【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-10 混沌Ⅶ/“仮面ライダー”バッファ:オリジン

――――

――

 

 ――READY ... FIGHT... !

 

 一陣の風。

 先に動き出したのタイクーンだった。

 武刃を抜き放つとケケラへと駆けていく。

 ケケラが放つ弾丸を紙一重で躱し、受け流すと斬りかかる。

 

「!」

 

 ケケラはレイズライザーで受け流しつつ舌を伸ばして反撃する。タイクーンは頭を傾けて躱しつつ転がって回避する。

 体勢を立て直した直後、タイクーンは周囲に蛙の卵のようなものが浮かんでいることに気づく。

 

 ――爆発。

 

 浮かんでいたものはケケラの放った爆弾だった。

 タイクーンはマントを翻して爆炎から身を守る。

 

「へへっ……おぉっと!」

 

 ケケラはタイクーンを斃したと思い油断したところを不意討ちされ体勢を崩してしまう。

 

「やるじゃねぇか」

 

 レイズライザーをはたき落とされ丸腰となり劣勢となってしまうケケラ。タイクーンはこの隙を見逃さず猛追していく。

 だがケケラも負けじと爆発する卵を発射して反撃する。

 

「っおいおいおい!」

「……そんな攻撃、効くかよ……っ!」

 

 爆発を受けたタイクーンだったが、ひるまずケケラの胸倉を鷲掴みにしている。

 

 ――BUJIN-SWORD STRIKE... !

 

 バックルを納刀し、再び抜刀。必殺技の体勢へと入る。

 

「――きゃぁっ!」

 

 その時悲鳴が聞こえてくる。

 タイクーンはその方向へ視線を送るとそこではポーンジャマトが人々を襲わんとしているところだった。

 

「ッ!」

 

 人助けか敵を斃すか、二択に迫られたタイクーンは躊躇うことなく前者を選択した。

 ケケラへ向けた必殺技をキャンセルし、ポーンジャマトの方へと駆けていく。

 

「ッ――スマッシュ!」

「ジャッ!?」

 

 必殺技はポーンジャマトへと放たれ無事に規制されていた人も救うことに成功する。

 だがその代わりにケケラに体勢を整える隙を与えてしまった。

 

「ふぅ……いい子ちゃんは大変だよなぁ? 困ってる人がいたら見捨てられない」

「見捨てるわけないだろ……っ!」

 

 放たれる弾丸を受け止めるタイクーン。回避したり弾かないのは、近くに襲われていた人がまだいるからだった。

 

「はっ……どうかな。お前は自分が善人であると証明したいがために人を助けるんだ。例えば今助けたそいつが憎い相手でも――お前は助けたのか?」

 

 ケケラの言葉にタイクーンは逡巡する。

 お前は誰が相手でも救いの手を差し伸べるのか、助けたい相手だけ助ける偽善者なのではないのか?

 

 ――『早く()()()()()()ッ!!』

 

 脳裏に浮かぶのはダパーン――伴野が脱落する瞬間。

 差し伸べた救いの手を払いのけたのにも関わらず、自分の危機には図々しく助けを求めた傲慢な少年の叫び。

 

「……確かに、憎い相手だったら、助けないかもしれない」

「ほらな! 所詮お前は――」

「でも! 救いの手を受け入れてくれるなら、僕は絶対に助けてみせるッ!」

 

 ――BUJIN-SWORD VICTORY ... !

 

 タイクーンはバックルを素早く二回納刀し腰を低く構える。

 

「……世界を滅ぼす大悪党でも、お前は助けるってのか!?」

 

 ――FINISH MODE!

