……今後、モチベ、持つかな?
……頑張ります。
――――
――
時を遡ること約15年前。
牛込 茜、4歳。誕生日の1か月後に個性が発現する。医者は額から生えた角と父親の個性からその個性を
そのさらに数週間後、彼女は通っていた保育園で喧嘩ばかりしていたため保育士が連絡。追加の診断により感情の昂ぶりが激しい――特に怒りの感情の起伏が激しいことが判明。この年にして薬が無くてはまともな生活を送れないことが決定してしまった。
そんな彼女にはとても仲の良い幼馴染がいた。
名前は後藤 睦月。優し気な顔つきが特徴で、争いごとを好まない温厚な性格の少年だった。
彼もまた、5歳の誕生日の数日前に個性が発現する。数日間にわたる高熱を出し、快復した時には彼の体はゴムのように柔軟になっていた。医者はそのことから彼の個性はゴムであると診断した。
ゴム、と聞けばたいていの人は麦わら帽子をかぶった海賊を思い浮かべ、とても強そうな個性に感じることだろう。
しかし彼の体は麦わら帽子の海賊のように伸縮自在ではなかった。関節は自由自在に曲がるし打撃にはめっぽう強かったが、肝心の伸びる長さは数ミリ程度。ゴムはゴムでも輪ゴムではなくタイヤなどの硬質なゴムだったのだ。
――――
二人の明暗が分かれたのは小学校に進学してからだった。
偶然にも同じクラスになった二人は、級友たちと交わりそのコミュニティを広げていく。
牛込は
これに対し後藤はゴム――しかも伸びないゴムという微妙な個性からクラスの中では隅っこの方に追いやられているグループに属するようになる。所謂スクールカーストの低いグループだった。
この超常社会、個性の強弱はスクールカーストにもろに直結してしまう。
後藤少年はクラスのいじめっ子からいじめられるようになってしまう。
『みろよ! ホントになぐってもきいてないぜ!』
ガキ大将的な少年は後藤の事を殴ってケラケラ笑っていた。取り巻き達も殴られても堪えていない後藤の姿が面白いのか、ニヤニヤ笑ってそれを見ていた。
『おまえ、こんどからサンドバックな!』
『はは……い、いや、だな……』
愛想笑いしながらも、後藤少年は柔く拒絶する。
『はぁ? チョーシこいてんじゃねーよ! オレはおまえみたいなこせーのためにやってんだぞ!』
ガキ大将はその態度が気に入らなかったのか、一層強く後藤を殴りつける。
体がゴムなのでいくら殴られようが痛くはなかった。踏みつけられても大して痛くはなかった。しかし暴力を振るわれているという事実が彼の心をひどく傷つけた。
『――なにやってんのよ!?』
そんないじめの現場に出くわしたのは牛込少女。
彼女は殴られている幼馴染の姿を認めるとガキ大将たちを睨み付ける。
『うっせーな! これが男のユージョーってやつだよ! なぁ?』
後藤は頭を抱えて震えたまま答えなかった。その姿を見た牛込の怒りはいとも簡単に頂点に達した。
『それのどこが“ゆうじょう”よッッ!』
そこからは血で血を洗うかのような大喧嘩。
二次性徴前では腕力の男女差はさほど大きくない。男子数人を相手に牛込は大立ち回りを披露し、彼女自身もけがを負いながら見事勝利を収める。
『に、兄ちゃんにいいつけてやる~!』
ガキ大将の捨て台詞を鼻で笑い、牛込少女は勝ち誇ったように仁王立ちしていた。
――――
大喧嘩の翌日、ガキ大将の兄が報復へとやってきた。
牛込は圧勝した。年の差2つを物ともせず辛勝した。
『――ムツキに手ぇ出したら、あたしがゆるさないからっ!』
学年が上がり、クラスが変わるたびに似たようなことが起きた。
その結果、学年ではこんな不文律ができるようになる――後藤 睦月に手を出すな。牛込 茜を敵に回すことになる。
