【完結】僕のデザイアグランプリ   作:鮫田鎮元斎

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Ex2-13 鳴動Ⅰ/“皆の願いが叶った世界”

――――

――

 

 それはあり得ざる姿。

 

 ――ALL AS ONE! GEATS-ONENESS!!

 

 狐の仮面に虹の瞳。

 纏う装甲は()()()のシンプルなデザイン。

 それは決して叶うことのない姿。

 全てのバックルがデザグラ運営の思惑の下に生み出され、その枠を超えることはない。

 だがエースの諦めない心は、その思惑を超えた力を生み出す。

 

「“仮面ライダー”ギーツ」

 

 全てのバックルは運営によって生み出され管理される――その例外を想いの力だけで生み出したのである。

 

「覚えておけ――それがお前を斃す、ヒーローの名だッッ!!」

 

 ――READY FIGHT!!!!

 

 ギーツは拳をゆっくりと握り絞めて構える。

 

「はっ!」

 

 そして渾身の右ストレート。

 乾いた音が響き渡る。

 リガドΩはギーツの拳を胸で受け止めている。

 

『……今、私を殴ったつもりか?』

 

 だが全くと言っていいほど効いていない。リガドΩは呆れたようにため息をつきながらギーツの手首を掴みひねりあげる。

 

『どうやら戦い方すら忘れてしまったようだ――パンチはこう打つんだッ!』

「ッッ!?」

 

 ギーツはリガドΩの右ストレートを喰らって大きく吹き飛ばされる。情けなく地面を転がりつつも、ギーツは受け身を取って起き上がる。

 ギーツバスターを召喚し今度はそれを手にリガドΩへ挑む。

 

『無様だな……』

 

 しかしその刃がリガドΩを傷つけることは無い。

 ギーツは幾度も切りつけたが何もおこならない。

 

『お前がどれだけあがこうとこの世界の結末は変わらない。そこまでして守る価値がどこにある?』

「……価値とか、意味とか……私はそういったもののために戦ってるんじゃないんだ」

 

 ギーツは軽くあしらわれながらも必死でくらいつく。

 

「この世界にはどうしようもないほどの悪意を持った奴がいる、誰も彼も傷つけるような奴もいる。それでも――同じくらいいい奴もいるんだ」

 

 かつて名無しの狐――エースはその異形を疎まれ迫害された。化け狐と忌み嫌われ一生分の不幸を味わった。

 時を超えデザグラに参加してからは私利私欲に走る者――自分の為ならば他人を平気で蹴落とせる者達を大勢見てきた。自分の為ならば平気で誰かを傷つけることのできる者も中にはいた。

 それでも――この世界は悪人ばかりではない。

 平和のために奔走するヒーローたち、そんなヒーローを目指す雄英高校の元クラスメイトたち、寄る辺のない名無しの狐を拾い無償の愛を注いだ男、そして――衰弱した名無しの狐に救いの手を差し伸べた少年。

 世界には目が眩むほどの善性を持ち合わせた者が大勢いるのだ。

 

「だから私は、その人たちからもらった恩を返すために――彼らが安心して、平和に過ごせる世界を作りたいッ! その世界に――デザグラ(おまえら)が邪魔だッ!!」

 

 ギーツは再び右ストレートを放つ。

 リガドΩは呆れたようにため息をつきながらそれを手のひらで受け止め――そのまま押し込まれ頬を殴り飛ばされる。

 

『何ッ!?』

 

 取るに足らない拳だったはずだ。片手間に受け止められるような、貧弱な拳。

 だが確かにその威力は上がっていた。

 

 ――鐘の音が響き渡る。

 

 音が響くたびに空に映像が投影されていく。まるで世界中にそれを見せたいと言わんばかりに映像は展開されていく。

 

『なん、だと……?』

 

 そこには困惑するリガドΩ、それに立ち向かうギーツの姿が映し出されている。

 

『ッミツメ……なんのつもりだ?』

 

 リガドΩはこの状況を作り出した創世の女神――ミツメの意図が分からずに困惑していた。

 鐘の音は鳴りやむことは無く、響き続けている。

 

「よそ見、している場合かっ!?」

『っ邪魔だ!』

 