 

 ケケラも負けじとレイズライザーのクロスオルタネーターを操作し構える。

 

「ああそうさ! それが僕の憧れた――“どんな人でも笑顔で助ける”ヒーローだッッ!」

 

 タイクーンの拳が振りかぶられる。

 それは憧れのヒーロー、オールマイトの必殺技と酷似した構えだった。

 

「……そいつは、とんでもねぇ欲望(エゴ)だな」

 

 タイクーンの答えを聞いたケケラは、すっとレイズライザーを下げ代わりに両手を広げてタイクーンの必殺技を受け入れる。

 渾身の右ストレートはクリティカルに命中し、ケケラを大きく吹き飛ばし変身を解除させた。

 

「……っなんで?」

 

 打ち合いになると考えていたタイクーンはあっけにとられ自分の拳とケケラを交互に見つめる。

 

「……はははっ! 天晴だ()()()()()()、緑谷 出久」

 

 ケケラはふらつきながらも立ち上がり、今にも消えそうな体で拍手をする。

 

「お前の欲望(エゴ)は、もはや仮面で隠しきれや……しない」

 

 タイクーン――緑谷は変身を解除しケケラへと歩み寄る。

 今まで戦っていた相手にも関わらず、助けようとしているかのようだった。

 

「お前ならバッファを――牛込 茜も、救っちまうのかもしれねぇな……!」

 

 立っていられなくなったケケラは頬杖をつくようにしながらしゃがみ込む。

 同時に、その体はチリの様に消えてしまうのであった。

 

「――消えちまいましたか」

「っあなたは?」

 

 ケケラの消滅と同時に現れた女性――セセラに緑谷は問いかける。

 いつでも再変身できるようバックルを構えている。

 

ん”っ! 生タイクーン最高!……私はセセラ、貴方のサポーターをさせていただいております」

「……サポーターが、今更なんの用ですか?」

 

 敵ではないとわかったが、依然緑谷は敵意を向けたままだった。

 

「やはり、私たちが気に入らないっすよね……貴方様たちの人生を弄んで楽しんでいた私らが」

「っそれが分かってるなら、どうして――!?」

 

 セセラは自分のレイズライザーを緑谷に握らせるとその銃口を自らの胸に押し当てさせた。

 

「私はずっと“命の終わり”――死を理解できていなかった。人の死を悲しむ推しが尊いと感じていたけど、それがどういうことか真に理解できていなかった」

 

 彼女たちの住む未来では人は“データ”として存在している。人格から寿命まで全て“デザイン”されて誕生する――生まれ落ちたその日から終わる日を全て知っているのだ。

 それ故に()()()とは死の意味合いが完全に異なる。

 命の()()が違っているのだ。

 

「貴方様が退場して、ようやく“死ぬ”ことが何を意味するか理解できました……どうしようもなく苦しくて、でもそれを受け入れるしかない。私らはこんな、辛い思いをさせてしまっていたのかと思い知りました」

 

 セセラの瞳には涙が浮かんでいる。

 

「どうぞ、引き金を引いてくださいな。報いを受ける覚悟はできています」

「っやめてください! 僕はそんなつもりじゃ……」

 

 緑谷は咄嗟にレイズライザーを手放す。

 観客(オーディエンス)が悪辣で人の生き死にを楽しんで笑う者達だったら躊躇わずに引き金を引いたかもしれない。

 だが目の前のセセラは自分たちの行いを反省し、罪を償う覚悟ができていた。

 それに――人の生き死にで楽しむのは何も未来人たちだけではない。

 

「……僕たちだって、命がけで戦っているヒーローの活躍を楽しんでるんです。あなたたちを一方的に責めることなんてできないですよ」

 

 ヒーロー飽和時代の現在。彼らのありかたは当初の“命がけの人助け”よりもショービズ的な側面が強くなってしまっている。

 人の生き死にがかかっているのにそれを娯楽として楽しんでいる。

 明日は我が身――そんなことはすっかり意識から欠落し、存分にヒーローを楽しんでいるのである。

 

「許してくれるのですね……ッやっぱり貴方様は最高のヒーロー、私の“推し”です」

 

 セセラは端末を取り出し操作する。

 目の前にバックルの入ったボックス――デザグラでミッションクリア時に出現するものだ――が現れる。

 

「もうすぐ終幕(グランドエンド)は近いです。私らは“四次元ゲート”で未来に帰らなきゃですが……最後まで応援しています」

 

