気が付けば本作もギーツ最新話に追いつきつつあります。このペースだと近いうちに最新話へ到達してしまうため、少しだけ更新頻度を下げるかもです。
……こうなったら、最後まで書き切ってやるのでどうか気長に待っていただけると(エタり前科n犯)
――――
――
「私が――散歩がてら、来た!」
いつもの海浜公園。
そんな辺鄙な場所が似合わない筋骨隆々とした
「オール、マイト……?」
平和の象徴、オールマイト。
No.1ヒーローが彼の前に現れたのだ。
「初めまして、かな?」
オールマイトは歯を見せながらニカッと笑う。真っ白な歯が朝日を受けて光輝く。
「オールマイトォォォォォッッ!?」
緑谷は数瞬遅れて自分の直面している事態に気づいて歓喜の叫びをあげる。
憧れのヒーロー。いつかなりたい理想の姿。
それが目の前に――しかも手と手が触れられるほどの距離にいる。
イベント会場などで豆粒ほどの大きさのオールマイトは幾度となく見てきたが、至近距離の生マイトは初であった。なお、前の世界でも至近距離で会っていたが、その事実は彼の記憶から抜け落ちていた。
「HAHAHA! 嬉しいのはわかるけどもう少しボリューム下げて(人いないけど見つかったら大変だよ?)」
興奮する緑谷の様子に少し焦ったのか、オールマイトは唇に人差し指を当てて緑谷を説得する。
しかし推しを前にしたオタクに対し、それは酷というものだ。
「あっすっすいませ――あっそうだサイン――ってもうしてある~ッッ!!」
「……そろそろ私も話して大丈夫かな?」
緑谷は首がもげるのではないかと思うくらい縦に振っている。
「――実は私、来年度から雄英高校で先生やることになっていてね。最近この辺に越してきたのさ!」
オールマイトがご近所さんになる。緑谷はその事実に卒倒しかけていた。
「そして下見とパトロールを兼ねて散歩をしていたら、君を見つけた。毎朝毎朝、コツコツとごみ掃除をする君の姿をね」
「っ!」
緑谷は思わず息を飲む。
ごみ掃除に夢中で憧れの人が遠くから見ていたことに気づかなかったのだ。
オタクの彼からすれば、私服姿のオールマイトは貴重も貴重、できれば生で拝みたかったレア姿である。彼は自分の視野の狭さを反省する。
「聞けば、このごみの山! 漂流物が来ることに便乗した不法投棄が後を絶たなかったらしいね!」
「え、ええ……僕が掃除してたんですけど、それでも捨てに来る人が多くて。っでもあと少しで全部片づけ終わるんですよッ!」
憧れの人に自分の頑張りを見て欲しい。
緑谷の瞳は親に満点のテストを見せる子供のようだった。
「本当によく頑張った。最近のヒーローは派手さばかり追求しがちだが――ヒーローの本質ってのは“奉仕活動”! その点でいえば君はヒーロー顔負けさ!」
「~~~~っ!」
憧れの人から自分の頑張りを褒めて、しかも最上級の称賛をしてもらえた。既に緑谷は頑張りを報われたような心持だった。
「そんな君の姿に、私は“昔の自分”を重ね合わせたよ……」
「えっ?」
しんみりとした雰囲気のオールマイトに、緑谷は何かが起こると予感した。
自分の人生を変えるような何かが起こるのではないか、漠然とそんな感覚を得ていた。
「コン♪」
オールマイトは前後左右、ありとあらゆる方角を確認し始める。
「……少年、この先の話は他言無用で頼むよ」
「え、一体どうし――」
オールマイトの体から蒸気が噴き出す。それと共に彼の筋骨隆々とした体がしぼみ始め、最終的に頬のこけた枯れ枝のような細さの肉体になってしまう。
「は?」
緑谷は思わず声を上げてしまった。
テレビ番組もびっくりな劇的ビフォーアフターに緑谷の脳は空転し処理落ちしてしまう。
「は? へ? に、偽物……?」
「本物さ! 私こそ正真正銘オールマイゴハァッ!」
がりがりのオールマイトは吐血しながら叫ぶ。
「コフ……知らないのも無理はない。これは一切ニュースにもなっていない、私がしないでくれと頼んだことだからね」
「っ!」
