【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-8 混沌Ⅴ/ 力の代償

――――

――

 

「こんなはずじゃ……っ!」

 

 デザグラ運営に反旗を翻し、プロデューサーのニラムからヴィジョンドライバーを盗み出していたサマスはどこかの裏路地を逃げていた。

 本来味方し守ってくれるはずのジャマト陣営はまさに混沌。伴野を喰らいその人格をコピーした古代魚ジャマトによってジャマーガーデンは崩壊寸前。止められる立場のアルキメデルはそれを助長し、ベロバはすっかりジャマーガーデンへ寄り付かなくなってしまっていた。

 

「っ……私のデザグラが、始まるはずだったのに……」

 

 命の危険を感じたサマスはジャマーガーデンから逃走するも、裏切者の彼女はデザイア神殿へ戻ることもできず、こうして人目のつかない裏路地を逃げ続けていた。

 

「――残念だったな」

 

 そんな彼女の目の前にジットが姿を現す。

 

「大人しくニラムに従っていればそれが叶ったかもしれないが……お前は急ぎ過ぎた」

 

 彼はスーツの懐から特殊警棒を取り出し伸長させる。

 

「っま、待って……!」

 

 サマスは懐の拳銃へと手を伸ばしつつジットをけん制する。どうにかしてこの場を切り抜けようと必死に思考を巡らせた。

 

「話せばわかるわ……! ええ、私の話を聞けば――」

 

 どうにか口車で時間を稼ごうとするサマスだったが、ジットは苛立ったように特殊警棒でビルの壁を叩く。

 

「生憎、俺はおしゃべりが嫌いなんだ。こっちの方が――」

「ッッ!」

 

 殺気を感じたサマスはすぐさま拳銃を引き抜くも、ジットの特殊警棒に手首を叩かれそれを取り落としてしまう。ジットはすぐさま拳銃を蹴り飛ばしつつ当て身を食らわせる。

 呻きながら崩れ落ちるサマスの胸倉を掴んで引き起こし膝蹴りを叩きこむと、側頭部に警棒を叩きつける。

 

「シンプルでわかりやすいだろう?」

 

 崩れ落ちたサマスは朦朧とした意識の中、どう猛な笑みを浮かべているジットを見つめる。

 まるで暴力を味わうかのように楽しむジットに恐怖を覚えていた。

 

「わた、しは……」

 

 ジットは戦意を失っているサマスの腹部を容赦なく蹴り飛ばす。転がり落ちたヴィジョンドライバーを回収すると見せびらかすようにそれをサマスへ見せる。

 

「こいつは返してもらうぞ。もっとも、お前の権限じゃ宝の持ち腐れだっただろうが」

「……ゆる、して……!」

 

 命乞いを始めるサマスを見たジットは嬉しそうに舌なめずりをする。

 獲物をいたぶって楽しむ獣のように、彼女をどう苦しめようか思案しているようだった。

 

「苦しそうだな。可哀そうに……」

 

 後ずさるサマスの顎を特殊警棒の先端で持ち上げる。自分の未来を悟った彼女は恐怖に顔を歪める。

 未来人にとって死とは生まれた瞬間に定められたものであり、古代人のそれとは意味合いが異なる。決まった人生を送った末に訪れる不可避の現象。

 死を恐れて泣き崩れる古代人の感性は、未来人には理解のしがたい不思議なものであった。

 

「今、楽にしてやろう」

 

 彼女もまた、死の恐怖を理解できない未来人の一人であった。

 ニラムの秘書としてデザグラを見届ける中、死に怯え、生き延びて感涙に噎ぶ参加者たちを時に滑稽であると感じていた。

 生物である以上は死はいずれ訪れる不可避の現象。それに一喜一憂するなどバカげている――少なくとも、自らの死を意識するまではそう考えていた。

 

「い、いや……っ!」

 

 ジットはサマスの首を持ち上げる。

 その手は万力の様に彼女の首を締め上げる。細身に似合わぬ怪力は、細い彼女の首をへし折らんとしていた。

 

「ッ……ッッ!!」

 

 小枝を折るような乾いた音が響く。

 死を恐れもがいていたサマスの体から力が抜け、手足がだらんと垂れ下がった。

 