 リガドΩは思考の邪魔をするギーツを振り払うと投影された映像を睨み付ける。

 それでもギーツは必死に食らいつく。

 諦めずに、必死に戦いを挑む。その姿は空中の映像に映し出されている――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「っあれは……」

 

 グランドエンドによってライダーとして戦ってきた記憶を失った緑谷、葉隠、牛込。

 彼らは空中に投影されたリガドΩとギーツの戦いを呆然と見守っている。

 

 ――鐘の音が鳴り響く。

 

「ッ!」

 

 彼らの手元にIDコアが――タイクーン、ナーゴ、バッファのそれが出現し、失われていた記憶がすべて復活する。

 

「エースさん……」

「あの一つ目のライダーが、運営の一番偉い人、なの?」

 

 葉隠は一目見てただ者でないとわかるリガドΩを見て息を呑み、手元のIDコアを握り締める。

 

「……っでも、押されてる……あいつ、結構苦戦してるわ……」

 

 牛込は加勢に行きたい気持ちを押し殺しつつ映像を睨み付ける。

 変身できないのに向かったところで足手まといが増えるだけ、それを理解しているからこそ見守ることしかできないのだ。

 

「……頑張れ……ッ!」

 

 緑谷はIDコアを握り締めながらつぶやく。

 助けに行っても足手まといにしかならない。だったらできることは一つだけだった。

 

「っ頑張って……!」

 

 葉隠もまたエースへ声援を送る。

 IDコアを強く握り締め、彼へ力が届けと祈る。

 

「負けんじゃないわよッ……!」

 

 彼らの手に握られたIDコアが一際輝き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「ッ!」

 

 ギーツの拳は次第にキレを取り戻していく。

 まるで失われたものが満ちてきているかのようである。

 

『馬鹿なっ……!』

 

 リガドΩは勢いを増してきたギーツにたじろき、このまま片手間で勝てないと初めて本気で構える。

 

「ハァッ!」

 

 ギーツは右こぶしを振りかぶる。

 その右胸が、右肩が輝きタイクーンとバッファの文様が浮かび上がる。

 拳は重々しい音を立ててリガドΩの顎に命中する。

 

『ッ……!』

 

 ――MAGNUM:INFINITY ... !

 

 たまらず後ずさったリガドΩはグレートアセンブルへマグナムバックルを装填、起動させ無数のマグナムシューターを召喚し弾丸を放つ。

 

「――ッ!」

 

 ギーツは両腕を交差させそれを受け止める。

 銃弾の嵐は彼をその場にくぎ付けにしてしまう。その姿はもちろん空中の映像が捉えている――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「……ギーツ」

 

 バッファにIDコアを破壊され脱落していたパンクジャック――物間は手元に蘇ったコアを手にギーツとリガドΩの戦いを見守る。

 

「今の主役は君なんだぜ? そんな無様な戦い、許されないでしょ……!」

 

 彼は負けるなと、無様な姿を見せるなと祈りを込める。

 パンクジャックのIDコアが大きく輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「……っまけるなよ……!」

 

 少年は“ひみつきち”でギーツとリガドΩの戦いを見守る。

 こんなところで負けるな、ヒーローなんだから勝ってくれと、ケイロウのIDコア握り締めながら祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 銃弾を受けるギーツの左胸と左肩が輝き、それぞれナーゴ、パンクジャックの文様が浮かび上がる。

 同時にギーツバスターで銃弾の嵐を打ち破りカウンターで弾丸を放つ。

 

『ッ!? また力が増しただとっ!?』

 

 何かに応じるがごとく力を蓄えるギーツに驚きを隠せないリガドΩ。

 ギーツは再びリガドΩへ肉薄すると拳を振りかぶる。右の手首が輝きそこへケイロウの文様が浮かび上がる。

 

「はッ!」

 

 右ストレートは、リガドΩの体を大きく吹き飛ばした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「……っ負けんな」

 

 ギーツとリガドΩの戦いを見つめる人々の手には、黒いIDコアが握られている。

 これまでのいきさつはそれを握ったことで知っていた。

 平和だと思われていた世界の裏で繰り広げられていた世界を守るゲーム、デザイアグランプリ。未来人の娯楽のため人知れず命が奪われていたことを知った人々は、そんなゲームを主催した未来人に憤る。

 