 ボックスを受け取った緑谷はそれを開けて中身を取り出す――ブーストバックルが収められていた。

 

「バッファを救えることを祈ってます」

「……ありがとうございます」

 

 ――BOOST

 

 緑谷はブーストバックルを装填し変身、その圧倒的なスピードを発揮しバッファの下へと駆ける。

 セセラはその背中を――推しの姿をその目に深く焼き付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

「――っ待って! 私たちは戦うつもりないのッ!」

「――そっちに無くても――あたしにはあるのよ……っ!」

 

 寄生ジャマトに取りつかれた人たちは仲間を増やそうと周囲の人に襲い掛かっている。

 本来人々を守る側であるはずのバッファはジャマトに目もくれず、ナーゴとパンクジャックにのみ視線を注いでいる。

 

「あくまでデザロワのルールに従うって? どこまでも自分勝手な人だねぇ、君は」

 

 ナーゴを手で制しつつパンクジャックはバッファの前に立ちはだかる。

 

「ジャマトは君に任せるよ」

「っでもあなただけじゃバッファは」

 

 バッファはすべてのライダーに対して絶対的な攻撃力と防御力を誇っている。ナーゴと協力して2対1で戦っても勝てるわけではないが、瞬殺は防ぐことができるかもしれない。

 少なくとも、一人で立ち向かってどうにかなる相手ではないことは確かだ。

 

「そんなつもりじゃないさ――斃せない敵と戦うより、ジャマト(あっち)をどうにかする方が先だと思わないかい?」

 

 寄生ジャマトはどんどんその数を増やしていっている。

 見れば、羽虫のような小型のジャマトが飛び回っており次々と人々に取りついているのだ。

 

「ああいう寄生する奴は放っておくと取り返しがつかないことになる。頼んだぜ、ナーゴ」

「……っわかった!」

 

 ナーゴは振り絞る様にしてジャマトへと駆けていった。恐らくパンクジャックが勝てる未来は存在しない、だがジャマトから人を斃す方が優先である。

 苦渋の決断だが受け入れるしかなかった。

 

「……話は終わったかしら?」

「へえ、待っててくれたんだ。優しいねぇ」

 

 パンクジャックの挑発を受けわずかに反応するバッファ。

 

「別に……不意討ちとか、あたしの性に合わないだけよ」

「意外だねぇ! 卑怯でもなんでもござれ! な悪徳ライダーかと思ってたぜ?」

「ッ……!」

 

 バッファは苛立ったように首を傾けパンクジャックを睨み付ける。

 ここぞとばかりに煽るパンクジャックに腹が立っているのだ。

 

「アハハ! 図星かい? そうだよねぇ! 君は運営が“ワル”だって理解したうえでその手先になっちゃうんだもんなぁ! 自分の理想(ねがい)を叶えるためならどんな汚い手でも使うんだろ!?」

「ッうるさい!」

 

 ゾンビブレーカーが地面を穿つ。

 舌戦で時間を稼ごうとしていたパンクジャックは臨戦態勢になってしまったバッファに冷や汗を流す。

 

「……その口が開けないようにしてやるわよ」

 

 一足で距離を詰めるバッファはパンクジャックは身構えるもそれよりも早く攻撃が命中する。

 ゴッズホーンが輝き攻撃力が極限まで引き上げられ――パンクジャックに致命的なダメージを与える。

 

「ッ!!」

 

 ――ROCK FIRE

 

 パンクジャックはボロボロになりながらもビートアックスを操作し炎を纏う。

 炎纏おうが氷を纏おうが雷を纏おうがバッファの防御力を前には無力である。

 

「くっ……!」

 

 ビートアックスがバッファに打ち据えられる。だが青いエネルギーが攻撃を圧縮し受け流し、纏っていた炎は霧散してしまう。

 

「ふん!」

 

 バッファのヤクザキックがパンクジャックを突き放す。ダメージが限界に達し変身が解除されてしまう。

 

