――――
――
――白い閃光が迸る。
「ッ!」
極限まで加速したギーツの拳がリガドΩへと命中する。
リガドΩはその拳をあえて受ける。能力を駆使して躱すことも可能だったが、一方的なワンサイドゲームとなってしまえば彼に力を与えてくれているオーディエンスを白けさせてしまうことになる。
――『いいぞ! やれっ!』
リガドΩの体から声が響く。
オーディエンスはギーツの奮闘に湧き、それがリガドΩの力となる。
ギーツはすかさずギーツバスターの銃撃を浴びせる。
『――これが歴代最強のデザ神の力……! 少々侮っていたようだな』
――MAGNUM:INFINITY ... !
リガドΩは手抜きを止め、グレートアセンブルへマグナムバックルを装填、起動させる。
召喚されたマグナムシューターを1丁取るとそれでギーツへ応戦する。
すかさず接近しようとするギーツだったが、リガドΩの背後に召喚されているマグナムシューターの援護射撃を受けて後退する。
それはさながら弾幕を浴びせてくるシューティングゲーム。ギーツは紙一重で攻撃を躱しつつ間合いを詰めていく。
――BOOST:INFINITY ... !
有効打を与えられないことを悟ったリガドΩはブーストバックルを召喚、それをグレートアセンブルへ装填し起動させる。
複数のブーストバックルが召喚されギーツへ向けて体当たりする。
「ッ!?」
虚を突かれた攻撃にギーツはバックルを腹部に喰らい思わずギーツバスターを取り落としてしまう。
――BEAT:INFINITY ... !
続けざまに召喚されたのビートアックス。それらが地面に次々と突き刺さる。
『フンッ!』
リガドΩはそれを地面から引き抜きつつ次々と投擲していく。
ギーツはそのうちの一振りを空中で受け止めると自分の武器へと転用する。
――FUNK BLIZZARD
氷結攻撃が迸りリガドΩの足元を凍り付かせる。
――METAL THUNDER
続けざまに雷撃を纏った一撃をリガドΩへ見舞う。思いがけないギーツの猛攻にリガドΩは巻き戻しの力を使おうか迷うも、この力が長続きしないことを彼は知っている。
「ッ……!」
このまま畳みかければギーツの勝利で終わったはずだった。
しかし突如としてギーツの動きが鈍る。
ベロバの死によって湧き上がっていた気力が失われつつあるのだ。
『ギラギラが尽きてきたようだな……お前のその力はお前自身の“理想を願う心”――ギラギラを消費して成り立っている』
「……っああ、知って、いるさ」
リガドΩは出来の悪い生徒をからかうかのように人差し指を振って見せる。
『君は理解していない……ギラギラを失うことが、何を意味するのか』
――NINJA:INFINITY ... !
召喚されたニンジャデュアラーを手にしたリガドΩはこの戦いを見物していた
『例えば、私が彼女を殺す、と言ったら君はどうする?』
「決まってる――?」
ギーツは反射的に答えようとして言葉に詰まる。
自分は何をしたいと感じたのか。巻き込まれただけの一般人をどうしようと思っていたのか。
その答えにたどり着けずに固まってしまう。
『これがその答えだ。ギーツ、お前がギラギラを全て失った瞬間、ただの人形に成り下がる。何も感じない、自ら動こうとすら思えない――生きるという行為にすら無頓着な抜け殻になるのだ!』
“理想の世界を願う心”――それは人が持つ欲、幸せになりたいという欲求に他ならない。
誰かより幸せになりたい、特別な何かになりたい――そういった欲求や願望が人の生きる糧となる。明日も平穏な一日であって欲しい、今日も精一杯生きたい、今この瞬間を全力で楽しみたい――人は生きているだけで願い、欲しているのだ。
ギーツ――エースはそんな些細な“願望”すら戦う力として消費してしまっている。
戦えば戦うほど、エースは“生きる”という行為に対する
「そんな……ことは……」
ギーツは反論しようとするも、そうしたいと感じる心すら希薄となり何も言い返せない。
『“死ぬまでデザイアグランプリに参加して理想の世界を叶えたい”――そんな大層なギラギラを持っていたお前が! こんな惨めな最期を遂げるとは……滑稽すぎて笑えるな』
――EXPUNGE ... !