まくり上げられたシャツの下には左胸の下、丁度心臓のある付近の近くに大きく抉れた傷跡があった。
「これは5年前、とあるヴィランとの戦闘で負った傷だ。呼吸器官半壊、胃袋全摘……度重なる手術で憔悴しきってしまってね。活動できるのは1日3時間半程度になってしまった」
「えっじゃあさっきの姿は?」
オールマイトはこれ程の大けがをしていたにも関わらず、それを誰にも悟らせずにここまで活動してきている。
緑谷は本人の口から語られたにも関わらず、その話が信じられなかった。
「プールで腹筋を力み続けている人がいるだろう? アレさ!」
「そんな、馬鹿な……5年前って……まさか、“毒毒チェーンソー”の時?」
「くわしいな! でもあんなチンピラにはやられやしないさ! もっと、凶悪なヴィランだった。公表するもの憚れるほど、ね」
名実共にNo.1のオールマイトでさえ瀕死の重傷を負わせるヴィランがいる。
その事実に緑谷は戦慄した。
「そうさ、ヒーローってのは命がけの仕事。
「えっ……?」
「済まない、実は君の事を調べさせてもらったよ、緑谷少年。当然――君がヒーローを志していることも知っている」
緑谷は情報の濁流に押し流されているかのような気分だった。
憧れの人が現れたと思ったら、自分の奉仕活動を称賛してくれて、急にしぼんだと思ったら実は衰え切ってしまっていることを知り、そしてなぜか自分のことについて調べ上げられている。
変な夢なら覚めて欲しい――緑谷は目を回していた。
「……これから私の言うことはあくまで一つの提案だ。戯言だと思ったら忘れてもらって構わない」
「提案?」
オールマイトは小さく頷く。
「――私の個性を、受け継いでみないかい?」
緑谷はオールマイトが差し出した手をぽかんと見つめている。
「受け、継ぐって……そんな、オールマイトの個性は――」ブツブツブツ
困惑しながらも緑谷はオタク知識を早口で展開し始める。
いくら体を鍛えようと、根っこのオタク精神は変えられないのである。
「君はまず否定から入るのかい!? ナンセンスだな!」
「なっ!」
「“平和の象徴”はナチュラルボーンヒーローでなくてはならない。私は個性について問われれば爆笑ジョークでお茶を濁してきた」
その通りだ、と緑谷は心の中で付け加える。
オールマイトの素性は一切が謎に包まれていた。
いかなるインタビューでも彼はのらりくらりと質問を躱し、時に爆笑ジョークでその場を切り抜けてきている。
「私の個性は聖火のごとく代々引き継がれてきたもの。“個性を譲渡する個性”――それが私の引き継いだ個性。冠された名は――」
――ワン・フォー・オール。
それがオールマイトの引き継いだ個性の名。
一人が力を蓄え、それを次の代へ引継ぎ、そして次へ。そうして引継ぎ紡がれてきた力の結晶。
「そっ、そんな大層なもの……どうして僕に?」
「実は私も無個性だったのさ。
「っ!」
にわかには信じがたい話だった。
緑谷は自分を“乗せる”ためにオールマイトが謀っているのではないかとすら感じていた。
「私も無個性だったが、この国には“平和の象徴”が必要だと感じひた走ってきた。その姿を私の師匠に見初めてもらった。陳腐な言い回しだが、“運命”のようなものを感じた」
誰も知らないNo.1の
「君がどこにでもいる普通の少年だったら、私の心は動かされなかった。だが君が無個性だったからこそ、何の力も持たないか弱い少年だったからこそ、ひたむきに努力する姿に心が動かされた。かつての私を想起させた!」
気が付けば、緑谷は頬から涙がこぼれるのを感じた。
世界を変えようと戦い初めて約半年。
報われるともわからない努力は今日、ようやく実を結んだのである。
「元々後継は探していてね。いろいろと推薦は受けているが――私は君がいいと感じた。無理だと、荷が重いと感じたのなら拒否しても構わないさ! 今日のことは胸の奥にしまっておいてくれ!」
オールマイトは誤魔化すように笑っている。
荷が重いと感じていたのは事実だ。