「っ……もうちょい、もつかと思ったけど」

「……あたし、()()だから手加減とかできないのよ」

 

 挑発の意趣返しの様に言い返すバッファ。

 物間は悔しそうに地面を叩き立ち上がろうとするも、バッファの蹴りで転がされ仰向けに倒れる。

 

「本当に、悪い奴は……自分から悪だって宣言しないだろ」

 

 少しでも時間を稼ごうと再び挑発しようとする物間。

 だがバッファは聞く耳を持たず、パンクジャックのIDコアを引き抜く。

 

「本当は、無理して強がってるんじゃないか?」

「……だったら何よ」

 

 IDコアが砕かれる。

 オレンジの破片は煌めきながら消滅していく。

 

「あんたの心配なんか、余計なお節介よ」

 

 ――RETIRE...

 

 IDコアが破壊され脱落となってしまう物間。その体が消滅しドライバーだけがその場に残される。

 

「……余計な、お世話よ」

 

 自分に言い聞かせるようにつぶやくバッファ。

 彼女はジャマトと戦っているナーゴへと視線を向ける。

 

「――っ! キリが、ない……!」

 

 ナーゴは次々と数を増やしている寄生ジャマトを相手に苦戦していた。

 戦力としては申し分はない。彼女が使っているファンタジーバックルは最上級の性能を誇る。他のバックルとは一線を画す力――その可能性を秘めているのである。

 だが一人だけ強くても意味はなかった。

 敵は指数的に数を増やしていっている。2人、4人、8人、連鎖的に増えていく被害者を助けるには一人の力では不十分だった。

 

「だったら、楽になりなさいよ」

「ッ!」

 

 ナーゴは羽交い絞めにしていたジャマトを手放すとゾンビブレーカーを躱す。

 

「あたしが勝って、理想を叶える。それで全部終わりよ」

「終わらないよ……っ!」

 

 寄生ジャマト――その素体となる羽虫のような小さなジャマトの発生源。それさえ突き止めれば寄生ジャマトの問題は片付くだろう。

 だが放置して、仮にバッファが理想の世界を叶えたとして――ジャマトの問題はきっと解決しないだろう。

 

「だって、運営の人たちがジャマトを何とかしてくれるなら、この状況は何!? こんなに被害が出てるのに、なんもしてくれないじゃん!」

「……ッ」

 

 終幕(グランドエンド)――デザグラはある程度その世界で開催されると最終的には撤退し別の世界で新たなゲームを開催する。

 その際――ジャマトを始めとした改変は放置されてしまう。

 管理下を離れたジャマトを全て回収することなく撤収し、別の世界へ赴くこととなる。そうして野放しにされたジャマトはある種の伝承として語り継がれることとなる。

 運営にとって昔の世界は既に“終わっている”ものと考えられている。

 如何に古代の世界が滅びようとも自分たちの未来に何ら影響はない。幾多の可能性が収束した未来では、世界が一つ二つ滅んでも最終的に自分たちの世界へとつながるのだから何も気にしないのである。

 

「それでも! 牛込さんは私たちと戦うの!?」

 

 ナーゴは運営の手口を知る由もなかった。

 だがこの状況を放置するということは、都合よく世界を守ってくれるとは限らないと悟っていた。守りたければ、自分たちの手で守るしかない。

 大切なものを失いたくなければ、戦うしかないのだと。

 

「……ッ戦うわよ!! だって! 失った物はこうでもしないと取り戻せないじゃないのッッ!」

 

 バッファ――牛込 茜が戦う理由はたった一つ。

 デザグラで退場してしまった幼馴染を救うこと。

 愚かな自分のために戦ってくれた幼馴染を生き返らせること。

 戦いを経て想いは――願いは大きくなったが、根本は変わらない。失われてしまった大切なものを取り戻したい、その一心だった。

 

「っ今、大切なものを失うかもしれない人がいるのに、それはどうでもいいていうの!?」

「……ッ全部なかったことにしてあげるわよ」

 

 ――POISON CHARGE

 

 バッファはゾンビブレーカーのカバーを足で蹴ることで操作する。

 

「あたしの理想(ねがい)で、全部なかったことに!」

 

 ――TACTICAL BREAK!