「……フン」

 

 サマスの亡骸を投げ捨てたジットは、次なる獲物を仕留めに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 ギーツの活躍によって退場したタイクーン――緑谷は命を取り戻した。

 その上、伴野の奇行によって手に入れたブジンソードバックルは失っておらず、結果的に緑谷は死を経験し力を手にした形となる。

 

「よかった……っ!」

 

 緑谷の生還を葉隠は涙ながらに喜ぶ。

 五体満足で休憩所(サロン)現れた彼を思わず抱きしめてしまうほどの喜びだった。

 

「ごめん……心配かけちゃったね」

「よかったよぉ……っ!」

 

 葉隠は緑谷の胸の中で泣きじゃくっている。表情はうかがうことができなかったが、うれし泣きであることは確かだろう。

 泣きじゃくる彼女を抱き止めつつ、緑谷はサロンに自分たちしかいないことに違和感を覚える。

 

「葉隠さん、他の人たち――エースさんや牛込さんは?」

「っ……それが」

 

 彼女は緑谷が退場していた時の事を伝える。

 合宿でジャマトに襲われ、皆にデザグラの事情を説明したこと。エースは復讐に燃えて戦いへ赴き、戦えないと弱みを見せた葉隠のバックルを手にパンクジャック――物間が戦いを引き継いだこと。自分はファンを名乗る者の励ましによって戦意を取り戻したこと。

 

「牛込さんと、連絡が取れない……?」

「うん……電話もメッセージも反応ないし、デザグラも無期限延期になっちゃったし……」

 

 スパイダーフォンに表記がない以上、あの夜に退場してしまったといことは無いだろう。だが緑谷の胸に一抹の不安がよぎる。

 彼女の身に悪いことが起きてしまったのではないか――退場とはいかないまでも、連絡すら満足に取れない状態となってしまっているのではないか。

 緑谷は己の未熟さが引き起こした事態に唇を噛みしめた。

 

「っそうだ、雄英の皆は――かっちゃんとか、上鳴くん達は?」

「そっちは大丈夫だよ!」

 

 葉隠の言葉に緑谷はほっと胸をなでおろす。

 どうやらジャマトに不覚を取ってしまった者はいないようだった。

 

「ヒーロー科3()8()()、緑谷くんも戻ってきたから3()9()()全員、無事だよっ!」

 

 刹那、得体の知れない違和感が二人を襲う。

 

「っ3()9()人……?」

 

 雄英高校ヒーロー科は1クラス20人、AB組2クラス合わせて計40人となるはずである。

 何らかの事情で退学、除籍処分とならない限りはその数は減らないはずだ。

 

「えっ……あれ? ……39人、だよね……? A()()1()9()()でB組20人だし……?」

 

 葉隠は冷や水を浴びせられているような違和感のままクラスメイトの顔を思い出す。クラス名簿を思い浮かべながらその人数を数えていく。

 

「19人、だったっけ……? そんなはずは――」

 

 緑谷も同じようにクラスメイトを思い浮かべる。

 仲のいい者――上鳴や峰田、飯田や麗日、轟の顔を思い浮かべ――

 

「……エースさんだ」

「へっ?」

 

 入学初日の出来事――上鳴と仲良くなるきっかけを思い出した緑谷は違和感の正体にたどり着く。

 記憶にあるクラスメイトの中にいるはずの人物――エースの事が抜け落ちているのである。

 

「なんで……エースさんって別に()()()()()()()()()()()……よね?」

「確かに、そうかもしれないけど……でも、エースさんは確かにヒーロー科にいたはずなんだ」

 

 いるはずなのにいないと感じてしまう。

 そんな不思議な現象が起きる理由は一つしかない。

 

「……もしかして、エースさんは僕を助けるために何かとんでもない無茶をしたんじゃないかな」

 

 デザグラ優勝者が“理想の世界”を叶えたことによる世界改変。

 エースが雄英高校ヒーロー科に所属していたという事実が書き換えられてしまった以外に他ならないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

―ー

 

「――ふぅ」

 

 緑谷と葉隠が再開していたころ、エースは一人町中のカフェで一服をしていた。

 ラフな私服姿で、変装の為か伊達メガネをかけていた。

 