後藤少年は腫れ物に触れるかのように接されるようになり、対照的に牛込少女は弱い物いじめを許さない学級委員長として名が知れるようになる。
『安心して! ムツキはあたしが守るから!』
屈託のない牛込の笑顔は、後藤のプライドを大きく傷つけるのだった。
――――
小学校高学年から中学入学の頃。
次第に男女の別ができ初め、クラスのグループも自然と男子のみ、女子のみとすみ分けられるようになっていた。
如何に仲のよい幼馴染同士と言えど、男女の意識が芽生え始めれば今まで通りにはいかなくなってくる。
『――ムツキ! 学校行こっ!』
『……いいよ。また噂されるとヤだし』
奇遇にもずっと同じクラスの二人は恋バナ好きな者達から“そういう関係”であると噂され、行事のある度にくっつけようと画策されるようになる。
思春期に突入していた後藤少年は、次第にそのうわさが気恥ずかしくなり、幼馴染との距離を開けようとしていた。
『別にいーじゃん。あたしは気にしないからさっ!』
『……俺が気にするんだよ』
『それに――別々だと、何かあったときに
屈託のない、純粋な笑顔は、後藤のプライドを大きく傷つけていた。
後藤は毎朝のように迎えに来る牛込の事を疎ましくなり、次第に強く拒絶するようになった。そして中学に進学する頃には、共に登校することは無くなっていた。
――――
中学校になると、少年少女は次第に己の将来を見据えるようになってくる。
ヒーローの夢を目指しひたすら鍛錬に励む者、今を全力で楽しみたいと張り切る者、既に未来は閉ざされているとグレる者、いまだに幼児的万能感が抜けずに孤立する者……個性の数だけ悩みがあり、未来があった。
中学に入学してからも二人のクラスでの立ち位置は大きく変わらなかった。
牛込はクラスの中心、学級委員長的な立ち位置。後藤はクラスでも目立たない、スクールカーストの底辺付近。違いがあるとすれば、後藤の個性が成長期に伴い大きく“進化”させていたことだった。
残念ながら体が伸びるようになった、と言うことは無く、ただひたすらに長所が伸びていた。
打撃がほとんど効かない体に磨きがかかり、ちょっとやそっと殴られたくらいでは効かなくなっていた。彼の関節は柔軟に曲がり、関節技を受けようともするりと抜け出せていた。
彼の個性はもはや“弱い”個性とは言えなかった。
ある日、後藤はトラックに轢かれそうだった子供を助けた。子供を突き飛ばし、自身が代わりに轢かれるも、全くの無傷で済んでいた。そしてその勇気ある行動をヒーローに感謝され、後藤はある種の自信を手に入れていた。
――――
中学3年になったある日の事。
『後藤……オメー最近調子に乗ってんな』
次第に個性を開花させていた後藤の事を気に入らなかった不良グループが彼の事を呼び出した。
自分の個性に自信を持っていた後藤は呼び出しに応じ、喧嘩となる。
かつてと違い、後藤少年は善戦していた。打撃のほとんど効かない体、そして格闘技系の部活で身に着けた戦闘センス、それらは無力な少年を一端の男へと成長させていた。
『――おい! 何やってんだよっ!?』
喧嘩に乱入してきたのは牛込。
この時既に体格は男子に劣っており(それでも女子にしては大柄だった)、不良たちと比べるといささか頼りなかった。
後藤はそんな彼女の事を守ろうと思った。成長した自分なら、彼女を守れると、今度は自分が守る番だと。
『見てわからないのかよ――学級委員長サマッ!』
この瞬間、後藤の心に芽生えていた自信はぐちゃぐちゃに踏みにじられていた。
個性が成長していたのは彼だけではなかった。
牛込はいとも簡単に不良のリーダーを投げ飛ばし、取り巻き達を瞬く間に制圧した。
後藤が
『ふんっ!