 

 ――BOOST STRIKE!

 

 振り下ろされたゾンビブレーカーの横っ面を緑の影が蹴り飛ばす。

 

「……こんなこと、僕が言っても安心できないかもしれないけど――」

 

 タヌキの仮面にバイクのマフラーを思わせる下半身の装甲。

 タイクーン――緑谷はブーストバックルを引き抜いて変身を解除しつつ、バッファへと向き直る。

 

「もう大丈夫、僕が来た……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「っ緑谷くん……!」

 

 あと一歩で戦闘不能となっていたナーゴは援軍の到着に胸をなでおろす。

 

「葉隠さん、これを」

 

 そんなナーゴの下へ駆けよった緑谷はブーストバックルを差し出す。

 

「ここは僕に任せて、葉隠さんはジャマトを」

「うん……気を付けてね!」

 

 バックルを受け取ったナーゴは寄生ジャマトの出所を探すためにかけていく。

 

「……なに、しに来たのよ」

「あなたを、助けに来ました」

 

 ――SET AVENGE ...

 

 緑谷はブジンソードバックルをドライバーに装填する。

 

「ッ誰も、助けなんて頼んでないわよ!」

「だったらどうしてそんなに辛そうなんですか?」

「……っ辛くなんか、ないわよ!」

 

 明らかに強がりな言葉に緑谷は決意を固めた。

 バッファは――牛込は苦しんでいる。自分の進むべき道が見えず迷子になってしまっている。

 その苦しみ、悲しみを仮面で押し殺しているのだ。

 

「辛くないなら――どうしてそんな顔してるんだ……!」

 

 彼は決意を固めるように拳を握り締める。関節がぽきぽきと音を立てて鳴り、拳はぎりぎりと音を立てて引き絞られる。

 

「ッ余計なお世話よ! 放っておいて!」

「オールマイトは言ってた――“余計なお世話は、ヒーローの本質”だって!」

 

 バックルの刀を抜刀。

 

「変身ッ!」

 

 ――BLACK GENERAL:BUJIN-SWORD

 

 黒い靄から召喚された武刃を手に取るとタイクーンは鯉口を切る。

 むき出しとなった刀身にタイクーンの赤い瞳が映し出される。

 

「ッ……あたしの邪魔すんなッッ!」

 

 ――READY ... FIGHT... !

 

 バッファが吠える。タイクーンは再び武刃を納刀し居合で構える。

 突進してくるバッファに対して武刃を振り抜く。その刃はバッファの体に展開された青いエネルギーによって圧縮される――はずだった。

 

「んッ!?」

 

 武刃の切っ先がバッファの脇腹を傷つける。

 圧縮し受け流したはずの攻撃が通ったのである。

 

「何で……あんたの攻撃が?」

「その無敵のタネは“攻撃を圧縮して受け流す”こと、だろ? だから攻撃を喰らってもノーダメージになるほどに威力が下がって全部受けきれるんだ」

 

 バッファのマント、ゴッズウォールはライダーからの攻撃を圧縮し受け流す機構を有している。

 それ故、対ライダー相手では攻撃を喰らっても無傷のままでいることができるのだ。

 

「でもそれは“不可侵”とか“無敵”じゃない!」

 

 そんな無敵とも思えるバッファに攻撃を通すための手段は限られている。最もシンプルな方法はライダーに変身せず戦うことである。

 変身さえしなければ対象外となるため攻撃が圧縮されることは無い。

 

「だったら、受け流せないほどの攻撃を当てればいい!」

 

 タイクーンの持つ武刃はデザイアドライバーのエネルギーを超圧縮して刀身にまとわせ、あらゆる物質の結合を解いて斬り裂くほどの切れ味を発揮する。

 クレバーとはお世辞にも言えない強引な突破方法だったが、これもまた方法の一つである。

 あらゆる障壁を己の力一つで全て突破する。あらゆる敵を右腕の一振りで全て解決してしまう究極のパワータイプ――オールマイトのような解決方法であった。

 