「呑気だね、デザ神サマ」

「……君こそ、私に構っている場合かい?」

 

 我が物顔で相席してきた物間を白い目で見つめるエース。

 

「僕にだって休憩する権利はある。それに今サロンには入りづらい」

 

 運営の管理下を離れたジャマトを捜索していた彼が一息つこうとサロンへ向かったところ、そこでは緑谷と葉隠の感動的な再開が起こっていた。

 それを邪魔するほど彼は腐っていなかった。

 

「ああ、そういうこと。君にも常識があったんだね」

「……君は僕を何だと思っているのかな?」

 

 エースの嫌味を苦々しく受け止める物間。

 

「ねぇ、あのテーブルの人って」

「うん、エース様の声だよね?」

 

 近くのテーブルに座っていた女性二人組がエースと物間を見て何やら話している。

 どうやら変装(しているつもり)のエースの()()に気づいたのだろう。

 

「人気者だね……ちょっと話しただけで正体がばれて大騒ぎ……まったく、スターは大変だ」

「……ふふっ。スター、ね」

 

 エースはティーカップの持ち手を人差し指でなぞる。

 

「ねえパンクジャック、私はスターかい?」

「はぁ? 君が自分で叶えた世界だろ。“私がスターになっているせか”――ッ!?」

 

 言い返そうとした瞬間、物間は違和感に口を押える。

 エースが最後に叶えた理想の世界は“私がスターになっている世界”ではないはずだ。

 ギロリからエースの真意を探る様に指示を受けた際、いままで彼が叶えてきたデザイアカードはすべて確認していた。

 “私が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界”、“私が働かなくても暮らしていける世界”、数々のデザイアカードがあり、それだけ彼がデザグラで勝ち続けてきたことをうかがわせた。

 そして最後に叶えた理想の世界――“私が雄英高校ヒーロー科の生徒になっている世界

 内容を思い出すことはできないが、それは“私がスターになっている世界”ではなかったはずだ。

 

「違う、君はスターじゃなかったはずだ……!」

「そうだよねぇ……私は“雄英高校ヒーロー科、1年A組”の狐火 エース。“スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ”のエースじゃないはずだよねぇ」

 

 エースもまた不思議そうに懐からブーストマーク3バックルを取り出す。

 

「これを使った副作用、なのかな?」

 

 ギーツⅨは世界を意のままに作り変える“創世の力”を宿している。

 規格外の戦闘能力はもちろん、その力によってあらゆる戦闘で勝利することができる。

 その力によって、ジャマトと化していた緑谷を救うことも出来た。

 

「タイクーンを救った力……なるほどね、そういうことか」

 

 物間はエースがスターになっている世界へ巻き戻った理由を理解する。

 

「その力はそれ以上使わない方がいいみたいだぜ、デザ神サマ。使えば使うほど“ギラギラ”を消費することになる」

 

 ギラギラ――それは創世の女神が世界を作り変える際に使うエネルギーである“理想の世界を願う心”。それを運営側の人間はそう呼んでいる。

 ギーツⅨは創世の力を行使するたびにその“ギラギラ”を消費する。

 自身が持つ“ギラギラ”を用い、創世の力を行使している。

 

「……理想の世界を願う心、ねぇ」

「デザグラを敗退した奴は例外なく理想の世界を願う心(それ)を失っている。デザ神の“理想の世界”を叶えるために使われてしまったからだ」

 

 デザグラ敗退者は理想の世界を願う心を失う。命を懸けた戦いに挑んでまで叶えたかった願いの関心を失い、半ば抜け殻のような状態となってしまう。

 

「君の力は恐らくギラギラを消費している。普通なら一回使えば抜け殻になるところをデザ神として理想の世界を叶え続けてきた――いわばギラギラを蓄えている状態だったから何とかなったんだ」

 

 エースは連戦連勝のデザ神。いままで様々な理想の世界を叶えたおかげでその身には多くの“ギラギラ”が蓄えられていた。

 ギーツⅨの力を行使したことでそのギラギラが失われ、結果として叶っていた理想の世界が消滅しもとに戻ってしまった。

 それによってエースがスターになっている世界へと巻き戻ってしまったのだ。

 

