバーをスライドさせる。肥大化した角が一際輝く。

 タイクーンは惑いながらも、すぐ近くに盾となる存在がいることに気づく。

 

「――んなっ!? 何すんだよっ! 離せっ!」

 

 タイクーンは偶然近くにいたダパーンの首根っこを掴み、盾の代わりとした。

 

「くそっ! ふざけんなっ! 何攻撃しようとしてんだよッ! お前がぶっ殺そうとしてんのは俺じゃないだろっ!」

 

 ダパーンは苦し紛れにアーマードガンを展開しバッファを迎え撃とうと試みる。

 だが弾丸は青いエネルギーに阻まれ届くことは無い。

 

「別に……順番が変わるだけよ」

 

 ――TACTICAL BREAK!

 

 バッファは躊躇うことなくゾンビブレーカーを振り下ろした。

 必殺技はボロボロとなっていたダパーンを打ち破るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――チィッ!」

 

 少し離れたところではセセラとケケラの戦いが繰り広げられていた。

 セセラの放つ銃弾は一見外れるような軌道を描きつつも、湾曲しながらケケラへと飛んでいく。

 

「相変わらずいやらしい力だぜっ!」

 

 迫りくる弾丸から逃げようとしていたケケラは、近くに木箱が転がっていることに気づくとそれを盾に攻撃を躱す。

 

「相変わらずキショい見た目ですねぇ。自分自身に課金する奴はそうなっても仕方ないって感じですかねぇ」

「っせーな! 俺は推しをより間近で支援するためにプレミアム会員になってんだ!」

 

 ケケラは負けじと蛙のような舌を振り回して牽制する。セセラは軌道を見切ると紙一重でそれを躱す。

 

「第一、どうして俺の“推し活”を邪魔するんだ! 俺が推しをどう支援しようと勝手だろうがッ!」

「んなもん、決まってるでしょーが」

 

 ――FINISH MODE ...

 

 セセラはレイズライザーのクロスオルタネーターを操作し、必殺技を放つ体勢に入る。

 

「推しが守ろうとしてたもんを守りたい、ってだけ」

「……ケッ!」

 

 ――FINISH MODE!

 

 ケケラは気に入らないとばかりにクロスオルタネーターを操作する。

 

 ――LASER VICTORY ...

 

 ――LASER VICTORY!

 

 必殺技がぶつかり合い、大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

(ミドリヤ……君の敵は私が必ず)

 

 エースは一人、ダパーンの行方を探っていた。

 爆豪から経緯を聞いた彼女(?)はダパーン――伴野へと復讐の標的を向ける。その胸中を支配するのは――復讐心。大切な人を奪った者への憎しみだった。

 

「――ひどい顔♡」

「お前は」

 

 休息のために立ち寄った公園、そのベンチにベロバが一人腰かけていた。

 けがをしているのか、頬には大きなばんそうこうが貼られていた。

 

「丁度いい……君からダパーンの居場所を聞くとするよ」

 

 エースはドライバーを装着するとバックルを構える。

 

「……知らないわよ。アイツの居場所なんて……第一、知ってたら真っ先にあんたに教えてあげるわよ」

「……その言葉を、私が信じるとでも?」

 

 ベロバは憎しみに染まったエースを見て小さく鼻で笑う。

 

「フン! ……あんたの不幸を見れば気が晴れるかと思ったけど、そんなひどい顔じゃ興ざめね」

 

 ――LASER RAISE RISER ...

 

 彼女は薄ら笑いを浮かべながらも、レイズライザーを取り出す。

 

「でも、憂さ晴らしの相手にはなってあげてもいいわよ♡ ううん、あんたで憂さ晴らししてやるわ!」

 

 ――PREMIUM BEROBA

 

 プレミアムベロバへ変身したベロバを見たエースは、静かにバックルを装填する。

 

「話が早くて助かるよ」

 

 ――BOOST:Mark.3

 

 ギーツの背後に展開された破壊の尾が周囲の遊具を破壊していく。ブランコは歪んで鎖が絡み合い、滑り台は中腹で急な上り坂を生み出す。ジャングルジムはピラミッドのような四角錐の様になっていた。

 

「復讐に燃える化け狐、かしら?」

「…………」

 

 破壊の尾がベロバへと伸びていく。触れれば重症となることを理解しているベロバはそれを躱し、距離を詰める。

 迫りくる尾をレイズライザーで撃ち抜きつつ、ベロバはギーツの懐へと潜り込む。

 

「!」

「……あら、案外隙だらけね♪」

 

 ――FINISH MODE ...