「……攻撃を当てたくらいで、いい気になってんじゃないわよッ!」

 

 だがそれはあくまで攻撃を命中させただけの事である。

 一発喰らっただけで怯むほどバッファはヤワではないのだ。

 

「“右上段からの振り下ろし”」

「ッ!?」

 

 攻撃を先読みし最小限の動きで躱すタイクーン。カウンターで武刃が一閃し再び攻撃が通る。

 

「僕は、すごいと思った()()()()は分析するんだ。将来、僕がヒーローになった時のために」

 

 無個性であるがゆえに分析するしかなかった。緑谷はヒーローになりたい一心でヒーローの活躍を逐一追いかけ、その戦いを分析していた。

 デザグラをきっかけにトレーニングを始めてからもそれを止めることは無く、入学してからはクラスメイトの動きも分析し自分の糧としてきている。

 当然、デザグラのライバルも分析対象だ。

 

「牛込さんは、バッファはいつも右上段から武器を振り下ろして攻撃してる。駆け引きとかを嫌って、一撃必殺で終わらせようとする」

「……ッ」

 

 バッファは気恥ずかしさと気味の悪さで一歩後ずさる。

 

「あなたにとって僕はただのライバルだったのかもしれない。でも――」

 

 ――BUJIN-SWORD STRIKE... !

 

 タイクーンはバックルを操作し武刃を構える。

 

「あなたは、僕の憧れる()()()()の一人なんだッ!」

 

 武刃一閃。

 袈裟斬りを受けたバッファはよろめきながら後ずさっていく。

 

「……やめてよ」

 

 よろめきながら崩れ落ちるバッファ。彼女は苦しそうに胸を押さえていた。

 

「……あたしは、ヒーローなんかじゃ、ない」

 

 バーサークローが地面を抉り、そのまま彼女の拳が握られる。

 

「理想の世界を叶える以外にも、道はきっとあるはずです。だから――僕たちと一緒に」

 

 タイクーンは武刃を納刀しバッファへと手を差し伸べる。

 

「誰のためにこうなったと思ってんのよッッ!」

 

 バッファのゴッズホーンが輝きが一際輝く。

 タイクーンの手を振り払うと立ち上がりざまに頭突きを見舞う。ただの頭突きだが相手がライダーであるため攻撃力が無限大に増幅する。

 

「ッッ!」

 

 不意を突かれもろにそれを喰らってしまうタイクーン。ブジンアーマーは衝撃を吸収しようとするも吸収しきれず吹き飛ばされてしまう。

 

「あんたを助けたくて、この方法を選んだのに……っあんたがそれを否定しないでよッ!」

 

 子供の癇癪のような叫びにタイクーンは気圧されてしまう。

 

「僕の、ために……?」

 

 バッファの願いの原点――運営の手先になってまで叶えたかった理想の原点は退場してしまった緑谷を蘇らせることだ。

 心無いライダーによって退場してしまった緑谷を救いたい。だが退場した者を全て蘇らせればまた同じことが起きてしまうかもしれない。だからこそ――蘇らせても問題ない者だけ復活させる。

 ()()()()()()()()()()助けたい――それがバッファの、牛込 茜が叶えたかった理想だ。

 

「そうよ! あたしは理想の世界を叶えてあんたを助けたかった! あんたみたいないい奴だけが復活した世界を叶えたかったのッ!」

 

 ――『例えば今助けたそいつが憎い相手でも――お前は助けたのか?』

 

 タイクーンの脳裏にケケラの言葉がよぎる。

 おそらくケケラは口先だけの善人の化けの皮をはがすことを楽しみにしていたのかもしれない。助けると口先だけなら誰でもできる。それを行動に移せるのは、ごく限られた人間だけなのだ。

 

「……」

 