『……っ!』
後藤は俯き、歯を食いしばっていた。その指先は地面を抉る様に掴んでいる。
彼は、自分の中の何かが音を立てて崩れていくのを感じていた。
――人は、生まれながらにして平等じゃない。彼は、幼いころに知った現実を再び身をもって知ることとなったのだった。
――――
『ったく、無茶して。内申に響くよ?』
その日、珍しく二人は一緒に下校していた。
喧嘩については不良グループが悪いとのことで彼らにはお咎めなし、軽い口頭注意で済んでいた。
『……っせーな』
『ま、でもムツキに怪我無くてよかった! またあいつらに呼び出されたらあたしに言いな? ちゃんと
後藤は屈託のない幼馴染の笑顔に、初めて
今までもさんざん見てきた彼女の笑顔。
ずっと好きだと思っていたその顔が、プライドを傷つけ続けてきたその顔が、たまらなく憎らしく感じた。
憎くて憎くて、もう二度とそんな笑顔を見たくなくて。
『……誰も頼んでねぇよっ』
『ん?』
一刻も早くその顔を目の前から消したくて。
『……っ誰も守ってくれなんて頼んでねぇよッ!』
彼は初めて幼馴染に牙をむいた。
『なに……言ってんのよ』
『お前、俺が今までどんな気持ちでいたか考えたことあんのかよッ!? 俺がお前に守られるたびに……どれだけ惨めな気持ちだったか――ッ考えたことあんのかよッッ!?』
牛込の顔から笑顔が消える。
しだいに困惑するような、悲しそうな表情へと変化していく。
後藤はその変化を見て、胸のすくような感情を抱いた。最低な爽快感は、次第に彼の心にたまった鬱憤を存分に吐き出させた。
『いいよな、茜は! わかりやすく強い個性でさっ! いっつもクラスの中心で、みんなからちやほやされてさっ!』
『……やめてっ』
『わからないよなっ!? 俺はずっとクラスの底辺だったよっ! お前は守るって言ったけど、そのせいで俺は友達が全然できなかったんだよっ!』
彼が手を伸ばしても、その後ろにちらつく
図らずも、牛込は後藤 睦月は下手に関われない地雷としてしまっていたのだ。
『……もういいよっ』
『気分良かったよな? だって俺みたいな守れる雑魚が居たおかげで、優越感にひたれてたんだからさっ!』
『……もういい』
『本当は――俺みたいな雑魚を守った気になって、気持ちよくなりたかっただけなんだろっ!! 偽善者めっ!』
『もういいでしょっ!』
夢中になってまくし立てていた後藤は、目の前の幼馴染が泣いていることに気づく。
いつも見せていた屈託のない笑顔はもはやそこにはなく、弱弱しく泣きじゃくる姿があった。
『……茜』
後藤は取り返しのつかないことをしてしまったことに気づいた。
踏み越えてはいけなかった一線を越え、壊してはならないものを壊してしまった。
『……ごめん』
走る幼馴染の後ろ姿を、彼は追いかけることはできなかった。
わずかに残ったプライドが、走り出すことを拒んでいた。
――――
――『俺みたいな雑魚を守った気になって、気持ちよくなりたかっただけなんだろっ!!』
(あたし……最低だ……)
泣きながら帰ってきた娘を母親は何も言わずに迎え入れた。
牛込は自分の部屋に閉じこもると、ベッドの上で幼馴染の言葉を反芻していた。
(ずっと、ムツキの事傷つけてたんだ……)
子供の頃からいじめられている幼馴染を助けてきた。
ボコボコに殴られているところに割って入って、物を盗まれたときは犯人を締め上げ、陰でこっそりと嫌がらせをするものは暴き立てて晒上げた。
そのたびに彼がどのような気持ちだったのか、考えたこともなかった。
きっと、助けてもらえてうれしいのだと勝手に決めつけ、満足していた。
――『牛込さんならヒーローになれるわ! いいえ、それもただのヒーローじゃない、トップヒーローに!』