「負けないで……っ!」

 

 そしてデザグラと一人戦っているギーツに畏敬の念を抱く。

 誰にも言えず、ただ一人戦うことしかできなかった。少しでも叛意を見せればそこですべてが終わってしまう。それゆえ“強欲な狐”を演じ、私利私欲を満たしているように見せその時を虎視眈々と狙い続けた。

 そんなギーツの“戦い”に人々は共感し、同時にその勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……負けんな……っ!」

 

 ギーツの――エースの真意を知った雄英高校の元クラスメイト達も、ギーツの勝利を願い祈る。

 

「頑張れ狐火っ!」

 

 誰よりも彼のヒーロー性を知る者達は、きっとデザグラという悪を撃ち滅ぼしてくれると。

 過去の人間を弄ぶ未来人の傲慢さを打ち破ってくれると。

 

「勝てやッ! ()()()ッッ!」

 

 ギーツというヒーローの勝利を願って祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ――BOOST:INFINITY ... !

 

 ブーストバックルを召喚し体勢を整えるリガドΩ。

 

『どこから、そんな力が……っ!』

「……感じるよ。皆の想いが」

 

 ギーツの左腕が輝き狼を思わせる文様が浮かび上がる。

 

「私は叶えてみせる。皆が安心して暮らせる世界――“デザグラのない、平和な世界”をッ!」

 

 ――ONENESS VICTORY!!

 

 ギーツの背後に文様が――その身に背負ったライダーたちの、人々の想いを現す文様が浮かび上がり、右足へと収束していく。

 

『舐めるなッ!』

 

 ――DESTROY ... !

 

 リガドΩも負けじとシリウスカードを二回読み込ませ必殺技を発動する。

 人々の想いを背負って戦っているのは彼も同じ――デザグラを支持してくれるオーディエンスを力に変えて戦っているのである。

 右腕に力を収束させ、ギーツのライダーキックを迎え撃つ。

 

「うおぉおおおッッ!」

 

 ――BOOST TIME!!

 

 ギーツはダメ押しと言わんばかりにブーストマーク3バックルのスロットルをひねる。

 このまま押し切る、絶対に勝つのだとあらん限りの力を籠める。

 

『ッ無駄だ――!』

 

 ――REVERSE ... !

 

 リガドΩも負けじとグレートアセンブルを二回押し込み能力を発動する。

 巻き戻し、ライダーの状態を巻き戻してすべてをなかったことにしてしまう必殺の力である。

 

「――ッ! 効かないよッッ!」

 

 だが巻き戻しを喰らってもなお、ギーツの姿に変化はない。

 

「私に――君達の力は、効かないんだッ!」

 

 エースはこの時代の人間ではない。

 この世界の人間とも異なる特徴を宿している。

 過去の時代、まだ日本が戦国と呼ばれていた時代の生まれで、人間が進化の果てに得た“個性”とは異なる“異能”を宿す。

 特例(イレギュラー)の中の特例(イレギュラー)、それ故エースはデザグラ運営が施してきた様々な干渉をはねのけた。

 世界に存在するはずのない特異点、運営の想定しない存在であるがゆえにその絶対的な力をはねのける切り札(エース)

 

『ッバカな……!』

 

 頼みの綱を失ったリガドΩは、徐々にギーツに押されていく。

 

「さあ――ここからが、ハイライトだッッ!」

 

 ――HYPER BOOST GRAND VICTORY!!!!

 

 ギーツのライダーキックはリガドΩを打ち破る。

 大爆発が起き、リガドΩは爆散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「勝った……!」

 

 戦いを間近で見守っていた浮世 作世(さよ)はギーツの勝利に歓喜の表情を浮かべる。

 

『……どう、だ。これ、こそ……』

「ッ!?」

 

 だが爆炎の中から姿を現したスエルに恐怖し顔を歪ませる。

 

『さあ……私と共に征こう……皆に、興奮と、感動を……』

 

 だがスエルの仮面に罅が入る。

 作世(さよ)へと伸ばした腕は揺らいで消えかかっている。

 

()()()……わたしは、きみと……』

 

 仮面が砕け散る。

 スエルを構成していたデータは破壊され、中からエースが姿を現す。

 ボロボロになったローブを脱ぎ捨て、うっとうしそうに狐耳を揺らし、狐の尾でぼろ布を振り払った。

 