 

 レイズライザーの銃口がギーツの顎にあてがわれる。

 必殺技がゼロ距離で命中し、ギーツは変身解除しながら吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……あっ……」

「……興ざめね。私の推しの分際で……よくもまあこんな恥を晒せたものね」

 

 ベロバは変身解除し、心底つまらなさそうな表情を浮かべる。

 能力にかまけて隙を晒すなど、普段のギーツにあるまじき失態だった。

 

「誰の……推しだって?」

 

 エースは呻きつつもベロバを睨み付ける。

 

「わ・た・し・の! 推しよ。あんたは私の最高の不幸を与えてくれたわ。あの時ほどゾクゾクしたことなんて……アハハ! 人生で一番ゾクゾクしたわ!」

 

 それは8年前、エースが大切な人を失ったときの事。

 ジャマーエリアの壁の向こうで蹂躙される恩人、狐火 英寿(ひでとし)。彼を助けることもできず、ただただ無力感にさいなまれていた。

 ベロバはそんなエースを見ていた。

 次々と退場していくライダーの不幸を味わいつつも、エリアの外側で生まれた不幸に歓喜した。

 生まれて初めて味わう最高の不幸、それをもう一度味わいたくて彼女はエースをデザグラに推薦した。

 

「ま、ジーンの野郎もあんたを推してたわよ。私、同担拒否だからもうあんたのことはもうどうでもいいけど」

 

 全てを聞いてもなお、エースは無関心だった。

 デザグラの秘密の一端を漏らされたのにもかかわらず、彼女(?)の心には憎しみしか宿らない。

 ダパーンを斃し、緑谷の敵を討つ。

 それ以外のことはまるで眼中になかった。

 

「フン……一つ、いいことを教えてあげる♡」

 

 憎しみ一辺倒のエースの表情が気に入らなかったのか、どうにかしてその顔を不幸に染めてやろうと思ったのか、ベロバは意地の悪そうな笑みを浮かべつつエースの耳元に口を近づける。

 

「タイクーン、ダパーンのおもちゃにされちゃってるわよ」

「ッ!?」

 

 エースは思わず目を見開く。

 殺されてなお安らかに眠ることを許さないダパーンにエースの怒りは頂点に達し、同時にそんな状況を許してしまった自分自身の不甲斐なさに絶望する。

 

「そうよ、あんたはその不幸(かお)がお似合い。はぁ……やっぱりあんたの不幸はゾクゾクする♡ 今まで見てきたどんな不幸も、あんたのに比べたら」

 

 ベロバは愛おしそうにエースの頭をなでる。

 

「あんたに復讐なんて似合わないわ。もっと私好みの不幸を見せて? もっと私をゾクゾクさせて頂戴!」

 

 その一方的な執着は、少しだけエースの憎しみを忘れさせた。

 偶然にも憎しみを中和した。

 

「……そんなに不幸が見たいなら、鏡でも見てみたら?」

 

 いつもの調子を取り戻したエースは、不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「きっと、いい不幸が見れるだろうね♪」

「ッ! 誰が不幸ですって!?」

 

 ベロバの平手を受けたエースは、戦闘で負っていたダメージも相まって意識を手放してしまう。

 

「私は……不幸なんかじゃないわ……!」

 

 彼女は自分に言い聞かせるようにしながらその場を後にする。

 意識を失ったままのエースは、一人公園に取り残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

(緑谷くん……っ!)