進路指導の時間、担当の教師から告げられた言葉。
学力もあり、個性も申し分ない、そんな生徒はプロヒーローにふさわしく見えたのだろう。
『……なれるわけ、ない』
鞄の中から進路希望用紙を取り出した。
――『雄英高校、目指してみない?』
『……あたしなんか、ヒーローに、なれるわけない』
ずっと、幼馴染の苦しみに気づかず、独りよがりに助けてきた自分に。
独善的で偽善的な人間の自分が、ヒーローになるなど。
華々しく活躍しているプロヒーローたちのようになるなんて。
『……ごめん、ムツキ』
自分はヒーローになれない――牛込は自分で自分の未来を閉ざしてしまった。
進路希望の調査用紙には、ただ二文字――就職とだけ書かれていた。
きっと普通の高校に入ったところで、また弱い個性の人間を見下し、助けて自己肯定感を得ようとしてしまう。
だから――もう誰ともなれ合わない。誰とも仲良くならない。
それが幼馴染を苦しめづけてきたことへの戒めだ。
――牛込は1年後、中学卒業と同時に家を飛び出した。
――――
――
時は戻り現在。
頼みの綱だったデュオ交換券を引き裂かれた緑谷は、応急手当を受けたのちサロンで落ち込んでいた。
「……っ」
勝利は絶望的な状況、緑谷は頭を抱えて打開策を考え続けていた。
そんな彼の姿を見ていられなくなったのか、葉隠は近くにいたギロリへと問いかける。
「ねえギロリさん。私のデュオ交換券、彼にあげることってできませんか?」
「可能ですよ」
ギロリはニコリ、と微笑む。
「ですが、交換券は購入したプレーヤーのデュオのみ交換可能となっております。彼に譲渡しても、彼自身のデュオは交換不可能となっております」
交換する必要のない葉隠は自分の交換券を緑谷に譲渡し、それを使ってデュオ交換をしてもらおうと考えていた。
それを不可能と断じられ、彼女はエースにパンクジャックを押し付けようかと逡巡する。
「――そんなことをしたら、私は君に押し付け返すよ?」
「っ!」
考えを見透かされた葉隠は、思わず肩を強張らせる。
エースは捉えどころのない笑みで彼女をけん制する。
「言っておくけど、私は誰が脱落したって構わないんだよ? ……もちろん、タイクーン、彼が脱落してもいいんだ……」
エースの狐耳はピコピコと揺れ動いている。
「君も、勝ち残りたいんだったら余計なお節介はしない方がいいよ」
「っ――私は」
「――ありがとう、葉隠さん」
緑谷は顔を上げる。
泣き笑いのような強がりのような表情だった。
「まっ……まだ望みはあるよ……っ! ほ、ほら……さっきだって、うまく撃墜できたし、さ……」
無理をしているのか、彼の顔面は蒼白だった。
「っあの……一つ、確認したいんですけど……脱落して“ライダー失格”になったら、どうなるんですか……?」
「――失格者はデザイアグランプリに関する一切の記憶を消去され、元の暮らしに戻るのだと聞いております」
緑谷の疑問に答えたのはギロリだった。
「ただし、ゲーム中に命を落とした場合はその限りではございませんのでご注意ください」
「そっか……死ぬわけじゃ、ないのか……」
脱落しても命の危険がないことをしり、緑谷は安堵のため息をつく。
しかし状況が好転していないのは事実だった。
「でも、全部忘れるってことは……エース君のことも、葉隠さんのことも、全部忘れちゃうんだ」
二人ともデザイアグランプリを通じて知り合った仲だ。ゲームの記憶を失くせば、必然的に彼らとのつながりもなくなってしまう。
「……だったら、なおさら負けられないっ」
緑谷は己を鼓舞するように深呼吸し、拳を握り締めた。
「どうせ全部忘れる。だって――私が勝つからね」
乾いた音が響く。
エースははたかれた頬をゆっくりと押さえる。
「……最低。そんな人だって思わなかった!」