「……悔しかったら、化けて出ておいで♪」

 

 エースは不敵な微笑を浮かべている。

 完全勝利だった。

 

「よかった……」

 

 作世(さよ)今度こそ安堵し崩れ落ちた。エースはそんな彼女へと駆け寄ると抱き留める。

 

「安心して。もう君の力は狙わせないからね♪」

 

 ――鐘の音が響く。

 

 それはエースがその身に宿った最後の“ギラギラ”を使って世界を作り変えた証であった。

 作世(さよ)の体が光り輝き、彼女の持つ“創世の力”がエースへと受け渡されていく。

 

「――さあ、始めようか」

 

 “創世の力”はエースの姿に変化を与える。

 小麦色だった髪は白く、それに合わせて狐耳の毛も同じ色に変化する。腰から伸びた尾は毛が白くなるにつれて別れていき、9つへと変化する。それはさながら九尾の狐のようであった。

 瞳は澄み渡る青へ、男にも女にも見える中性的な顔を神秘的に彩る。

 

「――“私たちの世界”を」

 

 エースが両手を広げると“創世の力”が迸る。

 ハンドベルを思わせる軽やかな音色が鳴り響き、世界を作り変えていく。

 

 

 

 ――まばゆい光が世界を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

――

 

 こうして、世界は救われた。

 文字通りその身を削って戦った、一人のヒーローの手によって世界に平和がもたらされたのである。

 

「……ふん」

 

 だが戦いの記憶が失われたわけではなかった。

 手元に残ったバッファのIDコアを見つめた牛込は、それをポケットへとしまうと鞄からテキストを取り出す。

 彼女がいるのは夜間学校の教室――全国でも数少ないヒーロー養成課程のある学校の教室だった。

 

「……あたしは、あたしのやり方で……」

 

 かつて彼女は自らヒーローへの道を閉ざしてしまった。

 自分はヒーローに向いていない、誰かを助けたつもりになって優越感に浸っている自分にヒーローは務まらない、そう思い込んで未来を自分で壊してしまった。

 だが、デザグラを通じて彼女はその原点(オリジン)を取り戻した。

 戦いを通じて、ヒーローの精神性を理解した。

 

「――ふぅ」

 

 授業開始数分前、もう誰もやってこないと思われていた教室に一人の男かが現れる。

 白髪交じりのオールバックに死んだ魚の目のような疲れ切った目をしたサラリーマン。牛込は彼の姿を見た瞬間、頬が緩むのを感じる。

 

「……おっさん、今日は残業なかったんだ」

「ええ……押し付けられる前に退勤してやりましたよ」

 

 男は牛込の隣に着席すると手早くテキストを取り出している。

 

「……そ」

 

 彼女は表情を悟られぬようにそっぽを向いた。

 男――不眠(ねむらず) (すすむ)は彼女にとって恩人だった。一般人としてデザグラに巻き込まれたとき、彼は身を挺して守ってくれた。

 余計なお世話だとしても、自分に力がないのだとしても、それが悪に立ち向かわない理由にはならない――そんなヒーロー性を彼女に見せ、散っていった。

 そんな不眠がこうして彼女の隣にいるということは――

 

(だれだか知らないけど、あたしみたいなお節介な奴がいるのね)

 

 ――“デザイアグランプリで退場したすべての人がよみがえった世界”

 

 デザグラで失った大切な人たちを生き返らせたい。

 その想いで抱いた理想の世界。

 

(……あたしはヒーローになりたい。余計なお節介だったとしても、誰かを守りたい)

 

 不意に、牛込の脳裏に緑の天パとそばかすが特徴の少年の顔が浮かび上がる。

 

「ッだから、年の差……!」

 

 気恥ずかしさで頬を赤く染めた牛込は、気を紛らわせるようにテキストへと顔をうずめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――アハハハハッ! 遂に白黒ついたねぇッ!」

 

 時は秋、雄英文化祭の季節。

 ()()()()盛大に行われたそれはまさに大盛況、大盛り上がりでクライマックス――ミスコンが開催されようとしていた。

 

「見てよ、この(僕が独断と偏見で取った)アンケートの結果! 圧倒的大差でA()()が勝利ッ!」

 