正直、オールマイトの代わりになるなんて無理だ、と。力を受け継ぐにふさわしい人間は他にいくらでもいる。
それでも――憧れの人がここまで言って、しかも秘密まで話してくれた。
緑谷の回答にNoという文字は存在していなかった。
「……っ僕でよければ、よろしくお願いします……!」
運命は、静かに動き始めた。
――――
――
「……ひゅぅ。なんかすごいこと聞いちゃったな♪」
エースは楽しそうに笑っている。
左右には葉隠と牛込が抱えられている。
「あの、そろそろ放してくれない……?」
葉隠は緑谷に会いに来ていた。
彼女自身、理由は明確に意識できていなかったが、唐突に会いたくなってしまったのだ。受験勉強の疲れ、中々呼び出しがかからないDGPへの不安感。そいった諸々を誰かに打ち明けて楽になりたかった。
彼に惹かれているから……かどうかは神のみぞ知るところだろう。
「……なんであたしまで」
牛込は夜勤バイトの帰り道に通りかかったところをエースに拉致されたのである。
「ふふ。私だけ聞くのも不公平だろう?」
エースもまた、“ある事実”を確かめようと緑谷の下へやってきていた。
そこを
彼らは緑谷とオールマイトから遠く離れていなかったが、エースの個性によって認識阻害がかけられており、多少騒がしくしても気づかれないのである。
「……うぅ~なんかすごいこと聞いちゃったなぁ」
葉隠は見えない顔を白黒させながらオールマイトの秘密を咀嚼する。
負け知らずのNo.1、永遠に象徴として君臨すると思っていたヒーロー。
そんなオールマイトも所詮はただの人間。いずれ終わりの時が来るものである。
「確かにそうだけど――あいつ、個性をもらうってことは……もう戦う理由、ないんじゃない?」
「え……?」
「ふぅん?」
緑谷が叶えたい“理想の世界”。その話を聞いたことがあるのは牛込だけである。
――『……じゃ、あんたの理想は“自分に個性がある世界”ってとこかしら?』
――『あっ……はは、そんな、とこですね』
自分に個性がある世界、それが緑谷が叶えたいであろう世界。
「あいつは自分が個性を持っている世界を叶えるはずよ。だったら――個性を手に入れたんだったら、もう戦わなくてもいいんじゃない?」
この出来事はデザイアグランプリの枠外で起きた出来事。
例えゲームが終了し、世界が作り替えられたとしても――優勝者の願いに干渉しない限り取り消されることは無い。
「そっか……じゃあ、どうするんだろう? 棄権とか……出来るのかな?」
「できないよ。ドライバーとIDコアが届いた瞬間から、私たちは後戻りができないのさ」
ドライバーとIDコアが届いたら、それは仮面ライダーへの片道切符。
もう、後戻りはできない。
DGPに参加し、最後まで戦うしか道は残されていないのだ。
「……本当に、君は戦いを止めてしまうのかい?」
エースの狐耳は悲しそうに揺れ動いていた。
――――
――
運命の日から約一か月。
雄英高校ヒーロー科の入試日がやってきていた。
第一志望としていた緑谷は緊張しながらも筆記試験受験、確かな手ごたえを感じていた。
そして実技試験。
講堂のようなところでルール説明を受けていた緑谷は強烈な既視感を抱いていた。
(これ……デザイアグランプリみたいだ)
指定されたエリアの中で所狭しと暴れまわるヴィランロボ。
強さごとにptが割り振られ、撃破すれば自身の得点として獲得できる。
(……だったら、この
資料に記載された4種類のヴィラン、そのうちなんの言及もなかった1体。
何の意図もなく配置されているとは考え難い。
「質問よろしいでしょうか!?」
同じことを感じた受験生が手を上げて質問する。生真面目そうな眼鏡の男子で、説明の途中にも関わらず食いかかるかのように挙手していた。
そんな彼の態度をとがめることなく、説明役の教師――プレゼントマイクは4種目のヴィランについて解説する。
0ptのお邪魔ギミック。
倒しても一切メリットのないお邪魔虫。