怒った葉隠はぷんすか、という擬音が似合いそうな歩き方でサロンを後にする。
「……君は私を何だと思っていたんだい? 私は人を化かす――“化け狐”だよ?」
エースのつぶやきは、誰に届くともなく響き渡っていた。
――――
――
神殿内の訓練用シミュレーター。
牛込は背景設定を夜の街にして、ただ一人で座り込んでいた。
「あたしは……絶対に勝つんだ……っ」
思い返されるのは、黄金によって交換券を引き裂かれ絶望する緑谷の顔。
その顔は、幼馴染の
――――
2年前、牛込が17歳の頃の事だった。
その日、コンビニのバイトは夕方で終わり日の沈んだ街を散策していた。
時折すれ違う学生を見ては、憧憬の念を抱きながら、どこへ行くともなく歩き回っていた。
『うわぁっ!?』
出くわしたのは、動物のような仮面と黒いボディスーツのようなものを身に着けた集団。
全員共通して同じようなベルトを身に着けていた。
『うっ!?』
『へっへっへ! じゃ、こいつはいただいてくぜ』
仮面の一人が倒れ、その正体を露にする。
『っ……ムツキ?』
嬲られていたのは、もう二度と会うこともないと思っていた幼馴染だった。
『返してくれ……俺の――』
鹿と象の仮面の者達はベルトからバックルを抜き取り、高笑いしながら去っていく。
『っムツキ!』
『……茜?』
牛込が駆け寄ると、後藤はわずかに視線を向ける。
その体はノイズが走る様に揺らいでおり、ベルトの中央部のパーツには罅が入っていた。
『なんなのよっ? どうして、こんな……!』
矢継ぎ早に起きた出来事に牛込は混乱し、言葉をうまく紡げなかった。
『っ……ごめん』
『……え?』
唐突な謝罪に、彼女は混乱する。
『あの時酷いこと言って、ごめん……っ!』
『っなんで、今更』
後藤は自分の死を悟り、涙を流しながら懺悔していた。
『俺、悔しくて……! やっと茜を守ってあげられるって、思ってたのに……! 全然追いついてなくて……!』
それは後藤少年のちっぽけなプライドが言わせた心無い言葉。
『そのせいで、茜が高校いかないで、フリーターしてるって聞いて……おれ、きっと……あかねはヒーローになるって、おもってたから、すげーこうかいして……』
体に走るノイズが大きくなる。
ベルトの亀裂は大きくなり、砕ける寸前となっていた。
『だから、おれ……“あかねがヒーローになっているせかい”、叶えたかった……っ! だって、おれ、ほんとうは――』
――MISSION FAILED...
後藤の体が消滅した。
彼女は何が起きているかさっぱり理解できなかった。
『ムツキ……っ!』
それでも、あの二人組――鹿と象の仮面の者が幼馴染の命を奪った。そのことだけは事実だった。
『許さない……』
牛込は自分の視界が真っ赤に染まっていくのを感じた。
怒りのメーターは当の昔に振り切り、もはや彼女にコントロールはできなかった。
『――あいつらぁッ!』
そこからの記憶は残っていなかった。
――MISSION FAILED...
――MISSION FAILED...
気が付けば、二つのバックルが落ちていた。片方は幼馴染から強奪されたものだった。
『ムツキ……っ!』
牛込は幼馴染の形見ともいえるバックルを胸に抱き、嗚咽の声がこぼしていた。
――――
「――バッファさんっ!」
「……何の用?」
牛込は不機嫌そうに振り向く。
相対するは葉隠。表情は見えないが、声色から穏やかな心でないことがうかがえた。
「デュオ交換券、使ってくれませんか?」
葉隠は深く頭を下げる。
緑谷ともう一度デュオを組んでくれないか、そういっているのと変わらなかった。
「……なんで?」