 タイクーン――緑谷は変身を解除した。

 このままバッファの――牛込の理想を否定し打ち負かすことはできるだろう。戦闘力的に言えば五分、彼にもいくらか勝ち筋は残っているのだから勝つことは出来た。

 だがそれでは、牛込を救うことはできないだろう。

 誰かを助けたい、どんな手段を使ってでも助けたいという想いまで否定してしまえば、彼女を救うことはできない。

 

「なんの、つもりよ」

 

 突如として変身を解除した緑谷に戸惑うバッファ。緑谷はゆっくりと歩み寄るとゾンビブレーカーを握る彼女の手を取り、自分の胸元にあてがった。

 

「……牛込さんの理想は、願いはよくわかりました。僕に、あなたの理想を止める資格はない」

 

 ――POISON CHARGE

 

 緑谷はゾンビブレーカーのカバーを操作する。これでバッファがトリガーを引けば容易く緑谷を葬ることができるだろう。

 

「僕だって退場した人たちを救いたい。ここであなたにやられるなら、僕は本望だ」

「……え?」

 

 思わずトリガーから指を放すバッファ。これで暴発する危険は無くなったが、依然切っ先は緑谷にあてがわれたままである。

 

「デザイアロワイヤルは、すべてのライダーを斃し最後まで生き残った人だけが理想を叶えられるゲーム。斃さなくていいライダーはいないはずだ」

「ッ!」

 

 彼女の手が震え始める。目を背けてきていた事実を思い出させられ、今から自分がやらなければならないことに気づき怖気づいたのだ。

 

「本気で理想を叶えたいなら――今すぐここで僕を斃してみろよ……ッ!」

 

 すなわち――タイクーン、緑谷 出久をも斃さなくてはいけない。

 デザロワで勝利するためには、どんな手を使ってでも生き返らせたかった人すら斃さなくてはならないのである。

 

「……ほら!」

 

 緑谷に迫られバッファは思わずゾンビブレーカーを手放してしまった。

 覚悟がなかったと言えば嘘になる。

 どんな相手でも斃して理想を叶えると。

 

「…………ッできるわけ、ない」

 

 だがそれは、大切な人を退場させてまで――殺してまで叶えられるものではなかった。

 

「できるわけ、ないじゃない……!」

 

 バッファの手がゾンビブレーカーから滑り落ち、膝から崩れる。

 変身が解けその仮面が剥がれ落ちる。その下には牛込の涙があった。

 

「あたしは、あんたを助けたかった。でもギーツが助けちゃって、でも理想を叶えなきゃって、他にも助けたい人がいたから……!」

 

 彼女はあふれ出る涙をぬぐいながら取り留めもない思いを吐き出す。

 

「だって、もう二度と失いたくなかった……! もうあんな辛い思いは二度としたくなかったのよ……ッ!」

 

 仮面によって押さえつけられていた想いは、剥がれ落ちると同時にとめどなくあふれ出す。

 

「……失われてしまったものを取り戻すのは、もう無理かもしれません。でも、これから失われるものを、守ることはできるはずです!」

 

 緑谷はそんな牛込に手を差し伸べる。

 もう大丈夫だと、一人ではないのだと。理想を否定したいのではなく、共に戦いたいだけなのだと。

 

「理想を捨てるなとはいいません。僕たちと一緒に、戦ってくれませんか?」

 

 牛込は差し出された手をじっと見つめる。

 本当にこの手を取っていいのか、このまま救われてもいいのか、そんな思いが頭を駆け巡る。

 

「あたしは……」

 

 気が付けば体が動いていた。

 彼女は差し出された手を、恐る恐る取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



























ガッチャード、遂に始まりましたね。
まだ一話だけなのでなんとも言えませんが、ギーツが面白過ぎたので落差で評価が辛くなってしまいますね。セイバーの親戚とかゴーストの孫とか言われているみたいですが、今後に期待といったところでしょうか。
戦闘もギーツで目が肥えてしまったので物足りなさが……悪くないのですが、もっと満足させてくれ! と心が叫んでしまいますね。
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