リガドΩはシリウスカードをドライバーへ読み込ませ必殺技を発動する。
「っ……」
ギーツは取り落としたギーツバスターを再生成し構える。それのトリガーを引きリガドΩの技と打ち合おうとするも、指が思ったように動かない。
どうして技を撃ち消して防御しなければならないのか、どうして勝たなければならないのか疑問を覚え何もできないでいるのだ。
もたもたしているギーツを待つほどリガドΩは気長ではない。全身から光弾を放ちギーツへと命中させる。
「ッ……」
攻撃を避けようともしなかったギーツに全弾命中し、その変身が解除されてしまう。
「…………」
エースは地面に倒れたまま動かない。瞳は光を失い虚空を見つめている。
それは相手を化かして不意討ちを決めようという策略などでは決してない。
ただただ、再起する気力を失い動けずにいるのだ。
『
――『ブラボー!』
――『最高にエキサイティングだったぜっ!』
リガドΩの中のオーディエンスは口々に賞賛の言葉を発していた。
だがオーディエンスも一枚岩ではない。
――『……なんだ、負けちゃったのか』
――『ギーツ……そこまでして、何を守りたかったのかな?』
中には敗北したギーツを憐み、その戦う動機に興味を覚える者もいた。
『むっ……!』
それはすなわち、リガドΩへの反感を意味している。オーディエンスの力を利用している彼にとって、心が一つにならないことは断じてあってはならないことだった。
――『もっと、ギーツの活躍を』
リガドΩは親ギーツなオーディエンスの宿る右腕を攻撃し黙らせる。
『……ほかに異論のある者はいるか?』
――『…………』
沈黙が場を支配した。恐怖によって誰も逆らうことができなかった。
『さて……改めて――余興は楽しんでもらえたかな? 女神の後継者よ』
「ッ……!」
こんなことならギーツと戦っている隙に逃げるべきだったと、彼女は後悔する。心のどこかでギーツが勝利するのだと信じていた結果がこれだった。
自分を助けてくれる
「っ……助けて」
彼女は地面に倒れ伏すエースへ助けを求めるも、彼はピクリとも動かない。
声は届いているのに、それの意味を受け入れることができないのだ。受け入れるための動機を失ってしまっているのだ。
『そう怯えなくてもいい。我々は君の事をスカウトしたいだけだ――“第二の女神”として』
「っ……さっきから、なんなんですか……? 私は……女神なんかじゃ」
浮世
だが個性とは異なる力――異能とも呼ぶべき力が備わっている。
スエル達デザグラ運営はその力を“創世の力”と呼んでいたが、この世界の言い方に倣うならばこう表現すべきだろう。
――個性、“異能:創世”
誰かの願いを受け入れ、それを実現するため世界を作り変える力。
力を望めば力を、富を望めば富を、名声を望むなら名声を。
その願いに応えて世界を作り変える力――それこそが浮世
『君には世界を作り変える特別な力が宿っている。君は気づいていないだけだ』
リガドΩはゆっくりと
『その力を、こんな古代でくすぶらせるのは勿体無い。我々と共に、有意義に活用しようじゃないか』
「っ……何を、させたいんですか?」
こんな強引な方法で勧誘するということは、十中八九ヴィラン側の存在である。まず真っ当なことではないのだろう。
『何、難しいことは無い……ゲームに勝った者の“理想の世界”叶えるだけでいい。ほんの少し、世界を作り変えるだけの、簡単な仕事さ』
リガドΩは気味の悪い猫撫で声で
最終手段として前任者――ミツメの様に物言わぬ石像へと変えてしまうことは可能だが、そうすれば彼女の力が制限されてしまうかもしれない。
現にミツメは石像へと変えられた結果、より多くの“幸福”を集めねば創世の力を発動できなくなってしまったのである。
なるべく意志を持った人間として、自分の意志で協力してもらわねばならないのだ。
「……っ!」
彼女は首を横に振る。
自分にそんな力が本当にあるのか定かではなかったが、世界を好きなように作り変えればいつかめちゃくちゃになってしまうかもしれない。そんな
『ふむ……残念だ』
――MAGNUM:INFINITY ... !