「何でって……なんとも思わなかったの!? あのおじさん、勝ち残るためにあんな酷いことしたんだよッ!? あんな目にあわされた、緑谷くんを助けたいと思わないのっ!?」
「……別に……どうでも、いい」
牛込は顔をゆがめながら答えた。
単なる強がりだ。
自分が願いを叶えるために。目的のためなら手段を選ばない、自分の強い心を失くさないための予防線。
「っ……ハメられる方が、悪いのよ……っ! 勝った人間しか理想の世界は叶えられない、だから……手段を選べってのが無理なの……っ!」
誰もが叶えたい理想の世界がある。
それがあるからこそ、参加者たちは必死に戦い、時にライバルを蹴落とす。
――『へっへっへ! じゃ、こいつはいただいてくぜ』
不意に、幼馴染を死に追いやった者たちの声が思い返される。
きっと彼らは、理想の世界を叶えるために手段を選ばなかった者達だ。
そして幼馴染は――自分の好きだった人は、そんな“卑怯者”たちによって命を奪われた。
「……わかった! もうたのま」
「ナーゴ! あたしを殴れっ!」
「な……はい?」
怒って立ち去ろうとしていた葉隠だったが、意味不明な願いを言われてきょとんとしている。
「いいから!」
「え……と、じゃあ!」
ぽか、と腰の入っていない拳が牛込の胸に命中した。
軽いジャブは冷酷になろうと暴走していた彼女の心を解きほぐした。
「……っあんたの言う通り、デュオ交換券、使うわ」
「えっ……本当?」
唐突な手のひら返しに、葉隠は目を丸くしている(見えないが)。
「……皆まで言わせないで。あたしも――ああいう卑劣なヤツ、大嫌いだから」
他人を貶めてまで勝ち残ろうとする卑劣なプレーヤーたち。
牛込は、彼らが間違っているとは考えていなかった。
どんな理想でも叶えてくれるのだから、なりふり構えと言う方が無理な相談だ。他者を蹴落としてでも勝とうとするのはきっとやり方の一つだ。
(きっと、あたしがそんな勝ち方したって、ムツキは絶対に喜ばない)
牛込がデザイアカードに書いた願い、それは『後藤 睦月が生きている世界』。
きっと、彼がデザイアグランプリに参加したのは、彼女をヒーローにするという願いを叶えるためだ。
自分の言葉が幼馴染を追い込み、ヒーローの道を奪ってしまったのだと思った心がそうさせたのだろう。
その願いを叶えるために参加し、そして陥れられ命を落とした。
救われる資格などない
(あたしはムツキの生きている世界を叶える。でも、それは正々堂々と戦った結果じゃなきゃ――あたしはあたしを許せない)
だからその思いに報いる。
今度こそ、自分勝手で独善的な偽善者にならないために。
――――
――
残された4体のジャマトが出現する。
プレーヤーたちはそれぞれの想いを胸にジャマトと対峙する。
「よーし、バッファローちゃん! ラストスパート頑張ろう!」
「……」
メリーは自分の勝ちを疑っておらず、チェーンアレイをブンブンと振り回している。
「もう一回、攻撃をあわせ――ッ!?」
さっきと同様、攻撃を合わせてジャマトを撃破しようと息巻くタイクーンだったが、相棒のパンクジャックの異変に気付く。
「…………」
これまでは自分勝手にジャマトへ突撃していった彼(?)が、ここにきて棒立ちになり動かなくなってしまったのだ。
「ねえっ! なんでだよッ! 好きに動いていいから! 早く動いてよッ!」
「…………」
タイクーンに呼びかけられるも、パンクジャックはうんともすんとも言わない(声出しNGのため)。
「はっはっはっ! お生憎様! 行くよバッファローちゃん!」
メリーとバッファはそれぞれ斃すべきジャマトを暴いており、後は同時に攻撃を命中させるのみだった。
――CHAIN-ARRAY STRIKE!
「そんな……っ! チャンスも、ないのかよッ!」
――ZOMBIE STRIKE!