「――あ、あの!」

 

 深刻そうな表情の物間を差し置き、エースに女性が話しかける。

 

「もしかして……エース様、ですか?」

「ふふっ。バレちゃったね♪」

 

 女性はエースのファンだったようで、その正体に気づくと歓喜の表情を浮かべている。

 

「さっサインもらってもいいですか!?」

「うん、いいよ」

 

 渡された手帳にさらさらとサインを書き込む。

 女性はサインを受け取ると感動で瞳を潤ませる。

 

「~~~~ッありがとうござ……っ!」

 

 突如として女性は胸を押さえる。

 その瞳が妖しい緑へと輝く。

 

「――ッ! ジャァァァッ!!」

 

 そして全身がツタのようなもので覆われ、ポーンジャマトの姿へと変化してしまう。

 

「ッジャマト!?」

 

 物間は驚きドライバーを装着する。

 

「妙だね……人間がジャマトに変わるなんて」

 

 エースもまたドライバーを装着する。

 女性がポーンジャマトへ変身したのを皮切りに周囲でお茶をしていた人たちも次々とジャマトへと姿を変える。

 

「ジャマトの通う喫茶店ってとこかな?」

 

 ――Mark.Ⅸ

 

 バックルを分割し、ドライバーへ装填しようとするエースだったが、その手を物間が掴んで阻止する。

 

「待てよ。僕が言ったことを忘れたのか? 変身すれば君はギラギラを失うんだぞ。ここは僕に任せ」

 

 ――SET IGNITION!!

 

 だがエースはその手を振り払いバックルを装填した。

 

「ご忠告どうも。でも私は――それでもかまわないよ」

 

 ――REVOLVE ON

 

 彼は不敵な笑みを浮かべつつドライバーを反転、その手を狐の影絵のようにし指を鳴らす。

 

「変身!」

 

 ――DYNAMITE BOOST!! GEATS-Ⅸ

 

 ギーツⅨへ変身し、ギーツバスターをジャマトへと向ける。

 物間はその覚悟を知ると、呆れたようにため息をつく。

 

「人の親切心を……君がそのつもりなら、もう止めはしないさ」

 

 ――SET

 

「変身!」

 

 ――BEAT

 

 ビートバックルを起動し、パンクジャックへと変身する。

 

「ふふっ。これはいいハイライトになりそうだね♪」

「君に活躍させるつもりはないさ」

 

 ――READY――FIGHT!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「! いたよっ!」

 

 サロンでジャマト出現の知らせを受けた緑谷と葉隠は現場に急行する。

 そこでは複数体のポーンジャマトがうごめいていた。

 

「ゲームは開催されていないんだよね?」

「うん……ゲームマスターからは何の連絡もないの」

 

 だがこうして目の前でジャマトがうごめいている。つまり――デザグラ運営はジャマトの対応を放置したということである。

 

「――あれっ? 負け犬じゃんwww」

 

 そしてジャマトを率いていたのは――伴野だった。

 彼は相変わらず人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべたまま二人の前に現れる。

 

「ははっw なんだよ。すっかり元通りって感じじゃん……つまんな」

「そんなこと、ないでしょっ!」

 

 葉隠の怒りを伴野は軽く受け流す。親の小言を面倒くさそうに聞いている子供と何ら変わらぬ仕草だった。

 

「……エースさんに助けてもらうまでの事ははっきり覚えてないけど、確かお前は誰かにやられていなかったか?」

()()やられてないんだな、これが」

 

 伴野は歯をむき出しにして笑うと、その体を変化させる。

 ライダーの姿ではなく――古代魚ジャマトの姿へと。

 

「っ! ジャマトに、変身した?」

「正っ解! 俺はダパーンを喰らってあの姿を手に入れた! おかげで完全回復! でも――」

 

 古代魚ジャマトは腹部へ手をやる。そこはタイクーンの必殺技を受けた場所であった。

 

「お前を見ると治ったはずの傷が疼くんだ……この傷は、お前を喰らったら治るのか?」

「治す必要なんてないッ! お前はここで僕が斃すッ!」

 