リガドΩはマグナムシューターを呼び出すとその銃口をエースへと向ける。
『ではこうしよう。君が協力してくれるならば彼の命は助けてあげよう。だが君の意志が変わらないのならば――』
――BULLET CHARGE
マグナムシューターのレバーを見せつけるように引きエネルギーを充填する。後は引き金を引けばエースの命はない。
リガドΩの指がゆっくりと引き金にかかり――
「っやります! だから……」
その顔は青ざめており、体は恐怖で震えていた。
『……それでいい。では共に行くとしようか。心配するな、この世界に別れを告げる時間くらいはある』
「…………っ!」
彼女は悔し紛れに唇を噛みしめながらリガドΩの後をついていく。
「…………助けてよっ!」
一瞬、エースの方へ視線をやるとか細い声でつぶやく。
名も知らぬヒーロー、全力を賭して戦い、再起不能となってしまったヒーローに彼女は縋りつく。
助けてくれと、こんな悪人さっさと片付けて平穏を取り戻してくれ、と。
罪なき少女は、再びヒーローが立ち上がってくれることを願うばかりであった。
――――
――
『――さあ! 時は満ちたっ!』
リガドΩは世界へ向けて高らかに宣言をする。
ビルの屋上、街を一望できるそこから
『よく目に焼き付けておくといい。君がこの世界に戻ってくることはもうないのだから』
「………」
彼の横でへたり込んでいる
いつかヒーローが、誰かが助けに来てくれるかもしれない。そんなことなどありえないとわかりつつも、心のどこかでそれを期待し希望を失えなかった。
『これより、
世界が闇が広がっていく。
デザイアグランプリの終幕、グランドエンドが開始された。
――――
寄生ジャマトを斃し一息ついていた緑谷たちは、突如として出現した闇に戸惑い身構える。
「ッ何あれ!?」
葉隠は困惑しながらもファンタジーバックルを取り出し、来るべき敵が来るのを待ち構える。
「……っそういや、新しいゲーマスが言ってたわ……デザグラの終わり、“グランドエンド”が近いって」
牛込は額に冷や汗をかいている。
闇の正体が“グランドエンド”なのかはさておき、デザグラ運営は全て終わらせようとしているのは確かなのだろう。
「デザロワが成立しないから、もうこれ以上続ける必要はない……?」
緑谷は運営の意図に気づくと闇へ向けて駆けていく。
このまま終わらせていいはずがない。運営に一矢報いることもなく終わっていいハズがないのだ。
彼はブジンソードバックルを取り出し変身を試みる。
――SET AVENGE ...
「あれ……?」
闇に飲まれた緑谷のドライバーが消滅する。
同時に彼は全てを忘れてしまったかのように戸惑いを見せる。
「ドライバーが」
「消えた?」
闇は葉隠と牛込の下にも到達し二人のドライバーとバックルを消滅させる。
同時に彼女たちの“デザグラに関する記憶”も全て消滅してしまう。
「あれ、私なんでこんなところに」
「……っあたし、何して」
デザグラの全てを忘れてしまったライダーは、ただただグランドエンドの進行を眺めることしかできなかった。
――――
神殿では四次元ゲートが解放され、この時代に残っていたオーディエンスたちが次々と未来へ戻っていっていた。
一部、リガドΩと共に世界の終焉を楽しみたい者は残っていたが、それは一握り。大半は大人しく帰っていくのみだった。
「……こんな幕引き、ないっすよ」
セセラもまた、未来へ帰るオーディエンスの一人だ。
「ああ、名残惜しいね……もう少し彼らの生きざまを見届けたかったよ」
ジーンもまたこの世界を名残惜しむようにつぶやく。
「……俺もそう思う」ボソッ
キューンは推しに自分の想いを伝えることもできないまま終わることを悲しんでいた。その胸の切なさは彼をより強くするのかもしれない。
「さようなら、タイクーン……緑谷さん。貴方様の行く末に幸せがあることを祈っておりますよ」
セセラ、ジーン、キューンの3人は四次元ゲートを潜り抜け未来の世界へと戻る。
この世界を楽しんでいた観客たちは、もうこの世界には存在しない。
彼らが楽しむ娯楽はもう終わりを告げようとしているのだから、これ以上この世界にとどまる理由もないのだ。
――――
世界が闇に飲まれてもなお、エースは何も動けずにいた。
――『戦わないの?』
そんな彼を、みすぼらしい名無しの狐が非難するように見つめている。
生きる気力を失い、ただただ倒れるエースを、名無しの狐は軽蔑のまなざしで見つめる。
(……たたかわなきゃ、だめかな……?)