 

 合宿は中止となり、生徒たちは帰宅し自宅待機を命ぜられていた。

 葉隠は自分の部屋に閉じこもり、一人悲しみに暮れる。

 

「……っ私、どうしたら」

 

 その傍らにはデザイアドライバー。

 変身に必要なビートバックルはそこに無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

『――嫌っ』

 

 エースが飛び出していった後、葉隠は絞り出すようにつぶやいていた。

 

『私……もう戦えない……!』

 

 デザグラの全てを話し、感情をせき止める物が無くなると、葉隠の胸中は悲しみに埋め尽くされる。

 次から次へと涙が零れ落ち、目の前は滲んで見えなくなる。

 

『ンだとコラ……何寝ぼけたこと言ってやがんだッ! アア!?』

『落ち着け爆豪!』

 

 弱音を吐いた葉隠に思わず掴みかかろうとする爆豪。戦う力があるのにも関わらず、それを放棄しようとしている葉隠に腹が立ったのだろう。

 

『あのクソパンダをぶっ殺せんのはお前らだけだろうがッ!』

『だったら爆豪くんがやりなよッ! 私は、もう……!』

 

 葉隠は自分のドライバーを渡そうとするも、物間に止められる。

 

『無駄だよ。ドライバーは全員共通だけど、IDはその人専用だ。つまり、ナーゴのIDコアで変身できるのは君だけさ』

 

 たとえ他人のドライバーを盗んだとしても、IDコアが無ければ変身することすらできない。故にIDコアは紛失してはならないのである。

 物間はテーブルに置かれたままのビートバックルを手に取る。

 

『戦う意思がない相手に戦わせようとするなんて、酷なことだと思わない? ……えーっと、クソの下水煮込み君、だっけ?』

『……まずテメーからぶっ殺すぞニヤけ面』

 

 物間に煽られたことで爆豪のヘイトが切り替わる。

 

『……無理に戦えとは言わん。あくまで俺は“ライダーとしての戦い”、とやらを黙認すると言っただけだ』

 

 相澤は泣き崩れる葉隠の頭に手を置く。

 

『お前らもこれ以上とやかく言うなよ。そんなこと言わせるために同席させたんじゃない。この訳の分からん事態の原因を知る権利がある、そう思ったからだ』

 

 鋭い視線を受け、ヒーロー科の面々は思わず顔を伏せる。

 ヒーローを目指しているのだから戦うべきだ――そう説得しようと思っていた者も少なくないのだろう。

 そんな雄英生を見た物間は、呆れたように肩をすくめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 ビートバックルは物間が持ち去り、恐らく彼はそれを使って戦いに赴くのだろう。

 葉隠はこみ上げてくる涙を押し殺すように顔を覆う。

 

「…………?」

 

 不意に視線を感じた葉隠は部屋の入口へと目をやる。

 そこにはもじゃもじゃ髪のイケメンが静かにたたずんでいた。

 

「~~~~~~ッッ!?」

 

 突然現れた不審者に彼女は声にならない悲鳴を上げた。

 

「…………」ボソッ

 

 もじゃもじゃ髪のイケメン――キューンは何かをつぶやくも、声量が小さすぎて葉隠に届かない。

 

「だっだだ……誰っ!?」

「……キューン、君のファン」

 

 辛うじて誰何出来た葉隠、キューンは口数少なく自己紹介した。

 

「ふぁっファン!? えっ……もしかしなくても、ストーカーってヤツ!?」

それは違う!

 

 不審者扱いされた(当然だが)キューンは不服と言わんばかりに声を荒げる。

 だがそれに続けて言葉を紡ぐことができずに口をもごもごさせている。

 

「……ナーゴが、デザ神になって欲しいと、思ってる」

「えっ……もしかして、デザグラの関係者?」

 

 こくり、とキューンは頷く。

 葉隠はツムリの神出鬼没さに思い至り、突然現れたキューンを辛うじて受け入れる。

 

「……いつまで落ち込んでいるつもりだ」ボソッ

 

 キューンは落ち込む葉隠を責める。

 

「っ……放っておいてよ」

「……放っておけるわけないだろ」

 

 そっけなく返した葉隠にキューンはいつになくはっきりと言い返す。

 

「大切な人を失う気持ちは、未来人の俺には理解できない! でも……その悲しみは、君の理想を忘れさせるほど大きい物なのか?」

「……っ忘れたくないって、思ってた」

 

 葉隠は声を震わせながらこぼす。

 

「だって、緑谷くんとの出会いは、エースさんとの出会いは、デザグラがきっかけだったから。ちょっとやだった私の個性を、受け入れさせてくれるきっかけだったから」

 