(ボスじゃないのか……だったらどう立ち回るのが――)
「――それでは皆、よい受難を!」
緑谷は思わず武者震いしていた。
――――
――
試験会場は複数に分かれていた。
倍率300倍を超えると言われている試験では、会場をわけようともそれなりの数の受験者が一堂に会していた。
(きっと、この場で
緑谷はオールマイトから提示された条件を思い返す。
――――
『――とは言ったが、結構反対されていてね!』
『えっ……』
緑谷は驚くも、すぐにその理由に気づく。
どこの誰とも知れぬ無個性の少年に個性を譲渡したい。そんなことを言えば気でも触れてしまったのではないかと考えられて当然である。
『だから私から一つ“条件”を出したい』
『条件、ですか?』
『なに、命を懸けるようなものじゃないさ! 緑谷少年、君は雄英高校志望だよね?』
『っはい! オールマイトの出身校ですし、行くなら絶っっ対に雄英だって思ってます!』
行動派オタクな緑谷の言葉にオールマイトは笑っていた。
『だったら丁度いい――私から出す条件は“雄英高校のヒーロー科に合格すること”さ!』
『っ!』
雄英高校は国内最高峰のトップ校。
ヒーロー科の入試倍率は優に300倍を超える狭き門。
緑谷も志望校であるため準備はしていたが、いざ絶対に受からなくてはならないとなれば、相当にプレッシャーを感じていた。
『ま、箔をつけて欲しいってことさ! “個性のない少年が努力して雄英高校の、しかもヒーロー科に合格した!” これだけの実績があれば……まあ大きな反対は無くなるはずさ』
『無個性で、合格……っ!』
まるで一冊のサクセス本のあらすじかのような無理難題。
だが
『――頑張り、ますっ!』
――――
緑谷は体の震えが止まらないのを自覚していた。
「すぅ~! ふぅ~っ!」
思い切り深呼吸し、拳で腹を二回叩いて気合を入れる。
少しだけ体の震えが引いたように感じた。
「――そこの彼は精神統一図っているんじゃないか?」
聞き覚えのある声――試験説明の時に質問をしていた生真面目な男子の声が聞こえてくる。
「妨害するつもりなら止めておきたまえ」
振り向けば、透明な女子――葉隠が生真面目男子に注意されて萎縮しているのが見えた。
(葉隠さんも受験生だったんだ!)
知り合いを見つけたことで緑谷の緊張は一気に吹き飛んだ。
「あっ葉隠さ」
『はい、スタート!』
声をかけようと手を上げた瞬間、開戦を告げるアナウンスが響き渡る。
抜けたような、まるで本当に始まるのか疑問を抱きたくなるような合図。
「っ!」
気が付けば緑谷は体が動き出していた。
実戦にはカウントダウンも、明確な合図もない。
緑谷は人ごみをかき分けて会場へ突入、発破をかけられた受験生たちもその後を続く。
『標的発見!』
曲がり角から飛び出してきたヴィランロボ。見た目的に点数は1ptだろう。
(正面からやり合っても勝てっこない――だから弱点を――)
緑谷はロボの体を観察、頭部と胴体をつなぐ部分のケーブルが露出していることに気づく。
「そこだっ!」
ヴィランロボの動きを見極め、攻撃を飛び上がって回避。跳び箱の要領でヴィランロボに飛び乗り、露出したケーブルを掴んで思い切り引きちぎる。
『ギ・・・・・・ガガガ』
ロボは機能停止し、動かなくなる。見込み通り、引き抜いたケーブルが重要なパーツだったようだ。
「やった……!」
緑谷は歓喜と共に顔を上げるも、周囲の様子を見て血の気が失せる。
彼が苦労して一体を討伐する間に他の受験生は次々とロボを破壊しており、動いているヴィランロボはその数を減らしていっていた。
(何喜んで気ぃ抜いてんだよっ! まだまだ試験は始まったばっかだ!)
緑谷は慌ててロボから飛び降り、急いで次のロボを探す。
しかしながら、受験生の数に対して十分な数のターゲットが用意されているわけではない。緑谷が探し回っている間にもヴィランロボの数は減り続けていた。
(せめて――次は時間をかけずに斃すようにしなきゃッ!)