 緑谷はドライバーを装着し新たに手に入れたバックル――ブジンソードバックルを取り出す。

 バックルを装填しようとした瞬間、急に手が震えだしてしまう。

 

「あれw 震えてんじゃんwww」

「っなんで……?」

 

 震えを押さえようと意識すればするほど止まらなくなり、遂にはバックルを落としてしまう。

 

「どうしたの緑谷くん!?」

 

 変身しようとしていた葉隠は緑谷の異変に気付いて駆け寄る。

 

「そういや、お前をぶっ殺したのって俺だっけw そりゃ怖いよなwww」

「ッ!?」

 

 古代魚ジャマトはタイクーンを退場させた張本人だ。

 自分を退場させた相手を前に平常でいられるほど、緑谷の精神は強くなかった。

 

「んじゃま、改めて退場させてやんよwww」

「ッさせない!」

 

 葉隠は緑谷を庇うように立つと新たに手に入れたバックル――ファンタジーバックルを構える。

 

「もう二度と、退場なんてさせないよッ!」

 

 ――SET

 

 変身させまいと襲い掛かってくる古代魚ジャマトへ剣のようなものが突き刺さる。

 それは葉隠の周りへ集結し守るように展開させる。

 

「変身っ!」

 

 ――FANTASY

 

 バックルを起動すると幻想的な力が放出される。

 宇宙を思わせる濃紺のアーマーが装着され、ナーゴはファンタジーフォームへと変身する。

 

「へぇ……w 強そうだけど、俺の方が強いぜ?」

 

 古代魚ジャマトは地面から剣を引き出して構える。

 

「私だって……負けないよッ!」

 

 ――READY FIGHT!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 人から変貌したジャマトと対峙するギーツとパンクジャック。

 

「ジャ!」

 

 変身した二人へポーンジャマトが襲い掛かる。

 

 ――GEATS BUSTER QB9

 

 ギーツはギーツバスターを召喚しポーンジャマトを撃ち抜く。

 

「ふっ!」

 

 パンクジャックはビートアックスをその名の通り斧の様に構えてポーンジャマトを迎え撃つ。

 ベースが人間であってもポーンジャマト。戦闘能力は低くギーツとパンクジャックの敵ではない。

 

「よかったね! 君の力を使わずに済みそうだ!」

「……そうだね」

 

 ――TACTICAL THUNDER

 

 パンクジャックの引き起こした落雷がポーンジャマトを一掃した。

 

「ジャ――ぅん……」

 

 爆発が起き、中からジャマトと化していた人々が姿が現す。

 

「ジャ」「ジャァ」

 

 

 そして彼らの首筋からハエのような大きさの何かが飛び出す。

 

「うん?」

 

 ギーツは飛び出した物に目を凝らす――よく見ればそれは極々小さなサイズとなったポーンジャマトであった。

 極小のポーンジャマトはその身を燃え上がらせながらもがいている。

 

「成程――ね!」

 

 ギーツは極小ポーンジャマトを次々と撃ち抜き、最後の一体を光の尾で捕獲し摘まみ上げる。

 

「あの人たちがジャマトに変身したのは、これのせいみたいだね」

「……小さいジャマト? これが寄生していたのか」

 

 パンクジャックは気味悪そうに極小ジャマトをつついている。

 

「――お見事!」

 

 乾いた拍手が響く。

 現れたのは紫のスーツを着た男――ジット。

 彼は鋭い視線のまま笑みを浮かべつつも、どこか小馬鹿にしたように柏手を打っている。

 

「流石は連戦連勝のデザ神、と言ったところか。鮮やかな戦闘だった」

「……君は?」

 

 ギーツは極小ジャマトを握りつぶしつつ問いかける。

 

「俺はジット。デザグラの新しいゲームマスター、と言えば話は早いか」

「新しい……?」

 

 デザグラの事情を把握しきれていなかったギーツは疑問符を浮かべる。

 そもそもゲームマスターの正体を知らなかったのだから、ゲームマスターが変わったと言われてもピンとこないのだ。

 

「そうか……奴は秘密主義だからお前らに正体は明かしていなかったか。まあ、そんな些細なことはどうだって構わないさ」

 

 ジットはスーツの懐から特殊警棒を取り出して伸長させる。

 