 彼女にとって、デザグラは良いきっかけをくれる物だった。

 大きな悲劇に見舞われることもなく、ただ人とのつながりを得ただけという、なんとも平和な経験しかしてきていないのだ。

 

「……でも、こんなことになるなんて思ってもいなかった……!」

 

 だが今回、緑谷が退場してしまったことが、彼女の心を乱した。

 好意を自覚し始めた矢先の出来事。

 喪う悲しみは、当人しか理解できない。

 

「こんな思いをするなら……忘れたままでいたかったよ……! 忘れたままだったら、辛い思いなんてせずに……!」

「君は本当にそう思っているのか?」

 

 キューンは見えないはずの葉隠の瞳を覗き込む。

 長い前髪で目元は隠れているが、その奥には真剣なまなざしがあった。

 

「本当に辛いのは、誰かを喪ってしまうことじゃない。その気持ちを忘れてしまうことだ」

 

 彼はどこからか黄色のボックスを取り出す。

 

「忘れてしまうことの辛さは、君が一番わかっているはずだ」

 

 蓋を開くと、中には幾何学模様の組み合わさった幻想的な見た目のバックルが収められている。

 

「……たとえ君自身が自分を信じられなかったとしても、俺は君を信じている。もう一度“仮面ライダーナーゴ”として戦うことができる、と」

「…………っ!」

 

 葉隠はそのバックルを手に取る。

 今までの物とは一線を画すような、別次元の強さを秘めているように感じた。

 

「強くなくていい、すべて投げ出したっていい、それでも……それでもいつか、もう一度立ち上がれればいいんだ」

 

 キューンははっと我に返ったように息を呑む。

 

「俺は……そんな等身大の女の子な君に惚れたんだ」ボソッ

 

 最後まで言葉を紡ぐ勇気が失われ、一番伝えたかった言葉を口ごもってしまう。

 

「……うん、ありがとう」

 

 それでも気持ちは彼女に伝わっていた。

 葉隠はどこか嬉しそうに、キューンの気持ちを受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 爆発が起き、ダパーンの変身が解除される。

 爆発の余波はタイクーンに撤退を余儀なくさせるに十分だった。

 

「…………」

 

 タイクーンは黒い靄を纏って姿をくらませた。

 取り残された伴野は再び変身しなおそうとバックルに手をやるも、それは傷ついてボロボロになっていた。

 

「っクソッ! ふざけやがって……!」

「……覚悟は良いかしら?」

 

 静かに迫るバッファ。

 伴野は状況を打破しようと辺りを見回し――こちらを見つめている作世(さよ)に目をつける。

 

「くそっ……お前個性があるのに隠してやがったな! おい! 早くお前の個性で俺を()()()()ッ!」

 

 どこまでも上から目線の伴野に、作世(さよ)はただただ困惑した。

 

「……私に個性がないの、君が一番よく知ってるでしょ?」

 

 彼女は確かにバッファ――牛込に力をもたらした。

 だがそれは無意識であり、彼女は自分自身に特別な力があるなど思ってもいなかった。

 

「はあ? だったらあれは何なんだよッ! どう見たってお前がやったんだろうがッ!」

 

 伴野は迫りくるバッファは指差してわめく。

 確かにバッファの力は作世(さよ)によってもたらされたものである。

 彼女の中に眠る“創世の力”によってバッファの望んだ力――“ぶっ潰す”力が叶えられたのである。

 

「知らないわよっ! それに知ってたって、君を助けるわけないじゃないッ!」

 

 そして彼女の力は――“想いの共鳴”によって引き出される。

 互いに同じ願いを抱くことで、初めて創世の力は発動する。バッファの力は、互いに“助けたい”という思いを抱いたことによって発動し叶えられたのだ。

 

「ふざけんなよッ! ()()()()()だろうがッ!」

「傲慢もここまでくると清々しいわね」

 

 バッファは伴野の下にたどり着くとその胸倉を掴む。

 

「どんだけ甘やかされたか知らないけど、あんたみたいなクズ、助けてもらえると思わないことね」

 

 そのまま殴り殺そうと拳を握りこむも、寸前で思いとどまり伴野を投げ飛ばす。

 

「ぐっ……!」

「――おっと」

 