 物間は自作のアンケート用紙を得意げに掲げB組の面々を挑発的に煽っている。

 ()()()()での彼は雄英高校に入学していなかった。なぜならば、それ以前にデザグラスタッフとなったため受験に臨むことができなかったからである。

 

「……クッ……負けた……!」

 

 悔しそうに膝をつくのは鉄哲。だがその他のB組の面々は相手にしてられないとばかりにスルーしている。

 

「アハハハハッ! 僕の手にかかればこのくらい――」

「――あんたのおかげじゃないでしょ」

「グッ!?」

 

 物間の煽りを止めたのは耳郎のイヤホンジャックだった。

 心音を流し込まれた彼は衝撃で硬直する。

 

「全く……恥ずかしいからやめろっての」

 

 彼女はそのまま器用にイヤホンジャックを操って硬直した物間を回収していく。

 

「……あはは……見てろ、僕が来たからには……」

 

 物間は連行されつつもポケットにしまっていたパンクジャックのIDコアに触れる。

 彼が今この場に、雄英高校の生徒として所属できているのはデザグラのおかげに他ならない。

 

(自力で叶えた世界じゃないのが癪だけど……)

 

 ――“僕が主役となれる世界”

 

 運営の手先と成り下がっていた彼はある時情熱を取り戻した。

 理想の世界を願う心を取り戻し、不正を働くゲームマスターへ反旗を翻した。

 誰かの人生の脇役ではない、自分自身が主役となって活躍できる世界へ。

 

「……なってやるさ。僕だけにしかなれない主役に、ね」

 

 物間は不敵な微笑を浮かべる。

 まるで誰かの仕草をまねるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

「――あの、さ。初めて会った時の事、覚えてる?」

 

 文化祭と言えば様々な想いが実を結ぶイベントである。

 葉隠は意を決して緑谷を人気のない校舎裏へと呼び出していた。

 

「忘れられないよ。あんな出来事」

 

 緑谷は何かを懐かしむかのように空を見つめている。

 

「……うん、そう、だよね」

 

 葉隠は勇気を出そうとナーゴのIDコアを握り絞める。

 

 ――“忘れたくない”

 

 彼女はデザグラで様々な出会いをへて、それを忘れたくないと願った。

 大切な記憶を忘れたくないと、その一心で戦いへと赴いていた。

 

「私ね、こんな個性だから自分の顔見たことなくて、ずっとこのまま見えないままなのかな、って思ってたの」

 

 生まれながらに透明化の個性を宿していた彼女は、生まれてからこの方自分自身の姿を見たことが無かった。

 一体自分はどんな姿なのだろうか? 髪の色は? 目鼻立ちは? 瞳の色は?

 思春期の繊細な心は“見えないこと”をアイデンティティとして受け入れつつも、そのことに若干のコンプレックスを感じていた。

 

「でも……緑谷くんはこう言ってくれた――“君が、助けを求めている()をしていたっ!” って」

 

 緑谷は彼女を助けた際にそう叫んだ。

 見えるはずのない顔を見て、助けを求めているはずだと危険を顧みずに助けたのである。

 

「誰も見たことのない――私も見たことのない顔を、君は見てくれた。だから……私、とても嬉しかった」

 

 日が傾き、夕日が葉隠の体を照らす。

 透明な体は光を浴びてその輪郭をわずかに浮かび上がらせる。

 

「ねえ、緑谷くん……もし、私が“好き”って言ったらどうする?」

「好き……? 誰の、ことかな?」

 

 戸惑う緑谷の姿を見た葉隠はいたずらっ子の様に微笑む。普段は見えないはずのその表情は、夕日を受けたことで浮かび上がっている。

 

「……んっ」

 

 唇と唇が触れ合う。

 鈍感な――鈍感であろうとした緑谷への答え。

 誰の事を好きなのか? 面と向かって話しているのにもかかわらずすっとぼけようとした朴念仁をわからせるための大胆な告白。

 

「……えへへ」

 

 葉隠は恥ずかしそうに笑う。

 その顔が赤く見えるのは、決して夕日だけのせいではないだろう。

 

「葉隠さん……もしかして、僕の事」

 

「――裏切者ぉッ!」

 