「俺の役割はあくまでメッセンジャーだが……どれ、噂のデザ神の強さを味わわせてくれよ」

 

 彼は変身することなくギーツへと襲い掛かる。しかし警棒が命中する刹那、パンクジャックが割り込み攻撃をビートアックスで防ぐ。

 

「ゲームマスターが襲い掛かるなんて乱暴だなあっ! 僕たちに怪我させてもいいのかい?」

「パンクジャック……運営に反旗を翻した元スタッフか」

 

 パンクジャックの乱入すらジットは歓迎していた。鋭い視線はそのままに凶暴な笑みが浮かんでいる。

 

「2対1も嫌いじゃない――が、ここで時間を浪費するわけにはいかないか」

 

 だが自らの使命を思い出すと警棒を引っ込め、代わりに2枚のカードを取り出す。

 

「喜べ。お前らは選ばれた――最後のデザイアグランプリにな」

 

 カードにはDとRをかたどったロゴマークが描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 

「――私だって……負けないよッ!」

 

 ――READY FIGHT!

 

 ナーゴは猫を思わせる低姿勢で構える。その瞬間、彼女の姿が透けて消えていく。

 

「っ消えた?」

 

 古代魚ジャマトは姿を消したナーゴを探して右往左往する。

 

「にゃーっ!」

「ぐっ!?」

 

 古代魚ジャマトの背後から姿を現したナーゴはサーベルのような武器を生み出して斬りかかる。不意討ちを喰らった古代魚ジャマトは反撃しようと剣を振るうも既にナーゴの姿は消えている。

 ファンタジーフォームはその名の通り変身者の“幻想”の力を引き出して戦う。

 その力故に変身者ごとに引き出される能力は異なる。

 葉隠の場合、自分自身の強みを最も生かせる能力――透明化を発動していた。

 

「こっちだよっ!」

「ッ!」

 

 彼女にとって自分の姿が見えないというのは“当たり前”の事である。

 一時はコンプレックスであり、理想の世界を叶えて自分の姿を見えるようにしたいと願ったこともあった。

 

「あーっクソッ! どこにいんだよッ!?」

 

 だが彼女は、自分自身の個性を肯定的に捉えることができるようになっていた。

 雄英に入学し、自分の“透明化”の個性でしか救えない人がいることに気づいた。

 

「ここだよ――っ!」

 

 ナーゴの足元にサークルが出現し、一瞬姿を現す。

 古代魚ジャマトはようやく姿を現したナーゴを捉えると一目散に突進していく。

 

「ぶっ殺すッ!」

「残念! そんなことはさせない――」

 

 ――集光屈折ハイチーズ

 

 ナーゴの体が再び透明化し、一瞬まばゆい光を放つ。

 それは彼女が合宿で個性を鍛えたことで獲得した必殺技の再現。光の屈折率を変更することでカメラのフラッシュの様に体を発光させる必殺技だ。

 

「っ目が……目がぁっ!」

 

 古代魚ジャマトはどこぞの悪役よろしく、目を手で覆ってのたうっている。

 ナーゴはその隙を逃さない。

 

 ――FANTASY STRIKE!

 

 バックルを起動し必殺技を放つ。

 幻想の力を全身にまとい、ライダーキックを放つ。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 ――FEVER ZOMBIE!! 

 

 

 

 

 

「あぅ――っ!」

 

 だがナーゴの必殺技は思わぬ横やりによって阻止される。

 

「ッ! バッファ!?」

 

 二人の戦いを見守っていた緑谷は、乱入者の正体に気づくと驚きの声を上げる。

 

「っなんで……?」

「……っ理想の世界を、叶えるためよッ!」

 

 乱入したバッファの姿はかつての物とは異なっていた。

 腰布だけでなく肩にはマント、仮面の角は肥大化し黄金色に輝いている。

 

「――ははっw ここは撤退した方がよさそうだwww」

 

 九死に一生を得た古代魚ジャマトは一目散で逃げ出していく。

 

「逃げられると思ってるの?」

 

 ――HYPER ZOMBIE STRIKE!!