 その先に偶然、セセラと交戦していたケケラが転がり込んでくる。

 蛙と化したケケラの姿を覚えており、伴野は味方が現れたと歓喜する。

 

「ははっw っぱ俺って運もあるわwww おい、アイツぶっ潰せよ」

 

 伴野の命令を不思議そうに聞いているケケラ。

 

「……何言ってるんだお前」

「は――ッ!?」

 

 ケケラに蹴り飛ばされ伴野は地面を転がる。

 

「どうして自分の推しをぶっ潰さなきゃならねぇんだよ。頭くるくるパーなのか?」

 

 心底理解できないとばかりに肩をすくめるケケラ。

 伴野もまた、状況が理解できないとばかりに蹴られた胸をおさえている。

 

「おい牛込 茜! とっととこいつをぶっ潰しちまえよ。取るに足らないザコだが――お前の理想を阻む“敵”だろ?」

「……ん」

 

 ――HYPER ZOMBIE VICTORY!!

 

 バッファは言われるがままにバックルを操作し、左腕のカギヅメに力を籠める。

 

「――ダメッ! そんなことしちゃああんた戻れなくなるッ!」

 

 生身の伴野相手に必殺技を放とうとしているバッファをセセラが静止する。

 推しの守ろうとしていた者を助けようと必死であった。

 

「……おい水差すんじゃねぇよ。牛込 茜が“本物の仮面ライダー”になる瞬間なんだぜ?」

 

 決定的瞬間を邪魔されたケケラは不愉快そうにため息をつく。

 

「……仮面、ライダー?」

「ああそうさ! “醜い欲望を仮面で隠し、欲望のために戦う戦士”――それこそがお前達仮面ライダーだ」

 

 デザグラに参加するプレイヤーは“仮面ライダー”と呼ばれる。

 己が理想のため、欲望を叶えるため、他人を蹴落として一番になろうと戦う醜い欲望(エゴ)の戦士。

 それこそが()()()()()()なのである。

 

「いい子ちゃんのふりなんざ今更しなくたっていいだろう? お前の中にあるその欲望(エゴ)をさらけ出せ!」

「……ッ!」

 

 バッファは露悪的な言い方にためらいを覚える。

 自分の行為が欲望(エゴ)にまみれた、自分以外誰も幸せにならない物であることは百も承知だった。

 それでも――くすぶり続ける怒りは、こうでもしなければ到底鎮まりそうもなかった。

 

「相変わらずあくどい人ですねぇケケラさんや。バッファの欲望(エゴ)は、そんなに醜いもんでもないッつーの!」

 

 悪の道へ唆そうとするケケラをセセラが牽制する。

 

「バッファは、退場した幼馴染助けたいっつー純粋(ピュア)な理想掲げてデザグラで戦ってんの! そんな純粋(ピュア)欲望(エゴ)を、ダパーンみてーなクズぶっ殺して穢しちゃいかんでしょ?」

「……ッ!」

 

 セセラの言葉は、復讐に傾きかけていたバッファの天秤に均衡をもたらす。

 彼女は力を蓄えたカギヅメを伴野の目の前に振り下ろす。衝撃で生まれた石ころが伴野を傷つけるも、こけおどし程度だった。

 

「~~~~っ! クソッ!!」

 

 辛うじて命を奪われずに済んだ伴野は、這う這うの体で逃げていく。

 バッファはその背中を、変身を解きながら見つめる。

 

「チッ……白けるぜ」

「そうそう、それでいいんすよ」

 

 ケケラもセセラも、興が冷めたとばかりに引き上げていく。

 

「……ッこれで、よかったのかしら?」

 

 だが牛込は、伴野を生かしたという己の判断に疑問を感じているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――クソッ! クソッ!」

 

 ジャマーガーデンへ逃げ帰った伴野は八つ当たりとばかりにジャマトの幼体をいじめていた。

 変身のために必要なバックルはすでになく、仕方なしにエントリーフォームに変身して鬱憤を晴らしていた。

 

「ふざけやがって……!」

 

 ――『――頭くるくるパーなのか?』

 

 ケケラの嘲笑が脳裏に再び浮かび上がる。

 傍から見ればケケラの指摘通りだが、伴野は自分が正しいと妄信しているため激しい怒りを抱いていた。

 