エースは名無しの狐の声を聞いてわずかに気力が蘇るも、それはすぐさま消えてしまう。
ただ何もしないでいるのが心地よくて、他に何かをしたいとも思えなくて、体を動かすのが、息をするのがとても億劫だった。
――『おじさんを助けるんじゃなかったの?』
その言葉にエースはわずかに反応し、瞳に光が戻る。
「おじさん……」
恩人、狐火 英寿を助けたい。退場してしまった彼を蘇らせたい。その想いが蘇りわずかながらに気力が戻る。
(助けたいけど、しなくていいって怒られそうだなぁ……)
だが“ギラギラ”を失った心は、理由をつけて気力を失くそうとしてしまう。
――『あの子、助けなくていいの?』
名無しの狐は
ヒーローになると決意しながら無様に敗北してしまったこと。誰も助けることができず無気力な人形に成り下がってしまったこと。
情けなさ過ぎてエースは笑いをこぼしてしまった。
「もう無理だよ……もう、私には、何も」
自分の出せるすべての力を以てリガドΩへ挑んだ――結果として敵わず、敗北してしまった。
知恵を振り絞って戦いを進めた――だが小手先の戦略など通用すらしなかった。
幸運、例えばタイクーンやナーゴの援軍が来るという運も引きよせることすらできなかった――不利状況を覆すことすらできなかった。
運営に抗い、リガドΩへ勝利するためには何もかも足りていない。
――『でも、あきらめちゃだめだよ』
名無しの狐はデザイアカードを取り出すと、そこへ願いを書きこむ。
それは名無しの狐が――かつてのエースが毎日のように願っていたこと。
――“人間になりたい”
忘れてしまっていた理想。恩人が叶えてくれたたった一つの、純粋な願い。
誰からも忌み嫌われていた名無しの狐が願った、心からの理想。
――『だから、あげる。わたしの、大切な
デザイアカードは赤いバックルへと変化する。
それはエースに残された最後の“ギラギラ”。
名無しの狐が持つ
「そうだね……諦めたら、叶う願いも叶わない……!」
エースは不敵な笑みを浮かべる。
絶対にあきらめない。命が尽きるまで、願いを叶えられると信じ続ける。
力も知恵も運も足りなかったとしても、諦めない心を抱いて立ち向かっていくのだ。
――――
『――グランドエンド、完了』
リガドΩは誰にするでもなく仰々しいお辞儀をしてみせる。
『デザイアグランプリ――これにて終幕』
世界は暗闇に包まれた。
全てが終了し世界からデザグラに関するものすべて――ジャマトを除く――が消去された。
デザグラは次なる世界へと移転し、新たなデザグラが始まるのだ。
『さあ行こうか、女神よ』
何もない空間に取り残された
「悪いけど世界は終わらせないよッ!」
『ほう……』
何もない世界に現れたエースを見たリガドΩは珍しいものを見る目で彼を見つめる。
『グランドエンドは完了したはずだが……成程、創世の力で抗ったのか。無駄なことを』
エースの腰には消えているはずのデザイアドライバーが装着されている。つまりグランドエンドを経てもなおその力を維持しているということであった。
「私は絶対にあきらめない……!」
――SET IGNITION!!
エースはバックルを装填するとそれを起動させる。
――DYNAMITE BOOST!! GEATS-Ⅸ
ギーツから伸びた尾が闇に包まれた世界を破壊しつくす。
「たとえ君に敵わないのだとしても、それでも私は諦めはしないッ!」
グランドエンドによって塗りつぶされた世界は元の姿を取り戻す。
だがそれで精一杯だったギーツの変身は解け、エースはがくりと膝をつく。
『愚かな……君1人が抗ったところでこの世界の結末は変わらない』
リガドΩは呆れたように肩をすくめている。だが対照的に
「いいや、変わるさ! いや、私が変えてみせるんだッッ!」
エースは赤いバックルを――かつての自分の理想が姿を変えたバックルをドライバーへ装填する。
だがそれはバックルの形をしているだけの、いわば張りぼて。当然反応することは無い。
『ハハハッ! ギラギラを失って気が狂ったか? そんな形だけのバックルで変身しようなど……笑わせてくれる』
デザイアドライバーを始めとした変身道具一式は運営の手によって用意されたものである。
その最上位に位置するのが運営の用の装備――創始者と彼に認められた者のみが使えるジリオンドライバー。
一般プレイヤー装備で立ち向かおうというのが無謀なのである。
「……勝てないからと諦めるヒーローはいないさ」
――SET
エースは諦めまいとブーストマーク3バックルを反対側に装填する。
だが右側に装填したバックルは無反応だ。変身できてもリガドΩの想定内――運営の思惑を超える力を発揮することはできないだろう。
「……お願い」
エースの諦めない心と、救いを求める
それは彼女の異能を発動させる条件に合致していた。
「助けてっ! ヒーローッッ!」
鐘の音が響く。
か細い、頼りない音だが確実に奇跡を起こして見せる。
――ONENESS RAISE BUCKLE
エースの赤いバックルにカードが出現する。それはエースの諦めない心が具現化したもの。ヒーローの勝利を願う
それにより張りぼてでしかなかった赤いバックル――ワンネスバックルが力を得たのである。
同時に、ギーツのIDコアも変化する。
白と赤を基調としたシンプルなものから、七色の輝きを放つものへと。
「……ああ、まかせて!」
エースは
自分の勝ちを疑わない、自信に満ち溢れた笑みだ。
「変身ッッ!」
――ALL AS ONE! GEATS-ONENESS!!
狐の仮面に虹の瞳。
纏う装甲は
だが決してあきらめないという決意を秘めた、強い姿。
「“仮面ライダー”ギーツ」
ギーツは手を狐の影絵のようにして構えると、リガドΩを示す。
「覚えておけ――それがお前を斃す、ヒーローの名だッッ!!」
――READY FIGHT!!!!
次回、混沌編最終回です!
本編に負けず劣らず鬱々としてしまったifルートその2、どのような結末を迎えるかこうご期待くださいっ!