探し回りがてら、ロボの残骸から武器になりそうな棒状のパーツを拾いながら左右を探る。
「――きゃっ!」
小さな悲鳴が聞こえる。
振り向けば小柄な女子が体勢を崩しヴィランロボの脅威にさらされていた。
「っ!」
助けなきゃ、という思いと動いているロボを見つけた喜びが混ざり合い、緑谷の顔には狂気的な笑みが浮かんでいた。
「ここだぁっ!」
緑谷はロボの首関節部分に向けて
『ギガ……ガガガ』
「このっ! このっ!」
一撃で仕留めることは叶わず、何度も棒を打ち付けて機能停止させる。
「はぁっ……はぁっ……っだい、っじょうぶ?」
「ひぃっ!」
振り返った緑谷の顔にはオイルやら砂埃やらで汚れてしまっており、その上ヴィランロボを斃せた喜びが混じり合った凄惨な笑顔だった。
小柄なおかっぱ女子はその顔に怯えて、大慌てで逃げていく。
「そりゃ、余裕ないよな……」
彼はそれを試験中からくる焦りだと判断、何かを探すように周囲を見回す。
(……ってデザグラじゃないからシークレットミッションなんてないか)
『残り3分20秒~!』
気の抜けたプレゼントマイクのアナウンス。
緑谷はまだロボを斃せていない。すれ違う受験生がつぶやくポイントはもう既に2桁を数えており、悠長にしている時間は無い。
(くそっ……! 数がどんどん減ってってる……っ!)
どうしようもない焦燥感。
終了時間は刻一刻と迫っているのに
『残り1分30秒~!』
――地響きを感じた。
影が差し見上げると、そこには巨大な0ptヴィラン――お邪魔ギミックが動き出していた。
(あんな――さすがに勝ってこないっ!)
緑谷は他の受験生たち同様、一目散に逃げだす。
あんな斃せもしない上に得点にもならないギミックなど相手にしている余裕などない。
「いったぁ……」
か細い声が緑谷の耳に届く。思わず振り向くと、丸顔の女子が瓦礫に足を取られて動けなくなっていた。
(あの人……今朝の)
緑谷は受験への緊張が激しすぎて会場手前で転びそうになってしまっていた。
それを助けてくれた女子が今、0ptヴィランを前に窮地に立たされている。
他の受験生たちは己の安全を確保するのに精いっぱいで、誰も丸顔女子の事を気にかけていなかった。
「――っ!」
気が付けば体が勝手に動き出していた。
メリットなど何もない。
わずかな残り時間で人助けをしたところで
それでも緑谷は己の合格と恩人の命を天秤にかけることもなく後者の方が大事だと判断していた。
(ごめんなさいオールマイトっ! 僕には――無理でしたっ!)
「だ、大丈夫? 立てる?」
「っ大丈夫だけど……なんでっ」
緑谷は瓦礫をどかしつつ丸顔女子を救出する。筋トレの成果か、彼女を易々とお姫様抱っこし、一目散に逃げだす。
「っ気が付いたら体が動いてた!」
「んな無茶な……!」
0ptロボは足元に受験生がいるのもお構いなしに闊歩している。
緑谷は必死になって逃げるも1歩の幅が違うため逃げる逃げ切れない。
『10秒前! 10! 9! 8――』
「もじゃもじゃ君跳んで!」
丸顔女子の指先が緑谷の体に触れる。彼は言われるがままに膝を深く曲げて大きく跳ぶ。
重力から解放された緑谷は月面を跳ぶ宇宙飛行士かのように、弧を描きながら飛びあがり0ptロボの足から逃げおおせる。
『3! 2! 1! 終了!!』
「っかい、じょ……!」
終了と同時に丸顔女子の個性が解除され緑谷の体も重力に引き戻され着地する。
「うっ! ……ォェエエエエ」
丸顔女子は下ろされるや否や地面に手をついて嘔吐し始める。強いがそれ相応の代償を兼ね備えた個性のようだ。
靴が吐しゃ物にまみれになるのも気にせず、緑谷はその場で佇んでいた。
「……やっぱ僕には、無理だったかな」
結局彼が獲得できたポイントは4pt――1ptと3ptのヴィランロボしか斃すことができなかった。
結局ヒーローの身体能力は個性ありき、何の
緑谷は他の受験生が撤収した後も、しばらくその場を動くことはできなかった。
――――
――
「はぁ……」
受験も終わり、制服に着替えた緑谷はため息をつきながら帰路につく。
実技試験が壊滅的だったものあるが、靴が吐しゃ物でダメになってしまっていたのも凹んでいる原因の一つだった。
(筆記は自信あるし、併願の普通科かな……)
悲観的に思考に支配されながら湿っぽい靴の感覚を噛みしめる。
(でも、精一杯頑張れたっ! 明日からも頑張ろう!)