「おかしいのはテメーらの方だろ! 俺がッ! 世界でッ! 一番ッ! すごいんだッ!」

 

 屈辱は彼の慢心癖を改善させたに過ぎない。

 根底にある“幼児的万能感”は全く変わっていないのである。

 

「――荒れているねぇ」

「あ? 話しかけんなうぜーんだよッ!」

 

 エントリーフォームの変身を解除した伴野は、話しかけてきたアルキメデルに食ってかかる。

 罵倒されたにも関わらずアルキメデルは穏やかな笑みを浮かべており、何かを企んでいることは明らかだった。

 

「あのクソ女ッ! チートバックル使わなきゃ戦えないザコの分際で……ッ! 俺があれ使えば――!?」

 

 ぶつぶつと呪詛をまき散らす伴野の両脇を、ポーンジャマトが抱える。

 

「おいッ! 放せよッ!」

「さあ息子たち。負け犬(ひりょう)を運んでおくれ」

 

 わめいて抵抗する伴野だったが、アルキメデルは気にすることなく連行していく。

 

「さあ、オステウス。新鮮な食事(ひりょう)を持ってきたぞ!」

「ポズ、ポズ……」

 

 運ばれた先では、受けた傷を癒している古代魚ジャマトが鎮座していた。

 伴野は自分の状況に気づくと、より一層暴れて抵抗する。

 

「ッざけんな! おい放せッ! お前、俺にこんな真似して――ただで済むと思ってんのか!?」

「思ってるから、するんだろう?」

 

 アルキメデルは穏やかな笑みで伴野のわめきを受け流す。

 古代魚ジャマトは大きく口を開き、食事(ひりょう)が運ばれてくるのを今か今かと待ち構えている。

 

「おいッ! バカッ! ふざけ――あ”っ!?」

 

 伴野の足が古代魚ジャマトの口へと放り込まれる。

 

「さ! たんとお食べ!」

「ッぎゃあぁッ! 止め――っ!」

 

 ばり、ぼり、と古代魚ジャマトは情け容赦なく伴野を貪っていく。

 アルキメデルは息子の食べっぷりに感心し、ポーンジャマトは自分たちを虐げてきたものが食われる様を面白そうに見つめていた。

 体全体が飲み込まれ、もがくように宙をかきむしっていた手が動かなくなる。

 最後の一口を飲み込んだ古代魚ジャマトは、一際大きなげっぷをし――その姿を伴野の物へと変える。

 

「……へえ、これがジャマトの体か……悪くないねw」

 

 伴野の全てを喰らいつくした古代魚ジャマトは、ニヤリと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 灯篭が揺らめいている。

 

「……ここは?」

 

 エースは不思議な空間で目を覚ます。

 腰にはドライバーが装着されているも、服装は着流しへと変化している。

 

「――エース、俺の遺言を忘れたか?」

「ッおじさん!?」

 

 暗がりから姿を現したのは――エースと同じく着流しとドライバーを身にまとった狐火 英寿。

 彼は狐の面で顔を隠しつつ、その手には黒いブーストマーク3バックルを持っていた。

 

「復讐に走ったら、絶縁だ、ってな」

 

 ――X-GEATS

 

 狐火はバックルを分割、それをドライバーの両側にセットする。

 

 ――BLACK OUT ...

 

 それは明確な戦闘の意志。

 エースを敵とみなし、戦う意思の表れだった。

 

「変身」

 

 ――REVOLVE ON

 

 ドライバーを反転させるとバックルが展開され、黒い狐が露となる。

 そのままバックルのレバーを引くとエネルギーが放出される。

 

 ――DARKNESS BOOST ... X-GEATS

 

 変身した姿は――黒いギーツという他に無かった。

 

「っ待ってよ……おじさん」

「待たねぇよ。悪さする化け狐は――始末しなきゃな」

 

 黒いギーツ――Xギーツは刀をエースへと向ける。

 恩人であるはずの狐火は、エースを殺さんと立ちはだかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

























こういう展開だと非常に筆が乗りますね()
伴野はシザられました。古代魚ジャマトはろくでもない奴をコピーしちゃいましたね、今後の展開が荒らされそうで大変怖いです……
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