 恨みのこもった叫びが響き渡る。

 少女の一世一代の告白は、煩悩の化身によって台無しにされてしまった。

 

「緑谷ぁ……お前は()()()側だと思ってたのによぉ……抜け駆けはゆ”る”さ”ん”ッ!」

 

 煩悩の化身――峰田は怒りに血走った目で緑谷を睨み付ける。 

 怒りは愛らしいマスコットのような顔を般若のごとくゆがめる。

 

「えっ、と……峰田君、落ち着こう?」

 

 緑谷は怒りの理由を理解しつつも、流石に告白をぶち壊すのはいかがなものかと冷や汗をかいていた。

 

「へへへ……おいらを落ち着かせたいなら方法はただひとブッ!?」

 

 およそヒーローの卵がしてはいけない表情をしていた峰田に桃色の舌が襲い掛かる。

 瞬く間にす巻きにされた彼は静かに連行されていく。

 A組女子の団結力の賜物であった。

 

「……返事、聞かせてくれる、かな?」

 

 再び二人きりとなった緑谷と葉隠。遠くから汚い悲鳴が響いて来ていたが彼らの耳には届いていなかった。

 

「……うん」

 

 緑谷はゆっくりと深呼吸し、気持ちを整理する。

 想いは変わらない。

 もしそれが許されるのだとしたら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 世界は救われたが、それは平和になったことを意味しない。

 

「――私は君を認めていない」

 

 この世界に個性という力が存在する限り、それを悪用するヴィランがいなくなることはない。

 仮免を取得したヒーローの卵たちは次なる試練――ヒーローインターンへと赴いていた。

 

「オールマイトの判断が間違っていなかったことを、証明してみせろ」

「っはい……!」

 

 オールマイトの元サイドキック――サー・ナイトアイの下へインターンに赴いていた緑谷は初っ端から洗礼を浴びせられていた。

 何の取り柄もなかった無個性の少年に個性を譲渡したこと――それがオールマイトの乱心でなかったことを証明してみせろというのだ。

 端からそのつもりで来ていた緑谷は、絶対に成し遂げてみせると不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「――ま、そんなに気負わなくて大丈夫さ! 一緒にサーからの信頼を勝ち取ろう!」

 

 意気込む緑谷――ヒーロー見習のデクを励ますのは、雄英高校の3年でありサー・ナイトアイの事務所でインターンに励む先輩、通形 ミリオ――またの名をヒーロー、ルミリオン。

 二人は街をパトロールしつつ、街の異変に駆け付けることができるように気を張り巡らせていた。

 

(大丈夫……今度こそ、僕は……)

 

 緑谷はコスチュームの下に身に着けたネックレス――タイクーンのIDコアに触れると戦いの日々を思い返す。

 理想の世界を叶えるために、失われた命を取り戻そうと奔走した日々。

 だがそこにいるはずの“誰か”を思い出すことができず、僅かに顔を曇らせる。

 

「……何か、忘れているような」

 

 逡巡する彼のそばを狐耳の人物が通り抜ける。

 狐耳に狐の尾、顔はうかがえなかったがどこか中性的な雰囲気の狐人間。

 

「っ!」

 

 緑谷は慌てて振り返るも、狐耳は人ごみに紛れて見えなくなっていた。

 

「……っエース、さん?」

 

 だがその一瞬の邂逅は、彼の記憶を確かに呼び起こしていた。

 共にデザグラでしのぎを削ったライバル。

 不敵な笑みで勝利をかっさらっていく“勝利の象徴”

 そんなエースが叶えてくれた“理想の世界”

 

「……っ君のことは、絶対に忘れないよ」

 

 緑谷は狐に化かされたような心持になりながら微笑む。

 この恩は一生忘れない。

 狐の築き上げた神話を、自分だけは忘れない。

 

「……よし」

 

 緑谷は気合を入れるように腹を叩くと、駆けていく。

 ヒーロー“デク”の物語は、ここから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――僕のデザイアグランプリ ifルート:混沌編 完――























これにてifルートその2も完結です! 
ギーツが放送されてから書き始めたのでおよそ1年ですね……というよりもう1年たったんですね、あっという間でした。
長い間お付き合いありがとうございました!
また機会があればその時はよろしくお願いします!
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