緑谷は気持ちを無理やり前向きにすることで落ち込んだ気持ちを吹き飛ばす。
周りを見れば同じように手応えのなかった受験生たちが凹みながら歩いていた。その様子を見ることで彼の心もいくらか楽になる。
(そうだよ。倍率300倍超えてたし! 物語の主人公みたいにそううまくいくもんじゃないって……)
だが期待していた分落胆も大きい。
緑谷の目は再び死んだ魚のようになってしまった。
「――えっあれ? 壁?」
緑谷は後ろから響いてきた声に鳥肌が立った。
「っまさか……!」
振り返ると、数歩後ろでは見えない壁に困惑する帰り道の受験生たち。
彼らは不思議そうに目の前の見えない壁を叩いている。手が触れるたび、赤い有刺鉄線のようなものが浮かび上がっている。
「っそ、だろ……?」
その壁はジャマーエリアの外周。
ジャマト達を外へと逃がさんとする檻。
「連絡なんてなかったのに……っ!」
緑谷は慌ててスパイダーフォンを取り出す。受験中はマナーモードにしていたが、その間に何らかの通知が入った気配はなかった。
「――わ。あれもしかしてヴィラン?」
「――すご、私生で見るの初めてかも」
エリアの中心付近には巨大なサボテンを思わせる姿のジャマト。
周囲の者達はそれを珍しがってスマホで撮影している。
『レレスダ!』
サボテンジャマトが振り向いた。
撮影していた者たちはいつかヒーローが来てくれると思っているのか、楽観的に構えている。
「ちょ早く逃げ――」
ビームが放出される。
撮影していた人々は音もなく消滅してしまう。
「~~~~っ!」
緑谷は鞄からデザイアドライバーを取り出す。
「――デク!?」
「かっ……ちゃん?」
ジャマーエリアの外側、雄英高校のある方角。
そこには後から歩いて来ていたと思われる爆豪が呆然と佇んでいた。
「おいッ! なにボーっと突っ立ってんだクソデクッ! ナードがやじ馬するレベル超えてんだぞッ!?」
爆豪は知らない。
彼がクソナード、デクと馬鹿にしている緑谷は、目の前のジャマト達と幾度となく戦ってきていることを。
戦いに挑み、自分の世界を変えようとしていることを。
「……っ!」
デザイアグランプリの事を他人に公言すれば、その時点で即脱落となる。
緑谷は幼馴染へ打ち明けたくなる気持ちと、自分だけがジャマトと戦える優越感の間で揺れ動く。
『ジャ! ジャ!』
そうこうしているうちに雑魚ジャマトが集結し始める。
緑谷はドライバーを装着し、アローバックルを取り出す。
「……話しちゃ、ダメなんだ……っ!」
――SET
緑谷は再び覚悟を決め、腹を拳で2回叩いた。
「僕だって――ヒーローになりたいんだ……っ!」
たった今、夢が潰えた。
現実の壁の高さを思い知ったばかりだった。
やはり人は生まれながらにして平等ではない。彼はそのことを再び身に染みて思い知った。
「変身っ!」
――ARMED ARROW
そんな不平等を打ち壊すためには、戦うしかなかった。
戦って、理想を勝ち取るしかなかった。
転がり込んできたチャンスを、全力で手に入れるしかないのだ。
「かかってこい――ジャマトッッ!」
――READY FIGHT!!
これは、一人の少年が“ヒーローになるため”の物語だ。
なんやかんやでデクくんはワンフォーオールを引き継ぎます。
ライダーとしての力はデザグラ以外で使うわけにはいかず、かといって無個性のまま本編時空に突入しちゃうと何もできなくなってしまうので、頑張って引き継がせました。
タイクーンの力だけでデクくんが戦うと期待していた皆様には申し訳なく思います。だが私は謝らな(以下略)
次回は缶蹴りゲーム。神経衰弱でブーストバックル使われなかったけどどうなる!?
オサレなサブタイについて
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欲しい!
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硬派なサブタイなしスタイルで!
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原作の焼き増しならない方がいい!