「おいっ! 動けよッ! 動いてくれよ……ッ!」
「…………」
タイクーンはパンクジャックの胸元を殴って懇願するも、動かない。
そうこうしているうちにメリーとバッファの必殺技がジャマトに命中、撃破に成功する。
「そんな……っ!」
タイクーンはがくり、と膝をつく。
残るもう一組はギーツとナーゴのデュオが斃してしまえるだろう。棒立ちのパンクジャックがデュオでは、もう勝ち目など残っていない。
彼の仮面の奥は、絶望に染まっていた。
「はっはっはぁっ! 一抜け決定! 残念だったな少年!」
メリーの高笑いが響き渡る。
バッファはそれを冷ややかに見つめると、変身を解除し懐から
「――ツムリ! デュオ交換をしたいっ!」
「――承知いたしました♪」
牛込が叫ぶと、どこからともなくツムリが現れる。
「……はあ?」
メリーはその行動の意味が分からずぽかんとしている。
「では、ご希望のデュオを」
「タイクーン!」
牛込は食い気味に宣言した。
「……へ?」
「……はぁ?」
タイクーンとメリーは間抜けな声を上げている。
前者は歓喜、後者は憤怒がわずかに込められていた。
「それでは、これより新デュオが誕生します。タイクーン、バッファデュオ。そしてメリー、パンクジャックデュオです♪」
交換が受理され、デュオが入れ替わる。
「かぁ~情に流されちゃって。今更デュオ交換したって、お互い
デュオ交換の際、入手していたポイントは各々の貢献度に応じて個人ptとして割り振られる。
「――ふふ。すっかり化かされちゃったな」
ギーツはからくりに気づくと、悔しそうに笑う。
ツムリがタブレットを操作するとデュオ交換時点の得点が表示される。
タイクーン&バッファデュオ――
メリー&パンクジャックデュオ――
「な、なななんで得点に差が出てるんだよぉッ!」
メリーはその結果に愕然とし、ツムリへと詰め寄っている。
「ポイントは
「んなことはわかってんだよ! だからなん――あ」
メリーは言葉にしたことで理由を悟る。
タイクーン――緑谷は
つまり、貢献度は圧倒的に緑谷――タイクーン側に傾くということなのだ。
「ナーゴ、私たちも!」
「うん、わかってる!」
――HAMMER STRIKE!
――BULLET CHARGE!
ナーゴとギーツによって最後のジャマトペアが撃破される。
その一撃によりデュオ神経衰弱は幕を閉じるのだった。
――――
――
デュオ神経衰弱。
最終結果は以下の通りだった。
ギーツ&ナーゴデュオ――400pt
タイクーン&バッファデュオ――350pt
メリー&パンクジャックデュオ――250pt
「脱落は――メリー、パンクジャックデュオ!」
「この……っ! こんな、はずじゃ……!」
最後の最後でどんでん返しをされてしまい、黄金は口惜しさで歯ぎしりをしていた。
「……これで借りはチャラだから」
「借り……? あっ!」
首の皮がつながって安堵していた緑谷は、思い出したかのように声を上げる。
ゾンビサバイバル第2ウェーブ。バックルを盗まれ変身できなかった牛込に、緑谷はシークレットミッションの報酬を譲ったのだ。
「……かっ勘違いしないで! あんたに残って欲しかったわけじゃ、ないから!」
「ふふ。素直じゃないなぁ」
と、エースは嬉しそうに狐耳を揺らしている。
その姿を見た葉隠は彼(?)の本心を察した。
口では見放すようなことを言っていたが、本心は逆。共に戦うライバルの心配をしていたのだ。
「あの、エースさん……叩いて、ごめんね」
「……気にしてないよ。
仲のよさそうなやり取りを見ていた黄金は悔しそうにため息をついた。
「何で少年なのかねぇ! そんな気弱そうな少年を勝ち残らせて何になるってんだよッ!」
「あんたが勝ち残るより100倍マシ」
黄金のボヤきを牛込はバッサリと切り捨てた。
「――黄金 誠三様。あなたは“仮面ライダー失格”となります」
前回の出来事を踏まえてか、ツムリの宣言と共にメリーのIDコアは即座に消滅してしまう。
「くっそ~
「残念。それは無理かな」
エースの言葉を、黄金は最後まで聞くことは叶わなかった。
全て言い終わる前に消滅してしまったからだ。
「だって――
エースは顔には憐みのこもった笑みが浮かんでいた。
――――
――
デュオ神経衰弱から数か月。
緑谷 出久は人生の転換期を迎えようとしていた。
「私が――散歩がてら、来た!」
いつもの海浜公園。
そんな辺鄙な場所が似合わない筋骨隆々とした
「オール、マイト……?」
平和の象徴、オールマイト。
No.1ヒーローが彼の前に現れたのだ。
メリーおじさん……あんた、間が悪かったね。個性すら明かせずに退場になって今うなんて。
ちなみに、メリーおじさんの個性は『錬金術』です。一日10g程度の金を生み出せるという個性でした。
次回はヒロアカ時空の話が動きます、ようやくです!
オサレなサブタイについて
-
欲しい!
-
硬派なサブタイなしスタイルで!
-
原作の焼き増しならない方がいい!