 

 だがバッファの標的はナーゴだけではなかった。

 逃げる古代魚ジャマトをバーサークローのエフェクトを地面から発生させて阻む。逃げ道を塞がれ戸惑うジャマトに投擲されたゾンビブレーカーが命中する。

 

「グッ……っ待て! なんで俺を――!」

「……ついでよ」

 

 ――TACTICAL BREAK!

 

 バッファは古代魚ジャマトに突き刺さったゾンビブレーカーのカバーを足で起動させ、引き抜きざまに必殺技を食らわせる。

 古代魚ジャマトは断末魔を上げる暇もなく爆散してしまった。

 

「……邪魔は消えたわね」

「っ待ってよ……どうして、私を」

 

 再び標的とされたナーゴは戸惑うように問いかける。能力を発動し透明化すれば簡単に逃げられるが、バッファの攻撃が間違いであると信じそれをしなかった。

 

「……っ皆まで、言わせないで……っ!」

 

 バッファの声は震えていた。

 仮面で隠されていたが、その下では涙を流しているのかもしれない。

 

「あたしは、理想の世界を叶える――そのためにあんた()は邪魔なのよッ!」

「ッ!!」

 

 バッファの角――ゴッズホーンが輝き攻撃力が極限まで増幅される。

 ゾンビブレーカーの一撃を喰らったナーゴはそれだけで重傷を負ってしまう。

 

「ッ葉隠さん!」

 

 緑谷は攻撃を受けるナーゴを助けようとバックルを手に取るも、その手は震えてまともにドライバーへ装填できない。

 

「くそ……っ! 震えるなよッ!」

 

 そうこうしているうちにバッファはナーゴを痛めつけている。

 ナーゴもやられてばかりではいられないとばかりにサーベルのような武器を生成して反撃するも、それは青いエネルギーに阻まれて消滅してしまう。

 

「――あうっ!」

 

 ダメージを受けすぎたことでナーゴの変身が解除される。

 葉隠は地面を転がっていき、仰向けに倒れると苦しそうに胸を押さえる。

 

「……ごめんっ……あんたの事、嫌いじゃないけど――」

 

 バッファは葉隠のドライバーに装填されたIDコアへと手を伸ばし、それを引き抜く。

 

「ッやめろぉっ!」

 

 緑谷は変身することを諦めると、個性を発動してバッファへと飛び掛かる。

 

 ――10%:デトロイトスマッシュ

 

 緑の稲妻を纏った拳がバッファの胸元に命中する。青いエネルギーは発生せず、緑谷の右ストレートをもろに喰らってしまった。

 

「っ……! 邪魔、しないでっ!」

 

 バッファは吹き飛ばされ、奪い取っていたIDコアを手放してしまう。

 

「葉隠さん大丈夫!?」

「うん……へい、き……」

 

 緑谷はバッファのことなど意に介さず葉隠を抱き起す。彼女は微笑んで大丈夫なことをアピールしようとするも、意識を保てなかった。

 

「なんでこんなこと、するんですか……っ!」

 

 彼は怒りを胸に抱きながら、足元に落ちていたナーゴのIDコアを拾い上げる。

 それを葉隠の手に握らせてあげると、彼女のドライバーからファンタジーバックルを引き抜いた。

 

「……やめてっ! そんな目で、見ないで……っ!」

 

 バッファは緑谷から睨み付けられたことで怯んでしまい、顔を背けている。

 

「……貴女がそのつもりなら、僕だって黙ってるわけにはいきません」

 

 ――SET

 

 いつしか、恐怖心は収まっていた。

 代わりに胸の中には怒りが渦巻いていた。

 仲間だと思っていた人の裏切り、大切な人を傷つけたことへの怒りが緑谷に戦う力を蘇らせた。

 

「変身っ!」

 

 ――FANTASY

 

 緑谷はバックルを起動させ、タイクーンへと変身する。

 

 ――READY FIGHT!

 

 タヌキの仮面は、どこか怒りを示すように鋭く輝いていた。
















次回から黎明編がスタートですね! どんな話になるかワクワク……え、最終回? どうやら認めたくなくてギーツが9月以降も放送される幻覚を見ていたようです。
どうやら今までにない形の最終回らしいので、名残惜しいですが楽しみに待ちたいところですね。

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